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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21B
管理番号 1294747
審判番号 不服2013-22209  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-13 
確定日 2014-12-04 
事件の表示 特願2006-151335「凝集系核反応の予測方法およびその予測装置、凝集系核反応を予測するプログラム、ならびに核種変換後の物質の検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-322202〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年5月31日の出願であって、平成23年8月16日付けで拒絶理由が通知され、同年10月24日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、平成24年8月31日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年11月9日付けで意見書が提出されたが、平成25年8月2日付けで拒絶査定がなされた。本件は、これに対して、平成25年11月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成25年11月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に記載された発明
平成25年11月13日付けの手続補正(以下「本件補正1」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的として補正された。
よって、本件補正1後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものであると認める。

「凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応を実施する前に、前記凝集系核反応により前記核種変換を施す物質が変換された後の物質を予測する凝集系核反応の予測方法であって、
核種変換後の物質の候補を、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、核図表に対応する中性子数を2n加えた物質に絞りこみ、該絞りこんだ物質を前記核種変換後の物質と予測することを特徴とする凝集系核反応の予測方法。」

なお、本件補正1後の特許請求の範囲の請求項1の記載には、「核図表に対応する質量数」と記載されているが、下記の理由により、本願補正発明を上述のように認定した。

本願の明細書段落【0031】の、
「次に、上述の凝集系核反応によって得られる核種変換後の物質の予測方法について説明する。
核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、質量数を2n加えた物質を、核種変換後の物質と予測する。
すなわち、核種変換を施す物質をA、核種変換後の物質をBとした場合、 A+n×α→B ・・・(1)
の関係に基づいて予測する。ここで、αはHe原子核(原子番号2,質量数4)である。
なお、αは反応に必要な重水素Dの2個分に相当し、上式(1)は、
A+2n×D→B ・・・(2)
とも書くこともできる。反応メカニズムを理解する上では、(2)式が良いが、原料A、生成物Bの関係を表現する上では(1)式が便利なため、以下では(1)式に従って説明する。」(下線は、当審が付した。)
との記載によれば、核種変換により「n×α」加わり、「αはHe原子核(原子番号2,質量数4)である」ことから、核種変換により原子番号が2n、質量数が4n加わる、すなわち、原子番号が2n、中性子数が2n加わることが明らかである。このことは、本願の明細書段落【0030】、【0037】、【0039】、【0043】、【0045】に記載された、「^(133)Cs→^(141)Pr」、「^(88)Sr→^(96)Mo」、「^(12)C→^(24)Mg→^(28)Si→^(32)S及び^(23)Na→^(27)Al」、「^(138)Ba+1×α→^(142)Ce ^(138)Ba+2×α→^(146)Nd ^(138)Ba+3×α→^(150)Sm」、「^(137)Ba+1×α→^(141)Ce ^(137)Ba+2×α→^(145)Nd ^(137)Ba+3×α→^(149)Sm」において、Cs、Pr、Sr、Mo、C、Mg、Si、S、Na、Al、Ba、Ce、Nd、Smの原子番号が、それぞれ、55、59、38、42、6、12、14、16、11、13、56、58、60、62であって、核種変換前後で、原子番号が2n、質量数が4n、すなわち、原子番号が2n、中性子数が2n加わっていることとも整合する。
また、本願の明細書段落【0032】に「本予測方法では、図7に示すように、原子番号および質量数で整理した核図表を用いる。」、【0037】に「図10に示した核図表は、図7と同様に作成されており、」、【0039】に「図11に示した核図表は、図7及び図10と同様に作成されている。」、【0042】に「図12には、この実験に用いた核図表が示されている。この図12の核図表についても、図7,図10及び図11と同様に作成されている。」、【0044】に「図13には、本実験に用いた核図表が示されている。この図12の核図表についても、図7,図10,図11及び図12と同様に作成されている。」との記載があり、図7、10?13は核図表であると理解されるが、一般に、核図表は、平成23年10月24日付けの意見書に添付された参考資料にも示されているように、陽子数(原子番号)と中性子数を2つの軸とした表であること、かつ、図7、10?13に記載される元素記号において、元素記号の左上に記載された数字が質量数であることが技術常識であることを考慮すれば、図7、10?13の縦軸の「質量数」は「中性子数」の誤記であることは明らかである。
すると、当業者であれば、本願の明細書及び図面の記載からは、核種変換前後で、原子番号が2n、中性子数が2n加わることが開示されていると解するものと認められる。

そこで、上記本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するか否か)について、以下に検討する。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2002-202392号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば長寿命の放射性廃棄物を短寿命核種或いは安定核種に変換する消滅処理や自然界に豊富な元素から希少な元素を生成する技術等に係る核種変換装置及び核種変換方法に関する。」

(b)「【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明の第1の実施形態に係る核種変換装置及び核種変換方法ついて添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る核種変換方法の原理を説明する図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る核種変換方法にて使用される構造体11を示す断面構成図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る核種変換装置30の構成図であり、図4は、図3に示す核種変換装置30での多層構造体32を示す断面構成図であり、図5(a)は混合層22の断面構成図であり、図5(b)は混合層22を含む構造体11の断面構成図であり、図6は、構造体11に核種変換を施す物質を添加する装置の構成図である。
【0027】本実施の形態による核種変換方法を実現する装置10は、例えば図1に示すように、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる、例えば略板状の構造体11と、この構造体11の両面のうち、一方の表面11A上に付着された核種変換を施す物質14とを備え、構造体11の一方の表面11A側が例えば加圧あるいは電気分解等により重水素の圧力が高い領域12とされ、他方の表面11B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされることで構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる装置である。ここで、構造体11は、例えば図2に示すように、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
【0028】図3に示すように、本実施の形態による核種変換装置30は、内部が気密保持可能とされた吸蔵室31と、この吸蔵室31の内部にて多層構造体32を介して気密保持可能に設けられた放出室34と、バリアブルリークバルブ33を介して吸蔵室31内に重水素を供給する重水素ボンベ35と、放出室34内の真空度を検出する放出室真空計36と、例えば多層構造体32から生成されるガス状の反応生成物を検出すると共に放出室34内の重水素量を計測することにより多層構造体32を透過する重水素の透過量を評価する質量分析器37と、放出室34内を常に真空状態に保つターボ分子ポンプ38と、放出室34及びターボ分子ポンプ38内を荒引きするためのロータリーポンプ39とを備えて構成されている。
【0029】さらに、核種変換装置30は、例えばX線や電子線、粒子線等の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子やイオン等を検出する静電アナライザー40と、多層構造体32の両面のうち吸蔵室31内の重水素に曝される表面上にX線を照射するXPS(X-ray Photo-electron Spectrometry:X線照射光電子スペクトル分析)用のX線銃41と、内部に重水素が導入された吸蔵室31内の圧力を検出する圧力計42と、例えばベリリウム窓43を有する高純度ゲルマニウム検出器44からなるX線検出器と、吸蔵室31内の真空度を検出する吸蔵室真空計45と、例えば重水素の導入以前等に吸蔵室31内を真空状態に保持する真空バルブ46と、吸蔵室31を真空状態にするターボ分子ポンプ47と、吸蔵室31及びターボ分子ポンプ47内を荒引きするためのロータリーポンプ48とを備えて構成されている。
【0030】そして、多層構造体32の吸蔵室31側を相対的に重水素の圧力が高い状態とし、多層構造体32の放出室34側を相対的に重水素の圧力が低い状態として、多層構造体32の両面において重水素の圧力差を形成することで、吸蔵室31側から放出室34側へ重水素の流れを作り出す。ここで、例えば図4に示すように、多層構造体32は、Pd基板23の表面上に相対的に仕事関数が低い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層され、さらに、Pd層21の表面上に核種変換を施す物質としてセシウム(Cs)層52が添加されて構成されている。
【0031】本実施の形態による核種変換装置30は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置30を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0032】先ず、例えば図2に示すPd基板23(例えば、縦25mm×横25mm×厚さ0.1mm、純度99.5%以上)をアセトン中で所定時間に亘って超音波洗浄することにより脱脂する。そして、真空中(例えば、1.33×10^(-5)Pa以下)において、例えば900℃の温度で所定時間(例えば、10時間)に亘ってアニールつまり加熱処理を行う(ステップS01)。次に、例えば室温でアニール後のPd基板23を重王水により所定時間(例えば、100秒間)に亘ってエッチング処理を施して表面の不純物を除去する(ステップS02)。
【0033】次に、アルゴンイオンビームによるスパッター法を用いて、エッチング処理後のPd基板23上に成膜処理を施して構造体11を作成する。ここで、例えば図2に示すPd層21の厚さは400・10^(-10)mとし、仕事関数の低い物質とPdとの混合層22は、例えば図5(a)に示すように、例えば厚さ100・10^(-10)mのCaO層57と、例えば厚さ100・10^(-10)mのPd層56とを交互に積層して形成し、この混合層22の厚さを1000・10^(-10)mとした。そして、混合層22の表面上にPd層21を400・10^(-10)mで成膜することにより、構造体11を形成した(ステップS03)。
【0034】次に、CsNO_(3)のD_(2)O希薄溶液(CsNO_(3)/D_(2)O溶液)の電気分解により、核種変換を施す物質として、例えばCsを構造体11の成膜処理表面に添加する。例えば、図6に示す電着装置60のように、1mMのCsNO_(3)/D_(2)O溶液を電解液62として、電源61の陽極に白金陽極63を接続し、陰極に構造体11を接続して、例えば1Vの電圧で10秒間に亘って電気分解を行い、構造体11の表面上で下記化学式(1)に示す反応を発生させてCs層52を添加して、多層構造体32を形成する(ステップS04)。
【0035】
【化1】

【0036】そして、多層構造体32のCs層52を吸蔵室31側に向けて、多層構造体32を介在させて吸蔵室31と放出室34とをそれぞれ気密状態に閉塞して、先ず、放出室34をロータリーポンプ39およびターボ分子ポンプ38により真空排気する。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じ、真空バルブ46を開いて吸蔵室31をロータリーポンプ48およびターボ分子ポンプ47により真空排気する(ステップS05)。次に、吸蔵室31の真空度が充分安定した後(例えば、1×10^(-5)Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析する(ステップS06)。すなわち、X線銃41からのX線を多層構造体32の表面に照射して、このX線の照射により励起された多層構造体32の表面上の原子から放出される光電子のエネルギーを静電アナライザー40により検出する。これにより、多層構造体32の吸蔵室31側の表面上に存在する元素を同定する。
【0037】次に、多層構造体32を、加熱装置(図示略)により例えば70℃の温度で加熱した後、真空バルブ46を閉じて吸蔵室31の真空排気を停止して、バリアブルリークバルブ33を開いて吸蔵室31内に所定のガス圧力で重水素ガスを導入して、核種変換の実験を開始する。ここで、重水素ガスを導入する際の所定のガス圧力は例えば1.01325×10^(5)Pa(いわゆる1気圧)とした。そして、放出室34の質量分析器37でガス状の反応生成物(例えば、質量数A=1?140)の測定を行い、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素の拡散挙動の評価を行う。また、多層構造体32の吸蔵室31側の高純度ゲルマニウム検出器44によりX線の測定を行う(ステップS07)。なお、多層構造体32を透過して放出室34内に放出された重水素量は、例えば放出室真空計36により検出される放出室34内の真空度と、ターボ分子ポンプ38の排気速度とに基づいて算出する。
【0038】吸蔵室31内に重水素ガスの導入を開始してから所定時間、例えば数十時間後に、多層構造体32の温度を常温に戻す。そして、バリアブルリークバルブ33を閉じて吸蔵室31内への重水素ガスの導入を停止して、さらに、真空バルブ46を開いて吸蔵室31を真空排気して核種変換の実験を終了する。そして、吸蔵室31内の真空度が充分安定した後(例えば、1×10^(-5)Pa以下の状態)に、XPSにより吸蔵室31側の多層構造体32の表面上に存在する元素を分析して生成物の測定を行う(ステップS08)。
【0039】そして、上述したステップS06?ステップS07の処理を繰り返して、核種変換反応の時間変化を測定する(ステップS09)。そして、多層構造体32を核種変換装置30から取り出して、核種変換の実験を終了する(ステップS10)。
【0040】以下に、上述した本実施形態による核種変換方法により行った核種変換実験での2つの実験結果、すなわち同一の実験を2回実施した際の実施例1及び実施例2について図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、図4に示す多層構造体32の表面上におけるXPSによるPrのスペクトルを示すグラフ図であり、図8は図4に示す多層構造体32の表面上におけるCs及びPrの原子数の時間変化を表すグラフ図である。実施例1及び実施例2でのXPSの分析結果により、実施例1及び実施例2にて、多層構造体32のCs(原子番号Z=55)は時間が経過するにつれて減少して、例えば図7に示すXPSによるPrのスペクトルのように、Pr(プラセオジウム、原子番号Z=59)が増加した。以下に、XPSによるCs及びPrに対するスペクトルから、各元素の原子数を算出する方法について説明する。
【0041】なお、XPSでの測定時にX線銃41から多層構造体32に対して照射されるX線の強度は常に一定とし、これらのX線が照射されている領域は実施例1及び実施例2の各測定において同一であると仮定した。さらに、多層構造体32の表面上でX線が照射されている領域は、例えば直径5mmの円形領域とし、放出される光電子の脱出深さの見積もりから、XPSにて分析可能な深さは例えば20・10^(-10)mとした。また、Pd基板23を構成するPdはfcc(面心立方格子)結晶なので、XPSにより得られたPdのスペクトルのピーク強度から、Pdの原子数は3.0×10^(15)個と算出した。
【0042】そして、各元素のイオン化断面積、すなわち元素の内殻電子が例えばX線等を吸収して励起する割合を参照して、XPSにより得られる各元素のスペクトルのピーク強度とPdのスペクトルのピーク強度とを比較することによって、各元素の原子数を算出する。なお、表1には、各元素のイオン化断面積の計算値を、Cの1s軌道に対する値(2.22×10^(-24)m^(2))を「1」とした場合の相対値として示した。なお、下記表1において、Siの2p及びSの2p及びClの2pについては、2p_(3/2)と2p_(1/2)の和として算出した。
【0043】
【表1】(略)
【0044】図8に示すように、実施例1では、初期状態で1.3×10^(14)個存在していたCsが、48時間後には8×10^(13)個に減少し、120時間後には5×1013個に減少している。一方、実験開始以前には存在しなかったPrが48時間後には3×10^(13)個検出され、120時間後には7×10^(13)個に増加しているのが観測された。同様にして、実施例2においても実験開始からの時間経過に伴って、Csの原子数の減少と、Prの生成及びPrの原子数の増加が観測され、実施例1とほぼ同様の傾向を示している。これにより、CsからPrへの核種変換が起きていると解釈できる。
【0045】なお、以下において、検出されたPrが不純物に由来するものであるか否かについて考察する。上述した本実施形態に係る実施例1及び実施例2では、多層構造体32を吸蔵室31及び放出室34からなる真空容器から取り出すことなく元素分析を行っているので、不純物が混入する原因として考えられるのは重水素ガス(D_(2)ガス)に含まれる不純物と多層構造体32内部の不純物である。D_(2)ガスは例えば純度99.6%であり、不純物としては、N_(2)及びD_(2)0が10ppm以下で、O_(2)及びCO_(2)及びCOが5ppm以下とされており、核種変換装置30内でD_(2)ガスを分析した場合にも、これらの不純物及び炭化水素以外のガスは検出されなかった。
【0046】一方、多層構造体32においては、Pdの純度は99.5%、CaO及びCsNO_(3)の純度は99.9%である。また、グロー放電質量分析法(GD-MS)によって実験開始以前の多層構造体32に対してランタノイド(_(57)La?_(71)Lu)の定量分析を行った結果、Ndが0.02ppm検出され、Nd以外の他のランタノイドは検出限界以下、つまり0.01ppm以下であった。ここで、実施例1及び実施例2で使用した多層構造体32(例えば、0.7g≒7×10^(-3)mol)内に、検出限界である0.01ppmのPrが存在していると仮定すると、多層構造体32中にPrの原子が4.2×10^(13)個存在することになる。
【0047】この場合、実施例1及び実施例2にて検出されたPr原子は、上記仮定に基づく検出限界以下のPr原子に起因すると仮定すると、これらの検出限界以下の全てのPr原子が多層構造体32の表面上から数10・10^(-10)mの深さの領域に濃縮するようにして配置されていると仮定する必要があり、多層構造体32中に不純物として分散配置されているPr原子が、多層構造体32の表面近傍にのみ集中するような物理現象は熱力学的に不可能であり、実施例1及び実施例2にて検出されたPr原子が、予め多層構造体32中に含まれていた不純物であると結論することはできない。しかも、予め多層構造体32中に含まれていた不純物であれば、原子数の時間変化は観測されずに一定値を保持すると判断できる。以上より、実施例1及び実施例2にて検出されたPrは、核種変換反応の結果として生成されたと結論できる。
【0048】なお、上述した実施例1及び実施例2での実験結果は、例えば、米国原子力学会が発行しているFusion Technology誌(Y. Iwamura, T. Itoh, N. Gotoh andI. Toyoda, "Detection of Anomalous Elements, X-ray and Excess Heat in aD2-Pd System and its Interpretation by the Electron-Induced Nuclear Reaction Model", Fusion Technology, vol.33, No.4,P.476,1998)に掲載されたEINRモデルによって非常に良く説明できる。このEINRモデルによれば、PrはCsから下記数式(1)及び(2)によって生成されると考えられる。なお、下記化学式(2)及び(3)において、dは重水素、eは電子、^(2)nはダイニュートロン、νはニュートリノをそれぞれ示している。
【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

【0051】化学式(2)に示すように、EINRモデルでは重水素が電子を捕獲してダイニュートロンが生成し、同時にCs等の物質と反応して核種変換が起きると考えている。なお、化学式(3)でβ崩壊、すなわち^(141)Cs(=^(133)Cs+4^(2)n)から^(141)Prへ向かうβ^(-)崩壊の記号は省略した。
【0052】上述したように、本実施の形態による核種変換装置10によれば、例えば原子炉や加速器等の相対的に大規模な装置を必要とせずに、相対的に小規模な構成で核種変換の処理を施すことができる。また、本実施の形態による核種変換方法によれば、実験開始以前には検出されず核種変換の実験開始後に増加傾向に検出されたPrの原子数が、供給されたD_(2)ガスや多層構造体32中に予め含まれていた不純物に起因して検出された可能性を廃して、CsからPrへの核種変換反応が生じていることを再現性良く確実に示すことができる。」

(c)「【0058】以上の結果より、本実施形態の第1変形例に係る核種変換方法によって、Cが核種変換して、Mg及びSi及びSが生成されたと結果できる。この場合、上述したEINRモデルによると、Cの核種変換は上記化学式(2)及び下記化学式(4)にて表される。なお、化学式(4)においては、ダイニュートロンクラスター(6^(2)n、2^(2)n)による反応を示した。
【0059】
【化4】



(d)「【0068】・・・前略・・・実施例5および実施例6にて検出されたMoは、Srに対する核種変換により生成されたと結論できる。
【0069】さらに、実施例5及び実施例6での実験結果は、例えば、上述したEINRモデルによって非常に良く説明することができ、例えば^(96)Moは上記化学式(2)及び下記化学式(6)によって生成されると考えられる。なお、化学式(6)でβ崩壊、すなわち^(96)Sr(=^(88)Sr+4^(2)n)から^(96)Moへ向かうβ^(-)崩壊の記号は省略した。
【0070】
【化6】



(e)【0071】以下、本発明の第2の実施形態に係る核種変換装置及び核種変換方法ついて添付図面を参照しながら説明する。図18は本発明の第2の実施形態に係る核種変換方法の原理を説明する図であり、図19は本発明の第2の実施形態に係る核種変換装置80の構成図である。
【0072】本実施の形態による核種変換方法を実現する装置70は、例えば図18に示すように、例えば白金等の陽極71と、パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこの合金等からなる陰極72と、陽極71と陰極72の一方の表面とを浸す重水溶液73と、陰極72により液密とされ、例えば核種変換を施す物質が含まれた重水溶液73が満たされた電解セル74と、陰極72により気密とされた真空容器75とを備え、陰極72の一方の表面72A側が例えば電気分解等により重水素の圧力が高い領域とされ、他方の表面72B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域とされることで陰極72内部に重水素の流れが生成され、重水素と核種変換を施す物質とが反応することによって核種変換が行われる装置である。ここで、陰極72は、例えば図2に示す構造体11と同様の構成を有しており、好ましくはPd基板23の表面上に、相対的に仕事関数が低い物質つまり電子を放出し易い物質(例えば、仕事関数が3eV未満の物質)とPdとの混合層22が形成され、この混合層22の表面上にPd層21が積層されて形成されている。
【0073】図19に示すように、本実施の形態による核種変換装置80は、電源81と、圧力計82を備えた電解セル83と、電解セル83内に貯溜される電解溶液84と、真空容器85と、電解セル83内の電解溶液84を冷却する螺旋状の例えば絶縁性の樹脂等からなる冷却管86と、触媒87と、電源81の陰極に接続されて電解溶液84に浸漬された白金等の陽極電極88と、電解セル83内を液密に保持すると共に、真空容器85内を気密に保持して、電源81の陰極に接続された多層構造体89と、電解セル83及び真空容器85を格納して温度を制御する恒温槽90と、真空容器85内を真空状態とする真空排気ポンプ91とを備えて構成されている。
【0074】ここで、例えば絶縁性の樹脂等からなる電解セル83及び例えばステンレス等からなる真空容器85のそれぞれは、耐薬品性に優れた例えばカルレッツOリング等を介して多層構造体89によって、液密及び気密状態に封止されており、いわば多層構造体89を介して接続されている。また、電解セル83内に貯溜された電解溶液84は、核種変換を施す物質として例えばセシウム(Cs)が含まれた重水溶液、例えば濃度が3.1mol/lのCs_(2)(SO_(4))重水溶液とされている。なお、触媒87は、白金上に白金黒を電着したものより構成され、電解溶液84の電気分解により発生した大部分の水素及び酸素から水を生成して、再び、電解溶液84に戻す。
【0075】本実施の形態による核種変換装置80は上記構成を備えており、次に、この核種変換装置80を用いて核種変換を行う方法について添付図面を参照しながら説明する。
【0076】先ず、上述した第1の実施形態に係る核種変換方法におけるステップS01?ステップS03と同様にして構造体11を作成する。そして、この構造体11を多層構造体89として、この多層構造体89のPd層21を電解セル83側に向けて、電解セル83及び真空容器85をそれぞれ液密及び気密状態に封止する(ステップS21)。次に、電解セル83内に電解溶液84として、例えば濃度が3.1mol/lのCs_(2)(SO_(4))重水溶液を注入する。さらに、電解セル83内部で電解溶液84が満たされていない空間を窒素ガスで置換して封入し、電解セル83内の圧力を例えば1.5kg/cm^(2)に保持する(ステップS22)。
【0077】そして、真空容器85内を真空ポンプ91にて排気して真空状態に保持する(ステップS23)。そして、例えば絶縁性の樹脂等からなる冷却管86内に冷媒を供給して、電解セル83内の温度を所定の一定温度に保持する(ステップS24)。そして、電解セル83内で電解溶液84に浸漬された例えば白金からなる陽極電極88と、陰極とされる多層構造体89とを電源81に接続して、電源81から供給される電力により電気分解反応を発生させる(ステップS25)。ここで、電気分解時に供給する電流は、例えば3時間で徐々に1Aから2Aへ上昇させ、この後、2Aを保持する。
【0078】そして、電気分解開始後、12時間後に恒温槽90の温度を70℃として、以後、この温度を保持する(ステップS26)。この電気分解を所定時間、例えば7日間持続した後に電気分解を停止して、恒温槽90の温度を常温にする(ステップS27)。そして、核種変換装置80から多層構造体89を取り外して、多層構造体89の表面を二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により分析する(ステップS28)。」
(f)「【0090】この結果は、上述したEINRモデルでは上記化学式(2)及び下記化学式(7)で表される。
【0091】
【化7】

【0092】ここで、Naは^(23)Naの天然存在率が100%であり、Alは^(27)Alの天然存在率が100%である。従来の実験データから帰納的に同位体比構成の類似した核種同士の間で核種変換が生じやすいと判断でき、NaがAlに変換する可能性が高いことは、Na、Alの両元素とも安定に存在する同位体が唯一であることからも類推できる。また、多層構造体89の表面をEPMAによって分析した結果、多層構造体89の中心部、すなわち重水素が透過した部分からもAlが検出された。Alは両性金属であるため、電解溶液84中に溶解可能であるが、多層構造体89の中心部表面からもAlが検出されていることで、Naが核種変換されてAlが生成されたと結論することができる。」

(g)「
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図18】

【図19】



すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる略板状の構造体11と、この構造体11の両面のうち、一方の表面11A上に付着された核種変換を施す物質14とを備え、構造体11の一方の表面11A側が例えば加圧あるいは電気分解等により重水素の圧力が高い領域12とされ、他方の表面11B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされることで構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる核種変換方法。」

3.対比
(1)引用発明と本願補正発明との対比
(a)引用発明の「パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる略板状の構造体11」、「核種変換を施す物質14」は、それぞれ、本願補正発明の「凝集系構造体」、「核種変換を施す物質」に相当するから、引用発明の「パラジウム(Pd)またはPdの合金、あるいはその他の水素を吸蔵する金属(例えば、Ti等)またはこれらの合金等からなる略板状の構造体11と、この構造体11の両面のうち、一方の表面11A上に付着された核種変換を施す物質14とを備え」ることは、本願補正発明の「凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ」ることに相当する。

(b)引用発明の「構造体11の一方の表面11A側が例えば加圧あるいは電気分解等により重水素の圧力が高い領域12とされ、他方の表面11B側が例えば真空排気等により重水素の圧力が低い領域13とされることで構造体11内に重水素の流れ15が生成され、重水素と核種変換を施す物質14とが反応することによって核種変換が行われる核種変換方法」は、本願補正発明の「前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応を実施する」方法に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応を実施する方法。」
で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
本願補正発明は、
「凝集系核反応を実施する前に、前記凝集系核反応により前記核種変換を施す物質が変換された後の物質を予測する凝集系核反応の予測方法であって、核種変換後の物質の候補を、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、核図表に対応する中性子数を2n加えた物質に絞りこみ、該絞りこんだ物質を前記核種変換後の物質と予測することを特徴とする凝集系核反応の予測方法」であるのに対して、引用発明は、そのような予測方法ではない点。

4.判断
(1)相違点について
科学技術の研究開発において、新たに行う実験に先立ち、今までに得られた実験データに基づいて、その結果を予測してから、その予測をも考慮して実験を行うことは、常套手段である。
また、引用文献1に記載されるように、引用発明の核種変換方法を用いて、実験を行ったところ、
【化3】

【化4】

【化6】

【化7】

のように、核種変換を施す物質とダイニュートロン(^(2)n)の2、4、6個分が反応し、さらに、ダイニュートロンの数と同じ回数のβ^(-)崩壊により、変換後の物質が得られる、すなわち、核種変換前の物質に、2、4、6個の陽子とその同数の中性子が増えた物質が変換後に得られることが理解できる。
この2、4、6個を2n(nは自然数)個と一般化して、引用発明の核種変換方法では、核種変換を施す物質に、2n(nは自然数)個の陽子とその同数の中性子が増えた物質が得られる、すなわち、核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、中性子数を2n加えた物質が得られると予測することは、当業者が容易に想到し得ることである。

以上のことから、引用発明に、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段を適用することにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者には容易である。

(2)効果について
本願補正発明が奏し得る効果は、引用発明、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(3)結論
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.小括
以上のとおり、本件補正1は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年11月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲は、平成23年10月24日付けの手続補正(以下「本件補正2」という。)で補正された特許請求の範囲であるところ、本件補正2後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものであると認める。

「凝集系構造体に対して核種変換を施す物質を接触させ、
前記凝集系構造体に対して重水素を流して、前記核種変換を施す物質に核反応を生じさせる凝集系核反応の予測方法であって、
核種変換後の物質の候補を、前記核種変換を施す物質の原子番号を2n(nは自然数)加えるとともに、核図表に対応する中性子数を2n加えた物質に絞りこみ、該絞りこんだ物質を前記核種変換後の物質と予測することを特徴とする凝集系核反応の予測方法。」

なお、本件補正2後の特許請求の範囲の請求項1の記載には、「核図表に対応する質量数」と記載されているが、上記「第2」「[理由]」「1.」での本願補正発明の認定におけるなお書きと同様の理由により、本願発明を上述のように認定した。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物、その記載内容、引用発明は、上記「第2」「[理由]」「2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、「を実施する前に、前記凝集系核反応により前記核種変換を施す物質が変換された後の物質を予測する」という事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明は、前記「第2」「3.」及び「4.」に記載したとおり、引用発明、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も引用発明、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
してみると、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された事項及び科学技術の研究開発における常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-30 
結審通知日 2014-10-07 
審決日 2014-10-20 
出願番号 特願2006-151335(P2006-151335)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21B)
P 1 8・ 575- Z (G21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 加代子  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 土屋 知久
伊藤 昌哉
発明の名称 凝集系核反応の予測方法およびその予測装置、凝集系核反応を予測するプログラム、ならびに核種変換後の物質の検出方法  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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