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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N |
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管理番号 | 1294710 |
審判番号 | 不服2012-6430 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-10 |
確定日 | 2014-12-04 |
事件の表示 | 特願2008-235855「新規なポリリン酸:AMPリン酸転移酵素」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月12日出願公開、特開2009- 50264〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日2002年5月29日 特願2002-156049号、優先日2003年1月17日 特願2003-8931号)を伴う、平成15年5月28日を国際出願日とする出願である特願2004-508295号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成20年9月16日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成24年4月10日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、請求項1に記載された以下のとおりのものである。 「AMPからATPを酵素的に製造する方法であって、 下記の遺伝子: (A)配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードする遺伝子;又は (B)配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードし、且つ配列番号2に示す塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子、 を、当該遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した微生物において発現させて組換えポリリン酸:AMPリン酸転移酵素を得、 得られた組換えポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とアデニレートキナーゼの二種の酵素を使用し、リン酸ドナーとしてポリリン酸を使用する、 ATPの製造法。」(以下、「本願発明」という。) 第2 引用例 当審の拒絶理由通知で引用例2として引用した、本願優先日前の2000年(平成12年)に頒布された刊行物である、APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2000,Vol.66,No.5,p.2045-2051(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(原文は英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は当審が付与した。)。 (2-1)「Acinetobacter johnsonii 210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素及びアデニレートキナーゼによるポリリン酸及びAMPからのin vitroでのATP再生」(タイトル) (2-2)「in vitroの酵素ベースのATP再生系は、予備的な有機合成及び生体触媒作用のためのATP依存性酵素反応の産生量の改善のために重要である。いくつかの酵素的なATP再生系が記述されてきたが、不利な点を有している。ポリリン酸(polyP)及びAMPを基質としての使用に基づく、ATP再生系におけるAcinetobacter johnsonii 株210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(PPT)の使用について、我々はここに報告する。我々はPPTの基質特異性を分析し、ATP要求性酵素であるホタルルシフェラーゼ及びヘキソキナーゼをモデルとしてAMP及びpolyPからのATP再生を実証した。PPTはpolyP_(n)+AMP→ADP+polyP_(n-1)の反応を触媒する。ADPは、アデニレートキナーゼ(AdK)によりATPに変換することができる。」(要約1?8行) (2-3)「この研究の焦点は、in vitroでのpolyP及びAMPからのATP再生のための(16)、Acinetobacter johnsonii 株210A(1)からのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(PPT)の可能性を研究することであった。」(2045頁右欄最終行?2046頁左欄3行) (2-4)「細胞抽出物及びPPT活性フラクションの調製。株210A細胞は、0.5mMのPerfablioc(・・)及びDNaseI(・・)を50μg/mlで含有する破壊緩衝液(・・)に1:1(wt/vol)で懸濁された。細胞は、懸濁液を冷却されたフレンチプレスセルを20,000 lb/in^(2)で2回通過させることにより破壊した。細胞ホモジネートは、細胞の破片を除去するために18,000×gで1h遠心分離され、その結果の粗抽出物は-70℃で凍結されるか直ちに150,000×g(4℃,1.5h)で超遠心された。その可溶性フラクションは、高速上清(HSS)と指定され、さらにフラクションされた。・・・。これらの溶液は、ここに記載される実験に直接使用され、あるいは、YM30再生セルロース膜を備えた撹拌超フィルターセルを用いて濃縮され脱塩された。」(2046頁左欄「MATERIALS AND METHODS」の「Preparation of cell extracts and a PPT active fraction.」の項) (2-5)「結論として、PPTは、AdK活性と共に用いられると、AMP及びpolyPからのATP再生のための期待できる生体触媒に思われる。・・・。この研究は、直接的なリン酸化反応、及び、生命工学的に関連したATP要求性酵素の産生を促進するためのATP再生における使用のための、機能的な生体触媒としてのPPTの開発の基礎を提供する。その蛋白質の精製及び対応する遺伝子のクローニングが、この興味ある酵素の完全な特徴付けのための必要なステップである。」 (2050頁右欄3?20行) (2-6)「Bonting,C.F.C.,G.J.J.Kortstee,and A.J.B.Zehnder.1991.Acinetobacter 株210Aのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素の性質,J.Bacteriol.173:6484-6488」 (2050頁右欄「REFERENCES」の項「1.」 ) 記載事項(2-1)、(2-2)、(2-4)より、引用例2には以下の発明が記載されている。 「Acinetobacter johnsonii 210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とアデニレートキナーゼを使用し、ポリリン酸及びAMPを基質として、AMPからATPを製造する方法。」(以下、「引用発明」という。) 当審の拒絶理由通知で引用例3として引用された、本願優先日前の1991年(平成3年)に頒布された刊行物である、JOURNAL OF BACTERIOLOGY,1991,Vol.173,No.20,p.6484-6488(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている(原文は英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。 (3-1)「Acinetocacter 株210Aのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素の性質」(タイトル) (3-2)「ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素は、ポリリン酸を使ってAMPをADPへのリン酸化を触媒する酵素であるが、ストレプトマイシン硫酸沈殿、Mono-Q、Phenyl Superose及びSuperoseカラムクロマトグラフィーにより、Acinetobacter株210Aから1500倍以上精製された。」(要約1?3行) (3-3)「性質 最も精製されたフラクションは、アデニレートキナーゼ及びポリホスファターゼ活性のいずれも検出されなかった。そのフラクションは、SDS-PAGEで55kDaの分子量に対応する1つの主要バンドを示した。第2の精製過程において、Phenyl Superose HR5/5カラムの連続するフラクションが、活性についてスクリーンされ、SDS-PAGEに供された。ゲルは、1つは55kDa及び1つは41kDaの、2つのバンドを示した。55kDaバンドを含むフラクションだけが有意なポリリン酸:AMPリン酸転移酵素活性を有していた(図1)。これらの結果から、活性は55kDaのバンドと関連することが導き出される。」(6485頁右欄下から14行目?3行目) 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用例2の記載事項(2-2)に「PPTはpolyP_(n)+AMP→ADP+polyP_(n-1)の反応を触媒する。」と記載されていることから、ポリリン酸(polyP)がAMPに対してリン酸ドナーとして作用していることは明らかである。 よって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりとなる。 一致点:「AMPからATPを酵素的に製造する方法であって、 ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素とアデニレートキナーゼの二種の酵素を使用し、リン酸ドナーとしてポリリン酸を使用する、 ATPの製造法。」である点。 相違点:本願発明は、ポリリン酸:AMPリン酸転移酵素について、 「下記の遺伝子: (A)配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードする遺伝子;又は (B)配列番号1に示すアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードし、且つ配列番号2に示す塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子、 を、当該遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した微生物において発現させて組換えポリリン酸:AMPリン酸転移酵素を得」るという工程を備え、「得られた組換え」のものを用いているのに対し、引用発明は、そのような工程を備えていない点。 第4 当審の判断 1.本願実施例1によれば、本願発明のアミノ酸配列である「配列番号1」及び塩基配列である「配列番号2」は、それぞれ、Acinetobacter johnsonii 株210A由来の約55kDaの分子量をもつポリリン酸:AMPリン酸転移酵素のアミノ酸配列及び塩基配列である。 2.有用な化合物の生産に有効な酵素について、それを大量かつ簡便に取得することを可能とするために、当該酵素をコードする遺伝子のクローニングを行い、配列決定することは、本願優先日前の当業者に周知の技術的課題であった。しかも、引用発明の「Acinetobacter johnsonii 210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素」について、引用例2には、「精製及び対応する遺伝子のクローニングが、この興味ある酵素の完全な特徴付けのための必要なステップである。」(記載事項(2-5))との記載もある。 よって、引用発明の「Acinetobacter株210A由来のポリリン酸:AMPリン酸転移酵素」を遺伝子工学的な手法により大量かつ簡便に取得するため、該酵素のアミノ酸配列及び塩基配列を決定する十分な動機があるものといえる。 3.他方、精製されたタンパク質について、エドマン分解法や質量分析法等のアミノ酸配列を決定する種々の手法が既に本願優先日前の慣用技術であったと認められ、電気泳動後のゲルから得た精製タンパク質をエドマン分解法等により部分配列を決定する手法までもが慣用技術であったといえる(要すれば、特開2001-46075号公報の段落【0014】、【0029】、国際公開02/004625号13頁下から8行?14頁6行、特開2001-348399号の段落【0035】、特開2001-151795号の段落【0002】?【0003】、国際公開01/011366号の実施例10等参照。)。そして、決定された部分配列に基づいてプライマーやプローブを設計し、ゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーからクローニングを行って、当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列決定を行い、それを含むベクターを構築し形質転換した微生物において発現させて目的のタンパク質を得ることも慣用技術であったと認められる。 4.引用発明の「Acinetobacter johnsonii 210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素」は、引用例2の記載事項(2-3)において「Acinetobacter johnsonii 210A(1)」として、参考文献1(引用例3)と引用されており、引用例3の精製方法により、配列解析しうる程度の酵素を取得することができていたといえる。そうであるなら、上記の当業者の慣用技術を適用することで当該酵素をコードする遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を得ることは、当業者が容易に行い得たものといえる。 5.そして、上記のようにして得られた塩基配列及びアミノ酸配列は、上記「1.」で述べたように本願発明の配列のもととなる「Acinetobacter johnsonii株210A」と由来が同じであるのだから、それぞれ本願発明のアミノ酸配列である「配列番号1」及び塩基配列である「配列番号2」となることは明白である。 仮に何らかの理由で塩基配列が相違するとしても、その差は若干であり、本願発明の「(A)配列番号1に示すアミノ酸配列・・の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードする遺伝子」乃至「(B)配列番号1に示すアミノ酸配列・・の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリリン酸:AMPリン酸転移酵素をコードし、且つ配列番号2に示す塩基配列と90%以上の相同性を有する遺伝子」の範囲に包含されるといえる。 6.以上のことから、本願発明は、引用発明において、遺伝子工学的に大量の「Acinetobacter johnsonii 210Aからのポリリン酸:AMPリン酸転移酵素」を取得すべく、その塩基配列及びアミノ酸配列を単に調べただけのものであり、何の創作性もなくなしえたことといえる。 7.そして、本願発明が、引用例2、3、及び、周知・慣用技術から、予測し得ない有利な効果を奏するとは認められない。 8.よって、本願発明は、引用例2、3に記載された発明、及び、周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 請求人の主張 請求人は、平成26年9月1日付け意見書で以下の点を主張している。 引用例3の精製酵素の収率は非常に低く、本願出願以前には、Acinetobacter株210Aから解析に必要な量のポリリン酸:AMPリン酸転移酵素(PAP)を取得することすら容易ではなかった、引用例2の刊行された2000年の時点でも、210A株からのPAPの濃縮・精製技術すら十分に確立されていなかった、電気泳動を行ったとしても配列決定に必要な量の精製PAP蛋白質を回収することは極めて困難であった、よって、エドマン分解法や質量分析法等のアミノ酸配列決定手法等の周知技術をAcinetobacter株210AのPAPの取得に適用することは容易なことではなかった。そして、PAP遺伝子のクローニングは、本願発明者らが構築したスクリーニング系によって、初めて成功した。 請求人の主張について検討する。 引用例3の最終的な精製酵素の収率が低くとも、Acinetobacter株210Aを増殖し大量の酵素精製の出発材料を得ることが可能なことは明らかであるから、クローニングをなし得ないことの根拠とはならない。 よって、請求人の主張は採用することができない。 第6 まとめ 以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用例2、3に記載された発明、及び、周知・慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-03 |
結審通知日 | 2014-10-07 |
審決日 | 2014-10-21 |
出願番号 | 特願2008-235855(P2008-235855) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 巌 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
今村 玲英子 田中 晴絵 |
発明の名称 | 新規なポリリン酸:AMPリン酸転移酵素 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 村田 正樹 |