ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B |
---|---|
管理番号 | 1294425 |
審判番号 | 不服2013-18687 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-27 |
確定日 | 2014-11-26 |
事件の表示 | 特願2010-509350「機械的可撓性および耐久性基板と製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月18日国際公開,WO2008/153672,平成22年 8月19日国内公表,特表2010-528421〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2008年5月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年5月21日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年5月17日付けで拒絶理由が通知され,同年9月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年5月30日付けで拒絶査定がなされたところ,同年9月27日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は,平成24年9月20日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項1に係る発明は,平成24年9月20日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。 「基板が約250μm未満の厚さと, a)約9.5(μm)^(-1/2)未満の脆性率,および b)少なくとも約0.75MPa・(m)^(1/2)の破壊靭性 の内の少なくとも一方と, 約30cm未満の曲げ半径とを有することを特徴とする,非晶質無機組成物を含む基板。」(以下「本願発明」という。) 3 引用刊行物 (1)引用刊行物の記載事項 特開2005-19082号公報(以下「引用刊行物」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用例2」として引用された,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 光学特性が電気的に変わる光学体層と,前記光学体層の一面側に設置された透明の第1電極と,前記光学体層の他面側に設置された第2電極と,前記第1電極の一面側に設置された厚さ10μm?100μmの可撓性を有する第1フレキシブル・ガラス基板と,前記第2電極の他面側に設置された厚さ10μm?100μmの可撓性を有する第2フレキシブル・ガラス基板とを具備したことを特徴とするフレキシブル表示素子。 【請求項2】 請求項1に記載のフレキシブル表示素子において,前記光学体層が,有機EL層であることを特徴とするフレキシブル表示素子。 ・・・(中略)・・・ 【請求項5】 請求項1から請求項4のいずれかに記載のフレキシブル表示素子において,前記フレキシブル・ガラス基板は,パイレックス・ガラス板またはテンパックス・ガラス板を研磨して厚さ10μm?100μmとしたものであることを特徴とするフレキシブル表示素子。」 イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,フレキシブル表示素子に関し,さらに詳しくは,可撓性があり且つ耐久性が高いフレキシブル表示素子に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来,有機EL層と,有機EL層の一面側に設置された透明電極と,有機EL層の他面側に設置された電極と,透明電極の一面側に設置されたガラス基板と,そのガラス基板に被せて全体をシールする凹状キャップガラスとを具備した有機EL素子が知られている(例えば,特許文献1参照。)。 他方,有機EL層と,有機EL層の一面側に設置された透明電極と,有機EL層の他面側に設置された電極と,透明電極の一面側に設置された可撓性を有するフィルム基板と,そのフィルム基板に被せて全体を被覆する保護層とを具備した可撓性のある有機EL素子が知られている(例えば,特許文献2参照。)。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 上記ガラス基板と凹状キャップガラスとを用いた有機EL素子では,有機EL層が必要とする低い酸素透過度(10^(-4)cm^(3)/m^(2)/day以下)と低い水分透過度(10^(-6)g/m^(2)/day以下)をガラス基板と凹状キャップガラスとが有しているため,耐久性が高い。しかし,可撓性に欠ける問題点がある。 他方,上記フィルム基板と保護層とを用いた有機EL素子は可撓性を有している。しかし,有機EL層が必要とする低い酸素透過度と低い水分透過度をフィルム基板と保護層とが有しておらず,耐久性が低い問題点がある。 そこで,本発明の目的は,可撓性があり且つ耐久性が高いフレキシブル表示素子を提供することにある。」 ウ 「【0005】 【課題を解決するための手段】 第1の観点では,本発明は,光学特性が電気的に変わる光学体層と,前記光学体層の一面側に設置された透明の第1電極と,前記光学体層の他面側に設置された第2電極と,前記第1電極の一面側に設置された厚さ10μm?100μmの可撓性を有する第1フレキシブル・ガラス基板と,前記第2電極の他面側に設置された厚さ10μm?100μmの可撓性を有する第2フレキシブル・ガラス基板とを具備したことを特徴とするフレキシブル表示素子を提供する。 上記第1の観点によるフレキシブル表示素子では,厚さ10μm以上の第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とで挟むように光学体層を封止するため,光学体層が必要とする低い酸素透過度と低い水分透過度が得られ,耐久性が高くなる。そして,第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とは,厚さ100μm以下で,可撓性があるため,可撓性のあるフレキシブル表示素子と出来る。 【0006】 第2の観点では,本発明は,上記構成のフレキシブル表示素子において,前記光学体層が,有機EL層であることを特徴とするフレキシブル表示素子を提供する。 上記第2の観点によるフレキシブル表示素子では,厚さ10μm以上の第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とで挟むように光学体層を封止するため,有機EL層が必要とする低い酸素透過度(10^(-4)cm^(3)/m^(2)/day以下)と低い水分透過度(10^(-6)g/m^(2)/day以下)が得られ,耐久性が高くなる。そして,第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とは,厚さ100μm以下で,可撓性があるため,可撓性のあるフレキシブル有機EL素子と出来る。 ・・・(中略)・・・ 【0009】 第5の観点では,本発明は,上記構成のフレキシブル表示素子において,前記フレキシブル・ガラス基板は,パイレックス・ガラス板またはテンパックス・ガラス板を研磨して厚さ10μm?100μmとしたものであることを特徴とするフレキシブル表示素子を提供する。 本願発明らの研究によれば,耐熱・硼珪酸ガラスであるパイレックス・ガラス板またはテンパックス・ガラス板を研磨することにより,厚さ10μm?100μmの可撓性を有するフレキシブル・ガラス基板が歩留まり良く得られた。これに対して,青板・ソーダガラスや白板・カリガラスを研磨しても,厚さ10μm?100μmで可撓性を有するフレキシブル・ガラス基板は歩留まり良く得られなかった。」 エ 「【0010】 【発明の実施の形態】 以下,図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお,これにより本発明が限定されるものではない。 【0011】 -第1の実施形態- 図1は,第1の実施形態に係るフレキシブル有機EL素子100を示す断面斜視図である。なお,図1では,フレキシブル有機EL素子100を撓ませて示してある。 このフレキシブル有機EL素子100は,有機EL層1と,有機EL層1の一面側に設置された第1透明電極11と,有機EL層1の他面側に設置された第2透明電極12と,第1透明電極11の一面側に設置された第1フレキシブル・ガラス基板21と,第2透明電極12の他面側に設置された第2フレキシブル・ガラス基板22と,側面をシールするシール材30とを具備している。 【0012】 フレキシブル・ガラス基板21,22は,パイレックス・ガラスまたはテンパックス・ガラスを研磨して厚さ10μm?100μmとしたものであり,可撓性を有している。 【0013】 シール材30は,有機EL層1が必要とする低い酸素透過度と低い水分透過度を得られる程度に厚くしたエポキシ系樹脂である。」 オ 「【0028】 -フレキシブル・ガラス基板の可撓性の試験例- (1)厚さ50μm,幅15mm,長さ50mmのフレキシブル・ガラス基板を片持梁状に30mm突出させて水平に保持し,幅方向の中央かつ長さ方向の自由端から10mmのポイントに荷重をかけて撓ませたところ,ポイントを約15mm押し下げるまで撓ませることが出来た。 (2)厚さ70μm,幅15mm,長さ50mmのフレキシブル・ガラス基板を片持梁状に30mm突出させて水平に保持し,幅方向の中央かつ長さ方向の自由端から10mmのポイントに荷重をかけて撓ませたところ,ポイントを約10mm押し下げるまで撓ませることが出来た。」 カ 「【0029】 【発明の効果】 本発明のフレキシブル有機EL素子によれば,厚さ10μm以上の第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とで挟むように光学体層を封止するため,光学体層が必要とする低い酸素透過度と低い水分透過度が得られ,耐久性が高くなる。そして,第1フレキシブル・ガラス基板と第2フレキシブル・ガラス基板とは,厚さ100μm以下で,可撓性があるため,可撓性のあるフレキシブル表示素子と出来る。」 (2)引用刊行物に記載された発明 前記(1)アないしカから,引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。 「耐熱・硼珪酸ガラスであるパイレックス・ガラス板を研磨して厚さを50μmmまたは70μmとした,幅が15mmで長さが50mmのフレキシブル・ガラス基板であって, 片持梁状に30mm突出させて水平に保持し,幅方向の中央かつ長さ方向の自由端から10mmのポイントに荷重をかけて撓ませると,厚さが50μmのものではポイントを約15mm,厚さが70μmのものではポイントを約10mm押し下げるまで撓ませることができる, 可撓性を有しているフレキシブル・ガラス基板。」(以下「引用発明」という。) 4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」は,本願発明の「基板」に相当する。 (2)引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」の厚さは50μmまたは70μmであるところ,当該値はいずれも「約250μm未満」という本願発明の「基板」の厚さの数値範囲を満たしている。 したがって,本願発明と引用発明とは,「50μmまたは70μmの厚さ」を有する点で一致する。 (3)引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」は,その材質として,パイレックス・ガラスを用いているところ,「パイレックス」とは「Corning 7740」なるコーニング社製のガラスに用いられる登録商標である(特表2000-500108号公報の8頁9ないし10行や,特開平4-231342号公報の【0028】等を参照。)。 本願明細書の【0044】に記載された「表2-材料の性質」には,「Corning 7740」すなわちパイレックス・ガラスの破壊靱性が0.96MPa・(m)^(1/2)であり,脆性率が6.46(μm)^(-1/2)であることが示されているから,引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」は,その破壊靱性が0.96MPa・(m)^(1/2)であり,脆性率が6.46(μm)^(-1/2)であると認められる。 当該引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」の破壊靱性及び脆性率の値は,それぞれ,本願発明の「基板」における,「少なくとも約0.75MPa・(m)^(1/2)」という破壊靱性の数値範囲,及び,「約9.5(μm)^(-1/2)未満」という脆性率の数値範囲を満たしているから,本願発明と引用発明とは,「6.46(μm)^(-1/2)の脆性率及び0.96MPa・(m)^(1/2)の破壊靭性」を有する点で一致する。 (4)ア 引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」は,片持梁状に30mm突出させて水平に保持し,幅方向の中央かつ長さ方向の自由端から10mmのポイントに荷重をかけて撓ませると,厚さが50μmのものではポイントを約15mm,厚さが70μmのものではポイントを約10mm押し下げるまで撓ませることができるものである。 ここで,引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」のうち,ポイントを約15mm押し下げるまで撓ませた厚さ50μmのものが,ポイントを約10mm押し下げるまで撓ませた厚さ70μmのものよりも小さな曲率半径で撓んでいることが明らかであるから,より大きな値である厚さ70μmのものの曲率半径について検討する。 イ 撓んだ片持梁の各位置における曲率半径は固定箇所からの距離に応じて変化するが,ポイントを約10mm押し下げるまで撓ませた厚さ70μmのものの曲率半径の最小値が,少なくとも次の条件1ないし3を満たす円弧の曲率半径Rよりも小さいことが,自然法則からみて自明である。(なぜならば,仮に,厚さ70μmのものの曲率半径が,どの位置においても条件1ないし3を満たす円弧の曲率半径R(定数である。)よりも大きいのであれば,ポイントでの押し下げ長さが必ず前記円弧の距離Lよりも小さい値となってしまい,ポイントを約10mm押し下げることができないからである。) 条件1:円弧の中心角が0ないし90°(0ないしπ/2ラジアン)である。 条件2:円弧の長さが20mmである。 条件3:円弧の始点と円の中心とを結ぶ直線上に,円弧の終点を通る法線を引いたときに,当該法線及び前記直線の交点と円弧の始点との距離Lが約10mmである。 前記条件1ないし3を満たす円弧は,曲率半径Rが約18.0mmで中心角が約63.6°(約1.11ラジアン)であるから,引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」のうち厚さ70μmのものは,少なくとも約18.0mm(約1.80cm)の曲率半径で撓ませることができるものと認められる。 また,引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」のうち厚さ50μmのものは,厚さ70μmのものの曲率半径よりもさらに小さな曲率半径で撓ませることができるものである。 ウ 基板の「曲げ半径」とは,本願明細書の【0032】の記載によれば,基板が破壊せずに屈曲され得る最小半径であるから,本願発明において,「曲げ半径」が約30cm未満であるとは,本願発明の「基板」を少なくとも曲率半径約30cmで屈曲させても,当該「基板」が破壊されないことを意味している。(なお,半径が30cmで長さが20mmの円弧の中心角は約3.82°(約0.0666ラジアン)であり,距離L(前記イの条件3を参照。)は約0.666mmである。) 引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」はいずれの厚さのものも,前記イで検討したとおり,少なくとも,約30cmという値よりも小さい約1.80cmという値の曲率半径で撓ませることができるものであるから,引用発明の「フレキシブル・ガラス基板」の「曲げ半径」が約30cm未満であることは明らかである。 エ したがって,本願発明と引用発明とは,「約30cm未満の曲げ半径」を有する点で一致する。 (5)引用発明の「耐熱・硼珪酸ガラスであるパイレックス・ガラス板」は非晶質無機組成物に該当するから,本願発明の「フレキシブル・ガラス基板」と引用発明の「基板」とは,「非晶質無機組成物を含む基板」である点で一致する。 (6)上記(1)ないし(5)から,本願発明と引用発明とは, 「基板が50μmまたは70μmの厚さと, 6.46(μm)^(-1/2)の脆性率及び0.96MPa・(m)^(1/2)の破壊靭性と, 約30cm未満の曲げ半径とを有し,非晶質無機組成物を含む基板。」である点で一致し,相違するところはない。 5 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-06-27 |
結審通知日 | 2014-07-01 |
審決日 | 2014-07-14 |
出願番号 | 特願2010-509350(P2010-509350) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H05B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越河 勉 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
清水 康司 鉄 豊郎 |
発明の名称 | 機械的可撓性および耐久性基板と製造方法 |
代理人 | 佐久間 剛 |
代理人 | 柳田 征史 |