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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1295544
審判番号 不服2014-1274  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-24 
確定日 2014-12-11 
事件の表示 特願2009-113496「コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日出願公開、特開2010-262849〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成21年5月8日の出願であって、平成25年12月3日付け(平成25年12月10日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。
そして、平成26年4月18日付けで審査官により作成された前置報告がなされ、平成26年6月9日に上申書が提出されたものである。

第2.平成26年1月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年1月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本件発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
「複数の端子収容室が並設されたコネクタハウジングと、このコネクタハウジングの係止具挿入部に組み付けられて前記端子収容室に収容された端子金具と係合し前記端子収容室内からの抜けを阻止する端子係止具とを備えたコネクタであって、
前記係止具挿入部が前記コネクタハウジングの外周に形成された係止具挿入開口と、前記端子係止具の前記係止具挿入開口から内部に挿入される係止具挿入凹部とで形成され、
前記端子係止具は前記係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の蓋体と、この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の係止側板と、前記一対の係止側板間で前記蓋体から並設された極間壁と、この極間壁と一方の係止側板間とを連結し前記蓋体と平行に設けられた連結蓋体とからなり、
前記端子係止具の前記一対の係止側板には前記係止具挿入部内の仮係止部に係合する仮係止突起及び前記係止具挿入部内の第1本係止部に係合する第1本係止突起とが設けられ、
前記蓋体の前記極間壁の近傍に前記係止具挿入部内の第2本係止部に係合する第2本係止突起を設け、
前記極間壁には、前記第2本係止部への前記第2本係止突起の係合状態を案内すると共に、前記係止具挿入部内の係止溝に係合するリブが設けられていることを特徴とするコネクタ。」
とあったものを
「複数の端子収容室が並設されたコネクタハウジングと、このコネクタハウジングの係止具挿入部に組み付けられて前記端子収容室に収容された端子金具と係合し前記端子収容室内からの抜けを阻止する端子係止具とを備えたコネクタであって、
前記係止具挿入部が前記コネクタハウジングの外周に形成された係止具挿入開口と、前記端子係止具の前記係止具挿入開口から内部に挿入される係止具挿入凹部とで形成され、
前記端子係止具は前記係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の蓋体と、この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の係止側板と、前記一対の係止側板間で前記蓋体から並設された極間壁と、この極間壁と一方の係止側板間とを連結し前記蓋体と平行に設けられた連結蓋体とからなり、
前記端子係止具の前記一対の係止側板には前記係止具挿入部内の仮係止部に係合する仮係止突起及び前記係止具挿入部内の第1本係止部に係合する第1本係止突起とが設けられ、
前記端子収容室は、小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり、前記大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ、前記極間壁の近傍に前記係止具挿入部内の第2本係止部に係合する第2本係止突起を設け、
前記極間壁には、前記第2本係止部への前記第2本係止突起の係合状態を案内すると共に、前記係止具挿入部内の係止溝に係合するリブが設けられていることを特徴とするコネクタ。」
と補正するものである。(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)

上記補正は、実質的に補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項としての「端子収容室」に関して、「小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり、前記大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ」との限定を付加すものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.記載要件について
本件補正発明の「極間壁」は、請求項1の6行?8行の「前記端子係止具は前記係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の蓋体と、この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の係止側板と、前記一対の係止側板間で前記蓋体から並設された極間壁」との記載によれば、「端子係止具」の構成要素の一部であるのに対し、請求項1の14行の「前記大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ」との記載によれば、大端子用収容室と小端子用収容室との間、つまり「コネクタハウジング」の構成要素の一部になっているから、両者の記載は矛盾しており、「極間壁」の配置が不明確となっている。
また、本件明細書の記載(段落【0034】?段落【0037】、段落【0043】)及び図面(【図1】、【図2】、【図5】、【図8】)によれば、「極間壁」は「端子係止具」の構成要素の一部であり、その具体的な配置は、大端子用収容室に対応した端子挿入部と小端子用収容室に対応した端子挿入室との間となっているから、本件補正発明の「前記大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ」との特定事項は、明細書及び図面の記載内容と整合していない。
よって、本件出願(本件補正発明)は、特許法36条第6項1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.進歩性について
(1)本件補正発明
上述のとおり、本件出願(本件補正発明)は、記載要件を満たしていないが、本件明細書の記載内容及び図示内容と整合性をとり、本件補正発明の「大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ」は「前記大端子用収容室に対応した端子挿入部と前記小端子用収容室に対応した端子挿入室との間に前記極間壁が設けられ」の誤りであるとして検討を進める。
よって、本件補正発明は以下のとおりに捉えることができる。(下線は、当審において修正した部分)
「複数の端子収容室が並設されたコネクタハウジングと、このコネクタハウジングの係止具挿入部に組み付けられて前記端子収容室に収容された端子金具と係合し前記端子収容室内からの抜けを阻止する端子係止具とを備えたコネクタであって、
前記係止具挿入部が前記コネクタハウジングの外周に形成された係止具挿入開口と、前記端子係止具の前記係止具挿入開口から内部に挿入される係止具挿入凹部とで形成され、
前記端子係止具は前記係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の蓋体と、この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の係止側板と、前記一対の係止側板間で前記蓋体から並設された極間壁と、この極間壁と一方の係止側板間とを連結し前記蓋体と平行に設けられた連結蓋体とからなり、
前記端子係止具の前記一対の係止側板には前記係止具挿入部内の仮係止部に係合する仮係止突起及び前記係止具挿入部内の第1本係止部に係合する第1本係止突起とが設けられ、
前記端子収容室は、小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり、前記大端子用収容室に対応した端子挿入部と前記小端子用収容室に対応した端子挿入室との間に前記極間壁が設けられ、前記極間壁の近傍に前記係止具挿入部内の第2本係止部に係合する第2本係止突起を設け、
前記極間壁には、前記第2本係止部への前記第2本係止突起の係合状態を案内すると共に、前記係止具挿入部内の係止溝に係合するリブが設けられていることを特徴とするコネクタ。」

(2)引用文献の記載事項
・原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-236695号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「コネクタ」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。以下、同様。)
ア.「【請求項1】
複数の端子金具を幅方向に並列して収容可能なキャビティを有するハウジングと、各キャビティに連通して前記ハウジングの外面に開口するリテーナ装着孔に対して正規深さで装着されることにより前記端子金具を抜け止め状態で保持するリテーナとを備え、
前記リテーナは、前記リテーナ装着孔に対して正規深さで装着されたときに前記ハウジングの被係止面に係止可能な係止面を有する係止手段を備えてなるものであって、
前記係止手段は、前記リテーナの幅方向両端部に配置される端側係止部と、これら端側係止部の間に配置される中間係止部とからなり、さらに、
前記ハウジングの被係止面に対する前記中間係止部の係止強度を、前記ハウジングの被係止面に対する前記端側係止部の個々の係止強度よりも大きく設定したことを特徴とするコネクタ。」

イ.「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、コネクタの多極化によりキャビティが幅方向に複数並列されると、これに伴いリテーナが長尺となる。すると、リテーナの幅方向両端部では係止部と被係止部とによるロックが掛かるものの、リテーナの幅方向中央部ではその強度不足に起因して弓なりに反り変形する事態が起こり得た。その結果、リテーナの中央部が対応する端子金具を充分に係止し得ないにもかかわらず、作業者がこれに気付かずにこの端子金具の半挿入を許してしまうおそれがあった。
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、端子金具が半挿入状態で置かれるのを防止することを目的とする。」

ウ.「【0012】
ハウジング10は、合成樹脂材によって一体に成形され、図7に示すように、その両側面に雄コネクタ側にロック可能な左右一対のロック突部11が設けられている。ハウジング10の内部には高さ方向に二段でかつ幅方向に複数列のキャビティ12が備えられ、各キャビティ12に後方から端子金具30が挿入可能とされている。また、キャビティ12の底面には端子金具30を弾性的に係止可能なランス13が前方へ片持ち状に延出して形成されている。
【0013】
ハウジング10には三つのキャビティ群14が仕切壁15によって互いに隔てられた状態で横並びに設けられている。仕切壁15の上面側及び下面側には雄コネクタとの嵌合動作を案内するための案内溝16が前後方向に延出して形成されている。
また、ハウジング10の底面には、図8に示すように、後述するリテーナ50を装着するためのリテーナ装着孔17が開口して形成されている。リテーナ装着孔17は、ハウジング10の底面において仕切壁15を横断しつつほぼ全幅に亘って開口し、上下二段の各キャビティ12に連通する深さをもって切り込まれている。リテーナ装着孔17の底面のうち案内溝16と対応する位置にはリブ18が突設されている。
【0014】
端子金具30について簡単に説明すると、端子金具30は、金属板材に曲げ加工を施すことで前後に細長い形態をなし、図2に示すように、相手側となる雄端子金具(図示せず)を挿入可能な接続筒部31と電線80の端末に接続されたバレル部32とを前後に連ねた周知の雌型端子金具である。
【0015】
続いて、リテーナ50について説明すると、リテーナ50は、ハウジング10と同様に合成樹脂材によって一体成形され、図5に示すように、幅方向に長尺の平板状をなす基部51を備えている。基部51には、ハウジング10における下段のキャビティ12に対応して複数の窓孔52が並列状に形成され、各窓孔52の下面前部には各端子金具30に対応した係止突部53が形成されている。また、基部51の上端には、ハウジング10における上段のキャビティ12に対応して両側壁54に挟まれた複数の切り溝55が並列状に形成され、各切り溝55の下面前部に、同じく各端子金具30に対応した係止突部53が形成されている。各係止突部53は、図1に示すように、キャビティ12内に正規挿入された各端子金具30の接続筒部31の後端に係止可能とされる。」
【0016】
基部51において仕切壁15と対応する位置には連結部56が介設されている。連結部56の下面側はトンネル状に抉られた逃がし溝57とされ、この逃がし溝57がハウジング10側の案内溝16と連通して雄コネクタの嵌合動作を案内するようになっている。また連結部56の上面側は両側壁54に挟まれた嵌合溝58とされ、この嵌合溝58がハウジング10におけるリテーナ装着孔17のリブ18に嵌まってリテーナ50を幅方向に位置決めするようになっている。
【0017】
基部51の下面は、リテーナ装着孔17の開口を閉止可能な大きさの水平板状をなし、リテーナ装着孔17に対し正規深さで装着されたときにその前後の両端縁がハウジング10の段付面19に当て止め可能とされる(図1参照)。また、基部51の下面には検知部60が下方に突出して形成されている。詳しくは検知部60は、基部51の下面における幅方向両端寄りの位置に左右一対が対称配置され、基部51の下面における前後長さの全長に亘って延出する平板状に形成されている。」

エ.「【0020】
また、リテーナ50には、基部51の両端に連なって左右一対の端側係止部61が形成されている。各端側係止部61は、図4に示すように、高さ方向途中から二股に分かれるようにして前後で起立する撓み変形可能な脚片62,63を備えている。両脚片62,63は、それぞれほぼ同じ高さを有してその上端が基部51の上端よりも上位にあり、自然状態においては互いに一定間隔をあけて平行配置されている。そして、両脚片62,63のうち、後側(図4に示す左側)に位置するものはリテーナ50を仮係止位置に留め置くための仮係止用の脚片62として機能し、前側に位置するものはリテーナ50を本係止位置に留め置くための本係止用の脚片63として機能する。
【0021】
仮係止用の脚片62の先端部には仮係止用の係止爪64が外向きに突設され、本係止用の脚片63の先端部には本係止用の係止爪65が仮係止用の係止爪64とは反対となる外向きに突設されている。仮係止用の係止爪64の下面は略水平な仮係止用の係止面66とされ、本係止用の係止爪65の下面は略水平な本係止用の係止面67(本発明の係止面に相当)とされ、それぞれハウジング10側の仮係止用の被係止面21及び本係止用の被係止面22(本発明の被係止面に相当)に係止可能とされる。
【0022】
ハウジング10には、端側係止部61と対応する位置に端側被係止部23が形成されている。この端側被係止部23は、図8に示すように、リテーナ装着孔17内の左右両端部に端側係止部61を受け入れ可能に形成されている。端側被係止部23内には、図9の(A)に示すように、前後で対向する壁面が切り立っており、ここには高さを異にした仮係止用の突部24と本係止用の突部25とがそれぞれ内向きに突出している。仮係止用の突部24は、後側の壁面に配置され、その上面に略水平な仮係止用の被係止面21が設定されている。本係止用の突部25は、前側の壁面にて仮係止用の突部24よりも高位に配置され、その上面に略水平な本係止用の被係止面22が設定されている。
【0023】
また、リテーナ50には、各端側係止部61の間に位置して中間係止部68が形成されている。詳しくは中間係止部68は、リテーナ50の中央部に一つ配置され、基部51の上端後部から起立する本係止用の脚片63により構成されている。この本係止用の脚片63は、端側係止部61の本係止用の脚片63とほぼ同じ高さを有しつつ端側係止部61の仮係止用の脚片62よりも少し内寄りに後退して配置され、かつ、その先端部に形成された本係止用の係止爪65の下面には略水平な本係止用の係止面67が設定されている。
ハウジング10には中間係止部68と対応する位置に中間被係止部26が形成されている。中間被係止部26内には、図10の(B)に示すように、前後で対向する壁面が切り立っており、その後側の壁面に本係止用の突部25が内向きに突出している。本係止用の突部25の上面には略水平な本係止用の被係止面22が設定されている。」

オ.「【0032】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
・・・
(2)上記実施形態では、中間係止部がリテーナの幅方向中央部に一つ配置されていたが、本発明においては、中間係止部が端側係止部の間のいずれの位置に配置されていてもよく、また複数あってもよい。
・・・」

カ.【図5】、【図7】、及び【図11】ないし【図13】には、キャビティ12が、小端子用キャビティと、この小端子用キャビティより大きい大端子用キャビティとからなることが示されている。また、記載事項ウ.段落【0015】には、キャビティ12に対応してリテーナ50に窓部52を形成することが記載されているから、リテーナ50は、小端子用キャビティに対応した窓孔と大端子用キャビティに対応した窓孔が形成されていることが理解できる。

キ.記載事項ウ.段落【0015】、記載事項エ.段落【0023】の記載内容及び【図5】によれば、リテーナ50は、左右一対の端側係止部61間で基部51の下面に並設された、中間係止部68が形成されている側壁54を有するものであり、リテーナ50の中央部に位置する2つの小端子用収容室に対応した窓孔との間に、中間係止部68が形成されている側壁54が配置されているものといえる。

これら記載事項、図示内容及び認定事項を総合し、本件補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「複数列のキャビティ12が備えられたハウジング10と、このハウジング10のリテーナ装着孔17に装着されて前記キャビティ12に収容可能な端子金具30と係止し前記キャビティ12内で抜け止め状態で保持するリテーナ50とを備えたコネクタであって、
前記リテーナ装着孔17が前記ハウジング10の底面にほぼ全幅に亘って開口し、上下二段の各キャビティ12に連通する深さをもって切り込まれて形成され、
前記リテーナ50は前記リテーナ装着孔17に装着された状態で前記開口を閉止可能な大きさの水平板状の基部51の下面と、この基部51の下面の両端に連なって形成された左右一対の端側係止部61と、前記左右一対の端側係止部61間で前記基部51の下面に並設された、中間係止部68が形成されている側壁54と、この中間係止部68が形成されている側壁54と端側係止部61間とを連結し前記基部51の下面と平行に設けられた基部51の上端とからなり、
前記リテーナ50の前記左右一対の端側係止部61には前記リテーナ装着孔17内の仮係止用の突部24に係合する仮係止用の係止爪64及び前記リテーナ装着孔17内の本係止用の突部25に係合する本係止用の係止爪65とが設けられ、
前記キャビティ12は、小端子用キャビティと、この小端子用キャビティより大きい大端子用キャビティとからなり、前記リテーナ50は、前記小端子用キャビティに対応した窓孔と前記大端子用キャビティに対応した窓孔が形成され、前記リテーナ50の中央部に位置する2つの小端子用キャビティに対応した窓孔との間に前記中間係止部68が形成されている側壁54が配置され、前記中間係止部68が形成されている側壁54に前記リテーナ装着孔17内の本係止用の突部25に係合する本係止用の係止爪65を設けられているコネクタ。」

・原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-204186号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「電気コネクタ」に関し、図面と共に、以下の事項が記載されている。
サ.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤーハーネス等の接続に用いられる電気コネクタにおいて、コネクタハウジングの端子収容室に挿入される端子金具の後抜けを防止するための端子係止具を備えた電気コネクタに関する。」

シ.「【0011】
【発明の実施の形態】
図1および図2において、Aは合成樹脂製の雄コネクタハウジング、Bはその下部外周壁1bに開口した窓6に装着される合成樹脂製の端子係止具、Cは端子金具である。ハウジングAは、相手方の雌コネクタハウジング(図示せず)と嵌合される。
【0012】ハウジングAの上部外周壁1aには上記雌コネクタハウジングに対するロッキングアーム2が設けられ、内部には上下二段に複数の端子収容室3,3′が並設されている。
【0013】各端子収容室3において、その上壁3aから一体に可撓係止腕4が突設され、該可撓係止腕4は端子金具Cにおける電気接触部C1 の後方肩部9に係合して後抜けを阻止する(1次係止)。また、端子収容室3,3′の前端開口部には、端子金具Cの前方への抜けを阻止するストッパ壁5が設けられている。
【0014】ハウジングAの窓6は、下部外周壁1bの中間部において、複数の端子収容室3,3′を横切る方向に設けられ、上下の端子収容室3,3′を区画する仕切壁3bにも対応する中窓6′が窓6と上下方向に設けられている。即ち、窓6、中窓6′などは、各段の端子収容室3,3′間の隔壁3d(図2参照)を横切る貫通空間Sと連通し、一連の連通空間を形成する。窓6の前方側縁は複数の段部6aを有して階段状に形成され、後方側縁6b側には上記仕切壁3bに達する二つの溝部7,7が適宜間隔をおいて形成され、各溝部7には端子係止具Bに対するロッキングアーム8が上記貫通空間Sに臨んで設けられている。
【0015】ロッキングアーム8は、仕切壁3bから垂直にのびる可撓胴体部8aと、これから窓6側にのびる腕部8bとからフック状に形成され、腕部8bの先端部外面にはテーパ8b1 が付されている。また、窓6の左右両側の端縁には、端子係止具Bに対する仮ロック用の受座6cが設けられている。」

ス.「【0028】図5に示す実施例は、端子係止具Bにおける突条15のロッキングアーム8との係合端面15aと反対側の端部にロック解除用突起18を突設すると共に、ハウジングAの上部外周壁1a側の仕切壁3bにそのガイド穴19を設けたものである。 この場合には、前述のようにロッキングアーム8を後方に撓ませつつ図6に示されるように、ハウジングAの溝部7と反対側の溝部7′から治具(図示せず)を差し込んで、ロック解除用突起18を矢線Sのように斜め方向に押圧することにより、本ロック状態を解除することができ、ロッキングアーム8を傷めず、円滑に引き出すことができる。
【0029】また、端子係止具Bの本ロック時において、ロック解除用突起18がガイド穴19に整合して位置決めされるので、端子係止具Bのガタツキも防止される。」

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献2には、次の事項が記載されている。(以下、「引用文献2に記載されている事項」という。)
「雄コネクタハウジングAにロッキングアーム8及びガイド穴19設け、端子係止具Bに係合端面15a及びロック解除用突起18設け、ロッキングアーム8が係合端面15aに係合するとともに、雄コネクタハウジングAの窓6,6’内に臨むガイド穴19に整合するロック解除用突起18を設ける点。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「複数列のキャビティ12」は前者の「複数の端子収容室」に相当する。以下同様に、「複数列のキャビティ12が備えられた」「ハウジング10」は「複数の端子収容室が並設された」「コネクタハウジング」に、「リテーナ装着孔17」は「係止具挿入部」に、「リテーナ装着孔17に装着されて前記キャビティ12に収容可能な」「端子金具30」は「係止具挿入部に組み付けられて前記端子収容室に収容された」「端子金具」に、「端子金具30と係止し前記キャビティ12内で抜け止め状態で保持する」「リテーナ50」は「端子金具と係合し前記端子収容室内からの抜けを阻止する」「端子係止具」に、それぞれ、相当する。
また、「リテーナ装着孔17が前記ハウジング10の底面にほぼ全幅に亘って開口し、上下二段の各キャビティ12に連通する深さをもって切り込まれて形成され」ることは、リテーナ50の挿入開口と挿入凹部が形成されることに他ならないから、「係止具挿入部が前記コネクタハウジングの外周に形成された係止具挿入開口と、前記端子係止具の前記係止具挿入開口から内部に挿入される係止具挿入凹部とで形成され」に相当する。
後者の「リテーナ装着孔17に装着れた状態で前記開口を閉止可能な大きさの水平板状の」「基部51の下面」は前者の「係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の」「蓋体」に相当し、
後者の「この基部51の下面の両端に連なって形成された左右一対の」「端側係止部61」は前者の「この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の」「係止側板」に相当し、
後者の「左右一対の端側係止部61間で基部51の下面に並設された、「中間係止部68が形成されている側壁54」は前者の「一対の係止側板間で前記蓋体から並設された」「極間壁」に相当する。
後者の「この中間係止部68が形成されている側壁54と端側係止部61間とを連結し前記基部51の下面と平行に設けられた」「基部51の上端」は前者の「この極間壁と一方の係止側板間とを連結し前記蓋体と平行に設けられた」「連結蓋体」に含まれる。
後者の「左右一対の端側係止部61には前記リテーナ装着孔17内の『仮係止用の突部24』に係合する『仮係止用の係止爪64』及び前記リテーナ装着孔17内の『本係止用の突部25』に係合する『本係止用の係止爪65』とが設けられ」は前者の「係止側板には前記係止具挿入部内の『仮係止部』に係合する『仮係止突起』及び前記係止具挿入部内の『第1本係止部』に係合する『第1本係止突起』とが設けられ」に相当し、
さらに、小端子用キャビティは小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容され、小端子用キャビティより大きい大端子用キャビティは大径の電線の端末が接続されることは技術常識であるから、後者の「キャビティ12は、小端子用キャビティと、この小端子用キャビティより大きい大端子用キャビティとからなり」は前者の「端子収容室は、小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり」に相当し、
後者の「中間係止部68が形成されている側壁54に前記リテーナ装着孔17内の『本係止用の突部25』に係合する『本係止用の係止爪65』を設け」は前者の「極間壁の近傍に前記係止具挿入部内の『第2本係止部』に係合する『第2本係止突起』を設け」に相当する。

そうすると、両者は、本件補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「複数の端子収容室が並設されたコネクタハウジングと、このコネクタハウジングの係止具挿入部に組み付けられて前記端子収容室に収容された端子金具と係合し前記端子収容室内からの抜けを阻止する端子係止具とを備えたコネクタであって、
前記係止具挿入部が前記コネクタハウジングの外周に形成された係止具挿入開口と、前記端子係止具の前記係止具挿入開口から内部に挿入される係止具挿入凹部とで形成され、
前記端子係止具は前記係止具挿入部に組み付けられた状態で前記係止具挿入開口を塞ぐ長尺状の蓋体と、この蓋体の長手方向の両側に設けられた一対の係止側板と、前記一対の係止側板間で前記蓋体から並設された極間壁と、この極間壁と一方の係止側板間とを連結し前記蓋体と平行に設けられた連結蓋体とからなり、
前記端子係止具の前記一対の係止側板には前記係止具挿入部内の仮係止部に係合する仮係止突起及び前記係止具挿入部内の第1本係止部に係合する第1本係止突起とが設けられ、
前記端子収容室は、小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり、
前記極間壁の近傍に前記係止具挿入部内の第2本係止部に係合する第2本係止突起を設けられているコネクタ。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「極間壁」の配置に関し、
本件補正発明は、大端子用収容室に対応した端子挿入部と小端子用収容室に対応した端子挿入室との間であるのに対し、
引用発明は、リテーナ50の中央部に位置する2つの小端子キャビティに対応した窓孔との間である点。

[相違点2]
「極間壁」の構造に関し、
本件補正発明は、第2本係止部への第2本係止突起の係合状態を案内すると共に、係止具挿入部内の係止溝に係合するリブが設けられているのに対し、
引用発明は、かかる構造を有していない点。

(4)判断
・[相違点1]について検討する。
コネクタの端子用収容室の構造は、電気機器の配線形態(配線数、配線の種類、及び配線の径、配線の位置等)、若しくは相手側のコネクタの端子用収容室の構造に適合させて、端子用収容室の数や大きさ、及びその配置を決定するのが通常である。
また、小端子用収容室と大端子用収容室とを有する場合に、コネクタ本体の端子収容室を小端子用収容室の群と大端子用収容室の群とに分けて配置するとともに、これに対応する形でリテーナの端子挿入室も小端子用挿入室の群と大端子用挿入室の群とに分けて配置する構造は、従来周知(特開2003-197300号公報の【図1】、特開平8-315894号公報の【図2】及び【図3】、特開平8-195241号公報の【図5】を参照。)であって、特別な構造ではない。
そして、引用発明は、「前記キャビティ12は、小端子用キャビティと、この小端子用キャビティより大きい大端子用キャビティとからなり、前記リテーナ50は、前記小端子用キャビティに対応した窓孔と、前記大端子用キャビティに対応した窓孔が形成され」る構造であるところ、電気機器の配線形態、若しくは相手側のコネクタの端子用収容室の構造によっては、小端子用キャビティと大端子用キャビティの両者を群にまとめる必要が生じるものであり、この場合に、当該周知の技術のように、ハウジング10のキャビティ12を小端子用キャビティの群と大端子用キャビティの群と分けて配置するとともに、これに対応する形でリテーナ50の窓孔52を小端子用の窓孔52の群と大端子用の窓孔52の群に分けて配置する構造とすることは当業者における単なる設計変更にすぎない。
また、引用発明は、引用文献1の記載事項イ.段落【0003】に記載されるように、リテーナが長尺となり、係止の強度不足に起因して弓なりに変形することを技術的課題としている。加えて、同記載事項オ.には、中間係止部の位置は端側係止部の間でいずれの位置に配置してもよいことが記載されている。
上述したようにリテーナ50の窓孔52を小端子用の窓孔52の群と大端子用の窓孔52の群に分けて配置する構造に変更したときには、引用発明の技術的課題に照らし、リテーナ50の変形を効果的に防止する位置に中間係止部68が形成されている側壁54を配置するよう設計するものであり、その際に、電線の径に大小差があり、両者の引張力で不安定な力がかかりやすい位置であり、また、製作上の観点からも区切りのよい位置である大端子用キャビティに対応する窓孔52と小端子用キャビティに対応する窓孔52との間に中間係止部68を形成する側壁54を配置することは当業者であれば容易になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・[相違点2]について検討する。
引用文献2には、雄コネクタハウジングAと端子係止具Bを位置決めし、ガタツキを防止するために、「雄コネクタハウジングAにロッキングアーム8及びガイド穴19設け、端子係止具Bに係合端面15a及びロック解除用突起18設け、ロッキングアーム8が係合端面15aに係合するとともに、雄コネクタハウジングAの窓6,6’内に臨むガイド穴19に整合するロック解除用突起18を設ける点。」が記載されている。ここで、引用文献2に記載されている事項の「ロッキングアーム8」、「係合端面15a」、「窓6,6’」、「ガイド穴19」、「ロック解除用突起18」は、本件補正発明の「第2本係止部」、「第2本係止突起」、「係止具挿入部」、「係止溝」、「リブ」に、それぞれ相当する。また、ロッキングアーム8と係合端面15aの係合と、ガイド穴19とロック解除用突起18との整合は、引用文献2の段落【0028】及び【図6】に示されるように、同一断面上で行われているから、ガイド穴19に整合するロック解除用突起18は、ロッキングアーム8への係合端面15aの係合状態を案内するものといえるので、引用文献2には、本件補正発明の特定事項のうち、「第2本係止部への第2本係止突起の係合状態を案内すると共に、係止具挿入部内の係止溝に係合するリブ」に相当する構成を開示するものである。
そして、引用文献2に記載されている事項は、引用発明と同じコネクタの分野に属し、かつ、コネクタハウジングの開口部に端子係止具を挿入することで、端子金具を係止するという機能でも共通している。また、引用文献1の請求項1には、中間係止部の係止強度を、前記ハウジングの被係止面に対する前記端側係止部の個々の係止強度よりも大きく設定することが記載されているから、引用発明に引用文献2に記載されている事項を適用し、中間係止部68が形成されている側壁54の位置の係止強度をさらに上げる動機付けは十分あるものといえる。
してみると、引用発明に引用文献2に記載されている事項を適用し、引用発明のリテーナ装着孔17内にガイド穴を設け、中間係止部68が形成されている側壁54にロック解除用突起18を設けて両者を整合し、位置決めする構成を付加することは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本件補正発明による効果も、引用発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成25年6月19日に補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2.1.」に記載したとおりである。

2.引用文献の記載事項
引用文献1及び2の記載事項は、前記「第2.3.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、前記「第2.1.」に記載した「小径の電線の端末に接続された小端子金具が収容される小端子用収容室と、この小端子用収容室より大きく大径の電線の端末に接続された大端子用収容室とからなり、前記大端子用収容室と前記小端子用収容室との間に前記極間壁が設けられ」との限定事項を省くものである。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、前記「第2.1.」の限定事項により減縮したものに相当する本件補正発明が、前記「第2.3.」に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載されている事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-08 
結審通知日 2014-10-15 
審決日 2014-10-29 
出願番号 特願2009-113496(P2009-113496)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
P 1 8・ 537- Z (H01R)
P 1 8・ 575- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 貴志  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 中川 隆司
島田 信一
発明の名称 コネクタ  
代理人 三好 秀和  

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