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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B |
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管理番号 | 1295611 |
審判番号 | 不服2013-20239 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-18 |
確定日 | 2015-01-19 |
事件の表示 | 特願2008-216052「脂肪定量装置、磁気共鳴イメージングシステム、および脂肪定量方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 51335、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成20年8月26日の出願であって,平成25年3月14日に手続補正書が提出され,同年6月12日付けで拒絶査定がなされ,同年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は,平成25年3月14日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 被検体の脂肪定量を行う脂肪定量装置であって, 前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度と,脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる,前記脂肪信号の強度又は前記水信号の強度を補正する補正係数とを用いて,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪定量装置。 【請求項2】 前記補正係数と,前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度との関係式を記憶する関係式記憶手段を有する,請求項1に記載の脂肪定量装置。 【請求項3】 前記被検体から収集された脂肪信号の強度と,前記被検体から収集された水信号の強度とを前記関係式に代入することにより,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪量算出手段,を有する請求項2又は3に記載の脂肪定量装置。 【請求項4】 前記関係式は, H={F/(F+W・C)}×100 ここで,H:脂肪の定量値,F:被検体から収集された脂肪信号の強度,W:被検体から収集された水信号の強度,C:補正係数 である,請求項2又は3に記載の脂肪定量装置。 【請求項5】 前記補正係数は,脂肪プロトンと水プロトンとが1:1の割合で含まれたファントムから収集された脂肪信号の強度と,前記ファントムから収集された水信号の強度との比である,請求項4に記載の脂肪定量装置。 【請求項6】 前記被検体から収集された脂肪信号の強度と,前記被検体から収集された水信号の強度は,前記被検体の脂肪と水の共鳴周波数の違いを利用して得られる,請求項1?5のうちのいずれか一項に記載の脂肪定量装置。 【請求項7】 前記被検体から収集された脂肪信号の強度と,前記被検体から収集された水信号の強度は,前記被検体の脂肪と水の縦緩和時間の違いを利用して得られる,請求項1?5のうちのいずれか一項に記載の脂肪定量装置。 【請求項8】 請求項1?7のうちのいずれか一項に記載の脂肪定量装置を有する磁気共鳴イメージングシステム。 【請求項9】 被検体の脂肪定量を行う脂肪定量方法であって, 前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度と,脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる,前記脂肪信号の強度又は前記水信号の強度を補正する補正係数とを用いて,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪定量方法。」 以下,請求項1?9の各請求項に係る発明を,それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」といい,それらを総じて「本願発明」という。 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は,「この出願については、平成24年12月 5日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものであり,備考として,次の3つの文献 1.C-Y. Liu et al, Quantification of Hepatic Steatosis with MRI: Correction for Bias from Noise and T1, Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 16, 2008年5月, #3713 2.T. Kok et al, Analysis of 1H metabolite ratios using image segmentation at 7T in adult patients with X-linked adrenoleukodystrophy, Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 16, 2008年5月, #1596 3.特開平2-181679号公報 (以下,それぞれ「引用文献1」?「引用文献3」という。) を引用し,以下のことが記載されている。 「備考: 請求項1,9に係る発明の発明特定事項は、補正前の請求項1,9に係る発明の発明特定事項に、補正前の請求項5に係る発明の発明特定事項を上位概念化して付加したものであるから、平成24年12月5日付け拒絶理由通知書の理由の備考欄で指摘した通り、引用文献1-2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得ることである。 具体的には、請求項1,9に係る発明の発明特定事項は、補正前の請求項1,9に係る発明の発明特定事項に、「脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる・・・補正係数」という発明特定事項を付加したものである。 ・請求項1-5,7-9について 引用文献1には、縦緩和時間の違いを利用して得られた信号における脂肪と水の信号強度を用いて脂肪含有率(本願の脂肪の定量値に相当する。)の測定を行う装置及び方法が記載されている(Theory,特に式[1],[2],[3]参照。)。 したがって、請求項1-5,7-9に係る発明と引用文献1に記載された発明を対比すると以下の点で相違し、その他の点で一致する。 相違点1:請求項1-5,7-9に係る発明は、脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる補正係数を用いて脂肪の定量値を算出するのに対し、引用文献1に記載された発明はそのような発明特定事項を備えていない点。 上記相違点について検討する。引用文献2には、the absolute metabolite data を用いて算出される比率 rgw=Cr'g/Cr'w を補正係数として用いることで、脳の代謝物質における白質と灰白質の定量値を算出することが記載されている(Methods,特に式(2)参照。)。 引用文献1に記載された発明も、引用文献2に記載された発明もともに、T1の異なる2つの物質の信号強度を比べて、特定の物質の定量値を算出する技術で共通している。したがって、引用文献1に記載された脂肪含有率を求める式[2],[3]に引用文献2に記載された方法で算出する補正係数を適用することは、当業者が容易になし得たことである。 また、水と脂肪が1:1の割合で含まれるファントムは引用文献3に記載されているように周知であり(第6頁右下欄第13-14行及びFIG.3B参照。)、補正係数を引用文献2に記載されている the absolute metabolite data のような既知の値とするのか、上記周知のファントムから収集された信号によって得られる値とするのかは当業者が適宜選択しうる設計事項に過ぎない。 また、請求項1-5,7-9に係る発明の作用効果は、引用文献1,2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。 よって、請求項1-5,7-9に係る発明は、引用文献1,2に記載された発明及び上記周知技術に基いて当業者が容易に想到し得ることである。 ・請求項6について 脂肪信号の強度と水信号の強度を脂肪と水の共鳴周波数の違いを利用して得ることは、本願出願前において周知である。」 以上より,原査定の拒絶の理由は,要するに,請求項1?9に係る発明は,引用文献1に記載された発明に,周知技術を勘案して引用文献2に記載された発明を適用することより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である引用文献1には,次の事項が記載されている。 なお,引用文献1は英語で表記されているので,当審が仮訳した。また,後に引用発明の認定に直接的に利用する箇所に下線を付した。 ア 「Introduction」欄2?7行 「ケミカルシフトMR撮像法を用いると,水と脂肪の信号は分離され,肝臓中の脂肪の定量化が可能となる。しかし,MRIによる脂肪の定量化は,非ゼロ平均画像ノイズと,T_(1)のような緩和の影響により混乱する。この研究の目的は,ノイズバイアスを取り除く“位相制約”と“強度識別”の2つのアプローチと,脂肪の定量化におけるT_(1)バイアスを取り除く“低フリップアングル”と“デュアルフィリップアングル”の2つのアプローチを説明することである。IDEAL (Iterative Decomposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least square estimation) として知られる水-脂肪分離法を併用したSPoiled GRadient echo (SPGR) 撮像を評価するため,生体とファントムでの実測が行われた。」 イ 「Theory」欄14?24行 「SPGRにおける水信号S_(w)(S_(f)は脂肪)は,式1のように,水のT_(1)(T_(1w)),フリップアングルα,TR,TE,そして水のプロトン密度(M_(w))に依存する。これはまた,式2,3で述べられるように,脂肪と水のT_(1)値が等しくないとき,脂肪量η_(s)が真の脂肪量ηと異なることを示唆する。T_(1)補正をしないと,この相違(例えば,η_(s)≠η)により,肝臓の脂肪の推定が非常に不正確になる。 T_(1)の影響を減らすため,低フリップアングルを用いた。式1において,小さいαについて1次のテーラー展開を用いると,脂肪量の計算におけるαの項はキャンセルする。そして,式2,3になされた2つの定義は等しくなる。このアプローチを,“低フリップアングル”法と呼ぶ。完全にT_(1)の影響を消すための2つ目のアプローチは,2つの異なるフリップアングルにより,2つの連続した取得を実行することである。IDEAL-SPGR撮像と再構成の後,T_(1)補正された水(脂肪)信号は,各々2つの異なるフリップアングルによる2セットの脂肪と水の画像を使って計算される。脂肪と水のT_(1)に基づく最適なフリップアングルは,6°と34°である。」 ウ 「Theory」欄式[1]?[3] 「 」 エ 「Materials and Methods」欄 「画像ノイズによるバイアスを決めるため,3DマルチエコーSPGR像が,(我々のIRBの承認をもってインフォームドコンセントを得た後)健常なボランティアで得られた。ヘッドコイルと,脂肪量の連続体を含む油/水ファントムを用いて,5°から45°の範囲のフリップアングルの2次元 IDEAL-SPGRシーケンス(TR=11.3ms, TE=4.4, 6.0, 7.5ms)が,適用された。デュアルフリップアングル法を確認するため,6°と34°のデュアルフリップアングルで,同じプロトコルが使われた。実験は,1.5Tの GE Signa HDx スキャナを用いて行われた。」 オ 上記ア,イ,エに記載された「IDEAL」がケミカルシフトMR撮像法の一種であることは,例えば,IDEALが提案された文献である Scott B. Reeder et al, Iterative decomposition of water and fat with echo asymmetry and least-squares estimation (IDEAL): application with fast spin-echo imaging, Magnetic Resonance in Medicine, 2005年9月, vol.54, no.3, pp.636-644 から明らかなように,技術常識である。 そして,上記イの「式1において,小さいαについて1次のテーラー展開を用いると,脂肪量の計算におけるαの項はキャンセルする。そして,式2,3になされた2つの定義は等しくなる。」ということは,cosα=1,sinα=αとみなせるほどαが小さいとき,η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))=M_(f)/(M_(w)+M_(f))=ηとなるから,信号強度からそのまま真の脂肪量が推定できることであるのは明らかである。 また,上記イの記載より,水信号の強度がS_(w),脂肪信号の強度がS_(f),水のプロトン密度がM_(w),脂肪のプロトン密度がM_(f)であることも明らかである。 また,引用文献1に記載された各種の計算を実行し脂肪の定量化を行う装置が存在することは,技術常識から明らかである。 カ 以上を総合すれば,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「ケミカルシフトMR撮像法を用い,水と脂肪の信号を分離し,肝臓中の脂肪の定量化を行う方法,及びその方法を実行する装置において, 水信号の強度S_(w),脂肪信号の強度S_(f),水のプロトン密度M_(w),脂肪のプロトン密度M_(f)としたとき,脂肪と水のT_(1)が相違することにより,信号強度から推定される脂肪量η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))は,真の脂肪量η=M_(f)/(M_(w)+M_(f))と異なるものの,低フリップアングルを用いることにより,η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))=M_(f)/(M_(w)+M_(f))=ηとなることを利用して信号強度からそのまま真の脂肪量を推定することを,健常なボランティアと,油/水ファントムで実行する方法,及びその方法を実行する装置。」 (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である引用文献2には,次の事項が記載されている。なお,引用文献2は英語で表記されているので,当審が仮訳した。また,後に引用発明の認定に直接的に利用する箇所に下線を付した。 ア 「Introduction」欄 「低SNR のスペクトロスコピーと分割された構造データの組み合わせは,分割された組織区画における脳の代謝評価に利用されてきた。高磁場でのB0及びB1不均一は,代謝の絶対値の定量化における課題となった。そして,異なるスキャン条件の患者間の比較を補償するため,代謝物の信号を,CrとPCR(Cr)の代謝物の信号の総計に対する比として表現するのが,一般的な技術である。我々は,区分的な解析における代謝物の絶対値の測定を比の測定に拡張し,7TにおいてX連鎖副腎白質ジストロフィーにおけるNAA+ NAAG(NAA')の変化の研究におけるその使用を説明する。」 イ 「Methods」欄 「我々は,代謝物質Mについて,ある特定のボクセルにおいて観測された代謝物質の比 r_(i) のための,式1に示すモデルを得た。我々は,各患者で包括的な量 M_(g) /Cr'_(g) と M_(w) /Cr'_(w) の最適な値を決めることを目指す。それは,灰白質と白質の代謝物質Mに対する寄与と,灰白質と白質の代謝物質 Cr' に対する寄与の比である。M_(g) /Cr'_(g) と M_(w)/Cr'_(w) は,式1による,あるボクセル中の特定の g_(i)'' と w_(i)'' における代謝物質の信号の比 r_(i) 値を示す。このモデルは参考文献[3]の式2から導かれる。y_(i) は測定された代謝物の信号,g_(i)とw_(i)は灰白質と白質の構造的な表現,n_(i) は加算的なノイズである。まず,Cr'_(g) とCr'_(w) は,被検体の各ボクセルからの代謝物の絶対値データ Cr' を用いて,r_(gw) = Cr'_(g) /Cr'_(w) を評価することにより得られる。この r_(gw) の評価は,次に,g_(i)'' と w_(i)'' を 決めるのに使われる。示された g_(i)'' と w_(i)'' により,M_(g) /Cr'_(g) と M_(w) /Cr'_(w) の最適な値を見つける手続は,g_(i) の代わりに g_(i)'',w_(i) の代わりに w_(i)''とされた式2の最適な M_(g) と M_(w) を見つけることと等価である。」 (「Methods」欄の1行目には「a particular voxel r_(i)」と記載されているが,同欄4行目に「the metabolite signal ratio r_(i)」と記載されているなど,他の記載からみて「r_(i)」が「a particular voxel」ではなく「the metabolite signal ratio」を指すのは明らかである。) ウ 式(1)及び(2) 「 」 エ 技術常識を勘案して以上の記載事項を総合すれば,引用文献2には次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「脳の代謝評価において, 灰白質と白質におけるクレアチンの信号Cr’_(g)とCr’_(w)が,被検体の各ボクセルからの代謝物の絶対値データCr’を用いて,比率r_(gw)=Cr’_(g)/Cr’_(w)を評価することにより得られ,次に,このr_(gw)の評価は,灰白質と白質の構造的な表現g_(i)”とw_(i)”を 決めるのに使われ,このg_(i)”とw_(i)”により,式y_(i)=g_(i)”M_(g)+w_(i)”M_(w)+n_(i)(但し,y_(i)は測定された代謝物の信号,M_(g)は灰白質における代謝物Mの信号,M_(w)は白質における代謝物の信号,n_(i)は加算的なノイズ)の最適なM_(g)とM_(w)を見つけ,M_(g)/Cr’_(g)とM_(w)/Cr’_(w)の最適な値を見つける方法。」 (3)引用文献3 原査定において周知例として提示された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である引用文献3には,次の事項が記載されている。 ア 2頁左下欄7?18行 「(体積選択の)陽子分光器において,例えば共鳴信号は対象物内に存在する比較的大きな量の水及び脂肪から測定され,いわゆるサテライト頂点は受信手段における非線形歪みによりスペクトル内に発生する:これは奇数次相互変調歪みとして明白になる。サテライト信号はスペクトル内に本例において水及び脂肪の両側に位置する頂点として現われる。スペクトルがサテライト信号と部分的又は全体的に一致する代謝物質(代謝状態の情報が得られる活発な対象物の成分)を含む場合,サテライト信号に関して比較的弱い代謝物質は,サテライト信号によりマスクされがちである。」 イ 2頁右下欄8?16行 「本発明の目的はスペクトルが発生され,広いダイナミックレンジで表示がなされうる磁気共鳴方法及び装置を提供することである。 これを達成するため,本発明による磁気共鳴方法はそれ自身実質的に線形伝送関数を示す受信手段により導入される歪みによる共鳴信号の非線形歪みは,非線形歪みに反作用する逆歪み関数によりサンプル共鳴信号を歪ませることにより補償されることを特徴とする。」 ウ 5頁左下欄18行?同頁右下欄14行 「第2図はrf部分30及びrf/lf部分31(例えばrf前置増幅器及び復調器)に分割された受信手段3の第1又は第2の実施例を系統的に示す。部分30及び31は両方とも非線形歪みを示す。rf部分において,高調波歪みは通常問題にならない。例えば,陽子周波数が略64MHzになる1.5Tシステムにおいて,3次高調波192MHzになり,これによりrf/lf部分31の受信帯外に実質的に位置する。しかし、相互作用積によって,不所望の信号は磁気共鳴信号の周波数帯に入り込む。受信手段3により歪んだ出力信号V_(0)(t)を形成するよう入力信号V_(i)(t)まで歪まされる。 V0(t)=A0 A1.Vi(t)+A2.Vi(t)^(2)+・・+An.Vi(t)^(n) ここで,A0,A1,・・Anは係数であり,nは整数である。」 エ 6頁左上欄10?12行 「スペクトル内の不所望のピークは代謝物質をマスクしうる。画像の場合において,画像人為構造は発生しやすい。」 オ 6頁左下欄13?17行 「受信手段3の伝送を示す係数A0,A1及びA3は,ファントムの伝送のように,前記に知られているスペクトル内の相互変調積を基として,又受信手段3の測定された伝達関数の多項式分析により決められる。」 カ 6頁右下欄13?14行 「第3B図は50%の水Wと50%の脂肪Vで満たされた箱形ファントムを示す。」 キ 7頁左上欄9行?右上欄15行 「ファントムがスピン共鳴(水及び脂肪)に敏感である第1及び第2の型の物質だけを含むので,歪みのないスペクトルは水ピーク及び脂肪ピークだけを示す。・・・スペクトルSにおいて,雑音のレベルを超えたピークS1及びS2が調べられる。・・・ファントムはA及びBがスペクトルSから決められるべき信号Vi(t)=A.cos(w1.t)+B.cos(w2.t)を供給する。・・・A1及びA3がスペクトルSから決められるべきである。・・・係数A0,A1及びA3は示された式を解くことにより決められる。」 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (ア) 引用発明1の「健常なボランティア」又は「油/水ファントム」は,本願発明1の「被検体」に相当する。 そして,引用発明1の「脂肪の定量化」は,本願発明1の「脂肪定量」に相当する。 よって,引用発明1の「脂肪の定量化を行う」「装置において」,「健常なボランティア」「で実行する」「装置」は,本願発明1の「被検体の脂肪定量を行う脂肪定量装置」に相当する。 (イ) 引用発明1の「水信号の強度S_(w),脂肪信号の強度S_(f),水のプロトン密度M_(w),脂肪のプロトン密度M_(f)としたとき,脂肪と水のT_(1)が相違することにより,信号強度から推定される脂肪量η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))は,真の脂肪量η=M_(f)/(M_(w)+M_(f))と異なるものの,低フリップアングルを用いることにより,η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))=M_(f)/(M_(w)+M_(f))=ηとなることを利用して信号強度からそのまま真の脂肪量を推定する」「装置」と, 本願発明1の「前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度と,脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる,前記脂肪信号の強度又は前記水信号の強度を補正する補正係数とを用いて,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪定量装置」とは, 「前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度と,を用いて,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪定量装置」である点で共通する。 (ウ) 引用発明1の「油/水ファントム」は,本願発明1の「基準ファントム」と同様に「脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている」ことは明らかであるものの,本願発明1の「被検体」に相当するものであるから,引用発明1の「装置」において,本願発明1の「基準」に相当する機能を発揮するものではない。 よって,引用発明1の「油/水ファントム」は,本願発明1の「基準ファントム」には相当しない。 (エ) 以上より,本願発明1と引用発明1とは,次の「一致点」で一致し,「相違点」で相違する。 「一致点」 「被検体の脂肪定量を行う脂肪定量装置であって, 前記被検体の脂肪信号の強度と,前記被検体の水信号の強度と,を用いて,前記被検体の脂肪の定量値を算出する脂肪定量装置。」 「相違点」 脂肪の定量値を算出するとき,本願発明1では「脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる,前記脂肪信号の強度又は前記水信号の強度を補正する補正係数」を用いる。 これに対し,引用発明1では,脂肪と水のT_(1)が相違することにより,信号強度から推定される脂肪量η_(s)=S_(f)/(S_(w)+S_(f))は,真の脂肪量η=M_(f)/(M_(w)+M_(f))と異なることが課題となっている。しかし,引用発明1は,この課題を,撮像時に低フリップアングルを用いることにより克服したものであり,撮像後の信号処理における補正,すなわち,本願発明1のように「脂肪プロトン及び水プロトンが所定の割合で含まれている基準ファントムを用いて与えられる,前記脂肪信号の強度又は前記水信号の強度を補正する補正係数」を用いて「前記被検体の脂肪の定量値を算出する」ことは行わない点。 イ 上記「相違点」について検討する。 (ア)原査定で示された拒絶の理由においては,引用発明1が縦緩和時間の違いを利用して得られた信号における脂肪と水の信号強度を用いて脂肪含有率の測定を行うものであると認定した上で,引用発明1と引用発明2とが,ともにT_(1)(すなわち,縦緩和時間)の異なる2つの物質の信号強度を比べて特定の物質の定量値を算出する技術で共通するので,引用発明1に引用発明2の比率r_(gw)=Cr’_(g)/Cr’_(w)のような補正係数による補正の方式を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるとしている。 a ここで,まず,引用発明1においては,信号の取得において水と脂肪のT_(1)の違いを利用するわけではないものの,水と脂肪とでT_(1)が異なるのは事実ではある。しかし,これに伴う不都合を,撮影時,すなわち信号取得時のフリップアングルを低くすることで克服しており,信号取得後,さらに補正を行おうとするものではない。 そして,引用発明2は,灰白質と白質のクレアチン信号の比を計算の過程で用いるものの,これは特段T_(1)の相違による誤差を補正するものではないし,また,脂肪量を算出する際の脂肪と水の信号の演算に関するものでもない。 したがって,引用発明1と引用発明2とは,演算対象となる信号源としての物質も,演算の態様も,前提とする条件も異なるから,引用発明2を引用発明1に適用したところで,具体的に引用発明2のどういう演算をどのように引用発明1に適用すれば良いのか明らかではない。 よって,引用発明1に引用発明2を適用することにより,引用発明1の脂肪信号の強度又は水信号の強度を補正係数により補正することを,当業者が容易に想到し得たということはできない。 b 次に,原査定においては,水と脂肪が1:1の割合で含まれるファントムは引用文献3に記載されているように周知であり,補正係数を引用発明2のような既知の値とするのか,上記周知のファントムから収集された信号によて得られる値とするのかは当業者が適宜選定し得た事項に過ぎないとしている。 しかし,引用発明2をもって引用発明1に補正係数による脂肪信号の強度又は水信号の強度を補正することが容易に想到し得たものでないことは,上記aのとおりであり,たとえファントムによる信号の実測が周知技術で あって,これを勘案したとしても,上記aの検討に影響を与えるものではない。 また,引用文献3に記載されているのは,概して,受信器の非線形歪み により生じる不所望な高調波を,水と脂肪のファントムにより見出し,受信器の非線形歪みに反作用する逆歪み関数によりサンプル共鳴信号を歪ませる技術であるから,生体信号自体の特性を補正することに関する引用発明1との関係は希薄である。また,たとえ引用文献3に水と脂肪からなるファントムが記載されていようとも,これは引用発明1のように水と脂肪の信号強度の関係を補正しようとするものではなく,この水及び脂肪という物質の観点からみても,引用発明1と引用文献3に記載された技術との関係は希薄である。 (イ)原査定では,2つ物質の縦緩和時間の相違の観点から引用発明1に引用発明2を適用しようとしたものであったが,その他の観点からみても,引用発明1に,引用文献3に記載されたような周知技術を勘案して引用発明2を適用することにより,上記相違点に係る本願発明1の構成を想到することを,当業者が容易になし得たとはいえない。 (ウ)以上より,本願発明1は,原査定の拒絶の理由に引用された引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。 (2)本願発明2?8について 本願発明2?8は,本願発明1を引用するので,本願発明1で特定される事項を全て含むものである。 したがって,上記(1)と同様,本願発明2?8は,原査定の拒絶の理由に引用された引用発明1及び引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)本願発明9について 本願発明9は,本願発明1の「脂肪定量装置」を「脂肪定量方法」としたものであって,そのカテゴリー以外,実質的に本願発明1と相違しない。 したがって,本願発明1と同様に本願発明9も,原査定の拒絶の理由に引用された引用発明1及び引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではない。 3 小括 上記(1)?(3)より,本願発明は,原査定の拒絶の理由に引用された引用発明1及び引用発明2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではないから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。 4 上記の引用文献1の他,本願発明に関連した先行技術は,例えばX. J. Zhou et al, Quantification of Liver Fat Content Using Selective Saturation at 3.0 T, Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 14, 2006年5月, #2301等にも記載されている。 しかし,上記文献を含め,本願発明を当業者が容易に想到し得たという証拠は見当たらない。 第5 むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものであるということはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2015-01-06 |
出願番号 | 特願2008-216052(P2008-216052) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A61B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 竹内 あや乃 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
右▲高▼ 孝幸 信田 昌男 |
発明の名称 | 脂肪定量装置、磁気共鳴イメージングシステム、および脂肪定量方法 |
代理人 | 伊藤 信和 |