• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1296027
審判番号 不服2013-14794  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-01 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2010-510720「ハイブリッド励磁式ロータを有する電気機械」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日国際公開、WO2008/148621、平成23年 4月21日国内公表、特表2011-512776〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2008年5月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年6月4日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月26日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年4月1日)、これに対し、平成25年8月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


2.本願発明
平成25年8月1日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、ただ1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に直径上で互いに対向する切り込み溝(19)が設けられており、
前記の励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
該励磁コイルは、巻線ヘッド(20)にて分けられてロータ軸(21)の周りに案内されており、また
前記励磁コイルは、ロータ外周にて切り込み溝(19)の間に配置されかつ直径上で互いに対向する少なくとも2つの永久磁石(17)と協調動作する、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項2】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
前記の機械(10)の通常動作にて、ロータ(11)は前記2つの極数のうちの多い方の極数を有しており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)における励磁電流(Ie)の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石(17)との協調動作により、極性が交互に代わるほぼ同じ強さの極がロータ外周に生じるようにした、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項3】
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)の巻線ヘッド(20)は、金属薄板パケット(25)の端面にて、ロータ外周に配置されかつ半径方向に磁化される前記の複数の永久磁石(17)と、ロータ中心点との間でそれぞれ弦状に案内される、
請求項1または2に記載の電気機械。
【請求項4】
前記のステータ巻線(13)の出力電圧(Ua)は、前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)における励磁電流(Ie)の強さおよび方向を変更することにより、許容最大値と最小値との間で制御可能である、
請求項1から3までのいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項5】
前記の電気機械は、自動車用の多相交流ジェネレータである、
請求項4に記載の電気機械。
【請求項6】
前記の出力電圧(Ua)は、負荷および温度に依存して制御可能である、
請求項4または5に記載の電気機械。
【請求項7】
半径方向に見て極性が異なる前記の永久磁石(17)が、ロータ外周に2つ配置されており、
当該の2つの永久磁石(17)は、前記の励磁コイル(18)の2つの切り込み溝(19)に対してそれぞれ90°ずれている、
請求項1に記載の電気機械。
【請求項8】
前記の永久磁石(17)がロータ外周に4つ配置されており、
前記の切り込み溝(19)の間で、半径方向の極性が同じ2つずつの磁石は、互いにほぼ同じ大きさの間隔(a)を有し、また切り込み溝(1)に対してほぼ同じ大きさの間隔(a)を有する、
請求項1に記載の電気機械。
【請求項9】
前記の永久磁石(17)がロータ外周に6つ配置されており、
前記の切り込み溝(19)の間で、半径方向の極性が同じ3つずつの磁石は、互いにほぼ同じ大きさの間隔(a)を有し、ないしは切り込み溝(19)に対してほぼ同じ大きさの間隔(a)を有する、
請求項1に記載の電気機械。
【請求項10】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)の巻線ヘッド(20)は、金属薄板パケット(25)の端面にて、ロータ外周に配置されかつ半径方向に磁化される前記の複数の永久磁石(17)と、ロータ中心点との間でそれぞれ弦状に案内され、
前記のロータ(11)は、それぞれ互いに90°ずらされた切り込み溝(19)に入れられた少なくとも2つの励磁コイル(18)を有しており、
当該励磁コイルは、前記の切り込み溝(19)の間でロータ外周に配置されかつ半径方向に極性が交互に代わる4つの永久磁石(17)と協調動作する、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項11】
前記のロータ(11)は、それぞれ互いに90°ずらされた切り込み溝(19)に入れられた4つの励磁コイル(18)を有する、
請求項10に記載の電気機械。
【請求項12】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
前記の永久磁石(17)がロータ外周に2つ設けられており、
当該の2つの永久磁石(17)は、隣の切り込み溝(19)に対して1つずつの外周間隔(a)を有しており、
ここで該外周間隔は、前記の磁石の外周幅(b)に等しいため、励磁コイル(18)にて相応する励磁電流が流れる際に、ロータ外周にて、6個の極である多い方の極数から、2個の極である少ない方の極数に切換制御可能である、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項13】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
前記の永久磁石(17)がロータ外周に4つ設けられており、
当該の4つの永久磁石(17)は、隣の切り込み溝(19)に対して1つずつの外周間隔(a)を有しており、
ここで該外周間隔は、前記の磁石の外周幅(b)に等しいため、励磁コイル(18)にて相応する励磁電流が流れる際に、ロータ外周にて、12個の極である多い方の極数から、4個の極である少ない方の極数に切換制御可能である、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項14】
固定のステータ(12)およびロータを有する電気機械(10)であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線(13)を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータ(11)は、軸方向に積層された金属薄板パケット(25)からなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置されており、
前記の永久磁石(17)がロータ外周に6つ設けられており、
当該の6つの永久磁石(17)は、隣の切り込み溝(19)に対して1つずつの外周間隔(a)を有しており、
ここで該外周間隔は、前記の磁石の外周幅(b)に等しいため、励磁コイル(18)にて相応する励磁電流が流れる際に、ロータ外周にて、18個の極である多い方の極数から、6個の極である少ない方の極数に切換制御可能である、
ことを特徴とする電気機械。
【請求項15】
前記の多相のステータ巻線(13)の極数は、前記の切換制御可能なロータ(11)の多い方の極数に等しい、
請求項2に記載の電気機械。
【請求項16】
前記のステータ巻線(13)は三相に構成されており、
スター形結線または三角結線でブリッジ整流器(33)の入力側に接続されている、
請求項1から15までのいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項17】
前記のステータ巻線(13b)は5相に構成されており、
スター形結線、リング形結線またはスター形直列結線でブリッジ整流器(33a)の入力側に接続されている、
請求項1から15までのいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項18】
前記のステータ巻線(13c)は6相に構成されており、
二重スター形結線、二重三角結線でブリッジ整流器(33b)の入力側に接続されている、
請求項1から15までのいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項19】
前記のブリッジ整流器(33)の出力側は制御器(32a)に接続されており、
当該制御器の出力側は、前記のロータ(11)の少なくとも1つの励磁コイル(18)に接続されており、
前記の制御器(32a)は、前記のブリッジ整流器(33)の出力電圧(Ua)に依存して、励磁電流の強さおよび方向を変更可能である、
請求項16から18までのいずれか1項に記載の電気機械。
【請求項20】
前記のロータ(11)の金属薄板パケット(25)の2つの端面に1つずつのファン(28)が配置されている、
請求項1から19までのいずれか1項に記載の電気機械。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項2の末尾「電機機械」を「電気機械」と補正するものであって、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)が特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-124755号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

1-a「多相Y結線された固定子巻線を備えた固定子と、回転子軸にその周方向に所定の間隔を介して固定され前記固定子の内周面に空隙を介して対向する複数の回転子磁極と、前記各々の回転子磁極の前記周方向のほぼ中央部に固定され且つ前記回転子軸の半径方向に着磁された複数の永久磁石と、前記夫々の回転子磁極に巻回された複数の界磁巻線とを有することを特徴とするハイブリッド励磁回転電機。」(【請求項1】)

1-b「実施の形態1
図1は、本発明の実施の形態1による車両用のハイブリッド励磁回転電機の横断面図、図2は、固定子巻線の回路を示す説明図である。図1に於いて、固定子1は軸方向に同一形状の環状磁性板が積層された固定鉄心11を備え、その固定子鉄心11の内周部には48個のスロット111が形成されている。図1には示していないが、固定子鉄心11の48個のスロット111に、毎極毎相2の分布巻として3相Y結線された固定子巻線12が装着されている。尚、固定子巻線12は集中巻であっても良い。」(【0026】)

1-c「回転子2は、回転子軸3の周面に機械角45度の間隔を介して固定された8極の回転子磁極21、22、23、24、25、26、27、28を備えている。これらの回転子磁極21?28は、軸方向に多数の磁性板を積層した鉄心からなり、軸と直交する方向の断面形状が略T字状に形成されている。回転子磁極21?28は、固定子鉄心11の内周部に空隙4を介して対向して配置されている。
夫々の回転子磁極21?28の周方向のほぼ中央部で且つ空隙4の近傍には、永久磁石51、52、53、54、55、56、57、58が埋め込まれている。これらの永久磁石51?58は、夫々回転子2の半径方向に着磁されている。図1に示す矢印の方向は、夫々の永久磁石51?58のN極側を示しており、夫々の永久磁石51?58は交互に極性が反転するよう配置されている。これらの永久磁石51?58は、例えばネオジウム、サマリウム等の希土類元素を含む材料で形成された希土類磁石で構成され、より強力な磁束を発生する。
夫々の回転子磁極51?58の基部には、環状の界磁巻線61、62、63、64が巻回され、これらの界磁巻線61?64は、図示していないスリップリングを通して外部から界磁電流が供給され、例えば図示の方向に通電される。
以上のように構成されたこの発明の実施の形態1によるハイブリッド励磁回転電機において、図3の説明図に示すように、界磁巻線61?64に通電しない場合は、永久磁石51?58による磁束Φpだけで磁極を形成する。この場合、隣り合う永久磁石51?58は交互に逆方向に着磁されているので、回転子2の表面磁束波形は、ほぼゼロ(回転子磁極間281)?S(大)(回転子磁極28)-ほぼゼロ(回転子磁極間211)?N(大)(回転子磁極21)-ほぼゼロ(回転子磁極間222)、が繰り返される。
回転子磁極51による機械角度1極分P1の磁界解析により求めた空隙磁束波形を図4に示し、その空間周波数分析結果を図5に示す。図4から明らかなように、空隙磁束密度は回転子磁極21の周方向中央部、即ち永久磁石51が埋め込まれた部分で最も高く、その両側の鉄心部分から隣接する回転子磁極との間の空間部に至って0となる。また、この場合の空間周波数分析結果は、図5に示すように基本波成分、次いで第3次高調波成分、第5時高調波成分、第7次高調波成分等と続いている。
次に、界磁巻線61?64に、永久磁石51?58の磁束が強まる方向に励磁電流を流した場合を説明すれば、図6に示すように、夫々の巻線界磁61?64による磁束Φwが発生し、永久磁石51?58の両端の磁束を打ち消してしまい、機械角度1極分P1の空隙磁束は図7に示すようにほぼ正弦波に近い形となる。従って、回転子2の表面磁束波形は、s(小)?S(大)-s(小)-N(小)?N(大)-N(小)、が繰り返される。この場合の空間周波数分析結果は、図8に示すように基本波成分が主体であり、第3次高調波成分、第5時高調波成分等が少し生じている。
次に、界磁巻線61?64に流す励磁電流の通電方向を反転して、永久磁石51?58の磁束が弱まる方向に通電して行き、完全に基本波成分を相殺した場合について説明する。この場合は、永久磁石51?58による磁束Φpと界磁巻線61?64による磁束Φwが図9に示すように生じる。従って、例えば永久磁石51の両側に位置する回転子磁極21の表面ではS極となり、永久磁石21が位置する中央部の表面ではN極となる。この場合の機械角度1極分P1の空隙磁束の分布は図10に示す通りとなる。
上記の場合の空間周波数分析結果は、図11に示すとおり基本は成分は完全に相殺されており、ほぼ第3次高調波成分のみとなる。しかし実施の形態1では固定子巻線12を3相Y結線としているので、線間での電位差を持たない。図11では僅かに第5次高調波成分が残っているが、これは例えば毎極毎相2の固定子巻線であれば、巻線ピッチを通常の6スロット(1極分相当)より短くして5スロットとすること、即ち固定子巻線の巻線ピッチを84%(5スロット/6スロット)の短節巻とすることで、第5次高調波成分の誘起電圧を低減することが可能となる。図12に固定子巻線12の巻線ピッチを、5スロットにしたときの誘起電圧E5と、6スロットにしたときの誘起電圧E6の周波数分析結果を示す。このように、界磁巻線による弱め界磁制御によって固定子巻線12の高調波成分の誘起電圧を低減することができる。
以上に示した様に、本発明の実施の形態1によれば、永久磁石51?58を界磁極として持ちながら、主磁束をほぼ0から従来型クローポール機の1.3?1.5倍まで変化させることができる。無負荷時では従来型クローポール機のほぼ1.3倍の主磁束となる。主磁束がほぼ0から可変できることにより、発電機として使用する場合は、界磁電流を制御することで、全速度範囲で容易に発電量を制御することができる。一方、電動機として使用する場合においては、主磁束をほぼ0まで弱めることが出来ることから、逆起電力を抑制でき、高速回転までトルクを出すことができる。」(【0029】-【0037】)

上記記載及び図面を参照すると、ロータの外周にわたってあらかじめ定めた順序で、8つの永久磁石および4つの界磁巻線によって複数の磁極を形成している。
上記記載及び図面を参照すると、回転子の極数は、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して8極と24極の間で切換制御可能である。
上記記載及び図面を参照すると、多数の磁性板には、ただ1つの界磁コイルを収容するために外周に直径上で互いに対向するスロットが設けられている。
上記記載及び図面を参照すると、隣り合う2個ずつのスロットにただ1つの界磁コイルが収容されているから、界磁コイルは、8極の極区分に等しいステップ幅で回転子の外周に配置されている。
上記記載及び図面を参照すると、界磁コイルは、巻線ヘッドにて分けられて回転子軸の周りに案内されている。
上記記載及び図面を参照すると、界磁コイルは、回転子外周にてスロットの間に配置されかつ直径上で互いに対向する8つの永久磁石と複数の磁極を形成している。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「固定子および回転子を有するハイブリッド励磁回転電機であって、
前記の固定子は、多相の固定子巻線を有しており、
前記の回転子は、固定子と空隙を介し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、8つの永久磁石および4つの界磁巻線によって複数の磁極を形成しており、
前記の回転子の極数は、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して8極と24極の間で切換制御可能である形式のハイブリッド励磁回転電機において、
前記の回転子は、軸方向に積層された多数の磁性板からなる鉄心を有しており、
前記の多数の磁性板には、ただ1つの界磁コイルを収容するために外周に直径上で互いに対向するスロットが設けられており、
前記の界磁コイルは、8極の極区分に等しいステップ幅で回転子の外周に配置されており、
該界磁コイルは、巻線ヘッドにて分けられて回転子軸の周りに案内されており、また
前記界磁コイルは、回転子外周にてスロットの間に配置されかつ直径上で互いに対向する8つの永久磁石と複数の磁極を形成している、
ハイブリッド励磁回転電機。」
との発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。


4.対比
そこで、本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「固定子」、「回転子」、「ハイブリッド励磁回転電機」、「固定子巻線」、「空隙」、「8つ」、「界磁コイル」、「8極と24極の間」、「多数の磁性板」、「スロット」、「8極の極区分に等しいステップ幅」、「回転子軸」は、それぞれ本願発明1の「固定のステータ」又は「ステータ」、「ロータ」、「電気機械」、「ステータ巻線」、「作業エアギャップ」、「複数」、「励磁コイル」、「2つの極数間」、「金属薄板パケット」、「切り込み溝」、「2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分に等しいステップ幅」、「ロータ軸」に相当する。

回転電機は、ステータとロータの磁気的結合によって、電動機の場合は動力を、発電機の場合は電力を取り出すものであるので、ステータとロータは協調動作するものであり、又、励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当し、又、回転子は界磁コイルによって電気的に励磁されるから、引用発明1の「前記の回転子は、固定子と空隙を介し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、8つの永久磁石および4つの界磁巻線によって複数の磁極を形成しており」は、本願発明1の「前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており」に相当する。
励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当するから、引用発明1の「前記の回転子の極数は、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して8極と24極の間で切換制御可能である形式のハイブリッド励磁回転電機」は、本願発明1の「前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械」に相当する。
8つの永久磁石であれば「少なくとも2つの永久磁石」に該当し、又、界磁コイルと8つの永久磁石によって、回転子の磁極が8極又は24極となり、界磁コイルと永久磁石は協調動作しているから、引用発明1の「前記界磁コイルは、回転子外周にてスロットの間に配置されかつ直径上で互いに対向する8つの永久磁石と複数の磁極を形成している」は、本願発明1の「前記励磁コイルは、ロータ外周にて切り込み溝(19)の間に配置されかつ直径上で互いに対向する少なくとも2つの永久磁石(17)と協調動作する」に相当する。

したがって、両者は、
「固定のステータおよびロータを有する電気機械であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップを介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石および少なくとも1つの励磁コイルによって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータは、軸方向に積層された金属薄板パケットからなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、ただ1つの励磁コイルを収容するために外周に直径上で互いに対向する切り込み溝が設けられており、
前記の励磁コイルは、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分に等しいステップ幅でロータの外周に配置されており、
該励磁コイルは、巻線ヘッドにて分けられてロータ軸の周りに案内されており、また
前記励磁コイルは、ロータ外周にて切り込み溝の間に配置されかつ直径上で互いに対向する少なくとも2つの永久磁石と協調動作する、
電気機械。」
の点で一致し、差異は認められない。

したがって、本願発明1は、引用発明1と同一と認められる。


5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明1と同一と認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。


6.本件補正後の請求項2に対する判断
上記のとおり、本願発明1は、引用発明1と同一と認められるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないが、更に、本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下、「本願発明2」という。)が特許を受けることができるものであるかについても以下に検討する。

(1)本願発明2
本願発明2は、本件補正後の特許請求の範囲の前記請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、図面と共に、「3.引用例」に記載の事項に加え、以下の事項が記載されている。

「3.引用例」の記載及び図面を参照すると、多数の磁性板には、4つの界磁コイルを収容するために外周にスロットが設けられている。
「3.引用例」の記載及び図面を参照すると、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、永久磁石と共に、極性が交互に代わる極が回転子外周に生じている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「固定子および回転子を有するハイブリッド励磁回転電機であって、
前記の固定子は、多相の固定子巻線を有しており、
前記の回転子は、固定子と空隙を介し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、8つの永久磁石および4つの界磁巻線によって複数の磁極を形成しており、
前記の回転子の極数は、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して8極と24極の間で切換制御可能である形式のハイブリッド励磁回転電機において、
前記の回転子は、軸方向に積層された多数の磁性板からなる鉄心を有しており、
前記の多数の磁性板には、4つの界磁コイルを収容するために外周にスロットが設けられており、
前記の4つの界磁コイルは、8極の極区分に等しいステップ幅で回転子の外周に配置されており、
前記4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石と共に、極性が交互に代わる極が回転子外周に生じるようにした、
ハイブリッド励磁回転電機。」
との発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。


(3)対比
そこで、本願発明2と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「固定子」、「回転子」、「ハイブリッド励磁回転電機」、「固定子巻線」、「空隙」、「8つ」、「界磁コイル」、「8極と24極の間」、「多数の磁性板」、「スロット」、「8極の極区分に等しいステップ幅」は、それぞれ本願発明2の「固定のステータ」又は「ステータ」、「ロータ」、「電気機械」、「ステータ巻線」、「作業エアギャップ」、「複数」、「励磁コイル」、「2つの極数間」、「金属薄板パケット」、「切り込み溝」、「2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分に等しいステップ幅」に相当する。

回転電機は、ステータとロータの磁気的結合によって、電動機の場合は動力を、発電機の場合は電力を取り出すものであるので、ステータとロータは協調動作するものであり、又、励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当し、又、回転子は界磁コイルによって電気的に励磁されるから、引用発明2の「前記の回転子は、固定子と空隙を介し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、8つの永久磁石および4つの界磁巻線によって複数の磁極を形成しており」は、本願発明2の「前記のロータは、作業エアギャップ(16)を介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石(17)および少なくとも1つの励磁コイル(18)によって電気的に励磁される複数の極を有しており」に相当する。
励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当するから、引用発明2の「前記の回転子の極数は、4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して8極と24極の間で切換制御可能である形式のハイブリッド励磁回転電機」は、本願発明2の「前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流(Ie)の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械」に相当する。

励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当するから、引用発明2の「4つの界磁コイルを収容するために外周にスロットが設けられており」は、本願発明2の「少なくとも1つの励磁コイル(18)を収容するために外周に切り込み溝(19)が設けられており」に相当し、引用発明2の「前記の4つの界磁コイルは、8極の極区分に等しいステップ幅で回転子の外周に配置」は、本願発明2の「前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)は、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分(Pt)に等しいステップ幅(SW)でロータ(11)の外周に配置」に相当する。

励磁コイルに相当する界磁コイルが4つであれば「少なくとも1つの励磁コイル」に該当し、また、界磁コイルと8つの永久磁石によって、回転子の磁極が8極又は24極となり、界磁コイルと永久磁石は協調動作しているから、引用発明2の「前記4つの界磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石と共に、極性が交互に代わる極が回転子外周に生じるようにした」と、本願発明2の「前記の少なくとも1つの励磁コイル(18)における励磁電流(Ie)の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石(17)との協調動作により、極性が交互に代わるほぼ同じ強さの極がロータ外周に生じるようにした」は、「前記の少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石との協調動作により、極性が交互に代わる極がロータ外周に生じるようにした」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「固定のステータおよびロータを有する電気機械であって、
前記のステータは、多相のステータ巻線を有しており、
前記のロータは、作業エアギャップを介してステータと協調動作し、またその外周にわたってあらかじめ定めた順序で、複数の永久磁石および少なくとも1つの励磁コイルによって電気的に励磁される複数の極を有しており、
前記のロータの極数は、少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向に依存して2つの極数間で切換制御可能である形式の電気機械において、
前記のロータは、軸方向に積層された金属薄板パケットからなる鉄心を有しており、
前記の金属薄板パケットには、少なくとも1つの励磁コイルを収容するために外周に切り込み溝が設けられており、
前記の少なくとも1つの励磁コイルは、前記2つの極数のうちの少ない方の極数の極区分に等しいステップ幅でロータの外周に配置されており、
前記の少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、前記の永久磁石との協調動作により、極性が交互に代わる極がロータ外周に生じるようにした、
電気機械。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明2は、電気機械の通常動作にて、ロータは2つの極数のうちの多い方の極数を有しているのに対し、引用発明2は、その様な限定がない点。
〔相違点2〕
少なくとも1つの励磁コイルにおける励磁電流の強さおよび方向を選択して、永久磁石との協調動作により、極性が交互に代わる極がロータ外周に生じる点に関し、本願発明2は、ほぼ同じ強さの極が生じるのに対し、引用発明2は、その様な限定がない点。


(4)判断
相違点1について
引用発明2は、ロータに生じる極数が8極と24極のどちらかであるから、通常動作時に多い方の極数である24極を採用することは当業者であれば適宜選択し得ることと認められる。

相違点2について
電気機械の固定子又は回転子に発生する交流磁場は、正弦波になることが好ましく、正弦波とならない場合は正弦波に近づけることが一般的である。磁場の波形を正弦波に近づけようとするならば、極の強さはほぼ同じ強さとなるから、引用発明2においても、極性が交互に代わるほぼ同じ強さの極をロータ外周に生じさせることは、当業者であれば容易に考えられることと認められる。

そして、本願発明2の作用効果も、引用発明2から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明2は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(5)むすび
したがって、本願発明2は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-15 
結審通知日 2014-07-22 
審決日 2014-08-15 
出願番号 特願2010-510720(P2010-510720)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 祐介  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 藤井 昇
堀川 一郎
発明の名称 ハイブリッド励磁式ロータを有する電気機械  
復代理人 大谷 令子  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ