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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1294233
審判番号 不服2013-21454  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-01 
確定日 2014-11-20 
事件の表示 特願2008-298721「微細加工装置および微細加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月 3日出願公開、特開2010-120079〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成20年11月21日の特許出願であって、平成25年1月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成25年3月19日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲について補正がなされたが、平成25年7月31日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成25年11月1日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。

第2 平成25年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年11月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成25年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成25年3月19日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「 【請求項1】
載置されたワークを加工する所定光を出射する光源と、
前記ワークの加工領域を含む前記ワーク上の画像を前記所定光の光軸と同じ撮像光軸をもつ同軸画像として取得する撮像部と、
前記光源と前記ワークとの間に配置され、前記所定光が照射可能な全領域のうち、少なくとも前記ワークの加工領域に対応させて前記所定光を透過させる透過領域以外の領域で前記所定光をマスクする液晶マスクと、
前記撮像部で取得された画像の領域と前記液晶マスクの領域との位置関係を対応付ける対応付け部と、
前記対応付け部による位置関係をもとに、前記液晶マスクの透過領域を前記画像上の加工領域に一致させるマスク制御部と、
少なくとも前記透過領域に前記所定光を照射する加工制御部と、
を備えたことを特徴とする微細加工装置。」

(2)<補正後>
「【請求項1】
載置されたワークを加工する所定光を出射する光源と、
前記光源と前記ワークとの間に配置され、前記所定光が照射可能な全領域のうち、少なくとも前記ワークの加工領域に対応させて前記所定光を透過させる透過領域以外の領域で前記所定光をマスクする液晶マスクと、
前記ワークの加工領域を含む前記ワーク上の画像を前記所定光の光軸と同じ撮像光軸をもつ同軸画像として取得し、取得した画像を前記液晶マスクの透過領域の位置補正用の画像として提供する撮像部と、
前記撮像部が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行う画像処理部と、
前記撮像部で取得された画像の領域と前記液晶マスクの領域との位置関係を対応付ける対応付け部と、
前記画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、前記対応付け部による位置関係をもとに、前記画像上の加工領域に対応する前記液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とし、前記液晶マスクの透過領域以外の領域をマスクするマスク制御部と、
少なくとも前記透過領域に前記所定光を照射する加工制御部と、
を備えたことを特徴とする微細加工装置。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「撮像部」について、「取得した画像を前記液晶マスクの透過領域の位置補正用の画像として提供」することを限定し、「微細加工装置」について、「撮像部が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行う画像処理部」を備えることを限定し、また、「マスク制御部」について、「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし」「画像上の加工領域に対応する前記液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とし、前記液晶マスクの透過領域以外の領域をマスクする」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「微細加工装置」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原審の平成25年1月25日付け拒絶の理由にも引用された、本件出願日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明が記載されていると認められる。
刊行物1:特開平7-111303号公報

ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「液晶マスク方式レーザ加工機及び樹脂封止型半導体装置の製造方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項2】 樹脂封止された半導体装置を所定の位置へ断続的に載置する搬送手段と、予め設定された基準位置と実際の半導体装置の位置との差を測定するための映像装置及び演算装置と、前記差により位置を補正しうる液晶マスクを備えたレーザー加工装置からなることを特徴とする液晶マスク方式レーザー加工機。」

(イ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、加工マスクとワークとの位置合せ(アライメント)に機械的なX-Y-θテーブルを用いている為、装置が複雑かつアライメントに時間を要するという課題があった。さらに、帯状のワークを巻いたフープ材の加工においては、ワーク側でのアライメント動作は難しい。
【0004】そこでこの発明の発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討の結果液晶マスクの特性(電気信号でマスク位置が変更できる特性)を利用し、ワーク側でのアライメント動作をなくすことにより、シンプルな操作でアライメントを完了させることができる高精度なレーザ加工方法を見い出しこの発明に到った。」

(ウ)
「【0007】(前略)・・・映像装置としては、公知のものが使用でき、例えば、CCDカメラ、フォトダイオート等が挙げられる。この映像装置に入力された樹脂封止された半導体装置の認識位置は、更に演算装置に入力され、予め設定された基準位置とのズレ量(X,Y,θ)が算出される。算出されたデータは、更に液晶マスクに入力され、その入力に基づいて液晶マスクのレーザーの透過パターンが補正され、個々の半導体装置の適切な位置にレーザーが照射されることとなり、液晶マスクサイズ144×72mm、ドット数72×36、使用レンズの倍率1/40とした場合、レーザー加工エリアは3.6×1.8mmで、1ドット当たり50μmの高精度な加工が可能となる。」

(エ)
「【0009】ワーク加工位置に供給された半導体装置は、固定され該ワーク加工位置の近傍に設置された映像装置及び演算装置によってワーク位置が認識される。次に、認識されたワーク位置と予め設定されている基準位置とのズレ量(X,Y,θ)が演算装置により演算される。
【0010】次に、演算装置と接続されたレーザー加工装置内の液晶マスクに、電圧を印加することにより、演算されたズレ量に対応する部分に透過パターンが形成される。つまり、従来においては、実際にテーブルユニットを移動させることにより位置補正を行っていたが、本発明では簡便にマスク上で行うことができる。この後に、前記透過パターンを通して、レーザーを照射することによって、ダム部樹脂及びダイバー部が除去され半導体装置が完成する。」

(オ)
「【0012】
【実施例】以下に本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るフープ状で生産されるICへのレーザ加工を行う装置のスケッチ図であり、図2は加工時のフロー図であり、図3は、加工部分の概略構成図であり、図4は液晶マスクのパターン位置補正機能の動作説明図である。
【0013】以下に動作を説明すると、送り出された連続したワーク(4)は搬送手段(6)により、加工位置に搬送(図2(A))され、位置決めピン(7)により固定(図2(B))される。この時の位置決め精度は映像装置であるCCDカメラ認識範囲(認識範囲は認識精度により異なるが、この場合約13×12mm程度で認識精度は約25μm)であればどの位置にバラツイてもよい。次にカメラ(3)及び演算装置(2)によりワークの位置が認識(図2(C))され、図4に示すマスク基準位置(図4の1-2)とワーク認識位置(図4の1-3)との差(X,Y,θ)が算出(図2(A))される。その算出されたデータを液晶マスクを備えたレーザ加工機に転送(図2(E))すると、基準位置のマスクパターンが位置補正(図2(F),図4(C))され、レーザ加工が実施(図2(G))される。また、液晶のマスクドット数は72×36で加工エリアを3.6×1.8mmとすると1ドット、約50μmとなり、ファインアライメントにより高精度の加工が可能である。」

(カ)符号の説明
「1 液晶マスク式レーザ加工機
2 演算装置
3 CCDカメラ(映像装置)
4 ワーク
5 ワーク供給ユニット
6 搬送手段
7 位置決めピン
8 X-Y-θテーブルユニット
9 金属マスク式レーザ加工機
1-1 液晶マスク
1-2 液晶マスク設定画像(基準画像)
1-3 取り込み画像
1-4 金属マスク」

(キ)図3
以下に示す図3によれば、液晶マスク式レーザ加工機(1)内部の下方に液晶マスク(1-1)があり、その鉛直方向下方にワーク(4)があるものと認められる。
また、CCDカメラ(3)の撮像光軸は、液晶マスク式レーザ加工機(1)のレーザーの光軸に対して斜め方向となっていることが看取できる。


(ク)図4
以下に示す図4によれば、 加工対象たるワークのワーク認識位置(1-3)は、領域として検出されているものと認められる。


イ 刊行物1に記載の発明
刊行物1記載の「液晶マスク式レーザ加工機(1)」は、レーザ加工機である以上何らかのレーザーを出射する光源を有することは明らかであるところ、上記認定事項(キ)の前段を踏まえれば、その光源とワーク(4)との間に液晶マスク(1-1)が配置されている、ということができる。
次に、上記摘記事項(オ)に「カメラ(3)及び演算装置(2)によりワークの位置が認識(図2(C))され・・・マスク基準位置(図4の1-2)とワーク認識位置(図4の1-3)との差(X,Y,θ)が算出(図2(A))される」とあるところ、上記認定事項(ク)も踏まえれば、カメラ(3)及び演算装置(2)の機能を合わせて補正発明の用語に倣い、「CCDカメラ3が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行い、マスク基準位置とワーク認識位置との差を算出する画像処理部」を備えるものといえる。
また、上記摘記事項(エ)に「液晶マスクに、電圧を印加することにより、演算されたズレ量に対応する部分に透過パターンが形成される。」とあるところ、「液晶マスク」の技術常識を踏まえ補正発明の用語に倣って表現すれば、「演算されたズレ量に対応する液晶マスク(1-1)の部分を液晶マスク(1-1)の透過パターンとし、前記液晶マスク(1-1)の透過パターン以外の部分をマスクするマスク制御部」、を備えるものということができる。
さらに、摘記事項(エ)に「透過パターンを通して、レーザーを照射する」とあることから、補正発明の用語に倣って、「透過パターンを通してレーザーを照射する加工制御部」、を備えるといえる。

そこで、上記摘記事項(ア)ないし(カ)及び認定事項(キ)及び(ク)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて補正発明に照らして整理すると刊行物1には以下の発明が記載されていると認める(以下、「刊行物1発明」という。)。
「載置されたワーク(4)を加工するレーザーを出射する光源と、
前記光源と前記ワーク(4)との間に配置され、前記レーザーが照射可能な全領域のうち、前記ワーク(4)の加工領域に対応させて前記レーザーを透過させる透過パターン以外の領域で前記レーザーをマスクする液晶マスク(1-1)と、
前記ワーク(4)の加工領域を含む前記ワーク(4)上の画像を前記レーザーの光軸と斜め方向の撮像光軸をもつ画像として取得し、取得した画像を前記液晶マスク(1-1)の透過パターン領域の位置補正用の画像として提供するCCDカメラ(3)と、
前記CCDカメラ(3)が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行い、マスク基準位置とワーク認識位置との差を算出する画像処理部と、
前記画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、演算されたズレ量に対応する前記液晶マスク(1-1)の部分を前記液晶マスク(1-1)の透過パターンとし、前記液晶マスク(1-1)の透過パターン以外の部分をマスクするマスク制御部と、
前記透過パターンを通して前記レーザーを照射する加工制御部と、
を備える液晶マスク式レーザ加工機(1)。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「ワーク(4)」は、補正発明の「ワーク」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「レーザー」は「所定光」に、「液晶マスク(1-1)」は「液晶マスク」に、「CCDカメラ(3)」は「撮像部」に、「部分」は「領域」に、「透過パターン」は「透過領域」に、「透過パターンを通して」は「透過領域に」に、「液晶マスク式レーザ加工機(1)」は「微細加工装置」に相当することも明らかである。
そして、刊行物1発明の
「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、演算されたズレ量に対応する液晶マスク(1-1)の部分を液晶マスク(1-1)の透過パターンとし」なる事項は、上記対比を踏まえ、
「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、演算されたズレ量に対応する液晶マスクの領域を液晶マスクの透過領域とし」と言い換えられるところ、これは、補正発明の
「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、前記対応付け部による位置関係をもとに、前記画像上の加工領域に対応する前記液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とし」なる事項と、
「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、それに対応する液晶マスクの領域を液晶マスクの透過領域と」するものである限りにおいて共通するということができる。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「載置されたワークを加工する所定光を出射する光源と、
前記光源と前記ワークとの間に配置され、前記所定光が照射可能な全領域のうち、前記ワークの加工領域に対応させて前記所定光を透過させる透過領域以外の領域で前記所定光をマスクする液晶マスクと、
前記ワークの加工領域を含む前記ワーク上の画像を取得し、取得した画像を前記液晶マスクの透過領域の位置補正用の画像として提供する撮像部と、
前記撮像部が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行う画像処理部と、
前記画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、それに対応する前記液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とし、前記液晶マスクの透過領域以外の領域をマスクするマスク制御部と、
前記透過領域に前記所定光を照射する加工制御部と、
を備える微細加工装置。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の3点で相違している。
<相違点1>
補正発明の撮像部は、画像を所定光の光軸と同じ撮像光軸をもつ同軸画像として取得するのに対し、刊行物1発明のCCDカメラ(3)(撮像部)は、画像を前記レーザー(所定光)の光軸と斜め方向の撮像光軸をもつ画像として取得する点。

<相違点2>
補正発明は、撮像部で取得された画像の領域と液晶マスクの領域との位置関係を対応付ける対応付け部を備えるのに対し、刊行物1発明はそのような対応付け部を有するか不明である点。

<相違点3>
「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、それに対応する液晶マスクの領域を液晶マスクの透過領域と」すること及び「画像処理部」に関し、補正発明は、画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、対応付け部による位置関係をもとに、画像上の加工領域に対応する液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とするものであるのに対し、刊行物1発明は、画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし、画像処理部が算出したマスク基準位置とワーク認識位置とのズレ量に対応する液晶マスクの部分を液晶マスクの透過パターン(透過領域)とするものである点。

(4)相違点の検討
ア 相違点1について
レーザ加工機において、画像をレーザーの光軸と同じ撮像光軸をもつ同軸画像として取得することは、例えば、原審の平成25年7月31日付け拒絶査定において例示された特開2008-279470号公報(段落【0028】、図1等参照)、特開2008-221299号公報(段落【0026】?【0027】、図3等参照)に示されるように従来周知の事項である。そして、かかる従来周知の事項を、同じレーザ加工機の技術分野に属する刊行物1発明に適用することに何ら困難性はない。
この点に関し請求人は審判請求書にて、上記周知例は、いずれも液晶シャッターを用いるものではない旨主張する。しかしながら、レーザーの光軸と撮像光軸を同軸とするか、斜め方向にずらすかという選択において、レーザーの光軸上に液晶シャッターを用いているか否かという事項が直接影響するものとは認められず、請求人の主張には理由がない。
よって、刊行物1発明に従来周知の事項を適用し、相違点1に係る補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るところである。

イ 相違点2について
まず、補正発明の「対応付け部」についてその技術的意義を検討する。
該「対応付け部」に関して、明細書においては、「【0025】・・・対応付け部41は、撮像部22が取得した画像である処理対象領域と、液晶マスク13のマスク領域との位置関係を一致させる対応付けを行う。ここで、対応付け部41は、図2(a)に示すように、画像の処理対象領域E1とマスク領域E2との位置関係を一致させる処理を行うが、処理対象領域E1とマスク領域E2との大きさが異なる場合には、座標変換処理を行って一致させる。具体的には、処理対象領域E1の画像ドット間隔とマスク領域E2の透過ドット間隔とを一致させる座標変換処理を行う。」、「【0031】・・・その後、取得された処理対象領域E1の画像領域と液晶マスク13のマスク領域E2との位置関係の対応付けを行う(ステップS103)。なお、この対応付け処理は、撮像部22のズーム倍率などが既知で固定されており、既に対応付けが行われている場合には省略することができる。」と記載されている(下線は当審で付した)。
これらの記載を参酌するに、補正発明の「対応付け部」の技術的意義としては、画像領域とマスク領域の倍率調整を行う程度のものと認められる。
一方、刊行物1発明においても、取得した画像の領域と液晶マスク1-1の領域が同じサイズであるとは考えにくく、何らかの倍率調整を行っているものと考えられる。そうすると、刊行物1発明も、実質的には、撮像部で取得された画像の領域と液晶マスクの領域との位置関係を対応付ける対応付け部を備えているものと認められ、相違点2は実質的な相違点ではない。

ウ 相違点3について
補正発明は、対応付け部による位置関係をもとに、画像上の加工領域に対応する液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とするものであるところ、画像上の加工領域を液晶マスクの領域に対応付けるためには、(上記イにて検討した)対応付け部による倍率調整に加え、加工領域の機械的な位置決め誤差をキャンセルする手段が必要なことは明らかであり、補正発明も、加工領域の位置決め誤差量を画像処理の一環として実質的には算出しているものと認められる。
一方、刊行物1発明は、画像処理部が算出したマスク基準位置とワーク認識位置とのズレ量に対応する液晶マスクの部分を液晶マスクの透過パターン(透過領域)とするものであるところ、上記イにて検討したように、刊行物1発明も、実質的には対応付け部を備えているものであり、そのような対応付け部による位置関係を実質的に利用していると認められる。
そうしてみると、補正発明は実質的には加工領域の位置決め誤差量(すなわちズレ量)を算出しており、刊行物1発明は実質的には対応付け部による位置関係を利用していることとなり、相違点3は実質的な相違点ではない。

エ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、平成25年3月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、当該請求項1に係る発明(以下、「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「微細加工装置」である。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、実質的に、「撮像部」についての「取得した画像を前記液晶マスクの透過領域の位置補正用の画像として提供」することの限定、「微細加工装置」についての「撮像部が取得した画像の中から所望の加工領域の検出処理を行う画像処理部」を備えることの限定、及び「マスク制御部」についての「画像処理部が検出した所望の加工領域を画像上の加工領域とし」「画像上の加工領域に対応する前記液晶マスクの領域を前記液晶マスクの透過領域とし、前記液晶マスクの透過領域以外の領域をマスクする」ことの限定を削除したものである。
そうすると、上記第2の2で検討したより狭い特定を前提とした補正発明が想到容易である以上、それよりも範囲の広い特定を前提とした本件出願の発明も、刊行物1発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上により、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願のその余の請求項2ないし10に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-17 
結審通知日 2014-09-24 
審決日 2014-10-07 
出願番号 特願2008-298721(P2008-298721)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 和幸  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 刈間 宏信
長屋 陽二郎
発明の名称 微細加工装置および微細加工方法  
代理人 酒井 宏明  

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