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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1293628
審判番号 不服2013-15850  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-16 
確定日 2014-11-05 
事件の表示 特願2009- 20921「発光素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月12日出願公開、特開2010-177586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成21年1月30日の出願であって、平成24年12月3日付けで拒絶理由通知がなされ、平成25年2月6日付けで手続補正がなされ、同年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成25年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成25年8月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正の内容

平成25年8月16日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の請求項1ないし6(平成25年2月6日付け手続補正後のもの)として、

(1)「【請求項1】
屈折率が1.7以上である透明導電体層を少なくとも有する発光素子であって、
前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、
隣接する凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下であり、かつ凹部深さが60nm以上350nm以下であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
隣接する凹部の中心間の最短距離が250nm以上800nm以下であり、かつ凹部深さが150nm以上250nm以下である請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
基板と、該基板上に少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層とをこの順に有する請求項1から2のいずれかに記載の発光素子。
【請求項4】
基板が、サファイアである請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
発光素子の透明導電体層表面にヒートモードの形状変化が可能な有機層を形成し、該有機層に集光した光を照射して複数の穴部を形成する穴部形成工程と、
穴部を形成した該有機層をマスクとしてエッチングを行い穴部に対応した凹部を形成する凹部形成工程とにより形成された凹部の深さ方向の底部の断面が丸底である請求項1から4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の発光素子を製造する方法であって、
発光素子の透明導電体層表面にヒートモードの形状変化が可能な有機層を形成し、該有機層に集光した光を照射して複数の穴部を形成する穴部形成工程と、
穴部を形成した該有機層をマスクとしてエッチングを行い穴部に対応した凹部を形成する凹部形成工程と、
を含むことを特徴とする発光素子の製造方法。」

とあったものを、

(2)「【請求項1】
基板と、少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層と、をこの順に少なくとも有する発光素子であって、
前記透明導電体層の屈折率が1.7以上であり、
前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、
隣接する前記凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下であり、かつ前記凹部深さが60nm以上350nm以下であり、
前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
隣接する凹部の中心間の最短距離が250nm以上800nm以下であり、かつ凹部深さが150nm以上250nm以下である請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
基板が、サファイアである請求項1から2のいずれかに記載の発光素子。 【請求項4】
発光素子の透明導電体層表面にヒートモードの形状変化が可能な有機層を形成し、該有機層に集光した光を照射して複数の穴部を形成する穴部形成工程と、
穴部を形成した該有機層をマスクとしてエッチングを行い穴部に対応した凹部を形成する凹部形成工程とにより形成された凹部の深さ方向の底部の断面が丸底である請求項1から3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の発光素子を製造する方法であって、
発光素子の透明導電体層表面にヒートモードの形状変化が可能な有機層を形成し、該有機層に集光した光を照射して複数の穴部を形成する穴部形成工程と、
穴部を形成した該有機層をマスクとしてエッチングを行い穴部に対応した凹部を形成する凹部形成工程と、
を含むことを特徴とする発光素子の製造方法。」(下線は、請求人が補正箇所に付加したものである。)

と補正するものである。

2 補正の目的

本件補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項3を独立請求項として新たな請求項1にするとともに、「前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されていること」を限定する補正を含むものである。
なお、補正後の請求項1では、補正前の請求項3の「基板と、該基板上に少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層とをこの順に有する」との記載から「該基板上に」が削除されているが、補正後の請求項1の「基板と、少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層と、をこの順に少なくとも有する」との発明特定事項によれば、「基板上に」「少なくとも1層の無機半導体層」と「透明導電体層」が有ることは明らかであるから、上記「該基板上に」の削除は実質的な補正ではない。
よって、上記の補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、及び同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1) 本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、上記1(2)において補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2) 引用文献の記載

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-244425号公報(以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(下線は当審で付した。)。

ア 「【請求項1】
複数のGaN系半導体層からなる半導体積層体を有し、該半導体積層体には、p型層と、該p型層の一方の面側に配置された発光層と、該p型層とで該発光層を挟むように配置されたn型層とが含まれており、該p型層の他方の面上に透光性を有する導電性酸化物膜が形成され、該導電性酸化物膜上に正パッド電極が形成されているGaN系LED素子において、
前記導電性酸化物膜は、第1導電膜と、該第1導電膜と電気的に接続された第2導電膜とを含み、
前記導電性酸化物膜の前記p型層と接する部分は、前記第1導電膜の一部である第1コンタクト部と、前記第2導電膜の一部である第2コンタクト部と、からなっており、
前記正パッド電極の少なくとも一部は、前記第2コンタクト部の上に形成されており、
前記導電性酸化物膜から前記p型層に流れる電流は、主として前記第1コンタクト部を通して前記p型層に流れることを特徴とする、GaN系LED素子。」

イ 「【請求項10】
前記導電性酸化物膜の表面の、前記正パッド電極に覆われていない領域に、人為的に形成された凹凸を有する、請求項1?4のいずれかに記載のGaN系LED素子。」

ウ 「【0009】
図1に示すGaN系LED素子100は、図1(b)に断面図を示すように、基板101と、その上に形成された複数のGaN系半導体層からなる半導体積層体102とを有している。半導体積層体102には、基板101側から順に、n型層102-1と、発光層102-2と、p型層102-3とが含まれている。部分的に露出したn型層102-1の表面には、オーミック電極であり、かつパッド電極を兼用する、負電極103が形成されている。p型層102-3上には、透光性を有する導電性酸化物膜104が形成され、該導電性酸化物膜上には正パッド電極105が形成されている。導電性酸化物膜104は、第1の導電性酸化物膜(「第1導電膜」)104-1と、第2の導電性酸化物膜(「第2導電膜」)104-2とから構成されている。第1導電膜104-1は、p型層102-3の表面を略全面的に覆うように形成されており、その上から第2導電膜104-2が形成されている。正パッド電極105は第2導電膜104-2の表面上に形成されている。正パッド電極105の直下において、第1導電膜104-1の一部が円形状に除去されており、その部分では、第2導電膜104-2がp型層102-3の表面に接している。図1(a)では、この第1導電膜104-1が部分的に除去された領域を破線で示している(破線で囲まれた領域が、第1導電膜104-1が除去された領域である)。従って、導電性酸化物膜104は、p型層102-3と接する部分に、第1導電膜104-1の一部である部分(「第1コンタクト部」)104Aと、第2導電膜104-2の一部である部分(「第2コンタクト部」)104Bとを有しているということができる。正パッド電極105は、その中央部を含む、面積にして50%以上の部分が、第2コンタクト部104Bの上に形成されている。
【0010】
GaN系LED素子100においては、第1導電膜104-1と正パッド電極105とが、第2導電膜104-2を介して、電気的に接続されている。導電性酸化物膜104のp型層102-3との接触抵抗は、第1コンタクト部104Aにおいて第2コンタクト部104Bよりも低くされており、そのために、正パッド電極105から導電性酸化物膜104を介してp型層102-3に供給される電流は、主として第1コンタクト部104Aを通してp型層102-3に流れる。好ましくは、第1導電膜104-1とp型層102-3との接触をオーミック性とする一方、第2導電膜104-2とp型層102-3との接触を非オーミック性として、導電性酸化物膜104からp型層102-3に流れる電流の殆どが、第1コンタクト部104Aを通してp型層102-3に流れるようにする。」

エ 「【0022】
GaN系LED素子100の光取出し効率を改善するために、図5に示すように、導電性酸化物膜104の表面の、正パッド電極105に覆われていない領域に、人為的に凹凸を形成してもよい。ここで、人為的に形成する凹凸とは、加工技術を用いて形成する凹凸のことであり、ITO膜などで見られる、多結晶質の薄膜の表面に自発的に形成される凹凸とは区別される。導電性酸化物膜104の表面には、人為的に形成する凹凸と、自発的に形成される凹凸とが、両方存在していてもよい。
【0023】
導電性酸化物膜104の表面に人為的に形成する凹凸のパターンとしては、ドット状の凸部(突起)が分散したパターン、ドット状の凹部(窪み)が分散したパターン、ストライプ状の凹部(溝)とストライプ状の凸部(リッジ)とが交互に並んだパターンなどが、好ましく例示される。発光層102-2から放出される光がこの凹凸によって乱反射されるように、凹凸における凹部と凸部の高低差は、導電性酸化物膜104中におけるこの光の波長と同程度、または、それよりも大きくする。例えば、発光層102-2から放出される光の、空気中での波長が400nmで、導電性酸化物膜104の屈折率が約1.8である場合、導電性酸化物膜の内部における上記光の波長は約220nmとなるので、凹部と凸部の高低差は、その半分である110nmよりも大きくする。また、隣り合う凸部間の間隔または隣り合う凹部間の間隔は、例えば、0.1μm?20μmとすることができる。」

オ 図1及び図5は、次のものである。



(3) 引用発明

ア 上記(2)アの記載によれば、引用文献には、
「複数のGaN系半導体層からなる半導体積層体を有し、該半導体積層体には、p型層と、該p型層の一方の面側に配置された発光層と、該p型層とで該発光層を挟むように配置されたn型層とが含まれており、該p型層の他方の面上に透光性を有する導電性酸化物膜が形成され、該導電性酸化物膜上に正パッド電極が形成されているGaN系LED素子において、
前記導電性酸化物膜は、第1導電膜と、該第1導電膜と電気的に接続された第2導電膜とを含み、
前記導電性酸化物膜の前記p型層と接する部分は、前記第1導電膜の一部である第1コンタクト部と、前記第2導電膜の一部である第2コンタクト部と、からなっており、
前記正パッド電極の少なくとも一部は、前記第2コンタクト部の上に形成されており、
前記導電性酸化物膜から前記p型層に流れる電流は、主として前記第1コンタクト部を通して前記p型層に流れる、GaN系LED素子。」が記載されている。

イ 上記(2)イの記載によれば、「前記導電性酸化物膜の表面の、前記正パッド電極に覆われていない領域に、人為的に形成された凹凸を有する」。

ウ 上記(2)エの記載によれば、「導電性酸化物膜104の表面に人為的に形成する凹凸のパターン」は、「発光層102-2から放出される光」を「乱反射」させて「光取出し効率を改善するため」のものである。

エ 上記(2)エの記載によれば、「導電性酸化物膜104の表面に人為的に形成する凹凸のパターン」は「ドット状の凹部(窪み)が分散したパターン」である。

オ 上記(2)エの記載によれば、「導電性酸化物膜104の屈折率が約1.8である」。

カ 上記(2)エの記載によれば、「凹凸における凹部と凸部の高低差」は「110nmよりも大きい」。

キ 上記(2)エの記載によれば、「隣り合う凸部間の間隔または隣り合う凹部間の間隔は、例えば、0.1μm?20μmとする」。

ク 上記(2)ウの記載と図1によれば、図1に示される「GaN系LED素子100」は、「基板101」を有し、「半導体積層体102」は「基板101」の上に形成され、「透光性を有する導電性酸化物膜104」は「半導体積層体102」が含む「p型層102-3の表面に接」するように形成されており、「正パッド電極105」からの電流は、「第2導電膜104-2を介して、電気的に接続されている」「第1導電膜104-1」に流れ、「主として」「第1導電膜104-1の一部である」「第1コンタクト部104Aを通して」「半導体積層体102」が含む「p型層102-3に流れる」ものであることが記載されている。
上記(2)エの「図5に示すように、導電性酸化物膜104の表面の、正パッド電極105に覆われていない領域に、人為的に凹凸を形成してもよい。」との記載や、図1と図5とに「凹凸」の有無以外に差異がないことから、図1と図5は、「凹凸」の有無が相違するものの、その他の構造や、「正パッド電極105」から「p型層102-3」への電流経路は同様と認められる。
そうすると、図5に示される「GaN系LED素子100」も、「基板101」を有し、「半導体積層体102」は「基板101」の上に形成され、「透光性を有する導電性酸化物膜104」は「半導体積層体102」が含む「p型層102-3の表面に接」するように形成されており、「正パッド電極105」から供給される電流は、「第2導電膜104-2を介して、電気的に接続されている」「第1導電膜104-1」に流れ、「主として」「第1導電膜104-1の一部である」「第1コンタクト部104Aを通して」「半導体積層体102」が含む「p型層102-3に流れる」ものであると認められる。

ケ してみると、引用文献には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「複数のGaN系半導体層からなる半導体積層体を有し、該半導体積層体には、p型層と、該p型層の一方の面側に配置された発光層と、該p型層とで該発光層を挟むように配置されたn型層とが含まれており、該p型層の他方の面上に透光性を有する導電性酸化物膜が形成され、該導電性酸化物膜上に正パッド電極が形成されているGaN系LED素子において、
前記導電性酸化物膜は、第1導電膜と、該第1導電膜と電気的に接続された第2導電膜とを含み、
前記導電性酸化物膜の前記p型層と接する部分は、前記第1導電膜の一部である第1コンタクト部と、前記第2導電膜の一部である第2コンタクト部と、からなっており、
前記正パッド電極の少なくとも一部は、前記第2コンタクト部の上に形成されており、
前記導電性酸化物膜から前記p型層に流れる電流は、主として前記第1コンタクト部を通して前記p型層に流れ、
前記導電性酸化物膜の表面の、前記正パッド電極に覆われていない領域に、人為的に形成された、発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための凹凸を有し、
前記凹凸は、ドット状の凹部(窪み)が分散したパターンであり、
前記導電性酸化物膜の屈折率が約1.8であり、
前記凹凸における凹部と凸部の高低差は、110nmよりも大きく、
隣り合う凸部間の間隔または隣り合う凹部間の間隔は、0.1μm?20μmとされ、
基板を有し、前記半導体積層体は前記基板の上に形成され、前記透光性を有する導電性酸化物膜は前記半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成されており、
前記正パッド電極から供給される電流は、前記第2導電膜を介して、電気的に接続されている前記第1導電膜に流れ、主として前記第1導電膜の一部である前記第1コンタクト部を通して前記半導体積層体が含む前記p型層に流れる、
GaN系LED素子。」(以下「引用発明」という。)

(4) 対比

本願補正発明と、引用発明を対比する。

ア 引用発明の「GaN系LED素子」は、本願補正発明の「発光素子」に相当する。

イ 本願補正発明の「基板と、少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層と、をこの順に少なくとも有する」ことと、引用発明の「前記導電性酸化物膜は、第1導電膜と、該第1導電膜と電気的に接続された第2導電膜とを含み、・・・基板を有し、前記半導体積層体は前記基板の上に形成され、前記透光性を有する導電性酸化物膜は前記半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成されており、前記正パッド電極から供給される電流は、前記第2導電膜を介して、電気的に接続されている前記第1導電膜に流れ、主として前記第1導電膜の一部である前記第1コンタクト部を通して前記半導体積層体が含む前記p型層に流れる」ことを対比する。

(ア) 引用発明の「基板」、「半導体積層体」は、それぞれ本願補正発明の「基板」、「少なくとも1層の無機半導体層」に相当する。

(イ) 本願補正発明の「透明導電体層」の技術的意義は、本願明細書の「【0014】前記透明導電体層の屈折率は、1.7以上であり、1.75?4が好ましく、1.8?3がより好ましい。前記屈折率が、1.7未満であると、発光体との屈折率差が大きく、発光体から透明導電体層界面での全反射量が大きくなり、透明導電体層への光の伝播が小さくなり、その結果、透明導電体層での光取出し効果が小さくなることがある。」との記載によれば、発光体からの光を伝播させることである。「透明導電体層」が「導電体」であることの技術的意義については発明の詳細な説明には明確な記載はないが、一般的にこのような「透明導電体層」は、電極から供給される電流を、発光面全体に流れるように拡げて半導体層に注入する役割を果たすものであると認められる。
一方、引用文献の「第1導電膜」と「第2導電膜」はいずれも半導体積層体102からの光を伝播して外部に出射させるものであり、正パッド電極から供給される電流は、「第2導電膜」と「第1導電膜」を介して半導体積層体102に注入されるものであるから、引用発明の「第1導電膜」と「第2導電膜」は一体として本願発明の「透明導電体層」に相当する。
そうすると、引用発明の、「基板」と、「基板の上に形成され」た「半導体積層体」、「半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成され」た「第1導電膜と、該第1導電膜と電気的に接続された第2導電膜とを含」む「透光性を有する導電性酸化物膜」を有することは、本願補正発明の「基板と、少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層と、をこの順に少なくとも有する」ことに相当する。

(ウ) してみると、両者は相当関係にある。

ウ 本願補正発明の「前記透明導電体層の屈折率が1.7以上であ」ることと、引用発明の「前記導電性酸化物膜の屈折率が約1.8であ」ることを対比する。

引用発明の「導電性酸化物膜」は、本願補正発明の「透明導電体層」に相当するから、引用発明の「前記導電性酸化物膜の屈折率が約1.8であ」ることは、本願補正発明の「前記透明導電体層の屈折率が1.7以上であ」ることに相当する。

してみると、両者は「前記透明導電体層の屈折率」が1.8の点で一致する。

エ 本願補正発明の「前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してな」ることと、引用発明の「前記導電性酸化物膜の表面の、前記正パッド電極に覆われていない領域に、人為的に形成された、発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための凹凸を有し、前記凹凸は、ドット状の凹部(窪み)が分散したパターンであ」ることを対比する。

引用発明の「導電性酸化物膜の表面・・・に形成された凹凸」は、本願補正発明の「透明導電体層表面に・・・形成された凹凸部」に相当する。引用発明の「ドット状の凹部(窪み)が分散したパターン」は、本願補正発明の「該表面を基準として複数の凹部が配列されたこと」に相当する。

してみると、両者は相当関係にある。

オ 本願補正発明の「前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されていること」と、引用発明の「前記透光性を有する導電性酸化物膜は前記半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成されて」いることを対比する。

引用発明の「導電性酸化物膜」、「半導体積層体」は、本願補正発明の「透明導電体層」、「無機半導体層」に相当する。そうすると、引用発明の「導電性酸化物膜」が「半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成されて」いることは、本願補正発明の「前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されていること」に相当する。

してみると、両者は相当関係にある。

カ 以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、

「基板と、少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層と、をこの順に少なくとも有する発光素子であって、
前記透明導電体層の屈折率が1.8であり、
前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、
前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されている、
発光素子。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願補正発明の「凹凸部」は、「隣接する前記凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下」とされているのに対し、引用発明の「発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための凹凸」は、「隣り合う凸部間の間隔または隣り合う凹部間の間隔」が「0.1μm?20μmとされ」ている点。

相違点2:本願補正発明の「凹凸部」は、「前記凹部深さが60nm以上350nm以下」とされているのに対し、引用発明の「発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための凹凸」は、「前記凹凸における凹部と凸部の高低差」が「110nmよりも大きく」されている点。

(5) 判断

以下、相違点1?2について検討する。

ア 相違点1について

本願補正発明の「隣接する前記凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下」とすることの技術上の意義は、発明の詳細な説明の
「【0011】
隣接する凹部同士の中心間の最短距離(ピッチ)は、100nm以上1,200nm以下であり、250μm?800μmが好ましい。前記ピッチが、100nm未満であると、光の波長よりかなり小さいため、回折・散乱が生じず取り出し効率向上効果が小さくなることがあり、1,200nmを超えると、波長よりかなり大きく、回折角度が小さいため、光取出し効率向上効果が小さくなることがある。」
との記載を参酌すると、光取出し効率向上効果が得られる回折・散乱が生じるようにすることにあると認められる。
一方、引用発明の「凹凸」は「発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための」ものである。
したがって、引用発明の「凹凸」は、本願補正発明の「隣接する前記凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下」とされた「凹凸部」と同様の技術的意義を有するものである。
そして、引用発明の「0.1μm?20μm」との数値範囲は、本願補正発明の「100nm以上1,200nm以下」との数値範囲と重複する範囲を含んでいる。
そうすると、引用発明において、隣り合う凹部間の間隔として、本願補正発明の数値範囲内のものを設定し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

イ 相違点2について

本願補正発明の「前記凹部深さが60nm以上350nm以下」とすることの技術上の意義は、発明の詳細な説明の
「【0012】
前記凹部深さは、60nm以上350nm以下であり、150nm?250nmが好ましい。前記凹部深さが、60nm未満であると、凹部とその周囲との光路長差が波長より著しく小さく、回折・散乱などが生じにくく、光取出し効果が少なくなることがあり、350nmを超えると、形成が困難となることがある。」
との記載を参酌すると、光取出し効果が得られる回折・散乱が生じるようにし、且つ、形成が困難とならない範囲の深さとすることにあると認められる。
一方、引用発明の「凹凸」は「発光層から放出される光を乱反射させて光取出し効率を改善するための」ものである。
したがって、引用発明の「凹凸」は、光取出し効果が得られる回折・散乱が生じるようにする点において、本願補正発明の「前記凹部深さが60nm以上350nm以下」とされた「凹凸部」と同様の技術的意義を有するものである。また、凹部深さが深くなりすぎると形成が困難になることがあることは当業者に自明のことにすぎない。
そして、引用発明の「110nmよりも大き」いとの数値範囲は、本願補正発明の「60nm以上350nm以下」との数値範囲と重複する範囲を含んでいる。
そうすると、引用発明において、凹部と凸部の高低差として、本願補正発明の数値範囲内のものを設定し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

ウ 請求人の主張について

請求人は、審判請求書において「刊行物1は、第2の導電性酸化物膜104-2の領域において、p型層102-3に直接接して、凹凸部を形成することを開示していません。一方、本願発明は、凹凸部を有する透明導電体層が無機半導体層上に直接形成されていることが必須です。」と主張するが、上記(4)イのとおり、引用発明の「第1導電膜」(「第1の導電性酸化物膜104-1」)と「第2導電膜」(「第2の導電性酸化物膜104-2」)とが一体となった「透光性を有する導電性酸化物膜」が、本願補正発明の「透明導電体層」に相当するものであり、引用発明の「導電性酸化物膜」は、上記(4)エのとおり、「凹凸」(「凹凸部」)を有し、上記(4)オのとおり、「半導体積層体が含む前記p型層の表面に接するように形成されて」いる(「無機半導体層上に直接形成されている」)ものであるから、当該主張は採用できない。

エ 小括

以上の検討によれば、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願について

1 本願発明

平成25年8月16日付けの手続補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年2月6日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明は次のとおりのものである。

「屈折率が1.7以上である透明導電体層を少なくとも有する発光素子であって、
前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、
隣接する凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下であり、かつ凹部深さが60nm以上350nm以下であ」り、
「基板と、該基板上に少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層とをこの順に有する・・・発光素子。」(以下「本願発明」という。)

2 引用文献の記載

上記第2、3(2)のとおりである。

3 引用発明

上記第2、3(3)のとおりである。

4 対比

本願発明は、上記第2、3で検討した本願補正発明の「前記透明導電体層が前記無機半導体層上に直接形成されている」との発明特定事項を削除したものに相当する。そうすると、本願発明と引用発明との対比は、上記第2、3(4)アないしエでの検討と同様である。

したがって、本願発明と引用発明とは、

「屈折率が1.8である透明導電体層を少なくとも有する発光素子であって、
前記透明導電体層表面に、該表面を基準として複数の凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、
基板と、該基板上に少なくとも1層の無機半導体層と、透明導電体層とをこの順に有する・・・発光素子。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「隣接する前記凹部の中心間の最短距離が100nm以上1,200nm以下であ」るのに対し、引用発明は、「隣り合う凸部間の間隔または隣り合う凹部間の間隔は、0.1μm?20μmとされ」ている点。

相違点2:本願発明は、「前記凹部深さが60nm以上350nm以下であ」るのに対し、引用発明は、「前記凹凸における凹部と凸部の高低差は、110nmよりも大き」い点。

5 判断

(1) 相違点1について

上記第2、3(5)アでの検討と同様である。

(2) 相違点2について

上記第2、3(5)イでの検討と同様である。

6 むすび

以上の検討によれば、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-12 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-24 
出願番号 特願2009-20921(P2009-20921)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 服部 秀男
鈴木 肇
発明の名称 発光素子及びその製造方法  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  

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