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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1294719
審判番号 不服2012-19163  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2014-12-03 
事件の表示 特願2006-522125「アミノ酸プロドラッグ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日国際公開、WO2005/046575、平成19年 4月26日国内公表、特表2007-510621〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年7月29日(パリ条約による優先権主張2003年7月29日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年3月15日付けの拒絶理由通知に対して同年9月29日付けで手続補正がなされ、同年10月5日付けで上申書が提出されたが、平成24年5月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?27に係る発明は、平成23年9月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「 【請求項1】
ヒドロキシ、アミノ、またはカルボキシからなる群より選択される官能基を有する薬剤の、少なくとも2つの治療特性を増強するための方法であって、前記改良治療特性が:
(a)改善した味覚または香り;
(b)望ましいオクタノール/水分配係数;
(c)改善した安定性;
(d)高められた血液脳関門通過性;
(e)肝臓での初回通過効果の排除;
(f)肝臓内循環の減少;
(g)非経口製剤の無痛注射;
(h)改善したバイオアベイラビリティ;
(i)改善した吸収率変化;
(j)軽減した副作用;
(k)用量比例性;
(l)作用部位でのプロドラッグの選択的加水分解;
(m)制御された放出特性;
(n)標的を定めた薬剤送達;
(o)毒性の低下;
(p)投与量の減少;
(q)作用部位に送達する薬剤を増加させるための代謝経路の変更
(r)水溶液への溶解性の増加;および
(s)増強した効力;
からなる群から選択され、当該方法が(a)前記薬剤をアミノ酸と、前記薬剤と前記アミノ酸の間に共有結合を形成するために反応させるステップを含み、前記薬剤がアセトアミノフェン、アデホビル、アムロジピン、アモキシリン、アムホテリシンB、アスピリン、アトルバスタチン、アトバコン、バクロフェン、ベナゼプリル、ベキサロテン、カンデサルテン、カパシタビン、カプトプリル、カルプロフェン、カルビドーパ、カルボプロスト、セフジニル、セフジトレン、セフタジミド、セフポドキシム、セフロキシム、シプロフロキサシン、クロフィブラート、クロピドグレル酸、シクロスポリン、ダナゾール、ジクロフェナック、ジダノシン、ジバルプロックス、ジフルニサル、5-アミノサリチル酸、エトドラク、エファビレンツ、エナラプリル、エプレレノン、エプロサルタン、エストラムスチン、エトドラク、エトスクシミド、エトトイン、エチドカイン、エトポシド、エゼチミブ、フェノフィブレート、フェノプロフェン、フィブリン酸誘導体、フラボキサート、フルルビプロフェン、フルバスタチン、フォシノプリル、フロバトリプタン、フルベストラント、グリメピリド、ゴセレリン、ゲムフィブロジル、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラック、ランソプラゾール、ロピナビル、ロバスタチン、メドロキシプロゲステロン、メフロキン、メゲストロール、メトホルミン、メチルフェニデート、メチルプレドニソロン、メキシレチン、ミグリトール、モエキシプリル、ナドロール、ナプロキセン、ナラトリプタン、ネルフィナビル、ナイアシン、ニソルジピン、ノルゲスチマート、オクトレオチド、オフロキサシン、オルメサルタン、オメプラゾール、プラバスタチン、ペリンドプリル、プロポフォール、プロポキシフェン、ラミプリル、リトナビル、ロサプロストール、サリチル酸、サルメテロール、サルサレート、サラジン、スリンダク、セルトラリン、シンバスタチン、サルファ剤、サルファサラジン、スミトリプタン、トルメチン、タザロテン、テノフォビル、トルメチン、トランドラプリル、トレプロスチニル、ウノプロストン、バルプロ酸、バルサルタン、ジロートン、及びゾルミトリプタン、あるいは前記薬剤の任意の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択されることを特徴とする方法。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日より前に頒布されたことが明らかな刊行物3、2及びそれらの記載事項は以下のとおりである。

刊行物3:Pharmaceutical Research,1998年, Vol.15, No.9, p.1382-1386
刊行物2:Pharmaceutical Research,1998年, Vol.15, No.8, p.1154-1159

3-1.刊行物3の記載事項
(3A)「

」(1382頁左欄抄録、抄訳:目的.本研究は、人間の腸ペプチドトランスポーター、hPEPT1(Caco-2/hPEPT1細胞)を過剰発現する一過性にトランスフェクトされたCaco-2細胞中のヌクレオシド抗ウイルス薬のアミノ酸エステルプロドラッグの細胞取り込み機構及び加水分解の特性を記述する。
方法.アシクロビルおよびAZTのアミノ酸エステルプロドラッグを合成し、それらの頂端膜透過性及び加水分解はCaco-2/hPEPT1細胞で評価した。・・・
結果.アシクロビルのL-バリルエステル(L-Val-ACV)は、アシクロビルよりも頂端膜について約10倍透過性であり、アシクロビルのD-バリルエステル(D-Val-ACV)よりも4倍透過性であった。それに対応して、AZTのL-バリルエステル(L-Val-AZT)は、AZTよりも3倍高い細胞取り込みを示した。したがって、アミノ酸エステルプロドラッグは親薬物の細胞内取り込みをかなり増加させ、D、L-立体選択性を示した。さらに、プロドラッグは、頂端膜輸送に続いて、細胞内の加水分解によって親薬物に急速に加水分解された。・・・
結論.Caco-2/hPEPT1システムはペプチジル誘導体の取り込み研究にとって効率的なインビトロモデルである。アミノ酸エステルプロドラッグは、ペプチド輸送機構を通じて親化合物の細胞取り込みをかなり改善し、細胞内加水分解により活性な親薬物へ急速に変換された。)

(3B)「

」(1382頁左欄下から7?最終行、訳:ヌクレオシド抗ウイルス薬のアミノ酸エステルプロドラッグは、経口バイオアベイラビリティと親薬物の脳への取り込みを増加させることが報告されている。例えば、アシクロビルのL-バリルエステルプロドラッグであるバラシクロビルは、ヒトにおいて、吸収後、急速かつほぼ完全に酵素加水分解によりアシクロビルに変換され、アシクロビルのバイオアベイラビリティを3?5倍向上させる。)

(3C)「

」(1382頁右欄12?14行、訳:Caco-2細胞は、よく腸薬物輸送研究のための適切な試験管内モデルとして、十分に特徴付けられ、かつ、現在最も普及している細胞培養システムである。)

(3D)「

」(1384頁左欄9?18行、抄訳:L-Val-ACVの細胞取り込みをCaco-2細胞とCaco-2/hPEPT1細胞の両方で評価した。・・・このように、Caco-2/hPEPT1細胞は、hPEPT1トランスポーターを標的とする我々のプロドラッグの細胞取り込み機構を評価するための効率的なモデルであろう。)

(3E)「

」(1384頁左欄31行?右欄図1の下4行、抄訳:アシクロビルおよびそのアミノ酸エステルプロドラッグの見かけの細胞取り込み透過性(P_(app))をCaco-2/hPEPT1細胞における時間対取り込み曲線の線形部分から決定した(図2)。見積もられたP_(app)はそれぞれ以下のとおりであった:アシクロビル;(1.66±0.215)×10^(-7)cm/sec、L-Val-ACV;(17.0±2.42)×10^(-7)cm/sec、D-Val-ACV;(3.86±0.82)×10^(-7)cm/sec及びGly-ACV;(2.10±0.262)×10^(-7)cm/sec(図3)。L-Val-ACVはその親薬物であるアシクロビルよりも約10倍頂端膜を横切って透過し、そのD-異性体、D-VAL-ACVよりも4倍透過性であった。
一方で・・・。30分のインキュベーション後、細胞の取り込み(nmol/mg蛋白、Mean±SD、n=3)は、L-Val-AZTが8.75±1.03であり、AZTが2.86±0.15であった。結果的にL-Val-AZTはその親薬物であるAZTよりも3倍高い細胞取り込みを示した。)

(3F)「

」(1385頁右欄下から5行?1386頁左欄12行、訳:アミノ酸エステルプロドラッグがいかに効率的に親薬物の細胞取り込みを向上させるかを調べるために、Caco-2/hPEPT1細胞におけるアミノ酸エステルプロドラッグの細胞への取り込みが、親薬物の該取り込みと比較された。アシクロビルおよびAZTの細胞取り込みは、アミノ酸エステルプロドラッグによって3?10倍増加した。さらに、L-Val-ACVがD-Val-ACVと比較して、はるかに高い膜透過性と共にアシクロビルへの迅速な再変換を示したので、アミノ酸のL-配置は、プロドラッグ戦略により適している。これらの結果は、L-Val-ACVは、ラットにおいてアシクロビルに対しバイオアベイラビリティーを3倍増加したが、D-Val-ACVはしなかったというボーシャンら(3)の発見を説明することができる。加えて、取り込み試験(図3)中のL-Val-ACVとGly-ACV間の透過性の有意差は、L-バリンは、鎖長及びアミノ酸のβ炭素での分岐について腸管吸収にとって最適な組み合わせを有するであろうというボーシャンらによる提案を強力に裏付けている。)

3-2.刊行物2の記載事項
(2A)「

(1154頁、抄録、抄訳:目的.ウイルス感染および癌の治療におけるヌクレオシド類似体の一般的な使用は、多くの場合、乏しい経口吸収によって制限される。アシクロビルの水溶性アミノ酸エステルプロドラッグである、バラシクロビルはアシクロビルの経口バイオアベイラビリティを増加することが報告されているが、その吸収メカニズムは知られていない。本研究は、抗ウイルス薬の5'-アミノ酸エステルプロドラッグの腸管吸収機構の特性を記述し、経口薬剤吸収を向上させるための効果的な戦略としてのアミノ酸エステルの可能性を検討した。
方法.アシクロビル(ACV)とジドブジン(AZT)が異なる糖修飾ヌクレオシド抗ウイルス剤として選択され、ACVとAZTのL-バリルエステル(L-Val-ACV and L-Val-AZT)、ACVのD-バリルエステル(D-Val-ACV)及びACVのグリシルエステル(Gly-ACV)が合成された。この5’-アミノ酸エステルプロドラッグの腸管吸収機構は、3つの異なる実験系においてその特性が記述された。・・・
結果.試験をしたアシクロビルおよびAZTの5’-アミノ酸エステルプロドラッグは親ヌクレオシド類似体の3?10倍腸透過性を増加させることを見出した。・・・)

(2B)「

」(1154頁右欄下から5行?1155頁左欄1行、訳:最近、ヌクレオシド類似体のアミノ酸エステルプロドラッグは、抗ウイルス剤、アシクロビルの経口全身アベイラビリティを高めることが報告されている。アシクロビルの5'-L-バリルエステルによる誘導体化によって、アシクロビルに比べてヒトでの全身アベイラビリティが3?5倍高いプロドラッグ(バラシクロビル)が得られた(10)。)

(2C)「

」(1155頁左欄)

(2D)「

」(1156頁右欄下から2行?1157頁左欄図2の下12行、抄訳:図2に示されるように、腸管膜透過性試験は、アシクロビルのL-バリルエステル(L-Val-ACV)は、親薬物及びそのD-異性体であるD-Val-ACVより膜を横切って約10倍透過性であることを示している。グリシルエステルプロドラッグ(Gly-ACV)は低いが依然として有意である4倍の強化を示した。・・・AZTのL-バリルエステルは、ヌクレオシド成分も変化し得ることが示され、浸透性について3倍の強化を示した。これらの結果は、アミノ酸残基に関して立体選択性を立証し、推定のトランスポーターは様々なアミノ酸プロドラッグを認識することができることを示している。)

(2E)「

」(1158頁図5の下2?23行、抄訳:アシクロビルとそのバリンエステルについて、Caco-2細胞における粘膜(m)から漿膜(s)及びsからmの流れの両方が測定された。L-Val-ACVのmからsへの流れはアシクロビル、対応するD-エステルの7倍高い一方、アシクロビル、D-及びL-Val-ACVは全て類似かつ低いsからm輸送速度を有する(図6)。・・・これらの結果は、受動拡散がアシクロビルの主要な輸送経路である一方、 L-Val-ACVがキャリア媒介機構によって腸管上皮を横切って輸送されることを示唆している。・・・まとめると、三つの異なる実験系から得られた結果は非常に一貫しており、以下のように要約される。第一に、アミノ酸エステルプロドラッグは有意に(3?10倍で)は、それらの親薬物の膜透過性を増加させた。)

3-3.引用発明
刊行物3に記載のアシクロビルはヒドロキシ基を有する薬剤である(摘示2Cの最初の化合物(R=H))。また、バラシクロビル(アシクロビルのL-バリルエステル、L-Val-ACV)は、アシクロビルのヒドロキシ基部分がL-バリンによってエステル化されたものに対応する化学構造を有する化合物であり(摘示2Cの3番目の化合物)、該エステル部分、すなわちアシクロビルのヒドロキシを構成する酸素原子とL-バリンのカルボキシル基におけるカルボニルを構成する炭素原子との間で共有結合を形成している。また、刊行物3には、バラシクロビルがアシクロビルのバイオアベイラビリティを向上させること(摘示3B、3F)が記載されている。
したがって、刊行物3には
「ヒドロキシ基を有する薬剤であるアシクロビルをL-バリルエステルとすることによりバイオアベイラビリティを向上させる方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

4.対比・判断
4-1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
その前提として、本願発明に「治療特性を増強するための方法であって、前記改良治療特性が」とあるが、「改良治療特性」は前記されていないこと、請求項中に他に「治療特性」に関する記載はないことからみて、「前記改良治療特性」とは「改良された前記治療特性」を意味するものと解して、以下の対比を行う。
引用発明のバイオアベイラビリティを向上させることは、本願発明の「改良治療特性」が「改善したバイオアベイラビリティ」である「薬剤の治療特性を増強する」ことに相当する。したがって、本願発明と引用発明とは、
「ヒドロキシ、アミノ、またはカルボキシからなる群より選択される官能基を有する薬剤の治療特性を増強するための方法であって、前記改良治療特性が、改善したバイオアベイラビリティである方法。」
である点で一致し、

<相違点1>
本願発明が、「少なくとも2つの治療特性を増強するための方法であって、前記改良治療特性が:
(a)改善した味覚または香り;
(b)望ましいオクタノール/水分配係数;
(c)改善した安定性;
(d)高められた血液脳関門通過性;
(e)肝臓での初回通過効果の排除;
(f)肝臓内循環の減少;
(g)非経口製剤の無痛注射;
(h)改善したバイオアベイラビリティ;
(i)改善した吸収率変化;
(j)軽減した副作用;
(k)用量比例性;
(l)作用部位でのプロドラッグの選択的加水分解;
(m)制御された放出特性;
(n)標的を定めた薬剤送達;
(o)毒性の低下;
(p)投与量の減少;
(q)作用部位に送達する薬剤を増加させるための代謝経路の変更
(r)水溶液への溶解性の増加;および
(s)増強した効力;
からなる群から選択され」とされることから、本願発明は、(h)改善したバイオアベイラビリティに加えて上記(a)?(g)、(i)?(s)から選ばれる少なくとも1つの治療特性を増強するのに対し、引用発明ではそのような特定がない点、

<相違点2>
本願発明が、「当該方法が(a)前記薬剤をアミノ酸と、前記薬剤と前記アミノ酸の間に共有結合を形成するために反応させるステップを含み」としているのに対し、引用発明ではそのようなステップが特定されていない点、

<相違点3>
本願発明が、「薬剤がアセトアミノフェン、アデホビル、アムロジピン、アモキシリン、アムホテリシンB、アスピリン、アトルバスタチン、アトバコン、バクロフェン、ベナゼプリル、ベキサロテン、カンデサルテン、カパシタビン、カプトプリル、カルプロフェン、カルビドーパ、カルボプロスト、セフジニル、セフジトレン、セフタジミド、セフポドキシム、セフロキシム、シプロフロキサシン、クロフィブラート、クロピドグレル酸、シクロスポリン、ダナゾール、ジクロフェナック、ジダノシン、ジバルプロックス、ジフルニサル、5-アミノサリチル酸、エトドラク、エファビレンツ、エナラプリル、エプレレノン、エプロサルタン、エストラムスチン、エトドラク、エトスクシミド、エトトイン、エチドカイン、エトポシド、エゼチミブ、フェノフィブレート、フェノプロフェン、フィブリン酸誘導体、フラボキサート、フルルビプロフェン、フルバスタチン、フォシノプリル、フロバトリプタン、フルベストラント、グリメピリド、ゴセレリン、ゲムフィブロジル、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラック、ランソプラゾール、ロピナビル、ロバスタチン、メドロキシプロゲステロン、メフロキン、メゲストロール、メトホルミン、メチルフェニデート、メチルプレドニソロン、メキシレチン、ミグリトール、モエキシプリル、ナドロール、ナプロキセン、ナラトリプタン、ネルフィナビル、ナイアシン、ニソルジピン、ノルゲスチマート、オクトレオチド、オフロキサシン、オルメサルタン、オメプラゾール、プラバスタチン、ペリンドプリル、プロポフォール、プロポキシフェン、ラミプリル、リトナビル、ロサプロストール、サリチル酸、サルメテロール、サルサレート、サラジン、スリンダク、セルトラリン、シンバスタチン、サルファ剤、サルファサラジン、スミトリプタン、トルメチン、タザロテン、テノフォビル、トルメチン、トランドラプリル、トレプロスチニル、ウノプロストン、バルプロ酸、バルサルタン、ジロートン、及びゾルミトリプタン、あるいは前記薬剤の任意の薬学的に許容可能な塩からなる群から選択される」としているのに対し、引用発明における薬剤はアシクロビルである点、

で相違する。

4-2.判断
4-2-1.相違点1について
刊行物3にはアシクロビルのL-バリルエステルがアシクロビルよりも頂端膜の透過性が高く、親薬物、すなわちアシクロビルの細胞取り込みを増加させることが(摘示3A、3C?3F)記載されており、細胞取り込みが増加すれば、体内への吸収が高まるといえることから、刊行物3には、アシクロビルをL-バリルエステルとすることでアシクロビルに比べて体内への吸収が高まることが開示されているものといえる。そして、「吸収が高まる」ことは本願発明における「(i)改善した吸収率変化」と同じことを意味するものと認める。したがって、引用発明も増強した治療特性として「(i)改善した吸収率変化」があるから、この点は実質的な相違点ではない。
また、刊行物2には、腸管吸収機構の特性を記述すること、アシクロビルのL-バリルエステルはアシクロビルよりも腸管膜透過性に優れることが記載されており(摘示2A、2D、2E)、腸間膜透過性に優れれば、体内への吸収が高まるといえる。したがって、引用発明において、増強する治療特性として「(i)改善した吸収率変化」を特定することは当業者が容易に行うことである。
さらに、上述のとおり刊行物2、3のいずれにもアシクロビルをL-バリルエステルとすることでアシクロビルに比べて体内への吸収が高まることが開示されており、いずれの刊行物にも、該エステルとすることでバイオアベイラビリティが増加することが記載されている(摘示3B、3F、2A、2B)ところ、薬物の体内への吸収が高まり、バイオアベイラビリティが増加すれば、薬物の効力が増強したということができ、さらに治療に要する薬物の量が減少することは明らかであるから、投与量を減少することもできる。したがって、引用発明において増強した治療特性として「(p)投与量の減少」及び「(s)増強した効力」を特定することは当業者が容易に行うことである。

4-2-2.相違点3について
引用発明のアシクロビルはプリン骨格を有する抗ウイルス剤であるところ、刊行物2、3には同じく抗ウイルス剤であるAZT(ジドブジン)について、L-バリルエステルとすること、該エステルがAZTと比較して高い腸透過性、細胞取り込みを有することが記載されている(摘示2A、2D、2E、3A、3E、3F)。そして、本願発明の薬剤であるアデホビル、ジダノシン、テノフォビルは、いずれもアシクロビルと同様にプリン骨格を有する化合物であり、アシクロビル、AZTと同様に抗ウイルス剤であって、アシクロビル、AZTと共に一群のものとして認識されていることは、各々例えば下記刊行物A、B?Dに記載のとおり本願の優先日当時に周知の事項であり、それらはいずれもヒドロキシ基を有する化合物である。そうしてみると、引用発明においてアシクロビルにかえてアデホビル、ジダノシン、テノフォビルを薬剤として用いることは当業者が容易に行うことである。
そして、刊行物2、3には、ヒドロキシ基を有する抗ウイルス剤であるアシクロビルとAZTをそれらのL-バリルエステルとすると、高い腸透過性、細胞取り込みを有することが記載されていることから、同様の化学構造を有するアデホビル、ジダノシン、テノフォビルについても同様の効果を奏することは当業者が予測し得る事項の範囲内である。
同様にして、引用発明のアシクロビルにかえて、本願請求項1に記載の周知の薬剤を用いることは当業者が容易に行うことである。

刊行物A:THE MERCK INDEX THIRTEENTH EDITION,2001年、151.Adefovir,3125.Dianosine,9223.Tenofovir










刊行物B:国際公開2002/100428号
「"Anti-viral compounds" means a class of compounds which includes any therapeutic compounds for treating viral diseases. The compounds include compounds in research, in development and compounds marketed and sold. The class of anti-viral compounds includes interferon compounds, acyclovir, adefovir, abacavir, amprenavir, cidofovir, didanosine, ・・・, zidovudine, ・・・,valacyclovir,・・・ tenofovir, disoproxil fumarate and zalcitabine.」(9頁10?18行、訳(下線は当審による):「抗ウイルス性化合物」とは、ウイルス性疾患を治療するための任意の治療用化合物を含む化合物の類を意味している。該化合物は、研究・開発における化合物と、市場において取引され販売される化合物とを含んでいる。抗ウイルス性化合物の類は、インターフェロン化合物、アシクロビル、アデフォビル、アバカビル、アンプレナビル、シドフォビル、ジダノシン、・・・、ジドブジン、・・・、バラシクロビル、・・・テノフォビル、ディソプロキシル・フューマレートおよびザルシタビンを含んでいる。)

刊行物C:国際公開2002/098422号
「Antiviral agents include, but are not limited to, nucleoside analogs, nonnucleoside reverse transcriptase inhibitors, nucleoside reverse transcriptase inhibitors, protease inhibitors, integrase inhibitors, including the following: Acemannan; Acyclovir; Acyclovir Sodium; Adefovir; ・・・; Didanosine;・・・; Tenofovir; Tilorone Hydrochloride; Trifiuridine; Valacyclovir Hydrochloride; Vidarabine; Vidarabine Phosphate; Vidarabine Sodium Phosphate; Viroxime; Zalcitabine; Zerit; Zidovudine (AZT); and Zinviroxime.」(16頁25行?17頁6行、訳(下線は当審による):抗ウイルス剤としては、ヌクレオシドアナログ、非ヌクレオシド逆転写酵素インヒビター、ヌクレオシド逆転写酵素インヒビター、プロテアーゼインヒビター、インテグラ-ゼインヒビターが挙げられるが、これらに限定されず、これらは、以下を包含する:アセマンナン;アシクロビル;アシクロビルナトリウム;アデフォビル;・・・;ジダノシン;・・・;テノフォビル;塩酸チロロン;トリフルリジン;塩酸バラシクロビル;ビダラビン;リン酸ビダラビン;リン酸ビダラビンナトリウム;ビロキシム;ザルシタビン;ゼリット;ジドブジン(AZT);およびジンビロキシム。)

刊行物D:国際公開2002/070470号
「Examples of such further therapeutic agents include agents that are effective for the treatment of viral infections or associated conditions. Among these agents are・・・acyclic nucleosides, for example acyclovir, valaciclovir, famciclovir, ganciclovir, and penciclovir, acyclic nucleoside phosphonates, for example (S)- 1 -(3-hydroxy-2-phosphonyl-methoxypropyl)cytosine (HPMPC), [[[2-(6-amino-9H-purin-9- yl)ethoxy]methyl]phosphinylidene]bis(oxymethylene)-2,2-dimethylpropanoic acid (bis-POM PMEA, adefovir dipivoxil), [[(lR)-2-(6-amino-9H-purin-9-yl)-l- methylethoxy]methyl]phosphonic acid (tenofovir), and (R)-[[2-(6-Amino-9H-purin-9-yl)-l- methylethoxy]methyl]phosphonic acid bis-(isopropoxycarbonyloxymethyl)ester (bis-POC- PMPA), ribonucleotide reductase inhibitors, for example 2-acetylpyridine 5-[(2- chloroanilino)thiocarbonyl) thiocarbonohydrazone and hydroxyurea, nucleoside reverse transcriptase inhibitors, for example 3'-azido-3'-deoxythymidine (AZT, zidovudine), 2', 3'- dideoxycytidine (ddC, zalcitabine), 2',3'-dideoxyadenosine, 2',3'-dideoxyinosine (ddI, didanosine)・・・.」(26頁12行?28頁4行、訳(下線は当審による):このような追加の治療薬の例は、ウイルス感染もしくは関連症状の治療に有効な薬剤を包含する。こうした薬剤には、・・・非環式ヌクレオシド、例えば、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、およびペンシクロビル、非環式ヌクレオシドホスホン酸エステル、例えば、(S)-1-(3-ヒドロキシ-2-ホスホニル-メトキシプロピル)シトシン (HPMPC)、[[[2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)エトキシ]メチル]ホスフィニリデン]ビス(オキシメチレン)-2,2-ジメチルプロパン酸 (ビス-POM PMEA、アデフォビルジピボキシル)、[[(1R)-2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)-1-メチルエトキシ]メチル]ホスホン酸 (テノフォビル)、および (R)-[[2-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)-1-メチルエトキシ]メチル]ホスホン酸ビス-(イソプロポキシカルボニルオキシメチル)エステル(ビス-POC-PMPA)、リボヌクレオチド還元酵素阻害剤、例えば2-アセチルピリジン5-[(2-クロロアニリノ)チオカルボニル)チオカルボノヒドラゾンおよびヒドロキシ尿素、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤、例えば、3'-アジド-3'-デオキシチミジン (AZT、ジドブジン)、2',3'-ジデオキシシチジン (ddC、ザルシタビン)、2',3'-ジデオキシアデノシン、2',3'-ジデオキシイノシン(ddI、ジダノシン)・・・がある。)

4-2-3.相違点2について
原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな下記刊行物4、5には、以下の事項が記載されている。

刊行物4:European Journal of Pharmaceutical Siences,2002年,Vol.16,p.1-13


・・・

・・・

」(2頁左欄35行?3頁左欄5行、抄訳:
2.2.1. L-バラシクロビル類似体の合成
・・・
2.2.1.1. 2-(9-プリンメトキシ)エチル-L-バリネートの合成
・・・
2.2.1.1.3. 2-(9-プリンメトキシ)エチル-N-Boc-L-バリネート
DMF-ジクロロメタン(・・・)中の9-(2-ヒドロキシエトキシメチル)-プリン(・・・)の撹拌溶液中に・・・N-Boc-L-バリン(・・・)をアルゴン下に加えた。溶液は80℃で40時間撹拌された。溶媒の蒸発後、残渣を酢酸エチルで溶出するフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、透明な油を得た。
・・・
2.2.1.1.4. 2-(9-プリンメトキシ)エチル-L-バリネート(2b)
ジクロロメタン(5ml)中、2-(9-プリンメトキシ)エチル-N-Boc-L-バリネート(・・・)と25%トリフルオロ酢酸(TFA)が、室温で3時間撹拌された。蒸発、共沸蒸留、凍結乾燥の後、生成物2bを無色固体(・・・)として得た。)

刊行物5:Journal of Pharmaceutical Siences,2001年,Vol.90,No.5,p.617-624


」(618頁右欄13行?619頁左欄27行、抄訳:
アミノ酸エステルプロドラッグの合成
アミノ酸エステルプロドラッグは、ビーチャムら^(10)によって記載された手順に従うことによって合成された(スキーム1)。・・・
アシクロビル(・・・)は・・・溶解された。続いて、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(・・・)、保護アミノ酸(・・・)、及びジシクロヘキシルカルボジイミド(・・・)が冷却された溶液に加えられた。・・・中間体(IIIa、IIIb、IIIcが生成した。・・・脱保護のために・・・残渣IVb及びIVcがビーチャムら^(10)によって報告された方法に従って再結晶された。
残渣Ivaが少量の水に溶解され、溶液のpHが1N水酸化ナトリウムによって約5.0に調節された。)

一般にカルボキシル基を有する化合物とヒドロキシ基を有する化合物とからエステルを製造することは周知の技術であるところ、上記刊行物4、5の記載によれば、アシクロビル、その類似体のアミノ酸エステルの製造方法において、アシクロビル、その類似体のヒドロキシ基と保護アミノ酸のカルボキシル基を反応させてエステルを形成することも本願優先日前に周知であるということができる。そうしてみると、上記相違点3において検討したヒドロキシ基を有する化合物であって、アシクロビルに化学構造が類似するアデホビル、ジダノシン、テノフォビルとアミノ酸とのエステルを形成する反応において、これら化合物をアミノ酸と反応させてそれらの間に共有結合を形成するとすることは当業者が容易に行うことである。
なお、本願発明の詳細な説明によれば、アミノ酸が、反応条件下で反応性である基を有する場合はその基は保護基によって保護される旨、アスパラギン酸等の側鎖にカルボキシル基を持つアミノ酸を用いる場合には、一般的には側鎖のカルボキシル基を保護する必要がある旨記載されており(段落[0034]?[0036])、実施例(実験章)においても、例えば窒素原子が保護されたアミノ酸が用いられている(段落0123等)から、本願発明の方法は薬剤と保護アミノ酸との反応を包含するものと解される。

4-2-4.本願発明の効果について
本願発明の効果について検討する。
本願の発明の詳細な説明の段落0087には判明した利点として、
a) 香味の改善
b) 好適なオクタノール/水分配係数(即ち水に対する溶解性)
c) in vitroおよびin vivoにおける安定性の改善
d) 血液脳関門の通過性
e) 肝臓における初回通過効果の排除
f) 腸肝再循環の減少
g) 非経口製剤の無痛注射
h) バイオアベイラビリティの改善
i) 吸収速度の上昇
j) 副作用の軽減
k) 用量比例性
l) 作用部位におけるプロドラッグの選択的加水分解
m) 制御放出特性
n) 標的化ドラッグデリバリー
o) 毒性の低減、それによる治療比の改善
p) 用量の低減
q) 作用部位に、より多くの薬剤を送達する代謝経路の変更
が一覧として記載され、段落0088にアデホビルについてb,c,h,i,j,k,l,o,pが、テノフォビルについてb,c,h,i,j,k,l,o,pがプロドラッグの有用性の改善点として記載されているところ、それがどのような試験方法によるどのような結果に基づくものであるかを具体的に確認することができない。そして、化合物はその構造から物性を予測することは困難であるから、アデホビル、テノフォビルが上記改善点を有することは自明でもない。したがって、アデホビル、テノフォビルについての当該記載から、本願請求項1に係る発明が予測し得ない顕著な効果を奏するということはできない。
さらに、ジダノシンについては、上記改善点についての記載もなく、どのような改善点を有するかは不明である。
また、請求項1に記載の他の薬剤について、イブプロフェン、フェノフィブレートについてはその特定のアミノ酸との反応生成物についてその効果を確認することのできる具体的な実験結果が記載されているものの、例えばカパシタビン、カプトプリル、カルプロフェン等の上記段落0088に記載の一覧表にも記載がない薬剤については、それらがどのような改善点を有するかは不明であり、当該一覧表に記載のその他の薬剤についても、上記アデホビル、テノフォビルと同様に、改善点の裏付けが記載されておらず、かかる記載からは、本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するということはできない。
審判請求人は、審判請求書において「特定の薬剤と特定のアミノ酸とを相乗的に作用させ、『薬剤の治療特性を増強することができる』という顕著な効果を奏することができるというものである」こと、
「具体的には:
(a)イブプロフェン-L-ヒドロキシプロリンエステルが、単体のイブプロフェンと比べて、アセチルコリン誘導の捩れを拮抗するのに効果的であること(段落[0171]、図1、図2);
(b)特定のアミノ酸、例えば、スレオニン、セリン、又はヒドロキシプロリンでエステル化されたイブプロフェン又はアセチルサリチル酸が、単体のイブプロフェン又はアセチルサリチル酸と比較して胃粘膜刺激特性が改善されていること(段落[0182]、[0203]、表10、表13);あるいは
(c)アセチルサリチル酸のアミノ酸エステルが単体のアセチルサリチル酸と比較して中用量及び高用量での血液凝固時間が減少すること(段落[0208]、表14);
等である」こと、
「本願出願人の米国特許第7,589,233号(証拠資料1)には、スレオニン、特にL-スレオニンでエステル化した薬剤の顕著な効果について記載されている」こと等を指摘し、本願発明は顕著な効果を奏する旨主張する。
しかしながら、上で述べたとおり、本願明細書においてその効果を具体的に確認できるのはイブプロフェン、フェノフィブレート等の特定の薬剤の特定のアミノ酸との反応生成物についてのみであり(なお、アセチルサリチル酸は請求項1に記載の薬剤ではない。)、それ以外の薬剤とアミノ酸との反応生成物については、その効果を具体的に確認できないこと、化合物はその構造から物性を予測することは困難であるから(なお、上記審判請求書において「特定の物質の化学的性質はそれと相異する物質の化学的性質からは予測できないという化学分野の技術的常識」とのくだりもある。)、たとえ審判請求人の主張する上記米国特許を参照しても、本願発明において特定される薬剤及びアミノ酸の全ての組み合わせについて予測し得ない顕著な効果を奏するということはできないことから、本願発明が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえず、上記審判請求人の主張は採用の限りでない。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物2?5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-02 
結審通知日 2014-07-08 
審決日 2014-07-24 
出願番号 特願2006-522125(P2006-522125)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 繁  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 小川 慶子
冨永 保
発明の名称 アミノ酸プロドラッグ  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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