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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1294726
審判番号 不服2013-5871  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-02 
確定日 2014-12-04 
事件の表示 特願2008-14361「シリビン配糖体含有皮膚外用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月6日出願公開、特開2009-173584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年1月25日の出願であって、平成24年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年1月8日付けで拒絶査定され、同年4月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成24年11月30日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5にそれぞれ記載されたとおりのものであるところ、請求項1には次のとおり記載されている。以下この請求項1に係る発明を「本願発明1」という。

シリビン配糖体を含有する皮膚外用組成物であって、シリビン配糖体が式(1)のシリビンラクトシドまたは式(2)のシリビンマルトシドであり、
当該シリビンラクトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?4.1%(w/v)、又は
当該シリビンマルトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?5.0%(w/v)、
を含有することを特徴とする皮膚外用組成物。

式(1)

式(2)

3.原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成24年9月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由3は以下のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物
1.特開2007-119431号公報
2.JOHNS, Vol.23, No.10, p.1519-1524 (2007)
3.Phytotherapy Research., vol.16,p.S33-S39 (2002)
4.フレグランスジャーナル,2006年9号,100頁

4.当審の判断
(1)刊行物に記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用された本願出願前に頒布された刊行物であるJOHNS, Vol.23, No.10, p.1519-1524 (2007)(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
1a.「2.シリビン(シワ改善機能)
シリビン(Silybin)はマリアアザミ(Silybum marianum)の種子由来の抽出組成物シリマリンに含まれる主成分である。マリアアザミはヨーロッパでは伝統的に薬用植物として広く用いられており,胆汁分泌促進作用,肝臓保護作用を持つことから胆石,胆管症,肝臓病の治療に用いられている。このようなことから,シリマリンは日本でも肝機能改善用のサプリメント成分として広く利用されている。
シリマリンは抗酸化作用が高く,脂質の過酸化抑制,低比重リポタンパク質の酸化抑制,活性酸素の消去などの作用が報告されている。また、紫外線による活性酸素を原因とする各種の癌に対する抗癌作用が多く報告されている。
宮田らは,皮膚細胞の老化抑制に対して,しわ改善効果の高いことが知られているレチノイン酸と同様の活性を持ち,かつ皮膚刺激のない安全性の高い成分を探索した結果,シリマリンの主成分であるシリビンを見出した。そこで,シリビンが皮膚のシワやたるみにも改善効果を期待できるのではないかと予想し,まず外用でシリビンの新たな皮膚老化防止作用を試験した。
その結果,以下の3つのことを見出した。
1)シリビンは、表皮角化細胞の分化を抑制し,細胞増殖能を維持することにより,皮膚の基底細胞の肥厚を促し表皮細胞の老化を防止する。
2)I型コラーゲンやエラスチンなどの蛋白質合成を促進し,皮膚の弾力性を向上しシワの改善を促す。
3)レチノイン酸のような皮膚刺激性は示さず,安全性が高い。」(1522頁左欄19行?右欄25行)

同じく、原査定の拒絶の理由において引用された本願出願前に頒布された刊行物であるPhytotherapy Research., vol.16,p.S33-S39 (2002)(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
2a.「肝保護性フラボノリグナンであるシリビン(1)の新規水溶性誘導体、すなわち、シリビンガラクトシド(2)、グルコシド(3)、ラクトシド(4)及びマルトシド(5)のラジカル消去性及び抗脂質過酸化性が調査された。サイクリックボルタンメトリーの結果では、配糖体がシリビンより弱い電子ドナーであることを示すが、しかし、それらがl,l-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル及び2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)から誘導されたラジカルのより有効な消去剤であることが見出されたことは興味深い。配糖体(2)?(5)は、ラット肝ミトコンドリア膜のtert-ブチルヒドロペルオキシドで誘発された脂質過酸化の阻害においてシリビンより効率的であった。さらに、配糖体(2)?(5)は、tert-ブチルヒドロペルオキシドで損傷されたラット赤血球と初代培養肝細胞において、シリビンより顕著に細胞保護的であった。シリビンの配糖体化は、本質的に、長期インキュベーションの間に観察される初代培養肝細胞における毒性作用を減少させた。これらの結果は、シリビン配糖体が、実験的研究に対するシリビンの適切な水溶性誘導体であり、治療可能性を有することを示唆している。」(S33頁アブストラクト)

2b.「しかしながら、シリビンの治療効果は、その非常に低い水溶性、生物学的利用能及び貧弱な腸管吸収によって制限されている。水溶性の改善のために、その誘導体であるシリビン ビス-ヘミスクシネート(……)及びシリビン 23-O-ホスフェート(……)が調製された。……。水溶性と生物学的利用能を改善するもう一つのアプローチは、新しいシリビン配糖体(……)の調製である。配糖体化は一般的には水溶性を増大させるが、元の化合物の生物学的活性に関するこのプロセスの効果は予測が困難である。いくつかの場合では、配糖体は、アグリコンより強い抗酸化性(……)及び/又は、例えばフラボノイドであるケルセチン配糖体について報告されているように(……)、改善された胃腸管吸収が現れることが示されてきたことを、我々は知っている。シリビンの配糖体化により元の薬剤の抗酸化活性及び生物学的利用能の両方を改善することが予期されるということになる。」(S33頁右欄6?31行)

2c.「結論として、我々は、いくつかのインビトロモデルにおいて、シリビンβ-配糖体(2)?(5)が有力な抗酸化剤であり、フリーラジカル消去剤であることを証明した。配糖体化による水溶性の増大は、シリビンのフリーラジカル消去性を増強した。使用された細胞モデルにおいて、シリビン配糖体は、シリビンよりわずかによい細胞保護活性を示した。シリビンの配糖体化が初代培養肝細胞における毒性を減少させたので、シリビン配糖体はこの細胞モデルを利用している長期の研究のために有望であるように見える。良好な水溶性、安定性及び抗酸化活性の組み合わせは、シリビン配糖体が治療用途に有用なシリビン誘導体であることを示唆している。」(S38頁右欄7?19行)

(2)刊行物1に記載された発明
上記摘示1aの「外用でシリビンの新たな皮膚老化防止作用を試験した。その結果、以下の3つのことを見出した。1)シリビンは、表皮角化細胞の分化を抑制し,細胞増殖能を維持することにより,皮膚の基底細胞の肥厚を促し表皮細胞の老化を防止する。2)I型コラーゲンやエラスチンなどの蛋白質合成を促進し,皮膚の弾力性を向上しシワの改善を促す。3)レチノイン酸のような皮膚刺激性は示さず,安全性が高い。」との記載から、刊行物1にはシリビンを含む組成物を皮膚外用剤として使用したことが記載されているものといえる。すなわち、刊行物1には、
「シリビンを含有する皮膚外用組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
ア.本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「シリビンを含有する皮膚外用組成物」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:
シリビンについて、本願発明1が、「式(1)のシリビンラクトシドまたは式(2)のシリビンマルトシド」である「シリビン配糖体」としているのに対し、引用発明では、「シリビン」そのものである点

相違点2:
皮膚外用組成物が含有する成分の配合量について、本願発明1が、「シリビンラクトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?4.1%(w/v)」、又は「シリビンマルトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?5.0%(w/v)」と特定されているのに対し、引用発明では、配合量について特定していない点

イ.これらの相違点について検討する。
(ア)相違点1について
刊行物2には、シリビンの治療効果は、その非常に低い水溶性、生物学的利用能及び貧弱な腸管吸収によって制限されていたこと、水溶性や生物学的利用能を改善するために新しいシリビン配糖体が調製されたこと、配糖体化は一般的に水溶性を増加させることが記載されるとともに、シリビンの配糖体化が元の薬剤(シリビン)の抗酸化活性及び生物学的利用能の両方を改善することが示唆されており(摘示2b)、シリビンのラクトシドやマルトシドであるシリビン配糖体がシリビンの適切な水溶性誘導体であり、治療可能性を有することを示唆され(摘示2a)、さらに、該シリビン配糖体が有力な抗酸化剤・フリーラジカル消去剤であること、配糖体化による水溶性の増大がシリビンのフリーラジカル消去性能を増強すること等から、良好な水溶性、安定性及び抗酸化作用の組み合わせが、シリビン配糖体が治療用途に有用なシリビン誘導体であることを示唆している(摘示2c)。
刊行物2のこれらの記載によれば、シリビン配糖体はシリビンに比較して水溶性や生物学的利用能が改善されたこと、治療的用途に有用であること、治療的な可能性を有するものであることが理解できる。
すなわち、シリビンよりもシリビン配糖体の方が水溶性や生物学的利用能が改善され、治療用途に役に立つものであることが示されているといえる。

そうすると、このような刊行物2の記載に基づけば、刊行物1に記載の皮膚老化防止作用を有するシリビンに代えて、シリビンよりも水溶性や生物学的利用能が改善された上、治療的用途に有用であるシリビン配糖体(シリビンラクトシドやマルトシド)を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
なお、配糖体がそのアグリコンと同様の生物活性を有することはよく知られたことであるから(なお、刊行物2ではそのことを当然の前提として種々の試験を行っている。)、シリビン配糖体であるシリビンラクトシドやマルトシドがシリビンよりもより皮膚老化防止作用が向上するのではないかと予測することは自然な流れであり、格別予想外のこととはいえない。
したがって、この相違点1は、当業者が容易になし得たものといえる。

(イ)相違点2について
活性成分をどの程度の量で組成物中に含有させるべきかは、当業者が、活性成分の生物学的利用能及び薬物動態学、さらには適用量を踏まえて適宜設定し得るものである。
そして、本願発明が、「シリビンラクトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?4.1%(w/v)」、及び「シリビンマルトシドは、水溶液濃度0.0008%(w/v)?5.0%(w/v)」と特定しているのは、本願明細書の実施例1(段落0019?0021)の記載からみて、精製水における溶解性について、シリビンラクトシド、シリビンマルトシドがシリビンより高い溶解性を有する範囲を特定したものと解されるが、シリビンラクトシドやシリビンマルトシドが既知の化合物であること、刊行物2に記載されているように、その治療活性についても検討されていること等に鑑みれば、皮膚外用剤として使用する場合に、皮膚への浸透性は皮膚内外の濃度差(濃度勾配)も影響を与えていることは当業者に周知の事項であるから、できるだけ高濃度で配合しようとすることは当業者が容易に思いつくことであり、そして、シリビンラクトシドやマルトシドの溶解性は、製剤化の際に当然検討する事項であって、そのことを特定することは格別なことではない。
なお、本願明細書の実施例2?4(段落0022?0043)をみても、本願発明1で特定された水溶液濃度のシリビンラクトシドやシリビンマルトシドを実際に皮膚に適用して評価を行ったものではない。特に、シリビンラクトシドやシリビンマルトシドの高い水溶性による効果を示すものではなく、特定された水溶液濃度にすることによる格別な効果は記載されていない。(実施例4は、実際に皮膚に適用しているが、水溶液ではなく、メタノール溶液である。)
したがって、上記相違点2についても、当業者が容易になし得たものといえる。

ウ.効果について
上記イで検討したことに鑑みれば、本願発明1の奏する効果は、刊行物1及び2から予想される範囲のものでしかない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、この理由によ
り拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-30 
結審通知日 2014-10-07 
審決日 2014-10-20 
出願番号 特願2008-14361(P2008-14361)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 光本 美奈子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
加賀 直人
発明の名称 シリビン配糖体含有皮膚外用組成物  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 長谷部 善太郎  

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