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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D
管理番号 1294416
審判番号 不服2013-8132  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-02 
確定日 2014-11-26 
事件の表示 特願2008-132694「塗装系」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月 3日出願公開、特開2009-280663〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年5月21日の出願であって、平成24年6月11日付け拒絶理由に対して、同年8月29日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年1月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、当審において、同年11月7日付けで前置報告書による審尋を行ったところ、請求人からはそれに対する対応がされず、平成26年3月11日付けで拒絶理由が通知され、同年5月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 当審がした拒絶理由通知の概要
当審が平成26年3月11日付けでした拒絶理由通知の概要は、以下のとおりのものである。
<拒絶理由通知>
「1)…
2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)…
刊行物A:特開2006-45347(刊行物等提出書の刊行物1)

(1)理由1,2/請求項1/刊行物A
… 」

第3 当審の判断
当審は、通知した上記拒絶理由2)と同一の理由により、本願は、拒絶すべきものである、と判断する。以下詳述する。

1.本願に係る発明
本願に係る発明は、平成26年5月29日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項で特定されるとおりのものである。
「下塗り、中塗り、上塗りの塗料を適宜組み合わせた塗膜による塗装系において、
吸放熱材料と高反射率塗料の組み合わせによるもので、
上塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、下塗の全塗装系の一部を、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の全てを、又は、上塗、中塗、下塗の全塗装系の一部を、
顔料と樹脂を主成分とし、設定温度1種又は複数の設定温度を持つ吸放熱材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料を含有する吸放塗料で塗装するもので、
吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmであり、JIS A5759に定義される日射反射率30%以上の塗料を上塗に適用したことを特徴とする塗装系。」(以下「本願発明」という。)

2.刊行物に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用した刊行物A(特開2006-45347)には、以下の事項が記載されている。
(a)
「【請求項1】
架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなることを特徴とする蓄熱性塗料。
【請求項2】
該蓄熱用マイクロカプセル(B)が、示差走査型熱量計で測定された融解潜熱量30J/g以上である請求項1に記載の蓄熱性塗料。
【請求項3】
蓄熱性塗料として、更に遮熱材(C)を含有してなる請求項1に記載の蓄熱性塗料。
【請求項4】
基材表面に、請求項1、2又は3に記載の蓄熱性塗料を塗装し、次いで塗膜を硬化させることを特徴とする蓄熱性塗膜形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄熱性塗膜の上層及び/又は下層に遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜である請求項4に記載の蓄熱性塗膜形成方法。

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、人が快適と感じる温度になる様に適度に調温できる蓄熱、放熱性に優れた塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる蓄熱性塗料は、架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなることを特徴とする。蓄熱用マイクロカプセル(B)が配合される塗料が架橋性樹脂塗料なので耐久性が優れる。
本発明に係わる蓄熱性塗料は、蓄熱用マイクロカプセル(B)、示差走査型熱量計で測定された融解潜熱量30J/g以上である。この塗料を屋根に適用した場合の効果について記載すると、該蓄熱用マイクロカプセルの融解潜熱量を30J/g以上とすることにより、太陽光線による熱線によりマイクロカプセル中の芯成分が融解し、そしてその融解熱に相当する熱を吸収し外部からの熱を遮断するので、夏場における室内などの温度が上昇するのを防止することができ、そして温度が下がることにより融解熱に相当する熱を放出し、室内の温度を一定に保つといった効果が顕著である。
【0008】
本発明に係わる蓄熱性塗料は、更に遮熱材(C)を含有してなる。該遮熱材によりより効果的に蓄熱性を発揮することができる。
【0009】
本発明に係わる蓄熱性塗膜形成方法は、基材表面に上記の蓄熱性塗料を塗装し、次いで塗膜を硬化させることを特徴とする。硬化性塗膜が形成できるので、特に屋外においても長期間蓄熱性を保持することができ耐久性が優れる。
【0010】
本発明に係わる蓄熱性塗膜形成方法は、上記蓄熱性塗膜の上層及び/又は下層に遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜である。該遮熱性塗膜によりより効果的に蓄熱性を発揮することができる。
【0011】
本発明に係わる蓄熱性塗膜形成物品は、上記蓄熱性塗料によって形成された蓄熱性硬化塗膜を有すること、及び上記蓄熱性塗膜形成方法によって形成された蓄熱性硬化塗膜を有することを特徴とする。蓄熱性塗膜形成物品は、長期間蓄熱性を保持することができ耐久性が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明塗料は、架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなるものである。
【0013】
架橋性樹脂塗料(A):
架橋性樹脂塗料(A)の形態は、架橋性樹脂を使用した粉体塗料、架橋性樹脂の液状樹脂を使用した無溶剤型塗料(架橋性もしくは非架橋性の樹脂をラジカル重合性モノマーに溶解もしくは分散した無溶剤型塗料も含む)、架橋性樹脂を水に溶解もしくは分散した水性塗料、及び架橋性樹脂を有機溶剤に溶解もしくは分散した有機溶剤型塗料(非水分散型塗料も含む)等のいずれの形態であっても構わない。」

(b)
「【0077】

蓄熱用マイクロカプセル(B):
該蓄熱マイクロカプセル(B)は、相転移自在な有機化合物を主成分とする芯物質の周囲が、カプセル壁樹脂膜で形成されたものである。
該芯物質としては、相転移に伴う潜熱を利用して熱を蓄える目的で用いられる。例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸、アルコール等が挙げられ、種類は特に限定されないが、特に住宅用の保温材として使用する場合、室温付近で相転移を起こす有機化合物、即ち、0℃以上50℃未満の融点を持つ脂肪族炭化水素を使用することが好ましく、具体例として、例えば、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ドコサン、テトラデカン、ペンタデカン等が挙げられる。これらの炭化水素は、炭素数の増加と共に融点が上昇するため、目的に応じた融点を有する炭化水素を選択したり、2種以上の炭化水素を混合して使用することが可能である。上記有機化合物には、マイクロカプセルの熱伝導性、比重を調節する目的で、カーボン、金属粉、アルコール等が添加されても良い。

【0090】
該蓄熱用マイクロカプセル(B)は、示差走査型熱量計で測定された融解潜熱量30J/g(測定融点温度0?60℃)以上である。
【0091】
本発明塗料は、架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部、好ましくは2?80重量部である。蓄熱用マイクロカプセル(B)が1重量部未満になると蓄熱性が劣り、一方、100重量部を越えると塗膜外観(平滑性、光沢など)が劣ったり、耐水性、耐候性などの塗膜性能が劣る。
【0092】
遮熱材(C):
該遮熱材(C)としては、波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材が好ましい。
【0093】
通常この範囲の波長は、熱線として作用する可視光の長波長部分、近赤外線、中近外線の短波長部分に相当する。700nm未満の波長帯は、可視光と紫外線域であり、熱線としての作用が比較的少ない部分である。又、2400nmを越え25000nm迄の波長帯の電磁波は熱線として作用するが、一般に高温物体の熱放射中に含まれる電磁波としては、エネルギー強度があまり高くなく問題とならない。
【0094】
反射率は、遮熱材と架橋性樹脂とからなる塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとに、JIS A5759に記載の方法、又は日立製作所社製の分光光度計U?3500スペクトロフォトメータにて計測することができる。測定条件は、スキャンスピード:600nm/分、サンプリング間隔:自動設定、スリット(可視):固定2mm、スリット(近赤外):自動制御、Pbs感度:2、ホトマル電圧:自動制御、標準板:硫酸バリウムとした。
【0095】
遮熱材として、着色顔料、金属粉末、金属以外の微細粒子などが挙げられる。
【0096】
着色顔料として、具体的には、二酸化チタン(チタンCR97(石原チタン工業社製)等の白色顔料、ダイピロキサイドカラーブラック9590、ダイピロキサイドカラーブラウン9290(大日精化工業社製)、FastogenSuper Black MX(大日本インキ化学工業社製)、パリオゲン Schwarz S0084(BASF社製)、パリオトールブラック L0080(BASF社製)等の黒色顔料、ダイピロキサイドカラーブルー9453(大日精化工業社製)、Fastogen Blue 5485(大日本インキ化学工業社製)、Fastogen Blue RS(大日本インキ化学工業社製)、シアニンブルー5240KB(大日精化工業社製)等の青色顔料、トダカラー120ED(戸田工業社製)、Fastogen Super Magenta RH(大日本インキ化学工業社製)、Fastogen Red 7100Y(大日本インキ化学工業社製)、ルビクロンレッド400RG(大日本インキ化学工業社製)等の赤色顔料、Symuler Fast Yellow 4192(大日本インキ化学工業社製)、シコパールイエロー L-1110(BASF社製)等の青色顔料、ダイピロキサイドカラーグリーン9310(大日精化工業社製)、ファーストゲングリーン2YK(大日本インキ化学工業社製)、リオノールグリーン6YKP-N(東洋インキ製造社製)等の緑色顔料等を挙げることができる。
【0097】
金属粉末として、具体的には、(鱗片状)アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、鉛粉、亜鉛末、リン化鉄、パール状金属コーティング雲母粉等を挙げることができる。
また、上記以外にも、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、マイカ粉、セラミック粉末、ガラスビーズ、中空ガラスビーズなどが挙げられる。
【0098】
本発明の塗料には、更に必要に応じて従来から塗料に配合される添加剤、例えば、上記以外の蓄熱剤(例えば、ポリブタジェンなど)、上記以外の着色顔料、上記遮熱材以外の体質顔料、上記遮熱材以外のメタリック顔料、着色パール顔料、流動性調整剤、ハジキ防止剤、垂れ止め防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、つや消し剤、艶出し剤、防腐剤、硬化促進剤、硬化触媒、擦り傷防止剤、消泡剤等を特に制限なしに使用することができる。
【0099】
遮熱材(C)を配合する場合には、その配合割合は、使用する材料によって適宜決めれば良いが、架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、一般的には遮熱材(C)1?200重量部、好ましくは2?100重量部である。遮熱材(C)が1重量部未満になると蓄熱性が低下したり、一方、100重量部を越えると塗膜外観(平滑性、光沢など)が低下したり、耐水性、耐候性などの塗膜性能が低下したりする。」

(c)
「【0100】
本発明塗膜形成方法は、上記した蓄熱性塗料を塗装し、次いで塗膜を硬化させる方法である。

【0103】
塗膜の乾燥(硬化)は、塗料の種類に応じて適宜決めれば良い。
塗装膜厚は、通常、約1μm?約5000μm、特に約2μm?約1000μmの範囲内が好ましい。
【0104】
本発明の複層塗膜は、蓄熱性塗膜の上層及び/又は下層に遮熱性塗膜を形成してなるものである。具体的には、上記被塗物に必要に応じて下塗り塗装や中塗り塗装を行った塗装物表面に、遮熱性下塗り塗料を用いて形成した下塗り遮熱性塗膜/本発明蓄熱性塗料を用いて形成した蓄熱性塗膜/遮熱性上塗り塗料を用いて形成した上塗り遮熱性塗膜、遮熱性下塗り塗料を用いて形成した下塗り遮熱性塗膜/本発明蓄熱性塗料を用いて形成した蓄熱性塗膜、本発明蓄熱性塗料を用いて形成した蓄熱性塗膜/遮熱性上塗り塗料を用いて形成した上塗り遮熱性塗膜などの複層塗膜が挙げられる。
【0105】
上記した遮熱性下塗り塗料及び下塗り塗料は、例えば、上記した架橋性樹脂塗料(A)に上記した遮熱材(C)を配合したものが使用できる。
【0106】
遮熱材(C)の配合割合は、使用する材料によって適宜決めれば良いが、架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、遮熱材(C)1?200重量部、好ましくは2?100重量部である。遮熱材(C)が1重量部未満になると遮熱性が低下したり、一方、100重量部を越えると塗膜外観(平滑性、光沢など)が低下したり、耐水性、耐候性などの塗膜性能が低下したりする。」

(d)
「【実施例】
【0109】
以下、実施例を掲げて本発明を詳細に説明する。なお実施例及び比較例中の「部」及び「%」は重量基準である。また、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0110】
実施例
マイクロカプセルAの製造例
50℃にて融解させた所定量の脂肪族炭化水素(SCP-0018 日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点18.7℃、融解熱231J/g)50g、カプセル壁形成用モノマー(メタクリル酸3g、メチルメタクリレート47g、トリメチロールプロパントリアクリレート1g)、開始剤(2,2‘-アゾイソブチリニトリル0.5g)を混合、撹拌し、ついでイオン交換水(全使用量の60重量%)、分散剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10重量%水溶液)1.5gを添加、撹拌して乳化モノマー液を調製した。一方、重合器に残りのイオン交換水(全使用量の40重量%)を入れ、10分間攪拌した後、上記乳化モノマー液を一括に添加した。 槽内を窒素置換した後に重合槽を80℃まで昇温し重合を開始した。30分で重合を終了し、その後1時間の熟成期間を行った後、重合槽を室温まで冷却した。固形分濃度約50重量%、平均粒径約3μmのマイクロカプセルスラリーAを得た。
【0111】
また、このスラリーを乾燥してマイクロカプセル粉末Aを得た。

【0176】
実施例14
ソフレックス1630クリア-(関西ペイント株式会社、商品名、メラミン硬化型アクリル樹脂系クリア-)固形分100部に対してチタンCR97(石原チタン工業株式会社製、商品名)50gを分散したものを上塗り遮蔽性塗料(この塗膜の反射率は78%であった。)とした。
【0177】
ソフレックス1630クリア-(関西ペイント株式会社、商品名、メラミン硬化型アクリル樹脂系クリア-)固形分100部に対して上記したマイクロカプセル粉末Aを10部(固形分)配合して実施例14用の蓄熱塗料を製造した。
【0178】
ソフレックス1630クリア-(関西ペイント株式会社、商品名、メラミン硬化型アクリル樹脂系クリア-)固形分100部に対して、鱗片状アルミニウム顔料10gを分散したものを下塗り遮蔽性塗料(この塗膜の反射率は99%であった。)とした。
【0179】
上記下塗り遮蔽性塗料を乾燥膜厚50μmになるように厚み0.12mmのアルミ容器外面に塗装し120℃で20分間乾燥をおこなった。次いで、蓄熱性塗料を乾燥膜厚500μmになるように遮蔽性塗膜表面に塗装し120℃で20分間乾燥をおこない、次いで上塗り遮蔽性塗料を乾燥膜厚50μmになるように厚み0.12mmのアルミ容器外面に塗装し120℃で20分間乾燥をおこなった。
【0180】
5℃の雰囲気下において、80℃に暖めた後の塗膜の冷却速度を評価した。マイクロカプセル粉末Cを配合しない塗料で製造した容器に比べて、蓄熱作用により、融解温度である32℃付近での保温時間が長くなった。
【0181】
得られた実施例14で得られた容器はシワ、フクレ、アワ、光沢低下、剥がれ、ワレ等の欠陥がなく外観良好であった。また、40℃上水に20日間浸漬した後、剥がれ、フクレ、光沢低下等の欠陥異常の有無を調べた結果、いずれも異常がなく良好であった。」

3.検討
(1)刊行物に記載された発明
ア 摘示(c)(段落【0104】)「本発明の複層塗膜は、蓄熱性塗膜の上層及び/又は下層に遮熱性塗膜を形成してなるものである。具体的には、上記被塗物に必要に応じて下塗り塗装や中塗り塗装を行った塗装物表面に、遮熱性下塗り塗料を用いて形成した下塗り遮熱性塗膜/本発明蓄熱性塗料を用いて形成した蓄熱性塗膜/遮熱性上塗り塗料を用いて形成した上塗り遮熱性塗膜、…、本発明蓄熱性塗料を用いて形成した蓄熱性塗膜/遮熱性上塗り塗料を用いて形成した上塗り遮熱性塗膜などの複層塗膜が挙げられる。」には、摘示(a)(【請求項1】及び【請求項5】)に照らし、以下の(ア)及び(イ)の事項が記載されているといえる。
(ア)「下塗り遮熱性塗料を塗装した下塗り遮熱性塗膜、蓄熱性塗料を塗装した蓄熱性塗膜、上塗り遮熱性塗料を塗装した上塗り遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜において、
蓄熱性塗膜は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなる蓄熱性塗料を塗装した複層塗膜」
(イ)「蓄熱性塗料を塗装した蓄熱性塗膜、上塗り遮熱性塗料を塗装した上塗り遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜において、
蓄熱性塗膜は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなる蓄熱性塗料を塗装した複層塗膜」

イ 摘示(c)(段落【0103】)「塗膜の乾燥(硬化)は、塗料の種類に応じて適宜決めれば良い。塗装膜厚は、通常、約1μm?約5000μm、特に約2μm?約1000μmの範囲内が好ましい。」に照らし、上記ア(ア)及び(イ)の「複層塗膜」における「『蓄熱性塗料』の塗装膜厚」は「約1μm?約5000μm」であるといえる。

ウ 摘示(b)(段落【0092】)「遮熱材(C): 該遮熱材(C)としては、波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材が好ましい。」及び【0094】「反射率は、遮熱材と架橋性樹脂とからなる塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとに、JIS A5759に記載の方法」に照らし、上記ア(ア)及び(イ)の「複層塗膜」における「上塗り遮熱性塗料を塗装した上塗り遮熱性塗膜」は「波長範囲700?2400nmの電磁波に対し少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される、上塗り遮熱性塗料を上塗に適用した」ものといえる。

エ 上記ア?ウから、刊行物Aには、次の(ア)及び(イ)の発明が記載されていると認められる。

(ア)「下塗り遮熱性塗料を塗装した下塗り遮熱性塗膜、蓄熱性塗料を塗装した蓄熱性塗膜、上塗り遮熱性塗料を塗装した上塗り遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜において、
蓄熱性塗膜は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなる蓄熱性塗料を塗装したもので、
蓄熱性塗料の塗装膜厚は約1μm?約5000μmであり、
波長範囲700?2400nmの電磁波に対し少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される、上塗り遮熱性塗料を上塗に適用した複層塗膜」(以下「引用発明1」という。)

(イ)「蓄熱性塗料を塗装した蓄熱性塗膜、上塗り遮熱性塗料を塗装した上塗り遮熱性塗膜を形成してなる複層塗膜において、
蓄熱性塗膜は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有してなる蓄熱性塗料を塗装したもので、
蓄熱性塗料の塗装膜厚は約1μm?約5000μmであり、
波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される、上塗り遮熱性塗料を上塗に適用した複層塗膜」(以下「引用発明2」という。)

(2)対比・判断
ア 引用発明1との対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)対比
a 引用発明1の「下塗り遮熱性塗料」、「蓄熱性塗料」、「上塗り遮熱性塗料」及び「『架橋性樹脂塗料(A)』における『架橋性樹脂』」は、それぞれ、本願発明の「下塗りの塗料」、「中塗りの塗料」、「上塗りの塗料」及び「樹脂」に相当する。
b 引用発明1の「蓄熱用マイクロカプセル(B)」と「本願発明」の「『設定温度1種又は複数の設定温度を持つ吸放熱材料』であって、『規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料』」とは、特定の熱的特性を持つ材料である点で一致する。
c 引用発明1の「蓄熱性塗料」と本願発明の「『吸放塗料』,『吸放熱塗料』」とは、特定の熱的特性を持つ塗料である点で一致し、引用発明1の「蓄熱性塗料」は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有するものであって、前記含有とは混合していることを意味することも当業者に自明であり、本願発明の「『吸放塗料』,『吸放熱塗料』」は顔料と樹脂を主成分とし、熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料を含有するものであるから、両者は樹脂を主成分とし、特定の熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して含有する点で重複する。
d 引用発明1の「蓄熱性塗料の塗装膜厚は約1μm?約5000μmであり」と本願発明の「吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmであり」とは、「特定の熱的特性を持つ塗料の塗装膜厚は1μm?5000μmであり」の点で重複する。
e 引用発明1の「上塗り遮蔽性塗料」は波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定されるものであり、本願発明の「高反射率塗料」はJIS A5759に定義される日射反射率30%以上であるから、両者は「JIS A5759に定義される反射率が所定値以上」である点で一致するといえる。

f 上記a?eから、本願発明と引用発明1とは、
「下塗り、中塗り、上塗りの塗料を適宜組み合わせた塗膜による塗装系において、
特定の熱的特性を持つ塗料と所定反射率以上の塗料の組み合わせによるもので、
上塗、中塗、下塗の全塗装系の一部を、
樹脂を主成分とし、特定の熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して含有する特定の熱的特性を持つ塗料で塗装するもので、
特定の熱的特性を持つ塗料の塗装膜厚は1μm?5000μmであり、JIS A5759に定義される反射率が所定以上の塗料を上塗に適用した塗装系」
である点一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「『特定の熱的特性を持つ塗料』の『主成分』」が、「顔料と樹脂」であるのに対し、引用発明1は、架橋性樹脂である点。

相違点2:本願発明は、「『特定の熱的特性を持つ塗料』に含有される『材料』における『特定の熱的特性』」が、「『設定温度1種又は複数の設定温度を持つ』、『規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する』『吸放熱』性」のものであるに対し、引用発明1は、蓄熱性である点。

相違点3:本願発明は、「『上塗に適用』される『塗料』の『JIS A5759に定義される反射率』」が、「『日射』において『30%以上』」であるのに対し、引用発明1は、波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定されるものであり、その値が如何なる値以上のものであるか明らかでない点。

(イ)判断
a 相違点1について
刊行物Aの「本発明の塗料には、更に必要に応じて従来から塗料に配合される添加剤、例えば、…上記以外の着色顔料、上記遮熱材以外の体質顔料、上記遮熱材以外のメタリック顔料、着色パール顔料、…等を特に制限なしに使用することができる。」(摘示(b)段落【0098】)との記載からも明らかなように、刊行物Aには、蓄熱性塗料に顔料を含有させことが記載されているから、引用発明1において、蓄熱性塗料に顔料を含有させ、架橋性樹脂塗料(A)と該顔料、すなわち、顔料と樹脂を該蓄熱性塗料の主成分となすことは、当業者が刊行物Aの記載に基づいて容易になし得たことである。

b 相違点2について
刊行物Aの「本発明に係わる蓄熱性塗料は、蓄熱用マイクロカプセル(B)、示差走査型熱量計で測定された融解潜熱量30J/g以上である。この塗料を屋根に適用した場合の効果について記載すると、該蓄熱用マイクロカプセルの融解潜熱量を30J/g以上とすることにより、太陽光線による熱線によりマイクロカプセル中の芯成分が融解し、そしてその融解熱に相当する熱を吸収し外部からの熱を遮断するので、夏場における室内などの温度が上昇するのを防止することができ、そして温度が下がることにより融解熱に相当する熱を放出し、室内の温度を一定に保つといった効果が顕著である。」(摘示(a)段落【0007】)及び「蓄熱用マイクロカプセル(B):該蓄熱マイクロカプセル(B)は、相転移自在な有機化合物を主成分とする芯物質の周囲が、カプセル壁樹脂膜で形成されたものである。該芯物質としては、相転移に伴う潜熱を利用して熱を蓄える目的で用いられる。例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸、アルコール等が挙げられ、種類は特に限定されないが、特に住宅用の保温材として使用する場合、室温付近で相転移を起こす有機化合物、即ち、0℃以上50℃未満の融点を持つ脂肪族炭化水素を使用することが好ましく、具体例として、例えば、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ドコサン、テトラデカン、ペンタデカン等が挙げられる。これらの炭化水素は、炭素数の増加と共に融点が上昇するため、目的に応じた融点を有する炭化水素を選択したり、2種以上の炭化水素を混合して使用することが可能である。」(摘示(b)段落【0077】)の記載からも明らかなように、刊行物Aには、蓄熱マイクロカプセル(B)は、相転移自在な有機化合物を主成分とする芯物質の周囲が、カプセル壁樹脂膜で形成された、該芯物質としては、相転移に伴う潜熱を利用して熱を蓄える目的で用いられる、特に住宅用の保温材として使用する場合、室温付近で相転移を起こす有機化合物、即ち、0℃以上50℃未満の融点を持つ脂肪族炭化水素を使用することが好ましく、前記炭化水素は、炭素数の増加と共に融点が上昇するため、目的に応じた融点を有する炭化水素を選択したり、2種以上の炭化水素を混合して使用することが可能であること、及び、太陽光線による熱線によりマイクロカプセル中の芯成分が融解し、そしてその融解熱に相当する熱を吸収し外部からの熱を遮断するので、夏場における室内などの温度が上昇するのを防止することができ、そして温度が下がることにより融解熱に相当する熱を放出し、室内の温度を一定に保つことが記載されているから、引用発明1の「蓄熱用マイクロカプセル(B)」は、「設定温度1種又は複数の設定温度を持つ、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する」ものといえ、引用発明1の「蓄熱用マイクロカプセル(B)」と本願発明の「吸放熱材料」とはこの点で実質的に相違するところはない。
また仮に両者がこの点で相違するとしても、上記刊行物Aの記載から、引用発明1において、「蓄熱用マイクロカプセル(B)」を設定温度1種又は複数の設定温度を持つ、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱するようになすことは、当業者が容易になし得たことである。

c 相違点3について
(a)刊行物Aには、以下の(a-1)及び(a-2)の記載がある。
(a-1)「遮熱材(C): 該遮熱材(C)としては、波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材が好ましい。通常この範囲の波長は、熱線として作用する可視光の長波長部分、近赤外線、中近外線の短波長部分に相当する。700nm未満の波長帯は、可視光と紫外線域であり、熱線としての作用が比較的少ない部分である。又、2400nmを越え25000nm迄の波長帯の電磁波は熱線として作用するが、一般に高温物体の熱放射中に含まれる電磁波としては、エネルギー強度があまり高くなく問題とならない。反射率は、遮熱材と架橋性樹脂とからなる塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとに、JIS A5759に記載の方法、又は日立製作所社製の分光光度計U?3500スペクトロフォトメータにて計測することができる。測定条件は、スキャンスピード:600nm/分、サンプリング間隔:自動設定、スリット(可視):固定2mm、スリット(近赤外):自動制御、Pbs感度:2、ホトマル電圧:自動制御、標準板:硫酸バリウムとした。」(摘示(b)段落【0092】?【0094】)
(a-2)「実施例14 ソフレックス1630クリア-(関西ペイント株式会社、商品名、メラミン硬化型アクリル樹脂系クリア-)固形分100部に対してチタンCR97(石原チタン工業株式会社製、商品名)50gを分散したものを上塗り遮蔽性塗料(この塗膜の反射率は78%であった。)とした。」(摘示(d)段落【0176】)

(b)地上での太陽光の波長別日射強度は波長範囲300nm?2400nm程度に亘り観測され、その可視光と紫外線域での観測される日射強度は、他の観測領域での観測される日射強度に比べ大きいことは当業者に自明である(要すれば、例えば、特開2001-144316号公報図7参照)。

(c)本願発明の「JIS A5759に定義される日射反射率」とは、波長350nmから2100nmにおける付表3にある各波長の分光反射率[ρ(λ)]を測定し、計算されるものである(以下「周知技術1」という。要すれば、例えば、本願出願当時の「平成18年3月25日 改正 JIS A5759^(:2006)」が引用する「平成10年9月20日 改正 JIS A5759^(:1998)」参照)。

(d)上記JIS A5759に定義される日射反射率が30%以上の塗料は本願出願前に周知である(以下「周知技術2」という。要すれば、例えば、特開2004-122062号公報(【請求項2】、段落【0006】)、特開2003-278287号公報(段落【0018】?【0034】)、特開2007-146062号公報(段落【0044】?【0045】)、特開2006-8874号公報(段落【0019】?【0020】)、特開平11-100530号公報(段落【0012】?【0017】)参照)。

(e)上記(a-1)からみて、刊行物Aには、引用発明1の「上塗り遮蔽性塗料」における「反射率」として、熱線としての作用が比較的多い部分である波長範囲(700?2400nm)の電磁波に対するJIS A5759で定義される反射率を用いることが記載されているが、上記(b)からみて、地上での太陽光の波長別日射強度は波長範囲300nm?2400nmに亘り観測され、その可視光と紫外線域での観測される日射強度は、他の観測領域での観測される日射強度に比べ大きく、熱線としての作用が比較的少ない部分とされる700nm以下の可視光と紫外線域についても熱線としての作用は認められること及びJIS規格に係る上記(c)(350?2100nmの波長範囲が測定の対象とされる。)に照らし、引用発明1において、反射率の特定を標準規格(JIS A5759)により行って一般性の高い、700nm以下の波長範囲を含むものとなるよう、「波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される反射率」に代えて、「JIS A5759^(:1998) 」に使用される「波長範囲350?2100nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される反射率」、すなわち、JIS A5759に定義される日射反射率を採用することは、当業者が刊行物Aの記載及び周知技術1に基づいて容易になし得たことである。そして、上記(a-2)からみて、刊行物Aには「上塗り遮蔽性塗料(この塗膜の反射率は78%であった。)」が記載されていること及び上記(d)に照らし、前記JIS A5759に定義される日射反射率を30%以上となすことは、当業者が刊行物Aの記載及び周知技術2に基づいて適宜になし得たことである。

d 効果について
組成物1を下塗、中塗に使用し、上塗の日射反射率2%塗料を塗装した比較例に対する、組成物1を下塗、中塗に使用し、それぞれ上塗の日射反射率30%、50%、80%塗料を塗装した実施例(本願明細書段落【0032】【表2】)の吸放熱材設定温度26℃及び吸放熱材設定温度32℃での測定結果を参酌しても、本願発明の奏する効果は当業者の予測し得ない程の格別顕著なものとは認められないから、本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明1の奏する効果から予測できた程度のものである。また、本願発明の「日射反射率の高い塗料を適用すると、…吸放熱材含有塗膜の効果が更に発現する」(本願明細書段落【0032】)との効果は、刊行物Aの「本発明に係わる蓄熱性塗料は、更に遮熱材(C)を含有してなる。該遮熱材によりより効果的に蓄熱性を発揮することができる。」(摘示(a)段落【0008】)等の記載等からも当業者が予測できた程度のものである。

イ 引用発明2との対比・判断
本願発明と引用発明2とを対比する。
(ア)対比
a 引用発明2の「蓄熱性塗料」、「上塗り遮熱性塗料」及び「『架橋性樹脂塗料(A)』における『架橋性樹脂』」は、それぞれ、本願発明の「中塗りの塗料」、「上塗りの塗料」及び「樹脂」に相当する。
b 引用発明2の「蓄熱用マイクロカプセル(B)」と「本願発明」の「『設定温度1種又は複数の設定温度を持つ吸放熱材料』であって、『規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料』」とは、特定の熱的特性を持つ材料である点で一致する。
c 引用発明2の「蓄熱性塗料」と本願発明の「『吸放塗料』,『吸放熱塗料』」とは、特定の熱的特性を持つ塗料である点で一致し、引用発明1の「蓄熱性塗料」は架橋性樹脂塗料(A)固形分100重量部に対して、蓄熱用マイクロカプセル(B)1?100重量部含有するものであって、前記含有とは混合していることを意味することも当業者に自明であり、本願発明の「『吸放塗料』,『吸放熱塗料』」は顔料と樹脂を主成分とし、熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する吸放熱材料を含有するものであるから、両者は樹脂を主成分とし、特定の熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して含有する点で重複する。
d 引用発明2の「蓄熱性塗料の塗装膜厚は約1μm?約5000μmであり」と本願発明の「吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmであり」とは、「特定の熱的特性を持つ塗料の塗装膜厚は1μm?5000μmであり」の点で重複する。
e 引用発明2の「上塗り遮蔽性塗料」は波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定されるものであり、本願発明の「高反射率塗料」はJIS A5759に定義される日射反射率30%以上であるから、両者は「JIS A5759に定義される反射率が所定値以上」である点で一致する。

f 上記a?eから、本願発明と引用発明2とは、
「下塗り、中塗り、上塗りの塗料を適宜組み合わせた塗膜による塗装系において、
特定の熱的特性を持つ塗料と所定反射率以上の塗料の組み合わせによるもので、
上塗、下塗の全塗装系の一部を、
樹脂を主成分とし、特定の熱的特性を持つ材料を全配合の100重量部中、20?90重量部を含有する添加量で混合して含有する特定の熱的特性を持つ塗料で塗装するもので、
特定の熱的特性を持つ塗料の塗装膜厚は1μm?5000μmであり、JIS A5759に定義される反射率が所定以上の塗料を上塗に適用した塗装系」
である点一致し、以下点で相違する。

相違点1′:本願発明は、「『特定の熱的特性を持つ塗料』の『主成分』」が、「顔料と樹脂」であるのに対し、引用発明2は、架橋性樹脂である点。

相違点2′:本願発明は、「『特定の熱的特性を持つ塗料』に含有される『材料』における『特定の熱的特性』」が、「『設定温度1種又は複数の設定温度を持つ』、『規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱する』『吸放熱』性」のものであるに対し、引用発明2は、蓄熱性である点。

相違点3′:本願発明は、「『上塗に適用』される『塗料』の『JIS A5759に定義される反射率』」が、「『日射』において『30%以上』」であるのに対し、引用発明2は、波長範囲700?2400nmの電磁波に対し、少くとも40%以上の反射率を有する遮熱材と架橋性樹脂とからなり、該反射率は遮熱材と架橋性樹脂とからなる上塗り遮熱性塗膜を波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定されるものであり、その値は明らかでない点。

(イ)判断
a 相違点1′について
上記ア(イ)aで述べた理由と同様の理由により、引用発明2において、蓄熱性塗料に顔料を含有させ、架橋性樹脂塗料(A)と該顔料を該蓄熱性塗料の主成分となすことは、当業者が刊行物Aの記載に基づいて容易になし得たことである。

b 相違点2′について
上記ア(イ)bで述べた理由と同様の理由により、引用発明2の「蓄熱用マイクロカプセル(B)」と本願発明の「吸放熱材料」とはこの点で実質的に相違するところはなく、また仮に両者がこの点で相違するとしても、引用発明2において、「蓄熱用マイクロカプセル(B)」を設定温度1種又は複数の設定温度を持つ、規定した温度以上で吸熱し、規定した温度以下で放熱するようになすことは、当業者が容易になし得たことである。

c 相違点3′について
上記ア(イ)cで述べた理由と同様の理由により、引用発明2において、「波長範囲700?2400nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される反射率」に代えて、JIS A5759^(:1998) における「波長範囲350?2100nm領域における反射率をもとにJIS A5759に記載の方法により測定される反射率」、すなわち、JIS A5759に定義される日射反射率を採用することは、当業者が周知技術1に基づいて容易になし得たことである。そして、前記JIS A5759に定義される日射反射率を30%以上となすことは、当業者が刊行物Aの記載及び周知技術2に基づいて適宜になし得たことである。

d 効果について
上記ア(イ)dで述べた理由と同様の理由により、本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明2の奏する効果から予測できた程度のものである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が、刊行物Aに記載された発明、刊行物Aの記載、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
なお、審判請求人は、平成26年5月29日付け意見書において、
(1)「その上で本発明は塗料組成物において、被塗装物の使用条件等や塗料組成物の塗装性を勘案して、吸放熱材料の設定温度や吸法熱材料の含有割合を調製すること、基材上に複数層の塗装を施すこと、日射反射率30%以上の塗料を上塗に適用したことを結び付けることについては、当業者が適宜になし得たこととは言えない。
本発明において、吸放熱塗料の塗装膜厚は50mμから1cmという膜厚、およびJIS A5759に定義される日射反射率30%以上の塗料を最上層に塗装することは、重要な必須構成要素であり、密接不可分なものである。」(意見書2頁27?33行)
及び
(2)「上塗塗料に日射反射率の高い塗料を適用すると、表面温度が下がり、裏面、箱内温度に吸放熱材含有塗膜の効果が更に発現する。
吸放熱材含有塗料のみで塗り重ねると、表面温度は同じでも裏面温度、内方に効果が発現する。これは表面温度が上昇した一部を吸放熱材含有塗膜が吸熱し、熱を一時的に蓄えているからである。蓄えられた熱は、吸放熱材の設定温度以下に内方がなれば放熱される。
引用文献にはない本発明の特徴は、全熱量(例:全天日射300?2500nm)を吸放熱材料で受け止めると吸放熱材料の相変化が激しくなり、効果が薄れるので、反射率を30%以上の上塗塗料を塗装し、太陽光の反射で複合効果を出していることである。」(意見書2頁38?46行)
と主張する。
しかるに、上記(1)の主張は、上記3.(2)ア(イ)a?dで説示したとおりの理由により、明らかに当を得ないものである。
次に、上記(2)の主張につき本願明細書(平成26年5月29日付け手続補正後のもの、以下同じ。)及び図面並びに本願発明の「JIS A5759に定義される日射反射率」の根拠となる上記JIS A5759^(:1998)の記載に基づき検討すると、「全天日射300?2500nm」については記載も示唆もはなく、上記(2)の主張は、本願明細書(及び図面)の記載に基づかないものであり、当を得ないものである。また仮に前記(2)の主張における「全天日射300?2500nm」が前記周知技術1に係る「平成10年9月20日 改正 JIS A5759^(:1998)」に示唆されている「全天日射350?2100nm」の誤記であるとしても、上記3.(2)ア(イ)dで説示したとおりの理由により、明らかに当を得ないものである。

5.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、当業者が、刊行物Aに記載された発明、刊行物Aの記載、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
結局、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、その余につき検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2014-07-31 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2008-132694(P2008-132694)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 菅野 芳男
山田 靖
発明の名称 塗装系  
代理人 久保 司  

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