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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1295997
審判番号 不服2012-20474  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-18 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2007-150911「低溶解性化合物の安定な複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開、特開2007-224048〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成11年9月21日(パリ条約による優先権主張 1998年9月22日 米国(US) 1999年5月28日 米国(US))に出願した特願平11-267142号の一部を平成19年6月6日に新たな特許出願としたものであって,平成24年10月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1?30に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?30に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「担体、並びに以下の群から選ばれる安定なアモルファス状の治療活性化合物
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

と、80,000D超の分子量を有し、且つ50℃以上のガラス転移温度を有する水不溶性イオン性ポリマーとの水不溶性複合体を含んで成り、ここで当該イオン性ポリマーは当該治療活性化合物と共に共沈殿させる溶液のpHにおいて水不溶性であり、ここで水不溶性複合体とは治療活性化合物と水不溶性イオン性ポリマーとの同時沈殿、即ちマイクロ沈殿により形成される生成物を意味し、そして治療活性化合物はマイクロ沈殿により該ポリマーの中で分子的に分散される、薬理組成物。」


第3.原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,要するに,「特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものであって,より具体的には,
「本願明細書には,式II?VIIIの化合物を使用できる旨が記載されているが,これらの化合物の製造方法,入手方法については本願明細書に何ら開示されていない。
また,本願出願日当時,これらの化合物が治療活性化合物と当業者に認識されていた事実を示す具体的な根拠も見当たらない。」
という理由を含むものである。


第4.当審の判断
ア 本願発明は,上記第2.に記載したように,化合物I?VIIIで示される治療活性化合物を使用する薬理組成物に関するものである。
イ ところで,特許請求の範囲に記載された発明で直接使用される「物」に関しては,有機化合物に限らず,当業者に広く入手法が知られている「物」であるとか,通常の販売ルートを通して市販されている「物」などであれば,その入手法の記載が明細書になくても,当該発明の実施に際しては特段の困難はないといえるものの,当業者の通常の知識や行為では入手が困難なものであるならば,その入手法や製造方法については,「技術の公開の代償として一定期間の独占権を享有する」という特許制度の趣旨に照らし,明細書にその記載が求められることは明らかなことであり,そのような記載がない発明の詳細な説明は,当該特許請求の範囲に記載された発明について,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとされるべきでないことは当然である。
ウ このような観点を踏まえ本願明細書の記載を検討すると,本願発明において,「治療活性化合物」とされている化合物I?VIIIに関しては,何れも,本願明細書においては,その化学構造式が示されているだけであって,いかなる入手方法により得られるのか記載されておらず,また,製造方法に関する公知文献等が引用されているものでもない。
エ 尤も,これら8化合物のうち化合物Iについては,本願の原出願の出願日(平成11年9月21日;以下,単に「本願出願日」ともいう。)の約10年前の発行に係る特開平1-233281号公報(審査段階での平成23年11月30日付け拒絶理由通知書の引用文献(A)6;特に21頁の実施例37参照)においてその製造方法について開示があり,当業者が容易に知り得るものであったと一応は解されるものであるが,そのほかの化合物II?VIIIについては化合物Iと同様な状況にあったとはいえず,とりわけ化合物IVに関しては,本願出願日の後1年以上も経てからの2000年(平成12年)11月2日になって,初めてその製造方法について記載された文献である国際公開第2000/64900号(請求人が平成24年6月4日付け意見書において提示した米国特許第6440959号(2002年4月27日発行)の対応出願に係るもの)が発行されたものである。(有機化合物に関する文献を網羅的に収集していると当業者に認識されているデータベースであるCA FILE/REGISTRY FILEの検索結果によると,これ以前に,化合物IVの製造方法について具体的に記載された文献は存在しない。)
以上,要するに,化合物II?VIIIについては,明細書において,少なくともその入手法の記載が省略されていてもなお当業者が入手法を容易に理解できるものであったとすることができない。
オ さらに加えて,化合物II?VIIIの如き有機化合物については,これを製造しようとする場合には,たとえ当該化合物の化学構造が示されたとしても,それに到るまでの合成ルートとしては非常に多くのものが想定され得る上,その全ての想定された合成ルートが必ずしも成功裡に目的化合物の提供に結びつくものではないことは技術常識である。そうすると,例えば,発明の詳細な説明において,単に化合物の化学構造式が示されたからといって,当業者にとって当該化合物を格別の困難なく製造できるとはいえず,本願明細書に治療活性化合物として式II?VIIIという化学構造式が示されていたとしても,当業者が当該化合物を入手(製造)できるとすべきではないことは明らかである。
カ したがって,如何に本願出願日の技術常識を考慮したとしても,化合物II?VIII,とりわけ化合物IVに関しては,明細書の発明の詳細な説明において,その入手法について当業者に理解できるように記載されているものといえない。
キ 一方,化合物I?VIIIが「治療活性化合物」であること,すなわち,何らかの「治療活性」を有することについては,化学物質は,通常その構造のみから物質の性質や用途を予測することが困難なものであることは技術常識であるから,明細書に化学構造式が示されているからといって,何らかの「治療活性」があると理解することは,たとえ当業者であったとしても到底なし得ないものであるし,また,ただ漠然と「治療活性がある」旨の記載があったとしても,その技術的な根拠となる試験データや公知文献が示されているというものでなければ,やはり当業者といえども,当該化合物が,「治療活性」を有すると理解することはないというべきである。
ク このような観点を踏まえると,本願明細書には,化合物I?VIIIについては化学構造式は記載されていても,これらの化合物が「治療活性化合物」であることを示す技術的根拠となる試験データや公知文献等が記載されているものではない。
なお,本願明細書の【表1】,【図1】,【図2】及び【図3】?【図7】において示されているデータは,化合物I?VIIIが組成物中において「アモルファス状態」であることを確認するものであり,また,【表2】及び【図3】に示されているデータは,イヌ体内における薬物血中濃度に関するデータに止まり,ともに具体的に何らかの疾病の治療に対する有用性を裏付けるデータとはいえない。
ケ そして,上記「エ」で記載したと同様に,これら化合物I?VIIIのうち,化合物Iについては,特開平1-233281号公報においてその製造方法のみならず治療活性に関する開示もなされていることから,当業者が容易に知り得るものであったと一応は解されるものであるものの,そのほかの化合物II?VIIIについては,本願明細書において,少なくとも「治療活性」を有することの技術的根拠の記載が省略されていてもなお当業者が何らかの治療活性を有することを容易に理解できるものであったとすることができない。
コ したがって,本願出願日の技術常識を考慮したとしても,化合物II?VIII,とりわけ化合物IVに関しては,明細書の発明の詳細な説明において,「治療活性化合物」としての用途を有している,当業者に理解できるように記載されているとすることができない。
ケ 以上のことから,化合物II?VIII,とりわけ化合物IVに関しては,明細書の発明の詳細な説明において,その入手法及び治療活性について当業者に理解できるように記載されているとすることができないから,これを使用した本願発明に係る「薬理組成物」について,当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとはいえない。


第5.請求人の主張
請求人は,審判請求書の【請求の理由】において,主として以下の(1)?(3)の主張をしている。
(1)本願発明を実施するために化合物II?VIIIを製造することを所望する当業者が,既に存在する技術常識に基づき,かつ,提示した資料の実際の公開を待たずにかかる化合物を確実に製造できることは,本出願日時点で自明である。しかも,有機合成に携わる当業者であれば,化合物II?VIIIの構造を見れば,さほど思考を働かせることなく,当該化合物を合成することは可能であるものと理解する。
(2)化合物II?VIIIが治療活性化合物であることは,本願出願時点における請求項16に記載されている。
(3)本願明細書が公開されて公衆に利用可能とされる時点では化合物II?VIIIの製造工程やその治療活性に関する記載を含む関連資料は既に公衆に利用可能となっている状態にあるため,化合物II?VIIIの製造工程が本願明細書に記載されていなくても,第三者にとって何ら不利益はない。本願優先日に仮に上記関連資料が公衆に利用可能な状態になっていなかったとしても,本願明細書の公開時に利用可能となっていれば,当業者は公開された本願明細書に接した際,本願優先時点の技術常識を開示する上記関連資料を参照して,本発明を実施することができるものである。
以下,順次検討する。
上記(1)の主張については,「第4.当審の判断」の「オ」において述べたとおり,そもそも有機化合物の化学構造が示されたとしても,それに到るまでの合成ルートとして想定されるものは非常に多くのものが考えられ得る上,その全ての想定ルートが成功裡に目的化合物を提供できるとされるものではないことは技術常識であって,それゆえ,この分野にあっては,例えば,新たな製造方法の提供自体,特許となる可能性があることはこの分野の当業者ならば誰しも認識しているところでもある。したがって,有機化合物の化学構造が示されていることを根拠に「有機合成に携わる当業者であれば,化合物II?VIIIの構造を見れば,さほど思考を働かせることなく,当該化合物を合成することは可能である」との主張は採用できない。
また,(2)の主張については,出願時点の請求項16は,
「【請求項16】
前記治療活性化合物が,
【化1】

【化8】
(審決注;【化1】?【化8】は本願発明と同じ)
から成る群より選ばれる,請求項1記載の薬理組成物。」
と化合物I?VIIIの化学構造式及びこれら化合物が単に「治療活性化合物である」旨の記載があるだけで,このような開示のみでは化合物II?VIIIの「治療活性」を有することが当業者に認識し得ないことは,「第4 当審の判断」の「キ」において述べたとおりである。
さらに(3)の主張については,本願明細書の記載が,我が国特許法で規定する要件を満たすものであるか否かに際しては,出願日における特許法に基づいて,かつ,出願日の時点での技術常識や公知事項に基づいて判断されるべきことは基本原則であって,例えば,本願出願日(平成11年9月22日)においては公知となっていないが,本願発明の内容が公衆に利用可能となる日(すなわち原出願の公開公報発行の日;平成12年4月11日)までの間に,初めて公知となった技術事項などは考慮の対象外であることは当然のことであり,本件出願に関し,これと異なる判断手法を採用すべき特段の事情も見当たらない。また,特に化合物IVに関していえば,請求人がいう「本願明細書が公開されて公衆に利用可能とされる時点」である本願の原出願の公開公報発行の時点(平成12年4月11日)では,未だその製造方法や治療活性について開示された文献(国際公開第2000/64900号;2000年(平成12年)11月2日発行)は公知とはなっていなかったものであるから,請求人の(3)の主張は,この点でも論理的整合性を欠くものである。
よって,上記請求人の主張(1)?(3)は何れも採用できない。


第6.むすび
以上のとおり,この出願は,その明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとすることができないので,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-18 
結審通知日 2014-07-22 
審決日 2014-08-19 
出願番号 特願2007-150911(P2007-150911)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北畑 勝彦福井 悟  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 加賀 直人
小川 慶子
発明の名称 低溶解性化合物の安定な複合体  
代理人 石田 敬  
代理人 武居 良太郎  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 中島 勝  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
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