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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B66B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B66B
管理番号 1293623
審判番号 不服2013-13438  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-12 
確定日 2014-11-05 
事件の表示 特願2007-543676「建物内で人を輸送するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日国際公開、WO2006/058446、平成20年 6月26日国内公表、特表2008-521732〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2005年11月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2004年12月1日 欧州特許庁、2005年8月12日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月31日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成19年7月24日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年11月10日付けで拒絶理由が通知され、平成24年5月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年3月8日付けで拒絶査定がなされ、平成25年7月12日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、さらに、当審において平成25年10月7日付けの書面による審尋に対し、平成26年4月7日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年7月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年7月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成25年7月12日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年5月11日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし15の下記(ア)の記載を、下記(イ)の請求項1ないし11の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「 【請求項1】
少なくとも1つのエレベータのかご(11)を備え、エレベータのかご(11)に少なくとも1つの第1のアクセス階床(S1、S2)で人が乗り込むエレベータ装置(10)を用いて複数階床の建物内で人を輸送するための方法であって、少なくとも1つの行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の行き先呼びに基づいてアクセス階床(S1、S2)に固定的に割り当てられていることを特徴とする、方法。
【請求項2】
1つまたは複数の移動行き先が、指示装置(14)により乗客に事前に指示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
割り当てが、可変であることを特徴とする、請求項1および2の一項に記載の方法。
【請求項4】
到着する人が、アクセスターミナル(13)によって認識されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
アクセスターミナル(13)が、例えばレーダーセンサまたはビデオセンサなどのセンサ(13a)を備えることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
適切な行き先階床を提案することを可能にするために、買い物用手押し車またはスポーツバッグを伴っている乗客の特徴が、センサによって認識されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
エレベータ装置が、到着する人に対してディスプレイでおよび/または音響的に、所定の行き先階床のための1台または複数台のエレベータを、乗客が行き先階床を積極的に入力することなく指示することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
次の移動行き先および任意選択で次の次の移動行き先が、光学的におよび/または音響的にかご内部に指示されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
エレベータの戸が、最初の乗客が乗り込んでからある決められた時間が経過した後にのみ、またはかごが満員になった場合に、自動的に閉じることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エレベータのかごが、どの場合にも少数の異なる移動行き先だけをサービスすることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
特定の行き先階床が、特定の時間にのみ割り当てられることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
特定の行き先階床が、企業、レストラン、レジャー装置、輸送機関、その他など、行き先階床に位置する諸装置が開いておりまたは業務可能な状態にあるときにだけ割り当てられることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)のアクセス階床(S1、S2)への固定された割り当てが、時間に依存する方式で行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのアクセス階床(S1、S2)が設けられ、少なくとも1台のエレベータのかご(11)を備えるエレベータ装置(10)を有する建物内で人を輸送するための構成であって、少なくとも1つの行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の行き先呼びに基づいて固定的にアクセス階床(S1、S2)に割り当てられることを特徴とする、構成。
【請求項15】
行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)のアクセス階床(S1、S2)への割り当てを指示するために設けられた指示装置(14)を特徴とする、請求項14に記載の構成。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし11
「 【請求項1】
少なくとも1つのエレベータのかご(11)を備え、エレベータのかご(11)に少なくとも1つの第1のアクセス階床(S1、S2)で人が乗り込むエレベータ装置(10)を用いて複数階床の建物内で人を輸送するための方法であって、少なくとも1つの行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の行き先呼びに基づいてアクセス階床(S1、S2)に固定的に割り当てられており、到着する人が、アクセスターミナル(13)によって認識され、アクセスターミナル(13)が、レーダーセンサを備えることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
1つまたは複数の移動行き先が、指示装置(14)により乗客に事前に指示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
割り当てが、可変であることを特徴とする、請求項1および2の一項に記載の方法。
【請求項4】
適切な行き先階床を提案することを可能にするために、買い物用手押し車またはスポーツバッグを伴っている乗客の特徴が、センサによって認識されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エレベータ装置が、到着する人に対してディスプレイでおよび/または音響的に、所定の行き先階床のための1台または複数台のエレベータを、乗客が行き先階床を積極的に入力することなく指示することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
次の移動行き先および任意選択で次の次の移動行き先が、光学的におよび/または音響的にかご内部に指示されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エレベータの戸が、最初の乗客が乗り込んでからある決められた時間が経過した後にのみ、またはかごが満員になった場合に、自動的に閉じることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
エレベータのかごが、どの場合にも少数の異なる移動行き先だけをサービスすることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
特定の行き先階床が、特定の時間にのみ割り当てられることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
特定の行き先階床が、企業、レストラン、レジャー装置、輸送機関、その他など、行き先階床に位置する諸装置が開いておりまたは業務可能な状態にあるときにだけ割り当てられることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
行き先階床(S3、S4、S5、S6、S7)のアクセス階床(S1、S2)への固定された割り当てが、時間に依存する方式で行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除するとともに、請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項5を新たな請求項1とし、その発明特定事項である「センサ」に関し、「レーダーセンサ」である旨を限定することを含むものであって、補正前の請求項5に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平9-309672号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エレベーターの群管理制御装置に係り、特に昼食時の食堂階などのような混雑階における輸送能力の向上を図るのに好適なエレベーターの群管理制御装置に関するものである。」(段落【0001】)

(イ)「【0002】
【従来の技術】一般に事務所ビルなどにおいて、出勤時間帯は基準階が混雑する。また昼食時間帯は基準階や食堂階が混雑する。通常、全エレベーターが全階床をサービスするようにしている群管理エレベーターであっても、特に混雑しているような出退勤等の時間帯は複数エレベーターを、高層サービスグループと低層サービスグループなどにグループ分けした分割急行運転を行うことで、集中する交通需要をさばき、輸送能力の向上を図っている。また、ビルによっては出勤時に時差出勤を、昼食時には時差食堂利用を行い、混雑の緩和を図っている。」(段落【0002】)

(ウ)「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を図1?図7を用いて説明する。
【0015】図1は、本発明の全体構成図であり、9階床を3台のエレベーターでサービスする場合である。図1に示す全体構成において、エレベーター機械室にあるエレベーター制御装置50は群管理制御装置501と複数の号機制御装置504(A?C)から構成されている。エレベーターの乗りかご20(A?C)には、かご呼びボタン30(A?C)が設けられており、かご呼びボタン30(A?C)の信号は号機制御装置504(A?C)へ入力される。
【0016】各階のホール、例えば1階?9階にはホール呼びボタン601,…608,609が設けられており、ここでは群管理制御装置501が直接入力しているが、ホールランタン12(A?C),…82(A?C),92(A?C)と同様に号機制御装置504(A?C)を介して群管理制御装置501に対して信号を入出力する構成とすることもできる。また、同一階に車いす専用ホール呼びボタンやVIP専用ホール呼びボタン、地下駐車場専用ホール呼びボタン等を設置する場合もある。
…(中略)…
【0017】図2は、群管理制御装置501の内部の制御処理ソフトのブロック構成を示した図である。
【0018】図2において、群管理制御装置501と号機制御装置504(A?C)は常時群-号機伝送プログラムP01によりデータ伝送を行っており、かご呼び信号,かご位置,戸開閉状態,かご内荷重等の号機状態データが号機制御装置504(A?C)側より群管理制御装置501に送られ、反対に群管理制御装置501側からは、ホール呼び割当データ,分散指令データ,ホールランタン制御信号などを送っている。これらの伝送データは伝送データ用テーブルT01に格納されている。
【0019】ホール呼び登録テーブルT02は、押されたホールボタンに対応した呼種,方向,階床のフラグがセットされる。ホール呼び登録テーブルT02のフラグが立つと、ホール呼び割当プログラムP02によって、各エレベーター毎の到着予測時間などから割当て評価値を計算し、最も評価値の小さなエレベーターにホール呼びを割当てる。また、ホール呼びを割当てたエレベーターがホール呼びの発生階にサービスできるかどうかをサービス階テーブルT03からデータを読み出してチェックし、サービス不可能な階であれば、そのエレベーターを割当て可能エレベーターから除外して再度割当て処理をやり直す。サービス可能な階であればホール呼び割当てテーブルT04にデータをセットする。そのホール呼び割当て信号は伝送データ用テーブルT01に展開され、群-号機伝送プログラムP01により号機制御装置504(A?C)に伝送され、エレベーターはホール呼び発生階に向けて運転する。
【0020】また、号機状態テーブルT05にはかご呼び信号,かご内荷重信号等が格納されており、このデータから現状交通流判定プログラムP04にてエレベーターの利用状態を分析して現在の交通流(出勤,退勤,昼食前半,昼食後半,平常等)を判定し、現状交通流テーブルT08に格納する。また、日々のエレベーターの利用状況を交通需要学習プログラムP03により学習し、ビル内交通流データテーブルT06に格納する。さらに、交通需要学習プログラムP03では、「1階から乗って5階で降りた人数」などの階床間別交通需要を学習し、階床間別交通需要テーブルT07に格納する。
【0021】SCT1は実際のエレベーター稼働状況データをもとに分割急行案を求める分割計画部である。
【0022】サービスグループ分割計画プログラムP05では階床間別交通需要テーブルT07より利用の多い階床間の交通需要を検出し、このデータを元にサービス階分割の案をいくつか計画し、サービスグループ分割計画テーブルT09に格納する。サービスグループ分割案は専門技術者の持つ経験をプログラム化したエキスパートシステムにて求めても良いし、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いてシミュレーションを繰り返すことにより最適分割案を求めても良い。
【0023】サービスグループ分割計画テーブルT09に格納されたサービスグループ分割計画案はシミュレーションプログラムP06にてシミュレーションし、現状のサービス性能とシミュレーション結果を比較し、シミュレーション結果のほうが良ければ、サービスグループ分割許可テーブルT10に許可信号をセットする。
【0024】SCT2は分割計画部SCT1で計画した分割急行案をもとに、エレベーターのサービス階を変更し、また、共通サービス階へエレベーターを呼び寄せる制御を行う分割実行部である。」(段落【0014】ないし【0024】)

(エ)「【0044】通常、共通サービス階として設定する階は混雑階であり、エレベーター運行状態を統計的に分析すると、混雑時間帯の混雑階のホール呼びボタンはほとんど登録状態が続いており、2台のエレベーターを呼び寄せても無駄となることは少ない。さらに、本実施例では、日々の交通需要を交通流モード(出勤,昼食,平常等)毎に学習し、その交通需要を下にさまざまな急行運転方法をシミュレーションし、その結果が急行運転を採用する以前(全台全階サービス)のサービス性能より向上する場合のみ急行運転を実施する構成としているので、無駄運転となることはなく、混雑する共通サービス階の交通需要を効果的にさばくことができる。
【0045】図6は本発明を適用できるいくつかの分割急行運転時のサービス階の例を示した図である。
【0046】図6-1は全台全階床運転の場合であり、全てのエレベーターが全階をサービスする運転で、通常の群管理エレベーターはこの方式で運転している。
【0047】図6-2は2分割急行運転の例であり、No.1とNo.2号機は1階と高層の5,6,7階をサービスし、No.3,No.4号機は低層の1?4階をサービスする。共通サービス階は1階である。この2分割急行運転方式は、出勤時のロビー階など、特定階の利用が多く、一般階間の利用が少ない場合に採用される。
【0048】図6-3は特定階の直行運転の例であり、No.4号機が直行エレベーターであり1,6,7階間を直行運転し、No.1?3号機は全階床サービスする。この直行運転方式は、レストラン階や、大会議室がある階など、特定階間の交通需要が多くなる場合に有効な急行運転方式である。この例では、共通サービス階は1階とするほか、レストラン階や、大会議室がある階などを加えることもできる。なお、直行エレベーターはNo.4号機に固定とは限らず、利用者の利用状況により、No.3号機が直行エレベーターになったり、No.3,4号機の2台が直行エレベーターになる場合もある。
【0049】図6-4は方向別直行運転の例であり、No.4号機が直行エレベーターで、UP走行中は1,6,7階をサービスするが、DOWN走行中は全階床サービスする。この方向別直行運転の場合も、急行エレベーターは固定とは限らず、利用状況により変化する。この急行運転方式も図6-3の直行運転方式と同じく、特定階間の交通需要が多い場合に有効な方式である。
【0050】図6-5はスキップ運転の例であり、No.1,2号機が奇数階を、No.3,4号機が偶数階をサービスする。スキップ運転方式は交通需要に対してエレベーター台数が不足している場合に有効であり、行きたい階に直接行けないケース(階段を利用しなければならない)が発生して利用者は多少不便になるが、輸送能力を向上できる効果がある。
【0051】図6-6は全台分割急行運転の例であり、共通サービス階には全台のエレベーターがサービスするが、その他の階はいずれか1台のエレベーターしかサービスしない例である。この全台分割急行運転方式は、特定階のみが非常に混雑し、一般階間の利用がほとんどない場合に有効な急行運転方式である。
【0052】また、図6に示すいずれの急行運転方式にも共通する、共通サービス階が最下階の1階であるが、混雑する階であれば、いずれの階に設定してもよいことは言うまでもない。」(段落【0044】ないし【0052】)

(オ)「【0057】本実施例では2分割急行の場合と直行運転の場合の2例を示して説明したが、分割グループ数を3分割以上にしてもよいし、直行エレベーターを2台以上設定してもよいことはいうまでもない。また、エレベーターのサービスグループはエレベーター毎に固定ではなく、エレベーターの利用状況や交通需要により、フレキシブルに切り替わることも言うまでもない。
【0058】このように、本発明の実施例によれば、交通需要の変化や偏りに対して、これらの需要を効率的にさばくサービスグループに分割して運転する際のそれぞれのサービスグループの共通サービス階において、利用者にとって不便でなく、特別な操作を必要とせずにそれぞれのサービスグループのエレベーターを呼び寄せることが可能となる。」(段落【0057】及び【0058】)

(カ)「【0059】
【発明の効果】本発明によれば、複数のエレベーターが共通にサービスする共通サービス階での利用者に対するサービスの向上を図ることの可能なエレベーターの群管理制御装置を提供することができる。
【0060】また、本発明の望ましい一実施態様によれば、交通需要が大きい状況(昼食時など特に利用者の多い時間帯)において、一般階のサービスを低下させることなく混雑階の需要を効果的にさばくことのできるエレベーターの群管理制御装置を提供することができる。」(段落【0059】及び【0060】)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(カ)並びに図1、図2及び図6の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)ないし(カ)並びに図1、図2及び図6の記載から、引用文献には、複数の乗りかご20を備え、複数階床の建物内で利用者が乗り込むエレベーターを群管理制御する方法が記載されているということができる。

(ク)上記(ウ)及び図2には、日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要を検出し、このデータを元にサービス分割の案を計画する旨が記載されており、例えば、上記(1)(エ)及び図6-3には、No.4号機を直交エレベーターとし、1階を共通サービス階に、6及び7階を直交運転の特定階とすることが記載されているから、上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図2及び図6の記載から、引用文献に記載された複数の乗りかご20を備え、複数階床の建物内で利用者が乗り込むエレベーターを群管理制御する方法は、日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要に対して、特定階が共通サービス階に固定的に割り当てられることが分かる。

(ケ)上記(1)(ウ)及び図1の記載から、引用文献に記載された複数の乗りかご20を備え、複数階床の建物内で利用者が乗り込むエレベーターを群管理制御する方法は、ホール呼びボタン601,…608,609により利用者を認識するものであることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)、(2)並びに図1、図2及び図6の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「複数の乗りかご20を備え、複数階床の建物内で利用者が乗り込むエレベーターを群管理制御する方法であって、日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要に対して、特定階が共通サービス階に固定的に割り当てられており、ホール呼びボタン601,…608,609により利用者を認識する方法。」

2.-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「乗りかご20」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「エレベータのかご」に相当し、同様に、引用発明における「複数の乗りかご20」は、本願補正発明における「少なくとも1つのエレベータのかご」に相当する。
また、本願補正発明における「第1のアクセス階床」及び「アクセス階床」は、本願の明細書の段落【0011】、【0014】及び【0033】の記載から、混雑時に多くの乗客が乗り込む階床であると認められるところ、引用文献の記載(上記2.-1の(1)(エ)の段落【0044】)からみて、引用発明における「共通サービス階」は、本願補正発明における「少なくとも1つの第1のアクセス階床」及び「アクセス階床」に相当する。
そして、引用発明は、エレベーターの混雑時間帯に混雑階から利用者が乗り込むこと、及び利用者を輸送することを前提としている(上記2.-1の(1)(エ)の段落【0044】)から、引用発明における「複数階床の建物内で利用者が乗り込むエレベーターを群管理制御する方法」は、本願補正発明における「エレベータのかごに少なくとも1つの第1のアクセス階床で人が乗り込むエレベータ装置を用いて複数階床の建物内で人を輸送するための方法」に相当する。
さらに、引用発明における「特定階」は、その機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「行き先階床」に相当する。
そして、「少なくとも1つの行き先階床が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の利用実績に基づいてアクセス階床に固定的に割り当て」られるという限りにおいて、引用発明において「日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要に対して、特定階が共通サービス階に固定的に割り当てられる」ことは、本願補正発明において「少なくとも1つの行き先階床が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の行き先呼びに基づいてアクセス階床に固定的に割り当てられ」ることに相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「 少なくとも1つのエレベータのかごを備え、エレベータのかごに少なくとも1つの第1のアクセス階床で人が乗り込むエレベータ装置を用いて複数階床の建物内で人を輸送するための方法であって、少なくとも1つの行き先階床が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の利用実績に基づいてアクセス階床に固定的に割り当てられる方法。」
である点で一致し、次の点において相違する。

〈相違点〉
(a)「少なくとも1つの行き先階床が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の利用実績に基づいてアクセス階床に固定的に割り当て」られることに関し、本願補正発明においては「少なくとも1つの行き先階床が、複数の人からのアクセス階床から少なくとも1つの行き先階床への複数の以前の行き先呼びに基づいてアクセス階床に固定的に割り当てられ」るのに対し、引用発明においては「日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要に対して、特定階が共通サービス階に固定的に割り当てられる」点(以下、「相違点1」という。)。
(b)本願補正発明においては、「到着する人が、アクセスターミナルによって認識され、アクセスターミナルが、レーダーセンサを備える」のに対し、引用発明においては、ホール呼びボタン601,…608,609により利用者を認識する点(以下、「相違点2」という。)。

2.-3 判断
まず、相違点1について検討する。
エレベータ装置の制御方法において、エレベータの利用者の混雑緩和のために、行き先呼びを用いることは、例を挙げるまでもなく周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。
そして、エレベータの利用者の混雑緩和を目的とする(上記2.-1(1)(イ)参照)引用発明において周知技術1を採用し、その際、「日々のエレベータの利用状況」として行き先呼びを用いることは、ごく普通に考えられることである。
したがって、引用発明において日々のエレベーターの利用状況を学習することにより、利用の多い階床間の交通需要に対して、特定階が共通サービス階に固定的に割り当てていたものを、周知技術の行き先呼びを用い、複数の以前の行き先呼びに基づいて行うようにすることにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、相違点2について検討する。
エレベータ装置の制御方法において、エレベータの利用者をレーダーセンサで認識することも、周知の技術(特開平6-329344号公報の段落【0007】等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
そして、引用発明において、ホール呼びボタン601,…608,609の代わりに周知技術2を適用して、レーダーセンサでエレベータの利用者を認識することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。

さらに、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成25年7月12日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成24年5月11日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに平成19年7月24日提出の明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】)のとおりのものである。

2.引用文献
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平9-309672号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-1ないし2.-3に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-09 
結審通知日 2014-06-10 
審決日 2014-06-23 
出願番号 特願2007-543676(P2007-543676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B66B)
P 1 8・ 575- Z (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤村 聖子  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 中村 達之
槙原 進
発明の名称 建物内で人を輸送するための方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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