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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07B
管理番号 1296003
審判番号 不服2012-23270  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-26 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2005-132711「固体触媒上で液体と気体とを連続的に反応させるための反応器及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日出願公開、特開2005-314424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成17年4月28日(パリ条約による優先権主張2004年4月29日(DE)ドイツ)の出願であって、平成23年9月28日付けの拒絶理由に対し、平成24年2月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月26日に審判が請求され、その後、平成25年11月25日付けで拒絶の理由が通知され、平成26年6月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載及び本願発明
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成26年6月2日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりである(以下、請求項1に係る発明又は請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)。
「反応器中に少なくとも3つの相が存在する方法であって、少なくとも1つの出発物質が気体状であり、1つの出発物質が液状であり、かつ触媒が固定床中にある前記反応器を、出発物質が並流で貫流する前記方法において、
前記反応器は、触媒が固定床中に存在する少なくとも1つの帯域と、その大きさが反応器断面積に相当する有孔分配トレイによって前記帯域と分離された帯域とを有し、この分離された帯域において液状及び気体状の出発物質が前記反応器に導入され、
前記分配トレイがスタティックミキサーを有しており、該スタティックミキサーは前記分配トレイの少なくとも一方の面で前記孔中に配置されており、
前記反応器が3より小さいスリム度を有しており、かつ
ブタジエン又はブタジエン含有流を線状ブテン又は線状ブテンとの混合物へ水素化することを特徴とする、前記方法。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審(別の合議体である。)が通知した拒絶の理由は、理由1?4からなる。
そのうちの理由2の概要は、この出願の請求項1?5、7?12、14?18に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物1(特開2002-1097号公報)、刊行物2(特開平8-92572号公報)、刊行物3(特開2002-53873号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。そして、本願発明は、上記請求項14に係る発明のうちの請求項7及び請求項1を順次引用して記載した発明に相当するから、当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
また、理由3の概要は、この出願の請求項1?19の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。また、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 理由2について

(1)刊行物に記載された事項

ア 刊行物1:特開2002-1097号公報
(1a)「【請求項1】少なくとも一部が水素である少なくとも1つの気相および少なくとも1つの液相の接触、物質分配ならびに熱および/または物質交換を確保する、少なくとも1つの粒状固体床を有する容器の多機能サブアセンブリーであって、前記相は、全体的に下降流モードで前記粒状固体床を流通し、前記サブアセンブリーは、前記粒状固体床の上方に配置される少なくとも1つの分配トレイ(P)を備えているとともに、複数の下降管(1)を備えており、各下降管の上には少なくとも1つの噴流擾乱装置が載せられ、各下降管は、その上部に前記下降管内への前記気相の大部分の導入のための少なくとも1つの流れ断面(22)を有し、前記下降管の前記上部と下部との間におけるトレイ(P)の上方に前記下降管内への前記液相の大部分の導入のための少なくとも1つの流れ断面(2)を有し、かつ、その下部に前記下降管内で形成された2相または多相混合物を前記下部の下方に位置する粒状固体床の上に分配するための少なくとも1つの該混合物の流れ断面(23)を有しており、該サブアセンブリーは、各下降管が、その上部と下部との間に、流れ断面が該下降管の軸線に対して本質的に直角である少なくとも1つのエレメントによって構成された少なくとも1つの充填物を有し、前記エレメントが、流通帯域における下降管の横断面全体にわたって伸びているとともに、前記液相および気相が通過する複数のセルで構成されており、前記セルが、前記下降管の内側での流体の流通を実質的に半径方向に導くことを特徴とする、多機能サブアセンブリー。
・・・・・・・・・・・・・・・
【請求項10】上端の近くに第1の液体流体および第2の気体流体の入口を備えた容器であって、少なくとも1つの粒状固体床を有し、前記床の上方に請求項1?9のいずれか1つに記載のサブアセンブリーが取り付けられている容器において、前記容器が、前記サブアセンブリーの上方に、前記第1または第2の流体と同一のまたはこれらとは異なる、好ましくは気体である第3の流体の少なくとも1つの側方入口を備えていることを特徴とする、容器。
【請求項11】前記第3の流体が、前記第1および第2の流体のうち少なくとも1つの流体との熱交換および/または物質交換のための流体である、請求項10記載の容器。
【請求項12】粒状固体床が触媒床であって、接触反応を行うためのものである、請求項10または11記載の容器。
【請求項13】反応体の1つが水素であって、接触反応を行うためのものである、請求項10?12のいずれか1つに記載の容器。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1、10?13)
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、接触、物質分配、並びに熱および/または物質交換を確保する多機能サブアセンブリー(sub-assembly)であって、少なくとも一部が水素である少なくとも1つの気相と少なくとも1つの液相とを含みかつ全体的に下降流モードで前記粒状固体床(または固体粒子)を流通する流体の分配を最適化し得る、少なくとも1つの粒状固体床を含む容器のサブアセンブリーに関する。特に、本発明は、少なくとも一部が水素である少なくとも1つの気相を含む2相または多相混合物の分配への前記サブアセンブリーの適用に関する。本発明は、また、上端の近くに第1の液体流体および第2の気体流体の入口を備え、少なくとも1つの粒状固体床を有し、かつ前記床の上方に多機能サブアセンブリーを有する容器に関する。
【0002】このサブアセンブリーは、
・通常は反応器である容器の頂部、
・または、粒状床からの出口(容器の横断面全体にわたって次の粒状床に供給する)、
・または、補助流体(例えば、熱移送ガス、急冷ガスと呼ばれる冷却ガス、または水素化反応のような反応を行うためのガス)の導入手段の後ろ、
に配置し得る。
【0003】本発明は、特に、気相が一部水素で構成される、気体/液体分配器の分野に適用される。本発明は、特に、以下の全ての場合、即ち、
・気相が液相と比較して大部分を占める場合、即ち、気体と液体との容積比が、通常3:1を越え、一般に400:1未満である(3<気体容積/液体容積<400)場合、
・反応が高い発熱を伴うものであって、気体/液体混合物を冷却するために反応器内に補助流体(通常、気体)を導入する必要がある場合、
・反応が、化合物(例えば、水素H_(2))を液相中に溶解させるために均質接触を必要とする場合、
に適用される。
【0004】特に、本発明は、あらゆる水素化クラッキング、水素化処理、水素化脱硫、水素化脱窒、全体的および選択的水素化、および/または液体留分の水素化脱金属に適用し得るのみならず、部分または全体酸化反応、アミノ化、アセチル酸化、アンモ酸化、および塩素化のようなハロゲン化反応に適用し得る。」
(1c)「【0005】【従来の技術および発明が解決しようとする課題】水素化脱硫、水素化脱窒および水素化クラッキングの特定の分野において、高効率の転換を達成するために(例えば硫黄30ppm以下を含む生成物を得るために)、気体および液体、主として液体の良好な分配が必要とされる。これは、これらの容積比が、一般に約3:1?400:1、通常は約10:1?200:1となるためである。急冷の場合には、冷却を行うために導入される気体と、通常プロセス流体と呼ばれる、実施されるプロセスからの流体との間に、極めて良好な接触が要求される。
【0006】気体と比較して液体の割合が小さいことに起因して、先行技術において使用された1つの可能性は、例えば、液体を通過させるための複数の孔と、気体を通過させるための複数の下降管とを備えた分配トレイを使用することよりなる。・・・
【0007】しかしながら、このような解決策は、トレイの使用の適応性(flexibility)に関して問題を引き起こし、また、トレイが完全に水平でない場合、および/またはトレイ上への液体流および気体流の大量の降下によって生じる逆流のために、異なる複数のオリフィスからの不規則な供給を生じさせる。
【0008】このような欠点を克服するために、当業者は、複数のトレイの特有の配列を用いるに至った。最後のトレイは、例えば米国特許US-A-5232283に記載されているように、液相および気相を個別に回収し分配する手段を備えるか、または・・・
【0009】その形式のトレイおよび配列の別の欠点は、下降管または孔からの出口において液体の拡散がないことである。そこで、当業者は、特にフランス特許出願FR-A-2745202・・・に記載されているように、注入点の数を相当増やすようにしたが、その数は・・・トレイの強度によって、または、オリフィス若しくは下降管の出口における噴流擾乱型システムの使用によって制限される。
【0010】さらに、通常気体であるが液体であってもよい補助流体を使用する冷却が要求される発熱反応の場合、提案された上記システムは、一般に、次のような一連の内部手段、即ち、米国特許・・・US-A-5232283・・・に記載されているような、急冷流体を導入するための手段、プロセス流体を冷却しかつ均質にするための混合室、および2重分配トレイのシステムを備えている。それらの特許で提案されているそれらの異なる解決策の間での相違は、使用される混合室の複雑性(1対の室、ブレード、バッフル)によってもたらされる。
【0011】最適でない分配の性質に加えて、それらのシステムを用いることによる大きな障害は、その嵩(反応器内に占める空間)である。先行技術のシステムでは、下降管内での気体の速度は、一般に毎秒0.5?5センチメートル(cm/s)であり、液体の速度は、一般に0.05?1cm/sである。そのような速度は、混合および分散の両方を可能にするには低すぎるものであり、これは、大きな欠点となる。
【0012】本発明の目的は、先行技術において提案された解決策の欠点を少なくとも一部克服することにあり、かつ、
・注入点の数を減らすことによって、噴霧形態または薄い液膜形態で表面全体にわたって最適な気体および液体の分配を確保すること、
・適正な熱交換(急冷機能)または物質交換(例えば液相に水素を溶解させること)を確保するために、気体および液体間に有効な接触を生じさせること、
・反応器内の嵩を最小化すること(上述のすべての機能を行うための単一のトレイの使用)、
にある。」
(1d)「【0013】【課題を解決するための手段】本発明は、少なくとも一部が水素である少なくとも1つの気相および少なくとも1つの液相の接触、物質分配、ならびに熱および/または物質交換を確保する、少なくとも1つの粒状固体床を有する容器の多機能サブアセンブリー(sub-assembly)に関するものであって、前記相は、全体的に下降流モードで前記粒状固体床を流通し、前記サブアセンブリーは、粒状固体床の上方に配置される少なくとも1つの分配トレイ(P)を備えているとともに、複数の下降管(downcomer)または管(tube)(1)を備えており、各下降管の上には少なくとも1つの噴流擾乱装置が載せられ、各下降管は、その上部に前記下降管内への前記気相の大部分の導入のための少なくとも1つの流れ断面(cross section of flow)(22)(即ち、流路(22)または上部入口(22))を有し、前記下降管の前記上部と下部との間におけるトレイ(P)の上方に前記下降管への前記液相の大部分の導入のための少なくとも1つの流れ断面(cross section of flow)(2)(即ち、流路(2)または側方入口(2))を有し、かつ、その下部に前記下降管内で形成された2相または多相混合物を前記下部の下方に位置する粒状固体床上に分配するための少なくとも1つの該混合物の流れ断面(cross section of flow)(23)(即ち、流路(23)または下部出口(23))を有しており、該サブアセンブリーは、各下降管が、その上部と下部との間に、該下降管の軸線に対して本質的に直角な流れ断面(the cross section for flow of which)(即ち、流路)を有する少なくとも1つのエレメントによって構成された少なくとも1つの充填物(5)を有し、前記エレメントが、流通帯域における下降管の横断面全体にわたって伸びているとともに、前記液相および気相が通過する複数のセルで構成されており、前記セルが、前記下降管内での流体の流通を実質的に半径方向に導くことを特徴とする。
【0014】換言すれば、前記サブアセンブリーは、少なくとも1つの気相および少なくとも1つの液相を含み、下降流で粒状固体床を流通し、かつ反応器の入口管路または上方の粒状固体床から来る混合物を分配するための装置の一部を形成する。」
(1e)「【0016】下降管または管(1)内での充填物の使用により、気体/液体混合物にエネルギーを供給することができ、かつ下降管または管(1)内において高い速度を生じさせる。使用される充填物は、例えば、特に参照番号SMVまたはSMXとして知られているSulzer型充填物、参照番号がRMTであるようなKoch-Glitsch社による充填物、スタティックミキサーまたは塔充填物に関するそれらの会社からの特許に記載されている充填物のうちの1つ、またはヨーロッパ特許EP-A-0719850に定義されている充填物である。このような充填物は、それらが、流れ断面(即ち、流路)が容器の軸線に対して本質的に直角である少なくとも1つのエレメントによって構成されていることを特徴とする。このエレメントは、流通帯域において容器の横断面全体にわたって伸び、かつ、プロセス液体、プロセス気体または急冷流体が通過する複数のセルによって構成されており、これらのセルは、下降管内での流体の流通を実質的に半径方向に導く。この充填物によって、気体と液体との間での極めて良好な接触が生じ、かつ、熱交換(急冷機能)および/または物質交換(溶解機能)が促進される。」
(1f)「【0020】通常、下降管は、分配トレイ(P)の上方にある部分と、分配トレイ(P)の下方にある部分とを備える。換言すれば、管は、トレイの底部を通って伸びている。」
(1g)「【0022】本発明の装置は、次の利点を有する。即ち、
・該装置により、注入点の数が減る。1m^(2) 当たりの下降管の密集度は、標準的には1?150本、好ましくは10?50本の範囲である。
・気体/液体比が大きい(少量の液体のみを分配するのが困難である)場合、該装置により、表面全体にわたって液体が細かく分配される。拡散角度は、下降管の出口で拡散システム(噴流擾乱装置または特殊な充填物)を使用することによって、大いに増大される。先行技術のシステムでは、拡散角度はほぼ0である。
・急冷機能が一体化され、これにより伝熱効率が促進される。
・空間に関する節減が相当に大きい(急冷組立体がない)。
・溶解機能が、反応器内の異なるレベルに組み入れられる。
・該システムは、適応性があり(flexible)、かつ堅牢である。」
(1h)「【0023】本発明は、また、上端の近くに第1の液体流体および第2の気体流体の入口を備えた容器であって、少なくとも1つの粒状固体床を有し、前記床の上方に上記に定義されたサブアセンブリーが取り付けられている容器に関する。前記容器は、前記サブアセンブリーの上方に、前記第1または第2の流体と同一のまたはこれらとは異なる、好ましくは気体である第3の流体の少なくとも1つの側方入口を備えている。通常、前記第3の流体は、前記第1および第2の流体のうち少なくとも1つとの熱交換流体および/または物質交換流体である。この容器は、標準的には、粒状固体床が触媒床であって、接触反応を行うのに使用され、具体的には、反応体の1つが水素である接触反応を行うのに使用される。」
(1i)「【0024】【発明の実施の形態】本発明の更なる利点および特徴が、下記の添付図面を参照してなされる以下の実施例の記載から明らかになる。
・図1は、本出願人のフランス特許出願FR-A-2745202などに示されている先行技術の実施形態の原理を示す。
・図2は、下降管の内部に充填物を備えた本発明のサブアセンブリーを示す。
・図3・・・は、下降管内で形成された2相または多相混合物を分散させる手段を備えたサブアセンブリーの2つの実施形態を示す。
・図5(a)および5(b)は容器の概略図であって、図5(a)の容器は、急冷機能を果たす混合室を備えた先行技術の分配手段(例えば、米国特許US-A-5232283参照)を有し、図5(b)の容器は、本発明によるサブアセンブリーを有している。」
(1j)「【0025】図1は、周面の複数のレベルに孔(2)があけられた管(1)を備えた先行技術の装置の一部を示す。孔の数および径は、要求される適応性(flexibility)の機能として算出される。液体のレベルが確定される。その高さは、一般に50?200mmである。下降管の高さは、通常100?500mm、好ましくは250?450mmの範囲である。これらの管の上部の上には、入口管路または上方の粒状固体床から来る噴流を砕いて気体と液体を分離させるキャップ(2)(噴流擾乱装置)が載せられている。管は、トレイ(P)の底部を越えて標準的には20?100mmの範囲の高さだけ伸びている(4)。液体は、孔から管内に侵入し、気体は、上部(22)から入る。下降管の出口(23)において、最大で下降管の径と同じ幅を有する2相混合物の噴流が生成される。
【0026】図2は、周面の2つのレベルに孔(2)があけられた管(1)を備えた本発明によるサブアセンブリーの一部を示す。孔の数および径は、要求される適応性(flexibility)の機能として算出される。液体のレベルが確定される。その高さは、一般に50?200mmである。下降管の高さは、標準的には100?500mm、好ましくは250?450mmの範囲である。これらの管の上部の上には、入口管路または上方の粒状固体床から来る噴流を砕いて気体と液体の分離を可能にするキャップ(3)(噴流擾乱装置)が載せられている。管は、トレイ(P)の底部を越えて標準的には20?100mmの範囲の高さだけ伸びている(4)。液体は、孔から管内に侵入し、気体は上部(22)から入る。下降管の内部には、トレイ(P)に最も近い孔(2)とこのトレイ(P)から最も離れた孔(2)との間の距離よりも長い高さにわたって、参照番号SMVで販売されているSulzer型充填物(5)が充填されている。この充填物は、流れ断面が容器の軸線に対して本質的に直角である少なくとも1つのエレメントによって構成されていることを特徴とする。このエレメントは、流通帯域において容器の横断面全体にわたって伸び、かつプロセス液体、プロセス気体および急冷流体が通過する複数のセルによって構成されている。これらのセルは、流体の流通を実質的に半径方向に導く。管(1)内で形成された2相混合物は、この管の下端(23)から出る。
【0027】充填物は、二重の機能を有する。即ち、
・触媒表面への優れた散布を生じ得る液体小滴の噴霧を生じさせる。
・補助気体が導入される場合に、2つの補助機能、即ち、一方の相と他方の相(気体/気体、液体/液体)との間での物質交換、および1つの相と2つのプロセス相(気体/プロセス気体、液体/プロセス液体)との間での熱交換が行われる。
【0028】図3・・・は、管(1)の下端の近くに配置された補助手段を備えている本発明のサブアセンブリーの一部を示しており、該補助手段は、下降管の出口において気体/液体混合物の分散を増加させて、触媒表面のより広い範囲に噴霧するものである。
【0029】図3の概略図において、この補助手段は、所要の分散(噴霧形態での表面上への散布)を生じさせるための特定の角度を有する充填物(6)である。分散角度は、10°?60°、好ましくは30°程度である。この充填物は、50mm程度の高さにわたって位置し、かつ管(1)の下端の約20mm下方まで伸びる。その他の要素は、図2に関して記載された要素と同じである。」
(1k)「【0031】図5(a)は、複数の触媒床(56)を有する接触反応器を示している。該反応器は、頭上のディフューザー(overhead diffuser)(51)と、適正な気体および液体の分配を確保する2段式トレイ(52)と、触媒床(56)と、補助相(気体または液体)を導入する管(53)と、急冷機能または物質移動を確保するための混合室(54)と、気体/液体混合物を適当に再分配するための更ににもう1つの2重通過トレイとを備えている。このアセンブリーによって、反応器の容積の少なくとも20%が占められる。
【0032】図5(b)は、本発明のサブアセンブリーを備えた、複数の触媒床を有する容器を示しており、該サブアセンブリーは、分配の改善(噴霧効果の増大)に加えて、反応器内において内部手段によって占められるスペースを最小限に抑えることができる(2重通過トレイまたは混合室は存在しない)。図2および5(a)に示された参照番号と同じ参照番号によって表された要素は、これらの図に関して記載されている要素と同じである。噴流擾乱装置(3)の形態は、図2に示されている形態とは異なる。この噴流擾乱装置は、管(1)の上に固定されたデフレクター(deflector)であって、該デフレクターは、管(1)の上端および下端に対して斜めになった入口を形成する。」
(1L)「【図1】本出願人のフランス特許出願FR-A-2745202などに示されている先行技術の実施形態の原理を示す図である。
【図2】下降管の内部に充填物を備えた本発明のサブアセンブリーを示す図である。
【図3】下降管内で形成された2相または多相混合物を分散させる手段を備えたサブアセンブリーの実施形態を示す図である。
・・・・・・・・・・・・・・・
【図5】容器の概略図であって、図5(a)の容器は、急冷機能を果たす混合室を備えた先行技術の分配手段(例えば、米国特許US-A-5232283参照)を有し、図5(b)の容器は、本発明によるサブアセンブリーを有している。」(6頁、図面の簡単な説明)
(1m)「

」(7頁、図1?図3)
(1n)「

」(7頁、図5)

イ 刊行物2:特開平8-92572号公報
(2a)「【0031】・・・シュルゼール(SULZER)社によって販売されているSMV型のスタティックミキサー・・・」

ウ 刊行物3:特開2002-53873号公報
(3a)「【請求項1】炭化水素、特に少なくとも2つの二重結合または少なくとも1つの三重結合を含む不飽和分子を含有する液体留分を水素化する方法において、少なくとも2つの二重結合または少なくとも1つの三重結合を含む不飽和分子が、少なくとも1つの水素化触媒の少なくとも2つの異なる床を含む、少なくとも1つの反応器内で、少なくとも部分的に水素化されて、少なくとも1つの二重結合を含む、より不飽和でない分子になり、水素を含有する気相の一部が、該留分との混合物として第一触媒床の上流に導入され、気相の一部が、該反応器に含まれる次の床の上流に導入され、第一反応器内で、水素化が液体および気体の下降流で行われ、該第一反応器からの気体/液体混合物が分離区画に送られ、そこから気相が回収され、水性相が除去され、該第一反応器からの水素化生成物を含有する液相が回収され、液相の少なくとも一部が、該第一反応器に含まれる第一触媒床の上流の該第一反応器への入口に、該留分との混合物として戻されることを特徴とする方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(3b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、ビニルアセチレンのような炭化水素分子のような、少なくとも2つの二重結合または少なくとも1つの三重結合を含む、高度な不飽和分子と、1-ブテン、2-ブテン、n-ブタン、イソブタンおよび/またはイソブテンのような、炭素原子を4個以上含む炭化水素分子とを含む炭化水素を含有する留分を水素化する方法を提案する。より詳細には、この方法は、炭化水素、特にブタジエンを含有する留分を水素化することに適用できる。反応を制御して、イソブテンを失うことなく、かつブテン類のブタンへの完全な水素化を最少にして、生成物中のブテンへの高い選択率をもたらすことができる。」
(3c)「【0002】【従来技術および解決すべき課題】米国特許US-A-5281753号に対応する国際特許WO-A-93/21137号に、不飽和分子(特にジオレフィン類)を含有し、かつ炭素原子を4個以上含む混合物中の炭化水素の選択的水素化および同時異性化方法が提案されている。この水素化は、ガス状の水素の存在下で、固定床を有する接触反応器を通して行われる。・・・
【0003】US-A-3764633号に、炭素原子を少なくとも4個含む分子の末端に配置された二重結合を含むモノオレフィン類を異性化する方法、および処理された炭化水素留分に含まれる、ジオレフィン類のようなポリ不飽和化合物またはアセチレン系化合物を選択的に同時に水素化する方法が記載されている。この特許は、この方法が複数の連続する床を使用できることを教示している。・・・
【0004】US-A-4260840号は、C4留分中のブタジエンの選択的水素化に関する。生成物は、少なくとも30重量%の1-ブテンと微量のブタジエンとを含有する。仕込原料は水素化されて、1-ブテンの異性化を最少にし、かつブテン類のブタンへの水素化を最少にする。・・・
【0005】US-A-4960960号に、2つの帯域を含む選択的水素化方法が記載されており・・・
【0006】欧州特許出願EP-A-0087980号と同じ優先権を有するUS-A-4469907号に、水素が、2つまたは3つの連続する点で注入される固定床反応器を用いて、炭素原子を4個以上含む不飽和分子を含有する石油留分を水素化する方法が記載されている。・・・
【0007】EP-A-0523482号に、液相単独中または細流中のブタジエンの選択的水素化方法が記載されている。・・・
【0008】EP-A-0700984号に、モノ不飽和炭化水素と少なくとも1つのポリ不飽和炭化水素とを含有する、炭素原子を2?20個含む炭化水素留分を水素化する方法が記載されている。・・・」
(3d)「【0011】本発明は、特に、ブタジエンに富む石油留分、すなわち一般に約20?95重量%のブタジエン、通常25?75重量%の範囲のブタジエン、好ましくは30?50重量%の範囲のブタジエンを含有する、処理される炭化水素仕込原料の選択的水素化への適用である。・・・水素化生成物を含有する液相の、第一反応器から該第一反応器への再循環比は、該反応器に入る仕込原料の体積流量に対する再循環の体積流量の比に等しく、約10:1?30:1であり、通常15:1?25:1の範囲にある。
【0012】・・・水素のモル割合は、少なくとも1つの三重結合および/または少なくとも2つの二重結合を含むポリ不飽和C4化合物のすべてと比較して、化学量論より低く・・・本発明の特別な実施において、第一反応器の頭部に導入される液体仕込原料および気相は、該反応器への該導入の上流で、スタティックミキサーを通過する。」
(3e)「【0016】非常に好ましくは、第一反応器で使用される触媒は、パラジウムを0.2重量%含有し・・・」
(3f)「【0017】単一の反応器を組み合わせる方法の性能は、通常0.1?5重量%の範囲にある、反応器(1)からの出口におけるブタジエンの含有量をもたらすことができる。」

(2)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「少なくとも一部が水素である少なくとも1つの気相および少なくとも1つの液相の接触、物質分配ならびに熱および/または物質交換を確保する、少なくとも1つの粒状固体床を有する容器の多機能サブアセンブリー」(摘示(1a)(1d))に関し、「粒状固体床が触媒床」で「反応体の1つが水素」であること(摘示(1a)(1h))、「選択的水素化」に適用し得ること(摘示(1b))、「前記相は、全体的に下降流モードで前記粒状固体床を流通」すること(摘示(1a)(1d))が記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「水素を含む気相と液相とを下降流で粒状触媒固体床に流通し、選択的水素化反応を実施する反応器であって、気相と液相の接触、物質分配並びに熱及び物質交換のためのサブアセンブリーを有する反応器」
が記載され、その反応器を用いる選択的水素化反応方法が記載されているといえる。
また、刊行物1には、前記サブアセンブリーは、「粒状固体床の上方に配置される少なくとも1つの分配トレイ(P)」を備えていること(摘示(1a)(1d))、容器の「上端の近くに第1の液体流体および第2の気体流体の入口」を備えること(摘示(1a)(1h))が記載され、さらに、サブアセンブリーが「複数の下降管(1)」を備え(摘示(1a)(1d))、下降管は、「分配トレイ(P)の上方にある部分と、分配トレイ(P)の下方にある部分」とを備え(摘示(1f))、下降管は「充填物」を有し(摘示(1a)(1d))、具体例では、下降管は、「トレイ(P)の底部を越えて・・・伸び・・・管の内部には・・・参照番号SMVで販売されているSulzer型充填物(5)が充填され・・・管(1)内で形成された2相混合物は、この管の下端(23)から出る」こと(摘示(1j))が、図面(摘示(1m)(1n))と共に記載されている。
してみると、刊行物1には、
「水素を含む気相と液相とを下降流で粒状触媒固体床に流通し、選択的水素化反応を実施する反応器の粒状触媒固体床に、水素を含む気相と液相とを下降流で流通させる選択的水素化反応方法であって、反応器は、その上端近くに前記気相及び前記液相の入口、前記固体床の上方に分配トレイ(P)を配置し、そのトレイにはトレイの底部を越えて伸びる管を備え、その管の内部には参照番号SMVで販売されるSulzer型充填物が充填され、それによって2相混合物が形成される反応器である、上記方法」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明の「ブタジエン又はブタジエン含有流を線状ブテン又は線状ブテンとの混合物へ水素化する・・・方法」と引用発明の「水素を含む気相と液相とを下降流で粒状触媒固体床に流通し、選択的水素化反応を実施する反応器の粒状触媒固体床に、水素を含む気相と液相とを下降流で流通させる選択的水素化反応方法」とは、「選択的水素化反応方法」である点で共通し、本願発明の「ブタジエン又はブタジエン含有流」は「液状」である「出発物質」であって、引用発明の「液相」がこれに相当し、本願発明の「気体状」である「出発物質」は、水素を含むものであり、引用発明の「水素を含む気相」がこれに相当する。
引用発明における「粒状触媒」、「固体床」及び「反応器」は、それぞれ、本願発明における「触媒」、「固定床」及び「反応器」に相当し、引用発明における「水素を含む気相と液相とを下降流で粒状触媒固体床に流通し」は、本願発明における「反応器を、出発物質が並流で貫流する」に相当し、その際、気・液・固の3相が存在するから、本願発明における「反応器中に少なくとも3つの相が存在する方法」に相当する。
引用発明における反応器の「上端近くに前記気相及び前記液相の入口、前記固体床の上方に分配トレイ(P)を配置し」及び「そのトレイにはトレイの底部を越えて伸びる管を備え」の構成は、分配トレイの下方に粒状触媒固体床、分配トレイの上方に気相及び液相の入口を配置し、分配トレイによって反応器を上下の帯域に分離するものであるといえ、刊行物1の図5(b)(摘示(1n))からみて、分配トレイが反応器断面積に相当する大きさを有することは明らかであり、管が分配トレイを貫通していることから分配トレイが管を貫通させる孔を有することは明らかであるから、本願発明における「前記反応器は、触媒が固定床に存在する少なくとも1つの帯域と、その大きさが反応器断面積に相当する有孔分配トレイによって前記帯域と分離された帯域とを有し、この分離された帯域において液体及び気体状の出発物質が前記反応器に導入され」の構成に相当する。
引用発明における「参照番号SMVで販売されているSulzer型充填物」は、刊行物1において「使用される充填物は、例えば、特に参照番号SMVまたはSMXとして知られているSulzer型充填物、・・・スタティックミキサー・・・に関するそれらの会社からの特許に記載されている充填物・・・である」と記載され(摘示(1e))、また、刊行物2において「シュルゼール(SULZER)社によって販売されているSMV型のスタティックミキサー」(摘示(2a))と記載されているとおり、本願発明1における「スタティックミキサー」に相当する。
そして、引用発明における「トレイにはトレイの底部を越えて伸びる管を備え、その管の内部には参照番号SMVで販売されるSulzer型充填物が充填され、それによって2相混合物が形成される」の構成は、刊行物1における「下降管は、分配トレイ(P)の上方にある部分と、分配トレイ(P)の下方にる部分とを備える。換言すれば、管は、トレイの底部を通って伸びている」(摘示(1f))という記載のとおり、引用発明1における「トレイの底部を越えて伸びる管」が、分配トレイの孔及びその上方及び下方に渡って配置されていることが明らかであり、その「管の内部」に充填された「Sulzer型充填物」も、分配トレイの孔及びその上方及び下方に渡る領域において配置されているといえ、そのことは、刊行物1における図2及び図3(摘示(1m))からみても明らかであるから、本願発明における「前記分配トレイがスタティックミキサーを有しており、該スタティックミキサーは前記分配トレイの少なくとも一方の面で前記孔中に配置され」ている構成に相当する。
してみると、本願発明1と引用発明1は、
「反応器中に少なくとも3つの相が存在する方法であって、少なくとも1つの出発物質が気体状であり、1つの出発物質が液状であり、かつ触媒が固定床中にある前記反応器を、出発物質が並流で貫流する前記方法において、
前記反応器は、触媒が固定床中に存在する少なくとも1つの帯域と、その大きさが反応器断面積に相当する有孔分配トレイによって前記帯域と分離された帯域とを有し、この分離された帯域において液状及び気体状の出発物質が前記反応器に導入され、
前記分配トレイがスタティックミキサーを有しており、該スタティックミキサーは前記分配トレイの少なくとも一方の面で前記孔中に配置されており、
方法が選択的水素化反応方法である、前記方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明においては、反応器が、「3より小さいスリム度を有しており」と特定されているのに対し、引用発明では、そのように特定されていない点
(相違点2)
本願発明においては、選択的水素化反応方法が、「ブタジエン又はブタジエン含有流を線状ブテン又は線状ブテンとの混合物へ水素化する」と特定されているのに対し、引用発明においては、そのように特定されていない点

(4)相違点についての判断

ア 相違点1について

(ア)「スリム度」の定義について
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0013】には、「スリム度」の定義について「反応帯域の直径(反応器-直径)に対する反応帯域(触媒充填:Katalysatorpackung)の長さの比」と記載されている。

(イ)検討
刊行物1における「本発明の目的は・・・気体および液体間に有効な接触を生じさせ・・・反応器内の嵩を最小化すること・・・にある」(摘示(1c))、「本発明の・・・サブアセンブリーは、分配の改善・・・に加えて、反応器内において内部手段によって占められるスペースを最小限に抑えることができる」(摘示(1j))という記載からみて、引用発明が解決しようとする課題には、気相と液相間に有効な接触を生じさせること、及び、反応器内の嵩を最小化することが含まれるといえる。
また、引用発明において、「充填物によって、気体と液体との間での極めて良好な接触が生じ、かつ、熱交換(急冷機能)および/または物質交換(溶解機能)が促進される」(摘示(1e))ことにより、均一な反応場が形成され、その結果選択的水素化反応の反応性や選択性が向上することは、当業者の技術常識からすれば自明であるし、反応性の向上に伴って、反応促進に必要な触媒量を低減できることも当業者の技術常識に過ぎない。
そうすると、引用発明において、選択的水素化反応の反応性向上に伴って、反応器内の触媒量を低減すること、すなわち、触媒充填された反応帯域の長さを低減することで反応器内の嵩を低減することは、当業者が容易に想到できたことである。さらにその際、触媒充填された反応帯域の直径に対する長さの比、すなわち、スリム度を、所望の反応性及び選択性が得られる範囲で最適化すること、その具体的な範囲として「3より小さいスリム度」を選択することも、当業者の通常の創作能力の範囲内でなし得た程度のことに過ぎない。
したがって、引用発明において、反応器における、反応帯域の直径に対する反応帯域の長さの比を3以下として、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
刊行物3には、「ブタジエンに富む石油留分、すなわち一般に約20?95重量%のブタジエン・・・好ましくは30?50重量%の範囲のブタジエンを含有する処理される炭化水素仕込原料の選択的水素化」(摘示(3d))に適用できる方法であって、「ブタジエンを含有する留分を水素化する、・・・生成物中のブテンへの高い転換率をもたらす・・・方法」について記載され(摘示(3a)(3b)(3d))、従来技術についても、多数記載されている(摘示(3c))。これらは、引用発明と同様に、触媒床に炭化水素仕込み原料を流通させて選択的水素化反応を行うものであり、選択的水素化として、きわめて周知のものである。
してみると、引用発明において、選択的水素化反応方法として、周知の、ブタジエンを含有する留分の選択的水素化に用いることとして、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(5)効果について
本願発明の効果について、本願明細書の段落【0014】には、「出発物質の十分に良好な軸方向及び半径方向の分配及び混合が、5よりも小さいスリム度でも達成することができる・・・そのうえ・・・目的生成物の形成の選択率が高められる」と記載されている。
その点、上記(4)ア(イ)で示したとおり、引用発明1においても、均一な反応場が形成され、選択的水素化反応の反応性や選択性が向上し、スリム度を最適化できることは当業者の技術常識からすれば自明であるといえる。
また、本願明細書の段落【0061】?【0066】には、分配装置(1m^(2) 当たりスタティックミキサー139個、Kenics社の型式3/4''KMS)が設けられたスリム度1.8の反応器にてC_(4) 流からのブタジエンの選択水素化を行った実施例(例2)において、88.1%のブタジエン転化率で、ブテン類(目的生成物)に関する選択率99.7%を達成できたことが記載されている。
しかしながら、その転化率及び選択率は、特定の原料及び反応条件での選択水素化において、特定のスリム度を有する反応器に対し、特定の寸法及び配置からなるスタティックミキサーを使用したときに達成されるものに過ぎず、そうした特定の全てが一致するものでない本願発明についてまで、同等の数値範囲の効果を認めることはできない。
してみると、本願発明の効果は、当業者が予測できた範囲内のものである。

2 理由3について

(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。 同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って検討する。

(2)発明の課題について
本願明細書の段落【0013】には、本発明の課題は「5より小さい反応器のスリム度・・・でも操作されることができる三相反応器を提供すること」であると記載され、また、段落【0017】には、より具体的に、「本発明による反応器を用いて5より小さいスリム度でも、実施される反応(方法)の選択率が達成され、該選択率は5より大きいスリム度を有する反応器中で実施される反応のそれに相当する」ことであると記載されている。
そうすると、本願発明の課題は、
「5より大きいスリム度を有する反応器中で実施される反応の選択率のままで、5より小さい反応器のスリム度でも操作されることができる三相反応器を提供すること」
であると認められる。

(3)検討
本願明細書の段落【0025】?【0029】には、好適なスタティックミキサーの数及び配置について、段落【0033】には、液体中に分散された気泡の好適なザウター平均径について、段落【0034】?【0035】には、好適な反応の種類について記載されており、さらに、段落【0042】?【0058】には、特別な実施態様、すなわち、1-ブテン又は2-ブテン類へか又は線状ブテン類の混合物へのブタジエン類の選択水素化の実施に関する好適な反応条件について、それぞれ記載されている。
しかしながら、三相反応器による反応の選択率は、各種反応条件に左右されるものであるから、当業者であっても、上記好適な反応条件を特定することだけで、直ちに5より小さいスリム度の反応器での反応における選択率を、5より大きいスリム度を有する反応器中で実施される反応の選択率と同等程度に制御できると解することはできないし、本願明細書の記載全体や当業者の技術常識を参酌してもそう解するに足る根拠は発見できない。
その点、本願明細書の段落【0061】?【0066】には、分配装置(1m^(2) 当たりスタティックミキサー139個、Kenics社の型式3/4''KMS)が設けられたスリム度1.8の反応器にてC_(4) 流からのブタジエンの選択水素化を行った実施例(例2)において、スリム度2.6の反応器にてC_(4) 流からのブタジエンの選択水素化を行った比較例(例1)と同等の転化率で、同等以上のブテン類(目的生成物)選択率を達成できたことが一応記載されている。
しかしながら、その選択率は、特定の原料及び反応条件での選択水素化において、特定のスリム度を有する反応器に対し、特定の寸法及び配置からなるスタティックミキサーを使用したときに達成されるものに過ぎず、そうした特定の全てが一致するものでない本願発明についてまで、上記(2)で示した発明の課題を解決できると認めることはできない。
してみると、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(2)で示した発明の課題を解決できると認識できるものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-31 
結審通知日 2014-08-04 
審決日 2014-08-18 
出願番号 特願2005-132711(P2005-132711)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07B)
P 1 8・ 537- WZ (C07B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野口 勝彦杉江 渉  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 氏原 康宏
門前 浩一
発明の名称 固体触媒上で液体と気体とを連続的に反応させるための反応器及び方法  
代理人 篠 良一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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