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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1295259
審判番号 不服2014-7713  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-25 
確定日 2015-01-13 
事件の表示 特願2010-137「支持軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成23年7月14日出願公開、特開2011-137534、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年1月4日の出願であって、平成26年1月30日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年2月4日)、これに対し、同年4月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 平成26年4月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。) の適否
1 本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
軸部(3)と、その軸部(3)の外周に配置される外方部材(10,10’)との間に配置され、前記軸部(3)と前記外方部材(10,10’)とを軸周り相対回転可能に支持し、その軸受幅が前記外方部材(10,10’)の幅寸法以下である支持軸受(14)において、
前記外方部材(10,10’)の内径側にシェル外輪(15)を備え、そのシェル外輪(15)は、前記外方部材(10,10’)の内径部に固定された円筒部(15c)とその円筒部(15c)の軸方向両端に内径方向に突出するツバ部(15a,15e)を有し、前記ツバ部(15a,15e)間に、前記円筒部(15c)の内周と前記軸部(3)の外周に転動する針状ころ(16)を備え、
前記軸部(3)の軸方向両端に、その軸部(3)よりも断面の大きい作用部材(2,9)が配置され、前記針状ころ(16)を保持する前記保持器(11)はその作用部材(2,9)間に配置され、前記保持器(11)はその軸方向両端がそれぞれ前記ツバ部(15a,15e)よりも軸方向外側へ伸びて前記作用部材(2,9)の軸方向端面に対向しており、前記保持器(11)は外径方向に突出する抜け止め凸部(11a)を備え、その抜け止め凸部(11a)が、前記シェル外輪(15)の内面に設けた抜け止め凹部(17)に入り込んで、そのシェル外輪(15)に対する保持器(11)の軸方向相対移動が規制され、前記保持器(11)は、その軸方向両端が前記作用部材(2,9)の軸方向端面に当接することによって前記保持器(11)の軸部(3)に対する軸方向相対移動が規制され、
前記作用部材(2,9)の軸方向端面とそれに対向する前記保持器(11)の軸方向端部との成す距離(w3,w4)よりも、その対向する側に向かって、前記保持器(11)に許容される前記シェル外輪(15)に対するその保持器(11)の軸方向相対移動距離(w1,w2)の方が大きくなるように設定されていることを特徴とする支持軸受。」
と補正(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)するものである。なお、「前記針状ころ(16)を保持する前記保持器(11)」 は「前記針状ころ(16)を保持する保持器(11)」の誤記である。

上記補正は、発明を特定するために必要な事項である「支持軸受(14)」について「その軸受幅が前記外方部材(10,10’)の幅寸法以下である」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

2 刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2009-30468号公報(以下「刊行物1」という。)には、「カムシャフトユニット」に関して、図面(特に、図4参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【背景技術】
【0002】
従来、カムシャフトユニットは、シャフトと、このシャフトの外周に配列された複数のカムと、シャフトを内燃機関のシリンダヘッド部に回転可能に支持する転がり軸受とを備えている。(以下略)」

イ 「【実施例】
【0011】
(実施例1)
この発明の実施例1を図1?図3にしたがって説明する。
図1はこの発明の実施例1に係るカムシャフトユニットを示す側断面図である。図2はカムシャフトユニットの構成部品を分離した状態を示す側断面図である。図3は転がり軸受を示す側断面図である。
図1と図2に示すように、内燃機関のシリンダヘッド部に組み付けられるカムシャフトユニット10は、シャフト11と、複数のカム12と、軸方向中央並びに両端部に配置される転がり軸受30、40と、軸方向両端部の軸端部材15、16とを一体状に備えてユニット化されている。
【0012】
シャフト11は、軸方向に複数(図2では左右二本)に分割された鋳造製カム一体型の第1、第2の分割シャフト20、25が連結筒32によって突き合わせ状に連結されることで構成されている。
すなわち、この実施例1において、第1、第2の分割シャフト20、25は、鋼材の鋳造によって形成され、これら第1、第2の分割シャフト20、25の外周面には、各複数のカム12が鋳造と同時に軸方向に所定間隔をもってそれぞれ一体に形成されている。
また、第1、第2の分割シャフト20、25の相対する軸端には、小径の連結軸部22、27がそれぞれ形成されると共に、反対側軸端には、小径軸部24、29がそれぞれ形成されている。
そして、第1、第2の分割シャフト20、25の連結軸部22、27に跨って連結筒32が嵌挿され、これら連結軸部22、27の相対する端面が摩擦圧接によって突き合わせ状に結合されることで、第1、第2の分割シャフト20、25が一体状に連結されている。
なお、連結軸部22、27に跨って連結筒32をねじ嵌めによって結合してもよく、セレーション圧入、スプライン圧入等によって結合してもよい。
【0013】
図3に示すように、中央の転がり軸受30として針状ころ軸受31が用いられている。この針状ころ軸受31は、連結筒32の外周面を内輪軌道面32aとし、この内輪軌道面32aに対応する外輪軌道面33aを同心に有する外輪33と、内外輪の両軌道面32a、33aの間に転動可能に配設された転動体としての複数の針状ころ35と、これら複数の針状ころ35を保持するポケットを有する保持器36とを備えている。
また、この実施例1において、連結筒32の外径寸法は、第1、第2の分割シャフト20、25の両端部を除く一般部の外径寸法と略同じ大きさに形成されている。そして、連結筒32の外周面には、その内輪軌道面32aの両側に位置して環状の係止溝32bが形成されている。
一方、保持器36は、合成樹脂材の射出成形によって形成され、その両端部には、連結筒32の両係止溝32bに係合して保持器36の軸方向への移動を規制する弾性変形可能な係合片37が形成されている。」

ウ 「【0018】
(実施例2)
次に、この発明の実施例2を図4にしたがって説明する。
図4はこの発明の実施例2に係るカムシャフトユニットの転がり軸受を示す側断面図である。
図4に示すように、この実施例2においては、針状ころ軸受131の内輪として機能する連結筒132の外径寸法が、鋳造製カム一体型の第1、第2の分割シャフト20、25の外径寸法よりも小さく形成されている。そして、針状ころ軸受131の保持器136の両端部136aが第1、第2の分割シャフト20、25の連結軸部22、27の根元部の段差面23、28に接近して組み付けられることで保持器136の軸方向への移動を規制するように構成されている。
この実施例2のその他の構成は、実施例1と同様に構成されるため、同一構成部分に対し同一符号を付記してその説明は省略する。
したがって、この実施例2においても実施例1と同様の作用効果を奏する。」

エ 上記「ア」の「シャフトを内燃機関のシリンダヘッド部に回転可能に支持する転がり軸受」との記載からみて、実施例2(図4参照。)の針状ころ軸受131の外輪は、分割シャフト20、25をシリンダヘッド部に回転可能に支持するものである。

上記記載事項及び認定事項並びに図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、実施例2に関して、図面(特に、図4参照。)とともに、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「連結軸部22、27及び連結筒132と、その連結軸部22、27及び連結筒32の外周に配置されるシリンダヘッド部との間に配置され、前記連結軸部22、27及び連結筒132と前記シリンダヘッド部とを軸周り相対回転可能に支持する針状ころ軸受131において、
前記シリンダヘッド部の内径側に外輪を備え、その外輪は、前記シリンダヘッド部の内径部に固定された円筒部とその円筒部の軸方向両端に折り返される部分を有し、前記折り返される部分間に、前記円筒部の内周と前記連結軸部22、27及び連結筒132の外周に転動する針状ころを備え、
前記連結軸部22、27及び連結筒132の軸方向両端に、その連結軸部22、27及び連結筒132よりも断面の大きい分割シャフト20、25が配置され、前記針状ころを保持する保持器136はその分割シャフト20、25間に配置され、前記保持器136はその軸方向両端がそれぞれ前記折り返される部分よりも軸方向外側へ伸びて前記分割シャフト20、25の段差面23、28に対向しており、前記保持器136は、その軸方向両端が前記分割シャフト20、25の段差面23、28に当接することによって前記保持器136の連結軸部22、27及び連結筒132に対する軸方向相対移動が規制される針状ころ軸受131。」

(2)本願の出願前に頒布された国際公開第2009/045983号(以下「刊行物2」という。)には、「カムシャフトローラベアリング」に関して、段落[0021]及び段落[0022]並びにFig.3ないしFig.5に、次の事項が記載されている。

ア 段落[0022]の下から5行目から最終行
(仮訳)
Fig.5に示された製造配置は、ベアリング組立体60を予めカムシャフト90上に組み立てることを可能とし、その結果、組立時に、ブロック100に対してアウタレース84を配置するための組立機械の必要性を除く。

イ Fig.5には、カムシャフト90よりも断面の大きいカムローブ94、96が配置され、ケージ64はそのカムローブ94、96間に配置されることが示されている。

ウ Fig.3ないしFig.5には、ケージ64は外径方向に突出する突起80を備え、その突起80間にアウタレース84を配置して、ケージ64に対するアウタレース84の軸方向相対移動が規制されることが示されている。

(3)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された実願平3-78975号(実開平5-30557号)のCD-ROM(以下「刊行物3」という。)には、「針状ころ軸受」に関して、図面(特に、図1、図2参照。)とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
【従来の技術】
図5に示すように、針状ころ軸受は、一般に、転走面21の両側にフランジ部22および23を形成したシェル形の外輪25に、保持器27に保持させた針状ころ26を転動自在に組入れたものである。
【0003】
図6は、この針状ころ軸受の主要な製作工程を示す。まず、鋼板製の外輪素材25’を深絞り加工してカップ状に成形する。次に、カップの底部分を打ち抜いて他方の側のフランジ部23を形成し、全体に焼入れ処理を施した後、転走面21の加工を行なう。そして、この外輪25に、保持器27のポケットに針状ころ26を収容したころ・保持器アッセンブリBを挿入し、カップの入口側の周縁部22’を折曲加工して一方の側のフランジ部22を形成する。」

イ 「【考案が解決しようとする課題】
上記製作工程において、外輪25はカップの底部分を打ち抜いた状態で一旦焼入れ処理されるため、フランジ部22の折曲加工を行なうに際して、周縁部22’を部分的に焼なます必要があり、作業効率上、好ましくない。また、組立工程に入った段階で、構成部品である外輪25の折曲加工を行なう必要があることから、工程管理上も好ましくない。そして、これらは、いずれも従来の針状ころ軸受の構造自体に起因したものであると考えられる。」

ウ 「【0008】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
【0009】
図1に示すように、この実施例の針状ころ軸受は、円筒状の転走面1の両側にフランジ部2および3を形成したシェル形の外輪5、外輪5の転走面1に転動自在に組込まれた複数の針状ころ6、針状ころ6を円周等間隔に保持する樹脂製の保持器7で構成される。外輪5の一方の側のフランジ部2は軸受外方を向いたテーパ状をなし、他方の側のフランジ部3は半径方向に向いた形状をなす。尚、保持器7は鋼板製のものでも良い。
【0010】
図2に拡大して示すように、保持器7の一方の側の外径部には突部8が形成されている。この突部8の軸受内方側はなだらかなテーパ部8aをなし、軸受外方側はR部8bをなしている。そして、R部8bがフランジ部2の内面に係合することにより、ころ6と保持器7とのアッセンブリAの抜け落ちが防止される。また、本実施例では、外輪5のフランジ部2を円筒状部分に比べて薄肉にしてある。外輪5は、鋼板製の外輪素材に従来と同様の深絞り、底抜き加工を行なった後(図6参照)、組立工程に入る前の段階で、予めフランジ部2の折曲加工を行なって最終形状に仕上げ、これに焼入れ処理を施して形成したものである。本実施例において、フランジ部2を薄肉にしてあるのは、フランジ部2の折曲加工を行なう際に、肉厚の変化点2aが曲げの基点となるため、フランジ部2の寸法精度を比較的容易に確保することができること、および、後述するように、組立の際の便宜を考慮したためである。尚、外輪5についての加工・熱処理は組立工程に入る前の段階ですべて完了する。
【0011】
図3に示すように、この針状ころ軸受は、加工が完了した外輪5に、ころ・保持器アッセンブリAを挿入するだけで組立が完了するようになっている。すなわち、フランジ部2の小径端2bの内径D1が、保持器7の突部8の外径D2よりも僅かに小さく設定されており、アッセンブリAでフランジ部2を外径方向に弾性変形させながら挿入してゆくと、突部8が小径端2bを通過した時点でフランジ部2が縮径し、突部8がフランジ部2の内面に係合可能となることで全組立が完了するのである。アッセンブリAは、ころ6の端面R部および外径面、さらには突部8の傾斜部8aをフランジ部2の小径端2bに案内されて外輪2に嵌り込む。その際、フランジ部2が肉厚の変化点2aを弾性変形の基点として比較的容易に拡径し、これに保持器7の弾性的な縮径が加味されるため、アッセンブリAは外輪5に比較的容易に嵌り込む。尚、小径端2bの角部には、アールあるいは面取り加工を施しておくと良い。」

エ 図1には、外輪5のフランジ部3が保持器7の左端の左方に位置することが示されている。

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「連結軸部22、27及び連結筒132」は前者の「軸部(3)」に相当し、以下同様に、「シリンダヘッド部」は「外方部材(10,10’)」に、「針状ころ軸受131」は「支持軸受(14)」に、「外輪」は「シェル外輪(15)」に、「円筒部」は「円筒部(15c)」に、「針状ころ」は「針状ころ(16)」に、「保持器136」は「保持器(11)」、「段差面23、28」は「軸方向端面」にそれぞれ相当する。

また、後者の「折り返される部分」と前者の「内径方向に突出するツバ部(15a,15e)」とは、「屈曲した部分」という限りで共通し、後者の「分割シャフト20、25」と前者の「作用部材(2,9)」とは、「部材」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「軸部と、その軸部の外周に配置される外方部材との間に配置され、前記軸部と前記外方部材とを軸周り相対回転可能に支持する支持軸受において、
前記外方部材の内径側にシェル外輪を備え、そのシェル外輪は、前記外方部材の内径部に固定された円筒部とその円筒部の軸方向両端に屈曲した部分を有し、前記屈曲した部分間に、前記円筒部の内周と前記軸部の外周に転動する針状ころを備え、
前記軸部の軸方向両端に、その軸部よりも断面の大きい部材が配置され、前記針状ころを保持する保持器はその部材間に配置され、前記保持器はその軸方向両端がそれぞれ前記屈曲した部分よりも軸方向外側へ伸びて前記部材の軸方向端面に対向しており、前記保持器は、その軸方向両端が前記部材の軸方向端面に当接することによって前記保持器の軸部に対する軸方向相対移動が規制される支持軸受。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願補正発明は、軸部(3)よりも断面の大きい「作用部材(2,9)」が配置され、保持器(11)はその「作用部材(2,9)」間に配置されるのに対し、
引用発明は、連結軸部22、27及び連結筒132よりも断面の大きい「分割シャフト20、25」が配置され、保持器136はその分割シャフト20、25間に配置される点。

〔相違点2〕
本願補正発明は、シェル外輪の「屈曲した部分」が、「内径方向に突出するツバ部(15a,15e)」であり、「前記保持器(11)は外径方向に突出する抜け止め凸部(11a)を備え、その抜け止め凸部(11a)が、前記シェル外輪(15)の内面に設けた抜け止め凹部(17)に入り込んで、そのシェル外輪(15)に対する保持器(11)の軸方向相対移動が規制され」るのに対し、
引用発明は、「屈曲した部分」が「折り返される部分」であり、外輪と保持器136の関係が不明である点。

〔相違点3〕
本願補正発明は、支持軸受(14)が「その軸受幅が前記外方部材(10,10’)の幅寸法以下であ」り、「前記作用部材(2,9)の軸方向端面とそれに対向する前記保持器(11)の軸方向端部との成す距離(w3,w4)よりも、その対向する側に向かって、前記保持器(11)に許容される前記シェル外輪(15)に対するその保持器(11)の軸方向相対移動距離(w1,w2)の方が大きくなるように設定されてい」るのに対し、
引用発明は、かかる構成を備えているか不明である点。

4 当審の判断
そこで、各相違点を検討する。
(1)相違点1について
刊行物2には、「カムシャフト90よりも断面の大きいカムローブ94、96が配置され、ケージ64はそのカムローブ94、96間に配置される」こと(前記「2」の「(2)」の「イ」)が記載されている。

引用発明と刊行物2に記載されたものとは、保持器を軸部よりも断面の大きい部材間に配置する点で共通性があるから、引用発明に刊行物2に記載されたものを適用して、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
刊行物3には、前記「2」の「(3)」の記載事項及び図示事項からみて、半径方向に向いたフランジ部3を有する外輪5に、ころ6と保持器7とのアッセンブリAを挿入すると、保持器7に形成された突部8のR部8bがフランジ部2の内面に係合することにより、ころ6と保持器7とのアッセンブリAの抜け落ちが防止されるものが記載されているといえる。

一方、刊行物1には、引用発明の外輪と針状ころ及び保持器136との組み付けやそれらの係合についての記載はない。また、刊行物2に記載されるものは、ケージ64が外径方向に突出する突起80を備え、その突起80間にアウタレース84を配置して、ケージ64に対するアウタレース84の軸方向相対移動が規制するものである。

そうすると、引用発明又は刊行物2に記載されたものは、刊行物3に記載された「ころ6と保持器7とのアッセンブリAの抜け落ち」との技術的課題を有するとはいえないから、引用発明又は刊行物2に記載されたものに、刊行物3に記載されたものを適用する動機付けがない。

また、本願補正発明は、「抜け止め凸部(11a)が、前記シェル外輪(15)の内面に設けた抜け止め凹部(17)に入り込んで、そのシェル外輪(15)に対する保持器(11)の軸方向相対移動が規制される」ものであるから、抜け止め凸部(11a)が軸方向相対移動を規制するものである。

これに対して、刊行物3の外輪5は、そのフランジ部3が保持器7の左端の左方に位置することからみて、外輪5の軸方向相対移動は、保持器7の左端と突部8のR部8bとで規制されると解される。

そうすると、刊行物3には、本願補正発明の上記事項が記載されていない。

したがって、引用発明において、刊行物2に記載されたもの及び刊行物3に記載されたものを適用して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)相違点3について
刊行物1ないし3には、軸受幅をシリンダヘッド部(刊行物1)やブロック100(刊行物2)の幅寸法以下とすることや、保持器の軸方向相対移動距離と外輪に対する保持器の軸方向相対移動距離との関係についての記載はない。

そうすると、刊行物1ないし3には、引用発明において、相違点3に係る本願補正発明の構成を採る契機となる記載がないから、引用発明において、刊行物2に記載されたもの及び刊行物3に記載されたものを適用して、相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(4)また、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、刊行物2に記載されたもの及び刊行物3に記載されたものから、当業者が予測できる範囲内のものということができない。

(5)したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載されたもの及び刊行物3に記載されたものに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

よって、本件補正の請求項1についてする補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
本件補正は、上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されたとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-12-19 
出願番号 特願2010-137(P2010-137)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (F16C)
P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲垣 彰彦  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 冨岡 和人
稲葉 大紀
発明の名称 支持軸受  
代理人 田川 孝由  
代理人 東尾 正博  
代理人 清水 隆  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 文二  

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