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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1293193
審判番号 不服2011-16904  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-05 
確定日 2014-10-22 
事件の表示 特願2006-544291「慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置におけるエリスロポエチンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月30日国際公開、WO2005/058347、平成19年 6月 7日国内公表、特表2007-514673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年12月10日(パリ条約による優先権主張2003年12月19日,欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成22年1月19日付け拒絶理由通知に対して、同年5月10日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成23年3月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年8月5日に拒絶査定不服審判が請求され、当審合議体による平成25年8月28日付け拒絶理由通知に対して、平成26年3月3日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、平成22年5月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害を処置するための医薬の製造におけるエリスロポエチンタンパク質の使用であって、鉄分布障害は、次のパラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリチンレセプターの濃度[mg/L]が3.5より少なく、同時にC反応性タンパク質の濃度が5mg/Lを上回ることによって特徴付けられる、使用。」

3.引用例に記載された事項
(1)平成25年8月28日付けの拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2003/025583号(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)

(1-ア)
「【請求項1】
(i) 身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、
(ii) 赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、および、
(iii) 非特異的鉄代謝障害の決定を可能にするパラメーター
を決定することを含む、鉄の状態を決定するための、特に鉄代謝障害を検出するための方法。
【請求項2】
パラメーター(i)が、赤血球フェリチン、亜鉛プロトポルフィリン、ヘモグロビン、ミオグロビン、トランスフェリン、トランスフェリン飽和、フェリチン、ヘモシデリン、カタラーゼ、ペルオキシダーゼまたは/およびシトクロムから選択されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
パラメーター(ii)が、赤血球指数、網状赤血球指数、FS-e(前散乱赤血球)および/または可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)から選択されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
パラメーター(iii)が、急性期タンパク質、特にC-反応性タンパク質(CRP)、血清アミロイドA (SAA)、α1-抗キモトリプシン、酸性α1-糖タンパク質、α1-抗トリプシン、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、補体成分C3、補体成分C4もしくはセルロプラスミン(coeruloplasmin)、または/および急性期タンパク質合成の調節因子、特にインターロイキン6 (IL-6)、白血病阻害因子(LIF)、オンコスタチンM、インターロイキン11 (IL-11)、繊毛神経親和性因子(CNTF)、インターロイキン1α (IL-1α)、インターロイキン1β (IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、腫瘍壊死因子β(TNFβ)、インスリン、繊維芽細胞成長因子(FGF)、肝細胞成長因子、トランスグロース(transgrowth)因子β(TGFβ)、もしくはインターフェロン(INF)、または/および網状赤血球合成の障害、特に網状赤血球計数、網状赤血球のHb含有量(CHr)、未成熟網状赤血球画分(IRF)、新赤血球(RBC)および網状赤血球蛍光パラメーターもしくは前散乱網状赤血球(FS-r)から選択されることを特徴とする、請求項1?3のいずれか1項記載の方法。」(19-20ページ、請求項1-4)

(1-イ)
「【請求項7】
鉄の状態、特に鉄代謝障害を分類することを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
鉄の状態が、以下の群:
(A) 急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害、
(B) 鉄過剰、
(C) 正常な鉄の状態、および、
(D) 貯蔵鉄の欠乏
の1つに分類されることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
鉄代謝障害の分類に基づいて必要な治療が提言されることを特徴とする、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
群(A)の分類にはEPO治療が指示され、群(B)の分類には瀉血が指示され、群(C)の分類には治療が指示されず、群(D)に分類された場合には鉄置換が指示されることを特徴とする、請求項9記載の方法。」(20-21ページ、請求項7-10)

(1-ウ)
「驚くべきことに、慢性疾患は、その非常に初期でさえも、群(A)の分類に入ることが見出された。そこで、慢性疾患および慢性炎症性疾患を本発明の方法により診断することができる。」(6ページ21-24行)

(1-エ)
「貧血の種類を効率的に判別するために、sTfR/logフェリチンの比を計算することにより分類を実施する。これはCRPの値を基準にして標準化される。グラフに表すために、sTfR/logフェリチンの比をX軸上にプロットし、CRPの値をY軸上にプロットする。この結果、下記のように表1に示すさまざまなタイプの鉄の状態の分類が得られた。

」(7ページ29行-8ページ2行、表1)

(1-オ)
「鉄欠乏を鉄分布障害および正常な鉄の状態と区別するカットオフ値は、好ましくは3.0から4.0、より好ましくは3.4から3.7、最も好ましくは男性では約3.4、女性では約3.7である。」(10ページ11-15行)

(1-カ)
「それより上が急性期反応と定義されるCRPのカットオフ値は、好ましくは約1から10mg/l、より好ましくは4から6mg/l、特に約5mg/lである。」(10ページ17-20行)

同じく、平成25年8月28日付けの拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるOldenburg B et al. Iron and inflammatory bowel disease. Aliment Pharmacol Ther. 2001.04, 15(4), 429-38.(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので、訳文で示す。)

(2-ア)
「炎症性腸疾患における鉄の恒常性
慢性炎症の状態では、鉄ホメオスタシスが変更される。臨床の場では、慢性疾患に伴う貧血が進行するときに明らかになる。炎症性腸疾患において、貧血は、頻繁に遭遇するものであり、多因子性の問題である。コバラミンと葉酸の欠乏に加えて、鉄欠乏や慢性疾患の貧血は、貧血の最も重要な原因である。」(431ページ右欄1-10行)

(2-イ)
「図2 慢性疾患に伴う貧血の病因。
活性炎症性腸疾患においては、サイトカインのバランスが、炎症性サイトカイン優位に変化される。これは、EPO合成の減少、赤血球系のEPOへの鈍化応答、および赤血球系の増殖の直接的な減少をもたらす。さらに、炎症性サイトカインは、フェリチン合成およびマクロファージや肝細胞における鉄貯蔵の誘導を介して低鉄血症(hypoferraemia)を引き起こす。その結果、赤血球生成にはほとんど利用可能でない鉄になる。」(432ページ図2)

(2-ウ)
「慢性疾患の貧血の機序
炎症性腸疾患および他の炎症性、感染性又は腫瘍性疾患の過程で、鉄代謝の複雑な変更がおこり、慢性疾患の貧血を生じる(図2)。この貧血は通常30-40%のヘマトクリットで軽度であり、炎症性疾患の発症後の最初の2ヶ月の間に発展する。」(432ページ左欄11-18行)

(2)
引用例1の記載事項(1-ア)によれば、請求項1-4には、(i)フェリチンなどの、身体総鉄貯蔵量の決定を可能にするパラメーター、(ii)可溶性トランスフェリン受容体などの、赤血球成熟過程および/またはその活性の決定を可能にするパラメーター、および、(iii)CRPなどの、非特異的鉄代謝障害の決定を可能にするパラメーターの組み合わせにより鉄代謝障害を検出する方法が記載されており、記載事項(1-イ)によれば、請求項7-10には、「群(A)急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害」の分類にEPO(審決注:エリスロポエチンのこと)治療を指示することが記載されており、記載事項(1-エ)によれば、sTfR[mg/L]/logフェリチン[μg/L]が、男性で3.4未満、女性で3.7未満、および、CRPが5mg/Lより大きい群が象限Aとされ、鉄分布の障害、鉄利用の障害、急性期反応有り、EPO治療によって特徴づけられることが記載されている。さらに、記載事項(1-オ)によれば、鉄欠乏を鉄分布障害および正常な鉄の状態と区別するsTfR/logフェリチンのカットオフ値は、好ましくは3.0から4.0、より好ましくは3.4から3.7、最も好ましくは男性では約3.4、女性では約3.7であることが記載されており、記載事項(1-カ)によれば、CRPのカットオフ値は特に好ましくは5mg/lであることも記載されている。

以上の記載を総合すると、引用例1には、
「急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害の群に、エリスロポエチン治療を指示する方法であって、急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害の群は、次のパラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリチンレセプターの濃度[mg/L]が、好ましくは3.0から4.0、より好ましくは3.4から3.7、最も好ましくは男性では約3.4、女性では約3.7より少なく、同時にC反応性タンパク質の濃度が5mg/Lを上回ることによって特徴付けられる、方法」
の発明が記載されている(以下、「引用発明」という)。

4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

まず、本願発明の、「可溶性トランスフェリチンレセプター」とは、一般的な技術用語ではなく、また、本願明細書の段落0004、0088、0089には「可溶性トランスフェリンレセプター」と記載されていること、さらに、平成26年3月3日付け意見書においては「可溶性トランスフェリチンレセプター」との用語は使用されておらず、「可溶性トランスフェリンレセプター」との用語のみが使用されていることから、「可溶性トランスフェリチンレセプター」は、「可溶性トランスフェリンレセプター」の誤記であると認められる。

つぎに、引用発明の「エリスロポエチン」は、本願発明の「エリスロポエチンタンパク質」に相当する。
また、本願発明の「慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害」と引用発明の「急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害」は、「鉄分布障害」である点で共通し、本願発明と引用発明の「パラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリンレセプターの濃度[mg/L]」は、「3.0?4.0のうちのある値」より少ない点で共通する。
そして、本願発明の「・・・、使用」とは、「・・・、使用方法」を意味する文言と解し得るものであり、引用発明の「エリスロポエチン治療」とは、「エリスロポエチンタンパク質を使用した治療」を意味すると解されるので、本願発明も引用発明も、鉄分布障害に関して、エリスロポエチンタンパク質を使用することに関する方法であることに変わりはない。

したがって、両者は、
「鉄分布障害に関して、エリスロポエチンタンパク質を使用することに関する方法であって、鉄分布障害は、次のパラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリンレセプターの濃度[mg/L]が「3.0?4.0のうちのある値」より少なく、同時にC反応性タンパク質の濃度が5mg/Lを上回ることによって特徴付けられる点を含む方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

・「鉄分布障害に関して、エリスロポエチンタンパク質を使用することに関する方法」の態様が、本願発明では、「鉄分布障害を処置するための医薬の製造における使用」であるのに対し、引用発明では、「鉄分布障害の群に、治療を指示する方法」である点。(以下、「相違点1」という。)

・「鉄分布障害」が、本願発明では、「慢性炎症性腸疾患の際の」ものであるのに対し、引用発明では、「急性期反応を有する」ものである点。(以下、「相違点2」という。)

・「3.0?4.0のうちのある値」が、本願発明では、3.5であるのに対し、引用発明では、好ましくは3.0から4.0、より好ましくは3.4から3.7、最も好ましくは男性では約3.4、女性では約3.7である点。(以下、「相違点3」という。)

5.判断
上記相違点について検討する。

1)相違点1について
前述のとおり、「エリスロポエチン治療を指示する方法」とは、すなわち、「エリスロポエチンタンパク質を使用した治療を指示する方法」であり、実際に、エリスロポエチンタンパク質を使用するにあたっては、エリスロポエチンタンパク質を有効成分とする医薬として用いることは、当業者にとって明らかであるし、当該医薬は、鉄分布障害を処置するためのものであるといえる。
したがって、引用発明に基づき、鉄分布障害を処置するための医薬の製造において、エリスロポエチンタンパク質を使用することは、当業者が容易になし得ることである。

2)相違点2について
引用発明の「急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害」とは、すなわち、引用例1で言うところの群(A)に分類される鉄の状態であり、記載事項(1-ウ)によれば、慢性疾患は、その非常に初期でさえも、群(A)の分類に入ること、及び、慢性炎症性疾患を診断することができることが記載されている。したがって、慢性炎症性疾患の患者は、群(A)に分類されると認められる。

次に、メルクマニュアル第16版日本語版(第5刷)、1997年6月11日、の「57.腸の慢性炎症性疾患」の項(特に796ページ24-29行)によれば、炎症性腸疾患は、胃腸管各部の慢性炎症で特徴づけられる疾患として周知であると認められる。

また、引用例2の記載事項(2-ア)には、「炎症性腸疾患における鉄の恒常性」との表題の下、「慢性炎症の状態では、鉄ホメオスタシスが変更される」との記載があり、記載事項(2-イ)には、「図2 慢性疾患に伴う貧血の病因。サイトカインのバランスが、活性炎症性腸疾患における炎症性サイトカイン優位に変化される。これは、EPO合成の減少、赤血球系のEPOへの鈍化応答、および赤血球系の増殖の直接的な減少をもたらす。さらに、炎症性サイトカインは、フェリチン合成およびマクロファージや肝細胞における鉄貯蔵の誘導を介して低鉄血症(hypoferraemia)を引き起こす。その結果、赤血球生成にはほとんど利用可能でない鉄になる。」との記載があり、記載事項(2-ウ)には、「慢性疾患の貧血の機序」との表題の下、「炎症性腸疾患・・・の過程で、鉄代謝の複雑な変更がおこり、慢性疾患の貧血を生じる。」との記載がある。
したがって、引用例2には、体内における鉄の状態について、炎症性腸疾患では、鉄貯蔵を誘導し、赤血球生成にはほとんど利用可能でない鉄となるように変化することが記載されている、といえる。この、「鉄貯蔵を誘導し、赤血球生成にはほとんど利用可能でない鉄となる」とは、本願明細書の段落0003の「鉄分布の障害は、体内の鉄の全体的濃度は正常であるため、上記の貧血症および血色素症とは異なる。一方では、鉄は、様々な器官に蓄積され、これらの器官の損傷および破壊へとさえ導きかねない。他方では、正常な量で存在する鉄を血液の形成に用いることが損なわれて、貧血症に関連するものに匹敵し得る副次的影響へと導く。」との記載のうち、「鉄は、様々な器官に蓄積され」「鉄を血液の形成に用いることが損なわれて」ということに他ならないので、結局、引用例2には、炎症性腸疾患により鉄分布障害がもたらされることが記載されている、といえる。

上記のとおり、炎症性腸疾患は、引用例1において群(A)に分類される「慢性炎症疾患」の一種であり、かつ、実際に、「鉄分布障害」をもたらすものであるから、慢性炎症性腸疾患の患者について、「群(A)急性期反応を有する鉄分布障害または/および鉄利用障害」に該当することを確認し、エリスロポエチン治療を行うことは、当業者が容易になし得ることである。

3)相違点3について
引用例1の記載事項(1-オ)に基づき、パラメーター:log(フェリチンの濃度[μg/L])で除した可溶性トランスフェリンレセプターの濃度[mg/L]について、群Aに該当するか否かのカットオフ値を、より好ましい範囲とされる3.4?3.7の中程の値であり、また、最も好ましい値とされる3.4(男性)及び3.7(女性)の間の値である、3.5に設定する程度のことは当業者が実験的に適宜なし得ることである。

そして、本願明細書の記載を検討しても、当業者の予想し得ない格別顕著な効果があるとは認められない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-22 
結審通知日 2014-05-27 
審決日 2014-06-10 
出願番号 特願2006-544291(P2006-544291)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 元浩守安 智  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 川口 裕美子
前田 佳与子
発明の名称 慢性炎症性腸疾患の際の鉄分布障害の処置におけるエリスロポエチンの使用  
代理人 齋藤 房幸  
代理人 岡崎 祐一  
代理人 津国 肇  

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