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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1293375
審判番号 不服2012-20860  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-23 
確定日 2014-10-30 
事件の表示 特願2007-20039「知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年8月14日出願公開、特開2008-184436〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成19年1月30日の出願であって、平成23年8月29日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月30日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、平成24年2月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月17日付けで平成24年2月3日付け手続補正書でした補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、これに対して、同年10月23日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成26年1月27日付けの審尋に対して、同年3月31日に回答書及び手続補足書が提出されたものである。

第2 平成24年10月23日付け手続補正の却下の決定について
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月23日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年10月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1である、
「(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体、
(B)カルシウムのリン酸塩、
(C)水、および
(H)水溶性ポリマー
を含有する組成物であり、かつ
該酸性基含有(共)重合体(A)が、組成物の全量に対して、1?25%であり、
該カルシウムのリン酸塩(B)が、組成物の全量に対して、0.1?50%であり、
該水(C)が、組成物の全量に対して、96?25%であり、
該水溶性ポリマーが、組成物の全量に対して、0.5?35%である
ことを特徴とする知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。」
を、
「(A)分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易にスルホン酸基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなり、数平均分子量が10万以上であるスルホン酸基含有(共)重合体、
(B)CaHPO_(4)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH、Ca_(4)O(PO_(4))_(2)、Ca_(8)H_(2)(PO_(4))_(6)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種のカルシウムのリン酸塩、
(C)水、および
(H)ポリビニルアルコールが配合されて混練されて密封容器に保存された知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物であり、
かつ
該酸性基含有(共)重合体(A)を、組成物の全量に対して、1?25%、
該カルシウムのリン酸塩(B)を、組成物の全量に対して、0.1?50%、
該水(C)を、組成物の全量に対して、96?25%、および、
該ポリビニルアルコール(H)を、該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になるように、該組成物の全量に対して、1?30%の量で配合して混連して得られた該組成物が密封容器に保存されてなることを特徴とする知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。」
とする補正を含むものであって、特許請求の範囲の請求項1について、次の補正事項を含むものである(なお、平成24年2月3日付けの手続補正は、同年7月17日付け補正の却下の決定によって却下された。)。

補正事項1:補正前の「(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体」を「(A)分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易にスルホン酸基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなり、数平均分子量が10万以上であるスルホン酸基含有(共)重合体」とする補正事項。

補正事項2:補正前の「(B)カルシウムのリン酸塩」を「(B)CaHPO_(4)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH、Ca_(4)O(PO_(4))_(2)、Ca_(8)H_(2)(PO_(4))_(6)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種のカルシウムのリン酸塩」とする補正事項。

補正事項3:補正前の「(H)水溶性ポリマー」を「(H)ポリビニルアルコール」とし、その量について、補正前の「組成物の全量に対して、0.5?35%」を「該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になるように、該組成物の全量に対して、1?30%」とする補正事項。

補正事項4:「…配合されて混練されて密封容器に保存された知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物であり…混連して得られた該組成物が密封容器に保存されてなる…」との事項を加える補正事項。

2.補正の目的要件
補正事項1は、補正前の請求項1に記載された事項である成分(A)の「酸性基含有(共)重合体」について、「酸性基」を下位概念である「スルホン酸基」に限定するとともに、「数平均分子量が10万以上」であるものに限定することによって、狭い範囲のものとする補正事項である。
補正事項2は、補正前の請求項1に記載された事項である成分(B)の「カルシウムのリン酸塩」を下位概念である具体的な化合物に限定することによって、狭い範囲のものとする補正事項である。
補正事項3は、補正前の請求項1に記載された事項である「(H)水溶性ポリマー」について、下位概念である具体的な化合物に限定するとともに、その量を「該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になる」「1?30%」という補正前の「0.5?35%」よりも狭い数値範囲に限定することによって、狭い範囲のものとする補正事項である。
補正事項4は、補正前の請求項1に記載された事項である「知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物」を、「混練されて密封容器に保存された」態様のものに限定することによって、狭い範囲のものとする補正事項である。
そして、補正事項1?4は、発明の属する技術分野、及び、解決すべき課題を変更するものではないから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

よって、請求項1についての本件補正に係る補正事項はいずれも、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、請求項1についての本件補正は、補正の目的要件を満たすものである。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるか否か。)について検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、平成24年10月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(A)分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易にスルホン酸基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなり、数平均分子量が10万以上であるスルホン酸基含有(共)重合体、
(B)CaHPO_(4)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH、Ca_(4)O(PO_(4))_(2)、Ca_(8)H_(2)(PO_(4))_(6)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種のカルシウムのリン酸塩、
(C)水、および
(H)ポリビニルアルコールが配合されて混練されて密封容器に保存された知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物であり、
かつ
該酸性基含有(共)重合体(A)を、組成物の全量に対して、1?25%、
該カルシウムのリン酸塩(B)を、組成物の全量に対して、0.1?50%、
該水(C)を、組成物の全量に対して、96?25%、および、
該ポリビニルアルコール(H)を、該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になるように、該組成物の全量に対して、1?30%の量で配合して混連して得られた該組成物が密封容器に保存されてなることを特徴とする知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。」

(2)刊行物、及び、刊行物に記載された事項
(2-1)刊行物
刊行物1:特開2003-040754号公報
刊行物2:特開平08-225424号公報
刊行物3:特開平7-165550号公報
刊行物4:特開2002-302450号公報
(順に、平成24年7月17日付け拒絶査定、及び、補正の却下の決定における引用文献1、2、5、6である。)

(2-2)刊行物に記載された事項
本件出願前に頒布された刊行物1?4には、次の事項が記載されている。

[刊行物1]
・摘示事項1-a:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】歯牙表面と歯科用研磨器具との間に介在して歯牙表面の汚れを除去する歯科用研磨剤であって、炭含有粉末と、研磨粒子と、水溶液中で過酸化水素を発生する化合物とが混合されて使用されることを特徴とする歯科用研磨剤。
【請求項2】 水溶液中で過酸化水素を発生する化合物に増粘剤が混合されていることを特徴とする請求項1記載の歯科用研磨剤。
【請求項3】研磨粒子がリン酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の歯科用研磨剤。
…」

・摘示事項1-b:
「【0008】増粘剤を混合することにより、研磨剤の粘度調整を行うことができ、歯科用研磨器具の回転による遠心力によっても、振り飛ばされることがないような付着状態とすることができる。これにより、研磨を確実に行うことができる。」

・摘示事項1-c:
「【0021】過酸化水素発生化合物は、そのままでも歯牙の漂白に使用することができるが、増粘剤を混合して用いても良い。増粘剤を混合することにより、粘度の調整を行うことができるため、ペースト或いはゲルの状態で用いることができる。
【0022】これにより、流動性が少なくなるため、ラバーカップや歯牙表面への塗布が容易となる。又、歯科用研磨器具の回転による遠心力によっても振り飛ばされることのない粘度とすることができ、研磨を確実に行うことができる。なお、増粘剤の混合比としては、歯牙表面への使用態様、使用する増粘剤の増粘作用等によって適宜変更されるものである。」

・摘示事項1-d:
「【0024】研磨粒子としては、酸化チタン、リン酸、リン酸カルシウム等に一種又は複数種を用いることができる。この内、リン酸カルシウムとしては、三リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等を選択することができる。…」

・摘示事項1-e:
「【0031】歯牙表面の研磨は、歯科用研磨器具と歯牙表面との間に歯科用研磨剤を介在させた状態で歯科用研磨器具を歯牙に当てて回転させることにより行う。この研磨では、炭含有粉末が過酸化水素発生化合物と接触し、この接触によって過酸化水素の分解反応が促進されて活性酸素が発生する。発生した活性酸素はエナメル小柱部分等の研磨粒子が入り込むことができないような狭小部分にも入り込み、付着している汚れや色素を分解除去する。従って、歯牙表面の全体を清浄とすることができる。
【0032】又、歯科用研磨器具が回転し、この回転によって研磨剤が撹拌されるため、炭含有粉末と過酸化水素発生化合物との接触度合いが増大する。このため、活性酸素の発生量が増大し、清浄効果を向上させることができる。
【0033】これに加えて、歯科用研磨器具の回転に伴う歯科用研磨器具と研磨粒子との摩擦によって熱が発生し、この熱が上述した分解反応を促進する。従って、過酸化水素及び活性酸素が高効率で発生するため、汚れや色素の分解を効率良く行うことができ、狭小部分であっても、その清浄度を向上させることができる。」

[刊行物2]
・摘示事項2-a:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)象牙質細管径よりも小さい粒子径を有し、カルシウム化合物と反応して象牙細管径よりも大きな凝集体を形成する重合体粒子をエマルジョン粒子として含有する水性エマルジョン成分、および(B)水溶性有機酸またはその水溶性塩成分、ここで該有機酸のカルシウム塩は、水不溶性ないし水難溶性である、を含有することを特徴とする象牙質知覚過敏症用歯科用組成物。

【請求項4】(A)および(B)成分の合計100重量部に対して、(A)成分が50?99.5重量部である請求項1?3のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項5】該歯科用組成物100重量部のうち、固形分換算で、(A)成分中の重合体が0.1?60重量部の範囲にある請求項1?4のいずれかに記載の歯科用組成物。

【請求項8】(A)成分が、共重合体を構成する成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分とスチレンスルホン酸成分を含む共重合体のエマルジョンである請求項1?7のいずれかに記載の歯科用組成物。
…」

・摘示事項2-b:
「【0007】…本発明の目的は、象牙質知覚過敏症を象牙質細管を封鎖することにより抑制するために用いられる歯科用組成物を提供することにある。…」

・摘示事項2-c:
「【0011】本発明の(A)成分として使用できる重合体としては、ラジカル重合性単量体から合成される単独重合体または共重合体を挙げることができる。ラジカル重合性単量体としては、例えばブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体類;スチレン、α-メチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族ビニル単量体類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体類;(メタ)アクリル酸(以下、アクリル酸とメタクリル酸の総称としてこのように記載する)メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルおよびビニリデン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類などを挙げることができる。これらの単量体は単独であるいは2種以上併用して重合に用いられる。
【0012】上記ラジカル重合性単量体から合成される重合体は、カルシウム化合物と反応する官能基と化学結合していることが好ましい。カルシウム化合物と反応する官能基としては、例えばカルボキシル基、少なくとも1個の水酸基がリン原子に結合している基およびスルホン酸基よりなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。上記官能基を導入する方法として、…さらに、上記のラジカル重合性単量体と上記官能基あるいは上記官能基に水中で容易に変換し得る官能基を有するラジカル重合性単量体を共重合させる方法があり、この方法が好ましい。カルシウム化合物と反応する官能基を有するラジカル重合性単量体として、以下の化合物を例示することができる。

【0015】スルホン酸基あるいはスルホン酸基に容易に水中で変換し得る官能基を有する重合性単量体として、例えば2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1-スルホ-1または2-プロピル(メタ)アクリレート、1または3-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-ブロモ-2-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、1,1-ジメチル-2-スルホエチル(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの酸およびそれらの塩を挙げることができる。これらのうち、2-メチル-2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはスチレンスルホン酸およびこれらの塩が好ましく用いられる。」

・摘示事項2-d:
「【0016】(A)成分に含まれる重合体の数平均分子量Mnは、GPC法で測定して通常3,000以上であり、好ましくは7,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。数平均分子量の上限は通常500万である。(A)成分はエマルジョン粒子としての高分子重合体を0.1?60重量%、好ましくは0.5?40重量%、さらに好ましくは1?20重量%の範囲で含有することができる。」

・摘示事項2-e:
「【0018】(A)成分に含まれる象牙質細管径よりも小さい粒子径を有するエマルジョン粒子は、カルシウム化合物、例えば塩化カルシウムを(A)成分中に添加したときに、該カルシウム化合物と反応して象牙質細管径よりも大きな径を有する凝集体を形成し得る。通常、該凝集体の径は3μmを超え、好ましくは10μm以上、より好ましくは50?数千μmに達するものである。上記カルシウム化合物の添加量は、エマルジョン中の不揮発性成分100重量部に対して10?100重量部の範囲である。
【0019】このような性質を有する成分(A)を本発明の組成物に用いることにより、象牙質細管に侵入した小さい径のエマルジョン粒子は、主に象牙質細管を形成する管周象牙質中に存在するハイドロキシアパタイトから溶出したカルシウムイオンや象牙質中に含まれる髄液中のカルシウムイオンと反応して、大きな凝集体が多数形成される。この形成された多数の大凝集体は、象牙質細管内の長さ方向に連続的に充填された状態(被膜)となる。このような状態が形成されることにより、該細管は封鎖される。該細管が封鎖された状態は、本発明の(B)成分を使用することにより速く形成される。またこの状態は、凝集体と象牙質の密着性が長く維持されるので、長期間保持される。」

・摘示事項2-f:
「【0027】(A)成分および(B)成分を含有する組成物の使用方法として、(1)(A)成分と(B)成分を一緒に含む容器に混合して保存し、塗布によって被膜を形成して使用する方法、(2)(A)成分を含む組成物の入った容器Aと(B)成分を含む組成物の入った容器Bによって保存して、それぞれの組成物を任意の順で逐次的に塗布または使用直前に混合し、塗布によって被膜を形成して使用する方法、などを例示することができる。」

・摘示事項2-g:
「【0029】また、発明の効果を損なわない濃度範囲において、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどの無機カルシウム塩や有機酸カルシウム塩などを使用することができる。」

・摘示事項2-h:
「【0046】(エマルジョン合成例)蒸留水50mlを60℃に昇温し、窒素ガスを1時間バブリングした。窒素雰囲気下、メチルメタクリレート(MMA)2.0g、スチレンスルホン酸ソーダ(SSNa)0.54g、過硫酸カリウム30mg、亜硫酸水素ナトリウム10mgを添加し、2.5時間60℃で激しく攪拌した。さらに、MMA1.0g、過硫酸カリウム15mg、亜硫酸水素ナトリウム7mgを30分間隔で4回添加した後、さらに19.5時間激しく攪拌した。室温に冷却後、濃塩酸0.19mlを加えて2時間攪拌し、透析チュ-ブに入れて蒸留水を5日間毎日交換しながら透析を繰り返した。このチュ-ブを常温、常圧下、乾燥して、固形分10.9wt%のエマルジョンを得た。元素分析からこの重合体のMMAユニットの含量は96.9mol%であった。得られた重合体を分子量既知のポリメタクリル酸メチルを標準試料としてGPCを用いて分析したところ数平均分子量(Mn)は1. 0×10^(6)であった。…」

[刊行物3]
・摘示事項3-a:
「【0023】また、練歯磨等のペースト形態の口腔用組成物の場合には、粘結剤としてカラゲナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウムなどのアルカリ金属アルギネート、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘結剤等の1種又は2種以上が配合され得る(配合量歯磨の場合通常0.5?5%)。」

[刊行物4]
・摘示事項4-a:
「【0014】本発明の口腔用組成物は、上述の配合比率において成分を常法に従って配合し、練歯磨剤、液状歯磨剤、粉歯磨剤、歯肉塗布剤(口腔用パスタ剤)等の剤型とすることにより調製される。本発明の口腔用組成物はその剤型に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば歯磨剤とする場合には、水不溶性研磨剤の他、粘結剤、湿潤剤、界面活性剤、香料、甘味料、殺菌剤、防腐剤、色素、水、水溶性フッ化物、シリコーン、その他の有効成分等が適宜用いられる。
【0015】水不溶性研磨剤としては、歯磨用リン酸水素カルシウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、無水ケイ酸、含水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ベントナイト、ゼオライト、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、レジン及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち、無水ケイ酸、含水ケイ酸、歯磨用リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナが貯蔵安定性の良い歯磨剤を得るためには特に好ましい。
【0016】粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、アルギン酸塩、カラギーナン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、トラガントガム、デンプン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。

【0020】本発明の口腔用組成物を、練歯磨剤や液状歯磨剤等のペースト状の歯磨剤組成物とする場合には、基本的には、少なくとも水不溶性研磨剤を10?75重量%、粘結剤を0.5?5重量%、湿潤剤及び水を10?85重量%含有させるのが好ましい。…」

(2-3)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、炭含有粉末と、研磨粒子と、水溶液中で過酸化水素を発生する化合物とが混合されて使用される歯科用研磨剤、及び、研磨粒子がリン酸カルシウムであることが記載されている(摘示事項1-aの【請求項1】、【請求項3】、1-d、1-e)ことからみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「リン酸カルシウムである研磨粒子と、水溶液中で過酸化水素を発生する化合物と、炭含有粉末とが混合されて使用される歯科用研磨剤。」

(3)本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
刊行物1には、研磨粒子としてのリン酸カルシウムとして、三リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトが記載されており(摘示事項1-d)、本件補正発明の成分(B)のカルシウムのリン酸塩のうち、Ca_(3)(PO_(4))_(2)が三リン酸カルシウム、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)がハイドロキシアパタイトであることは技術常識であるから、引用発明の「リン酸カルシウムである研磨粒子」は、本件補正発明の「(B)CaHPO_(4)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH、Ca_(4)O(PO_(4))_(2)、Ca_(8)H_(2)(PO_(4))_(6)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種のカルシウムのリン酸塩」と「…Ca_(3)(PO_(4))_(2)…Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)…のカルシウムのリン酸塩」の点で重複する。
また、引用発明の「水溶液」に含まれることが明らかな「水」は、本件補正発明の「(C)水」に相当する。
また、引用発明の「歯科用研磨剤」は、研磨粒子を他の成分と混合したものであることからみて、歯科用研磨剤を含む組成物と認められるから、本件補正発明の「歯科用研磨材組成物」に実質的に相当する。

そうすると両者は、「(B)Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)のカルシウムのリン酸塩、(C)水が配合された歯科用研磨材組成物」 の点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

相違点1:本件補正発明は「(A)分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易にスルホン酸基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなり、数平均分子量が10万以上であるスルホン酸基含有(共)重合体」を含有するのに対して、引用発明は斯かる成分を含有することを発明特定事項としない点。

相違点2:本件補正発明は「(H)ポリビニルアルコール」を含有するのに対して、引用発明は斯かる成分を含有することを発明特定事項としない点。

相違点3:本件補正発明は「酸性基含有(共)重合体(A)を、組成物の全量に対して、1?25%、該カルシウムのリン酸塩(B)を、組成物の全量に対して、0.1?50%、該水(C)を、組成物の全量に対して、96?25%、および、該ポリビニルアルコール(H)を、該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になるように、該組成物の全量に対して、1?30%の量」配合するのに対して 、引用発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点4:本件補正発明は「混練されて密封容器に保存された」ものであるのに対して、引用発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点5:本件補正発明は「知覚過敏抑制性」であるのに対して、引用発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点6:引用発明は「水溶液中で過酸化水素を発生する化合物と、炭含有粉末」が混合されたものであるのに対して、本件補正発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

(4)検討
(4-1)相違点1、5について
刊行物2には、「分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体が(共)重合してなるスルホン酸基含有(共)重合体」(摘示事項2-a、2-c)が開示され、さらに、当該スルホン酸基含有(共)重合体として数平均分子量が10万以上のもの(摘示事項2-h、2-d)、及び、当該スルホン酸基含有(共)重合体を配合することによって知覚過敏の抑制が図られること(摘示事項2-b、2-e)が開示されていると認められるから、刊行物2には、分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体が(共)重合してなる数平均分子量が10万以上のスルホン酸基含有(共)重合体を配合することによって知覚過敏抑制を図ることが開示されていると認められる。

そして、研磨等、歯の処理を行う際に、知覚過敏の問題が起こる可能性があることは周知の技術と認められること(なお、この点について、周知例を例示すると、例えば、特開2001-288060号公報の段落【0002】には、従来の技術に関し、「…これらの研磨剤は歯の汚染物質等を除去する目的で使用され、こうした汚染物質等の除去が虫歯予防の方法とされてきた。歯磨きをおこなって汚染物質の除去をすることは重要であるが、過度にそれを行うと歯の表面を傷つけてしまい、…、知覚過敏をおこす原因になったりする。」と、研磨剤の使用が知覚過敏をおこす原因になり得ることが開示されている。)、及び、研磨材に知覚過敏を予防する薬剤を配合することは周知の技術と認められること(なお、この点について、周知例を例示すると、例えば、特開2006-111622号公報の段落【0045】には、「有効成分としては、…知覚過敏予防剤も配合できる。…」と、歯磨剤組成物についてであるが、知覚過敏予防剤を配合することが開示されている。)を考慮すると、歯科用研磨剤に係る発明である引用発明についても、起こる可能性が相応にあり得る知覚過敏を抑制するために、「分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体が(共)重合してなる数平均分子量が10万以上のスルホン酸基含有(共)重合体」を配合することは、刊行物2に記載された発明、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことと認められる(なお、刊行物2には、引用発明の研磨剤の成分であるリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイト等と併用し得ることについても記載されている(摘示事項2-g)。)。

よって、相違点1、5に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物2に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものといえる。

(4-2)相違点2について
ポリビニルアルコールは、例えば、刊行物3、4に例示されるように、歯の処理に用いられる組成物に粘結剤等として添加される周知の成分と認められる(摘示事項3-a、4-a参照。)。
そして、刊行物1には、増粘剤を添加し得ることが記載されていること(摘示事項1-b、1-c)を考慮すると、引用発明において、増粘剤と同様に粘度を増加させることが明らかな成分である粘結剤を添加するものとし、斯かる成分として、粘結剤等として添加されることが周知のものであるポリビニルアルコールを用いることは、当業者が刊行物1の技術的記載事項、及び、刊行物3、4に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。

そして、ポリビニルアルコールを添加する目的、効果等に関し、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると、
「…この結合剤(H)は、本発明の組成物に適度の粘度を付与して、組成物を使用する際に「たれ」および「飛散」を防止して、象牙細管に本発明の組成物が適度に浸入して象牙細管を封鎖して知覚過敏の抑制作用を向上させるために使用される。…」(段落【0057】)
と、「たれ」及び「飛散」の防止や、象牙細管への適度な浸入がなされるように、適度な粘度を付与することが記載されていると認められるが、斯かる点(すなわち、適度な粘度が付与され得る点)は、ポリビニルアルコールを粘結剤等として添加することによって奏されることを、周知の技術に照らして、当業者が予測し得たものと認められる(なお、ポリビニルアルコール等の粘結剤により粘度の調整がされることが周知の技術である点について周知例を例示すると、例えば、歯磨剤組成物についてであるが、特開平5-170630号公報の段落【0002】には、従来の技術に関し、「…しかし、水や湿潤剤の混合液だけでは多量の粉体である研磨剤を安定に分散させることは不可能であり、通常0.5?2重量%程度の水溶性高分子を粘結剤として混合液中に溶解・膨潤させることにより、適当な粘度を液成分に付与している。」と、また、特開平10-182391号公報の段落【0019】には、「…ポリビニルアルコール…等の粘結剤を配合して、適度な粘度のゾル状、ペースト状といった形態に調製した後に…定着させることも可能である。なお、これら粘度を調整し得る物質の添加量は…通常0?10重量%の範囲で使用される。」と、各々、粘結剤によって粘度が変動、調整され得ることが開示されている。)。

なお、請求人は、ポリビニルアルコールを添加する目的、効果等に関し、平成24年10月23日付け審判請求書、及び、平成26年3月31日付け回答書において、ポリビニルアルコールが本件補正発明の成分(A)のスルホン酸基含有(共)重合体と、成分(B)のリン酸塩とを接触しないように囲繞することによって、本件補正発明の歯科用研磨剤組成物の保存安定性が保持されることを主張していると認められる(審判請求書第7?13頁の(4)、回答書第8?10頁の5.等参照。)が、ポリビニルアルコールのそのような働きや作用によって歯科用研磨剤組成物の保存安定性に係る効果が奏されること、及び、そのことを客観的に示すデータ等は、本件補正明細書には何ら記載されていない。
そして、刊行物3、4に例示されるような粘結剤等を使用すると粘度調整等によって組成物の保存安定性が改善する可能性があることが当業者が予測し得ることであったとしても(例えば、前掲特開平5-170630号公報の段落【0002】には、粘結剤によって粒子が安定に分散されること、すなわち、粘結剤が、粒子を分散させた液の安定性に資することが開示されていると認められる。)、ポリビニルアルコールによって、請求人が主張するような働きや作用により、特に、当業者が予測し得ない保存安定性等に係る効果が奏されることが明らかであるといえるような技術常識が存在するものとは認められない。
さらに、請求人は、平成26年3月31日付け手続補足書において、実験報告書1を提出して、それに基づいて、「ポリビニルアルコールの不存在下、水の存在下ではMSE(成分(A))とHAP(成分(B))を安定に長期間保存することはできない」ことを主張しているが、当該実験報告書のデータは、成分(A)と成分(B)とを含みポリビニルアルコールを含まない実験例についてレーザー回折/散乱色粒度分布測定装置によって測定した粒度分布のデータを開示するのみであって、成分(A)と成分(B)とポリビニルアルコールとを含む、本件補正発明に該当するものについての粒度分布のデータは開示されていないから、当該実験報告書のデータに基づいて、本件補正発明が、請求人が主張するようなポリビニルアルコールの働きや作用により当業者が予測し得ない保存安定性等に係る効果を奏するものと認めることはできない(また、実験報告書1に開示された粒度分布に関する実験データをみると、ポリビニルアルコールを含まない実験例においても、非凝集性のものと解される粒子(1μm以下等の分布域のものであり、研磨剤としての機能が保持されたものと解される。)が相応に存在することが認められる。そのため、当該実験データは、ポリビニルアルコールの不存在下での研磨剤組成物についてさえも、研磨剤組成物の保存安定性の支障の程度を確認できるとはいえないものである。)。

よって、相違点2に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物3、4に記載された技術的事項によって例示される周知技術等の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものといえる。

(4-3)相違点3について
(A)酸性基(スルホン酸基)含有(共)重合体、(B)リン酸塩、(C)水、(H)ポリビニルアルコール、の量をそれぞれどの程度とするかは、得られた歯科用研磨材組成物の研磨性能、知覚過敏抑制の程度、組成物の粘性等を考慮して、当業者が通常の創作能力の範囲内で容易に設定し得た事項と認められる。
そして、本件補正明細書の記載(段落【0035】、【0040】、【0046】、【0060】、【実施例】)をみても、成分(A)、(B)、(C)、(H)の量を本件補正発明において特定される範囲の量とすることによって、そうでない場合に比べて当業者の予測を超える顕著な効果が奏されるものとは認められない。
(なお、請求人は、平成26年3月31日付け手続補足書において、実験報告書2を提出して、それに基づいて、「研磨剤であるHAP(成分(B))の含有率が3%を大きく下回る0.1%では、HAPは有効な研磨剤として機能しない」ことを主張しているが、研磨剤の含有率が少ない場合に研磨性能が低下することは当業者にとって明らかなことであり、少な過ぎれば有効な研磨剤として機能しないことは、当業者が予測し得たことと認められるから、当該実験報告書のデータを考慮しても、研磨剤等の成分の割合を本件補正発明において特定される範囲とすることによって、当業者の予測を超える顕著な効果が奏されるものとは認められない。)。

よって、相違点3に係る本件補正発明の構成の点は、当業者が通常の創作能力の範囲内で容易になし得たものといえる。

(4-4)相違点4について
歯の処理に用いられる組成物を「混練されて密封容器に保存された」ものとすることは周知の技術であり(例えば、刊行物2についての摘示事項2-f参照。)、引用発明においても斯かる周知の技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たことと認められるから、相違点4に係る本件補正発明の構成の点は、刊行物2に記載された技術的事項に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものといえる。

(4-5)相違点6について
本件補正明細書の段落【0048】に「本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、…(A)、…(B)および…(C)を含有する組成物であるが、さらに他の成分を含有してもよい。」と記載され、成分(D)?(J)等の多種類の成分が例示されていることからみて、本件補正発明は、成分(A)、(B)、(C)、(H)以外の成分を配合し得るものと認められる(なお、成分(F)として過酸化水素等の過酸化物が例示されている。)から、引用発明の「水溶液中で過酸化水素を発生する化合物と、炭含有粉末」が混合される点は、本件補正発明との実質的な相違点とは認められないものである。
よって、相違点6に係る点は、実質的な相違点とは認められない。
(4-6)本件補正発明の効果について
本件補正明細書の「本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨剤組成物は、高い歯牙研磨性能および高い操作性を有したまま、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる。」(段落【0009】)等の記載からみて、本件補正発明は「高い歯牙研磨性能および高い操作性を有したまま、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる」等の効果を奏するものと認められる。そして、段落【0060】の「…このような量で結合材(H)を配合して本発明の組成物の粘度を…調整することにより、…非常に使用しやすくなる。」との記載等からみて、高い操作性は、本件補正発明において、粘度を調整して使用しやすくすること等によって奏されるものと認められる。

しかしながら、研磨剤を使用する組成物において歯牙研磨性能が奏されることは明らかであるから、「高い歯牙研磨性能」は刊行物1に記載された技術的事項から当業者が予測し得たことである。
また、「歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制する」ことは刊行物2に記載された技術的事項から当業者が予測し得たことである(摘示事項2-b)。
また、ポリビニルアルコールを粘結剤等として使用すること、及び、粘結剤によって粘度の調整がされ得ることは、周知の技術であるから(前記「(4-2)相違点2について」参照。)、使用しやすい粘度にして「高い操作性」のものとすることは、刊行物3、4によって例示される周知技術等の周知技術から当業者が予測し得たことである。
そうすると、本件補正発明の「高い歯牙研磨性能および高い操作性を有したまま、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる。」との効果は、刊行物1?4に記載された技術的事項、周知技術から当業者が予測し得たものと認められる。

なお、請求人は、平成26年3月31日付け回答書において、
「このように本願発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、相互に反応性を有するMSEとHAPとが水の存在下に共存しているにも拘らず、これらの反応を抑制して単一の容器に収容すること(一液型とすること)は、MSE粒子およびHAP粒子が水中を自由に動き回るのを、ポリビニルアルコールを配合して、水を適度な流動性を有する半固体状態にして、抑制しているからであります。…上記詳述のようにポリビニルアルコールが水の存在下に上述のようにMSEやHAPの周囲に膜を形成してこれらが常態では接触しないようにして組成物の安定を図るものであり、このような組成物の安定常態は確保することができます。」(第9?10頁)
と、成分(A)、(B)、(C)とともに、成分(H)としてのポリビニルアルコールが存在することによって、本件補正発明の効果を発現することができることを主張していると認められる。
しかしながら、本件補正明細書の記載をみても、成分(H)としてのポリビニルアルコールが存在することによって初めて、本件補正発明の効果が発現することは、何ら記載されているとは認められないし、むしろ、本件補正明細書には、
「驚くべきことに、歯牙の成分と類縁性の高い無機カルシウム塩(B)と、象牙細管内において微粒子の凝集現象を発生させる酸性基含有(共)重合体(A)成分とを、成分(C)である水が共存する環境下に長期間保存しても((A)成分、(B)、(C)共存状態にて長期保存しても)、これらの成分の凝集反応は殆ど発生せず、実用に供せられる。」(段落【0064】)と、成分(A)、(B)、(C)があれば本件補正発明の効果が発現し得ること(すなわち、成分(H)としてのポリビニルアルコールを必須としないこと。)を意味するものと認められる記載がされていることを考慮すると、上記の請求人の主張は本件補正明細書の記載と一貫性のあるものとはいえないから、請求人の主張は認められない(さらに、前記(4-2)に記載したように、平成26年3月31日付け手続補足書において提出された実験報告書1を考慮しても、本件補正発明がポリビニルアルコールが存在することによって、当業者が予測し得ない効果を奏するものとは認められない。)。

よって、本件補正発明の効果は、刊行物1?4に記載された技術的事項、周知技術から当業者が予測し得たものと認められる。

(5) 独立特許要件のまとめ
よって、本件補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1?4に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成26年3月31日付け回答書において、請求項1のリン酸塩(B)の使用量を「0.1?50%」から「3?30%」へと減縮する趣旨の補正案を提示したが、前記(4-3)において相違点3について記載した理由と同様の理由によって、リン酸塩(B)の使用量を「3?30%」とすることは当業者が通常の創作能力の範囲内で容易になし得たことと認められるから、仮に、補正案のとおりの補正がされたとしても、斯かる補正後の発明も刊行物1?4に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものと認められる。

4.補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明
本件出願に係る発明は、平成23年11月7日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体、
(B)カルシウムのリン酸塩、
(C)水、および
(H)水溶性ポリマー
を含有する組成物であり、かつ
該酸性基含有(共)重合体(A)が、組成物の全量に対して、1?25%であり、
該カルシウムのリン酸塩(B)が、組成物の全量に対して、0.1?50%であり、
該水(C)が、組成物の全量に対して、96?25%であり、
該水溶性ポリマーが、組成物の全量に対して、0.5?35%である
ことを特徴とする知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。」

第4 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成23年11月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです」というものであり、平成23年11月30日付け拒絶理由通知書によると次の理由によるものである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1?6、8、9
・引用文献1?3、5、6

・請求項7
・引用文献1?6

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-040754号公報
2.特開平08-225424号公報

5.特開平7-165550号公報
6.特開2002-302450号公報
…」

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明はその出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると判断する。

1.引用文献の記載事項、及び、引用文献1に記載された発明
引用文献1、2、5、6には、刊行物1?4について、前記「第2 3(2)(2-2)[刊行物1]?[刊行物4]」に記載したとおりの事項が記載されている。
そして、引用文献1には、「第2 3.(2)(2-3)」に記載したとおりの発明(以下、同様に、「引用発明」という。)が記載されている。

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記「第2 3.(1)」に記載した本件補正発明において、 成分(A)に関し、「スルホン酸基」がその上位概念である「酸性基」との特定事項となり、「数平均分子量が10万以上である」との特定事項が除かれたものであり、
成分(B)に関し、「CaHPO_(4)、Ca_(3)(PO_(4))_(2)、Ca_(5)(PO_(4))_(3)OH、Ca_(4)O(PO_(4))_(2)、Ca_(8)H_(2)(PO_(4))_(6)、Ca_(10)(PO_(4))_(6)(OH)_(2)、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種」との特定事項が除かれたものであり、
成分(H)に関し、「ポリビニルアルコール」がその上位概念である「水溶性ポリマー」との特定事項となり、その含有量が「該組成物の36℃における粘度8?250Pa・sの範囲内になるように、該組成物の全量に対して、1?30%の量」からそれよりも広い数値範囲である「0.1?50%」にされたものであり、
組成物の態様に関し、「配合されて混練されて密封容器に保存された」との特定事項が除かれたものである。

そこで、斯かる本願発明と引用発明とを、前記「第2 3.(3)」において、本件補正発明と引用発明とを対比したのと同様に対比すると、両者は、「(B)カルシウムのリン酸塩、(C)水が配合された歯科用研磨材組成物」 の点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

相違点1’:本願発明は「(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体」を含有するのに対して、引用発明は斯かる成分を含有することを発明特定事項としない点。

相違点2’:本願発明は「(H)水溶性ポリマー」を含有するのに対して、引用発明は斯かる成分を含有することを発明特定事項としない点。

相違点3’:本願発明は「酸性基含有(共)重合体(A)が、組成物の全量に対して、1?25%であり、該カルシウムのリン酸塩(B)が、組成物の全量に対して、0.1?50%であり、該水(C)が、組成物の全量に対して、96?25%であり、該水溶性ポリマーが、該組成物の全量に対して、0.5?35%である」のに対して 、引用発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点4’:本願発明は「知覚過敏抑制性」であるのに対して、引用発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点5’:引用発明は「水溶液中で過酸化水素を発生する化合物と、炭含有粉末」が混合されたものであるのに対して、本願発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

3.検討
(3-1)相違点1’、4’について
本願発明の成分(A)は、本件補正発明の成分(A)の「スルホン酸基」がその上位概念である「酸性基」となり、「数平均分子量が10万以上である」との限定が除かれたものであるから、本件補正発明の成分(A)を包含するものである。
よって、相違点1’、4’に係る本願発明の構成の点は、前記「第2 3.(4)(4-1)」に、相違点1、5について記載した理由と同様の理由により、引用文献2に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものといえる。

(3-2)相違点2’について
本願発明の成分(H)は、本件補正発明の成分(H)の「ポリビニルアルコール」がその上位概念である「水溶性ポリマー」となったものであるから、本件補正発明の成分(H)を包含するものである。
よって、相違点2’に係る本願発明の構成の点は、前記「第2 3.(4)(4-2)」に、相違点2について記載した理由と同様の理由により、引用文献5、6に記載された技術的事項に例示される周知技術等の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものといえる。

(3-3)相違点3’について
前記「第2 3.(4)(4-3)」に、相違点3について記載した理由と同様に、酸性基含有(共)重合体(A)、リン酸塩(B)、水(C)、水溶性ポリマー(H)の量をどの程度とするかは、得られた歯科用研磨材組成物の研磨性能、知覚過敏抑制の程度、組成物の粘性等を考慮して、当業者が通常の創作能力の範囲内で容易に設定し得た事項と認められる。
そして、本願明細書の記載(段落【0035】、【0040】、【0046】、【0060】、【実施例】)をみても、成分(A)、(B)、(C)、(H)の量を本願発明において特定される範囲とすることによって、そうでない場合に比べて、当業者の予測を超える顕著な効果が奏されるものとは認められない。
よって、相違点3’に係る本願発明の構成の点は、当業者が通常の創作能力の範囲内で容易になし得たものといえる。

(3-4)相違点5’について
相違点5’は、相違点6と同様の相違点であるから、前記「第2 3.(4)(4-5)」に、相違点6について記載した理由と同様の理由により、相違点5’に係る点は、実質的な相違点とは認められない。

(3-5)本願発明の効果について
本願発明は、前記「第2 3.(4)(4-6)」に本件補正発明について記載した効果と同様の効果を奏するものと認められる。そして、本願発明によって奏される効果は、前記「第2 3.(4)(4-6)」に本件補正発明によって奏される効果について記載した理由と同様の理由により、引用文献1、2、5、6に記載された技術的事項、周知技術から当業者が予測し得たものと認められる。

4.まとめ
よって、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献1、2、5、6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおりであって、本願発明は特許法第29条第2項の規定の規定により特許を受けることができないものであるから、その余を検討するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2007-20039(P2007-20039)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松浦 新司
関 美祝
発明の名称 知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物  
代理人 特許業務法人SSINPAT  
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