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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1293440
審判番号 不服2012-7319  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-04-20 
確定日 2014-10-29 
事件の表示 特願2007-304146「高純度2-メトキシエストラジオールを有する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年3月21日出願公開,特開2008-63345〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2000年8月23日(パリ条約による優先権主張1999年8月23日 米国)を国際出願日とする出願である,特願2001-518734号の一部を,平成19年11月26日に,新たな特許出願としたものであって,その請求項1?12に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
アテローム硬化症,腫瘍の増殖,固形腫瘍の増殖,腫瘍新脈管形成,血管機能不全,子宮内膜症,網膜症,関節症,炎症性の応答,又は免疫応答から選ばれる,人間又は動物における病気又は体調を治療するための組成物であって,
エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオールを含有する組成物。」

2.引用刊行物
これに対して,原査定の拒絶理由で引用された,本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物Aには次の事項が記載されている。
刊行物A:米国特許第5504074号明細書(原審の引用例1)
(なお,対応国内公報は特表平9-501433号公報であるが,該公報の原文であるWO95/4535号は刊行物Aの出願を優先権の基礎とするものの,その記載は,刊行物Aの記載と部分的に相違している。)

(1)刊行物Aの記載事項(英文のため訳文で記載する。)
(A-1)図2



(A-2)第1欄第33?52行
「エストラジオール及び2-メトキシエストラジオールのようなエストラジオール代謝物は細胞分裂を阻害すると報告されている…。しかしその活性は様々であり,かつ多数の試験管内条件にも依存する。例えばエストラジオールはいくつかの試験管内環境において細胞分裂及びチューブリン重合を阻害する…。2-メトキシエストラジオールなどのエストラジオール代謝物は,細胞培養添加物フェノールレッドが存在するか否か,及び細胞がどの程度エストロゲンに暴露されたかに依存して選択された試験管内の環境に応じて細胞分裂を阻害する…。」
(A-3)第1欄第60行?第2欄第26行
「 発明の概要
私は請求の範囲において下記に示す一般式の範囲内のある種の化合物が,望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類の疾患の処置に有用であることを見いだした。特定の理論に縛られることは望まないが,そのような化合物は一般に微小管形成及びチューブリン重合及び/又は解重合を阻害する。該阻害活性を有する一般式の範囲内の化合物が好ましい。好ましい組成物はエストロゲンレセプター結合における変化(増加又は減少),吸収,輸送(例えば血液-脳関門及び細胞膜を介した),生物学的安定性の向上,又は毒性の低下も示すことができる。私は又,請求の範囲の一般式により記載される,方法において有用なある種の化合物も見いだした。
本明細書において定義される望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類疾患は,過剰な又は異常な内皮細胞の刺激(例えばアテローム硬化症),充実性腫瘍及び腫瘍転移,良性腫瘍,例えば血管腫,聴神経鞘腫,神経線維腫,トラコーマ及び化膿性肉芽腫,血管機能不全,異常な傷の治癒,炎症及び免疫障害,ベーチェット病,痛風又は痛風性関節炎,ならびに慢性関節リウマチ,乾癬,糖尿病性網膜症及び他の眼血管由来疾患,例えば未熟児網膜症(水晶体後方線維増殖症),黄斑変性,角膜移植拒絶,血管新生緑内障及びオスラーウェーバー症候群を伴う異常な血管形成を含むが,これらに限られない。他の望ましくない血管形成は,排卵及び胞胚の着床を含む正常な過程を含む。従って上記の組成物は排卵及び胞胚の着床の阻害に,又は月経の阻害(無月経の誘導)に用いることができる。」
(A-4)第2欄第43?49行
「 本発明の化合物
下記に記載するとおり,本発明に従って有用な化合物はチューブリンに結合し,微小管形成を阻害する,又は抗-有糸分裂性を示す新規なエストラジオール誘導体を含む。」
(A-5)第4欄第46?64行
「その場における抗-有糸分裂活性
抗有糸分裂活性は,改良エストラジオール誘導体が新しい血管細胞の増殖(血管形成)を阻害する能力を試験することによりその場で評価される。適したアッセイは,CrumらのScience 230:1375(1985)に記載のニワトリ胚絨毛尿膜(CAM)アッセイである。CAMアッセイを説明している米国特許第5,001,116号も参照されたく,その記載事項は引用することにより本明細書の内容となる。簡単に記載すると,受精したニワトリ胚を第3又は4日にそれらの殻から取り出し,薬剤を含むメチルセルロース円板を絨毛尿膜上に移植する。胚を48時間後に調べ,メチルセルロース円板の回りに明白な無血管領域が現れていたら,その領域の直径を測定する。このアッセイを用い,エストラジオール誘導体2-メトキシエストラジオールの100mgの円板が48時間後に,細胞有糸分裂及び新しい血管の生長を阻害することが見いだされた。この結果は,2-メトキシエストラジオールの抗-有糸分裂作用が,細胞有糸分裂及び血管形成を阻害できることを示している。」
(A-6)第5欄第16?29行
「適応症
本発明は異常な細胞有糸分裂を特徴とするいずれの疾患の処置にも用いることができる。そのような疾患は:異常な内皮細胞の刺激(例えばアテローム硬化症),充実性腫瘍及び腫瘍転移,良性腫瘍,例えば血管腫,聴神経鞘腫,神経線維腫,トラコーマ及び化膿性肉芽腫,血管機能不全,異常な傷の治癒,炎症及び免疫障害,ベーチェット病,痛風又は痛風性関節炎,ならびに慢性関節リウマチ,乾癬,糖尿病性網膜症及び他の眼血管由来疾患,例えば未熟児網膜症(水晶体後方線維増殖症),黄斑変性,角膜移植拒絶,血管新生緑内障及びオースラーウェーバー症候群を伴う異常な血管形成を含むが,これらに限られない。」
(A-7)第8欄第1?12行
「実施例3:
図2は,2-メトキシエストラジオールがチューブリンへのコルヒチン結合を阻害することを示す。反応条件は文中に記載したとおりであり,各反応混合物は1.0μMのチューブリン,5%(v/v)のジメチルスルホキシド,5μMの[3H]コルヒチン及び示されている濃度における阻害剤を含んだ。インキュベーションは37℃において10分間行った。記号は以下のとおりである:○,2-メトキシエストラジオール;●,コンブレタスタチンA-4;△,ジヒドロコンブレタスタチンA-4。コンブレタスタチンA-4及びジヒドロコンブレタスタチンA-4は,コルヒチンに類似の抗-有糸分裂活性を有する化合物である。」

3.対比
(1)刊行物A記載の発明
刊行物Aに記載の発明は,
「一般式の範囲内のある種の化合物が,望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類の疾患の処置に有用であることを見いだした。」(摘示(A-3))
とするものであって,その作用機序に関して,
「本発明に従って有用な化合物はチューブリンに結合し,…抗-有糸分裂性を示す新規なエストラジオール誘導体を含む。」(摘示(A-4))
とも記載されている。
更に加えて,これら事項を裏付ける記載として,一般式に含まれる2-メトキシエストラジオールについて,
「2-メトキシエストラジオールが細胞有糸分裂…を阻害することができること」をある種の試験によって確認される旨の記載(摘示(A-5))があるとともに,
「2-メトキシエストラジオールがチューブリンに結合することによって,チューブリンへのコルヒチン結合を阻害すること」を具体的な試験データを提示しつつ記載されている(摘示(A-1)及び(A-7))。
これらの記載から,次の発明が記載されているといえる。
「2-メトキシエストラジオールを用いた,望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類の疾患の処置」
そして,かかる発明を医薬に係る組成物の観点から表現すると,以下のように換言される。
「2-メトキシエストラジオールを有効成分とする,望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類の疾患の処置をするための組成物」(以下,「引用発明」という。)
なお,以下の記載では,本願明細書の記載に倣い「2-メトキシエストラジオール」を「2-ME2」と略記することもある。
(2)一致点・相違点
ここで本願発明と引用発明とを対比する。
両発明は,ともに2-ME2を含有する組成物である。
そして,治療対象としては,本願発明は,
「アテローム硬化症,腫瘍の増殖,固形腫瘍の増殖,腫瘍新脈管形成,血管機能不全,子宮内膜症,網膜症,関節症,炎症性の応答,又は免疫応答から選ばれる,人間又は動物における病気又は体調」とされているのに対して,引用発明は,
「望ましくない細胞有糸分裂を特徴とする哺乳類の疾患」とするものであるが,刊行物Aにおける,より具体的な記載である上記摘示(A-3)及び(A-6)の記載と本願発明で列記されている疾患とを対比すると,
少なくとも「アテローム硬化症」及び「血管機能不全」については両者に共通するものである。
なお,請求項1に列記された本願発明に係る組成物の医薬用途に関して言及した本願明細書の記載箇所は段落【0004】のみであるが,そこでは,刊行物Aを含む3文献の記載をそのまま引用するのみであって,明細書の他の箇所において独立した試験などに基づく記載がなされているものでもないことから,本願発明に係る組成物の用途に関する技術的な支持は,結局これら3文献の記載とこの分野における技術常識に依るものと解さざるを得ない。そして,これら3文献の記載内容を対比すると,何れも大差のないものであり,そうすると,本願発明に係る組成物の医薬用途に関しては,当業者が刊行物Aの記載から把握される範囲から逸脱するものは含まれないというべきである。したがって,このような観点からも,本願発明と引用発明とは医薬用途に関しては一致するものとすべきということになる。
以上のことから,本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「アテローム硬化症又は血管機能不全から選ばれる,人間又は動物における病気又は体調を治療するための組成物であって,2-メトキシエストラジオールを含有する組成物。」
[相違点]
本願発明の組成物に含まれる2-メトキシエストラジオールが,「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」と特定されているのに対して,引用発明はそのような特定がない点。

4.判断
およそ医薬品の有効成分として配合される化合物は,より一層の安全性が求められ,それ故製造・販売に際しては,厚生労働省の厳格な審査を経て製造及び販売の承認がなされてもいるものである。
更に加えて,エストラジオールに代表される「エストロゲン性ステロイド」化合物は,本願優先権主張の日前において,それ自体医薬の有効成分として用いられるものである一方で,投与の態様によっては乳がん等の重篤な副作用が伴うことも,例えば,以下の文献(※1)に示されるように,当業者にとって周知の事項であって,しかも従来からその副作用の軽減や回避の工夫が種々行われてきたものである。

※1:エストラジオールの副作用及びその軽減法の検討などに関する文献
参考1:特開平5-32658号公報(【0002】?【0006】など)
参考2:特開平10-25263号公報(【0003】など)
参考3:特開平9-169635号公報(【0002】?【0009】など)
参考4:特開平3-63223号公報(第4頁左上欄?第5頁右上欄)

そして,2-ME2と上記したように重篤な副作用が伴うエストラジオールとの関係は,自然界としては前者は後者の代謝物であることは,例えば,刊行物Aに記載のほか,以下の文献(※2)にも示されているように当業者によく知られたことであるし,一方人工的な合成法においても,エストラジオールを出発物質とする2-ME2の合成法が,例えば,以下に示すように数多く知られていた(※3)ものである。

※2:2-ME2がエストラジオールの代謝産物であること
参考5:J. Med. Chem., 1995, vol.38, 2041- 2049(本文冒頭部)
参考6:Bioorg. Med. Chem. Lett., 1994, vol.4, 1725-1728(本文冒頭部)
参考7:J. Am. Chem. Soc., 1958, vol.80, 1213-1216(本文冒頭部)
※3:エストラジオールを出発物質とする2-ME2の合成
参考5:J. Med. Chem., 1995, vol.38, 2041- 2049(Scheme 1など)
参考6:Bioorg. Med. Chem. Lett., 1994, vol.4, 1725-1728(Scheme Iなど)
参考7:J. Am. Chem. Soc., 1958, vol.80, 1213-1216
(1214頁の右欄最終段落の(Ib)の合成?1215頁右欄の(IVb)の合成)
参考8:STEROIDS, 1986, VOL.47, 63-66(64頁のchartなど)

このような医薬品関連の分野及びエストロゲン関連の分野における,本願優先権主張の日前の技術常識を踏まえると,引用発明に係る2-ME2は,既にその医薬としての用途が知られており,該化合物を医薬として使用する際には,当業者ならば,可能な限り精製度を高めるようとするばかりでなく,例えば,上記参考5?8に記載の方法に基づいて合成した場合はもとより,たとえ市販品であったとしても,重篤な副作用が知られているエストロゲン性ステロイドの1つであるエストラジオールの混入の可能性を否定できないものであることから,その純度やエストラジオールが混入していないかなどを確かめるための分析を行い,もしもエストラジオール等のエストロゲン性ステロイド不純物が混入しているならば,その除去を行うことは当然になし得ることといえる。
更に,本願明細書の記載によれば,例えば,市販品の2-ME2に対して単にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製手段を適用するだけで,本願発明に係る「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」が得られるものと解せられるが,このような精製手段は,有機化合物の精製手段として,ごく一般的に採用されているものであって,エスロゲン関連の化合物の精製においても使用されていた(※4)ものである。

※4:エストロゲン関連化合物のシリカゲルクロマトグラフィーによる精製例
参考5:J. Med. Chem., 1995, vol.38, 2041- 2049
(特に,2046頁右欄中断の(1)の製造において引用されている同頁左欄
下段の(8a)の製造など参照)
参考8:STEROIDS, 1986, VOL.47, 63-66
(65頁)
参考9:特開平5-294987号公報
(参考例2及び実施例1?3)
参考10:特開平4-145024号公報
(製造例1,2)

そうすると,上記したように,例えば,市販品の2-ME2を医薬品として使用する当業者ならば,まず純度及び不純物としてのエストラジオール等の混入の有無を確認して,もしも混入していた場合にはその除去を行うものといえ,更に,該除去のために,汎用の精製手段である,例えば,シリカゲルクロマトグラフィーを用いて単に精製することによって,結果として「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」を得て,これを医薬用途に使用することも,当業者が容易になし得ることといわざるを得ない。
また,例えば,上記参考5?8に記載の方法に基づく,エストラジオールを出発原料とする合成法により自ら合成した当業者が,2-ME2の精製手段として汎用のシリカゲルクロマトグラフィーを採用したならば,その結果としてごく自然に「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」が得られるものとも解釈されるし,仮にその段階では未だエストラジオールが混入しているものであったとしても,2-ME2を医薬品として使用する場合には,エストラジオールの残留の有無を確認するために分析し,この混入が認められなくなるまで精製を繰り返すものといえるので,その結果として,「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」を得て,これを医薬用途に使用することは,ごく自然に行われることと解される。
したがって,引用発明における2-メトキシエストラジオールとして,「エストロゲン性又は発がん性作用を有するステロイド不純物を実質的に含有せず,HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」を使用することは,当業者が容易になしえたことといわざるを得ない。
そして,本願明細書の記載を見ても,本願発明において,「HPLCで測定したときに99.5%より高い純度を有する2-メトキシエストラジオール」を使用することによって,格別予想外の効果が奏されるものとすることもできない。

5.むすび

以上のとおり,本願発明は,刊行物Aに記載の発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-30 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-17 
出願番号 特願2007-304146(P2007-304146)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 關 政立齋藤 恵  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 中島 庸子
松浦 新司
発明の名称 高純度2-メトキシエストラジオールを有する医薬組成物  
代理人 川口 嘉之  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  

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