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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D |
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管理番号 | 1294151 |
審判番号 | 不服2013-403 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-01-10 |
確定日 | 2014-11-19 |
事件の表示 | 特願2009-541310号「振動伝達を減少させたステアリングホイール」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日国際公開、WO2008/073279、平成22年 4月22日国内公表、特表2010-512280号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本願は、2007年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月12日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成24年9月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年1月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出された。その後、平成25年12月9日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成26年5月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 本願の請求項1?5に係る発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成26年5月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 車両用のステアリングホイールであって、 前記ステアリングホイールの外周を規定するリムと、 前記リムに沿って配置され、前記ステアリングホイールの外周によって画定される面に対して略垂直な方向で柔軟である柔軟部材と、 前記リムおよび前記柔軟部材の全体を封入し、当該ステアリングホイールの外表面を形成するオーバーコーティング材料とを備え、 前記リムは、断面がU字状であり、前記柔軟部材が嵌合される溝を有し、 前記柔軟部材が編組スチールケーブルであり、前記溝内に押し込むことによって当該溝に嵌まり込んで保持され、当該ステアリングホイールの慣性極モーメントを増大させ、これによって当該ステアリングホイールの振動を抑制することを特徴とするステアリングホイール。」 2.刊行物記載の発明または技術的事項 (1)刊行物1 当審の拒絶理由で引用した本願の優先日前に国内で頒布された刊行物である特表2005-529798号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 なお、当該公報には、平成16年6月7日付けの手続補正書も掲載されており、引用箇所に補正事項が関与する場合は、補正事項を踏まえて引用する。 (ア) 「【0002】 技術分野 本発明は、一般的にはステアリングホイールおよび車両ステアリング組立体に関し、より具体的には回転振動に対して大きな抵抗を有するステアリングホイールまたはステアリング組立体に関する。」(段落【0002】) (イ) 「【0009】 詳細な説明 図1および図2を参照すると、本発明の好ましい態様によるステアリングホイール10の部分図を示してある。ステアリングホイール10は、実質的に円形のリム、好ましくは金属製の機械加工またはダイキャストされたリム12を備えるとともに、好ましくは円周状チャネル11を有する、芯材13を有する。緩衝要素14は、リム12のまわりに固定し、好ましくは少なくとも部分的にチャネル11内に配置して、そこに固定する。好ましい態様において、ステアリングホイール芯材13は、ダイキャストアルミニウムまたはマグネシウムであり、リム12を中心本体(図示せず)に連結する複数のスポーク(図示せず)を有する一体型芯部材13として形成されて、従来式方法で車両ステアリングシステムに装着されている。完全に組み立てたときに、ステアリングホイール10には、好ましくは既知のカバー材料15、例えばプラスチック、革または繊維などで覆いをする。緩衝要素14、好ましくは比較的密度の大きい材料で形成されたものをリム12に固定すると、ステアリングホイール10の質量および回転質量慣性モーメントを増大させて、並進振動および回転振動の両方への抵抗を増大させる。・・・」(段落【0009】) (ウ) 「【0010】 チャネル11は、好ましくは断面が実質的にU形であるが、・・・緩衝材14は、好ましくは、リム12よりも密度の高い材質、例えば鉛、鋼、タングステン、またはその他の金属で作られた、完全または部分リングである。・・・」(段落【0010】) (エ) 「【0013】 ・・・好ましい装着方法においては、挿入された緩衝材14を備えるリム12(および芯部材13)が、チャネル11を上向きにした状態で、射出成形用金型(図示せず)に配置される。次に、当該技術分野では反応射出成型と呼ばれるプロセスにおいて、多成分エラストマー発泡性材料が型に供給される。発泡体料15または粘着剤は、好ましくは当該分野で知られているポリウレタン発泡体または複合材であり、緩衝材14とリム12とに粘着して、緩衝材14をその所望の位置に保持するとともに、弾力性被膜層15をステアリングホイール10の外部に設ける。・・・」(段落【0013】) (オ) 「【0014】 したがって、緩衝材14は発泡材料15によってチャネル11内に固定されているが、好ましくは柔軟で、弾力性のある発泡体15の特性によって、緩衝材14の運動に自由度を与えることができる。緩衝材14は、緩衝要素14(単数または複数)がリム12と常時接触して、芯材13からの並進および回転振動が緩衝材14に直接伝達されるように、チャネル11内に装着することができる。・・・緩衝材14をリム12に取り付けるための、考えられるさらに別の方法としては、緩衝材14をチャネル11内へ圧入する方法、またはリム12をかしめて緩衝材14をその中に固定する方法がある。」(段落【0014】) (カ) 図1から、緩衝要素14がチャネル11内に圧入される方向が、ステアリングホイール10の外周によって画定される面に対して略垂直な方向であることが看取でき、また、リム12は断面がU字状であることが看取しうる。 上記の記載事項(ア)?(カ)及び【図1】の開示内容からみて、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〔引用発明〕 「車両用のステアリングホイール10であって、 前記ステアリングホイール10の実質的に円形のリム12と、 前記リム12の円周状チャネル11内に配置して固定され、前記ステアリングホイール10の外周によって画定される面に対して略垂直な方向からチャネル11内に圧入される緩衝要素14と、 前記リム12および前記緩衝要素14に粘着し、当該ステアリングホイール10の外部に設けられる弾力性被膜層15とを備え、 前記リム12は、断面がU字状であり、前記緩衝要素14が圧入されるチャネル11を有し、 前記緩衝要素14が、前記チャネル11内に圧入することによって当該チャネル11内に固定され、当該ステアリングホイール10の質量及び回転質量慣性モーメントを増大させ、これによって当該ステアリングホイール10の並進振動および回転振動の両方への抵抗を増大させるステアリングホイール10。」 (2)刊行物2 当審の拒絶理由で引用した本願の優先日前に国内で頒布された刊行物である特開平8-258722号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (キ) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は車両のステアリングホイールに関する。更に詳しくは車種により異なる最適な慣性モーメント及び固有振動数に容易に設定することができるステアリングホイールに関するものである。」(段落【0001】) (ク) 「【0005】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の構成を、実施例に対応する図1を用いて説明する。本発明は、金属製の管状体17を円形に曲げて両端部を溶接することにより形成されたステアリングホイール11の改良である。その特徴ある構成は、管状体17の内部に管状体17の一部又は全部に1本又は2本以上の弾性を有する線状体21が管状体17に添って挿入されたところにある。また、管状体17の内部に挿入された線状体21は螺旋状に形成することもできる。」(段落【0005】) (ケ) 「【0009】本発明の特徴ある構成は、管状体17の内部に管状体17の一部又は全部に1本又は2本以上の弾性を有する線状体21が挿入されたところにある。この例における線状体21は弾性を有する剛性の線材であり、・・・」(段落【0009】) (コ) 「【0012】・・・また、上記実施例では管状体に挿入する線状体を弾性を有する剛性の線材としたが、具体的にはピアノ線、スチールワイヤ等があり、・・・」(段落【0012】) 3.対比、判断 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「ステアリングホイール10」は前者の「ステアリングホイール」に相当し、後者のステアリングホイール10の「実質的に円形なリム12」は前者のステアリングホイールの「外周を規定するリム」に相当し、後者の「チャネル11」は前者の「溝」に相当する。 後者の「リム12の円周状チャネル11内に配置して固定され」る「緩衝要素14」と、前者の「リムに沿って配置され」る「柔軟部材」とは、「リムに沿って配置され」る「部材」である限りにおいて一致する。 後者の「弾力被覆層15」は、その機能からみて、前者の「オーバーコーティング材料」に相当し、後者の弾力被覆層15が「リム12および緩衝要素14に粘着し、ステアリングホイール10の外部に設けられる」ことと、前者のオーバーコーティング材料が「リムおよび柔軟部材の全体を封入し、ステアリングホイールの外表面を形成する」こととは、「前記リムおよび前記柔軟部材を封入し、当該ステアリングホイールの外表面を形成する」限りにおいて一致する。 後者の緩衝要素14がチャネル11に「圧入され」ることは、前者の柔軟部材が溝に「嵌合される」ことに相当し、後者の「チャネル11内に圧入することによって当該チャネル11内に固定され」ることは、前者の「溝内に押し込むことによって溝に嵌まり込んで保持され」ることに相当する。 後者のステアリングホイール10の「回転質量慣性モーメント」は、前者のステアリングホイールの「慣性極モーメント」に相当し、後者の回転質量慣性モーメントの増大によって「ステアリングホイール10の並進振動及び回転振動への抵抗を増大させる」ことは、前者の慣性極モーメントの増大によって「ステアリングホイールの振動を抑制する」ことに相当する。 してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 〔一致点〕 「車両用のステアリングホイールであって、 前記ステアリングホイールの外周を規定するリムと、 前記リムに沿って配置される部材と、 前記リムおよび前記柔軟部材を封入し、当該ステアリングホイールの外表面を形成するオーバーコーティング材料とを備え、 前記リムは、断面がU字状であり、前記部材が嵌合される溝を有し、 前記部材が、前記溝内に押し込むことによって当該溝に嵌まり込んで保持され、当該ステアリングホイールの慣性極モーメントを増大させ、これによって当該ステアリングホイールの振動を抑制するステアリングホイール。」 〔相違点1〕 リムに沿って配置される部材に関して、本願発明は「柔軟部材」であって、「編組スチールケーブル」からなり、「ステアリングホイールの外周によって画定される面に対して略垂直な方向で柔軟である」ものであるのに対して、引用発明の緩衝要素は、そのような構成を有していない点。 〔相違点2〕 本願発明は、オーバーコーティング材料がリムおよび柔軟部材の「全体を封入」するものであるのに対して、引用発明は、弾力性被膜層が全体を封入するのか不明である点。 上記各相違点について以下検討する。 〔相違点1について〕 刊行物2には、ステアリングホイールの慣性モーメントを設定するためにステアリングホイールを構成する管状体内に2本以上の弾性を有する線状体を挿入すること、これらの線状体を螺旋状にすること、及び、線状体にピアノ線やスチールワイヤ等の金属の線材を用いることが記載されており(上記2.(2)の(キ)?(コ)を参照)、ステアリングホイール内に挿入する線状体に編組スチールケーブルからなる柔軟な部材を用いることが示唆されているといえる。 引用発明の緩衝要素と、刊行物2に記載の線状体とは、いずれもステアリングホイールの慣性モーメントの調整に用いられるものであるので、引用発明及び刊行物2に接した当業者であれば、引用発明の緩衝要素に、刊行物2記載の金属線材からなる柔軟な線状体を適用する程度のことは、容易に想到し得ることといえる。 また、引用発明の緩衝要素は、ステアリングホイールの外周によって画定される面に対して略垂直な方向からチャネル内に圧入されるものであるので、刊行物2に記載の柔軟な線状体を適用すれば、ステアリングホイールの外周によって画定される面に対して略垂直な方向に柔軟であることは、構造上から明らかであるといえる。 してみれば、引用発明を、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、刊行物2記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るといえる。 〔相違点2について〕 樹脂材料でステアリングのリム全体を被覆することは、車両のステアリングホイールにおいては本願の優先日前から実施されており、特に例示するまでもなく周知の事項といえる。 してみれば、引用発明のリム及び緩衝要素の全体を弾力性被膜層で被覆し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、周知の事項に基づいて当業者が容易になし得ることといえる。 そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明、刊行物2記載の事項及び周知の事項から予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明、刊行物2に記載の事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-06-19 |
結審通知日 | 2014-06-24 |
審決日 | 2014-07-07 |
出願番号 | 特願2009-541310(P2009-541310) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B62D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 智洋、田々井 正吾 |
特許庁審判長 |
大熊 雄治 |
特許庁審判官 |
山口 直 平田 信勝 |
発明の名称 | 振動伝達を減少させたステアリングホイール |
代理人 | 飯塚 雄二 |