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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1296021
審判番号 不服2013-12180  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-26 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2010- 40561「MIMO-OFDMシステムのための連続ビーム形成」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月12日出願公開、特開2010-178352〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2005年4月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年5月7日 米国,2004年6月2日 米国,2004年6月9日 米国,2005年2月3日 米国)を国際出願日とする特願2007-511462号の一部を、平成22年2月25日に新たな特許出願としたものであって、平成25年2月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定

[結論]

平成25年6月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正について

平成25年6月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、その内容からみて、平成24年8月28日付けの手続補正書に記載された特許請求の範囲の記載を、

「 【請求項1】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムでデータを送信する方法であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得することと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することと
を含む方法。
【請求項2】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
前記周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する
こと
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
前記周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的
に処理すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、
前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、
前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域内でビーム形成を実行すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを処理することと、
前記ビーム形成を達成するために、前記アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを循環シフトすることと
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複数の時間領域サンプルのシーケンスが前記複数のアンテナのために取得され、前記複数の時間領域サンプルのシーケンスは、異なる量だけ循環シフトされる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
様々な時点で開始する、前記複数のアンテナから複数の時間領域サンプルのシーケンスを送信することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アンテナごとに前記複数の周波数サブバンド全体にわたって線形に変化する移相を適用
することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
アンテナごとに前記複数の周波数サブバンド全体にわたって連続して変化する移相を適用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アンテナのために選択された関数に基づいて、アンテナごとの前記複数の周波数サブバンド全体にわたって連続して変化する移相を決定することをさらに含む請求項11に
記載の方法。
【請求項13】
前記ビーム形成は、適応して実行され、経時的に変化する請求項1に記載の方法。
【請求項14】
異なる時間間隔に前記複数のアンテナのための異なる遅延の集合を選択することであって、各遅延の集合は、前記複数のアンテナの各々に対する前記遅延量を示す、選択すること
をさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項15】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムにおける装置であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを提供する空間プロセッサと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するためのビームフォーマと
を含む装置。
【 請求項16】
前記空間プロセッサは、前記周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記空間プロセッサは、前記周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記空間プロセッサは、単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項15に記載の装置。
【請求項19】
前記ビームフォーマは、前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域でビーム形成を実行する請求項15に記載の装置。
【請求項20】
前記ビームフォーマは、前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域でビーム形成を実行する請求項15記載の装置。
【請求項21】
前記アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを変換する変調器をさらに含み、前記ビームフォーマは、前記ビーム形成を達成するために、前記アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを遅延させる、請求項15に記載の装置。
【請求項22】
前記変調器は、前記複数のアンテナのための複数の時間領域サンプルのシーケンスを提供し、前記ビームフォーマは、異なる遅延量だけ、前記複数の時間領域サンプルのシーケンスを遅延させる請求項21に記載の装置。
【請求項23】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムにおける装置であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得するための手段と、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段と
を含む装置。
【請求項24】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
前記周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
前記周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項23に記載の装置。
【請求項26】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項23に記載の装置。
【請求項27】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、
前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行するための手段
を含む請求項23に記載の装置。
【請求項28】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、
前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域内でビーム形成を実行するための手段
を含む請求項23に記載の装置。
【請求項29】
前記アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを変換するための手段と、
前記ビーム形成を達成するために、前記アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを遅延させるための手段と
をさらに含む請求項23に記載の装置。」

から、平成25年6月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載された、

「 【請求項1】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムでデータを送信する方法であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得することと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することと
を含み、前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む、方法。
【請求項2】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
前記各周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
前記各周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記データシンボルに対して空間処理を実行することは、
単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、
前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域内でビーム形成を実行すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記各アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを処理することと、
前記ビーム形成を達成するために、前記各アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを循環シフトすることと
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
複数の時間領域サンプルのシーケンスが前記複数のアンテナのために取得され、前記複数の時間領域サンプルのシーケンスは、異なる量だけ循環シフトされる請求項6に記載の方法。
【請求項8】
様々な時点で開始する、前記複数のアンテナから複数の時間領域サンプルのシーケンスを送信することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アンテナごとに前記複数の周波数サブバンド全体にわたって線形に変化する移相を適用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
アンテナごとに前記複数の周波数サブバンド全体にわたって連続して変化する移相を適用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記各アンテナのために選択された関数に基づいて、アンテナごとの前記複数の周波数サブバンド全体にわたって連続して変化する移相を決定することをさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ビーム形成は、適応して実行され、経時的に変化する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
異なる時間間隔に前記複数のアンテナのための異なる遅延の集合を選択することであって、各遅延の集合は、前記複数のアンテナの各々に対する前記遅延量を示す、選択すること
をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項14】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムにおける装置であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを提供する空間プロセッサと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するためのビームフォーマと
を含み、前記ビームフォーマは、前記各周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域でビーム形成を実行する、装置。
【請求項15】
前記空間プロセッサは、前記各周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記空間プロセッサは、前記各周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項14に記載の装置。
【請求項17】
前記空間プロセッサは、単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理する請求項14に記載の装置。
【請求項18】
前記ビームフォーマは、前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域でビーム形成を実行する請求項14に記載の装置。
【請求項19】
前記各アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを変換する変調器をさらに含み、前記ビームフォーマは、前記ビーム形成を達成するために、前記各アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを遅延させる、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
前記変調器は、前記複数のアンテナのための複数の時間領域サンプルのシーケンスを提供し、前記ビームフォーマは、異なる遅延量だけ、前記複数の時間領域サンプルのシーケンスを遅延させる請求項19に記載の装置。
【請求項21】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムにおける装置であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得するための手段と、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段と
を含み、前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行するための手段を含む、装置。
【請求項22】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
前記各周波数サブバンドの直交空間チャネルで前記データシンボルを送信するために、固有モード行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
前記各周波数サブバンドの複数の空間チャネルで前記データシンボルの各々を送信するために、ステアリング行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項21に記載の装置。
【請求項24】
前記データシンボルに対して空間処理を実行するための手段は、
単位行列を用いて周波数サブバンドごとに前記データシンボルを空間的に処理するための手段
を含む請求項21に記載の装置。
【請求項25】
前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、
前記複数のアンテナに対し異なる遅延量を適用することにより、時間領域内でビーム形成を実行するための手段
を含む請求項21に記載の装置。
【請求項26】
前記各アンテナのための時間領域サンプルのシーケンスを取得するために、アンテナごとに前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを変換するための手段と、
前記ビーム形成を達成するために、前記各アンテナのために選択された遅延量だけ、各アンテナのための前記時間領域サンプルのシーケンスを遅延させるための手段と
をさらに含む請求項21に記載の装置。」

と補正するものである。


2.補正事項の整理

本件補正は、
(1)本件補正前の請求項5の「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」を「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」と補正すると共に、独立請求項として新請求項1とし、
(2)本件補正前の請求項1-4を削除し、
(3)本件補正前の請求項2-4、6-14の内容を、新請求項1に従属する新請求項2-13とし、
(4)本件補正前の請求項19の「前記ビームフォーマは、前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域でビーム形成を実行する」を「前記ビームフォーマは、前記各周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域でビーム形成を実行する」と補正すると共に、独立請求項として新請求項14とし、
(5)本件補正前の請求項15-18を削除し、
(6)本件補正前の請求項16-18、20-22の内容を、新請求項14に従属させて新請求項15-20とし、
(7)本件補正前の請求項27の「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行するための手段を含む」を「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行するための手段は、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行するための手段を含む」と補正すると共に、独立請求項として新請求項21とし、
(8)本件補正前の請求項23-26を削除し、
(9)本件補正前の請求項24-26、28、29の内容を、新請求項21に従属させて新請求項22-26とするものである。


3.補正の適否

(1)新規事項について

新請求項5に係る発明は、新請求項1を引用しているから、「周波数領域内でビーム形成を実行すること」に加えて、「時間領域内でビーム形成を実行すること」を更に含むものである。
また、同様に新請求項6、7、8、13、18-20、25、26においても、「ビーム成形」を「周波数領域」と「時間領域」の両方で行うものである。
しかし、ビーム形成は、本願明細書の段落【0052】に「ビーム形成は、周波数領域または時間領域で実行されてもよい。・・・」、及び段落【0069】と「・・・。ビーム形成は、OFDM変調の前または後等にデジタル回路網またはアナログ回路網を使用して時間領域または周波数領域で実行されてもよい。」と記載されているように、当該「周波数領域内でビーム形成を実行すること」と新請求項5の「時間領域内でビーム形成を実行すること」とは選択的に行われるビーム形成方法であり、「周波数領域」と「時間領域」の両方で行うことは出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載も示唆もされていなく、自明でもない。このため、本件補正は出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内においてしたものでない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(2)補正の目的要件について

上記(1)のとおりであるが、進んで補正の目的要件についても検討する。
ア 新請求項1に係る補正は上記2.(1)のとおりであるが、「前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算する」のであれば、「前記各周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算する」ことになるのであるから、記載表現は変更されているものの、技術的内容は実質的に変更されていない。したがって、当該補正の目的は、特許法第17条の2第4項各号に掲げられるいずれの事項にも該当しない。
また、同様に新請求項14、21に係る補正についても、記載表現は変更されているものの、技術的内容は実質的に変更されていない。したがって、当該補正の目的は、特許法第17条の2第4項各号に掲げられるいずれの事項にも該当しない。
ここで、請求人は審判請求書にて「上記補正は、平成24年8月28日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項5に記載されていた「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記周波数サブバンドのためのビーム形成行列を用いて、周波数サブバンドごとに前記空間的に処理されたデータシンボルを乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」という構成要素を、本願の特徴をより明確に記載するために、「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」と修正し、追加したものです。」、「また、上記構成要素が記載されていた請求項5、19、27を削除し、請求項番号1?29を1?26に改めました。」と述べているが、記載が不明瞭であるとの指摘はされていないから、特許法第17条の2第4項第4号の「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」には該当しない。そして、上述のとおり、本件補正前の請求項5に係る発明と新請求項5に係る発明とは実質的に差異がないから、上記2.(1)のとおり、本件補正前の請求項5が新請求項1とされ,本件補正前の請求項1-4が削除されたものと認められる。
また、同様に、本件補正前の請求項19、27が新請求項14、21とされ,本件補正前の請求項15-18、23-26が削除されたものと認められる。

イ.本件補正により、新請求項5に係る発明にも「周波数領域内でビーム形成を実行すること」の構成が追加されることになる。しかし、本願明細書の段落【0052】、および段落【0069】の記載によれば、当該「周波数領域内でビーム形成を実行すること」と新請求項5の「時間領域内でビーム形成を実行すること」とは選択的に行われるビーム形成方法であり、「ビーム形成を実行すること」に関して本件補正により追加された、「時間領域」と「周波数領域」の両方で行うことは、補正前の請求項5に係る発明の構成である「周波数領域内でビーム形成を実行すること」を限定的に減縮するものとはいえないし、また、請求項の削除、及び誤記の訂正のいずれにも該当しないことは明らかである。
また、同様に新請求項6、7、13、18-20、25、26においても、「ビーム成形」に係る発明の構成を限定的に減縮するものとはいえないし、また、請求項の削除、及び誤記の訂正のいずれにも該当しないことは明らかである。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


(3)独立特許要件について

上記(1)、(2)のとおりであるが、仮に本件補正が、請求人が審判請求書において主張するように適法な補正であるとした場合について、進んで独立特許要件についても検討する。


ア.補正後の発明

補正後の発明は、平成25年6月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムでデータを送信する方法であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得することと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することと
を含み、前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む、方法。」


イ.引用発明
A.原審の拒絶理由に引用された国際公開第2004/039011号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。([当審注]:当審仮訳は、引用例1の公表公報である特表2006-504335号公報の記載に基づく。また、下線は当審において付加した。以下同じ。)


(ア)「[0002] The present invention relates generally to data communication, and more specifically to a multiple-input multiple-output (MIMO) wireless local area network (WLAN) communication system.」(1頁)

([当審仮訳]:
[0002] 本発明は概してデータ通信に関し、さらに特定すると、多入力多出力(MIMO)無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)通信システムに関する。)

(イ)「[0053] In an embodiment, the MIMO WLAN system employs OFDM to effectively partition the overall system bandwidth into a number of (N_(F)) orthogonal subbands. These subbands are also referred to as tones, bins, or frequency channels. With OFDM, each subband is associated with a respective subcarrier that may be modulated with data. For a MIMO system that utilizes OFDM, each spatial channel of each subband may be viewed as an independent transmission channel where the complex gain associated with each subband is effectively constant across the subband bandwidth.
[0054] In an embodiment, the system bandwidth is partitioned into 64 orthogonal subbands (i.e., N_(F) = 64 ), which are assigned indices of -32 to +31. Of these 64 subbands, 48 subbands (e.g., with indices of ±{ 1, ..., 6, 8, ..., 20, 22, ... , 26}) are used for data, 4 subbands (e.g., with indices of ±{7, 21}) are used for pilot and possibly signaling, the DC subband (with index of 0) is not used, and the remaining subbands are also not used and serve as guard subbands. This OFDM subband structure is described in further detail in a document for IEEE Standard 802.11a and entitled "Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications: High-speed Physical Layer in the 5 GHz Band," September 1999, which is publicly available and incorporated herein by reference. Different numbers of subbands and various other OFDM subband structures may also be implemented for the MIMO WLAN system, and this is within the scope of the invention. For example, all 53 subbands with indices from -26 to +26 may be used for data transmission. As another example, a 128-subband structure, a 256-subband structure, or a subband structure with some other number of subbands may be used. For clarity, the MIMO WLAN system is described below with the 64-subband structure described above. 」(10頁?11頁)

([当審仮訳]:
[0053] 一実施形態では、MIMO WLANシステムは全体的なシステム帯域幅を多くの(N_(F))直交サブバンドに効果的に分割するためにOFDMを利用する。これらのサブバンドは、トーン、ビン、または周波数チャネルとも呼ばれる。OFDMを用いると、各サブバンドはデータで変調されてよいそれぞれの副搬送波と関連付けられる。OFDMを活用するMIMOシステムの場合、各サブバンドの各空間チャネルは、各サブバンドと関連付けられる複雑な利得がサブバンド帯域幅全体で事実上一定である独立した伝送チャネルと見なされてよい。
[0054] 一実施形態では、システム帯域幅は、-32から+31というインデックスを割り当てられる64の直交サブバンド(つまり、N_(F)=64)に分割される。これらの64のサブバンドの内、(例えば、±{1,...,6,8,...,20,22,...,26}というインデックスが付いた)48のサブバンドがデータのために使用され、(例えば±{7,21}というインデックスが付いた)4つのサブバンドがパイロット及びおそらく搬送のために使用され、(0というインデックスの付いた)DCサブバンドは使用されず、残りのサブバンドも使用されずガードサブバンドとして働く。このOFDMサブバンド構造はIEEE規格802.11aについての、公に入手可能であり、参照してここに組み込まれる1999年9月の「第11部:無線LANメディアアクセス制御(MAC)及び物理層(PHY)仕様書:5GHzバンドでの高速物理層(Part 11: Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications: High-speed Physical Layer in the 5 GHz Band)」と題される文書にさらに詳細に説明されている。異なる数のサブバンド及び多様な他のOFDMサブバンド構造もMIMO WLANシステムのために実現されてよく、これは本発明の範囲内にある。例えば、-26から+26のインデックスが付いたすべての53のサブバンドはデータ伝送のために使用されてよい。別の例としては、128のサブバンド構造、256のサブバンド構造またはなんらかの他の数のサブバンドつきのサブバンド構造が使用されてよい。明確にするために、MIMO WLANシステムは、前述された64のサブバンド構造で以下に説明される。)

(ウ)「[00163] A number of transmission modes are supported for the transport channels. Each transmission mode is associated with specific spatial processing at the transmitter and receiver, as described below.

(中略)

For the diversity mode, each data symbol is transmitted redundantly over multiple transmit antennas, multiple subbands, multiple symbol periods, or a combination thereof to achieve spatial, frequency, and/or time diversity. For the beam-steering mode, a single spatial channel is used for data transmission (typically the best spatial channel), and each data symbol is transmitted on the single spatial channel using full transmit power available for the transmit antennas. For the spatial multiplexing mode, multiple spatial channels are used for data transmission, and each data symbol is transmitted on one spatial channel, where a spatial channel may correspond to an eigenmode, a transmit antenna, and so on. The beam-steering mode may be viewed as a special case of the spatial multiplexing mode whereby only one spatial channel is used for data transmission.」(41頁?42頁)

([当審仮訳]:
[00163] 多くの伝送モードがトランスポートチャネルのためにサポートされている。各伝送モードは、後述されるように、送信機及び受信機での特定の空間処理と関連付けられている。

(中略)

ダイバーシティモードの場合、各データ記号は、空間ダイバーシティ、周波数ダイバーシティ及び/または時間ダイバーシティを達成するために複数の送信アンテナ、複数のサブバンド、複数の記号期間、またはその組み合わせ上で冗長に送信される。ビームステアリングモードの場合、単一の空間チャネルがデータ伝送(通常最善の空間チャネル)に使用され、各データ記号が該送信アンテナに使用可能な完全送信電力を使用して単一の空間チャネル上で送信される。空間多重化モードの場合、複数の空間チャネルがデータ伝送に使用され、各データ記号は1つの空間チャネルで送信され、その場合空間チャネルは固有モード、送信アンテナ等に相当してよい。該ビームステアリングモードは、空間多重化モードの特殊なケースとして見なされてよく、それにより1つの空間チャネルだけがデータ伝送に使用される。)

(エ)「[00172] FIG. 7 shows a block diagram of an embodiment of an access point 110x and two user terminals 120x and 120y within the MIMO WLAN system.
[00173] On the downlink, at access point 110x, a transmit (TX) data processor 710 receives traffic data (i.e., information bits) from a data source 708 and signaling and other information from a controller 730 and possibly a scheduler 734. These various types of data may be sent on different transport channels. TX data processor 710 "frames" the data (if necessary), scrambles the framed/unframed data, encodes the scrambled data, interleaves (i.e., reorders) the coded data, and maps the interleaved data into modulation symbols. For simplicity, a "data symbol" refers to a modulation symbol for traffic data, and a "pilot symbol" refers to a modulation symbol for pilot. The scrambling randomizes the data bits. The encoding increases the reliability of the data transmission. The interleaving provides time, frequency, and/or spatial diversity for the code bits. The scrambling, coding, and modulation may be performed based on control signals provided by controller 730 and are described in further detail below. TX data processor 710 provides a stream of modulation symbols for each spatial channel used for data transmission.
[00174] A TX spatial processor 720 receives one or more modulation symbol streams from TX data processor 710 and performs spatial processing on the modulation symbols to provide four streams of transmit symbols, one stream for each transmit antenna. The spatial processing is described in further detail below.
[00175] Each modulator (MOD) 722 receives and processes a respective transmit symbol stream to provide a corresponding stream of OFDM symbols. Each OFDM symbol stream is further processed to provide a corresponding downlink modulated signal. The four downlink modulated signals from modulator 722a through 722d are then transmitted from four antennas 724a through 724d, respectively.」(46頁)

([当審仮訳]:
[00172] 図7は、MIMO WLANシステム内のアクセスポイント110x及び2つのユーザ端末120xと120yの実施形態のブロック図を示している。
[00173] ダウンリンクでは、アクセスポイント110xで、送信(TX)データプロセッサ710がデータソース708からトラヒックデータ(つまり情報ビット)、及びコントローラ730及びおそらくスケジューラ734から搬送情報及び他の情報を受信する。これらの多様なタイプのデータは様々なトランスポートチャネルで送信されてよい。TXデータプロセッサ710は(必要な場合)データを「フレームに入れ」、該フレームに入れられた/フレームに入れられていないデータをスクランブルし、該スクランブルされたデータを符号化し、該符号化されたデータをインタリーブし(つまり再順序付けし)、該インタリーブされたデータを変調記号にマッピングする。簡単にするために、「データ記号」はトラヒックデータのための変調記号を指し、「パイロット記号」はパイロットのための変調記号を指す。スクランブリングはデータビットをランダム化する。該符号化はデータ伝送の信頼性を高める。該インタリーブは該コードビットに時間ダイバーシティ、周波数ダイバーシティ、及び/または空間ダイバーシティを与える。該スクランブリング、符号化及び変調は、コントローラ730により提供される制御信号に基づいて実行されてよく、さらに詳細に後述される。TXデータプロセッサ710は、データ伝送に使用される各空間チャネルに変調記号のストリームを与える。
[00174] TX空間プロセッサ720は、TXデータプロセッサ710から1つ以上の変調記号ストリームを受け取り、送信記号の4つのストリーム、つまり送信アンテナごとに1つのストリームを提供するために変換記号で空間処理を実行する。空間処理はさらに詳しく後述される。
[00175] 各変調器(MOD)722は、OFDM記号の対応するストリームを提供するためにそれぞれの送信記号ストリームを受信、処理する。各OFDM記号ストリームは対応するダウンリンク変調信号を提供するためにさらに処理される。次に、変調器722aから722dの4つのダウンリンク変調信号がそれぞれ4本のアンテナ724aから724dに送信される。)

(オ)「[00213] FIG. 9A shows a block diagram of a transmitter unit 900 capable of performing the transmit processing for the spatial multiplexing mode. Transmitter unit 900 is another embodiment of the transmitter portion of the access point and the user terminal. For the spatial multiplexing mode, again assuming that four transmit antennas and four receive antennas are available, data may be transmitted on up to four spatial channels. A different rate may be used for each spatial channel depending on its transmission capacity. Each rate is associated with a particular code rate and modulation scheme, as shown in Table 25. In the following description it is assumed that N_(E) spatial channels are selected for use for data transmission, where N_(E) ≦ N_(S) ≦min{N_(T) ,N_(R) }.
[00214] Within a TX data processor 710b, framing unit 808 frames the data for each FCH/RCH packet to generate one or more PHY frames for the packet. Each PHY frame includes the number of data bits that may be transmitted in all N_(E ) spatial channels within 6 OFDM symbols. Scrambler 810 scrambles the data for each transport channel. Encoder 812 receives and codes the scrambled data in accordance with a selected coding scheme to provide code bits. In an embodiment, a common coding scheme is used to code the data for all N_(E) spatial channels, and different code rates for different spatial channels are obtained by puncturing the code bits with different puncturing patterns. Puncture unit 814 thus punctures the code bits to obtain the desired code rate for each spatial channel. The puncturing for the spatial multiplexing mode is described in further detail below.
[00215] A demultiplexer 816 receives and demultiplexes the code bits from puncture unit 814 to provide N_(E) code bit streams for the N_(E) spatial channels selected for use. Each code bit stream is provided to a respective interleaver 818, which interleaves the code bits in the stream across the 48 data subbands. The coding and interleaving for the spatial multiplexing mode are described in further detail below. The interleaved data from each interleaver 818 is provided to a respective symbol mapping unit 820.
[00216] In the spatial multiplexing mode, up to four different rates may be used for the four spatial channels, depending on the received SNRs achieved for these spatial channels. Each rate is associated with a particular modulation scheme, as shown in Table 25. Each symbol mapping unit 820 maps the interleaved data in accordance with a particular modulation scheme selected for the associated spatial channel to provide modulation symbols. If all four spatial channels are selected for use, then symbol mapping units 820a through 820d provide four streams of modulation symbols for the four spatial channels to a TX spatial processor 720b.
[00217] TX spatial processor 720b performs spatial processing for the spatial multiplexing mode. For simplicity, the following description assumes that four transmit antennas, four receive antennas, and 48 data subbands are used for data transmission.The data subband indices are given by the set K, where K = ±{1, ..., 6, 8... , 20, 22, ...26} for the OFDM subband structure described above.」(57頁?58頁)

([当審仮訳]:
[00213] 図9Aは、空間多重化モードのための送信処理を実行できる送信機装置900のブロック図を示している。送信機装置900は、アクセスポイント及びユーザ端末の送信機部分の別の実施形態である。空間多重化モードの場合、再び4本の送信アンテナ及び4本の受信アンテナが利用できると仮定すると、データは最高4つの空間チャネル上で送信されてよい。空間チャネルごとに、これの伝送容量に応じて異なるレートが使用されてよい。各レートは、表25に示されるように特定の情報点率及び変調方式に関連付けられている。以下の説明では、N_(E)個の空間チャネルがデータ伝送用に使用するために選択され、この場合N_(E)≦N_(S)≦min{N_(T),N_(R)}であると仮定される。
[00214] TXデータプロセッサ710b内では、フレーミング装置808がFCH/RCHパケットごとにデータをフレームに入れ、パケットのために1つ以上のPHYフレームを生成する。各PHYフレームは6個のOFDM記号内のN_(E)個すべての空間チャネルで送信されてよいデータビットの数を含む。スクランブラ810はトランスポートチャネルごとにデータをスクランブルする。符号器812は、コードビットを提供するために選択された符号化方式に従ってスクランブルされたデータを受信し、符号化する。一実施形態では、共通の符号化方式がN_(E)個すべての空間チャネルのためのデータを符号化するために使用され、異なる空間チャネルのための異なる情報点率が異なるパンクチャパターンを用いてコードビットをパンクチャすることにより取得される。したがって、パンクチャ装置814は空間チャネルごとに所望される情報点率を取得するためにコードビットをパンクチャする。空間多重化モードのためのパンクチャはさらに詳しく後述される。
[00215] デマルチプレクサ816は、使用のために選択されたN_(E)個の空間チャネルにN_(E)個のコードビットストリームを提供するためにパンクチャ装置814からコードビットを受信し、非多重化する。各コードビットストリームが、48のデータサブバンド全体でストリーム中のコードビットをインタリーブするそれぞれのインタリーバ818に提供される。空間多重化モードのための符号化及びインタリーブは、さらに詳しく後述される。各インタリーバ818からの該インタリーブされたデータはそれぞれの記号マッピング装置820に提供される。
[00216] 空間多重化モードでは、最高4つの異なるレートが、これらの空間チャネルに達成される受信されたSNRに応じて4つの空間チャネルのために使用されてよい。各レートは、表25に示されているように、特定の変調方式に関連付けられている。各記号マッピング装置820は、変調記号を提供するために、関連付けられた空間チャネルのために選択された特定の変調方式に従って該インタリーブされたデータをマッピングする。4つすべての空間チャネルが使用のために選択される場合には、次に記号マッピング装置820aから820dがTX空間プロセッサ720bに4つの空間チャネルのための変調記号の4つのストリームを提供する。
[00217] TX空間プロセッサ720bは、空間多重化モードのために空間処理を実行する。簡単にするために、以下の説明では、データ伝送のために4本の送信アンテナ、4本の受信アンテナ及び48のデータサブバンドが使用されると仮定する。データサブバンドインデックスは集合Kにより指定され、ここでは前述されたOFDMサブバンド構造のためにK=±{1,...,6,8...,20,22,...26}である。)

(カ)「[00218]The model for a MIMO-OFDM system may be expressed as:
r(k) = H(k)x(k) + n(k) , for k∈ K , Eq (5)
where r(k) is a "receive" vector with four entries for the symbols received via the four ' receive antennas for subband k (i.e., r(k) = [r _(1) (k) r _(2) (k) r _(3) (k) r _(4) (k)]^(T) );
x(k) is a "transmit" vector with four entries for the symbols transmitted from the four transmit antennas for subband k (i.e., x(k) = [x _(1) (k) x _(2) (k) x _(3 )(k) x _(4) (k)] ^(T) );
H(k) is an (N _(R)×N _(T )) channel response matrix for subband k; and n(k) is a vector of additive white Gaussian noise (AWGN) for subband k.
The noise vector n(k) is assumed to have components with zero mean and a covariance matrix of Λ =σ^(2) I , where I is the identity matrix and σ ^(2) is the noise variance.
[00219] The channel response matrix H(k) for subband k may be expressed as:


where entry h _(ij) (k) , for i∈{1, 2, 3, 4} and j ∈{1, 2, 3, 4} , is the coupling (i.e., complex gain) between transmit antenna i and receive antenna; for subband k. For simplicity, it is assumed that the channel response matrices H(k) , for k ∈ K , are known or can be ascertained by both the transmitter and receiver.
[00220] The channel response matrix H(k) for each subband may be "diagonalized" to obtain the N s eigenmodes for that subband. This can be achieved by performing eigenvalue decomposition on the correlation matrix of H(k) , which is R(k) = H^(H)(k)H(k) , where H^(H) (k) denotes the conjugate transpose of H(k) . The eigenvalue decomposition of the correlation matrix R(k) may be expressed as:

R(k) = V(k)D(k)V^(H)(k), or k ∈ K , Eq (7)
where V(k ) is an (N _(T) ×N _(T) ) unitary matrix whose columns are eigenvectors of R(k) (i.e., V(k ) = [v _(1) (k) v _(2) (k) v _(3) (k) v _(4) (k)], where each v _(i) (k) is an eigenvector for one eigenmode); and
D(k ) is an (N _(T) ×N _(T) ) diagonal matrix of eigenvalues of R(k) .
A unitary matrix is characterized by the property M^(H) M = I . Eigenvectors v_(i).(k ) , for ' i ∈ {1, 2, 3, 4} , are also referred to as transmit steering vectors for each of the spatial channels.
[00221] The channel response matrix H(k) may also be diagonalized using singular value decomposition, which may be expressed as:

H(k) = V(k)Σ(k)V ^(H) (k) , for k ∈ K , Eq (8)
where V(k) is a matrix whose columns are right eigenvectors of H(k);
Σ(k ) is a diagonal matrix containing singular values of H(k) , which are positive square roots of the diagonal elements of D(k) , the eigenvalues of R(k);and
U(k) is a matrix whose columns are left eigenvectors of H(k).
Singular value decomposition is described by Gilbert Strang in a book entitled "Linear Algebra and Its Applications," Second Edition, Academic Press, 1980. As shown in equations (7) and (8), the columns of the matrix V(k) are eigenvectors of R(k) as well as right eigenvectors of H(k) . The columns of the matrix V(k) are eigenvectors of H(k )H ^(H) (k) as well as left eigenvectors of H(k) .
[00222] The diagonal matrix D(k) for each subband contains non-negative real values along the diagonal and zeros everywhere else. The eigenvalues of R(k) are denoted as {λ_(1)(k), λ_(2)(k), λ_(3)(k), λ_(4) (k) } or {λ_(i) (k)} for i∈ {l, 2, 3, 4} .
[00223] The eigenvalue decomposition may be performed independently for the channel response matrix H(k) for each of the 48 data subbands to determine the four eigenmodes for that subband (assuming that each matrix H(k) is full rank). The four eigenvalues for each diagonal matrix D(k ) may be ordered such that {λ_(1)(k)≧λ_(2)(k)≧λ_(3)(k)≧λ _(4)(k) } , where λ_(l)(k) is the largest eigenvalue and λ_(4) (k) is the smallest eigenvalue for subband k. When the eigenvalues for each diagonal matrix D(k ) are ordered, the eigenvectors (or columns) of the associated matrix V(k) are also ordered correspondingly.

[00224] -[00234] 略

[00235] The gain to use for each subband of each wideband eigenmode may be determined based on the transmit power P _(m) (k) allocated to that subband. The gain g _(m) (k) for each data subband may be expressed as:
g _(m)(k)={P m (k)}^(1/2) , for k∈K and rn ={l, 2, 3, 4}, Eq (14)

A diagonal gain matrix G(k) may be defined for each subband. This matrix G(k) includes the gains for the four eigenmodes for subband k along the diagonal, and may be expressed as: G(k) = diag[g _(1)(k), g _(2) (k), g _(3) (k), g _(4) (k)] .
[00236] For the spatial multiplexing mode, the transmit vector x(k) for each data subband may be expressed as:
x(k) = V(k)G(k)s(k) , for k ∈ K , Eq (15)
where
s(k) = [s _(1)(k) s _(2) (k) s _(3) (k) s _(4) (k)]^(T) , and
x(k) = [x _(1)(k) x _(2) (k) x _(3) (k) x _(4) (k)]^(T).
The vector s(k) includes four modulation symbols to be transmitted on the four eigenmodes for subband k, and the vector x(k) includes four transmit symbols to be transmitted from the four antennas for subband k. For simplicity, equation (15) does not include the correction factors used to account for differences between the transmit/receive chains at the access point and the user terminal, which are described in detail below.(58頁?64頁)

([当審仮訳]:
[00218] MIMO-OFDMシステムのモデルは、以下のように表されてよく、

r(k) = H(k)x(k) + n(k) , for k∈ K , Eq (5)

ここではr(k)は、サブバンドkのための該4本の受信アンテナ(つまり、r(k)=[r_(1)(k)r_(2)(k)r_(3)(k)r_(4)(k)]^(T))を介して受信される記号のための4つのエントリ付きの「受信」ベクトルであり、
x(k)は、サブバンドkのための該4本の送信アンテナ(つまり、x(k)=[x_(1)(k)x_(2)(k)x_(3)(k)x_(4)(k)]^(T)から送信される記号のための4つのエントリ付きの「送信」ベクトルであり、
H(k)は、サブバンドkの(N_(R)xN_(T))チャネル応答マトリクスであり、
n(k)は、サブバンドkの付加白色ガウス雑音(AWGN)のベクトルである。
雑音ベクトルn(k)は、ゼロ平均及びΛ_(n)=σ^(2)Iという共分散マトリクスを有すると仮定され、ここではIは単位マトリクスであり、σ^(2)は雑音分散である。
[00219] サブバンドkのチャネル応答マトリクスH(k)は、以下のように表されてよく、

(・・・式は略・・・) 式(6)

ここではi∈{1,2,3,4}及びj∈{1,2,3,4}の場合のエントリh_(ij)(k)は、サブバンドkの送信アンテナiと受信アンテナjの間の結合(つまり、複素利得)である。簡単にするために、k∈Kの場合のチャネル応答マトリクスH(k)は既知であるか、あるいは送信機と受信機の両方により確かめることができると仮定される。
[00220] サブバンドごとのチャネル応答マトリクスH(k)は、そのサブバンドのN_(s)個の固有モードを取得するために「対角マトリクス」されてよい。これは、R(k)=H^(H)(k)H(k)であるH(k)の相関マトリクス上で固有値分解を実行することにより達成でき、ここではH^(H)(k)はH(k)の共役転置である。相関マトリクスR(k)の固有値分解は以下のように表されてもよく、
R(k) = V(k)D(k)V^(H)(k),但し k ∈ K , 式 (7)
ここではV(k)はその列がR(k)の固有ベクトルである(N_(T)xN_(T))のユニタリーマトリクスであり(つまり、V(k)=[v_(1)(k)v_(2)(k)v_(3)(k)v_(4)(k)]であり、ここでは各v_(1)(k)は1つの固有モードのための固有ベクトルであり)、
D(k)は、R(k)の固有値の(N_(T)xN_(T))の対角マトリクスである。
ユニタリーマトリクスはプロパティM^(H)M=Iによって特徴付けられている。i∈{1,2,3,4}の場合の固有ベクトルv_(i)(k)は空間チャネルのそれぞれの送信ステアリングベクトルとも呼ばれる。
[00221] チャネル応答マトリクスH(k)は、特異値分解を使用して対角行列にされてもよく、以下のように表されてよく、
H(k) = V(k)Σ(k)V ^(H) (k) , 但し k ∈ K , 式 (8)
ここではV(k)はその列がH(k)の右の固有ベクトルであるマトリクスであり、
Σ(k)は、D(k)の対角成分の正の平方根、R(k)の固有値である、H(k)の特異値を含む対角マトリクスであり、
U(k)は、その列がH(k)の左の固有ベクトルであるマトリクスである。
特異値分解は、「線形代数及びこれの応用例(Linear Algebra and Its Applications)」、1980年、アカデミック出版(Academic Press)、第2版と題される本の中でGilbert Strangにより説明されている。式(7)及び(8)に示されているように、マトリクスV(k)の列はH(k)の右の固有ベクトルだけではなくR(k)の固有ベクトルでもある。マトリクスU(k)の列はH(k)の左固有ベクトルだけではなくH(k)H^(H)(k)の固有ベクトルでもある。
[00222] 各サブバンドの対角マトリクスD(k)は、対角線に沿った負ではない実数及び他のどの場所かのゼロを含む。R(k)の固有値は{λ_(1)(k),λ_(2)(k),λ_(3)(k),λ_(4)(k)}または{i∈{1,2,3,4}の場合{λ_(i)(k)}として示される。
[00223] 固有値分解は、(各マトリクスH(k)が最大階数であると仮定して)そのサブバンドの4つの固有モードを決定するために48のデータサブバンドごとにチャネル応答マトリクスH(k)について個別に実行されてよい。各対角マトリクスD(k)の4つの固有値は、{λ_(1)(k)≧λ_(2)(k)≧λ3(k)≧λ_(4)(k)}となるように順序付けられてよく、ここではλ_(1)(k)は最大固有値であり、λ_(4)(k)はサブバンドkの最小固有値である。各対角マトリクスD(k)の固有値が順序付けられると、関連付けられたマトリクスV(k)の固有ベクトル(または列)も相応して順序付けられる。

[00224] -[00234] 略

[00235] ワイドバンド固有モードごとのサブバンドごとに使用するための利得が、そのサブバンドに割り当てられる送信電力P_(m)(k)に基づいて決定されてよい。データサブバンドごとの利得g_(m)(k)は以下のように表されてよい。

g _(m) (k) = {P m (k)}^(1/2) , 但し k ∈ K および rn = {l, 2, 3, 4}, 式 (14)
対角利得マトリクスG(k)がサブバンドごとに定義されてよい。このマトリクスG(k)は、対角線に沿ったサブバンドkのための4つの固有モードの利得を含み、

G(k) = diag[g _(1)(k), g _(2) (k), g _(3) (k), g _(4) (k)]

として表されてよい。
[00236] 空間多重化モードの場合、データサブバンドごとの送信ベクトルx(k)は以下のように表されてよく、

x(k) = V(k)G(k)s(k) , 但し k ∈ K , 式 (15)
ここでは、

s(k) = [s _(1)(k) s _(2) (k) s _(3) (k) s _(4) (k)]^(T) , および
x(k) = [x _(1)(k) x _(2) (k) x _(3) (k) x _(4) (k)]^(T).

である。
ベクトルs(k)はサブバンドkのための4つの固有モードで送信される4つの変調記号を含み、ベクトルx(k)はサブバンドkのための4本のアンテナから送信される4つの送信記号を含む。簡単にするために、式(15)は、詳しく後述されるアクセスポイントとユーザ端末での送信チェイン/受信チェインの間の差異を説明するために使用される補正係数を含まない。)

(キ)「[00237] FIG. 9B shows a block diagram of an embodiment of TX spatial processor 720b capable of performing spatial processing for the spatial multiplexing mode. For simplicity, the following description assumes that all four wideband eigenmodes are selected for use. However, less than four wideband eigenmodes may also be selected for use.
[00238] Within processor 720b, a demultiplexer 932 receives the four modulation symbol streams (denoted as s_(1)(n) through s_(4)(n)) to be transmitted on the four wideband eigenmodes, demultiplexes each stream into 48 substreams for the 48 data subbands, and provides four modulation symbol substreams for each data subband to a respective TX subband spatial processor 940. Each processor 940 performs the processing shown in equation (15) for one subband.
[00239] Within each TX subband spatial processor 940, the four modulation symbol substreams (denoted as s_(1)(k) through s_(4) (k)) are provided to four multipliers 942a through 942d, which also receive the gains g_(1)(k), g_(2)(k), g_(3)(k), and g_(4)(k) for the four eigenmodes of the associated subband. Each gain g_(m)(k) may be determined based on the transmit power P _(m)(k) allocated to that subband/eigenmode, as shown in equation (14). Each multiplier 942 scales its modulation symbols with its gain g_(m) (k) to provide scaled modulation symbols. Multipliers 942a through 942d provide four scaled modulation symbol substreams to four beam-formers 950a through 950d, respectively.」(64頁)

([当審仮訳]:
[00237] 図9Bに、空間多重化モードのための空間処理を実行できるTX空間プロセッサ720bの実施形態のブロック図を示す。簡単にするために、次の説明では、4つすべてのワイドバンド固有モードが使用のために選択されると仮定する。しかしながら、4つ未満のワイドバンド固有モードも使用のために選択されてよい。
[00238] プロセッサ720b内では、デマルチプレクサ932が4つのワイドバンド固有モードで送信される(s_(1)(n)からs_(4)(n)として示される)4つの変調記号ストリームを受信し、48のデータサブバンドのために各ストリームを48のサブストリームに非多重化し、そしてそれぞれのTXサブバンド空間プロセッサ940に、データサブバンドごとの4つの変調記号サブストリームを提供する。各プロセッサ940は、1つのサブバンドの式(15)に示される処理を実行する。
[00239] 各TXサブバンド空間プロセッサ940内では、(s_(1)(k)からs_(4)(k)として示される)4つの変調記号サブストリームが、関連付けられたサブバンドの4つの固有モードのために利得g_(1)(k)、g_(2)(k)、g_(3)(k)、及びg_(4)(k)も受信する4台の乗算器942aから942dに提供される。各利得g_(m)(k)は、式(14)に示されるようにそのサブバンド/固有モードに割り当てられる送信電力P_(m)(k)に基づいて求められてよい。各乗算器942は、その利得g_(m)(k)でその変調記号をスケーリングし、スケーリングされた変調記号を提供する。乗算器942aから942dは4つのスケーリングされた変調記号サブストリームをそれぞれ4つのビームフォーマ950aから950dに提供する。)


上記引用例1の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、

a.上記(ア)の記載によれば、引用例1には、「多入力多出力(MIMO)無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)通信システム」が、また、上記(イ)には、該「MIMO WLANシステム」が「OFDM」を用いることが記載されいる。
そして上記(エ)の段落[00173]、[00174]、及び[00175]の記載によれば、「MIMO WLANシステム」が「OFDM」を用いてデータを送信する方法が記載されているといえる。

b.上記(イ)の記載によれば、「OFDM」のサブバンドがデータのために用いられている。
また、上記(ウ)の記載によれば、MIMOの「伝送モード」は空間処理に関連付けられること、及び、「伝送モード」の1つに「空間チャネル」毎に異なるデータ記号が送信される「空間多重化モード」があるものと認められる。そして、上記(オ)、(カ)、及び(キ)および図9Aには、「空間多重化モード」で送信する実施例が記載されており、上記(オ)の段落[00217]によれば、「TX空間プロセッサ720b」が空間多重化モードでの空間処理を行っている。
さらに、上記(キ)の段落[00238]には、「TX空間プロセッサ720b」を構成する「デマルチプレクサ932」によって、「変調記号ストリーム」をデータサブバンド毎の「変調記号サブストリーム」に分け、データサブバンド毎に設けられる「TXサブバンド空間プロセサ940」に提供し、該「TXサブバンド空間プロセサ940」は「変調記号サブストリーム」に下記式(15)の処理を行うことが記載されている。
「 x(k)=V(k)G(k)s(K) 式(15)」
したがって、データサブバンド毎の「変調記号ストリーム」を、データサブバンド毎の「TXサブバンド空間プロセサ940」で式(15)の空間処理を行っているといえる。

したがって、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。

「多入力多出力(MIMO)無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)通信システムでOFDMを用いてデータを送信する方法であって、
データサブバンド毎の変調記号ストリームを、データサブバンド毎のTXサブバンド空間プロセサで空間処理を行う、
方法。」


B.原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である、Stefan Kaiser著、「Spatial Transmit Diversity Techniques for Broadband OFDM Systems」(邦訳:広帯域OFDMシステムのための空間送信ダイバシティ技術)、Global Telecommunications Conference, 2000. GLOBECOM '00. IEEE,2000年、IEEE発行、vol.3,pp.1824-1828(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の記載がある。

(ア)「 II. SPATIAL TRANSMIT DIVERSITY WITH OFDM
Several different techniques to achieve spatial transmit diversity in OFDM systems are discussed in this section. The number of used transmit antennas is M. OFDM is realized by an IFFT and the OFDM blocks shown in the following figures include also a frequency interleaver and a cyclic extension of the OFDM symbol by a guard interval. The guard interval duration is Tg,and has to be chosen such that intersymbol interference (ISI) and intersubchannel interference (ICI) can be avoided. The total number of subcarriers used for data transmission is Nc. 」(1824頁右欄)

([当審仮訳]:
II. OFDMによる空間送信ダイバシティ
OFDMシステムで空間送信ダイバシティを達成するためのいくつかの異なる技術が、このセクションで議論されます。使用される送信アンテナの数はMとします。OFDMはIFFTによって実現され、以下の図中で示されるOFDMブロックはさらに、周波数インタリーバとガード区間によるOFDMシンボルの周期的な拡張を含んでいます。ガード区間の持続時間はTgで、符号間干渉(ISI)およびサブチャネル間干渉(ICI)を回避することができるように選ばれなければなりません。データ伝送に使用されるサブキャリアの総数はNcとします。)


(イ)「C. Phase Diversity (PD)
The PD technique presented in this paper transmits the signals on the M antennas with different phase shifts, where Φm,n, m = 1,...,M -1, n = 1 ,...,Nc, is an antenna and subcarrier specific phase offset. The phase shift is efficiently realized by a phase rotation before OFDM, i.e., before the IFFT. The block diagram of an OFDM system with spatial transmit diversity applying PD is shown in Fig. 3.

In order to achieve constructive and destructive superposition of the signals within the bandwidth of the Nc subchannels, the phase Φm,n has to fulfill the condition

where fn=n/Ts is the nth subcarrier frequency, Ts is the OFDM symbol duration without guard interval and B=Nc/Ts. Thus, we achieve artificial frequency selectivity of the signal spectrum at the receiver antenna.
To increase the frequency diversity by multiple transmit antennas, the phase offset of the nth subcarrier at the mth antenna has to be chosen as

where k is a constant factor introduced for the system design which has to be chosen large enough (k≧1)in order to guarantee a diversity gain and is equal to k introduced in Sec. 11-B.
With the rule of thumb of k = 2 (see Sec. 11-B), the phase offsets with PD can be defined as

Since no delay of the signals at the transmit antennas occur with PD, a shorter guard interval can be used compared to DD, increasing the bandwidth efficiency of the system.」(1825頁左欄?右欄)

([当審仮訳]:
C.位相ダイバシティ(PD)
この論文の中で示されるPD技術は、M本のアンテナから異なる位相シフトを有する信号を送信します。ここでΦm,n、m=1,...,M-1、n=1,...Nc はアンテナとサブキャリアに固有の位相オフセットです。OFDMの前(つまりIFFTの前)に位相回転することによって、位相シフトを効率的に実現することができます。PDを適用した空間送信ダイバシティによるOFDMシステムのブロック図は、図3に示されます。

(・・・図面は省略・・・)

図3.位相ダイバシティを備えたOFDMシステム

Nc個のサブチャネルの帯域幅内での信号の建設的または破壊的な重ね合せを達成するためには、位相Φm,nは、以下の条件を満たさなければなりません。

(・・・式は省略・・・) (4)

ここで、fn=n/Tsは、n番目のサブキャリアの周波数であり、Tsはガード区間を除いたOFDMシンボル周期であり、B=Nc/Tsです。
このようにして、受信アンテナにおいて信号スペクトルの人工的な周波数選択性を得ることができます。
複数の送信アンテナによって周波数ダイバシティを増加させるためには、m番目のアンテナにおけるn番目のサブキャリアの位相オフセットを以下のように選ばなければなりません。

(・・・式は省略・・・) (5)

ここで、kはシステム設計のために導入された定数因子であり、ダイバシティ利得を保証するためには十分に大きく(k ≧ 1)選ばれなければならず、II章Bで導入されたkと同じものです。k = 2 の経験則(II章Bを参照)を用いて、PDの位相オフセットは以下のように定義することができます。

(・・・式は省略・・・) (6)

PDでは送信アンテナにおいて信号の遅延が発生しないので、DDに比べてより短いガード区間を使用することができ、システムの帯域幅利用効率を増加させることができます。)


上記引用例2の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、

上記(ア)には、OFDMシステムにおけるダイバシティを行う方法として「使用される送信アンテナの数はM」、「データ伝送に使用されるサブキャリアの総数はNc」としたものが記載されている。

また、上記(イ)には「この論文の中で示されるPD技術は、M本のアンテナから異なる位相シフトを有する信号を送信します。ここで位相シフトΦm,n、m=1,...,M-1、n=1,...Nc はアンテナとサブキャリアに固有の位相オフセットです。OFDMの前(つまりIFFTの前)に位相回転することによって、位相シフトを効率的に実現することができます。」、また、「複数の送信アンテナによって周波数ダイバシティを増加させるためには、m番目のアンテナにおけるn番目のサブキャリアの位相オフセットを以下のように選ばなければなりません。」と記載されており、位相オフセットが、
Φm,n=4π・m・n/Nc
であることが記載されている。
さらに、引用例2の図3には、上記送信機側の「M本の複数のアンテナ(#0?#M-1)」に左端からデータ入力される信号線の記載があり、左端より入力され分岐された各アンテナへのデータは、「e^(jΦ1,n) n=1,...,Nc」?「e^(jΦM-1,n) n=1,...,Nc」が乗算され、その後「OFDM」処理を受けており、「e^(jΦ1,n) n=1,...,Nc」?「e^(jΦM-1,n) n=1,...,Nc」が乗算することによって位相回転し位相シフトが行われているものと認められる。

したがって、上記引用例2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されている。

(引用発明2)
「OFDMシステムにおける周波数ダイバシテイを増加させる方法であって、
複数のアンテナで送信される入力データに対して、
OFDMの処理の前に入力データに対して、アンテナおよびサブキャリア毎で異なる位相オフセットΦm,n=4π・m・n/Ncからなるe^(jΦm,n)を乗算し位相シフトする、方法」


ウ.対比・判断

引用発明1の「多入力多出力(MIMO)無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)通信システム」は、補正後の発明の「多重入力多重出力(MIMO)通信システム」に相当する。

引用発明1の「データサブバンド」は上記「イ.引用発明」の項中の「A.(イ)」の記載によれば、OFDMのためのサブバンドであり、補正後の発明の「周波数サブバンド」に相当する。
本願明細書の段落【0016】には「 送信側エンティティ210では、TXデータプロセッサ212がデータシンボルを生成するためにトラフィック/パケットデータを処理する(例えば、符号化する、インタリーブする、及びシンボルマッピングする)。」と記載されており、引用発明1の「変調記号」も、引用例1の段落[00214]-[00216](上記「イ.引用発明」の項中の「A.(オ)」参照。)に記載されるように符号化、インタリーブ、及びシンボルマッピングしたものであるから、引用発明1の「変調記号」は、補正後の発明の「データシンボル」に相当する。
また、引用発明1の「変調記号ストリーム」は「変調記号」が連続したものであり、また、データサブバンド毎の「変調ストリーム」をデータサブバンド毎の「TXサブバンド空間プロセサ」で「空間処理」すれば、 データサブバンド毎の空間処理された「変調記号」が取得できることは明らかである。

本願明細書の段落【0020】には、MIMOの「空間処理」には複数のモードがあり、それらのモードは送信側の空間処理によって決まること、及び「空間処理」モードの1つに「固有ステアリング」があることが記載されおり、段落【0026】には「固有ステアリング」での空間処理が「z_(es)(k)=E(k)・s(k) 式3 」と表せることが記載されている。
そして、引用発明1の「データサブバンド毎の変調記号ストリームを、データサブバンド毎のTXサブバンド空間プロセサで空間処理」は、「イ.引用発明」の項中の「A.b.」に記したように「 x(k)=V(k)G(k)s(K) 式15」を行うことである。
ここで、本願明細書の段落【0022】-【0026】によれば、上記式3におけるz_(es)(k)はサブバンドkのために空間処理されたシンボル、E(k)は固有ベクトル、s(k)はサブバンドkで送信されるデータシンボルである。一方の、引用例1の段落[00218]-[00235]によれば、上記式15におけるx(k)はサブバンドkのために空間処理されたシンボル、V(k)は固有ベクトル、s(k)はサブバンドkで送信されるデータシンボルであり、G(k)は送信電力に基づいて決定される利得であり任意に設定可能なものである。したがって、上記式3と上記式15は同一の処理と考えられ、引用発明における「空間処理」が、補正後の発明の「空間処理」に相当するものと認められる。

したがって、補正後の発明と引用発明1とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)

「多重入力多重出力(MIMO)通信システムでデータを送信する方法であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得する、
方法。」


(相違点)
補正後の発明は「複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することとを含み、前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」ものであるのに対して、引用発明1ではビーム形成に関しては記載されていない点。


以下、上記相違点について検討する。

(相違点について)
データをより効率的に送信することは通信分野における一般的課題であり、そのためにOFDMシステムにおいてダイバシティを行うことは普通に行われていることであり、上記引用発明2も、OFDMにおけるダイバシティとして「OFDMの処理の前に入力データに対して、アンテナおよびサブキャリア毎で異なる位相オフセットΦm,n=4π・m・n/Ncからなるe^(jΦm,n)を乗算し位相シフトする」ものである。ここで、アンテナ毎に異なる位相を乗算すれば、指向性をもったビームが形成されることは技術常識(例えば、特開2000-209017号公報(特に、段落【0026】-【0029】参照)、国際公開第2003/021829号(特に、第5頁8欄38行-6頁9欄1行参照)等参照。)であるから、引用発明2のように、サブキャリア毎でアンテナ毎に異なる位相オフセットを乗算すれば、サブキャリア毎で異なった指向性をもったビームが形成されることは明らかである。
したがって、引用発明1においても、上記一般的課題を解決するするために、引用発明2のダイバシティを適用して、各周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルに対して各アンテナで異なった位相を乗算することは、当業者が容易に想到し得たものである。
ここで、複数のデータの各々に乗算することと、該複数のデータの各々に乗算する値を対角成分とする対角行列と該複数のデータの乗算とすることが数学的に等値であることは技術常識であるから、各周波数サブバンドのデータシンボルに各アンテナ毎で行われる位相の乗算を、乗算する位相を対角要素とする対角行列を用いて、該対角行列とデータシンボルとの乗算と変更することは、当業者が設計時に適宜変更なし得た事項に過ぎず、該対角行列のことをビーム形成行列ということも任意である。


そして、補正後の発明の作用効果も引用例1、及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。


エ.むすび

以上のとおり、補正後の発明は、引用例1、及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定にも違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.結語

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反し、また、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定にも違反し、更に、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定にも違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成25年6月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成24年8月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「 【請求項1】
多重入力多重出力(MIMO)通信システムでデータを送信する方法であって、
複数の周波数サブバンドの各々のためのデータシンボルに対して空間処理を実行し、前記周波数サブバンドのための空間的に処理されたデータシンボルを取得することと、
複数のアンテナからの送信の前に、前記複数の周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することと
を含む方法。」

2.引用発明

引用発明1は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.補正の適否」の項中の「(3)独立特許要件について」の項中の「イ.引用発明」の項で認定したとおりである。


3.対比・判断

そこで、本願発明と引用発明1とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から「前記空間的に処理されたデータシンボルに対してビーム形成を実行することは、前記各周波数サブバンドのための前記空間的に処理されたデータシンボルを、前記各周波数サブバンドのための1つのビーム形成行列で乗算することにより、周波数領域内でビーム形成を実行することを含む」という、ビーム形成を実行することに対する限定事項を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成に当該限定事項を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.補正の適否」の項中の「(3)独立特許要件について」の項中の「ウ.対比・判断」の項で検討したとおり、引用例1、及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。


4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1、及び引用例2に記載された発明、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-01 
結審通知日 2014-08-05 
審決日 2014-08-19 
出願番号 特願2010-40561(P2010-40561)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04J)
P 1 8・ 561- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋太田 龍一  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 山本 章裕
山澤 宏
発明の名称 MIMO-OFDMシステムのための連続ビーム形成  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  
代理人 白根 俊郎  
代理人 中村 誠  
代理人 野河 信久  
代理人 赤穂 隆雄  
代理人 井上 正  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 福原 淑弘  
代理人 竹内 将訓  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  

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