• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1293981
審判番号 不服2013-18703  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-27 
確定日 2014-11-13 
事件の表示 特願2010-242848「内燃エンジン排気システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月12日出願公開、特開2011- 94625〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年10月8日(パリ条約による優先権主張2003年11月25日、英国)を出願日とする特願2004-295646号の一部を平成22年10月28日に新たな特許出願としたものであって、平成24年7月19日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月22日付けで拒絶査定がされ、同年9月27日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、同年11月8日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 平成25年9月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年9月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成25年9月27日付けの手続補正の内容
平成25年9月27日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年1月23日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
車両排気システムであって、
排気入口及び排気出口を有するチャンバ内に配置されたフィルタエレメントを備える粒子フィルタアッセンブリであって、内燃エンジンからの実質的に全てのエンジン排気ガスが、前記排気入口に入り前記フィルタエレメントを通過する、前記粒子フィルタアッセンブリと、
前記粒子フィルタアッセンブリの下流側の排気システムの位置からエンジン吸気口へエンジン排気ガスを再循環させる排気ガス再循環経路と、
前記フィルタエレメントがエンジン排気ガスを少なくとも部分的にフィルタ処理している間に前記フィルタエレメントの再生をもたらすように作動する燃料点火バーナーと、
を備える、車両排気システム。
・・・(略)・・・
【請求項18】
車両排気システムを作動する方法であって、
(a) 内燃エンジンからの実質的に全ての排気ガスを粒子フィルタに差し向け、
(b) 前記粒子フィルタを働かせて前記排気ガスからの粒子をフィルタ処理し、
(c) 前記粒子フィルタの下流の前記車両排気システムの位置からエンジン吸気口へと前記排気ガスを選択的に再循環させ、
(d) 前記粒子フィルタが前記エンジン排気ガスをフィルタ処理している間に燃料点火バーナーを用いて前記粒子フィルタを定期的に再生する、各工程を備える、方法。
・・・(略)・・・
【請求項24】
車両排気システムであって、
排気入口及び排気出口を有するチャンバ内に配置されたフィルタエレメントを備える粒子フィルタアッセンブリであって、内燃エンジンからの実質的に全てのエンジン排気ガスが、前記排気入口に入り前記フィルタエレメントを通過し前記排気出口から出る、前記粒子フィルタアッセンブリと、
前記フィルタエレメントがエンジン排気ガスを少なくとも部分的にフィルタ処理している間に前記フィルタエレメントの再生をもたらすように作動する燃料点火バーナーと、
前記粒子フィルタアッセンブリの下流側の車両排気システムの位置からエンジン吸気口へエンジン排気ガスを再循環させる排気ガス再循環経路と、
排気ガスが前記内燃エンジンへの空気入口パイプ内へと再循環される開位置と、排気ガスが前記車両排気システムの残りの部分へと差し向けられる閉位置と、の間で選択的に移動可能である排気ガス再循環バルブと、
を備える、車両排気システム。
・・・(略)・・・」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
車両排気システムであって、
排気入口及び排気出口を有するチャンバ内に配置されたフィルタエレメントを備える粒子フィルタアッセンブリであって、内燃エンジンからの実質的に全てのエンジン排気ガスが、前記排気入口に入り前記フィルタエレメントを通過する、前記粒子フィルタアッセンブリと、
前記粒子フィルタアッセンブリの下流側の排気システムの位置からエンジン吸気口へエンジン排気ガスを再循環させる排気ガス再循環経路と、
排気ガス再循環中に前記フィルタエレメントがエンジン排気ガスを少なくとも部分的にフィルタ処理している間に前記フィルタエレメントの再生をもたらすように作動する燃料点火バーナーと、
前記排気ガス再循環経路内に配置された冷却機構と、
を備え、
実質的に全ての再循環された排気ガスが、前記冷却機構を通過し、前記冷却機構は、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する、車両排気システム。
・・・(略)・・・
【請求項14】
車両排気システムを作動する方法であって、
(a) 内燃エンジンからの実質的に全ての排気ガスを粒子フィルタに差し向け、
(b) 前記粒子フィルタを働かせて前記排気ガスからの粒子をフィルタ処理し、
(c) 前記粒子フィルタの下流の前記車両排気システムの位置からエンジン吸気口へと前記排気ガスを選択的に再循環させ、
(d) 排気ガス再循環中に前記粒子フィルタが前記エンジン排気ガスをフィルタ処理している間に燃料点火バーナーを用いて前記粒子フィルタを定期的に再生し、
(e) 排気ガス再循環経路を冷却する、各工程を備え、
前記工程(e)では、実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する、方法。
・・・(略)・・・
【請求項19】
車両排気システムであって、
排気入口及び排気出口を有するチャンバ内に配置されたフィルタエレメントを備える粒子フィルタアッセンブリであって、内燃エンジンからの実質的に全てのエンジン排気ガスが、前記排気入口に入り前記フィルタエレメントを通過し前記排気出口から出る、前記粒子フィルタアッセンブリと、
前記フィルタエレメントがエンジン排気ガスを少なくとも部分的にフィルタ処理している間に前記フィルタエレメントの再生をもたらすように作動する燃料点火バーナーと、
前記粒子フィルタアッセンブリの下流側の車両排気システムの位置からエンジン吸気口へエンジン排気ガスを再循環させる排気ガス再循環経路と、
排気ガスが前記内燃エンジンへの空気入口パイプ内へと再循環される開位置と、排気ガスが前記車両排気システムの残りの部分へと差し向けられる閉位置と、の間で選択的に移動可能である排気ガス再循環バルブと、
前記排気ガス再循環経路内に配置された冷却機構と、
を備え、
実質的に全ての再循環された排気ガスが、前記冷却機構を通過し、前記冷却機構は、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する、車両排気システム。
・・・(略)・・・」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 補正の目的
本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項14は本件補正前の特許請求の範囲の請求項18に対応するものであるところ、特許請求の範囲の請求項14については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項18の「(d) 前記粒子フィルタが前記エンジン排気ガスをフィルタ処理している間に燃料点火バーナーを用いて前記粒子フィルタを定期的に再生する、各工程を備える」という記載を「(d) 排気ガス再循環中に前記粒子フィルタが前記エンジン排気ガスをフィルタ処理している間に燃料点火バーナーを用いて前記粒子フィルタを定期的に再生し、
(e) 排気ガス再循環経路を冷却する、各工程を備え、
前記工程(e)では、実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する」という記載にするものであって、「粒子フィルタを定期的に再生する」時期を「排気ガス再循環中に」に特定し、さらに、「(e) 排気ガス再循環経路を冷却する」工程であって、「実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する」工程を加えるものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項18に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項18に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項14に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の請求項14については、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項14に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-98927号公報(以下、「引用文献」という。)には、「排気ガス中の微粒子除去装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)。

1a 「【0008】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明の実施例を説明する。図1は、排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた構成を示している。微粒子除去装置200は、略円筒型の容器2の後部2b内に収められたフィルタ3と、フィルタ3に捕捉される微粒子を燃焼させるための容器2の前部2a内に形成された燃焼室4とを有する。微粒子除去装置200のガス導入管5は、ディーゼルエンジン100の排気管7に蛇腹式のガス管6を介して接続されている。微粒子除去装置200の排気管8は蛇腹式のガス管9を介し、有害ガスを除去するための触媒装置10を介してマフラー16に接続されている。触媒装置10は具体的に、CO,HC,NOx等を除去できる触媒を用いて構成されている。」(段落【0008】)

1b 「【0014】この実施例においては、微粒子除去装置200の排気管8とディーゼルエンジン100の吸気管11の間に、排気ガスを再循環させる循環経路13が設けられている。この循環経路13には、排気ガスの還流量を制御してNOxを低減するための排気還流制御装置(EGR装置)14が挿入されている。微粒子除去装置200のフィルタ3のセラミック温度は温度センサ21により検出され、その検出値がコントロールボックス18に送られる。燃料タンク19に収容された軽油等の燃料は、アイドリング時はニードルコントローラ27でその流れが絞られ、エンジン100が所定周波数を超えると、ポンプ22と電磁弁25a,25bを介して各燃料噴霧ノズル42a,42bに段階的に流量が増加されて供給される。エアポンプ23は、各噴霧ノズル42a,42bにエアを供給する。」(段落【0014】)

1c 「【0016】この実施例において微粒子除去装置200を稼働させる時の制御は、コントロールボックス18からの制御信号により次のように行われる。ディーゼルエンジン100が始動されると、ニードルコントローラ27を介して僅かに燃料がノズル42a,42bから供給され、所定時間後メイングロー43a,43bがオンされ、続いてサブグロー44a,44bがオンとされる。メイングロー43a,43bにより燃焼室4に供給される混合気の霧化と加熱が行われ、同時に電磁弁28によってエアが燃焼室4内に導入されて点火環境が整った後、サブグロー44a,44bによりその混合気に点火されて燃焼動作が開始する。点火後、電磁弁28はオフとなって、全てのエアがノズル42a,42bに供給される。
【0017】エンジン100の回転数が1000回転(rpm)に達したら、電磁弁25aを開にして燃料供給量を増やす。エンジン100の回転数が2000回転に達したら、電磁弁25bを開にして燃料供給量を更に増やす。但しこの燃料供給量制御のためのエンジン回転数については、エンジン仕様に応じて適宜変更することができる。燃焼室4での燃焼によりフィルタ3内の温度が上昇すると、フィルタ隔壁の表面に捕捉されている黒鉛は燃焼し除去される。1000℃を越えると、排気ガス中のNOxが増えるので、フィルタ3のセラミック温度が950℃程度に達したことを温度センサ21が検出すると、電磁弁25bがオフ制御される。電磁弁25aおよびエアポンプ23はオン状態を継続させる。これにより、フィルタ3内での燃焼が継続される。しかし、燃料供給減少のため、排気ガスによりフィルタ3の温度は徐々に低下する。そしてフィルタセラミックの温度が750℃以下になったことを温度センサ21が検出すると、電磁弁25bが再度オンとされて、燃焼室4への燃料供給量を増加させる。以下、同様の動作が繰り返される。
【0018】この実施例によると、EGR装置で問題になる黒鉛の吸気側への還流がフィルタ3により抑制され、EGR装置14を効率よく働かせることができる。これにより排気ガス中の黒煙とNOxを効果的に低減することができる。また触媒装置10を微粒子除去装置200の後段に配置することにより、CO,NOx等を低減させることができる。」(段落【0016】ないし【0018】)

1d 「【0020】なおこの実施例において、微粒子除去装置200での燃焼によりその排気管8に得られる熱を自動車の冷暖房等に有効利用することも考えられる。そのためには、図5に示すように排気管8に熱交換器61を取り付ける。この熱交換器61で得られる熱をある程度下げて暖房に使いたい場合には、図示のように冷却コンデンサ62を用いるか、或いは熱交換器61を排気管8に接続される図示しないマフラーの後方に取り付ければよい。」(段落【0020】)

(2)引用文献の記載事項
記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていると認める(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)。

2a 記載1aの「 図1は、排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた構成を示している。」(段落【0008】)、記載1cの「この実施例において微粒子除去装置200を稼働させる時の制御は、コントロールボックス18からの制御信号により次のように行われる。」(段落【0016】)及び「この実施例によると、EGR装置で問題になる黒鉛の吸気側への還流がフィルタ3により抑制され、EGR装置14を効率よく働かせることができる。」(段落【0018】)、記載1dの「なおこの実施例において、微粒子除去装置200での燃焼によりその排気管8に得られる熱を自動車の冷暖房等に有効利用することも考えられる。」(段落【0020】)並びに図面によると、引用文献には、排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた自動車の構成を作動する方法が記載されている。

2b 記載1aの「微粒子除去装置200は、略円筒型の容器2の後部2b内に収められたフィルタ3と、フィルタ3に捕捉される微粒子を燃焼させるための容器2の前部2a内に形成された燃焼室4とを有する。微粒子除去装置200のガス導入管5は、ディーゼルエンジン100の排気管7に蛇腹式のガス管6を介して接続されている。」(段落【0008】)、記載1bの「排気ガスを再循環させる循環経路13が設けられている。」(段落【0014】)及び図面によると、引用文献には、ディーゼルエンジン100からの実質的に全ての排気ガスをフィルタ3に差し向けることが記載されている。

2c 記載1aの「微粒子除去装置200は、略円筒型の容器2の後部2b内に収められたフィルタ3と、フィルタ3に捕捉される微粒子を燃焼させるための容器2の前部2a内に形成された燃焼室4とを有する。微粒子除去装置200のガス導入管5は、ディーゼルエンジン100の排気管7に蛇腹式のガス管6を介して接続されている。」(段落【0008】)、記載1bの「排気ガスを再循環させる循環経路13が設けられている。」(段落【0014】)及び図面によると、引用文献には、フィルタ3を働かせて排気ガスからの微粒子を捕捉することが記載されている。

2d 記載事項2a、記載1bの「この実施例においては、微粒子除去装置200の排気管8とディーゼルエンジン100の吸気管11の間に、排気ガスを再循環させる循環経路13が設けられている。この循環経路13には、排気ガスの還流量を制御してNOxを低減するための排気還流制御装置(EGR装置)14が挿入されている。」(段落【0014】)及び図面によると、引用文献には、フィルタ3の下流の排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた自動車の構成の位置から吸気管11へと排気ガスを制御して再循環させることが記載されている。

2e 記載事項2c、記載1b、記載1c及び図面によると、引用文献には、フィルタ3が排気ガスを捕捉している間に燃料噴霧ノズル42a,42b、メイングロー43a,43b、及びサブグロー44a,44bを用いてフィルタ3に捕捉されている黒鉛を燃焼し除去することが記載されている。

(3)引用発明
記載1aないし1d、記載事項2aないし2e及び図面の記載を整理すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた自動車の構成を作動する方法であって、
(a) ディーゼルエンジン100からの実質的に全ての排気ガスをフィルタ3に差し向け、
(b) 前記フィルタ3を働かせて排気ガスからの微粒子を捕捉し、
(c) 前記フィルタ3の下流の排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた自動車の構成の位置から吸気管11へと前記排気ガスを制御して再循環させ、
(d) フィルタ3が排気ガスを捕捉している間に燃料噴霧ノズル42a,42b、メイングロー43a,43b、及びサブグロー44a,44bを用いてフィルタ3に捕捉されている黒鉛を燃焼し除去する、各工程を備える方法。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「排気還流装置(EGR装置)と触媒装置を備えたディーゼルエンジン100の排気ガス経路に微粒子除去を行う微粒子除去装置200を取り付けた自動車の構成」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「車両排気システム」に相当し、以下、同様に、「ディーゼルエンジン100」は「内燃エンジン」に、「フィルタ3」は「粒子フィルタ」に、「微粒子」は「粒子」に、「捕捉」は「フィルタ処理」に、「吸気管11」は「エンジン吸気口」に、「制御して」は「選択的に」に、「燃料噴霧ノズル42a,42b、メイングロー43a,43b、及びサブグロー44a,44b」は「燃料点火バーナー」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「フィルタ3に捕捉されている黒鉛を燃焼し除去する」は本願補正発明における「粒子フィルタを定期的に再生し」に、「粒子フィルタを再生する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「車両排気システムを作動する方法であって、
(a) 内燃エンジンからの実質的に全ての排気ガスを粒子フィルタに差し向け、
(b) 前記粒子フィルタを働かせて前記排気ガスからの粒子をフィルタ処理し、
(c) 前記粒子フィルタの下流の前記車両排気システムの位置からエンジン吸気口へと前記排気ガスを選択的に再循環させ、
(d) 前記粒子フィルタが前記エンジン排気ガスをフィルタ処理している間に燃料点火バーナーを用いて前記粒子フィルタを再生する、各工程を備える方法。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

ア 相違点1
(d)の工程における「粒子フィルタを再生する」が、本願補正発明においては、「排気ガス再循環中に」に行われるのに対し、引用発明においては、そのようなものか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

イ 相違点2
(d)の工程における「粒子フィルタを再生する」が、本願補正発明においては、「定期的」に行われるのに対し、引用発明においては、そのようなものか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

ウ 相違点3
本願補正発明においては、「(e) 排気ガス再循環経路を冷却する」工程を備え、「工程(e)では、実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、前記燃料点火バーナーの作動の間に冷却工程を提供する」のに対し、引用発明においては、そのようなものではない点(以下、「相違点3」という。)。

(5)相違点についての判断
そこで、上記相違点1ないし3について、以下に検討する。

ア 相違点1について
粒子フィルタの再生を排気ガスの再循環中に行うことは、周知である(必要であれば、下記(ア)特開平4-103867号公報の記載を参照。以下、「周知技術1」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術1を適用し、粒子フィルタの再生を排気ガスの再循環中に行うようにして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(ア)特開平4-103867号公報の記載
特開平4-103867号公報には、「過給器付デイーゼルエンジン」に関して、図面とともに概ね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献も同様。)。

・「(発明が解決しようとする課題)
このようにして排気再循環によりNOxを低減し、これに伴って発生するパーティキュレイトはトラップフィルタ5で捕捉しているが、パーティキュレイトの堆積量が一定になると、排圧の上昇を緩和するために再生動作が行なわれる。
フィルタ再生は捕捉したパーティキュレイトを燃焼させることにより実施し、排気循環によりNOxの低減目標が高くなるほど、この再生のインターバルも短くなる。
インタークーラ8により過給気は冷やされるものの、トラップフィルタ5の再生動作中はパーティキュレイトの燃焼に伴い循環される排気温度が高まるため、エンジン本体1に吸入される全体の吸気温度が上昇する傾向にある。このため実質的な吸気充填効率が下がり、供給燃料に対して酸素が不足し、エンジン出力が低下すると共にパーティキュレイトの発生も大幅に増大する。
・・・(略)・・・
(課題を解決するための手段)
そこで本発明は、燃料圧力に応じて段階的にリフトしてエンジン燃焼室に燃料を二段噴射するノズルと、排気の一部を吸気中に循環させる排気再循環装置と、吸気を過給する過給機とを備えたディーゼルエンジンにおいて、排気中のパーティキュレイトを捕集するトラップフィルタと、過給機コンプレッサの下流に配置した吸気冷却器と、トラップフィルタの下流から取出した排気を吸気冷却器の上流に導入する排気循環通路とを備えた。
(作用)
燃料噴射ノズルは二段燃料噴射により初期燃焼を緩やかにして、同時に吸気中に循環される排気による燃焼抑制効果が相まって、NOxの発生を低減する。
他方、燃焼の抑制に伴って増大するパーティキュレイトはトラップフィルタで捕捉し、その堆積量が一定値を越えればパーティキュレイトを燃焼させてフィルタの再生がなされる。
吸気中に循環される排気は、過給機からの圧縮空気と共に吸気冷却器を通るため、仮にフィルタ再生中であっても、混合吸気の温度は効率よく下がり、吸気充填効率を高め、エンジン出力の低下を回避すると同時にパーティキュレイトの発生を抑制する。」(第2ページ左上欄第6行ないし右下欄第4行)

イ 相違点2について
本願明細書の段落【0010】の「粒子フィルタを定期的に再生する工程は、好ましくは、トリガーに応じて再生を行う工程を含み、トリガーは、排気背圧、最後の再生からの経過時間、エンジンの特定の作動状態を示すこの他のエンジンパラメータのうちの一つ又はそれ以上を含む。」という記載によると、本願補正発明における「定期的」は、排気背圧、最後の再生からの経過時間、エンジンの特定の作動状態を示すこの他のエンジンパラメータのうちの一つ又はそれ以上であるトリガーに応じることを含むものである。
他方、記載1cによると、引用発明における「フィルタ3が排気ガスを補足している間に燃料噴霧ノズル42a,42b、メイングロー43a,43b、及びサブグロー44a,44bを用いてフィルタ3に捕捉されている黒鉛を燃焼し除去する」工程は、ディーゼルエンジンが始動された後に行われるものであり、自動車のディーゼルエンジンは始動と停止を繰り返すものであるから、定期的に行われているということができるので、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、粒子フィルタの再生を、所定間隔毎に行うこと、フィルタの堆積量が一定値を超えた場合に行うこと又は排気圧が所定の排気圧より高くなった場合に行うことは周知である(必要であれば、下記(イ)実公平4-10324号公報の記載、上記(ア)特開平4-103867号公報の記載及び下記(ウ)実願昭60-24592号(実開昭61-140113号)のマイクロフィルムの記載を参照。以下、「周知技術2」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術2を適用し、粒子フィルタの再生を、排気背圧、最後の再生からの経過時間、エンジンの特定の作動状態を示すこの他のエンジンパラメータのうちの一つ又はそれ以上であるトリガーに応じて、即ち定期的に行うようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(イ)実公平4-10324号公報の記載
実公平4-10324号公報には、「デイーゼルエンジンの排気ガス浄化装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「デイーゼルエンジンの排気浄化装置として、排気通路にフイルター部材を設け、排気中のカーボンなどの微粒子成分をフイルター部材で捕集するとともに、この捕集された微粒子成分をフイルター部材の目詰り防止のため加熱装置にて燃焼除去するようにしたものがある。この加熱装置の作動方式としては、常時作動せしめる方式、フイルター部材の目詰りが生じる時期を予測して所定間隔毎に作動せしめる間隔作動方式およびフイルター部材の目詰りを検出して作動せしめる方式があるが、本考案は上記間隔作動方式で加熱装置を作動しようとするものである。」(第1欄第21行ないし第2欄第9行)

(ウ)実願昭60-24592号(実開昭61-140113号)のマイクロフィルムの記載
実願昭60-24592号(実開昭61-140113号)のマイクロフィルムには、「デイーゼルエンジンの排気ガス浄化装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「排気圧Pが所定の排気圧より低ければ、軽油バーナ3はON状態とならず、フィルタ部材2の再生は行なわれずステップS13のENDに進む。ステツプS14において、排気圧Pが所定の排気圧P_(0)より高ければ開閉弁4の開閉は行われず、前述のようにステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS11→ステップS12→ステップS13の順序で動作がなされ、フィルタ部材2の再生が行なわれる。」(明細書第9ページ第11行ないし第10ページ第1行)

ウ 相違点3について
再循環された排気ガスの温度を低くして、吸気充填効率を高める又は排気ガスの比熱を高めるという課題を解決するために、排気ガス再循環経路に冷却機構を設けて、実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、フィルタの再生作動の間に冷却工程を提供することは、周知である(必要であれば、上記(ア)特開平4-103867号公報の記載及び下記(エ)特開2001-115826号公報の記載を参照。以下、「周知技術3」という。)。
他方、引用発明も、排気ガスを再循環するものであるから、再循環された排気ガスの温度を低くして、吸気充填効率を高める又は排気ガスの比熱を高めるという課題を内在するものである。
したがって、引用発明において、周知技術3を適用し、排気ガス再循環経路に冷却機構を設けて、実質的に全ての再循環された排気ガスが、冷却機構を通過し、フィルタの再生作動の間に冷却工程を提供するようにして、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
なお、請求人は、平成25年11月8日提出の手続補正書(方式)において、「循環経路13に(再循環中に動作する)冷却機構を設けることによって、排気ガスの温度が低下すると、排気ガス中のNOxを効果的に減少させることは不可能となり、また燃焼室への燃料が無駄になるおそれもある。この点を考慮すると、引例2の発明も、循環経路13に冷却機構を設けることに関して、阻害要因を有する。」旨主張するが、下記(エ)特開2001-115826号公報の記載にあるように、排気ガスの温度が低下しても、NOx低減効果は得られるし、燃焼室への燃料が無駄になるかどうかは、排気ガスの温度とは直接は関係ないので、該主張は採用できない。

(エ)特開2001-115826号公報の記載
特開2001-115826号公報の記載には、「内燃機関の排気浄化装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0033】EGR通路31の排気管3と開閉弁32との間には、排気ガスを冷却する冷却手段としてのクーラ34が配設されている。クーラ34は、エンジン1のラジエータから冷却水を供給されている。クーラ34内の冷却水は、ラジエータのウォータポンプによって、図中、矢印Cで示すように、ラジエータとクーラ34とに循環されている。このクーラ34により、吸気管2に還流される排気ガスは冷却され、その比熱を高められる。排気ガスを冷却しない場合よりも、EGR装置30によるNOx低減効果が得られる。」(段落【0033】)

エ 効果について
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明により、引用発明並びに周知技術1及び3からみて、又は引用発明及び周知技術1ないし3からみて、格別顕著な効果が奏されるともいえない。

(6)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び3に基づいて、又は引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし29に係る発明は、平成25年1月23日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項18に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項18】のとおりである。

2 引用文献の記載、引用文献の記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-98927号公報(以下、上記「第2[理由]2 2-2(1)と同様に「引用文献」という。)には、上記「第2[理由]2 2-2(1)」のとおりの記載があり、該記載及び図面の記載から、上記「第2[理由]2 2-2(2)」のとおりの記載事項が記載されていると認める。
そして、引用文献には、上記「第2[理由]2 2-2(3)」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]2 2-2(3)」と同様に「引用発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記「第2[理由]2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が上記「第2[理由]2 2-2(4)及び(6)」のとおり、引用発明並びに周知技術1及び3に基づいて、又は引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて(周知技術1ないし3については、上記「第2[理由]2 2-2(5)」のとおりである。)、当業者が容易に発明をすることができたものであり、周知技術1及び3は、本件補正により本願発明の発明特定事項に加えられた限定に対して、引用したものである。
したがって、本願発明は、引用発明であるか、又は引用発明及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は引用発明及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-20 
結審通知日 2014-06-23 
審決日 2014-07-04 
出願番号 特願2010-242848(P2010-242848)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01N)
P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌今関 雅子  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 加藤 友也
槙原 進
発明の名称 内燃エンジン排気システム  
代理人 小野 新次郎  
代理人 宮前 徹  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 山本 修  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ