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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1293960
審判番号 不服2013-12107  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2014-11-12 
事件の表示 特願2010-178010「無線ネットワークハイブリッドポジショニングのための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開、特開2011- 19252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年6月27日、米国)に国際出願した特願2006-517781号の一部を平成22年8月6日に新たな特許出願としたものであって、平成22年9月3日付けで手続補正がなされ、平成24年7月20日付けの拒絶理由の通知に対し、平成25年1月24日付けで手続補正がなされ、同年2月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月26日に審判請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成25年6月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
移動局を動作させる方法であって、
前記移動局で、無線ローカルエリアネットワークの、双方向通信をサポートする第一無線アクセスポイントから伝送された1以上の第一信号を受け取ることと、なお、前記移動局は、前記無線ローカルエリアネットワークとの双方向通信について権限を与えられていない;
前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報を決定することと;
前記移動局と、携帯電話無線ネットワークの第二無線アクセスポイントと、の間で1以上の第二信号を伝達授受することと;
前記携帯電話無線ネットワークの前記第二無線アクセスポイントを介して前記移動局のポジションを決定するために、前記移動局とサーバとの間で通信することと、なお、前記ポジションは、前記ポジション情報に少なくとも部分的に基づいて決定される;
を含む方法。」


3.引用文献
原査定で引用された、本願の優先権主張日前に公開された特開2003-47045号公報(以下、「引用文献1」という)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。)。

ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動通信端末の位置を測定するための測位方法、測位システム、測位装置、プログラム、記録媒体及び移動通信端末に関する。 」

イ.「【0022】B:構成
次に、実施形態の構成について説明する。
(1)システムの全体構成
図3は、実施形態に係るシステムの全体構成を示すブロック図である。図3に示すように、このシステムは、移動局10、PDC網20、PHS網30、測位サーバ40、インターネット50及びパーソナルコンピュータ60(以下の説明と図面においてはPC60と略称する)を備えている。
【0023】移動局10は、図示せぬユーザによって所持され、このユーザの位置を把握するために利用される。この移動局10は、PDC網20の基地局21との間で無線通信を行うことによりPDC網20が提供する通話サービスやデータ通信サービスを受けるほか、PHS網30の基地局31から送信される報知信号を受信することが可能となっている。
【0024】PDC網20は、移動局10のユーザに対して通話サービスやデータ通信サービスを提供するための通信網であり、基地局21のほか、図示せぬ交換局や通信線等によって構成されている。移動局10のユーザは、PDC網20が提供する上記サービスを受けるために、PDC網20を管理するPDC通信事業者との間で通信サービス契約を予め締結している。PDC通信事業者は、締結した通信サービス契約の内容に従って、毎月一定額の基本料金や通信量に応じた通信料金を上記ユーザに課金するようになっている。このような課金のための仕組みは、周知技術であるため、本実施形態では詳細な説明を省略する。さて、基地局21は、図3には1つしか示していないが、実際にはPDC網のサービスエリア全域にわたって数キロメートル程度の間隔で多数設置されており、自局が管轄する無線ゾーンに在圏する移動局10と双方向無線通信を行う。また、基地局21は、自局の無線ゾーン内に対し、自局に割り当てられた基地局識別情報を含む報知信号を常時送信しており、移動局10はこの基地局21から送信された報知信号を間欠的に受信するようになっている。この報知信号は、基地局21と移動局10との間で制御情報をやりとりするための制御チャネルを用いて送信される。
【0025】次に、PHS網30は、基地局31のほか、図示せぬ交換局や通信線によって構成されている。このPHS網30は、本来は、図示せぬPHS端末に対して通話サービスやデータ通信サービスを提供するための通信網であるが、本実施形態では、特に移動局10に対して報知信号を送信するための通信網として機能する。基地局31は、PDC網20の基地局21と同様に、図3には1つしか示していないが、実際にはPHS網30のサービスエリア全域にわたって数百メートル程度の間隔で多数設置されている。この基地局31は、自局が管轄する無線ゾーン内に対し、自局の識別情報を含む報知信号を常時送信しており、移動局10はこの報知信号を間欠的に受信するようになっている。この報知信号は、基地局31と移動局10との間で制御情報をやりとりするための制御チャネルを用いて送受信される。
【0026】ここで、移動局10は制御チャネルを用いて基地局識別情報を受信するため、通話チャネルを用いた通話やデータ通信とは異なり、移動局10のユーザに対して通信料金が課金されない。従って、移動局10のユーザは、PHS網30を管理するPHS通信事業者との間で、PHS網30が提供するサービスを受けるための通信サービス契約を締結する必要もなく、通信量に応じた通信料金はもとより、毎月一定額の基本料金を支払う必要もない。即ち、移動局10は、いわゆるハンドオーバ処理等のために基地局31から図示せぬPHS端末宛に送信されている基地局識別情報を、自局の位置情報を算出するために、PHS通信事業者によって課金されることなく利用することができるのである。」

ウ.「【0028】(2)移動局10の構成
次に、移動局10の構成について説明する。図4は、移動局10の構成を示すブロック図である。図4に示すように、移動局10は、制御部11、PDC送受信部12、PHS受信部13、音声CODEC14、マイクロホン15、スピーカ16、表示部17及び操作部18を備えている。
【0029】制御部11は、図示せぬCPU(Central Processing Unit)や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の各種メモリを備えており、移動局10の各部を制御する。
【0030】PDC送受信部12は、アンテナ121と、このアンテナ121を介してPDC網20の基地局21との間で無線信号の送受信を行う通信制御回路122と、受信した無線信号の受信電界強度を測定する電界強度測定回路123とを備えており、基地局21との間で各種の情報信号や制御信号の送受信を行う。通信制御回路122は、PDC基地局21から発信される報知信号をアンテナ121を介して間欠的に受信するようになっている。この際、電界強度検出回路123は、受信した信号の受信電界強度を計測する。この計測の結果、受信電界強度が強い順から所定数の報知信号に含まれていた基地局識別情報と、これらの報知信号の受信電界強度の値とが得られ、これらは制御部11に供給されてメモリに記憶される。
【0031】PHS受信部13は、アンテナ131と、このアンテナ131を介してPHS網30の基地局31から送信される報知信号を受信する通信制御回路132と、受信した無線信号の受信電界強度を測定する電界強度測定回路133とを備えている。通信制御回路132は、PHS基地局31から発信される報知信号をアンテナ131を介して間欠的に受信するようになっている。この際、電界強度検出回路133は、受信した信号の受信電界強度を計測する。この計測の結果、受信電界強度が強い順から所定数の報知信号に含まれていた基地局識別情報と、これらの報知信号の受信電界強度の値とが得られ、これらは制御部11に供給されてメモリに記憶される。従って、移動局10がPHS網30のサービスエリア内に存在している場合には、PHS基地局31及びPDC基地局21の双方に対応した基地局識別情報及び受信電界強度値が制御部11のメモリに記憶されることになるが、移動局10がPHS網30のサービスエリア外であってPDC網20のサービスエリア内に存在している場合には、PDC基地局21のみに対応した基地局識別情報及び受信電界強度値が制御部11のメモリに記憶されることになる。そして、制御部11は、測位サーバ40からの要求に応じて、メモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、これらをPDC送受信部12を介して測位サーバ40に送信するようになっている。 」

エ.「【0035】C:実施形態の動作
次に、上記構成からなる実施形態の動作について説明する。図7は、実施形態におけるシステム全体の動作例を示したシーケンス図である。この図7において、まず、PC60の操作者は、PC60の図示せぬキーボード等を操作することによって、位置検出の対象となる移動局10を指定し、その移動局10の位置情報を要求する。ここで、操作者が位置検出の対象となる移動局10を指定するためには、その移動局10の電話番号を入力すればよい。PC60は上記操作を受け付けると(ステップS1)、インターネット50を介して測位サーバ40に位置情報要求信号を送信する(ステップS2)。この位置情報要求信号には、上記操作者によってPC60に入力された、位置検出対象の移動局10の電話番号が含まれている。
【0036】測位サーバ40は、位置情報要求信号を受信すると、受信した位置情報要求信号に含まれている電話番号を抽出する(ステップS3)。次いで測位サーバ40は、抽出した電話番号を用いて位置検出対象の移動局10を発呼する(ステップS4)。これに応じて、PDC網20の基地局21から発呼信号が無線送信され、移動局10はこの発呼信号を受信する。
【0037】移動局10は、測位サーバ40からの発呼信号を受信すると、制御部11内のメモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し(ステップS5)、これらを測位サーバ40に送信する(ステップS6)。
【0038】一方、測位サーバ40は、移動局10から送信された基地局識別情報及び受信電界強度値を受信すると、測位プログラム44bを実行し、受信した基地局識別情報及び受信電界強度値に基づいて移動局10の位置を算出する(ステップS7)。具体的には、測位サーバ40のCPU41は、図8に示すフローを実行することによって移動局10の位置を算出することになる。図8において、まず、測位サーバ40のCPU41は、移動局10から受信したデータの中にPHS基地局31を示す基地局識別情報が含まれているか否かを判断する(ステップS11)。ここで、PHS基地局31の基地局識別情報が含まれていれば(ステップS11;Yes)、CPU41は、PHS基地局31の基地局識別情報と、対応する受信電界強度値と、ハードディスク装置44に記憶されている基地局関連情報とに基づいて演算を行い、移動局10が存在する確率分布を算出し、その確率分布が閾値以上の確率分布エリアを移動局10の位置として(ステップS12)、これを出力する(ステップS15)。
【0039】一方、移動局10から受信したデータの中にPHS基地局31の基地局識別情報が含まれていない場合(即ち、PDC基地局21の基地局識別情報しか含まれていない場合)には(ステップS11;No)、CPU41は、報知信号に含まれているPDC基地局21の基地局識別情報と、ハードディスク装置44に記憶されている基地局関連情報とを参照して、移動局10が在圏している基地局31の無線ゾーンを特定する(ステップS13)。」

オ.「【0045】D:変形例
既述のとおり、本発明は、上述した実施形態に限定されず、例えば以下のような変形が可能である。
(1)移動通信網の形態
実施形態では、大ゾーン移動通信網としてPDC網20を挙げ、小ゾーン移動通信網としてPHS網30を挙げた。しかし、大ゾーン移動通信網と小ゾーン移動通信網とはこの例に限定されるわけではなく、例えば、次世代通信網として知られているIMT-2000等の他の種類の移動通信網であってもよい。」

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「 PHS網30は、
本来は、PHS端末に対して通話サービスやデータ通信サービスを提供するための通信網であるが、移動局10に対して報知信号を送信するための通信網として機能し、移動局10は制御チャネルを用いて基地局識別情報を受信するため、移動局10のユーザは、PHS網30を管理するPHS通信事業者との間で、PHS網30が提供するサービスを受けるための通信サービス契約を締結する必要もなく、

移動局10は、
PDC網20の基地局21との間で無線通信を行うことによりPDC網20が提供する通話サービスやデータ通信サービスを受けるほか、PHS網30の基地局31から送信される報知信号を受信することが可能となっており、
PHS受信部13を備え、
PHS受信部13は、アンテナ131を介してPHS網30の基地局31から送信される報知信号を受信する通信制御回路132と、受信した無線信号の受信電界強度を測定する電界強度測定回路133とを備え、通信制御回路132は、PHS基地局31から発信される報知信号をアンテナ131を介して間欠的に受信するようになっており、電界強度検出回路133は、受信した信号の受信電界強度を計測し、この計測の結果、受信電界強度が強い順から所定数の報知信号に含まれていた基地局識別情報と、これらの報知信号の受信電界強度の値とが得られ、これらは制御部11に供給されてメモリに記憶され、
測位サーバ40からの要求に応じて、メモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、これらをPDC送受信部12を介して測位サーバ40に送信するようになっており、

PC60の操作者は、位置検出の対象となる移動局10を指定し、その移動局10の位置情報を要求し、
PC60は上記操作を受け付けると、
インターネット50を介して測位サーバ40に位置情報要求信号を送信し、

測位サーバ40は、
位置情報要求信号を受信すると、受信した位置情報要求信号に含まれている電話番号を抽出し、
抽出した電話番号を用いて位置検出対象の移動局10を発呼し、
PDC網20の基地局21から発呼信号が無線送信され、

移動局10は、
この発呼信号を受信し、
測位サーバ40からの発呼信号を受信すると、制御部11内のメモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、
これらを測位サーバ40に送信し、

測位サーバ40は、
移動局10から送信された基地局識別情報及び受信電界強度値を受信すると、測位プログラム44bを実行し、
PHS基地局31の基地局識別情報が含まれていれば、PHS基地局31の基地局識別情報と、対応する受信電界強度値と、ハードディスク装置44に記憶されている基地局関連情報とに基づいて演算を行うことで、
受信した基地局識別情報及び受信電界強度値に基づいて移動局10の位置を算出する、

移動通信端末の位置を測定するための測位方法。」


4.対比
(1) 引用発明は、「移動通信端末の位置を測定するための測位方法」であり、引用発明の「移動局10は、この発呼信号を受信し、測位サーバ40からの発呼信号を受信すると、制御部11内のメモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、これらを測位サーバ40に送信」する動作を奏している。
してみると、引用発明は、「移動局を動作させる方法」である点で、本願発明と一致する。

(2) 引用発明の「移動局10は」、「PHS基地局31から発信される報知信号をアンテナ131を介して間欠的に受信するようになっており」、また、「PHS網30は、本来は、PHS端末に対して通話サービスやデータ通信サービスを提供するための通信網であるが、移動局10に対して報知信号を送信するための通信網として機能」するものである。
引用発明の「PHS網30」は無線ネットワークといい得るとともに、引用発明の「PHS基地局31」は無線ネットワークの第一の無線アクセスポイントといい得、本願発明の移動局10が受信する「PHS基地局31から発信される報知信号」は「第一の信号」といい得る。
してみると、引用発明は、「前記移動局で、無線ネットワークの、双方向通信をサポートする第一無線基地局から伝送された1以上の第一信号を受け取ること」を含んでいる点で、本願発明と一致する。

(3) 引用発明の「PHS網30」は、移動局10が「制御チャネルを用いて基地局識別情報を受信するため」の網であり、「移動局10のユーザは、PHS網30を管理するPHS通信事業者との間で、PHS網30が提供するサービスを受けるための通信サービス契約を締結する必要もな」いものである。
そして、PHS網のごとき通信事業者が管理する無線通信網において、該無線通信網が提供するサービスを受けるための通信サービス契約が締結されなければ、該無線通信網との通信について権限を与えられないと解するのが妥当である。
してみると、引用発明は、前記移動局は、前記無線ローカルエリアネットワークとの双方向通信について権限を与えられていない」点で、本願発明と一致する。

(4) 引用発明の「移動局10は」、「PHS基地局31から発信される報知信号をアンテナ131を介して間欠的に受信するようになっており、受信した信号の受信電界強度を計測し」ている。
これに対して、本願明細書の段落【0049】の「操作903においては、少なくとも1つの範囲測定が第一信号を使って決定される。もし第一無線ネットワークの他の無線アクセスポイントから更なる信号が利用できるのであれば、そのときはこれらの他の無線アクセスポイントまでの更なる範囲測定(及びそれらの識別情報)が得られる。操作903の別の実施では、第一信号を使用して範囲測定を行おうとせずに、別の測定(例、第一信号の信号強度測定)が移動局によって取られることが出来る。一代表的な実施においては、第一無線アクセスポイントから移動局への第一信号の伝播時間が測定され、この第一無線アクセスポイントの識別情報が第一無線アクセスポイントから受信される。」なる事項を参酌すると、「前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報を決定すること」は、「第一の信号を使用して範囲測定を行うこと」及び「第一の信号の信号強度測定を行うこと」を含むものと解するのが妥当である。
そして、上記のごとく、引用発明は、「受信した信号の受信電界強度を計測」するものである。
してみると、本願発明も引用発明も、受信した信号の信号強度を測定している点で一致しているといえ、引用発明は、「前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報を決定すること」を行っている点で、本願発明と一致する。

(5) 引用発明は、「測位サーバ40」が、「抽出した電話番号を用いて位置検出対象の移動局10を発呼し、PDC網20の基地局21から発呼信号が無線送信され」、「移動局10」が、「この発呼信号を受信し、測位サーバ40からの発呼信号を受信すると、制御部11内のメモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、これらを測位サーバ40に送信し」ている。
そして、発呼信号を受信した移動局は、発呼応答信号を基地局に返信することが、PDCの規格として規定されていることに鑑みると、引用発明では、移動局10とPDC網20の基地局21との間で、発呼信号及び発呼応答信号の伝達授受が行われていると解するのが妥当である。
また、引用発明の「PDC網20の基地局21」は「携帯電話無線ネットワークの第二無線アクセスポイント」といい得、発呼信号及び発呼応答信号は「第二の信号」といい得る。
してみると、引用発明は、「前記移動局と、携帯電話無線ネットワークの第二無線アクセスポイントと、の間で1以上の第二信号を伝達授受すること」を含む点で、本願発明と一致する。

(6) 引用発明は、「移動局10」が、「この発呼信号を受信し、測位サーバ40からの発呼信号を受信すると、制御部11内のメモリに記憶されている基地局識別情報及び受信電界強度値を読み出し、これらを測位サーバ40に送信し」、「測位サーバ40」が、「移動局10から送信された基地局識別情報及び受信電界強度値を受信すると、測位プログラム44bを実行し、PHS基地局31の基地局識別情報が含まれていれば、PHS基地局31の基地局識別情報と、対応する受信電界強度値と、ハードディスク装置44に記憶されている基地局関連情報とに基づいて演算を行うことで、受信した基地局識別情報及び受信電界強度値に基づいて移動局10の位置を算出する」ものである。
そして、引用発明では、「受信した基地局識別情報及び受信電界強度値に基づいて移動局10の位置を算出し」ていることから、「これらを測位サーバ40に送信し」ていることは、移動局10の位置を算出するため、即ち、移動局のポジションを決定するために行われているといえる。
また、引用発明では、「PHS基地局31の基地局識別情報が含まれていれば、PHS基地局31の基地局識別情報と、対応する受信電界強度値と、ハードディスク装置44に記憶されている基地局関連情報とに基づいて演算を行うことで、受信した基地局識別情報及び受信電界強度値に基づいて移動局10の位置を算出する」していることから、移動局10の位置は、PHS基地局31の基地局識別情報に対応する受信電界強度値、即ち、移動局10が備えるPHS受信部13が計測して、測位サーバに送信された受信電界強度に少なくとも部分的に基づいて決定されているといえる。
してみると、引用発明は、「前記携帯電話無線ネットワークの前記第二無線アクセスポイントを介して前記移動局のポジションを決定するために、前記移動局とサーバとの間で通信することと、なお、前記ポジションは、前記ポジション情報に少なくとも部分的に基づいて決定される」ことを含む点で、本願発明と一致する。

以上から、本願発明と引用発明は、次の点で一致、相違する。

<一致点>
移動局を動作させる方法であって、
前記移動局で、無線ネットワークの、双方向通信をサポートする第一無線アクセスポイントから伝送された1以上の第一信号を受け取ることと、なお、前記移動局は、前記無線ネットワークとの双方向通信について権限を与えられていない;
前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報を決定することと;
前記移動局と、携帯電話無線ネットワークの第二無線アクセスポイントと、の間で1以上の第二信号を伝達授受することと;
前記携帯電話無線ネットワークの前記第二無線アクセスポイントを介して前記移動局のポジションを決定するために、前記移動局とサーバとの間で通信することと、なお、前記ポジションは、前記ポジション情報に少なくとも部分的に基づいて決定される;
を含む方法。」

<相違点>
本願発明における、第一の無線アクセスポイントの無線ネットワークは「無線ローカルエリアネットワーク」であるのに対して、引用発明における、第一の無線アクセスポイントの無線ネットワークはPHS網である点。


5.当審の判断
本願発明と引用発明との上記の相違点について、以下で検討する。

原査定で引用された、本願の優先権主張日前に公開された特開2003-14488号公報(以下、「引用文献2」という)は、以下の事項が記載されている(なお、下線は、当審が付した。)。

カ.「【0012】「ユーザの現在地情報を取得する手段」としては、例えば、GPS(Global Positioning System)、DGPS(Differential-GPS)、RTK-GPS(Real Time Kinematic-GPS)、gpsOne、リアルタイム測位システム、PHS端末の位置情報機能、DLP(DoCoMo Location Platform)、IEEE802.11b等の無線LAN基地局情報、bluetooth等の無線通信の基地局情報等を利用することができ、この「現在地情報」は、ユーザの携帯情報端末から取得してもよいし、携帯情報端末の位置を認識することのできる位置情報提供装置から取得してもよい。」

そして、上記の摘示事項カからみて、移動局の位置情報の取得に用いる無線アクセスポイントのネットワークとして、PHS網と同様に、IEEE802.11b等の無線ローカルエリアネットワークが公知であったといえる。

さらに、引用文献1には、摘示事項オで摘示した「実施形態では、大ゾーン移動通信網としてPDC網20を挙げ、小ゾーン移動通信網としてPHS網30を挙げた。しかし、大ゾーン移動通信網と小ゾーン移動通信網とはこの例に限定されるわけではなく」なる事項からみて、引用発明における、小ゾーン移動通信網としてPHS網30は、他の網と置換可能であることが示唆されているといえる。

してみると、引用発明におけるPHS網をIEEE802.11b等の無線ローカルエリアネットワークに置換し、第一の無線アクセスポイントの無線ネットワークを「無線ローカルエリアネットワーク」とすることは、当業者であれば容易になし得るものといえる。

そして、本願発明により得られる効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。


6.予備的な検討
上記「4.対比」「(4)」では、本願発明の「前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報を決定すること」なる発明特定事項について、本願明細書の段落【0049】の記載を参酌すると、上記発明特定事項は「第一の信号を使用して範囲測定を行うこと」及び「第一の信号の信号強度測定を行うこと」を含んでおり、引用発明も、「受信した信号の受信電界強度を計測」していることから、該発明特定事項については、本願発明と引用発明との一致点であると認定した。

しかしながら、本願発明の上記発明特定事項が含む事項が、「第一の信号を使用して範囲測定を行うこと」のみであり、「第一の信号の信号強度測定を行うこと」は含まないとするならば、該発明特定事項は、相違点とすべき事項であるため、該発明特定事項を相違点とした場合について、以下で予備的な検討を行う。

引用発明のような、移動局で無線アクセスポイントからの信号を受信・測定して、その測定した値をサーバに送信し、移動局の位置を決定するものにおいて、移動局で測定してサーバに送信する測定値として、アクセスポイントから受信した信号から求めた移動局と無線アクセスポイントとの距離測定値を用いることは、無線アクセスポイントから受信した信号の受信電界強度を用いることと同様に周知である。

例えば、本願の優先権主張日前に公開された特開2002-236163号公報(以下、「周知文献1」という)の段落【0121】には、
「【0121】第2の実施の形態では、端末装置は、受信装置2と、遅延プロファイル解析装置3と、送信手段5からなる。送信手段5は、遅延プロファイルの測定結果から得られる複数の基地局の擬似測定距離rdiff,mを基地局装置6に送信する。 」
と記載され(なお、下線は、当審が付した。)、
本願の優先権主張日前に公開された国際公開第01/054422号(以下、「周知文献2」という)の第12頁第13行目から第18行目には、
「It should be understood, however, that the MS 10, after performing the aforementioned distance measurements, e.g., time delay estimation or power measurements, transmits the measured distance values from the neighboring BTSs, upon resumption of communications with the BTS 12, to the BTS 12, which includes a memory and procedure for storing and performing the actual positioning calculations. 」
(当審訳(対応する特表2003-520532号公報(平成15年7月2日国内公表)を参考):
しかし、遅延時間の推定又は電力測定などの上述の距離測定を実施した後、MS10はBTS12との通信を再開して隣接BTSからの距離測定値をBTS12に送信し、前記BTS12は記憶装置及び実際の測位計算を格納処理する手順を持つと解されるべきである。 )
と記載されている(なお、下線は、当審が付した。)。

このため、移動局において決定するポジション情報は、アクセスポイントから受信した信号から求めた移動局と無線アクセスポイントとの距離測定値、即ち、「前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づ」く「前記移動局についてのポジション情報」は周知なものであって、該発明特定事項により得られる効果は、引用発明及び周知な事項に基いて、当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえないから、引用発明における決定を、「前記1以上の第一信号の1以上の特性に少なくとも部分的に基づいて、前記移動局についてのポジション情報前記移動局についてのポジション情報を決定すること」とすることは、当業者であれば容易になし得る事項である。


7.むすび
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-03 
結審通知日 2014-06-10 
審決日 2014-06-27 
出願番号 特願2010-178010(P2010-178010)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青木 健  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 佐藤 聡史
江口 能弘
発明の名称 無線ネットワークハイブリッドポジショニングのための方法及び装置  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 竹内 将訓  
代理人 砂川 克  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 峰 隆司  
代理人 井上 正  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 直樹  

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