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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02N
管理番号 1296044
審判番号 不服2013-21692  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-06 
確定日 2015-01-05 
事件の表示 特願2011-520399「内燃機関のスタート・ストップ制御のための方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日国際公開、WO2010/012530、平成23年12月 8日国内公表、特表2011-529543〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成21年6月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年7月29日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、
平成24年7月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年1月29日に意見書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成25年7月2日付けで拒絶査定がされ、
これに対して平成25年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされ、
その後、当審において平成26年1月20日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成26年4月28日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年11月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年11月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年11月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年1月29日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし5を下記の(b)に示す請求項1ないし3に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関(1)の短時間のストップおよびスタータ(2)としての電気機械を用いた内燃機関(1)のスタートを実施する、車両における内燃機関(1)のスタート・ストップ制御のための方法であって、
停止条件が存在する場合に、機関制御装置(7)によって前記内燃機関(1)の停止動作を行い、かつ、スタート・ストップ制御装置(14)によって、始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かを確認する、スタート・ストップ制御のための方法において、
前記スタート・ストップ制御装置(14)によって、前記内燃機関(1)が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関(1)をアイドリング回転数へと加速させることができる第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されるか否かを検査し、
前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関(1)が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(BS))に、前記スタート・ストップ制御装置(14)によって前記内燃機関のスタート信号が検出されると、前記スタータ(2)に給電を行う、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の期間(t_(1))よりも長い第2の期間(t_(2))の経過後、または前記内燃機関(1)の回転数が所定の回転数を下回った後に、前記スタート・ストップ制御装置(14)によってスタート信号が検出されなかった場合には、スタータ(2)への給電が行われ、スタータ(2)の回転数が上昇し、第3の期間(t_(3))内にスタート信号が検出されるか否かが検査され、検出された場合には、前記スタータ(2)の回転数が前記内燃機関(1)の回転数に達すると、前記スタータ(2)をクラッチ装置(3)によって前記内燃機関(1)と接続する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第3の期間(t_(3))内にスタート信号が検出されない場合には、前記スタータ(2)の回転数を制動装置(17)によって制動し、前記内燃機関(1)の回転数に合わせる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
コンピュータプログラムがスタート・ストップ制御装置(14)において実施される場合に、前記スタート・ストップ制御装置(14)により、前記内燃機関(1)が停止するまでの期間(t)内に、請求項1から3のいずれか一項記載の方法に従って前記内燃機関(1)を制御するためのコンピュータプログラム。
【請求項5】
内燃機関(1)の短時間のストップと、スタータ(2)としての電気機械を用いた、内燃機関(1)のスタートとを実施する、車両における内燃機関(1)のためのスタート・ストップ制御装置(14)であって、
停止条件が存在する場合に機関制御装置(7)によって前記内燃機関(1)の停止動作が行われ、かつ、スタータ制御装置(6)によって、始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かが確認される、スタート・ストップ制御装置において、
前記スタート・ストップ制御装置(14)は、プログラムメモリを備えたマイクロコンピュータを有し、前記スタート・ストップ制御装置(14)により、前記内燃機関(1)が停止するまでの期間(t)内に、前記内燃機関(1)を制御するために、請求項4に記載されたコンピュータプログラムが前記プログラムメモリにロードされることを特徴とする、スタート・ストップ制御装置(14)。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関(1)の短時間のストップおよびスタータ(2)としての電気機械を用いた内燃機関(1)のスタートを実施する、車両における内燃機関(1)のスタート・ストップ制御のための方法であって、
停止条件が存在する場合に、機関制御装置(7)によって前記内燃機関(1)の停止動作を行い、かつ、スタート・ストップ制御装置(14)によって、始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かを確認する、スタート・ストップ制御のための方法において、
前記スタート・ストップ制御装置(14)によって、前記内燃機関(1)が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関(1)をアイドリング回転数へと加速させることができる第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されるか否かを検査し、
前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関(1)が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(B1))に、前記スタート・ストップ制御装置(14)によって前記内燃機関のスタート信号が検出された場合にのみ、前記スタータ(2)に給電を行う、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
コンピュータプログラムがスタート・ストップ制御装置(14)において実施される場合に、前記スタート・ストップ制御装置(14)により、前記内燃機関(1)が停止するまでの期間(t)内に、請求項1記載の方法に従って前記内燃機関(1)を制御するためのコンピュータプログラム。
【請求項3】
内燃機関(1)の短時間のストップと、スタータ(2)としての電気機械を用いた、内燃機関(1)のスタートとを実施する、車両における内燃機関(1)のためのスタート・ストップ制御装置(14)であって、
停止条件が存在する場合に機関制御装置(7)によって前記内燃機関(1)の停止動作が行われ、かつ、スタータ制御装置(6)によって、始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かが確認される、スタート・ストップ制御装置において、
前記スタート・ストップ制御装置(14)は、プログラムメモリを備えたマイクロコンピュータを有し、前記スタート・ストップ制御装置(14)により、前記内燃機関(1)が停止するまでの期間(t)内に、前記内燃機関(1)を制御するために、請求項2に記載されたコンピュータプログラムが前記プログラムメモリにロードされることを特徴とする、スタート・ストップ制御装置(14)。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2.本件補正の目的
本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関(1)が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(BS))に、前記スタート・ストップ制御装置(14)によって前記内燃機関のスタート信号が検出されると、前記スタータ(2)に給電を行う、」という事項を、「前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関(1)が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(B1))に、前記スタート・ストップ制御装置(14)によって前記内燃機関のスタート信号が検出された場合にのみ、前記スタータ(2)に給電を行う、」という事項に限定する補正を含むものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものを含むので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.独立特許要件の判断

3-1.刊行物
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前(優先権主張日前)に頒布された刊行物である特開2002-70699号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、エネルギ資源の節約と環境保全に配慮した燃料消費節約型自動車に係る。
【0002】
【従来の技術】エネルギ資源の節約と環境保全のために、自動車の運転中にエンジンの一時停止が許容される所定の条件が成立したとき、エンジンを一時停止させることが考えられ、また一部の自動車に於いて実施されている。かかる燃料消費節約のためのエンジンの一時停止に於いても、エンジンの再始動はエンジンの最初の始動時に於けると同様に、スタータモータによりエンジンを駆動することにより行われる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】エンジンを始動するときにのみスタータモータがエンジンに連結される構造では、エンジンの最初の始動時には、エンジンは停止しているので、スタータモータをその通電に先立ってエンジンに連結すれば、連結に特段の困難を来たすことはない。しかし自動車の運転中に於ける燃料消費節約のためのエンジンの一時停止時には、エンジンは一時停止の開始直後に再始動を要求されることもあり、再始動の際にエンジンが未だ完全に停止していないときには、エンジンにスタータモータを連結することに困難を来たし、両者の連結が互いに噛み合う歯車によってなされるような構造では、歯欠けを生ずる虞れがある。そのため従来の燃料消費節約型自動車に於いては、エンジンを一時停止の開始直後であって未だ慣性回転が残っている時期に再始動すべき制御信号が発せられたときには、エンジンが一旦停止するのを待ってスタータモータを連結する操作が行われている。
【0004】しかし燃料消費節約型自動車のエンジン一時停止後の再始動に於ける敏捷性は、この種の自動車に於いて解決すべき最も重要な課題の一つである。
【0005】本発明は、燃料消費節約型自動車に於ける上記の課題に鑑み、この点に関し改良された燃料消費節約型自動車を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決すべく、本発明は、自動車の運転中にエンジンの一時停止が許容される所定の条件が成立したときエンジンを一時停止させる燃料消費節約型の自動車に於いて、前記所定の条件が成立したとき、エンジンへの燃料の供給を遮断してエンジンを慣性回転させ、エンジンの再始動に当って、少なくともエンジンの回転速度が零でないときには、スタータモータに調速通電を行ってその回転速度をエンジンの回転速度に同期させてスタータモータをエンジンに連結することを特徴とする自動車を提案するものである。
【0007】
【発明の作用及び効果】燃料消費節約型自動車の運転中に於けるエンジンの一時停止は、燃料消費を節約することが目的であり、エンジンの回転を停止させることが目的ではない。従って、エンジンより車輪を駆動する駆動系が随時必要に応じて遮断されるようになっていれば、エンジンの一時停止が許容される所定の条件が成立し、燃料の供給が遮断されたエンジンが、その後も慣性回転することに何等問題はなく、寧ろエンジンの再始動に際してエンジンに慣性回転が残っていれば、慣性回転より始まって回転数を高めるエンジン再始動が行われる方が、合理的であると考えられる。ただその際、一度燃料の供給を遮断されたエンジンが再始動するには、殆どの場合にスタータモータの助けを要するので、回転中のエンジンにスタータモータを連結させるという構成が必要である。
【0008】この点に於いて、上記の如くエンジンの再始動に当って、エンジンの回転速度が零でないときには、スタータモータに調速通電を行ってその回転速度をエンジンの回転速度に同期させてスタータモータがエンジンに連結されるようになっていれば、燃料の供給が遮断されることにより一時停止状態に追い込まれたエンジンを、残る慣性回転をそのまま有効に利用してエンジンをより速やかに運転状態に復帰させることができる。
【0009】尚、この場合、エンジン一時停止のための燃料遮断と共にエンジンの排気弁が開放されれば、エンジンの一時停止後の復帰に慣性回転をよりよく利用することができる。」(段落【0001】ないし【0009】)
(b)「【0015】図2は図1に示すスタータモータの作動を制御する制御構成を解図的に示す図である。図2に於ける符号10及び28は、それぞれ図1に於けるスタータモータ及びソレノイドを示している。スタータモータ10は、リレースイッチ38のオンオフとトランジスタ40のオンオフに応じて低電圧バッテリ42からの電流を選択的に供給され、またリレースイッチ44のオン時にはリレースイッチ38とトランジスタ40がオンとされることにより高電圧バッテリ46からの電流を供給されるようになっている。
【0016】ソレノイド28はリレースイッチ48のオンオフとトランジスタ50のオンオフに応じて低電圧バッテリ42からの電流を選択的に供給されるようになっている。リレースイッチ38、44、48及びはトランジスタ40及び50は何れもマイクロコンピュータを含むコントローラ52により制御され、以下に図3のフローチャートを参照して説明されるスタータモータによるエンジン始動を制御するようになっている。尚、図2に於いて54は運転者により操作される従来のエンジン始動用のスタートスイッチであり、56はスタートスイッチ54によるエンジンの始動に際してトランスミッションがニュートラル位置にあることを検出するためのニュートラルスイッチである。58はエンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサである。
【0017】次に図3のフローチャートを参照して、本発明による燃料消費節約型自動車に於ける発明の要部をなす、スタータモータによるエンジンの始動制御について説明する。尚、かかる制御によりエンジン及びスタータモータに生ずる回転速度の変化の一例を図4に示す。
【0018】図には示されていない自動車のキースイッチの閉成或いは本発明の実施を選択する図には示されていない適当なスイッチの閉成により本発明による燃料消費節約型自動車の運転が開始されると、ステップ10にて図には示されていないブレーキスイッチがオンであるか否か、即ち運転者がブレーキペダルを所定の踏み込み深度を超えて踏み込んだか否かが判断される。判断結果がイエスのときには、制御はステップ20へ進み、車速が所定の小さいしきい値V0以下であるか否かが判断される。判断結果がイエスのときには、制御はステップ30へ進み、前回の一時停止よりの走距離が15メートル以上であるか否かが判断される。この「15メートル以上」なる走行距離は、バッテリに不適当な消耗を生ずることなく燃料消費節約型の運転を行うための走行距離の目安の一例である。判断結果がイエスのときには、制御はステップ40へ進む。
【0019】ステップ40に於いては、フラッグFが1であるか否かが判断される。フラッグFは制御の開始時には初期化により0とされているものであり、以下に説明するステップ70にて1とされるものである。制御開始後の初めてのステップ40に於いては、判断結果はノーであり、制御はステップ50へ進み、ここでエンジンへの燃料の供給が遮断され、ステップ60にてエンジンの排気弁が開放される。その後、制御はステップ70にてフラッグFを1にセットし、ステップ10へ戻る。
【0020】こうして図示の実施例に於いては、ブレーキスイッチがオンであり、車速がV0以下であり、前回の燃料一時停止時よりの走行距離が15メートル以上であるとの条件が成立することにより、エンジンへの燃料の供給は遮断され、排気弁が開放され、エンジンは慣性回転状態に入る。これにてエンジン回転速度は図4に示す如く時点t1より始まって次第に低下する。
【0021】その後、時点t2に於いてステップ10、20或いは30の何れか一つに於ける条件が崩れると、制御はステップ80へ進む。尚、スタート後、ステップ10、20及び30の3条件が未だ同時に満たされていないときには、当然制御は当初からステップ80へ進む。
【0022】制御が一度ステップ40?70を通過した後ステップ80に至ったときには、フラッグFは1であり、このときには制御はステップ90へ進む。ステップ80に於ける判断結果がノーのときには、制御は以下のステップ90?120をバイパスして直ちにステップ10へ戻る。
【0023】ステップ90に於いては、エンジン回転数センサ58により検出されたエンジン回転速度の対スタータモータ等価速度Neが400rpm以上であるか否かが判断される。エンジン回転速度の対スタータモータ等価速度Neとは、図1の構造より明らかな通り、エンジンのフライホイール24の回転速度とスタータモータの回転軸16の回転速度の間には、ピニオン22とフライホイール24の歯26の歯数の比に逆比例する相違があることに対処し、エンジン回転速度をスタータモータの回転速度に等価な値に換算したものである。尚、以下に於いては簡単のため、誤解を生じない範囲で、エンジン回転速度の対スタータモータ等価速度Neを単にエンジン回転速度Neと称する。判断結果がイエスのときには、制御はステップ100へ進み、燃料の供給が再開される。
【0024】エンジンへの燃料の供給が一度遮断され、エンジンが慣性回転状態にあるとき、その回転速度が400rpm程度以上であれば、スタータモータによるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性は高い。次のステップ110に於いては、エンジンが始動したか否かが判断される。判断結果がイエスのときには、制御はステップ120にてフラッグFを0にリセットした後、ステップ10へ戻る。これはエンジンの一時停止後、エンジンが未だ慣性回転している状態にてエンジンを再始動すべく燃料の供給が再開されることにより、スタータモータを用いることなくエンジンの再始動が行われる場合である。
【0025】エンジンへの燃料の供給が遮断された後のエンジンの慣性回転の程度は、燃料遮断時のエンジンの回転速度と、そのときエンジンに掛かっている負荷の状態によるが、エンジンがトルクコンバータを含む自動変速機にて車輪を駆動するようになっている場合、燃料遮断と同時に排気弁を開放することにより、エンジン停止までの慣性回転時間を延ばすことが可能である。
【0026】ステップ90に於ける判断結果がノーであるとき、即ちエンジンの慣性回転の速度が400rpm以下に低下しているとき、或いはステップ90の判断結果がイエスであり、ステップ100にて燃料供給を再開したが、エンジンは再始動せず、ステップ110に於ける判断結果がノーであるときには、制御はステップ130へ進み、エンジン回転速度Neとスタータモータ回転速度Nsの差が所定のしきい値ΔN以下であるか否かが判断される。
【0027】ステップ130の判断結果がノーであれば、制御はステップ140へ進み、コントローラ52によりスタータモータ回転速度をエンジン回転速度に同期させるためのスタータモータに対する調速通電のための電流Imが計算される。この計算は、図5に示す如く、エンジン回転速度Neとスタータモータ回転速度Nsとの差ΔNに基づくPID制御であってよい。次いでステップ150にて、低電圧バッテリ42の電流を用い、コントローラ52によりリレースイッチ38がオンとされ又トランジスタ40がオンオフデューティ制御されることによりスタータモータ10への調速通電が行われる。
【0028】スタータモータの調速通電の結果、ステップ130に於ける判断結果がイエスとなったとき(図4の時点t_(3))、或いは制御が最初にステップ130に至ったときにエンジンの慣性回転が既に終了していることによりステップ130の判断結果がイエスであるときには、制御は160へ進み、低電圧バッテリ42の電流に基づきコントローラ52によりリレースイッチ48がオンされると共にトランジスタ50がオンオフデューティ制御されることにより、ソレノイド28が適宜に通電され、エンジンにスタータモータが連結される。
【0029】次いでステップ170にて高電圧バッテリ46の電流を用い、コントローラ52による制御の下に、スタータモータへの全力通電が行われ、スタータモータによるエンジンの始動駆動が行われる。次いでステップ180にてエンジンが始動したか否かが判断され、判断結果がノーのときには制御はステップ130へ戻り、判断結果がイエスのとき、即ちエンジンが再始動されたときには、制御はステップ190へ進み、スタータモータへの通電が停止される。(図4に於ける時点t_(4))次いでステップ200に於いてエンジンからのスタータモータの切り離しが行われ、制御はステップ120に於いてフラッグFを0にリセットした後ステップ10へ戻る。尚、ピニオン22をフライホイール24の歯26との噛み合いより外すに当ってのスタータモータ10への通電の解除のタイミングは適宜定められてよい。
【0030】かくして、本発明によれば、エンジンの一時停止を伴う燃料消費節約型自動車の運転に於いて、エンジンの一時停止中にもエンジンの慣性回転を可及的有効に利用し、エンジン再始動に当ってのスタータモータ消費エネルギの可及的節減を図ると同時に、エンジン再始動の敏捷性の改善を図ることができる。
【0031】以上に於いては、本発明を一つの好ましい実施例について詳細に説明したが、図示の実施例について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。」(段落【0015】ないし【0031】)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること
(イ)上記(a)に摘記したとおり、刊行物1には、「【0002】【従来の技術】エネルギ資源の節約と環境保全のために、自動車の運転中にエンジンの一時停止が許容される所定の条件が成立したとき、エンジンを一時停止させることが考えられ、…。かかる燃料消費節約のためのエンジンの一時停止に於いても、エンジンの再始動は…。」と記載されており、このように、一時停止が許容される所定の条件が成立したときにエンジンを一時停止させ、再始動を行う所定の条件が成立したときにエンジンを再始動させることは、従来から広く知られている。
刊行物1に記載されている「実施例」においても、ステップ10(ブレーキスイッチ)、ステップ20(車速)、ステップ30(走行距離)、ステップ80(一時停止中を示すフラッグF)の判断結果に応じて、エンジンを一時停止し、また、再始動している。そして、刊行物1の【0016】等をみると、このような一時停止あるいは再始動のための所定の条件の判断は、コントローラ52で行われていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
<刊行物1に記載された発明>
「エンジンの一時停止およびスタータモータ10を用いたエンジンの再始動を実施する、車両におけるエンジンの一時停止・再始動制御のための方法であって、
一時停止条件が成立した場合に、コントローラ52によって前記エンジンの燃料供給を遮断し、かつ、コントローラ52によって、再始動条件が成立したか否かを判断する、一時停止・再始動制御のための方法において、
前記コントローラ52によって、エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が400rpm程度以上か否か、すなわち、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にあるか否かを判断し、
エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が前記範囲にないと判断された場合、スタータモータ10の回転速度をエンジン回転速度に同期させるためにスタータモータ10への調速通電を行い、スタータモータ10の回転速度がエンジン回転速度に同期するとスタータモータ10をエンジンに連結する、方法。」

3-2.対比・判断
本願補正発明(以下、「前者」ということがある。)と刊行物1に記載された発明(以下、「後者」ということがある。)とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、
後者における「エンジン」は前者における「内燃機関」に相当し、同様に、「一時停止」は「短時間のストップ」に、「スタータモータ10」は「スタータ」ないし「スタータとしての電気機械」に、「再始動」は「スタート」に、「一時停止・再始動制御」は「スタート・ストップ制御」に、「一時停止条件が成立した場合」は「停止条件が存在する場合」に、「前記エンジンの燃料供給を遮断し」は「前記内燃機関の停止動作を行い」に、「回転速度」は「回転数」に、それぞれ相当する。
後者における「コントローラ52」と前者における「機関制御装置」は、「制御装置」という限りにおいて一致し、後者における「コントローラ52」と前者における「スタート・ストップ制御装置」は、「制御装置」という限りにおいて一致する。
後者における「再始動条件が成立したか否かを判断する」と前者における「始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かを確認する」は、「再始動の適否を判定する」という限りにおいて一致する。
上記3-1.(1)(b)に摘記した刊行物1の段落【0024】等及び図3等の記載及び技術常識からすると、刊行物1に記載された発明における「スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する」とは、単にエンジンが自立的に回転し始めるだけでなく、このようにエンジンが自立的に始動可能であり、かつ、エンジンをアイドリング回転数へと加速させることをいうものと解せる。したがって、後者における「エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が400rpm程度以上か否か、すなわち、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にあるか否かを判断し」と、前者における「前記内燃機関が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることができる第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されるか否かを検査し」は、「前記内燃機関が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが可能か否かを判定し」という限りにおいて一致する。
後者における「エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が前記範囲にないと判断された場合、スタータモータ10の回転速度をエンジン回転速度に同期させるためにスタータモータ10への調速通電を行い、スタータモータ10の回転速度がエンジン回転速度に同期するとスタータモータ10をエンジンに連結する」と、前者における「前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(B1))に、前記スタート・ストップ制御装置によって前記内燃機関のスタート信号が検出された場合にのみ、前記スタータに給電を行う」は、「前記内燃機関が自立的に始動可能でないか、あるいは、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが不可能であるとき、スタータに給電を行う」という限りにおいて一致する。
したがって、本願補正発明の記載に倣って整理すると、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「内燃機関の短時間のストップおよびスタータとしての電気機械を用いた内燃機関のスタートを実施する、車両における内燃機関のスタート・ストップ制御のための方法であって、
停止条件が存在する場合に、制御装置によって前記内燃機関の停止動作を行い、かつ、制御装置によって、再始動の適否を判定する、スタート・ストップ制御のための方法において、
前記制御装置によって、前記内燃機関が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが可能か否かを判定し、
前記内燃機関が自立的に始動可能でないか、あるいは、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが不可能であるとき、スタータに給電を行う、方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
「制御装置によって前記内燃機関の停止動作を行い、かつ、制御装置によって、再始動の適否を判定する」という事項、及び
「前記制御装置によって、前記内燃機関が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが可能か否かを判定し、
前記内燃機関が自立的に始動可能でないか、あるいは、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることが不可能であるとき、スタータに給電を行う」という事項に関して、
本願補正発明においては、
「機関制御装置によって前記内燃機関の停止動作を行い、かつ、スタート・ストップ制御装置によって、始動条件に基づきスタート信号が存在するか否かを確認する」ものであって、
「前記スタート・ストップ制御装置によって、前記内燃機関が自立的に始動可能であり、かつ、前記内燃機関をアイドリング回転数へと加速させることができる第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されるか否かを検査し、
前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合、前記第1の期間(t_(1))の後、前記内燃機関が停止する時点よりも前に位置する時点(t_(B1))に、前記スタート・ストップ制御装置によって前記内燃機関のスタート信号が検出された場合にのみ、前記スタータに給電を行う」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、
「コントローラ52によって前記エンジンの燃料供給を遮断し、かつ、コントローラ52によって、再始動条件が成立したか否かを判断する」ものであって、
「前記コントローラ52によって、エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が400rpm程度以上か否か、すなわち、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にあるか否かを判断し、
エンジンが慣性回転状態にあるときの回転速度が前記範囲にないと判断された場合、スタータモータ10の回転速度をエンジン回転速度に同期させるためにスタータモータ10への調速通電を行い、スタータモータ10の回転速度がエンジン回転速度に同期するとスタータモータ10をエンジンに連結する」点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

まず、刊行物1の記載をみると、「実施例」においては、ステップ10(ブレーキスイッチ)、ステップ20(車速)、ステップ30(走行距離)のいずれかがノーで、かつステップ80においてエンジンの一時停止中を示すフラッグFが1であるという条件が満たされたと判断したときに、燃料供給の再開、あるいはスタータモータ10への調速通電を行っている。このように、例えば、ステップ10、20、30、80の条件に基づいて、再始動条件が成立したという判断がなされたことは、本願補正発明における「始動条件」に基づき「スタート信号」が生成ないし出力されたことに相当する。
そうすると、刊行物1に記載された発明における「再始動条件が成立したか否かを判断する」ことの具体的手順に、本願補正発明における「始動条件」に基づく「スタート信号」が包含されていることが明らかであるから、刊行物1に記載された発明は、本願補正発明における「スタート信号」を備えるものといえる。

そして、刊行物1に記載された発明は、再始動条件が成立したという判断がなされたとき、エンジンを一時停止させるために燃料供給を遮断した後のエンジン回転数が400rpm程度以上という所定の範囲であれば、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高いことに着目して、エンジンの再始動を行う際、まず、そのときのエンジン回転数が該範囲にあるか否かを判断している。
このような一時停止の際、燃料供給が遮断された後のエンジン回転数の時間的推移はエンジン負荷等に依存するが、通常ないし定型的な一時停止の場合は、燃料供給が遮断された後のエンジン回転数の時間的推移は、所与のエンジンないし車両の状況に応じて略同様の動向を示すことはいうまでもない。いずれにしても、このときのエンジン回転数の時間的推移と燃料供給遮断後の時間経過とが所定の関係にあることは、例えば、刊行物1(特に図4)、特開2004-245219号公報(特に図6)に示されているように当業者に明らかである。そうすると、燃料供給の停止後のある特定の時点におけるエンジン回転数が400rpm程度以上という所定の範囲にあるか否かは、該時点が、燃料供給の停止後の所定の期間内であるか否かと等価であるといえる。したがって、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い状態にあるか否かを、エンジン回転数が400rpm程度以上か否かで判断するか、それに相当する燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かで判断するかは、判断の精度やそのための装置等の構成の難易等に基づいて適宜選択する事項にすぎない。
よって、刊行物1に記載された発明において、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い状態にあるか否かを、燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かによって判断するように設計変更することは適宜なし得ることである。
その場合、再始動条件が成立したという判断がなされたとき、そのときの燃料供給遮断後の時間が上記の所定の期間内であるか否かを判断すること、すなわち、エンジン回転数が、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にあるか否かを判断することが、本願補正発明における「第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されるか否かを検査」することに相当し、例えば、再始動条件が成立したという判断がなされたとき、そのときの燃料供給遮断後の時間が上記の所定の期間内でないと判断した場合(すなわち、エンジン回転数が、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にないと判断した場合)は、本願補正発明における「前記第1の期間(t_(1))内にスタート信号が検出されなかった場合」に相当する。

また、刊行物1に記載された発明においては、以上の判断等をすべてコントローラ52において行うが、コントローラ52で行われる特定の各手順ないし機能に対応する各別の装置ないし手段を組み合わせて1つのコントローラとすることは、ごく普通のことであり格別のことではない。また、1つのコントローラ52で行われる特定の各手順ないし機能に応じてコントローラ52内に各別の装置ないし手段を観念ないし想定し得ることはいうまでもなく、そのような各別の装置ないし手段にそれぞれ適宜の名称を付与して区別することは単なる説明ないし表現の仕方の差異にすぎない。刊行物1に記載された発明においても、例えば、エンジンの燃料供給を遮断する等の制御や、エンジンの再始動条件が成立したという判断を行う、エンジンに関連する制御装置と、エンジンの再始動条件が成立したという判断を検知して、そのときの燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かを判断すること、すなわち、エンジン回転数が、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にあるか否かを判断し、その判断結果に応じて燃料供給の再開、あるいはスタータモータ10への調速通電を行う、再始動の態様に関連する制御装置を組み合わせてコントローラ52としたり、あるいは、コントローラ52をこれら2つの制御装置を含むものとすることは、適宜の選択ないし設計、あるいは適宜の表現であって、格別のことではない。

さらに、刊行物1に記載された発明においては、再始動条件が成立したという判断がなされ、続いて、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にないと判断された場合に、スタータモータ10への調速通電を行っている。すなわち、エンジンが停止するまでの間において、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い範囲にないと判断された場合にスタータモータ10への調速通電を行うのは、再始動条件が成立したという判断がなされた場合のみである。そもそも、再始動条件が成立したという判断がなされない場合に、スタータモータ10への通電を行うことはおよそ考えられない。

以上からすると、刊行物1に記載された発明において、スタータモータ10によるエンジンの加速を行わなくても、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い状態にあるか否かを、燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かで判断することは適宜なし得ることであって、それにより、相違点に係る本願補正発明の上記事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成26年4月28日提出の回答書において、
(A)『従って、審査官殿の相違点1についての上記見解に従えば、ステップS10,S20,S30,S80における条件の確認が、引用発明1における「始動条件の存在の確認」に該当し、本願発明における「スタート信号」に相当することになる。
しかし、引用発明1では、ステップS10,S20,S30,S80における条件が満たされた場合に、直ちにスタータへの通電を行っているわけではない。
この意味において、引用発明1のステップS10,S20,S30,S80における条件の確認は、本願発明における「スタート信号」に相当するものではない。』と主張している。
しかし、本願補正発明においても、スタート信号が検出された場合に、直ちにスタータへの通電を行っているわけではない(本願明細書の例えば段落【0038】)。
上述したとおり、刊行物1に記載された発明において、ステップ10、ステップ20、ステップ30、及びステップ80により再始動条件が成立したという判断がなされたことが、本願補正発明における「スタート信号」が生成ないし出力されたことに相当する。再始動条件が成立したという判断がなされたとき、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い状態にあるか否かを、エンジン回転数が400rpm程度以上か否かで判断しているのである。そして、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動する可能性が高い状態にあるか否かを、エンジン回転数が400rpm程度以上か否かで判断するか、それに相当する燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かで判断するかは、適宜選択する事項にすぎず、刊行物1に記載された発明において、燃料供給遮断後の時間が所定の期間内であるか否かで判断することは適宜なし得ることであることは、前述したとおりである。

(B)「次に、引用発明1のステップS130における内燃機関及びスタータモータの回転速度の差の確認に関しても、その確認結果がイエスであるかノーであるかに拘わらず、引用発明1では内燃機関を再始動させるための動作を続行している。また、その確認結果がイエスであってもノーであっても、スタータへの通電は必ず行っている。」と主張している。
しかし、ステップS130における内燃機関及びスタータモータの回転速度の差についての判断は、スタータモータ回転速度をエンジン回転速度に同期させるためである。本願補正発明がこのような同期のための制御を行うかどうかは不特定ないし不明であるが、このような同期制御が望ましいことはいうまでもなく、少なくとも、同期制御を行うかどうかは適宜の設計的事項である。
ステップ110でノーの場合、スタータに通電する制御を行うが、これは、燃料供給の再開のみでエンジンが再始動できなかった場合を想定して、その場合の補完的ないしバックアップ制御である。このような補完的ないしバックアップ制御を設けておくことが望ましいことはいうまでもなく、少なくとも、そのような制御の余地を設けておくかどうかは適宜の設計的事項である。

(C)「また、特に、引用発明1においては、ステップS130における内燃機関及びスタータモータの回転速度の差の確認結果がノーであった場合には、再度の確認結果がイエスになるまで何度でも繰り返しスタータへの調速通電を行っている。
この点において、所定の時点でスタート信号が検出された場合に限って初めてスタータへの給電を行う本願発明は、引用発明1とは明確に異なっている。
本願発明のそのような構成によって、スタート・ストップ装置だけでなくクラッチ装置及び電気機械においてもそれらの摩耗が大幅に低減されて寿命が最適化され、内燃機関の高速に変化する動作特性を実現することができる、という顕著な技術的効果が得られることになる。
内燃機関の一回の再始動のために何度でも繰り返しスタータへの調速通電を行う場合がある引用発明1によっては、本願発明の上記技術的効果を得ることは不可能である。」と主張している。
しかし、スタータへの調速通電は、(A)において上述したとおり、スタータモータ回転速度をエンジン回転速度に同期させるためである。
しかも、スタータへの調速通電は、再始動条件が成立したという判断がなされた場合に限って行われる。
また、クラッチ装置及び電気機械における摩耗の低減に関して、本願明細書には、例えば、「【0018】…(略)…摩耗が低減される。何故ならば、…(略)…電気機械と内燃機関との間の相対回転数は比較的小さいからである。」と記載されているが、刊行物1におけるスタータの係合は、「何度でも繰り返しスタータへの調速通電」が行われ、実質的に回転速度の同期がなされた後である。

3-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明
平成25年11月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成25年1月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)の特許請求の範囲は、上記「第2」の[理由]の「1.」の(a)に示した請求項1に記載されたとおりである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前(優先権主張日前)に頒布された刊行物である特開2002-70699号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、上記「第2」の[理由]の「3.」の「3-1.」のとおりの事項ないし発明が記載されている。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]の「2.」で検討したとおり、本願補正発明の発明特定事項を拡張した発明に相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記「第2」の[理由]の「3.」に述べたとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-07-24 
結審通知日 2014-07-28 
審決日 2014-08-19 
出願番号 特願2011-520399(P2011-520399)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02N)
P 1 8・ 121- Z (F02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
伊藤 元人
発明の名称 内燃機関のスタート・ストップ制御のための方法と装置  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 高橋 佳大  

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