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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1295640
審判番号 不服2013-17986  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-18 
確定日 2014-12-25 
事件の表示 特願2010-228431「アレルギーの発現に対する抑制対策がされたキトサン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開,特開2011- 17724〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年11月24日(優先権主張 平成16年11月25日)に出願した特願2005-339176号の一部を平成22年10月8日に新たな特許出願としたものであって,平成25年1月17日付けで拒絶理由が通知され,同年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年6月11日付で拒絶査定がされたのに対し,同年9月18日に拒絶査定不服の審判請求がなされ,それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
平成25年9月18日付けでなされた補正は,請求項1について,補正前の「・・・含有量を測定することが利用されて、・・・含有量が100ppm以下に制限されている」を「・・・含有量を測定することが利用されて、・・・含有量が100ppm以下に制限されていることが確認されている」(下線は補正箇所を示す)とする補正であり,これは,含有量を測定することによりその含有量を制限するのではなく,含有量を測定することによりその含有量を確認することを明りょうにしたものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
してみれば,本願請求項1?7に係る発明は,上記平成25年9月18日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。
「キトサンを有機酸の水溶液に溶解した状態で、イムノアッセイ方法でキトサン中のトロポミオシンの含有量を測定することが利用されて、キトサン中のトロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されていることが確認されていることを特徴とするアレルギーの発現に対する抑制対策がされたキトサン。」(以下「本願発明」という。)

第3 引用刊行物及びその記載事項
(1)優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平1-167301号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(1-ア)
「〔産業上の利用分野〕
本発明はキチン,キトサン類の精製法に関し、更に詳述すると、キチン,キトサン類の繊維マトリックス中に含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去し得る精製法に関する。
〔従来の技術及び発明が解決しようとする問題点〕
キチン質は、従来、工業的には甲殻類の甲殻を希塩酸で処理して無機塩を除去した後、水不溶の懸濁状態で熱希水酸化ナトリウムで処理してたんぱく質等の夾雑物を除去する方法により製造されている。また、キチン質の精製法としては、たんぱく質分解酵素を用いてたんぱく質を除去する方法が提案されている(池田,島原;農化52,1978)。
しかし、上述した水酸化ナトリウムやたんぱく質分解酵素を用いた従来のキチン質からのたんぱく質除去法は、キチン質を水不溶性のまま懸濁状態で処理を行なうため、キチン質内部のマトリックス中に取り込まれているたんぱく質を完全に除去することができず、十分な精製を行なうことができないものであった。
一方、キトサン質は上記方法で得られたキチン質を水不溶の懸濁状態で濃アルカリ処理により脱アセチル化したものであり、従ってなお多くのたんぱく質が除去されずに内部のマトリックス中に取り込まれており、このためキチン質と同様に水不溶性の懸濁状態で除たんぱく処理を行なうだけではたんぱく質を十分に除去することはできなかった。
この場合、これまでに報告されているキチン,キトサン類中のたんぱく質量は、水不溶の状態で濃アルカリ処理することにより抽出された洗液中のたんぱく質を測定していたにすぎず、キチン,キトサンマトリックス中に強固に閉じ込められて容易に離脱してこないたんぱく質は測定されていない。しかし、本発明者らの知見によれば、キチン,キトサン類には強固に結合した繊維マトリックス中にたんぱく質が10?20%程度含まれているものであり、従ってこれまでの測定値は実際のたんぱく質量より10?20%程度低いものであるが、キチン,キトサン類を医薬、試薬、化粧品、食品等の分野で用いるには、上記マトリックス中に存在するたんぱく質を分離除去し、不純たんぱく質に由来するキチン,キトサン含有製品の着色、異臭、沈殿物の発生等の品質劣化を防止することが重要である。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、キチン,キトサン類の繊維マトリックス中に含まれるたんぱく質をも確実に分離し得、キチン,キトサン類からほぼ完全にたんぱく質を除去することが可能な新規精製法を提供することを目的とする。」(1頁左欄11行?2頁右上欄2行)

(1-イ)
「本発明によれば、キチン,キトサン類を水溶性化し、この水溶性キチン,キトサン類を水系溶媒中に均一に溶解することにより内部マトリックス中に閉じ込められていた不純たんぱく質を表面に露出させると共に、この均一溶液系でキチン,キトサン類にたんぱく質分解酵素又はキチン,キトサン類分解酵素を作用させることにより、キチン,キトサン繊維マトリックス中に取り込まれているたんぱく質をもほぼ完全に分離,除去し得る。この場合、本発明において、たんぱく質分解酵素を用いたときは、キチン,キトサン類に含まれるたんぱく質が分解、除去され、キチン,キトサン類分解酵素を用いたときはキチン,キトサン類との結合性たんぱく質が効果的に分離、除去されるものである。」(2頁右上欄8行?左下欄2行)

(1-ウ)
「本発明によれば、上記反応によって生じた低分子ペプタイド、アミノ酸、キチン,キトサン類の結合性たんぱく質、酵素たんぱく質等を透析、限外濾過等の適宜手段で分離除去することにより、精製キチン,キトサン類を採取することができる。
〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明は、キチン,キトサン類に不純物として含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去することができるものである。従って、本発明によれば、不純たんぱく質に起因する経時的保存における沈殿物の生成、着色、微生物の資化による異臭の発生等の品質劣化が生じにくく、医薬品、食品、雑貨品等の種々の分野で有効に使用し得る精製度の高いキチン,キトサン類を得ることができる。」(5頁左下欄14行?右下欄8行)

上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「キチン,キトサン類を水溶性化し,この水溶性キチン,キトサン類を水系溶媒中に均一に溶解することにより内部マトリックス中に閉じ込められていた不純たんぱく質を表面に露出させると共に,この均一溶液系でキチン,キトサン類にたんぱく質分解酵素又はキチン,キトサン類分解酵素を作用させることにより,キチン,キトサン繊維マトリックス中に取り込まれているたんぱく質をもほぼ完全に分離,除去したキチン,キトサン類であって,
上記分解酵素との反応によって生じた低分子ペプタイド,アミノ酸,キチン,キトサン類の結合性たんぱく質,酵素たんぱく質等を透析,限外濾過等の適宜手段で分離除去し,不純物として含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去したキチン,キトサン類。」(以下「引用発明」という。)

(2)優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「嶋倉 他3名,“甲殻類エキスのアレルゲン性とその低アレルゲン化”,2002(平成14)年度日本水産学会大会(日本農学大会水産部会)講演要旨集,2002年3月30日発行,第161頁,902」(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
「【目的】食物アレルギー対策検討委員会により,甲殼類は日本人のアレルギー原因食物として重要な位置を占めることが報告されている。甲殼類の主要アレルゲンはトロポミオシン(Tm)であるが,エキス製品ではTmの分解,除去などにより低アレルゲン化が期待できる。そこで本研究では,既存の甲殻類エキスのアレルゲン性を調べるとともに,甲殻類煮熟液について酵素処理による低アレルゲン化を試みた。
【方法】加工品製造に用いられるカニエキス2種類,エビエキス4種類,ズワイガニ,ケガニ,イセエビおよびサクラエビの煮熟液を試料とした。これらを酵素(トリプシン,キモトリプシン,プロテアーゼP)によって処理し,処理前後のアレルゲン性をELISA,阻害ELISA,およびイムノブロッティングにより比較した。アレルゲン性の検討には,4名の甲殼類アレルギー患者血清を用いた。
【結果】6種のエキス中5種にアレルゲン性が認められ,そのうち4種はELISA陽性,阻害ELISA陽性でイムノブロッティングによりTmが検出された。残り1種はELISA陰性でTmは検出されなかったが,阻害ELISAは陽性であった。4種の甲殼類煮熟液およびアレルゲン性が確認されたエキスを酵素処理すると,いずれの酵素の場合にもアレルゲン性は著しく低下し,酵素がTmのIgE結合エピトープを効果的に切断するものと考えられた。以上の検討から,甲殼類エキス製造における酵素処理工程の導入により,低アレルゲン化エキスを創出できることがわかった。」(全文)

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「キトサン類」は,本願発明の「キトサン」に相当する。
(2)トロポミオシンはたんぱく質の一種であることから,引用発明の「たんぱく質をほぼ完全に除去したキチン,キトサン類」と,本願発明の「キトサン中のトロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されている」「キトサン」とは,「キトサン中のたんぱく質の含有量が少ない」「キトサン」という点で共通するものである。

してみれば,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「キトサン中のたんぱく質の含有量が少ないキトサン。」
の点で一致し,以下の点で一応相違する。

(相違点1)
たんぱく質及びその含有量が、本願発明では,「トロポミオシン」であり,その含有量が,「キトサンを有機酸の水溶液に溶解した状態で、イムノアッセイ方法でキトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」を「利用」して「確認」された「100ppm以下」であるのに対し,引用発明では,たんぱく質全体であり,トロポミオシンの含有量が不明である点。

(相違点2)
キトサンが,本願発明では「アレルギーの発現に対する抑制対策がされた」ものであるに対して,引用発明ではそのようなものであるのか不明である点。

2 当審の判断
(1)判断1
ア 上記相違点1について検討するに,引用発明は,摘記(1-ア)に記載されている技術課題を解決するために,たんぱく質分解酵素又はキチン,キトサン類分解酵素酵素を作用させ,低分子ペプタイド,アミノ酸,キチン,キトサン類の結合性たんぱく質,酵素たんぱく質等の全てのたんぱく質をほぼ完全に除去したものである。
トロポミオシンもたんぱく質の一種であるから,引用発明を実施すれば,引用発明の「たんぱく質分解酵素」「キトサン類の結合性たんぱく質,酵素たんぱく質等を透析,限外濾過等の適宜手段で分離除去」により,トロポミオシンを含め「たんぱく質をほぼ完全に除去し」得るものといえる。
特に,トロポミオシンがたんぱく質分解酵素で分解できないという技術常識はなく,たんぱく質分解酵素を作用させれば,分解され,さらに,限外濾過等の手段を組合わせれば,トロポミオシンを含む様々なたんぱく質の断片も除去でき,引用発明のキトサンのトロポミオンの含有量を「キトサンを有機酸の水溶液に溶解した状態で、イムノアッセイ方法でキトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」を「利用」して「確認」した時に,それが「100ppm以下」であるものと同等物が得られることは明らかである。

イ 相違点2について検討するに,本願発明でいう「アレルギーの発現に対する抑制対策」とは,本願明細書の
「【0007】
キトサン中のタンパク質の量、特にアレルギー性のタンパク質の量またはそのタンパク質の一部であるペプチド断片(以下、そのペプチドと略す)もしくはそのタンパク質を構成するアミノ酸残基の量を測定することは困難である状況の中で、アレルギー発現に関係する可能性のあるタンパク質およびそのペプチドの含有量を測定し、それらの含有量をアレルギーを引き起こす可能性の指標として用い、市場に出すキトサンを評価することは、前記含有量がアレルギーの強さとまったく相関しない、あるいは殆ど相関しないとしても有意義なことであり、また、前記含有量の低いキトサンを製造し、前記含有量を評価したキトサンを市場に出すことは重要なことである。」(下線は当審において付与した。)
との記載に照らし、アレルギー性のタンパク質またはそのタンパク質の一部であるペプチド断片がキトサンに含まれないように対策を講じたことをいうものと理解される。
他方,引用発明は,摘記(1-ア)に記載されているとおり「不純たんぱく質に由来するキチン,キトサン含有製品の着色、異臭、沈殿物の発生等の品質劣化を防止する」ことを目的とし,「不純物として含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去したキチン,キトサン類」であって,アレルギーの発現に対する抑制対策として,不純物として含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去したものではないが,アレルギー性のたんぱく質を含めて,たんぱく質を除去する対策がなされているのであるから,アレルギーの発現が起きないことは明らかである。
そうすると,引用発明の「キチン,キトサン類」には,アレルギーの発現が起きないという作用が必然的に具備されているものといえ,キトサンに施された対策として,両発明は区別できないから,相違点2は,実質的に相違点とはいえない。

ウ 上記ア及びイで述べたように,上記相違点1及び2は,本願発明の「キトサン」と引用発明の「キトサン類」との実質的な相違点とはならない。してみれば,本願発明は,引用発明といえることから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

(2)判断2
ア 相違点1について,引用発明のキトサン類は全てのたんぱく質をほぼ完全に除去したものであるものの,それを「キトサンを有機酸の水溶液に溶解した状態で、イムノアッセイ方法でキトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」を「利用」して「確認」したとき,トロポミオシンの含有量が100ppm以下ではないとしても,以下のとおり判断される。
引用例2には,キトサン中のトロポミオシンがアレルゲンとなるため,それを酵素処理により低減させることが記載されている。一方,引用発明のキトサン類は,摘記(1-ア)及び(1-ウ)に記載されているとおり医薬品,化粧品,食品等にも用いられるものであり,当然アレルゲンが存在しない方が望ましいものであるから,アレルゲンとなるトロポミオシンの含有量が少なければ少ない方がいいことは明らかである。
引用発明は,引用例2と同様に酵素を作用させ,全てのたんぱく質をほぼ完全に除去したものであることに鑑みるに,引用発明において,アレルゲンとなるトロポミオシンの含有量を限りなく少なくすることで,トロポミオシンの含有量を「キトサンを有機酸の水溶液に溶解した状態で、イムノアッセイ方法でキトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」を「利用」して「確認」したときに「100ppm以下」となったものと同等物を得ることは,当業者にとって困難なことではない。

イ 相違点2については,トロポミオシンがアレルゲンであることが引用例2に記載されているから,引用発明において,引用発明の「不純物として含まれるたんぱく質をほぼ完全に除去」することを,アレルギーの発現に対する抑制対策として認識し,相違点2に記載の本願発明の特定事項のごとくすることは,当業者が,何の創作性もなくなし得ることである。

ウ 上記ア及びイで述べたように,上記相違点1及び2は当業者が容易になし得たものであり,本願発明の「本発明は、また、該アレルギー反応の可能性が著しく低いかまたはないと評価されたキトサンを提供することができる。」(本願明細書の【発明の効果】【0017】参照)との効果も,引用例1又は引用例2に記載されている事項に鑑みて,格別顕著なことではない。
したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,
「本願発明の技術的特徴は、『キトサン中のトロポミオシンの含有量が100ppm以下に制限されていることが確認された、すなわち、客観的にアレルギーを引き起こす可能性が著しく低いか、或いはないと評価されたキトサンの提供を可能にしたこと』であるのに対し、後述します通り、従来技術には、「キトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」すらも開示されておらず、本願発明の顕著な効果を得ることができないことは明らかです。」と主張する。
しかしながら,従来技術には,「キトサン中のトロポミオシンの含有量を測定すること」が開示されておらず,引用発明が該測定方法で測定していないとしても,引用発明において,不純物として含まれるたんぱく質の除去という目的に沿って,該除去を徹底すれば,本願発明と同等物を得ることはできるのであるから,請求人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,あるいは,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-10-24 
結審通知日 2014-10-28 
審決日 2014-11-12 
出願番号 特願2010-228431(P2010-228431)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 健介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
郡山 順
発明の名称 アレルギーの発現に対する抑制対策がされたキトサン  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  
代理人 山田 龍也  

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