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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1293991
審判番号 不服2013-25040  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-20 
確定日 2014-11-13 
事件の表示 特願2011- 81383「燃料噴射弁」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-215135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月1日を出願日とする出願であって、平成25年6月27日付けで拒絶理由が通知され、平成25年7月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年9月26日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、平成25年12月20日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 平成25年12月20日付け手続補正についての補正の却下の決定
<補正の却下の決定の結論>
平成25年12月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理由>
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年7月31日付けで提出された手続補正書で補正された)下記(1)の特許請求の範囲の請求項1の記載を、下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
摺動可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
前記スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
前記スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁において、
前記スワール付与室の径をD、前記連通路の幅をW、前記連通路の高さをHとしたときに、
0.15≦W/D<0.5
かつ
H/D≧0.15
となるように前記スワール付与室、前記連通路を形成したことを特徴とする燃料噴射弁。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
摺動可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
前記スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
前記スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁において、
前記スワール付与室は、前記連通路の側面であって前記スワール付与室を軸方向から見たときに前記スワール付与室が膨出する側と反対側の側面である第一側面と前記スワール付与室との接続点を第一接続点とし、前記連通路の側面であって前記スワール付与室を軸方向から見たときに前記スワール付与室が膨出する側の側面である第二側面と前記スワール付与室との接続点を第二接続点としたときに、前記スワール付与室の側面は、前記第一接続点から前記第二接続点に向かうに連れて曲率半径が小さくなるように螺旋状に形成され、
前記スワール付与室の前記第一接続点における側面の径をD、前記連通路の幅をW、前記連通路の高さをHとしたときに、
0.15≦W/D<0.5
かつ
H/D≧0.15
となるように前記スワール付与室、前記連通路を形成したことを特徴とする燃料噴射弁。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に「前記スワール付与室は、前記連通路の側面であって前記スワール付与室を軸方向から見たときに前記スワール付与室が膨出する側と反対側の側面である第一側面と前記スワール付与室との接続点を第一接続点とし、前記連通路の側面であって前記スワール付与室を軸方向から見たときに前記スワール付与室が膨出する側の側面である第二側面と前記スワール付与室との接続点を第二接続点としたときに、前記スワール付与室の側面は、前記第一接続点から前記第二接続点に向かうに連れて曲率半径が小さくなるように螺旋状に形成され、」という記載を付け加えたものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「スワール付与室」の形状に関して限定を加えたものといえ、また、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「スワール付与室の径をD」に「前記第一接続点における側面の」という記載を付け加えて、「スワール付与室の前記第一接続点における側面の径をD」という記載にしたものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「スワール付与室の径」の定義を明りょうにするものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同条第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものを含むものである。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。) が、特許出願の際独立して特許を受けられるものかどうかを検討する。

(1)引用文献に記載された発明
(1-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2008-280981号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。

ア.「【0012】
本発明の第1の目的は、筒内に高分散に燃料を噴射することで、すすを低減して内燃機関の高出力化を達成できる燃料噴射装置およびそれを搭載した内燃機関を提供することにある。
【0013】
本発明の第2の目的は、噴霧の微粒化を促進すると共に、筒内に燃料を直接噴射した場合に吸気弁や筒内壁面に付着する燃料を低減することで排出ガスのHCを低減すると共に、筒内に高分散に燃料を噴射することで、すすを低減して内燃機関の高出力化を達成でき
る燃料噴射装置およびそれを搭載した内燃機関を提供することにある。」(段落【0012】及び【0013】)

イ.「【0028】
以下、図1?図6を用いて、本発明の第1の実施形態による燃料噴射装置の構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による燃料噴射装置の構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による燃料噴射装置の構成を示す断面図である。
【0029】
燃料噴射装置1の先端に位置する、金属材製のノズルパイプ101は、直径が小さい小径筒状部22と直径が大きい大径筒状部23を備え、両者間は円錐断面部24により繋がっている。
【0030】
小径筒状部22の先の部分にはノズル部が形成される。具体的には、小径筒状部22の先端部分の内部に形成された筒状部に、燃料を中心に向かってガイドするガイド部材115と、燃料をシートするシート部材119と、シート部に組み込まれるオリフィスプレート116がこの順に配置される。ノズルパイプ101とシート部材119は、筒状に溶接により固定される。シート部材119とオリフィスプレート116は、筒状に溶接により固定される。
【0031】
シート部材119は、ガイド部材115に面する側に、円錐状の弁座119Aが形成されている。弁座119Aには、プランジャ114Aの先端に設けた弁体114Bが当接し、オリフィスプレート116に燃料を導いたり遮断したりする。
【0032】
ノズル体の外周には溝95が形成されており、溝95に樹脂製のチップシールあるいは金属の周りにゴムが焼き付けられたガスケットで代表されるシール部材がはめ込まれている。
【0033】
金属材製のノズルパイプ101の大径筒状部23の内周下端部には、可動子114のプランジャ114Aをガイドするプランジャガイド113が、大径筒状部23の絞り加工部25に圧入固定されている。
【0034】
プランジャガイド113は、中央にプランジャ114Aをガイドするガイド孔127が設けられており、その周囲に複数個の燃料通路126が穿孔されている。さらに、プランジャガイド113の中央の上面には、押出し加工により凹部125が形成されている。凹部125には、ばね112が保持される。また、ガイド部材115の中央には、ガイド孔が設けられている。ガイド部材115のガイド孔に、プランジャ114Aが挿入される。
【0035】
かくして、細長い形状のプランジャ114Aは、プランジャガイド113のガイド孔127と、ガイド部材115のガイド孔とによって、まっすぐに往復動するようガイドされる。
【0036】
このように、金属材製のノズルパイプ101は、先端部から後端部まで、同一部材で一体に形成されているので部品の管理がやり易く、また組立て作業性が良いものである。
【0037】
プランジャ114Aの、弁体114Bが設けられている端部とは反対の端部には、プランジャ114Aの直径より大きい外径を有する頭部133の上端面にはスプリング110の座面129が設けられており、中心にはスプリングガイド用の突起131が形成されている。
・・・(中略)・・・
【0054】
その結果、プランジャ114Aの先端の弁体114Bが弁座119Aより離間し、燃料が燃料通路118を通り、オリフィスプレート116を通り燃焼室内に噴出する。
【0055】
電磁コイル105への通電が断たれると、磁気回路の磁束が消滅し、磁気吸引ギャップ136における磁気吸引力も消滅する。この状態では、プランジャ114Aの頭部133を反対方向に押す初期荷重設定用のスプリング110のばね力がばね112の力に打ち勝って可動子114全体(アンカー102,プランジャ114A)に作用する。
【0056】
その結果、磁気吸引力を失った可動子114のアンカー102は、スプリング110のばね力によって、弁体114Bが弁座に接触する閉位置に押し戻される。このとき、段付き部114Cがアンカー102の凹所の底面123Aに当接してアンカー102をばね112の力に打ち勝って、プランジャガイド113側へ移動させる。
【0057】
弁体114Bが弁座に勢い良く衝突すると、プランジャ114Aはスプリング110を圧縮する方向へ跳ね返る。しかし、アンカー102はプランジャ114Aとは別体であるため、プランジャ114Aはアンカー102から離れてアンカー102の動きとは反対方向に動こうとする。このとき、プランジャ114Aの外周とアンカー102の内周との間には流体による摩擦が発生し、跳ね返るプランジャ114Aのエネルギが、いまだ慣性力によって反対方向(弁の閉じ方向)に移動しようとしているアンカー102の慣性質量によって吸収される。
【0058】
跳ね返り時には、慣性質量の大きなアンカー102がプランジャ114Aから切り離されるので、跳ね返りエネルギ自体も小さくなる。また、プランジャ114Aの跳ね返りエネルギを吸収したアンカー102は、自らの慣性力がその分だけ減少するので、ばね112を圧縮するエネルギが減少して、ばね112の反発力が小さくなり、アンカー102自体の跳ね返り現象によってプランジャ114Aが開弁方向に動かされる現象は発生し難くなる。
【0059】
かくして、プランジャ114Aの跳ね返りは最小限に抑えられ、電磁コイル105への通電が断たれた後に弁が開いて、燃料が不作為に噴射される、いわゆる二次噴射現象が抑制される。」(段落【0028】ないし【0059】)

ウ.「【0061】
図2(A)は、弁体114Bが弁座119Aから微小量リフトした状態を示している。通常リフト量は、20乃至100μm程度に設定されている。ガイド部材115には、ノズルパイプ101及びシート部材119と接する箇所115aと、ノズルパイプ101及びシート部材119と隙間を有する箇所115bがある。燃料は燃料通路118に達した後、ガイド部材115とノズルパイプ101の隙間及びシート部材119との隙間を通り、燃料流れ120のように弁座119Aに至る。
【0062】
弁座119Aを通過した燃料は、図2(B)に示される、オリフィスプレート116の燃料流入口116Aに流入し、複数ある燃料通路116Ba,116Bb,116Bcに分配され、旋回室116Ca,116Cb,116Ccにて燃料に旋回力が加えられ、燃料噴射孔116Da,116Db,116Dcより噴射される。
【0063】
また、燃料流路116Bbの中央と燃料噴射孔116Dbの中心の距離(オフセット距離)Lo2は、燃料流路116Baの中央と燃料噴射孔116Daの中心の距離Lo1よりも短く設定されている。なお、燃料流路116Bcの中央と燃料噴射孔116Dcの中心の距離(オフセット距離)は、燃料流路116Bbの中央と燃料噴射孔116Dbの中心の距離(オフセット距離)Lo2と等しく設定されている。一例を挙げると、例えば、燃料通路116Ba,116Bb,116Bcの幅が0.35μmで、旋回室116Ca,116Cb,116Ccの直径が1.4μmで、燃料噴射孔116Da,116Db,116Dcの直径が0.35μmの場合、距離Lo2は、例えば、0.525μmに設定され、距離Lo1は、例えば、0.35μmに設定している。なお、距離Lo2は、燃料流路の幅よりも大きくなるようにオフセットしている。
【0064】
本実施形態では、燃料通路116Ba,116Bb,116Bc、旋回室116Ca,116Cb,116Cc、燃料噴射孔116Da,116Db,116Dcが一体の部品としてドリルあるいはエンドミル等の切削加工等により形成されている。このように燃料通路116Ba,116Bb,116Bc、旋回室116Ca,116Cb,116Cc、燃料噴射孔116Da,116Db,116Dcが一体で形成されることで組立て性が良く、燃料通路と燃料噴射孔116Da,116Db,116Dc等の位置ずれを起こさずに加工することが可能になり、高精度に形成し易いものである。
・・・(中略)・・・
【0082】
この様に燃料を噴射することにより、燃焼室52の上方へ噴射した第1の噴霧群は、旋回力が弱く角運動量が少ないため、噴霧角の小さな断面形状となるため、吸気弁57との干渉を避けることができ、吸気弁57への付着が低減される。
【0083】
また、燃焼室52の内部の下方に湾曲状に噴射される第2の噴霧群は、湾曲形噴霧を仮に円形にした場合の円形輪郭20aの大きさが、湾曲形噴霧を囲んだ四角21aに接する円形輪郭19aよりも大きくなり、旋回を強くすることができるため、旋回力を強くして噴射することとなるので微粒化が促進される。かつ、ペネトレーションを短くすることができ、燃料噴射孔の長さ(L)と燃料噴射孔の径(D)の比(L/D)により噴霧の到達する周方向位置を制御することが可能なため、ピストンや燃焼室の壁面に付着する燃料が低減される。これと、同時に微粒化が促進された噴霧を燃焼室52内に高分散に噴射することが可能になる。
【0084】
第2の燃料噴霧群により、筒内に燃料を高分散に噴射することが可能になり、すすの発生を低減して、出力を向上することができる。
【0085】
また、第1の燃料噴霧群により、吸気弁を避けた噴霧と微粒化されかつペネトレーションが短い噴霧により、吸気弁、ピストンや壁面に付着する燃料が低減され、有害排出ガス(HC)を低減できる。
【0086】
なお、以上の説明では、燃焼室の内部の下方に噴霧する2本の湾曲形噴霧18a、18cは同一形状としたが、左右非対称であってもよいものであり、噴霧の微粒化を促進すると共に、吸気弁や筒内壁面に燃料を付着させること無く排気を低減することが可能となり、かつ筒内に高分散に燃料を噴射することで内燃機関の高出力化を達成できるという効果を損なうものではない。
【0087】
以上説明したように、本実施形態によれば、内燃機関からの有害排出ガスHCの低減を図ることができると同時に、すすの発生を低減しながら、内燃機関の出力を向上することができる。」(段落【0061】ないし【0087】)

(1-2)ここで、上記(1-1)ア.ないしウ.及び図面から、次のことが分かる。

カ.上記イ.並びに図1及び図2の記載から、燃料噴射装置1は、摺動可能に設けられた弁体114Bと、閉弁時に弁体114Bが座る弁座119Aが形成され、下流側にシート部材119を備えていることが分かる。

キ.上記ウ.及び図2(A)の記載から、シート部材119は、燃料がオリフィスプレート116の燃料流入口116Aに流入する開口部を有することが分かる。

ク.上記イ.及びウ.並びに図2の記載から、燃料噴射装置1は、内部で燃料を旋回させて旋回力を付与する旋回室116Ca,116Cb,116Ccと、旋回室116Ca,116Cb,116Ccの底部に形成され外部に貫通する燃料噴射孔116Da,116Db,116Dcと、旋回室116Ca,116Cb,116Ccとシート部材119の開口部とを連通する燃料通路116Ba,116Bb,116Bcを備えていることが分かる。

(1-3)上記(1-1)及び(1-2)より、引用文献には、次の発明が記載されていると認める。

「摺動可能に設けられた弁体と、
閉弁時に前記弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有するシート部材と、
内部で燃料を旋回させて旋回力を付与する旋回室と、
旋回室の底部に形成され外部に貫通する燃料噴射孔と、
旋回室とシート部材の前記開口部とを連通する燃料通路と、
を備えた燃料噴射装置。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

(2)対比
本願補正発明と引用文献記載の発明を対比する。
引用文献記載の発明における「弁体」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「弁体」に相当し、以下同様に、「弁座」は「弁座」に、「シート部材」は「弁座部材」に、「旋回室」は「スワール付与室」に、「燃料噴射孔」は「噴射孔」に、「燃料通路」は「連通路」に、「燃料噴射装置」は「燃料噴射弁」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「摺動可能に設けられた弁体と、
閉弁時に弁体が座る弁座が形成されるとともに、下流側に開口部を有する弁座部材と、
内部で燃料を旋回させて旋回力を付与するスワール付与室と、
スワール付与室の底部に形成され外部に貫通する噴射孔と、
スワール付与室と前記弁座部材の前記開口部とを連通する連通路と、
を備えた燃料噴射弁」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明においては、「スワール付与室は、連通路の側面であってスワール付与室を軸方向から見たときにスワール付与室が膨出する側と反対側の側面である第一側面とスワール付与室との接続点を第一接続点とし、連通路の側面であってスワール付与室を軸方向から見たときにスワール付与室が膨出する側の側面である第二側面とスワール付与室との接続点を第二接続点としたときに、スワール付与室の側面は、第一接続点から第二接続点に向かうに連れて曲率半径が小さくなるように螺旋状に形成され」ているのに対して、引用文献記載の発明においては、そのように形成されていない点(以下、「相違点1」という。)。

本願補正発明においては、「スワール付与室の第一接続点における側面の径をD、連通路の幅をW、連通路の高さをHとしたときに、
0.15≦W/D<0.5
かつ
H/D≧0.15
となるようにスワール付与室、連通路を形成し」ているのに対して、引用文献記載の発明においては、そのような限定がない点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点についての判断
そこで、上記各相違点1及び2について、以下に検討する。

・相違点1について
上記(1-1)のウ.の段落【0063】並びに図3等の記載から、図3に記載された旋回室(本願補正発明の「スワール付与室」に相当、以下括弧内は本願補正発明に相当する発明特定事項を示す。)は、燃料通路(連通路)の側面であって旋回室(スワール付与室)を軸方向から見たときに旋回室(スワール付与室)が膨出する側と反対側の側面である第一側面と旋回室(スワール付与室)との接続点を第一接続点とし、燃料通路(連通路)の側面であって旋回室(スワール付与室)を軸方向から見たときに旋回室(スワール付与室)が膨出する側の側面である第二側面と旋回室(スワール付与室)との接続点を第二接続点としたときに、旋回室(スワール付与室)の側面は、第一接続点から第二接続点に向かうに連れて曲率半径が変わらないように形成されていることが看取できるので、引用文献記載の発明の旋回室も同様に形成されている。
ここで、スワール室に進入した燃料がスワール室の内周面に沿って旋回を進めるに応じて旋回力を強化するために、スワール室の入口から出口にかけて内周面の曲率を増加させることは本願出願前に周知の技術(例えば、特開2003-336562号公報の段落【0036】ないし【0041】、図6等参照。特開2003-336561号公報の段落【0034】ないし【0039】、図6等参照。以下、「周知技術」という。)であるので、引用文献記載の発明において、燃料の旋回力を強化することを目的として周知技術を採用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・相違点2について
上記(1-1)のウ.の段落【0063】等の記載から、燃料通路の幅(本願補正発明の「連通路の幅」、「W」に相当、以下括弧内は本願補正発明に相当する発明特定事項を示す。)が0.35μmで、旋回室の直径(スワール付与室の第一接続点における側面の径、D)が1.4μmであるので、W/Dの値は0.25となり、0.15≦W/D<0.5の範囲に含まれている。また、燃料通路の高さ(連通路の高さ、H)については不明であるが、図2(A)の記載から、燃料流入口116Aの高さと直径との関係(高さ/直径が約1/4程度)が看取でき、さらに図2(A)及び図2(B)の記載から、燃料通路の高さは燃料流入口116Aの高さとほぼ同じで、旋回室の直径は燃料流入口116Aの直径とほぼ同じであることが看取できるので、燃料通路の高さと旋回室の直径との関係は、高さ/直径が約1/4程度であると推測できる。そうすると、H/Dの値は、0.25程度となり、H/D≧0.15の範囲に含まれる。
したがって、引用文献記載の発明において、W/Dの値及びH/Wの値は、0.15≦W/D<0.5かつH/D≧0.15の範囲に含まれる。
また、仮に、図2(A)及び図2(B)の尺度がそれほど正確でないとしても、引用文献記載の発明において、図3等の記載から、燃料通路の幅及び高さが旋回室の直径に比べて小さすぎると旋回室の大きさに比して十分な量の燃料を旋回させることができないこと、及び燃料通路の幅が旋回室の直径に比べて大き過ぎると十分な旋回流が発生しないことは技術常識であることを考慮すると、W/D及びH/Dの値を小さすぎないようにある程度以上に設定し、十分な旋回流が発生するようにW/Dの値をある程度以下に設計することは当然であるので、そのことを具体化した、0.15≦W/D<0.5かつH/D≧0.15なる数値限定は、当業者であれば適宜なし得る設計的事項と言わざるを得ない。
なお、本願明細書の段落【0021】並びに図6及び7等において、0.15≦W/D<0.5かつH/D≧0.15と数値限定することの臨界的な意義が記載されているが、例えば、ノズルプレートに供給される際の燃料の流速や流量、スワール付与室の寸法、個数等に依って変化するものと考えられ、必ずしも臨界的な意義をもつものということはできない。
してみると、引用文献記載の発明において、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明が、引用文献記載の発明及び周知技術からみて格別の効果を奏するものとも認められない。

2-3 むすび
したがって、本願補正発明は、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記<補正の却下の決定の結論>のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成25年7月31日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 <理由>1(1)」の【請求項1】のとおりである。

2 引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由で引用した本願の出願前に日本国内において、頒布された特開2008-280981号公報(以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(1-1)と同様に「引用文献」という。)には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(1-1)」の通りの記載があり、該記載及び図面から、上記「第2<理由>2 2-2(1)(1-2)」のとおりのことが分かる。
そして、引用文献には、上記「第2<理由>2 2-2(1)(1-3)」のとおりの発明(以下、上記「第2<理由>2 2-2(1)(1-3)と同様に「引用文献記載の発明」という。)が記載されていると認める。

3 対比・判断
上記「第2<理由>2 2-1」で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明が、上記「第2<理由>2 2-2(2)及び(3)」のとおり、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、引用文献記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、本願補正発明において、本願発明の発明特定事項に加えた限定は、相違点1に係る発明特定事項であるので、相違点1の判断で参酌した周知技術は、本願発明の判断においては必要としない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-02 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2011-81383(P2011-81383)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
林 茂樹
発明の名称 燃料噴射弁  
代理人 綾田 正道  

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