• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1293633
審判番号 不服2013-19976  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-15 
確定日 2014-11-04 
事件の表示 特願2009-520695「補聴器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日国際公開、WO2008/010716、平成21年12月17日国内公表、特表2009-545201〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月21日、2007年1月25日、オランダ王国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成24年6月20日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで手続補正されたが、平成25年6月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月15日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年10月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年12月26日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された

「【請求項1】
ユーザの耳の外側に装着されるよう適合されたデバイス・ハウジングを含むビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分と、
開口部を含み、ユーザの耳内に完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー(ITE)部分と、
少なくとも電源、マイク、スピーカ、およびマイクを介して受信した音を再生処理しスピーカを介して再生し、さらにユーザの聴覚器官へ音を発音することを目的とするプロセシング・デバイスと、
を備える補聴器であって、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分とは物理的に分離しており、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分とは、少なくとも作動中に前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分との間に電気的結合を形成する電気ケーブルを介して相互に接続され、
前記スピーカと前記マイクとは前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分に収容され、
前記電気ケーブルは前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記マイクとが完全に耳内に受容可能となる長さを備え、
前記プロセシング・デバイスは前記音を少なくとも部分的に処理された状態で再生するプログラマブル・デジタル音声処理プロセッサであり、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分は耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンからなる外側ケーシングであるケース内に収容されていることを特徴とする、補聴器。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「【請求項1】
ユーザの耳の外側に装着されるよう適合されたデバイス・ハウジングを含むビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分と、
開口部を含み、ユーザの耳内に完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー(ITE)部分と、
少なくとも電源、マイク、スピーカに接続され、前記マイクを介して受信した音を再生処理し前記スピーカを介して音を再生し、ユーザの聴覚器官へ発音処理するプロセシング・デバイスと、を備える補聴器であって、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分に前記スピーカと前記マイクとが収容され、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分とは物理的に分離しており、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分とは、少なくとも作動中に前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分との間に電気的結合を形成する電気ケーブルを介して相互に接続され、
前記電気ケーブルは前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記マイクとが完全に耳内に受容可能となる長さを備え、
前記プロセシング・デバイスは前記音を少なくとも部分的に処理された状態で再生するプログラマブル・デジタル音声処理プロセッサであり、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分は音響的に全周に亘って少なくとも実用的にシールしながらユーザの聴道の壁に当接可能に適応した分離外側ケーシング内に収容され、
前記分離外側ケーシングは、耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンを外周に有し、
前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分が取り外し可能に前記分離外側ケーシング内に収容されてなり、
前記電気ケーブルによる接続の少なくとも一端がコネクタからなり、前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分および前記イン・ザ・イヤー部分(ITE)の少なくとも一つへ着脱可能な接続とされていることを特徴とする、補聴器。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「プロセシング・デバイス」に関し、「スピーカに接続され、前記マイクを介して受信した音を再生処理し前記スピーカを介して音を再生し、ユーザの聴覚器官へ発音処理する」と記載して不明りょうな記載を明りょうにし、また、「イン・ザ・イヤー(ITE)部分」に関し、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分に前記スピーカと前記マイクとが収容され」と限定し、加えて、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分は音響的に全周に亘って少なくとも実用的にシールしながらユーザの聴道の壁に当接可能に適応した分離外側ケーシング内に収容され、前記分離外側ケーシングは、耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンを外周に有し、前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分が取り外し可能に前記分離外側ケーシング内に収容されてなり」と限定し、また、「電気ケーブル」に関し、「前記電気ケーブルによる接続の少なくとも一端がコネクタからなり、前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分および前記イン・ザ・イヤー部分(ITE)の少なくとも一つへ着脱可能な接続とされている」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第3項に適合するとともに、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするもの、及び同第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明
A 原審の拒絶の理由に引用された特開昭60-232800号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「本発明は、特に耳掛け式の補聴器において、
増幅器を有する第1ユニットと、
電気-音響変換器を有して耳内に装着する第2ユニットと、
前記電気-音響変換器を前記増幅器に電気的に接続する電気的接続部材と、および
管状素子を有し、この管状素子の一端を前記2個のユニットのうちの一方のユニットに連結し、かつ前記電気的接続部材を収容して前記2個のユニットを機械的に連結する機械的接続部材とを具える補聴器に関するものである。」(2頁右上欄19行?同頁左下欄9行)

ロ.「第1図に本願発明による耳掛け式補聴器の実施例を示し、耳の後側に装着すべき第1ユニット1とこの実施例においては、耳内に装着すべき第2ユニット2とを具える。第1図には第1ユニット1の一部断面とする側面図を示す。この第1ユニットはバナナのような形状をしており、フック3を有し、このフック3により第1ユニット1を耳の後に引掛ける。第1ユニット1はプリント回路基板5に設けた増幅器4(略図的に示す)と、マイクロホン6、バッテリ7および空間8を有する。電線9によりマイクロホン6をプリント回路基板(以下「P.C.基板」と略称する)5に電気的に接続し、このP.C.基板5の増幅器4の入力側に接続する。この第1ユニットには、更に音量調整つまみ10とオン/オフスイッチ11を設ける。第2ユニット2(側面を示す)には、拡声器(またはイヤホン)としての電気-音響変換器を設ける。このイヤホン12を略図的に示す。イヤホン12の部分13はイヤホンから出た音の出口開口をなす。第2ユニット2は、補聴器を着ける人の耳殻の形状に適合するイヤピース(図示せず)または標準のイヤホンピースに組み込まなければならない。
更に、増幅器4の出力をイヤホン12に電気的に接続する電気的接続部材14と第1ユニット1および第2ユニット2を相互に機械的に連結する機械的接続部材15とを設ける。機械的接続部材15(縦断面を示す)は管状素子として構成し、この管状素子15内に電気的接続部材14を配設する。」(4頁左下欄10行?同頁右下欄17行)

ハ.「本発明は、図示の実施例に限定するものではなく、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。例えば、
a) 電気的接続部材の過剰長さ部分を吸収する空間を第2ユニットに形成する。
b) 第2ユニットにマイクロホンを収納する(この場合電気的接続部材はマイクロホンと増幅器の入力との間の電気的接続を行う)。
c) 第2ユニットに拡声器およびマイクロホンを収納する(この場合、電気的接続部材の2個の接続即ち増幅器と拡声器との接続および増幅器とマイクロホンとの接続を行う)。」(6頁左下欄7?18行)

上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.における「第1図に本願発明による耳掛け式補聴器の実施例を示し、耳の後側に装着すべき第1ユニット1とこの実施例においては、耳内に装着すべき第2ユニット2とを具える。」との記載、及び第1図によれば、補聴器は、耳の後側に装着すべき第1ユニット(1)と、耳内に装着すべき第2ユニット(2)とを備えている。ここで、前述の第2ユニット(2)と前述の第1ユニット(1)とは物理的に分離していることが見て取れる。
また、上記ロ.における「第2ユニット2(側面を示す)には、拡声器(またはイヤホン)としての電気-音響変換器を設ける。このイヤホン12を略図的に示す。イヤホン12の部分13はイヤホンから出た音の出口開口をなす。」との記載、及び第1図によれば、前述の第2ユニット(2)は、イヤホン(12)の部分(13)からなる音の出口開口を含んでいる。
また、上記ロ.における「第1ユニット1はプリント回路基板5に設けた増幅器4(略図的に示す)と、マイクロホン6、バッテリ7および空間8を有する。」との記載、同ロ.における「第2ユニット2(側面を示す)には、拡声器(またはイヤホン)としての電気-音響変換器を設ける。」との記載、及び第1図によれば、補聴器は、バッテリ(7)、マイクロホン(6)、拡声器、増幅器(4)を備えている。ここで、上記ハ.における「第2ユニットに拡声器およびマイクロホンを収納する」との記載によれば、補聴器は、前述の第2ユニット(2)に前述の拡声器と前述のマイクロホン(6)とが収納されている。また、同ハ.における「この場合、電気的接続部材の2個の接続即ち増幅器と拡声器との接続および増幅器とマイクロホンとの接続を行う電気的接続部材の2個の接続即ち増幅器と拡声器との接続および増幅器とマイクロホンとの接続を行う」との記載によれば、前述の増幅器(4)は、マイクロホン(6)及び拡声器に接続されている。また、前述の増幅器(4)が、バッテリ(7)に接続されていることは技術常識である。
また、上記ロ.における「増幅器4の出力をイヤホン12に電気的に接続する電気的接続部材14と第1ユニット1および第2ユニット2を相互に機械的に連結する機械的接続部材15とを設ける。」との記載、及び第1図によれば、前述の第2ユニット(2)と前述の第1ユニット(1)とは、前述の第2ユニット(2)と前述の第1ユニット(1)との間に電気的接続をする電気的接続部材(14)を介して相互に接続されている。ここで、前述の電気的接続部材(14)は、少なくとも補聴器の作動中に前記第2ユニット(2)と前記第1ユニット(1)との間に電気的結合を形成することは明らかである。

したがって、上記引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「耳の後側に装着すべき第1ユニット(1)と、
出口開口を含み、耳内に装着すべき第2ユニット(2)と、
バッテリ(7)、マイクロホン(6)、拡声器に接続される増幅器(4)と、を備える補聴器であって、
前記第2ユニット(2)に前記拡声器と前記マイクロホン(6)とが収納され、
前記第2ユニット(2)と前記第1ユニット(1)とは物理的に分離しており、
前記第2ユニット(2)と前記第1ユニット(1)とは、少なくとも作動中に前記第2ユニット(2)と前記第1ユニット(1)との間に電気的結合を形成する電気的接続部材(14)を介して相互に接続されている、補聴器。」

B 原審の拒絶の理由に引用された特表平11-511301号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ニ.「技術分野
本発明は補聴器に関し、特に耳殻の内部または耳殻に装着するイヤピース・ハウジングと、ユーザが装着するか、ユーザの近傍に配置され、ワイヤレス方式でイヤピースからの信号を受信し、また信号をイヤピースに送信する遠隔プロセッサ装置(RPU)とを有する補聴器に関する。本発明は補聴器を、両耳での補聴器機能、聴力テスト装置、紛失した補聴器システムの部品およびワイヤレスの蝸牛殻埋め込み素子の発見と共に、ワイヤレス通信装置として、手を使わないセル形電話および移動無線通信“ハンドセット”、人目につかない補聴器の動作と制御、聴覚保護およびノイズ消去、に利用することにも向けられている。」(11頁3?11行)

ホ.「本明細書に記載する本発明の好適な1実施例は図1に構成図の形式で示されている。この図では、耳11に装着された状態で示された公知のイヤピース10はこの分野では公知である標準形の完全に耳殻内装着形(CIC)ハウジングを使用しているが、この分野では公知である多くの他の種類のイヤピース・ハウジング(例えば耳の背後装着形、すなわちBTE)を使用することもできる。図1に示したイヤピースはマイクロフォン12と、イヤピース抜き取り器14としての機能にも兼用のアンテナを有するRF送受器13と、スピーカ15とを備えている。図1に示したアンテナ/抜き取り器兼用の構成が好ましい場合が多いが、特定の用途に適する多くの異なる種類のイヤピース抜き取り器を伴った別個のアンテナ(単数または複数)を使用することも可能である。アンテナと抜き取り器とは耳元の毛髪、または宝石(例えばイヤリング)に偽装することがで、またはイヤピースと同様のプロセスを使用して導電性フィラメントをアンテナとして機能するように耳殼の軟骨組織内に永久的に埋め込むことも可能である。イヤピース10は2方向主RFリンク17を介して遠隔プロセッサ装置(RPU)と通信するが、その代わりに多くの他のワイヤレス・リンク媒体(例えば超音波または赤外線)を使用してもよい。RPUは一般に衣装の下(例えばポケットまたはポシェット内)に装着されるが、希望ならばはっきりと見えるように(例えばベルトの上)に装着してもよい。RPU16は、副ワイヤレス・リンクを介したRPUとその他の情報源(例えば一般的な加入者電話回線網)との間のワイヤレス通信を可能にするオプションの副ワイヤレス・リンク回路19に(有線またはワイヤレス手段18を介して)接続してもよい。オプションの副ワイヤレス・リンク回路19は図7のRPUケース70内に内蔵してもよく、そうしなくてもよい。」(15頁10行?16頁3行)

ヘ.「システムの通常動作の詳細:ワイヤレス遠隔プロセッサを搭載した補聴器の通常動作中、周囲環境からの音響はイヤピース10内のマイクロフォン12によってピックアップされ、(例えばA/D変換器865によって得られ、イヤピースのASIC845の制御の下で返答データ・レジスタ825を介して多くの連続する返答の補助ビット内に送信されるデータのような)その他の情報とともに2方向主ワイヤレス・リンク17を経てRPU16に送信される。このRPUで音声信号はユーザのニーズに従ってRPUのDSP948によって増強される。信号の増強は汎用のRPU DSP948の能力を有する多くの公知の技術のいずれかを介して達成される。増強された音声信号は(例えばDSP948内で生成される、前述のイヤピースのバッテリ電圧が低いことを警告する合成音声のような)その他の情報と複合され、RPU16から主ワイヤレス・リンク17を経てイヤピース10に伝送され、そこでスピーカ15によってユーザ11だけに聞こえる音声に変換される。(例えばユーザ以外の人々がユーザのシステムのオプションのセル形電話機能を使用したい場合のように)所望ならば、ユーザ以外の人々がイヤピースのスピーカ15によって生成されたものと同じ音声を聞くことができるようにする周辺装置9として、補助スピーカをRPU16に搭載することもできる。(図9のRPUの一部として補助ワイヤレス・リンク回路944として示され、または配線、または例えば赤外線のようなワイヤレス・リンク18によってRPUに接続されている、図1のオプションの副ワイヤレス・リンク回路19として示されているような)異なる、オプションの2方向副ワイヤレス・リンクを使用して、RPUとセル形電話機システム、またはその他の情報源と通信することができる。密かなデータ入力に適したRPUのキーボードまたは(例えば汎用RPU DSP948を使用した多数の公知の技術のいずれかを使用して実施された)RPU内の音声認識機能を利用して、(例えばRPU DSP948によって設定される増幅レベルのような)補聴器パラメタおよび、(例えばRPU DSP948内に記憶された情報を用いた所定の電話番号の自動ダイアルのような)電話ダイアル機能を、所望ならば不特定の傍観者には気づかれないように制御することが可能である。」(48頁9行?49頁8行)

また、原審の拒絶の理由に引用された特開2004-229181号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ト.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耳への密閉感やこもり感をなくして快適な装用感を実現する耳あな形補聴器に関する。」(2頁)

チ.「【0007】
本発明に係る耳あな形補聴器は、図1に示すように、耳あな形補聴器本体1をカバー部材2によって被覆してなる。耳あな形補聴器本体1は、図2示すよように、中空のシェル部材3とパネル部材4とからケース体5を形成している。カバー部材2は外耳道入口の形状に適合するように形成され、シェル部材3の周囲を覆っている。
【0008】
シェル部材3は中空の紡錘形の一端を切除した形状を有し、シェル部材3の外形は平均的な外耳道の内径よりも十分に小さく形成されている。また、シェル部材3の先端には放音口(不図示)を備える。
【0009】
パネル部材4は、シェル部材3の開放端を塞ぎ、シェル部材3とパネル部材4とで形成されるケース体5内部には外部音を検出して電気信号に変換するマイクロホン6、DSP(digital signal processor)からなる補聴処理部7、補聴処理部7の出力を電気音響変換するイヤホン8、バッテリィ9及び外部通信用コネクタ10が配置されている。」(2?3頁)

上記引用例2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヘ.における「このRPUで音声信号はユーザのニーズに従ってRPUのDSP948によって増強される。信号の増強は汎用のRPU DSP948の能力を有する多くの公知の技術のいずれかを介して達成される。増強された音声信号は(例えばDSP948内で生成される」との記載、及び上記引用例2の図9によれば、音声信号処理において、DSP(digital signal processor)を用いている。また、上記引用例3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記チ.の【0009】における「外部音を検出して電気信号に変換するマイクロホン6、DSP(digital signal processor)からなる補聴処理部7、補聴処理部7の出力を電気音響変換するイヤホン8」との記載、及び上記引用例3の図2によれば、音声信号処理において、DSP(digital signal processor)を用いている。

したがって、上記引用例2及び引用例3には、以下の発明(以下、「周知技術1」という。)が記載されているものと認められる。

「補聴器の音声信号処理において、DSP(digital signal processor)を用いること。」

C 原審の拒絶の理由に引用された実願平5-55734号(実開平7-20800号)のCD-ROM(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

リ.「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、難聴者やバードウオッチングなどをする観察者などが、耳に掛けて外部からの音声を聴くために使用される、小形耳掛け式集音器に関するものである。」(5頁)

ヌ.「【0009】
10は、図3に示す回路図の如く、貫通孔9から伝播してきた外部の音声を受信するマイクロホンMP、電池ホルダ6に収納されて筐体1内に装備された、回路を駆動する電池11、マイクロホンMPからの音声電流を増幅するICからなる増幅回路素子AE、筐体1の側部12中央附近に調整板13の一部が突出しているボリュームURなどからなる音声変換回路を筐体1に内蔵した集音器本体である。
【0010】
14は、筐体1の長手方向の天部8に連設された、合成ゴムなどの弾力性を有する材料からなる、中空円管状の耳掛け、15は、集音器本体10の音声変換回路に内端を接続され、耳掛け14の中空部を挿通されて外部に引出された外端に、イヤホン16に連結するプラグ17を接続されたイヤホンコードである。
【0011】
イヤホン16は、スピーカ18の一面に、プラグ17を差込み固定するピン穴19を設けられたジャック20を取着し、反対面にイヤホンチップ21を嵌着するイヤホン突起22を設けられた耳栓部23を取着している。イヤホン突起22にイヤホンチップ21を嵌着して耳栓部23を耳栓として使用する。」(6?7頁)

上記引用例4の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ヌ.の【0010】における「15は、集音器本体10の音声変換回路に内端を接続され、耳掛け14の中空部を挿通されて外部に引出された外端に、イヤホン16に連結するプラグ17を接続されたイヤホンコードである。」との記載、同ヌ.の【0011】における「イヤホン16は、スピーカ18の一面に、プラグ17を差込み固定するピン穴19を設けられたジャック20を取着し」との記載、図1及び図4によれば、イヤホンコード(15)について、イヤホンコード(15)による接続の一端がプラグ(17)からなり、イヤホン(16)へ着脱可能な接続としている。

したがって、上記引用例4には、以下の発明(以下、「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。

「補聴器において、イヤホンコード(15)による接続の一端がプラグ(17)からなり、イヤホン(16)へ着脱可能な接続とすること。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「耳の後側に装着すべき第1ユニット(1)」は、上記引用例1の図1によれば、デバイス・ハウジングを有することが見て取れ、「耳の後側」が、ユーザの耳の外側といえるから、「ユーザの耳の外側に装着されるよう適合されたデバイス・ハウジングを含むビハインド・ザ・イヤー部分」ということができる。
b.引用発明の「出口開口を含み、耳内に装着すべき第2ユニット(2)」と、補正後の発明の「開口部を含み、ユーザの耳内に完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー(ITE)部分」は、引用発明の「出口開口」が、「開口部」といえ、後述する相違点を除いて、いずれも、「開口部を含み、ユーザの耳内に適合された特定の装着部分」という点で一致する。
c.引用発明の「バッテリ(7)」、「マイクロホン(6)」及び「拡声器」は、補正後の発明の「電源」、「マイク」及び「スピーカ」にそれぞれ相当する。
d.引用発明の「増幅器(4)」と、補正後の発明の「プロセシング・デバイス」とは、いずれも、「特定のデバイス」という点で一致する。
e.引用発明の「電気的接続部材(14)」は、上記引用例1の図1によれば、絶縁被覆で覆われた電線が見て取れるから、「電気ケーブル」ということができる。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「ユーザの耳の外側に装着されるよう適合されたデバイス・ハウジングを含むビハインド・ザ・イヤー部分と、
開口部を含み、ユーザの耳内に適合された特定の装着部分と、
少なくとも電源、マイク、スピーカに接続される特定のデバイスと、を備える補聴器であって、
前記特定の装着部分に前記スピーカと前記マイクとが収容され、
前記特定の装着部分と前記ビハインド・ザ・イヤー部分とは物理的に分離しており、
前記特定の装着部分と前記ビハインド・ザ・イヤー部分とは、少なくとも作動中に前記特定の装着部分と前記ビハインド・ザ・イヤー部分との間に電気的結合を形成する電気ケーブルを介して相互に接続されている、補聴器。」

(相違点1)
「特定の装着部分」に関し、
補正後の発明は、ユーザの耳内に「完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー(ITE)部分」であるのに対し、引用発明は、耳内に「装着すべき第2ユニット(2)」である点。

(相違点2)
「特定のデバイス」に関し、
補正後の発明は、「前記マイクを介して受信した音を再生処理し前記スピーカを介して音を再生し、ユーザの聴覚器官へ発音処理するプロセシング・デバイス」であるのに対し、引用発明は、「増幅器(4)」である点。

(相違点3)
「電気ケーブル」に関し、
補正後の発明は、「前記電気ケーブルは前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記マイクとが完全に耳内に受容可能となる長さを備え」るのに対し、引用発明は、その様な特定がない点。

(相違点4)
上記相違点2における「プロセシング・デバイス」に関し、
補正後の発明は、「前記プロセシング・デバイスは前記音を少なくとも部分的に処理された状態で再生するプログラマブル・デジタル音声処理プロセッサである」のに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点5)
上記相違点1における「イン・ザ・イヤー(ITE)部分」に関し、
補正後の発明は、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分は音響的に全周に亘って少なくとも実用的にシールしながらユーザの聴道の壁に当接可能に適応した分離外側ケーシング内に収容され」ているのに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点6)
上記相違点5における「分離外側ケーシング」に関し、
補正後の発明は、「前記分離外側ケーシングは、耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンを外周に有し」ているのに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点7)
上記相違点5における「イン・ザ・イヤー(ITE)部分」及び「分離外側ケーシング」との態様に関し、
補正後の発明は、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分が取り外し可能に前記分離外側ケーシング内に収容されてなる」のに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

(相違点8)
「電気ケーブル」に関し、
補正後の発明は、「前記電気ケーブルによる接続の少なくとも一端がコネクタからなり、前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分および前記イン・ザ・イヤー部分(ITE)の少なくとも一つへ着脱可能な接続とされている」のに対し、引用発明は、その様な構成でない点。

そこで、まず、上記相違点1及び3について検討する。
補聴器において、ユーザの耳内に完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー部分を用いることは、上記引用例2の上記ホ.における「この分野では公知である標準形の完全に耳殻内装着形(CIC)ハウジングを使用している」との記載、及び図1、さらに、例えば、特表2001-512943号公報(図20)に開示されているように周知技術(以下、「周知技術2」という。)である。
そうすると、上記周知技術2に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術2を採用して、補正後の発明のように、ユーザの耳内に「完全に受容されるように適合されたイン・ザ・イヤー(ITE)部分」とすること(相違点1)に格別な困難性はない。その際、引用発明の「電気的接続部材(14)」(電気ケーブル)について、補正後の発明のように「前記電気ケーブルは前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分と前記マイクとが完全に耳内に受容可能となる長さを備え」ること(相違点3)は自然である。

次に、上記相違点2及び4について検討する。
上記周知技術1は、「補聴器の音声信号処理において、DSP(digital signal processor)を用いること。」である。そして、プロセシング・デバイスの一種であるDSP(digital signal processor)は、補聴器の音声信号処理をする以上、マイクを介して受信した音を再生処理しスピーカを介して音を再生し、ユーザの聴覚器官へ発音処理するものである。
そうすると、上記周知技術1に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術1を採用して、補正後の発明のように、「前記マイクを介して受信した音を再生処理し前記スピーカを介して音を再生し、ユーザの聴覚器官へ発音処理するプロセシング・デバイス」を備えること(相違点2)は容易になし得ることである。その際、DSP(digital signal processor)において、フィルター処理等を加えることは普通のことであるから、「前記プロセシング・デバイスは前記音を少なくとも部分的に処理された状態で再生するプログラマブル・デジタル音声処理プロセッサである」こと(相違点4)は格別なことではない。

次に、上記相違点5、6及び7について検討する。
補聴器において、イン・ザ・イヤー部分を音響的に全周に亘って少なくともシールしながらユーザの聴道の壁に当接可能に適応した分離外側ケーシング内に収容されること、前記分離外側ケーシングは、耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンを外周に有すること、及び前記イン・ザ・イヤー部分が取り外し可能に前記分離外側ケーシング内に収容されていることは、例えば、前述の特表2001-512943号公報(段落【0020】、【0029】、【0046】、【0047】、図3、図12?14)、特表2000-506697号公報(5頁19行?7頁15行、図1、2)に開示されているように周知技術(以下、「周知技術3」という。)である。
そうすると、上記周知技術3に接した当業者であれば、引用発明に上記周知技術3を採用して、補正後の発明のように、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分は音響的に全周に亘って少なくとも実用的にシールしながらユーザの聴道の壁に当接可能に適応した分離外側ケーシング内に収容され」ること(相違点5)、また、「前記分離外側ケーシングは、耳の聴道の内壁に弾力的に当接する少なくとも1つの柔軟なフィンを外周に有し」ていること(相違点6)、また、「前記イン・ザ・イヤー(ITE)部分が取り外し可能に前記分離外側ケーシング内に収容されてなる」こと(相違点7)に格別な困難性はない。

次に、上記相違点8について検討する。
上記技術事項1は、「補聴器において、イヤホンコード(15)による接続の一端がプラグ(17)からなり、イヤホン(16)へ着脱可能な接続とすること。」である。すなわち、イヤホンコード(15)(電気ケーブル)を、イヤホン(16)(イン・ザ・イヤー部分)に対して着脱可能にする技術思想が開示されている。
そうすると、上記技術事項1に接した当業者であれば、引用発明に上記技術事項1を採用して、補正後の発明のように、「前記電気ケーブルによる接続の少なくとも一端がコネクタからなり、前記ビハインド・ザ・イヤー(BTE)部分および前記イン・ザ・イヤー部分(ITE)の少なくとも一つへ着脱可能な接続とする」ことは容易になし得ることである。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明、技術事項1及び周知技術1ないし3から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明、技術事項1及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年10月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明、技術事項1及び周知技術1ないし3に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用発明、技術事項1及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-06-05 
結審通知日 2014-06-06 
審決日 2014-06-19 
出願番号 特願2009-520695(P2009-520695)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04R)
P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 雅博  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 井上 信一
萩原 義則
発明の名称 補聴器  
代理人 大西 正悟  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ