• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1294363
審判番号 不服2010-7401  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-08 
確定日 2014-12-10 
事件の表示 特願2004-529559「細胞応答のリアルタイム測定」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日国際公開、WO2004/016766、平成17年11月24日国内公表、特表2005-535348〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年(2003年)8月18日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年8月16日 米国、2002年11月18日 米国)とする国際出願であって、その請求項5に係る発明は、平成25年1月17日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項5に記載された、以下のとおりのものである。

「細胞核を標的とする配列と融合した第1蛍光タンパク質、及び標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされた生細胞であって、該第1及び第2蛍光タンパク質が異なる波長で可視光を放出し、細胞が増殖を続けている、上記生細胞。」(以下、「本願発明」という。)


第2.引用例
当審の拒絶理由通知で引用例5として引用された、本願優先日前の1998年(平成10年)に頒布された刊行物である、Current Biology,1998,Vol.8,No.7,p.377-385は、「ヒストン-GFP融合タンパク質が、生哺乳類細胞において、染色体のダイナミクスの感度よい分析を可能とする」と題した文献であって、以下の事項が記載されている。

(1)「H2B-GFPを構成的に発現するステーブルな株を産生するために、ヒトヒストンH2B遺伝子は、Aequorea victoria の緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードする遺伝子と融合され、ヒトHeLa細胞へトランスフェクトされた。H2B-GFP融合タンパク質は、細胞周期の進行に影響を与えることなく、ヌクレオソームに取り込まれた。共焦点顕微鏡を用いて、H2B-GFPは有糸分裂染色体及び間期のクロマチン両者の高解像度の像を可能とし、そして、後者は、生細胞における様々なクロマチンの凝縮を明らかにした。」(377頁Resultsの項1?7行)

(2)「H2B-GFPは、生細胞における染色体を修飾する
H2B-GFPを発現した細胞は、間期及び有糸分裂におけるクロマチン染色のパターンを決定するために、共焦点顕微鏡を用いて観察された。Figure 5に示されるように、H2B-GFPは、細胞周期の全てのフェーズにおいて、高感度のクロマチン検出を可能とした。そのような像を得るために、細胞内構造の人工的な破壊を引き起こしかねない細胞の固定及び可透過性化は、必要とされなかった。細胞質において蛍光は全く観察されなかったので、H2B-GFPは核クロマチンに高度に特異的であった。」(380頁左欄下から5行?右欄5行)

(3)「H2B-GFPタンパク質の局在。(a-h)種々の細胞周期フェーズにおけるH2B-GFPを発現する生きたHeLa細胞の共焦点顕微鏡像。(a,c,e,g)GFPの蛍光及び(b,d,f,h)対応する微分干渉コントラスト像が、(a,b)中間期、(c,d)前期、(e,f)中期、(g,h)後期細胞として示されている。」(381頁Figure 5の説明の項。)と記載され、Figure 5には、それぞれ、HeLa細胞の像が示されており、これらの像から、細胞周期の各フェーズにおける、細胞全体及びGFPの局在の様子(b,d,f,h)、並びに、GFPの局在の様子(a,c,e,g)を読み取ることができる。


当審の拒絶理由通知で引用例1として引用された、本願優先日前の1996年(平成8年)に頒布された刊行物である、Current Biology,1996,Vol.6,No.2,p.183-188は、「生体内におけるオルガネラを標的としたGFP変異体を用いた細胞内構造の二重標識」と題した文献であって、以下の事項が記載されている。

(4)「緑及び青のキメラの共発現:生体内における二重標識
生体内における細胞内構造を緑及び青のGFPを用いて標識するために、我々は、野生型のGFP及びGFP(Y66H/Y145F)を含むキメラを用いた。これらの蛍光タンパク質はいずれも、UV領域で励起され、それぞれ緑及び青の光を発する。この適用の最初の例として、我々は、単層HeLa細胞にnuGFP及びmtGFP(Y66H,Y145F)を共発現させることで核及びミトコンドリアを差異的に標識した。Figure 3はUV光を当てられたトランスフェクトされた細胞のカバースリップの蛍光像を示している。両方のキメラは正しく選別され、同等な蛍光強度を示した。異なる発光波長が2つの標識された構造の鮮明な分別を可能とした。」(185頁右欄16行?最終行)


当審の拒絶理由通知で引用例2として引用された、本願優先日前の1999年(平成11年)に頒布された刊行物である、trends in CELL BIOLOGY,1999,Vol.9,p.52-56は、「GFP変異体を用いた二重色イメージング」と題した文献であって、以下の事項が記載されている。

(5)「Fig.3は、LBR-10C及びH2B-ECFPで標識したNRK細胞の時間経過の像を示している。最初の像は、前中期にある細胞を示しており、ヒストン標識が凝縮した染色体を明確に可視化している一方、LBR-10CはER(合議体注:小胞体)全体に散っている。細胞の有糸分裂が進行するにつれ、核膜の形態が変化し、染色体が脱凝縮する。共焦点顕微鏡により、一連の数百の継続的な二重標識の対を得ることが可能であった。そのような共焦点の一連のものを得るに際し、両方の蛍光色素分子がUV光を用いることなく、撮像された。そのような撮像のコンディションは、有糸分裂(光障害に高度に感受性である)の完了が観察されたので、細胞にとって無害であるように思われた。」(55頁左欄41?54行)

(6)TABLE 2には、「二重標識に用いられるGFP変異体及びそれらの命名」と題し、各種のGFPの変異体が挙げられ、「ECFP」及び「10C」がGFP変異体として挙げられている。そして、ECFPの励起のピークが434nmであり、発光のピークが474nmであること、及び、10Cの励起のピークが514nmであり、発光のピークが527nmであることも記載されている。(54頁)

(7)「(a)GFP変異体である10Cに融合した、核膜マーカーであるラミンB受容体(LBR-10C,左パネル)、及び、GFP変異体であるW7に融合した、ゴルジコンプレックスマーカーであるガラクトシルトランスフェラーゼ(GT-W7,中央パネル)、を共発現した、生きたCOS7細胞の共焦点二重標識像の対」(FIGURE 2の説明の項2?4行)

したがって、LBR-10Cは、核膜に局在化をもたらすラミンB受容体(LBR)とGFP変異体である「10C」との融合タンパク質であり、H2B-ECFPは、ヒトヒストンH2BとGFP変異体であるECFPとの融合タンパク質である。


当審の拒絶理由通知で引用例6として引用された、本願優先日前の2000年(平成12年)に頒布された刊行物である、クロンテクニーク,2000年4月号,24?25頁は、「細胞生物現象の in vivo 解析を支援する新たなベクター」と副題がなされたカタログであって、以下の事項が記載されている。

(8)「●主要なオルガネラに蛍光を局在化
●異なる蛍光タンパク質を用いて二重、三重に細胞を標識
●ペルオキシソームの動態が解析可能に」(24頁左欄1?4行)

(9)「弊社 Living Colors Subcellular Localization Vector は、細胞内における細胞骨格ネットワークやオルガネラの動態を、固定化や化学染色を用いずに細胞を生かしたまま、リアルタイムで研究したい場合に最適です。・・・。これらのベクターを利用して、各オルガネラが時間経過や様々な処理に応じてどのように変化するかを観察でき、また、任意のタンパク質を各構造体へ局在化させることも可能です。」(24頁左欄2?3段落)

(10)「Living Colors^( TM)タンパク質による二重標識と三重標識。HeLa細胞をpDsRed1-Mito、pEYFP-Tub、pECFP-Nucで一過的にトランスフェクトし、図2と同様に固定しました。・・・・パネルA.pDsRed1-MitoとpECFP-Nuc。パネルB.pDsRed1-Mito、pEYFP-TubおよびpECFP-Nuc。」(25頁図3)と記載され、図3のパネルAには、核がECFPにより青色に、ミトコンドリアがDsRedにより赤色に、それぞれ染色された単一の細胞の写真が示されている。


当審の拒絶理由通知で引用例7として引用された、本願優先日前の2001年(平成13年)に頒布された刊行物である、クロンテクニーク,2001年7月号,2?3頁は、「生きた細胞で使用可能な赤色蛍光タンパク質をさらに改良」と副題がなされたカタログであって、以下の事項が記載されている。

(11)「図1は細胞質または核を標的としてDsRed1を発現させた場合、細胞で凝集塊が生じることを明瞭に示しています。対照的に、DsRed2を細胞質または核に発現させた細胞では、タンパク質の凝集はまったく確認されません。」(2頁左欄下から10行目?下から5行目)(下線は、合議体による。)

(12)「図1.・・核局在試験ではNIH3T3細胞にpDsRed1-NucまたはpDsRed2-Nuc をトランスフェクトし、細胞質局在試験ではNIH 3T3細胞にpDsRed1-N1またはpDsRed2-N1をトランスフェクトしています。」(2頁 図1の説明の項)

(13)「DsRed2ベクターとしてはソースベクター(pDsRed2)、プロモーターを含まないベクター(pDsRed2-1)、N末端タグ化用のN1融合ベクター(pDsRed2-N1)、C末端タグ化用のC1融合ベクター(pDsRed2-C1)の4種類をご用意しています。」(3頁左欄最終段落)

よって、上記記載事項(11)?(13)によれば、引用例7には、局在化のための配列を有するものではないベクターpDsRed2-N1を、細胞質局在試験に用いること、すなわち、当該ベクターを用いることで、DsRed2を細胞質を標的として発現させることができることが記載されているといえる。


当審の拒絶理由通知で引用例8として引用された、本願優先日前の2002年(平成14年)7月に頒布された刊行物である、クロンテクニーク,2002年7月号,16?17頁は、「迅速な蛍光検出のために改良されたベクター」と副題がなされたカタログであって、以下の事項が記載されている。

(14)「蛍光が非常に迅速に現れるためDsRed-Expressはトランスフェクション効率を迅速に評価するマーカーや、プロモーター活性の出現を検出するレポーターとして使用できます。」(16頁左欄2段落)

(15)「pCMV-DsRed-Express をトランスフェクションして14時間後のHeLa細胞の顕微鏡写真 HeLa細胞に一時的にpCMV DsRed-Express(#6995-1)0.7μgをトランスフェクションし、14時間生育させました。」(16頁右欄 図2の説明の項)

(16)図2には、HeLa細胞の顕微鏡写真が示されており、細胞が赤く染められている。

(17)「弊社は現在3種類のDsRed-Expressベクターを用意しています:哺乳類の細胞のコトランスフェクションマーカー用に開発されたpCMV-DsRed-Express、・・・。」(17頁左欄下から2行?中央欄2行)

よって、pCMV-DsRed-Expressは、コトランスフェクションマーカー用であること、及び、記載事項(16)より、特に局在化のための配列を有さないものと推認される。したがって、引用例8には、局在化のための配列を有さない単なるDsRedを用いて、細胞を染色することが示されているといえる。


周知技術を示すために新たに引用例10として引用する、本願優先日前の2000年(平成12年)に頒布された刊行物である、クロンテクニーク,2000年1月号,20頁は、「赤色蛍光タンパクを用いた新規ベクター」と副題がなされたカタログであって、以下の事項が記載されている。

(18)「クロンテックの新製品pDsRed1-C1 Vector により、DsRedのC末端融合タンパクの作成が可能になりました。」(20頁左欄1段落)

(19)「図1.DsRed1の蛍光。HEK293細胞をpDsRed1-C1で一過性にトランスフェクトした。・・・蛍光顕微鏡観察を行ったところ、明るい蛍光が認められた。」(図1の説明の項)

(20)図1には、赤色に染色されたHEK293細胞の像が示されている。

DsRedのC末端融合タンパクの作成に用いられるプラスミドpDsRed1-C1は、その用途からみて、当然に特段の局在化配列を有したものではないと推認されるから、当該プラスミドを、そのままHEK293細胞にトランスフェクトして得られた図1は、HEK293細胞の細胞質が、赤色蛍光タンパク質により染色されているといえる。


第3.対比
本願発明と、引用例5に記載された事項とを対比すると、引用例5のヒトヒストンH2Bは、本願発明の「細胞核を標的とする配列」に相当し、引用例5のGFPは、本願発明の「第1蛍光タンパク質」に相当する。
次に、記載事項(1)には、ヒトヒストンH2B遺伝子とAequorea victoria の緑色蛍光蛋白質(GFP)をコードする遺伝子とを融合し、トランスフェクトして得られたヒトHeLa細胞は、ステーブルな株を産生するために調製されたこと、及び、記載事項(3)には、細胞周期の各フェーズにおいて、実際にGFPが観察されたことが記載されているから、引用例5のトランスフェクトして得られたHeLa細胞は、「安定的に」トランスフェクトされたものである。そして、HeLa細胞は、ガン細胞であることから、引用例5の上記のトランスフェクトして得られたヒトHeLa細胞は「細胞が増殖を続けている」「生細胞」である。
さらに、GFPが放出する光の波長のピークが約509nmであり、これが可視光の緑の領域にあることは、当業者の技術常識である。
したがって、両者は、「細胞核を標的とする配列と融合した第1蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされた生細胞であって、該第1蛍光タンパク質が可視光を放出し、細胞が増殖を続けている、上記生細胞。」という点で一致する。

一方、本願発明は、生細胞が、第1蛍光タンパク質に加え、第1蛍光タンパク質と異なる波長で可視光を放出する第2蛍光タンパク質であって、標的とするアミノ酸配列を欠く第2蛍光タンパク質をも産生するように安定的にトランスフェクトされたものであるのに対し、引用例5の生細胞は、そのような第2蛍光タンパク質を産生するように安定的にトランスフェクトされたものではない点で、両者は相違する。


第4.当審の判断
細胞周期を観察する場合に、各フェーズにおいて、染色体の形態のみならず細胞全体の形態も合わせて観察することは当業者が通常行うことであって、引用例5のFigure 5のb,d,f,hからも、細胞周期の各フェーズの、細胞核及び細胞全体の形態がみて分かる。
そして、観察対象をより明瞭に観察可能とすることは、当業者にとって自明の技術的課題である。
また、細胞の形態や構造の観察を容易にするために、核と細胞質とを異なる色素で染め分けるパパニコロウ染色法は、本願優先日前の当業者の周知・慣用技術であったことからも、細胞核と細胞質とをそれぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題も周知であったと認められる。

一方、引用例1、2及び6にあるように、発光波長(色)の異なる2つの蛍光タンパク質を、細胞の異なる部位に標的化することで、細胞を固定化させずに、生きたままの細胞の動態を観察するという手法は、本願優先日当時の周知技術であったといえる。
また、引用例7、8及び10に示されるように、局在化の配列を有さない赤色蛍光タンパク質を発現させることで細胞質を染色することは、当業者の周知技術であったといえる。

そうすると、引用例5の、H2B-GFPにより核を緑に蛍光染色し、顕微鏡観察により細胞周期の各フェーズにおける細胞核及び細胞全体の形態を観察を可能とするFigure 5のb,d,f,hの像に接した当業者であれば、より観察しやすい画像を得ることは、容易に着想することである。そして、細胞観察の技術分野において、細胞核及び細胞質を異なる物質で染め分けるという課題が当業者に周知であり、さらには、2色の蛍光蛋白質で単一細胞内の異なる部位を染め分けるという技術が周知であったこと、及び、局在化配列を有さない蛍光タンパク質により細胞質を染める技術も周知であったという技術水準のもと、細胞質部分をGFPとは異なる他の色の蛍光タンパク質で染色しようとすることは、当業者であれば、容易に着想し得たことである。
したがって、上記の相違点は、引用例5に対し、上記の周知技術を適用することで、当業者が容易に導き出せるものである。

次に、本願発明の効果について検討すると、本願発明に係る「細胞」の発明に関し、明細書には、「二重の標識化によって、細胞増殖のモニタリングのみならず、細胞の生涯における事象のモニタリングも可能となる。」(段落【0018】)、「このように細胞を二重に標識することにより、細胞周期における事象を都合よくモニターすることができ、そして様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を評価することもできる。」(段落【0029】)、「細胞は培養中に観察することができ、またはこれらが生存生物中に存在しているうちに観察することができる。」(段落【0032】)と記載されている。
これらの、細胞増殖(細胞周期)のモニタリング可能となるという効果、及び、様々な薬剤が細胞周期に及ぼす効果を評価することもできるという効果は、細胞を二重に標識したことによる効果とはいえず、引用例5において、細胞周期を、蛍光タンパク質により観察することが可能であることが既に示されているのであるから、予想外の効果ではない。また、本願発明の細胞が、生存生物中に存在しているうちに観察することが可能であるという効果については、本願発明の生細胞それ自体の効果ではないし、さらに、引用例5において確認されていないものの、引用例5に記載される細胞も本願発明と同じく安定的に蛍光蛋白質を発現しているものであるから、同様に、生存生物中に存在しているうちに観察することが可能であって、本願発明が、この点で、引用例5に比して予想外の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願発明が、引用例5及び周知技術から、予想外の有利な効果を奏するとも認められない。

第5.小括
よって、本願発明は、引用例5に記載された発明、及び、周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6.請求人の主張
請求人は、平成25年1月17日付け意見書において、以下の点(1)?(3)を主張しているところ、各々について判断すると以下のとおりである。

(1)「引用文献5は、研究の焦点がDMsの観察に絞られたものであり、そのため、細胞質を染色する必要はなく、二重標識するという技術的思想はない。すなわち、引用文献5は本願発明とは課題が明確に異なっていることがわかる。」

確かに、引用例5は、主に二重微小染色体(DMs)の観察に着目した論文であって、従来困難であった通常の染色体に比して極小さい染色体である二重微小染色体(DMs)の観察を、開発された高感度な方法、すなわち、ヒストン-GFP融合蛋白質を用いて、核にGFPを局在化させる方法、により可能としたことを報告する論文ではあるものの、その表題が「ヒストン-GFP融合タンパク質が、生哺乳類細胞において、染色体のダイナミクスの感度よい分析を可能とする」とあるように、DMsの観察に特化した方法なわけではない。しかも、前述のように、核と細胞質とを異なる色素で染め分けることにより、細胞の観察を容易とする手法(パパニコロウ染色)が周知であるから、細胞質をもGFPの色である緑と区別が容易な他の色で染色(二重標識)すれば、染色体をより明瞭に観察できることは、当業者が容易に思い至ることである。
したがって、引用例5と本願発明とが、課題が明確に異なるとはいえない。

(2)「すなわち、単一細胞の異なる部分(核膜とオルガネラ)を染色するという技術的思想はあったものの、核と細胞質とを異なる色で染色するという技術的思想があったとはいえない。また、仮にそのような技術的思想があったとしても、蛍光漏れやタンパク質の凝集等の種々の問題により、現実には、標識はできなかったのである。」

確かに、核と細胞質内のオルガネラとを異なる蛍光タンパク質で染色するという技術思想はあったものの、核と細胞質とを異なる蛍光タンパク質で染色するという技術思想があったとはいえない。しかし、第4.で述べた通り、パパニコロウ染色法等の、核と細胞質とを異なる色に染め分けるという技術思想は、本願優先日前周知であった。
また、引用例1、2及び6において、二種類の蛍光タンパク質により、細胞内の2つの部位を異なる2色に染め分けることが可能なことが既に示されているのだから、蛍光漏れやタンパク質の凝集等の種々の問題により、現実には標識できなかったとはいえない。さらに、本願発明が、その構成及び本願実施例の記載をみても、格別の創意工夫によって、蛍光漏れやタンパク質の凝集等の種々の問題を解決することができたものであるとも解されない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(3)パパニコロウ染色が可能なのは、死んだ細胞であり、生細胞を染色することはできない。したがって、細胞核と細胞質とを、それぞれ色の異なる複数の物質で染め分けるという課題が周知であったというのは、固定された細胞に限っての話である。

確かに、パパニコロウ染色は、細胞を固定して染色する手法、すなわち、死んだ細胞を調製してそれを染色する手法である。
しかし、当業者にとって、細胞観察において、核のみならず細胞全体を示す細胞質の形態も重要な要素であることは明らかな事項である。そして、パパニコロウ染色は死細胞のみを染め分ける手法ではあるものの、それは、核と細胞質を異なる色で染色することにより細胞の観察を容易にするための手法である。そして、生細胞でも死細胞でもその観察が容易であることが望ましいことは明らかであるから、生細胞及び死細胞の両者を含めた細胞観察の技術分野においては、細胞核と細胞質とを色の異なる複数の物質で染め分けるという課題が本願優先日前に存在したといえる。


第7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項5に係る発明は、引用例5、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
したがって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2013-02-22 
結審通知日 2013-02-27 
審決日 2013-03-12 
出願番号 特願2004-529559(P2004-529559)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 細胞応答のリアルタイム測定  
代理人 柴田 五雄  
代理人 柴田 富士子  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ