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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1293622
審判番号 不服2013-13046  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-08 
確定日 2014-11-04 
事件の表示 特願2009-504207「三元アルミニウム合金膜およびターゲット」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日国際公開、WO2007/126943、平成21年 9月10日国内公表、特表2009-532587〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年3月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年4月3日(以下、「優先日」という。)米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成24年7月9日付けで拒絶理由が通知されたが意見書も手続補正書も提出されなかったため平成25年3月4日付けで拒絶査定がされ、同年7月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年10月21日付けで特許法第164条第3項に規定される報告書(以下、「前置報告書」という。)を利用した審尋がなされ、平成26年4月22日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年7月8日付けの補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年7月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年7月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を、以下に示すように、本件補正前のものを本件補正後のようにすることを含むものである。

(本件補正前)
「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、
原子パーセントで、約90?99.98の量の、アルミニウムである第1成分、約0.01?2.0の量の、Nd、Ce、DyおよびGdから成る群から選択された希土類元素である第2成分、および約0.01?8.0の量の、Ni、Co、Mo、ScおよびHfから成る群から選択された第3成分を含む三元合金を包含する物理蒸着用ターゲット。」

(本件補正後)
「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、
Al-Ce-Hf、Al-Dy-Co、Al-Gd-Co、Al-Gd-Hfから成る群から選択された三元合金であって、原子パーセントで、第1成分が90?99.98、第2成分が0.01?2.0、および第3成分が0.01?8.0である三元合金を含み、
前記三元合金が真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍された、物理蒸着用ターゲット。」

2.補正の目的要件
上記補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「原子パーセントで、約90?99.98の量の、アルミニウムである第1成分、約0.01?2.0の量の、Nd、Ce、DyおよびGdから成る群から選択された希土類元素である第2成分、および約0.01?8.0の量の、Ni、Co、Mo、ScおよびHfから成る群から選択された第3成分を含む三元合金」を、「Al-Ce-Hf、Al-Dy-Co、Al-Gd-Co、Al-Gd-Hfから成る群から選択された三元合金であって、原子パーセントで、第1成分が90?99.98、第2成分が0.01?2.0、および第3成分が0.01?8.0である三元合金」と限定するとともに、さらに、「真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍された」との製造方法についての特定事項を加えるものである。
しかしながら、後者の製造方法についての特定事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項のいずれをも限定するものではない。
そうすると、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とするものということはできない。
また、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の他の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものでもないから、同項の規定を満すものでもない。

3.本件補正発明の独立特許要件
以下、予備的に、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものとして、以下、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。上記「1.(本件補正後)」を参照。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(請求項1についての補正が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について、進歩性について検討する。

3-1.刊行物1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-294556号公報(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
1a 「【特許請求の範囲】

【請求項2】0.1?2at%の一種類以上の希土類元素と0.1at%以上のFe,Co,Niの群Bから選ばれる一種類以上の添加元素とを、総量で0.5at%以上、8at%以下含有し、残部実質的にAlよりなることを特徴するドライエッチング性に優れたAl合金配線膜。
【請求項3】0.1?2at%の一種類以上の希土類元素と0.1at%以上のZr,Ti,Hf,Nb,Mo,W,Ta,Crの群Cから選ばれる一種類以上の添加元素を、総量で0.5at%以上、7at%以下含有し、残部実質的にAlよりなることを特徴するドライエッチング性に優れたAl合金配線膜。

【請求項7】 請求項1?6の何れかに記載の組成を有することを特徴するドライエッチング性に優れたAl合金配線膜形成用ターゲット。」

1b 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、成膜後にドライエッチングによってパターニングを施す膜配線に使用されるAl合金配線およびその製造に使用されるAl合金配線膜形成用ターゲットに関するものである。」

1c 「【0002】
【従来の技術】液晶の高精細度化、大画面化に伴い、配線線路長は増大し、配線幅は減少し続けている。素子の応答速度を低下させないためには、配線抵抗を一定値以下に保持する必要がある。従って、配線線路長が増大し、配線幅が減少する場合には配線材質の比抵抗の低下が不可欠である。このような理由により、液晶における配線材質は、比抵抗の高いCrから、比抵抗の低いMoおよびMo合金、そして、さらに比抵抗の低いAl合金へと移行してきている。
【0003】一般的に純Al膜を電極膜として使用した場合、製造時の熱履歴によってヒロックと呼ばれる突起物が発生し、層間絶縁破壊や断線などの問題を引き起こすことが知られている。これは成膜後の加熱工程において粒界拡散により、膜応力が開放された結果生じると考えられており、添加元素を加えることによりこれらを抑制することが出来ることが知られているが、一般的に合金化は比抵抗の上昇を招くため、比抵抗の上昇を伴わず、耐ヒロック性の向上を図れる添加元素の探索が行われ、様々な元素の添加が検討されている。例えば、…に記載されているAl-Sm、…に記載されているAl-Yなどの例があり、特開平7-45555号に開示されているAl-希土類合金膜なども、比抵抗が小さく、耐ヒロック性に優れた合金であることが知られ、広く用いられている。」

1d 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来のAl合金配線は、比抵抗および耐ヒロック性のみに主眼を置いて開発されてきた。例えば、特開平7-45555号等に記載されている希土類添加などがこの例である。しかし、本発明者等が上述のAl希土類合金膜へのドライエッチングの適用を検討した結果、ドライエッチング時に大量の残さが発生するという問題点があることが明らかになった。さらに、この原因は希土類のハロゲン化物の蒸気圧が非常に低く、ドライエッチング時の揮散量が少ないために、気相からの塩化物の生成、堆積反応の方が優先的になるためであることを解明した。
【0007】…高い耐ヒロック性を有し、比抵抗が低いという大きな特長を持ちながらドライエッチング性に著しく劣る欠点を持つAl希土類元素合金配線膜を使用することは、パターン形成の生産効率の低下、パターン精度の低下のみならず、甚大な装置ダメージと常用コストの高騰という問題を引き起こす原因となる。…エッチング残さを低減するためには、希土類元素の添加量を減らす以外に方法が無く、この場合、十分な耐ヒロック性が得られない。」

1e 「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上述した現状のAl系配線膜の抱えるドライエッチングにおける問題点を解決するための方法について検討した。そして、特定の第三元素の添加により、より少ない希土類元素量で、耐ヒロック性を確保でき、低抵抗特性といったAl合金配線膜に要求される特性を劣化させることなく、ドライエッチング性をも確保できることを見出し本発明に到達した。」

1f 「【0016】
【発明の実施の形態】本発明においては、耐ヒロック性を確保することを目的として、Alに希土類元素の添加を行うものである。希土類元素添加による耐ヒロック性の向上は、0.1at%未満では効果が少なく、2at%を越えると耐ヒロック性は確保できるものの、比抵抗が増加するとともにドライエッチング性の劣化が避けられないので、0.1at%?2at%に規定した。本発明者は、良好なドライエッチング性を保持したまま、希土類元素添加時の耐ヒロック性を向上させるような第三元素の選定を試みた。その結果、五種類に大別できる元素群において、このような効果が認められた。この五種類の元素群は、それぞれ、上述した元素群AないしEに相当している。」

1g 「【0020】元素群BであるFe,Co,Niは、塩化物の蒸気圧が比較的高く、多くの希土類元素と多くの価数の化合物を形成する。このような系は、Al合金母相から希土類元素を吸い集めて化合物を形成するために、少量の希土類でも有効にその析出強化機構が機能し、耐ヒロック性を高められる。以上のように、Fe,Co,Niの添加元素を導入することで少ない希土類量でも優れた耐ヒロック性を確保することができる。そしてこれらの元素は希土類元素と複合してもドライエッチング性を大きく劣化しない。そのため、耐ヒロック性とドライエッチング性とを両立することができる。上記効果を得るためには、群Bとして0.1at%以上の添加と、希土類元素と群Bの元素とを総量で0.5at%以上、8at%以下含有することが必要である。
【0021】元素群CであるZr,Ti,Hf,Nb,Mo,W,Ta,Crは希土類には及ばないものの、Alとの二元系合金においてもヒロック抑制効果がある元素であり、かつ、塩化物の蒸気圧の高い元素である。このようなヒロック抑制効果を有する元素を添加することにより、希土類元素のヒロック抑制効果が幇助され、その結果、少量の希土類でも高い耐ヒロック性を示す。以上のように、Zr,Ti,Hf,Nb,Mo,W,Ta,Crの添加元素を導入することで少ない希土類量でも優れた耐ヒロック性を確保することができる。そしてこれらの元素は希土類元素と複合してもドライエッチング性を大きく劣化しない。そのため、耐ヒロック性とドライエッチング性とを両立することができる。上記効果を得るためには、群Cとして0.1at%以上の添加と、希土類元素と群Cの元素とを総量で0.5at%以上、7at%以下含有することが必要である。」

1h 「【0025】上述した組成を有するAl合金配線膜は、たとえば実質的にAl合金配線膜と同じ組成に調整した本発明のAl合金ターゲットを、スパッタリングして得ることができる。本発明のAl合金ターゲットとしては、溶成法、粉末法などを使用して製造することができる。ターゲットの製造方法は、添加合金の特性に応じて選択できる。たとえば、希土類元素はAlと化合物を形成し易いため、ターゲットとして均一に分布させるには、粉末法の適用が望ましい。粉末法としても、添加元素単体粉末同士を混合したものを原料として用いても良いし、合金化した粉末を用いても良い。もちろん、鋳造欠陥や組織の不均一といった問題を除けば、本質的には溶解による製法、圧延、押し出しなどを組み合わせた製法などあらゆる製法が適用できる。」

1i 「【0028】
【実施例】(実施例1)Arガスアトマイズによって製造した原料粉末を、表1および表2に示す目標組成に合致するように混合し、金属容器に充填、脱気封止、550℃×150 Paで熱間静水圧プレスした後、機械加工して、ターゲットを作製した。Nは、原料粉にAlNを混合して組成を調整した。得られたターゲットを使用し、Ar圧力0.3Pa、投入電力500Wで、DCマグネトロンスパッタリングを行い、膜厚300nmの膜試料をガラス基板上に成膜した。表1および表2は、比抵抗の結果一覧である。◎印は熱処理後の比抵抗が5μΩ・cm以下の系、○印は5?10、△印は10?15、×印は15以上の系である。合金元素の添加量が増加すると、比抵抗は増加する。表1および表2中の添加量よりも、合金元素添加量が少なくなれば、比抵抗はより向上する。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】表3および表4は、ヒロック密度の結果一覧である。熱処理後の膜試料の25μm×25μmの領域をFE-SEMで観察してヒロックの個数を計上し、それを16倍して、100μm×100μmの領域(10000μm^(2))あたりの個数を算出した。◎印はヒロック密度が16個/10000μm^(2)以下(一視野あたり1個以下)、○印は16?160(一視野あたり1?10個)、△印は160?320(一視野あたり10?20個)、×印は320以上(一視野あたり20個以上)の系である。一般に、合金元素の添加量が低下すると、ヒロック密度は増加する。
【0032】表3および表4から分かるように、第三元素を添加した場合には、ヒロック密度が明らかに低減しており、例えば、1.5at%Ndに対する第三元素を添加した場合には、半分程度以下にヒロック密度が低下している。このような傾向はYなど他の希土類でも同様である。これは、第三元素を複合することによる著しいヒロック低減効果により、実質的には、希土類量を低減しても、耐ヒロック性を維持できることを意味する。」

1j 「【0041】
【発明の効果】本発明によれば、ドライエッチング性に優れたAl合金配線膜およびターゲットを製造することができ、液晶、半導体製造にとって欠くことのできない技術となる。」

3-2.刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「成膜後にドライエッチングによってパターニングを施す膜配線に使用されるAl合金配線およびその製造に使用されるAl合金配線膜形成用ターゲット」(摘示1b)に関するものであって、具体的には、例えば、「0.1?2at%の一種類以上の希土類元素と0.1at%以上のFe,Co,Niの群Bから選ばれる一種類以上の添加元素とを、総量で0.5at%以上、8at%以下含有し、残部実質的にAlよりなる」(摘示1a【請求項2】)ものや、「0.1?2at%の一種類以上の希土類元素と0.1at%以上のZr,Ti,Hf,Nb,Mo,W,Ta,Crの群Cから選ばれる一種類以上の添加元素を、総量で0.5at%以上、7at%以下含有し、残部実質的にAlよりなる」(摘示1a【請求項3】)組成を有するAl合金配線膜形成用ターゲット(摘示1a【請求項7】)などに関して記載するものであり、その配線は「液晶、半導体」(摘示1j)における配線である。
それらのターゲットの具体的な組成が「実施例1」(摘示1i)等に示され、群Bの元素を含むものとして、Ndを1.5at%、Coを3at%、残りをAlとする合金組成(試料No.15)などが、また、群Cの元素を含む組成として、Ndを1.5at%、Hfを3at%、残りをAlとする合金組成試料(No.21)などが記載されている。
また、上記ターゲットは、「溶成法、粉末法などを使用して製造することができる」(摘示1h)とされている。
以上によれば、刊行物1には、例えば、合金組成試料(No.15,21)についての以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「Ndを1.5at%、Co又はHfを3at%、残りをAlとする合金組成を有する、溶成法などを使用して製造するAl合金液晶配線膜形成用ターゲット。」

3-3.本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「液晶配線膜形成用ターゲット」は、「Al合金ターゲットを、スパッタリング」(摘示1h)、具体的には、「DCマグネトロンスパッタリング」という物理蒸着により「基板上に成膜」(摘示1i)するためのものであり、(摘示1c)によると、成膜された膜は「大画面」の液晶用、すなわち平板ディスプレイ用のものであると認められる。
そうすると、引用発明における、「液晶配線膜形成用ターゲット」は、本件補正発明における「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲット」に相当するといえる。
また、引用発明における「Ndを1.5at%、Co又はHfを3at%、残りをAlとする合金組成」と、本件補正発明における「三元合金」とは、引用発明の「Nd」も本件補正発明の「Ce」、「Dy」、「Gd」もいずれも希土類元素に包含される元素番号57-71のランタニド系列の元素であるから、Al-希土類元素-Co又はAl-希土類元素-Hfである点で共通する。
そして、本件補正発明の「原子パーセントで、第1成分が90?99.98、第2成分が0.01?2.0、および第3成分が0.01?8.0」における「第1成分」とは、その量から合金の主成分である「Al」をいうことは明らかであり、第2、3成分は、その記載順からみてそれぞれ、希土類元素、Co又はHfであると認められるから、引用発明の成分割合は本件補正発明の成分割合に包含されると認められる。
また、引用発明も本件補正発明も、三元合金の製造方法は溶成法である点において共通する。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、Al-希土類元素-Hf又はAl-希土類元素-Coである三元合金であって、原子パーセントで、第1成分が90?99.98、第2成分が0.01?2.0、および第3成分が0.01?8.0である三元合金を含み、
前記三元合金が溶成法により製造された、物理蒸着用ターゲット。」
において一致し、以下の相違点A及びBにおいて相違すると認められる。

<相違点A>
Al-希土類元素-Hf又はAl-希土類元素-Coである三元合金の希土類元素について、本件補正発明では、前者の希土類として「Ce」又は「Gd」を、後者の希土類として「Dy」又は「Gd」を選択するのに対して、引用発明は、前後者共に希土類として「Nd」を選択する点。

<相違点B>
三元合金の溶成法が、本件補正発明は、「真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍」する方法であるのに対し、引用発明は、そのような方法であるか明らかではない点。

3-4.相違点についての判断
ア 相違点Aについて
引用発明の三元合金における希土類元素について、刊行物1の摘示1cには、「一般的に合金化は比抵抗の上昇を招くため、比抵抗の上昇を伴わず、耐ヒロック性の向上を図れる添加元素の探索が行われ、様々な元素の添加が検討されている。例えば、…に記載されているAl-Sm、…に記載されているAl-Yなどの例があり、特開平7-45555号に開示されているAl-希土類合金膜なども、比抵抗が小さく、耐ヒロック性に優れた合金であることが知られ、広く用いられている。」と記載され、また、摘示1dには、「従来のAl合金配線は、比抵抗および耐ヒロック性のみに主眼を置いて開発されてきた。例えば、特開平7-45555号等に記載されている希土類添加などがこの例である。」と記載されている。
すなわち、引用発明の三元合金における希土類元素は、比抵抗が小さく、耐ヒロック性に優れたアルミニウム合金配線とするためにアルミニウムに添加された成分であることが認められる。
ここで、希土類を含むアルミニウム合金を配線や電極とする場合の希土類元素についてみてみる。
i)まず、比抵抗が小さく、耐ヒロック性に優れたアルミニウム合金配線とするための希土類元素について、希土類に包含される他の元素と互換して使用し得る例として、例えば刊行物1の三元合金の具体例(摘示1i)において「Nd」に換えて「Dy」が用いられる(試料No.17とNo.63)ことが示されている。
ii)また、特開平7-45555号公報(刊行物1の【0003】で引用されている。以下、「周知例1」という。)の【0016】、【0032】、【図7】、【図8】等には、希土類元素(例えばNd,Gd,Dy)を含む成膜され熱処理されたAl合金薄膜は、いずれの希土類元素であっても比抵抗が小さく耐ヒロック性に優れることが示されている。
iii)さらに、前置報告書において引用された特開2003-103821号公報(以下、「周知例2」という。)の【0030】、【0054】?【0056】、【図4】、【図5】、【0057】、【0058】、【図6】6等には、Alに希土類元素であるNd・Gd・Dyのいずれかを含有させて熱処理したAl合金膜は、いずれの希土類元素であっても高耐ヒロック性、低比抵抗を有することが示されている。
そうすると、上記i)?iii)に示されるように、比抵抗が小さく、耐ヒロック性に優れたアルミニウム合金配線とするための希土類元素は、希土類元素によって作用機能が顕著に異なるものではなく、たとえば「Nd」と「Dy」「Gd」とが互換使用できることは周知技術と言い得る。
以上によれば、引用発明の三元合金において、「Nd」に換えて「Dy」又は「Gd」とし、「Al-Dy-Co」、「Al-Gd-Co」又は「Al-Gd-Hf」とすることは、作用機能が同等の希土類元素を単に置き換えるに過ぎないことであり、引用発明において、上記周知技術(周知例1,2)を勘案することで、相違点Aにかかる本願発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、本件補正発明の特定の三元合金組成を製造したこと(実施例1,2には希土類としてNdが使用されている)も、それらの抵抗等の特性値も示されておらず、特にこれらの特定の三元合金とする点に格別の技術的意義を認めることはできない。

イ 相違点Bについて
引用発明のターゲットを製造する溶成法として、「溶解による製法、圧延、押し出しなどを組み合わせた製法などあらゆる製法が適用できる」(摘示1h)と記載されていることから、引用発明のターゲットは当業者に知られた溶成による製造方法が適用されるものといえる。
ここで、例えば、特開2004-260194号公報(以下、「周知例3」という。)には、低抵抗でヒロックを作りにくいAl配線膜を形成する(【0008】)ための「スパッタターゲット」の製造方法として、「真空溶解法」(【0040】)で溶解し、インゴットに鋳造して(【0041】)、「熱間加工」、「冷間加工」、「再結晶熱処理」を行って「スパッタターゲット」を得る(【0044】)ことが示され、「冷間加工」は、具体的には「冷間圧延」(【0058】)を含むものであり、【0059】には実施例1として「熱処理(573K)」とあり、これは「再結晶熱処理」を「300℃」の温度で行うものといえるから、周知例3には「真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍」することを行う溶成法について示されているといえる。
すると、「真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍」は、アルミ合金ターゲットを製造する方法として当業者に知られていたものであるから、引用発明における溶成法として「真空溶解、熱間圧延、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍」を適用することは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、発明の詳細な説明等を検討しても、本件補正発明の特定の溶成法としたことによる格別の技術的意義は認められない。

3-5.まとめ
そうすると、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、周知例1及び2に示される周知技術、周知例3に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。

4.むすび
本件補正は、上記「2.」に示すとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定を満たすものではないから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に、請求項1についての補正が、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものとしても、上記「3.」に示すとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、いずれにしても本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、その特許請求の範囲は出願当初のものであるところ、その請求項1に係る発明は、上記「第2 1.(本件補正前)」に示したとおりの、
「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、
原子パーセントで、約90?99.98の量の、アルミニウムである第1成分、約0.01?2.0の量の、Nd、Ce、DyおよびGdから成る群から選択された希土類元素である第2成分、および約0.01?8.0の量の、Ni、Co、Mo、ScおよびHfから成る群から選択された第3成分を含む三元合金を包含する物理蒸着用ターゲット。」
である(以下、「本願発明」という。)。

2.原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成24年 7月 9日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
その「理由」のうちの理由3,4は、
「3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものであり、これらの理由3,4には、以下を含む。
「〔理由3、4〕
・請求項1
・引用文献2」
この「請求項1」とは上記「本願発明」であり、また、「引用文献2」とは「2.特開2000-294556号公報」であり、これは上記「第2 3-1.」の項における刊行物1と同じものである(以下、同様に「刊行物1」という。)。

3.当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。

3-1.刊行物1に記載された事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1に記載された事項は上記「第2 3-1.」に記載したとおりであり、刊行物1に記載された発明は上記「第2 3-2.」に記載したとおり(以下、同様に「引用発明」という。)である。

3-2.対比・相違点についての判断
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 3-3.」に記載したとおり、引用発明における、「液晶配線膜形成用」ターゲットは、本願発明における「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲット」に相当するといえる。
また、引用発明の「Ndを1.5at%、Co又はHfを3at%、残りをAlとする合金組成」は、本願発明における「原子パーセントで、約90?99.98の量の、アルミニウムである第1成分、約0.01?2.0の量の、Nd、Ce、DyおよびGdから成る群から選択された希土類元素である第2成分、および約0.01?8.0の量の、Ni、Co、Mo、ScおよびHfから成る群から選択された第3成分を含む三元合金」に包含されることは明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、
原子パーセントで、約90?99.98の量の、アルミニウムである第1成分、約0.01?2.0の量の、Nd、Ce、DyおよびGdから成る群から選択された希土類元素である第2成分、および約0.01?8.0の量の、Ni、Co、Mo、ScおよびHfから成る群から選択された第3成分を含む三元合金を包含する物理蒸着用ターゲット。」
において一致し、相違はない。

3-3.まとめ
以上によれば、本願発明は、その出願前(優先日前)に頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

<付記>
平成25年10月21日付けの審尋に対して平成26年4月22日に提出された回答書において、請求人は下記1の補正案を提示している。
しかし、その補正案は、下記2のとおり、一見して特許可能であることが明白であるものとはいえず、迅速な審理に資するものではないから、考慮することはできない。



1 補正案
「[請求項1]
平板ディスプレイを製造するための物理蒸着用ターゲットにおいて、Al-Ce-Hf、Al-Dy-Co、Al-Gd-Co、Al-Gd-Hfから成る群から選択された三元合金であって、原子パーセントで、Alである第1成分が90?99.98、Ce、DyまたはGdである第2成分が0.01?2.0、およびHfまたはCoである第3成分が0.01?8.0である三元合金を含み、
前記三元合金が真空溶解、鋳造、高温加工、冷間圧延、250?500℃での再結晶焼鈍を施され、前記物理蒸着用ターゲットにより、5μΩcm未満の電気抵抗率を有する薄膜が製造される、物理蒸着用ターゲット。」

[請求項2]ないし[請求項7]は略す。下線は、本件補正発明に対する補正箇所を示し、請求人が付記した。

2 上記請求項1に記載された発明(以下、「補正案発明」という。)は、本件補正発明に「前記物理蒸着用ターゲットにより、5μΩcm未満の電気抵抗率を有する薄膜が製造される」ことを付加する補正を含むものである。
しかし、上記特定の三元合金の抵抗等の特性については、発明の詳細な説明には具体的に何ら示されておらず、これら特定の三元合金によって「5μΩcm未満の電気抵抗率を有する薄膜が製造される」ことは、発明の詳細な説明に記載されているということはできないし、刊行物1の記載に照らせば、この点が技術常識であるともいえない。
よって、補正案発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、補正案の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項に適合するものではない。
 
審理終結日 2014-06-16 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-24 
出願番号 特願2009-504207(P2009-504207)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C23C)
P 1 8・ 57- Z (C23C)
P 1 8・ 575- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩谷 領大  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 中澤 登
吉水 純子
発明の名称 三元アルミニウム合金膜およびターゲット  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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