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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C |
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管理番号 | 1295638 |
審判番号 | 不服2013-15566 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-08-09 |
確定日 | 2014-12-25 |
事件の表示 | 特願2008-179541号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年1月28日出願公開、特開2010-18123号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成20年7月9日の出願であって、平成25年5月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年8月9日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 その後、当審において、平成26年5月9日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、平成26年7月14日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年7月14日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「左右一対のビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されるビードフィラーと、一対の前記ビードコア間に配置されるカーカス層と、積層されてクロスプライ構造を構成する少なくとも一対のベルトプライを有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層とを備え、且つ、前記カーカス層がトレッド部センター領域にてタイヤ幅方向に分割されて分離された空気入りタイヤであって、 分割された前記カーカス層の各部分が前記ビードコアおよび前記ビードフィラーを包み込みつつ巻き返され、 前記カーカス層の各部分の分割端部および巻き上げ端部が、前記ベルト層よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、前記ベルト層に対してラップして配置され、 複数の前記ベルトプライの幅のうち最も狭いものをベルト幅Wbと呼ぶと共に、前記カーカス層の分割端部とベルト幅Wbとのラップ量ならびに前記カーカス層の巻き上げ端部とベルト幅Wbとのラップ量のうち大きい方を最大ラップ量Wcと呼ぶときに、分離された前記カーカス層の各部分の最大ラップ量Wc1、Wc2とベルト幅Wbとが0.50≦(Wc1+Wc2)/Wb≦0.90の関係を有し、 前記カーカス層の各部分の巻き上げ端部が前記分割端部よりもタイヤ幅方向外側にあり、且つ、 分割された前記カーカス層の各部分における分割端部と巻き上げ端部とのタイヤ幅方向の距離tが10[mm]≦tの範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。」 3.引用文献 これに対して、当審で通知した拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-191722号公報(以下「引用文献1」という。)、特開2008-37265号公報(以下「引用文献2」という。)及び特開2005-81873号公報(以下「引用文献3」という。)には、それぞれ以下の各事項が記載されている。 [引用文献1について] (1a)「【請求項1】 一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部を、少なくとも1層のベルトにて補強した空気入りタイヤであって、上記カーカスは、タイヤの赤道面を中心として隣接ベルト層幅の30?60%の領域にわたる、欠落部を有することを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項2】 請求項1において、ベルトは、タイヤの赤道面に対して傾斜して延びるスチールコードから成る1層の傾斜ベルト層および有機繊維コードをタイヤの周方向に巻回して成る周方向ベルト層を有することを特徴とする空気入りタイヤ。 【請求項3】 請求項2において、傾斜ベルト層のスチールコードのタイヤの赤道面に対する傾斜角度が30?40°であることを特徴とする空気入りタイヤ。 ・・・」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、タイヤとしての基本性能を損なうことなく軽量化を達成した空気入りタイヤに関する。 【0002】 【従来の技術】近年では、環境保護および省エネルギーの観点から、自動車の低燃費化が進められ、それに伴いタイヤの軽量化が強く求められている。この要請に応えるために、最近では、タイヤの分野においても、軽量化に対する種々の方策が試みられている。 【0003】すなわち、(a) トレッドのゴム厚の削減、(b) タイヤサイド部のゴム厚の削減、(c) ビードフィラーゴムの削減、(d) ベルトにおけるコード打ち込み数の低減、および(e) ベルト補強層の除去、などの手法が知られている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の(b) および(c) の手法は、タイヤの補強を司る部分の削減であるから、ケース強度の低下をまねく結果、操縦安定性を悪化することになる。同様に、上記(d) の手法は、タイヤのコーナリングパワーの低下をまねく結果、操縦安定性を悪化することになる。また、(a) および(e) 手法は、路面からの入力を増大させるために、特にロードノイズと呼ばれる種類のタイヤ騒音が発生し易くなる。 【0005】このように、各手法毎に問題を抱えているが、上記の各手法を組み合わせた場合にも、その軽量化の効果に限界があることも、大きな問題であった。とりわけ、乗用車用タイヤなどの小型タイヤにおいては、削減可能の要素が少なく、大幅な軽量化は困難であった。 【0006】そこで、この発明は、タイヤの諸性能、中でも操縦安定性および低騒音性を犠牲にすることなしに軽量化を実現した、空気入りタイヤを提供しようとするものである。 【0007】 【課題を解決するための手段】発明者らは、操縦安定性および低騒音性と軽量化とを両立するため、タイヤの基本的構造を見直したところ、軽量化とロードノイズ低減とを両立するためにはベルト下のカーカスを取り除くことが有効であり、その際、カーカスを取り除く部分を規制するのが他の性能の低下を抑制するのに有利であることを、それぞれ見出し、この発明を完成するに到った。」 (1c)「【0018】 【発明の実施の形態】図1に、この発明に従う乗用車用空気入りラジアルタイヤの断面を示し、図中1はビードコア、2はカーカス、3はベルト層3aおよび3bの少なくとも2層によるベルト、そして4はトレッドである。 【0019】カーカス2は、一対のビードコア1間に跨がってラジアル方向に配置した、例えば有機繊維コードによるプライの少なくとも1枚からなり、該カーカス2は、そのクラウン部に欠落部5を有することが、肝要である。すなわち、カーカス2のクラウン部を取り除いて、カーカス材を削減することによって、大幅な軽量化は勿論、ロードノイズ、特に250Hz 付近をピークとするロードノイズを低減することが可能になる。すなわち、250Hz 付近のロードノイズは、タイヤ内部の空洞共鳴に起因しているが、このメカニズムを詳細に解析したところ、カーカスのクラウン部に欠落部を設けることにより、タイヤ幅方向断面における振動モードを変更すれば、タイヤ内部の空洞共鳴を大幅に低減できることが明らかになったのである。 【0020】ここで、欠落部5は、そのタイヤ幅方向長さDが、タイヤ赤道面Oを中心とする、カーカス2と隣接するベルト層3aの最大幅Lの30?60%であることが、肝要である。なぜなら、欠落部5の長さDが30%未満では、カーカス材の削減による軽量化およびロードノイズ低減の効果が十分に得られず、一方60%をこえるとタイヤの空気圧を保持するカーカスとしての役割りに支障をきたし、タイヤの耐久性が低下するからである。 【0021】なお、カーカス2の欠落部5を設けた部分は、ベルトの半径方向内側に当り、その他のカーカス部分に比較して、張力の負担率が小さいため、ここに欠落部5を設けることによるタイヤ剛性の低下はほとんど無視できる程度である。 【0022】また、ベルト3は、図1に示す例で、タイヤの赤道面Oに対して傾斜して延びるスチールコードから成る傾斜ベルト層3aおよび有機繊維コードをタイヤの周方向に巻回して成る周方向ベルト層3bの2層構造に成る。このベルト構造は、在来のスチールコードによる傾斜ベルト層の2層構造または該2層に補強層を付加した構造に比較して、スチールコードによる傾斜ベルト層の層数が減少されるから、軽量化に有効に寄与する。」 (1d)「【0026】次に、タイヤには、タイヤの幅が内圧充填時に減少するケース形状を与えることが、ベルト張力およびタイヤサイド部の張力を高めてロードノイズを低減するのに有利である。具体的には、タイヤ外形、とりわけサイド部の曲率を小さくすることによって、タイヤに空気を充填した際のベルト張力負担を大きくかつサイド部の張力負担を小さくする、張力負担分布を与える。すると、ベルト張力およびタイヤサイド部の張力を高めることができ、路面からの入力が低減される結果、ロードノイズが低減されるのである。 【0027】また、タイヤのビード部に配置するビードフィラー、すなわち図1および図2に示した例ではビードコア1の径方向外側に配置したビードフィラー6について、そのタイヤ径方向長さhを50mm以上とすることが、操縦安定性の向上に有利である。すなわち、ビードフィラー6の長さhを50mm以上、つまりタイヤ断面高さの45%以上とすると、タイヤの縦ばねはほぼ同等のまま、ねじり剛性のみを効果的に高めることができる。従って、乗り心地性を維持したまま、操縦安定性の向上が達成される。 【0028】さらに、図2並びに図3に示すように、ビード部の主にビードフィラー6のタイヤ幅方向外側部分に沿って、有機繊維コードをタイヤの回転軸を中心とした円周に沿って巻回して成るビード部補強層7を配置することが、操縦安定性の向上に有利である。すなわち、ビード部補強層7を設けると、タイヤビード部の倒れ込みが抑えられて、横剛性が高くなるため、操縦安定性が向上されるのである。 【0029】なお、ビード部補強層7を構成する有機繊維コードとしては、芳香族ポリアミドコードとナイロンコードとを撚り合わせた、いわゆるハイブリッドコードを用いると、芳香族ポリアミドコードが剛性を確保する一方、ナイロンコードが伸びを確保するため、かようなコードの適用が推奨される。 【0030】以上の図1ないし図3に示したタイヤは、カーカスプライをビードコア1のまわりでタイヤの内側から外側に巻き回して折り返し部をタイヤ径方向外側に延ばした、ビード部構造を有する事例であるが、図4に示すように、カーカスプライの各端部がビード部の厚み中心付近にてビード部中に固定されて成る、ビード部構造を採用することによって、さらにカーカスプライの削減をはかり軽量化することも可能である。」 (1e)「【0034】 【実施例】図1ないし図4に示した構造に従って、表1に示す種々の仕様の下に、サイズが175 /70R14の乗用車用ラジアルタイヤをそれぞれ試作した。なお、ベルト3の傾斜ベルト層3aの打ち込み数は30本/50mmおよび同周方向ベルト層3bの打ち込み数は40本/50mmとした。また、図6に示すタイヤ、すなわち欠落部のない連続したカーカスを有する従来タイヤについても、同様のサイズにて試作した。 【0035】かくして得られた各タイヤについて、タイヤ重量、転がり抵抗係数(RRC)、乗り心地性、操縦安定性およびロードノイズの各試験に供した。その測定および試験結果を表1に併記する。 【0036】ここで、タイヤ重量は、各タイヤの重量を比較例の重量を100 としたときの指数で示し、この指数が小さいほど軽量である。 【0037】転がり抵抗係数(RRC)は、転がり抵抗を測定し、その測定値を負荷荷重で除することによって求め、比較例の結果を100 としたときの指数で示し、この指数が小さいほど優れている。 【0038】乗り心地性試験、操縦安定性およびロードノイズは、供試タイヤを実車に装着し、テストドライバーが所定のコース上を走行させた際の、フィーリングによって評価した。その評点を比較例の結果を100 としたときの指数で示し、この指数が大きいほど優れている。」 (1f)「【0040】 【発明の効果】この発明によれば、操縦安定性や低騒音性などのタイヤの諸性能を犠牲にすることなしに軽量化を実現できる。」 (1g)図1 上記図1には、ベルト3はカーカス2のタイヤ径方向外側に配置されること及び、カーカスに隣接ベルト層である傾斜ベルト層3aは周方向ベルト層3bより幅が狭いことが記載されている。 ビード部は、ビードコア1と、該ビードコア1のタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されるビードフィラー6からなることが記載されている。 以上の記載によると、引用文献1には、 「一対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部を、カーカスのタイヤ径方向外側に配置されたベルトにて補強した空気入りタイヤであって、上記カーカスは、タイヤの赤道面を中心として隣接ベルト層幅の30?60%の領域にわたる、欠落部を有する空気入りタイヤであって、 上記ベルトは、タイヤの赤道面に対して傾斜して延びるスチールコードから成る1層の傾斜ベルト層および有機繊維コードをタイヤの周方向に巻回して成る周方向ベルト層を有し、カーカスに隣接ベルト層である傾斜ベルト層は周方向ベルト層より幅が狭く、 ビード部は、ビードコア1と、該ビードコアのタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されるビードフィラーからなり、 カーカスをビードコアのまわりでタイヤの内側から外側に巻き回して折り返し部をタイヤ径方向外側に延ばした、ビード部構造を有する空気入りタイヤ。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用文献2について] (2a)「【技術分野】 【0001】 この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤの軽量化を実現しつつタイヤの操安性能(操縦安定性能)および乗心地性能を両立できる空気入りタイヤに関する。 【背景技術】 【0002】 近年の空気入りタイヤでは、タイヤの軽量化を図る観点から、クラウン部に中抜き部を有するカーカス層が採用されている(分割カーカス構造)。かかる構成では、カーカス層がタイヤ幅方向に二分割されることにより、センタークラウン部(ベルト層のタイヤ幅方向内側の所定範囲)にカーカス層の中抜き部が形成される。これにより、サイドウォール部の剛性が維持されつつタイヤ重量が軽減される。」 (2b)「【0020】 この空気入りタイヤでは、カーカスコードの傾斜角度φo、φiが適正化されることにより、タイヤ左右のサイドウォール部の剛性差がより好適に適正化される。これにより、タイヤの操安性能と乗心地性能とがより適正に両立される利点がある。 【0021】 また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記外側カーカス層および前記外側補強プライが各々のカーカスコードの繊維方向を相互に交差させて積層される。 【0022】 この空気入りタイヤでは、サイドウォール部の剛性がより効果的に補強されて、タイヤの操安性能が向上する利点がある。 【0023】 また、この発明にかかる空気入りタイヤは、前記カーカス層の分割幅Dと前記ベルト層の最大幅BWとが0.30≦D/BW≦0.90の関係を有する。 【0024】 この空気入りタイヤでは、カーカス層の分割幅Dとベルト層の最大幅BWとの比D/BWが適正化されているので、タイヤの乗心地性能および耐久性能が向上する利点がある。 【0025】 また、この発明にかかる空気入りタイヤは、非対称トレッドパターンを有する。 【0026】 この空気入りタイヤは、非対称トレッドパターンを有するタイヤに適用される。かかる構成では、非対称トレッドパターンとの組み合わせにより、装着内側および外側のカーカス層の役割が相乗的に高められる。これにより、操安性能と乗心地性能がより高いレベルで両立されるという利点がある。」 (2c)「【0060】 また、この空気入りタイヤ1では、外側カーカス層41および内側カーカス層42がビードコア2およびビードフィラー3を包み込んでそれぞれ巻き上げられると共に、少なくとも外側カーカス層41の巻き上げ部が車幅方向外側のサイドウォール部に延在し、且つ、外側カーカス層41の巻き上げ高さTUH1が内側カーカス層42の巻き上げ高さTUH2よりも大きいことが好ましい(図8参照)。すなわち、外側カーカス層41と内側カーカス層42との巻き上げ高さTUH1、TUH2の相異により、タイヤ左右のサイドウォール部に剛性差が形成される。」 (2d)図8 上記図8には、外側カーカス層41の巻き上げ部412の端部をベルト層5に対してラップする位置まで延ばし、ベルト層5よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、ベルト層5に対してラップして配置させことが記載されている。 以上の記載によると、引用文献2には、 「分割カーカス構造を有する空気入りタイヤにおいて、車幅方向外側のサイドウォールの剛性を高めるために、外側カーカス層の巻き上げ部の端部をベルト層に対してラップする位置まで延ばし、ベルト層よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、ベルト層に対してラップして配置させる」技術的事項が記載されているものと認められる。 [引用文献3について] (3a)「【0001】 本発明は、カーカスプライを左右一対の分割プライ片によって中抜き状に形成したタイヤにおいて、中抜き部分での損傷を防止した空気入りラジアルタイヤに関する。」 (3b)「【0019】 又本例では、前記分割プライ片10Pの折返し部10Pbがトレッド部2まで巻き上げられ、その他端E2も前記ベルトプライ7A、7B間で狭持されて終端する場合を例示している。係る場合には、一端E1、他端E2が拘束されるため、タイヤサイド剛性がより高まるなど、操縦安定性のいっそうの向上が達成される。このとき、巾狭のベルトプライの外端から前記他端E2までのタイヤ軸方向距離(狭持巾K2)も、前記狭持巾K1と同様1.0mm以上とするのが好ましく、又前記一端E1と他端E2とを、タイヤ軸方向の内外に1.0mm以上の距離L0を隔てて位置ズレせしめ、剛性段差を軽減させるのが好ましい。なお位置ズレとしては、前記他端E2を一端E1よりもタイヤ軸方向外側に位置させるのが好ましい。しかし、図2(A)に略示する如く、タイヤ軸方向内側に位置させることもでき、係る場合には、前記他端E2、E2間の距離W2は、前記中抜き巾W1と同様、トレッド巾TWの30%以上に設定するのが好ましい。」 (3c)「【0026】 次に図5に、第2実施形態のタイヤ1を例示する。 この第2実施形態では、カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して70?90度の角度で配列した1枚のカーカスプライ6Cからなり、このカーカスプライ6Cは、前記一対の分割プライ片10Pからなる中抜きカーカスプライ10で形成される。 【0027】 そしてこの中抜きカーカスプライ10は、その一端E1及び他端E2が、何れもベルトプライ7A、7B間で狭持されることにより、中抜き部分gに起因する一端E1及び他端E2からの剥離損傷を確実に抑制でき、しかも優れた乗り心地性および操縦安定性を両立して確保しうる。 【0028】 なお第1実施形態の場合と同様、前記中抜き巾W1は、トレッド巾TWの30%以上とするのが好ましく、又前記狭持巾K1は、1.0mm以上、さらには、10.0mm以上、さらには20.0mm以上とするのが好ましい。又前記狭持巾K2を1.0mm以上とするとともに、前記一端E1と他端E2とを、タイヤ軸方向に前記距離L0で位置ズレさせるのが好ましい。このとき、もし他端E2が一端E1よりもタイヤ軸方向内側に位置ズレする場合には、他端E2、E2間の距離をトレッド巾TWの30%以上とするのが望ましい。」 (3d)図5 上記図5には、外側カーカス層41の巻き上げ部412の端部をベルト層5に対してラップする位置まで延ばし、ベルト層5よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、ベルト層5に対してラップして配置させことが記載されている。 以上の記載によると、引用文献3には、 「一対の分割プライからなる、中抜きカーカスプライを有する空気入りタイヤにおいて、前記分割プライ片の折返し部がトレッド部まで巻き上げられ、その他端E2もベルトプライ間で狭持されて終端し、カーカスプライの一端E1が、カーカスプライの巻き上げられた他端E2よりもタイヤ軸方向外側に位置ズレさせて剛性段差を軽減させる」技術的事項が記載されているものと認められる。 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、 引用発明の「ビードコア」、「ビードフィラー」、「カーカス」、「トレッド」及び「空気入りタイヤ」は、それぞれ本願発明の「ビードコア」、「ビードフィラー」、「カーカス層」、「トレッド部」及び「空気入りタイヤ」に相当し、 引用発明の「傾斜ベルト層」及び「周方向ベルト層」は、それぞれ本願発明の「少なくとも一対のベルトプライ」に相当し、本願発明でいう「積層されてクロスプライ構造」を構成し、それらを有する「ベルト」は、本願発明の「ベルト層」に相当する。 引用発明において、ベルトが「カーカスのタイヤ径方向外側に配置され」、「カーカスは、タイヤの赤道面を中心として隣接ベルト層幅の30?60%の領域にわたる、欠落部を有する」ことは、本願発明の「カーカス層がトレッド部センター領域にてタイヤ幅方向に分割されて分離され」、「カーカス層の各部分の分割端部が、ベルト層よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、前記ベルト層に対してラップして配置される」ていることを意味する。 引用発明の「カーカスをビードコアのまわりでタイヤの内側から外側に巻き回して折り返し部をタイヤ径方向外側に延ばした」ことは、本願発明の「分割された前記カーカス層の各部分が前記ビードコアおよびビードフィラーを包み込みつつ巻き返され」ることに相当する。 よって、両者は次の点で一致している。 「左右一対のビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されるビードフィラーと、一対の前記ビードコア間に配置されるカーカス層と、積層されてクロスプライ構造を構成する少なくとも一対のベルトプライを有すると共に前記カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層とを備え、且つ、前記カーカス層がトレッド部センター領域にてタイヤ幅方向に分割されて分離された空気入りタイヤであって、 分割された前記カーカス層の各部分が前記ビードコアおよび前記ビードフィラーを包み込みつつ巻き返され、前記カーカス層の各部分の分割端部が、前記ベルト層よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、前記ベルト層に対してラップして配置される、空気入りタイヤ。」 そして、両者は次の各点で相違している。 相違点1;本願発明では、カーカス層の各部分の巻き上げ端部が、ベルト層よりもタイヤ径方向内側に位置することにより、ベルト層に対してラップして配置され、その巻き上げ端部が分割端部よりもタイヤ幅方向外側にあり、且つ、分割された前記カーカス層の各部分における分割端部と巻き上げ端部とのタイヤ幅方向の距離tが10[mm]≦tの範囲にあるのに対し、引用発明では、カーカスをビードコア1のまわりでタイヤの内側から外側に巻き回して折り返し部をタイヤ径方向外側に延ばした、ビード部構造を有するものの、その折り返し部の端部は、ベルトに対してラップして配置されることの特定がない点。 相違点2;本願発明では、複数のベルトプライの幅のうち最も狭いものをベルト幅Wbと呼び、カーカス層の分割端部とベルト幅Wbとのラップ量ならびにカーカス層の巻き上げ端部とベルト幅Wbとのラップ量のうち大きい方を最大ラップ量Wcと呼ぶときに、分離されたカーカス層の各部分の最大ラップ量Wc1、Wc2とベルト幅Wbとが0.50≦(Wc1+Wc2)/Wb≦0.90の関係を有するのに対し、引用発明では、カーカスは、タイヤの赤道面を中心として隣接ベルト層幅の30?60%の領域にわたる、欠落部を有する点。 5.判断 上記各相違点について検討する。 ・相違点1について 引用文献2及び3には、分割カーカス構造を有する空気入りタイヤにおいて、サイドウォールの剛性を高める等のために、カーカス層の巻き上げ部の端部をベルト層に対してラップする位置まで延ばして配置させる構成が記載されている。 また、引用文献1には、操縦安定性および低騒音性と軽量化とを両立する課題が記載され、サイドウォールの剛性を高めると操縦安定性が向上することはタイヤの技術分野において周知の事項であることから、引用発明において、カーカスの折り返し部の端部をベルトに対してラップする位置まで延ばして配置し、操縦安定性を重視した設計となすことは、当業者が容易になし得るものと認められる。 また、引用文献3には、カーカスプライの一端E1が、カーカスプライの巻き上げられた他端E2よりもタイヤ軸方向外側に位置ズレさせて剛性段差を軽減させることが記載されている。 そして、引用発明においても、上記のようにカーカスの折り返し部の端部をベルトに対してラップする位置まで延ばして配置させた場合には、同様に剛性段差を軽減した方が好ましいことは、当業者が容易に想到し得る事項であり、また、上記位置ズレさせる距離は、10mm以上となすことも、剛性段差の軽減度合い等を考慮して、設計上適宜になす程度のことと認められる。 さらに、引用文献3の図5に示されたものは、カーカス層の各端部をベルト層間に配置するものではあるが、引用文献2に記載されているようにベルト層よりタイヤ径方向内側に位置させることにも格別な困難性は認められない。 そして、請求人は、平成26年7月14日付け意見書において、本願発明は、「カーカス層の各部分の巻き上げ端部が分割端部よりもタイヤ幅方向外側にある」構成により、カーカス層の巻き上げ端部が、カーカス層の本体部とベルト層との間に挟み込まれて配置され、タイヤ内周面に現れるカーカス層の端部の数が低減し、カーカス層の端部を起点としたタイヤ故障を低減できるという有利な効果がある旨の主張をしているが(第2頁24?34行)、タイヤ面に現れるベルト層の端部の数を低減し、端部を起点としたタイヤ故障を低減することは、周知の事項であり(例えば、特開平2-128903号公報の第2頁左下欄16行?同右下欄4行参照)、カーカス層についても同様な効果を奏し得ることは、当業者が容易に想到し得る事項である。 よって、引用発明において、引用文献2及び3に記載された構成を採用し、上記相異点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 ・相違点2について 引用発明は、「カーカスに隣接ベルト層である傾斜ベルト層3aは周方向ベルト層3bより幅が狭」いことから、隣接ベルト層が、本願発明の「複数のベルトプライの幅のうち最も狭いもの」といえ、また、「カーカスは、タイヤの赤道面を中心として隣接ベルト層幅の30?60%の領域にわたる、欠落部を有し」ていることから、本願発明の「(Wc1+Wc2)/Wb」に相当する数値は、0.4?0.7となり、本願発明とは0.5?0.7の範囲で重なりを有するものである。 そして、引用発明における上記欠落部の領域は、そのカーカスの分割幅と、分離されたカーカス層とベルトとのラップ量は、カーカス材の削減による軽量化及びタイヤの耐久性を考慮して定められている(記載事項(1c)参照)ものであって、上記相違点1において検討したように、カーカスの折り返し部の端部をベルトに対してラップする位置まで延ばして配置したものにおいても、同様のことを考慮し、欠落部を形成することなるラップ量の大きい方の端部間を上記重なりの範囲内となすことは、当業者が容易になし得たことといえる。 また、本願明細書においては、本願発明の実施例として、(Wc1+Wc2)/Wb=0.79の例が記載されているのみであり、その上限値、下限値には格別顕著な作用効果を奏するような臨界的意義は認められない。 よって、引用発明において、上記相異点2の本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、本願発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められる。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-22 |
結審通知日 | 2014-10-28 |
審決日 | 2014-11-10 |
出願番号 | 特願2008-179541(P2008-179541) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B60C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷井 雅昭 |
特許庁審判長 |
大熊 雄治 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 鳥居 稔 |
発明の名称 | 空気入りタイヤ |
代理人 | 高村 順 |
代理人 | 酒井 宏明 |