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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1294184
審判番号 不服2012-25277  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-20 
確定日 2014-11-19 
事件の表示 特願2009-513396「改良型エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月 6日国際公開、WO2007/140283、平成21年11月12日国内公表、特表2009-539030〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2007年(平成19年)5月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年5月27日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成24年8月30日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成24年12月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。
一方,当審において,平成25年8月28日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である平成26年3月3日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。
また,平成26年5月28日に請求人とのファクシミリを通じた応対を記録した応対記録が作成されている。
そして,この出願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成26年3月3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
空気圧縮モジュールとエキスパンダモジュールとを備えたエンジンであって,
空気圧縮モジュールが,
各々がコンプレッサユニット吸入口とコンプレッサユニット吐出口とを画定する,第1コンプレッサユニットと第2コンプレッサユニットと;
第1コンプレッサユニットのコンプレッサユニット吐出口から第2コンプレッサユニットの吸入口へ圧縮された空気を流通させる第1の手段と;
第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮された空気を流通させる第2の手段と;
を備え,少なくとも一つのコンプレッサユニットが,第1のピストン-シリンダ型デバイスを含んでおり,
エキスパンダモジュールが,
容量が可変の第2のピストン-シリンダ型デバイスであって,ヘッドを画定しているシリンダと,一つの面を有するピストンとを備えており,当該ピストンが,前記シリンダ内で,前記面がヘッドに近づき,第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最小となる上死点から,前記面がヘッドから離れて第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最大となる下死点までの往復運動を行なう第2のピストン-シリンダ型デバイスと,
ヘッドを通って前記シリンダに開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクトと,
ダクトに流入する圧縮空気を制御するための,ダクトの第2の開口の近くのエキスパンダ吸入バルブであって,ピストンが上死点に位置するときに開き,ピストンが上死点と下死点の間の選択された点に達すると閉じるエキスパンダ吸入バルブと,
ダクト内に燃料を注入するための噴射器であって,ダクト内の前記エキスパンダ吸入バルブと前記シリンダとの間で燃料と圧縮空気が混合されて混合気となり,燃料が前記流量に関係して選択的に噴射されて,混合気中の燃料と空気の比率を一定にし,前記シリンダ内の燃焼温度を一定に維持するようにする噴射器と,
上死点付近にピストンがあるときに混合気に点火し,それによって混合気が,シリンダ内で燃焼して膨張し,ピストンを下死点に向かって駆動し,過熱された排気ガスを生じる,点火手段と,
を備え,
前記第2のピストン-シリンダ型デバイスが更に,ヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための吐出バルブを備え,前記吐出バルブは,ピストンが下死点にあるときに開き,ピストンが上死点に向かって移動する途中の選択された点において閉じることにより,シリンダ内に残留する排気ガスの再圧縮が可能である,エンジン。」

2.刊行物
(1)当審において通知した拒絶の理由に引用された米国特許第4476821号明細書(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が図面とともに記載されている。(ここで{}内は当審による仮訳である。)

a.「FIG. 1 is a diagrammatic showing of the engine of the invention, particularly illustrating the compressor cylinder combination together with the power cylinder combination, the intervening heat exchanger and the valving.」(第1欄第33行?37行)
{図1は,本発明のエンジンの概略である。特に,圧縮シリンダ結合体と,熱交換器とバルブを介在したパワーシリンダ結合体とを共に示している。}

b.「The cylinder 14 has an atmospheric air inlet 16 opening to a compression chamber 17 within the cylinder above the piston. Flow through the inlet is controlled unidirectionally by a poppet valve 18 adapted to seat in the cylinder head and having a stem 19 interacting with a coil spring 21. The valve 18 is opened by pressure differential in one inflow direction and is similarly closed by pressure differential in the other outflow direction.
The chamber 17 opens through a port 22 into a duct 23, flow being controlled by a poppet valve 24 responsive to differential pressure and under the influence of a closing spring 26.」
(第1欄第63行?第2欄第7行)
{シリンダ14は,シリンダ内部でピストン上部に形成された圧縮チャンバ17に向けて開口した大気導入口16を有している。導入口を通る流れは,シリンダヘッドに着座し,コイルスプリング21と相互作用する軸19とを有するポペット弁18により一方向に制御される。弁18は流入方向の圧力差によって開放され,流出方向の圧力差により同様に閉じられる。チャンバ17は,差圧に応答し,閉鎖スプリング26の影響を受けるポペットバルブ24により制御されることで,通気口22を通ってダクト23の中に向けて開放される。}

c.「The throw 31 carries a connecting rod 32 joined to a piston 33 reciprocable within a power cylinder 34 in the customary fashion. The piston 33 is shown as having gone about three quarters of its stroke away from the top point of its travel. There is thus provided a variable volume clearance chamber 36 within the cylinder 34. As the crankshaft revolves, compressed air flowing through the duct 27 is able, in timed relationship, to flow past an open valve 38 into an antechamber 39 open to the chamber 36.」(第2欄第22行?32行)
{クランク腕31は,パワーシリンダ34内でピストン33と相互に連結されたコネクティングロッド32を慣用された方法で運動させる。ピストン33が上死点から約四分の三のストロークまで移動したものがここに示されている。そこには,このように可変容積チャンバ36が設けられている。クランクシャフトが回転すると,ダクト27を通って流れる圧縮空気は,そのタイミングに合わせて,入口弁38を通ってチャンバ36に通じる副チャンバ39に向けて流すことができる。}

d.「At that time there is a fuel charge added to the inflowing compressed air. This is accomplished by an injector 51 projecting generally axially into the antechamber. A fuel inlet duct 52 connected to a timed pump 53 controlled by a cam 54 on the crankshaft portion 7 supplies fuel to the injector 51. Preferably, the fuel jetted from the injector 51 travels into the antechamber 39 and then through a tube or venturi-shaped communicating passage 57 into the clearance chamber 36.」(第2欄第47行?56行)
{その時,流入する圧縮空気に向けて燃料がチャージされる。これは,副チャンバに向けてほぼ軸方向に噴射するインジェクタ51により達成される。クランクシャフト7のカム54により制御される時限ポンプ53が接続された燃料入口ダクト52は,インジェクタ51に燃料を供給する。好ましくは,インジェクタ51からの燃料噴射は,副チャンバ39に流入し,チューブ状,又はベンチュリ形状の連絡通路57を通ってチャンバ36に流入する。}

e.「 In many instances, depending upon the fuel used and the fuel-air mixture, combustion immediately ensues upon injection with expansion into the clearance chamber 36. In some instances, it is desired to initiate or augment the ignition of the fuel. An ignition device 58 or sparkplug is therefore positioned so as to aid in igniting the incoming combustible air-fuel mixture.」(第2欄第47行?56行)
{多くの例では,使用される燃料と混合気とによって直ちに行われる燃焼により,確実にチャンバ36の中に拡散するように噴射される。いくつかの例では,燃料の点火を始めに行うか,または増やすことが望まれている。点火プラグ58又は点火装置が,混合気への点火を補助するように配置されている。}

f.「 The clearance chamber 36 is also connected to an exhaust duct 61, out-flow being regulated by a poppet valve 62 having a spring 63 and actuated by a cam 64 on the cam shaft 47. The exhaust valve 62 operates in time with the remaining part of the mechanism. It is normally closed during combustion and the out-stroke of the piston 33 and is opened to release burned gases into the duct 61 as the piston 33 engages in its in-stroke. Flow of the hot gases through the duct 61 is into the jacket 29 of the heat exchanger 28. Much of the exhaust gas heat is released to the compressed air flowing toward the combustion cylinder, and then the cooled exhaust gas discharges through a pipe 69 to the atmosphere.」(第2欄第64行?第3欄第9行)
{チャンバ36は排気ダクト61に接続され,排気はスプリング63を有するとともにシャフト47のカム64によって作動されるポペットバルブ62によって調節される。排気弁62は,機構の残りの部分とともに時間的に動作する。これは,燃焼中でピストン33がアウトストロークの間,排気弁は閉じられ,排気ガスをダクト61に放出するためにピストン33がインストロークとなるときに,排気弁は開かれる。ダクト61を通る高温ガスは,熱交換器28のジャケット39の中に流入する。排気ガスの熱の多くは燃料シリンダに流れる圧縮空気に放出され,冷却された排気ガスはパイプ69を通って大気に放出される。}

g.「 It is to be noted particularly that during the operation of the piston 33 the inlet valve 38 remains open from approximately a top dead center position or in dead center position of the piston 33 for a large part of the out-stroke of that piston and that combustion occurs over a protracted period relative to the out-stroke of the piston 33. 」(第3欄第10行?16行)
{これは,ピストン33の動作中に入口弁38が,ピストン33の略上死点の位置,又は死点の位置から,ピストンのアウトストロークの大部分の間,開いた状態となること,燃焼はピストン33のアウトストロークに関連した長い期間にわたり行われることに留意すべきである。}

h.「Since the air compression is conducted separately and since the exhaust gas from the power chamber is utilized to transfer heat to the incoming compressed air, and since the combustion takes place over a long or large part of the power stroke of the piston 33, the thermal efficiency of the engine is improved.」(第3欄第23行?29行)
{空気圧縮が分離して行われ,動力室からの排気ガスが流入圧縮空気の熱交換に利用され,燃焼がピストン33のストロークの長い期間にわたり行われるので,エンジンの熱効率は向上する。}

・図1より,圧縮シリンダ結合体が,大気導入口16とダクト23とを備え,ピストン13及びシリンダ14を含んでいること,パワーシリンダ結合体が,シリンダヘッドを画定しているパワーシリンダ34と,ピストン33とを備えていることが把握できる。そして,パワーシリンダ34と,ピストン33とを含めて,ピストン-シリンダ型部材と言うことができる。また,ピストン-シリンダ型部材の容量が可変であることは,明らかである。

・同様に,図1より,パワーシリンダ34側を向いた開口とダクト27側を向いた開口を有するダクト(パワーシリンダ34の左上に設けられた斜線で示された部分)が把握できる。パワーシリンダ34側を向いた開口は,シリンダの上部に設けられているから,シリンダヘッドを通ってパワーシリンダ34に開いており,ダクトの一方に設けられた第1の開口と言うことができる。ダクト27側を向いた開口は,圧縮シリンダ結合体のダクト23から圧縮空気を受け取るものであり,第2の開口と言うことができる。
そして,ダクトには入口弁38が設けられているから,圧縮空気が可変な流量でダクトを通過することは明らかである。また,入口弁38がダクトに流入する圧縮空気を制御するためのものであることも明らかである。

・同様に,図1より,上記ダクトのダクト27側を向いた開口である第2の開口の近くに入口弁38を備える点,ダクト内の入口弁38とパワーシリンダ34との間で燃料と圧縮空気が混合されて混合気とするインジェクタ51を備える点,シリンダヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための排気弁62を備える点が把握できる。

以上の記載を整理し,本願発明にならって表現すると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」という。)。
「圧縮シリンダ結合体とパワーシリンダ結合体とを備えたエンジンであって,
圧縮シリンダ結合体が,
大気導入口16とダクト23とを備えたシリンダ14,及びピストン13を含んでおり,
パワーシリンダ結合体が,
容積が可変のピストン-シリンダ型部材であって,シリンダヘッドを画定しているパワーシリンダ34と,ピストン33とを備えており,ピストン33と相互に接続されたコネクティングロッド32を慣用された方法で運動させるピストン-シリンダ型部材と,
シリンダヘッドを通って前記パワーシリンダ34に開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,圧縮シリンダ結合体のダクト23から圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクトと,
ダクトに流入する圧縮空気を制御するための,ダクトの第2の開口の近くの入口弁38であって,ピストンが略上死点の位置からピストンのアウトストロークの大部分の間,開いた状態となる入口弁38と,
ダクト内に燃料をチャージするためのインジェクタ51であって,ダクト内の前記入口弁38と前記パワーシリンダ34との間で燃料と圧縮空気が混合されて混合気とするインジェクタ51と,
混合気に点火する点火プラグ58と,
を備え,
前記ピストン-シリンダ型部材が更に,シリンダヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための排気弁62を備え,前記排気弁62は,ピストン33がインストロークになるときに開くエンジン。」

(2)当審において通知した拒絶の理由に引用された実願昭60-22571号(実開昭61-140125号)のマイクロフィルム(以下,「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「本考案は,2サイクル式機関をもとに,排気行程と圧縮行程を分離し,圧縮機能を,主機のシリンダ,ピストン機構から除外し,専用の圧縮機に持たせことを基本とし,圧縮機より吐出された圧縮空気に排気熱を回収し,機関の熱効率を高めることを目的とする。」(第4頁第8?13行参照。)

・「50は往復式の圧縮機であり,通常広く用いられている型式のものであり,吸入弁,吐出弁等詳細は省略してある。圧縮機50は,図記せる如く,クランク52,コネクティングロッド53によりピストン51をシリンダ54内に往復運動させることによって,空気の圧縮を行う。圧縮機50は,図においては,主機1の主軸14から,ベルト等の伝達手段15を介して,圧縮機クランク軸52が回転されるように示されている。圧縮機50の駆動は,図示によらず,主機クランク軸14と一体の軸による駆動,歯車チェーン等他の伝達手段による駆動,または主機クランク軸14と,継手を介して,同軸状に圧縮機クランク軸52を配設駆動する構造によってもよい。圧縮機50の駆動は,主機1の排出容量と圧縮機50の吐出容量に依存するとともに,機関のレイアウトによっても自由に選択さるべきものである。
49はタービン過給機であり,41,42,43,44,46は主機給気側の導管,31,33は,主機排気側の導管である。また,32は排気タービン,45は遠心式の低圧圧縮機である。
42は熱交換器を示しており,主機1の排気マニホルド30に設けられ,排気ガスと主機1に供給される圧縮機50からの高圧空気との間の熱交換を行なう。
タービン過給器49,圧縮機50,熱交換器42は,主機1に向ってこの順で,主機1への高圧空気導管の途中に設けられる。」(第8頁第9行?第9頁第16行参照。)

・「次に往復型圧縮機50は導入された低圧空気をピストン51の圧縮作用により,加圧し,高圧空気を吐出する。この際の空気圧は,機関の使用により適宜設定されてよいが,主機1内での燃焼等を考慮すれば,30?60kg/cm^(2)absが適当である。この際加圧空気の温度は,圧縮により300?600℃程度に上昇する。この加圧空気は,導管43,42,41を通り,吸気用マニホールド40へ供給される。」(第10頁第9?17行参照。)

(3)当審において通知した拒絶の理由に引用された特表2003-529710号公報(以下,「刊行物3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1つのシリンダであって,前記または各シリンダが前記シリンダ内で往復運動可能でありかつ燃焼室を画定するピストンを持ち,前記または各燃焼室が前記燃焼室内への流れを制御するための空気吸込弁付き圧縮空気吸込口と,燃料がそこを通して前記燃焼室内へ噴射される燃料噴射器と,前記燃焼室から出る流れを制御するための排出弁付き吐出口とを有する前記シリンダと,多少の排気ガスが前記燃焼室内に捕捉され圧縮されるように,実質的に前記ピストンが上死点に達する前にかつ実質的に前記空気吸込弁が開口する前に前記排出弁が閉じるように,前記ピストンの運動に関連して前記空気吸込弁および前記排出弁を制御するための制御手段とを備えた2行程内燃機関。
【請求項2】 前記排出弁の閉止と前記空気吸込弁の開口との間のギャップが,前記ピストンを駆動する基準クランクシャフトのクランク角で少なくとも10°,好ましくは少なくとも15°,さらに好ましくは少なくとも20°となるように,前記制御手段を構成した,請求項1に記載の機関。
【請求項3】 前記排出弁の閉止と上死点との間のギャップが,前記ピストンを駆動する基準クランクシャフトのクランク角で少なくとも10°,好ましくは少なくとも15°,さらに好ましくは少なくとも20°となるように,前記制御手段を構成した,請求項1または2に記載の機関。
【請求項4】 前記吸込弁が上死点の直前に開口するように,前記制御手段を構成した,請求項1ないし3のいずれか1項に記載の機関。
【請求項5】 圧縮空気が前記燃焼室内に導入されるのと実質的に同時に燃料を前記燃焼室内に噴射するように,前記制御手段を構成した,請求項1ないし4のいずれか1項に記載の機関。
【請求項6】 前記排出弁が閉止した後,上死点の前に少量の燃料を前記燃焼室内に噴射するように,前記制御手段を構成した,請求項1ないし5のいずれか1項に記載の機関。
【請求項7】 前記少量の燃料が主噴射に使用されるものと同一種類であり,かつ前記燃料噴射器を通して導入される,請求項6に記載の機関。
【請求項8】 圧縮空気を前記燃焼室に供給するための圧縮機をさらに備えた,請求項1ないし7のいずれか1項に記載の機関。
【請求項9】 前記圧縮機が前記または各ピストンによって駆動される往復圧縮機である,請求項8に記載の機関。」

・「【0001】
本発明は2行程内燃機関に関する。さらに詳しくは,本発明はそのような機関における燃料点火および燃焼のプロセスに関する。
【0002】
従来の往復内燃機関の圧縮行程はかなりの量のエネルギを必要とすることが長年認識されており,それはある程度,機関の性能低下の寄生的原因とみなすことができる。この理由の1つは,従来の機関に誘導される空気が高温シリンダヘッド,ライナ,およびピストンとの接触によって加熱されることである。圧縮機の仕事は,温度を上昇させるプロセスによって著しく増加する。
【0003】
圧縮の仕事は,燃焼が起こるシリンダよりずっと冷温にすることができる別個のシリンダ内で空気を圧縮することによって低減することができる。空気の外部圧縮のさらなる利点は,圧縮された空気を高温エンジン排気ガスで予熱することによって,燃料を節約することが可能なことである。そのような構成は,圧縮された空気が貯蔵タンクから燃焼シリンダへ供給される2行程または4行程機関を記載した米国特許第4,300,486号に開示されている。空気は機関の外部の供給源からの動力を用いて効率的に圧縮される。」

・「【0009】
したがって本発明は,信頼できる燃焼を提供し,低保守の単純な構造を持ち,天然ガスのように点火しにくいものを含めて広範囲の可燃性燃料を使用することができる外部空気圧縮付き2行程内燃機関において,事前混合されていない燃料に点火する方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明では,2行程内燃機関は,少なくとも1つのシリンダであって,該または各シリンダがシリンダ内で往復運動可能でありかつ燃焼室を画定するピストンを持ち,該または各燃焼室が燃焼室内への流れを制御するための空気吸込弁付き圧縮空気吸込口と,燃料がそこを通して燃焼室内へ噴射される燃料噴射器と,燃焼室から出る流れを制御するための排出弁付き吐出口とを有して成るシリンダと,多少の排気ガスが燃焼室内に捕捉され圧縮されるように,実質的にピストンが上死点に達する前にかつ実質的に空気吸込弁が開く前に排出弁が閉じるように,ピストンの運動に関連して空気吸込弁および排出弁を制御するための制御手段とを備える。
【0011】
排気ガスは本質的にすでに高温である(通常500?800℃)。空気吸込み弁が閉じた状態で排出弁が閉じると,ピストンは上死点まで移動し続け,燃焼室内の排気ガスを圧縮する。所定の圧力比に対して,圧縮後の絶対温度は圧縮の開始時の絶対温度に比例する。適切な圧力比を選択することによって,圧縮排気ガスは,天然ガスなど低発火性の燃料さえも点火させることのできる充分高い温度にまで上昇させることができる。」

・「【0051】
機関は,例えば各々が往復ピストンを持ちかつ2行程サイクルで燃料を内部で燃焼する3つのシリンダの形の燃焼器を含む。3つのシリンダを図1に,単一のシリンダ1および往復ピストン2によって模式的に表す。ピストン2の上面には,燃料噴射器5に隣接して配置されたピストンボウル2Aが設けられている。3つの燃焼シリンダのピストン2は,従来の構成である共通クランクシャフト(図示せず)に接続される。各シリンダは2つの圧縮空気吸込弁3と,2つの排出吐出弁4と,燃料噴射器5を有する(図1には各種の弁が1つずつ示されているだけであることに注意されたい)。
【0052】
燃焼シリンダ1は高温圧縮空気の供給を受ける。これは,ピストンがシリンダ内で往復して圧縮を生じさせる往復圧縮機6である等温圧縮機で生成される。圧縮ピストンは,燃焼シリンダ1と同じクランクシャフトに接続することができる。圧縮プロセス中に,圧縮プロセスをできるだけ等温近くに維持するために,等温圧縮機6内に水が噴射される。等温圧縮を達成するためのノズルの適切な構成が,WO 98/16741に開示されている。
【0053】
冷温圧縮空気および水は次いで分離器7に供給され,そこで水の大部分が圧縮空気から分離される。今や実質的に水を含まない圧縮空気は管路8に沿って回収熱交換器9を介して供給され,そこでそれは,燃焼シリンダ1の1つに入る前に燃焼シリンダ1からの排気ガスから熱を受け取る。ピストンボウル2Aを除き,これまで記載した機関の要素は全てWO 94/12785の図4に存在する。
【0054】
本発明の独自の特徴は,有利な点火プロセスを達成するために燃焼器の弁のタイミングの制御にある。弁のタイミングの制御は,例えばカム突出部が必要なタイミングを達成するのに適したプロファイルを持つカムシャフトにより行われる。弁が電磁式,液圧式,または気圧式に作動する場合,適切な制御回路により同じ効果を達成することができる。
【0055】
シリンダの圧力,燃料供給,吸込弁の開口,および排出弁の開口のタイミングが図2に示されており,この図面に基づいて,単一の燃焼シリンダの完全な2行程サイクルについて今から説明しよう。幾つかの燃焼シリンダの場合,各々が位相を適切に遅らせて同一プロセスに従う。
【0056】
排出弁は,下死点に達する時点までに実質的な開口が行われるように,上死点より20クランク角度前に開口し始める。この時点でシリンダの急速な減圧または排出が行われる。シリンダ圧力が回収熱交換機の圧力と均衡すると,減圧は停止する。ピストンの上向行程の大部分で,シリンダ圧力は回収熱交換機の低圧側のそれと同様である一方,ピストン2が排出弁4を通して排気ガスをシリンダ1から押し出す。
【0057】
排出弁はピストンの上向行程中に閉止し始め,図2Dに示すように上死点より約25°前に実効的閉止(すなわち5%未満のリフト)に達し,燃焼室内の残留排気ガスを捕捉する。この点に達する前でさえも,多少の温度上昇があり,この点の後に,圧力は空気吸込口に供給される空気の圧力の約60%まで実質的にさらに増加する。この圧力上昇は図2Aに示されている。圧力上昇は実質的な温度上昇を随伴する。吸込空気の圧力までの最終圧力上昇は,吸込弁が開口し始める上死点の直前に非常に急激に発生する。この最終圧力上昇もまた,捕捉された排気ガスの温度のさらなる上昇を引き起こし,それは点火プロセスをさらに助長する。他方,この最終再圧縮を引き起こす流入空気はより冷温であるので,混合平均温度はあまり上昇しない。この時点で,図2(B)に示すように,燃料噴射器が少量の燃料を噴射するために短時間開口し,それは高温排気ガス内の未燃焼酸素と結合して,排気ガスの圧縮によって生じた高温環境で点火する。
【0058】
吸込弁3は,図2(C)に実線で示すように上死点の直前に開口し始めて,高温圧縮空気を燃焼シリンダ1内に流入させる。同時に,燃料噴射器が図2(B)に示すようにボウル2Aへの,主投入量の燃料を噴射する。燃料噴射プロセスは,図2Bおよび図2Cに示すように空気吸込弁が閉止する少し前に終了することができ,あるいは空気吸込弁の閉止の少し後に終了することができる。これは機関負荷,燃焼器膨張の圧力比,機関の速度,および燃料噴射と燃焼との間の時間遅延に依存する。高温圧縮空気と主投入量の燃料との混合物は,先に噴射された燃料の自己点火の結果発生する火炎によって点火される。ピストン2が動力行程で下方に駆動されるにつれて,高温燃焼ガスは膨張し,仕事を行う。図2Aに示すように,膨張が進むにつれて燃焼シリンダ1内の圧力が低下する。下死点の直前に,排出弁は,図2(D)に示すように次の行程に備えて開口し始める。」

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
後者の「圧縮シリンダ結合体」は,前者の「空気圧縮モジュール」に相当し,以下同様に,「パワーシリンダ結合体」は「エキスパンダモジュール」に,「ピストン-シリンダ型部材」は「第2のピストン-シリンダ型デバイス」に,「パワーシリンダ34」は「シリンダ」に,「入口弁38」は「エキスパンダ吸入バルブ」に,「インジェクタ51」は「噴射器」に,「点火プラグ58」は「点火手段」に,「シリンダヘッド」は「ヘッド」に,「排気弁62」は「吐出バルブ」に,それぞれ,相当する。
後者の「ピストン13及びシリンダ14」は,「第1のピストン-シリンダ型デバイス」といえるから,後者の「大気導入口16とダクト23とを備えたシリンダ14,及びピストン13を含」むとの概念と,前者の「空気圧縮モジュールが,各々がコンプレッサユニット吸入口とコンプレッサユニット吐出口とを画定する,第1コンプレッサユニットと第2コンプレッサユニットと;第1コンプレッサユニットのコンプレッサユニット吐出口から第2コンプレッサユニットの吸入口へ圧縮された空気を流通させる第1の手段と;第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮された空気を流通させる第2の手段と;を備え,少なくとも一つのコンプレッサユニットが,第1のピストン-シリンダ型デバイスを含」むとの概念とは,「空気圧縮モジュールが,第1のピストン-シリンダ型デバイスを含」むとの概念で共通する。
エンジンにおけるピストン及びシリンダの構造として,ピストンが一つの面を備えている点,ピストンの一つの面が,シリンダ内で,ヘッドに近づき,容量が最小となる上死点から,ヘッドから離れて容量が最大となる下死点までの往復運動を行なう点は,自明な事項である。よって,後者の「容積が可変のピストン-シリンダ型部材であって,パワーシリンダ34と,ピストン33とを備えており,ピストン33と相互に接続されたコネクティングロッド32を慣用された方法で運動させるピストン-シリンダ型部材」は,前者の「容量が可変の第2のピストン-シリンダ型デバイスであって,ヘッドを画定しているシリンダと,一つの面を有するピストンとを備えており,当該ピストンが,前記シリンダ内で,前記面がヘッドに近づき,第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最小となる上死点から,前記面がヘッドから離れて第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最大となる下死点までの往復運動を行なう第2のピストン-シリンダ型デバイス」に相当する。
後者の「シリンダヘッドを通ってパワーシリンダ34に開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,圧縮シリンダ結合体のダクト23から圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクト」と,前者の「ヘッドを通ってシリンダに開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクト」とは,「ヘッドを通ってシリンダに開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクト」の概念で共通する。
後者の「入口弁38」が「ピストンが略上死点の位置からピストンのアウトストロークの大部分の間,開いた状態となる」ことは,アウトストロークの全てにおいて開いた状態となるのではなく,アウトストロークが開始される上死点と,終了する下死点との間の選択された点で閉じると解することができるから,後者の「ダクトの第2の開口の近くの入口弁38であって,ピストンが略上死点の位置からピストンのアウトストロークの大部分の間,開いた状態となる入口弁38」は,前者の「ダクトに流入する圧縮空気を制御するための,ダクトの第2の開口の近くのエキスパンダ吸入バルブであって,ピストンが上死点に位置するときに開き,ピストンが上死点と下死点の間の選択された点に達すると閉じるエキスパンダ吸入バルブ」に相当する。
エンジンにおけるピストンと点火手段との関連について,上死点付近にピストンがあるときに混合気に点火する点,また,それによって混合気が,シリンダ内で燃焼して膨張し,ピストンを下死点に向かって駆動し,過熱された排気ガスを生じることは,自明な事項である。よって,後者の「混合気に点火する点火プラグ58」は,前者の「上死点付近にピストンがあるときに混合気に点火し,それによって混合気が,シリンダ内で燃焼して膨張し,ピストンを下死点に向かって駆動し,過熱された排気ガスを生じる,点火手段」に相当する。
後者の「排気弁62」が「ピストン33がインストロークになるときに開く」ことは,インストロークが開始される下死点にあるときに開くと解することができるから,後者の「ピストン-シリンダ型部材が更に,シリンダヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための排気弁62を備え,前記排気弁62は,ピストン33がインストロークになるときに開く」との概念は,前者の「第2のピストン-シリンダ型デバイスが更に,ヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための吐出バルブを備え,前記吐出バルブは,ピストンが下死点にあるときに開」くとの概念に相当する。

してみると,両者は,
「空気圧縮モジュールとエキスパンダモジュールとを備えたエンジンであって,
空気圧縮モジュールが,
第1のピストン-シリンダ型デバイスを含んでおり,
エキスパンダモジュールが,
容量が可変の第2のピストン-シリンダ型デバイスであって,ヘッドを画定しているシリンダと,一つの面を有するピストンとを備えており,当該ピストンが,前記シリンダ内で,前記面がヘッドに近づき,第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最小となる上死点から,前記面がヘッドから離れて第2のピストン-シリンダ型デバイスの容量が最大となる下死点までの往復運動を行なう第2のピストン-シリンダ型デバイスと,
ヘッドを通って前記シリンダに開く,一方の端部に設けられた第1の開口と,圧縮空気を受け取る第2の開口とを有するダクトであって,圧縮空気が可変な流量で通過するダクトと,
ダクトに流入する圧縮空気を制御するための,ダクトの第2の開口の近くのエキスパンダ吸入バルブであって,ピストンが上死点に位置するときに開き,ピストンが上死点と下死点の間の選択された点に達すると閉じるエキスパンダ吸入バルブと,
ダクト内に燃料を注入するための噴射器であって,ダクト内の前記エキスパンダ吸入バルブと前記シリンダとの間で燃料と圧縮空気が混合されて混合気とする噴射器と,
上死点付近にピストンがあるときに混合気に点火し,それによって混合気が,シリンダ内で燃焼して膨張し,ピストンを下死点に向かって駆動し,過熱された排気ガスを生じる,点火手段と,
を備え,
前記第2のピストン-シリンダ型デバイスが更に,ヘッドの近くに,加熱された排気ガスの排除を制御するための吐出バルブを備え,前記吐出バルブは,ピストンが下死点にあるときに開く,エンジン。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
空気圧縮モジュールに関して,本願発明では,各々がコンプレッサユニット吸入口とコンプレッサユニット吐出口とを画定する,第1コンプレッサユニットと第2コンプレッサユニットと;第1コンプレッサユニットのコンプレッサユニット吐出口から第2コンプレッサユニットの吸入口へ圧縮された空気を流通させる第1の手段と;第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮された空気を流通させる第2の手段と;を備え,少なくとも一つのコンプレッサユニットが,第1のピストン-シリンダ型デバイスを含むのに対して,刊行物1記載の発明は,大気導入口16とダクト23とを備えたシリンダ14,及びピストン13を含む点。

[相違点2]
ダクトの第2の開口に関して,本願発明では,第2コンプレッサユニットの吐出口から圧縮空気を受け取るのに対して,刊行物1記載の発明では,圧縮シリンダ結合体のダクト23から圧縮空気を受け取る点。

[相違点3]
噴射器に関して,本願発明では,燃料が流量に関係して選択的に噴射されて,混合気中の燃料と空気の比率を一定にし,シリンダ内の燃焼温度を一定に維持するのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような特定がない点。

[相違点4]
吐出バルブに関して,本願発明では,ピストンが上死点に向かって移動する途中の選択された点において閉じることにより,シリンダ内に残留する排気ガスの再圧縮が可能であるのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような特定がない点。

4.当審の判断
上記[相違点1][相違点2]について検討する。
刊行物2には,各々が吸入口と吐出口とを有するタービン過給器49(第1のコンプレッサユニット)及び圧縮機50(第2のコンプレッサユニット)と,タービン過給器49(第1のコンプレッサユニット)から圧縮機50(第2のコンプレッサユニット)に空気を流通させる導管44(第1の手段)と,圧縮機50(第2のコンプレッサユニット)から高圧空気を吸気用マニホールド40に供給する導管43(第2の手段)とを有し,圧縮機50(第2のコンプレッサユニット)は,ピストン51をシリンダ54内に往復運動させることによって空気の圧縮を行う2サイクル排気熱回収機関が開示されている(以下,これを「刊行物2記載の技術的事項」という。)。
そして,刊行物2記載の技術的事項は,ピストン51をシリンダ54内に往復運動させることによって空気の圧縮を行う圧縮機50を有しているから,少なくとも一つのコンプレッサユニットが,第1のピストン-シリンダ型デバイスを含むものといえる。
刊行物1記載の発明と,刊行物2記載の技術的事項とは,圧縮行程を分離することにより機関の熱効率を向上させるという共通の機能を有するものであるから,刊行物1記載の発明の圧縮シリンダ結合体の構成として,刊行物2記載の技術的事項を採用し,相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が格別の創作能力を要さずになし得たものである。

上記[相違点3]について検討する。
燃料噴射量を調整して,混合気中の燃料と空気の比率を一定に制御することは,例えば,特開平10-176578号公報(【請求項1】,段落【0001】?【0013】参照。),特開2003-129882号公報(【請求項1】,段落【0029】参照。),特開平10-47095号公報(段落【0004】,段落【0025】参照。),特開平5-133255号公報(【請求項1】,段落【0001】?【0008】参照。),特開平4-103853号公報(第1頁左下欄第5行?第2頁右下欄第13行参照)に示すとおり,エンジン制御の技術分野において,周知の技術である。
そして,燃料噴射器により混合気中の燃料と空気の比率が一定に制御されて,その他の要因の変化がなければ,エンジンに供給される混合気中の燃料の割合も一定となり,同じような燃焼が継続することとなるから,シリンダ内の燃焼温度が一定に維持されることは,当業者が容易に予測し得ることといえる。
また,請求人も,「一定の燃焼温度を維持するためには,不可変の瞬間的な空燃比を維持するように空気流に対する燃料流を制御することが必要となります。空燃比が全燃焼プロセスの間,同じ値であることから,その結果,燃焼期間中,燃焼温度は一定温度で生じることになります。」(平成26年4月9日付けファクシミリの第14行?第17行。),「一定の燃料空気比を維持する結果,燃焼温度は一定に保たれますが,異なる空気の流速は,異なる断熱火炎温度を生じます。」(平成26年5月13日付けファクシミリの第24行?第25行。)と,燃焼温度を一定に維持することは,空燃比を一定にした結果である旨述べている。
そうしてみると,刊行物1記載の発明に,上記周知の技術を適用し,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が格別の創作能力を要さずになし得たものである。

上記[相違点4]について検討する。
刊行物3には,圧縮空気が供給される吸込口を有し,多少の排気ガスが燃焼室内に捕捉され圧縮されるように,実質的にピストンが上死点に達する前にかつ実質的に空気吸込弁が開口する前に排出弁が閉じるように,ピストンの運動に関連して空気吸込弁および前記排出弁を制御するための制御手段を備えた2行程内燃機関が開示されている(以下,これを「刊行物3記載の技術的事項」という。)。
そして,刊行物3記載の技術的事項において,「多少の排気ガスが燃焼室内に捕捉され圧縮されるように,実質的にピストンが上死点に達する前にかつ実質的に空気吸込弁が開口する前に排出弁が閉じる」ことは,「ピストンが上死点に向かって移動する途中の選択された点において閉じることにより,シリンダ内に残留する排気ガスの再圧縮が可能」であることに相当するものであるといえる。
ここで,請求人は,平成26年3月3日提出の意見書において,「事前混合しないエンジンに関する発明である刊行物3における排出弁を開閉するタイミングを、事前混合するエンジンに関する発明である刊行物1に適用するためには、単に排出弁を閉じるタイミングだけを適用することは困難であると考えます。よって、刊行物3を参照した場合には、排出弁を閉じるタイミングだけでなく、排出弁を開くタイミングについても刊行物1に適用することが必要」であると主張する。
しかしながら,刊行物3の段落【0056】には,排出弁を開くタイミングについて「排出弁は,下死点に達する時点までに実質的な開口が行われるように,上死点より20クランク角度前に開口し始める。」(図2からこの「上死点」は「下死点」の誤記であることが分かる。)と記載されており,図2を参照すると,確かに,開口し始めるのは下死点よりもやや手前であるが,実質的な開口が行われるのは下死点であると考えられる。よって,ピストンがインストロークになるときに排気弁が開く刊行物1記載の発明と,排出弁(排気弁)を開くタイミングについて,実質的な違いがあるものではなく,その違いは,当業者が適宜調整可能な範囲のものである。
刊行物1記載の発明と刊行物3記載の技術的事項とは,圧縮機から圧縮空気を供給するエンジンという点で共通するものであるから,刊行物1記載の発明に,刊行物3記載の技術的事項を適用し,相違点3に係る本願発明の構成とすることは,当業者が格別な創作能力を要さずに想到し得たことである。

しかも,本願発明の構成により,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項,刊行物3記載の技術的事項,及び周知の技術からみて格別顕著な効果が奏されるものともいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項,刊行物3記載の技術的事項,及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-10 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-30 
出願番号 特願2009-513396(P2009-513396)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤井 昇
平城 俊雅
発明の名称 改良型エンジン  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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