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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1296432
審判番号 不服2013-22719  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-20 
確定日 2015-01-15 
事件の表示 特願2011- 436「バリアブルリラクタンス型角度検出器」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開、特開2011- 64710〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
(1)本願は、平成16年11月17日に出願した特願2004-333749号(以下、「原出願」という。)の一部を平成23年1月5日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月13日付け(送達:同年同月20日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年11月20日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

(2)そして、原査定の拒絶の理由は、請求項1に記載された発明は、本願の原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2004-151040号公報(発明の名称:回転角度検出装置および回転電機、出願人:三菱電機株式会社、以下、「引用例1」という。)に記載された発明及び特開昭63-236955号公報(発明の名称:強磁性体異物検出センサ、出願人:古河電気工業株式会社、以下、「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許を受けることができない、というものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載のとおりのものと認められるところ、以下のとおりである。
「【請求項1】
内向して周方向に互いに間隔をおいて形成された複数個のティースを有するとともに前記ティースにそれぞれ導線を巻回して形成された、電源により励磁される励磁コイルおよび磁束密度の変化を電圧として出力するa相分(aは整数)の出力コイルを有する固定子と、
前記固定子との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化する形状である鉄心で構成された回転子と
を備え、
前記励磁コイルは、前記出力コイルより大きい線径の導線を巻回して形成されたことを特徴とするバリアブルリラクタンス型角度検出器。」(以下、「本願発明」という。)

3 引用例記載の事項及び引用発明
(1)引用例1の記載事項
これに対して、引用例1には、以下の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている(なお、下線は当審で付した。)。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、回転角度検出装置、特に、ティース(teeth;歯部)を有する鉄心で構成される固定子と回転子との間におけるギャップのパーミアンスの変化を利用した回転角度検出装置に関するものである。」

(b)「【0002】
【従来の技術】
使用温度環境が制限され、また構造が複雑で高価な光学式のエンコーダに対して、構造が簡単で安価であり、かつ高温度環境にも耐え得るものとして、従来から回転子と固定子間のギャップのパーミアンスの変化を利用した回転角度検出装置が提案されている。
2相の励磁巻線と1相の出力巻線を有する回転角度検出装置(例えば、特許文献1参照)や、1相の励磁巻線と2相の出力巻線を有するもの(例えば、特許文献2参照)がその例である。
いずれの例も、回転子の形状は突極を有するものになっているため、回転子の角度によって、出力巻線に現れる電圧の位相あるいは振幅が変化し、その変化を読み取ることによって回転子の位置を知ることができるというものである。
また、励磁巻線が3相の回転角度検出装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、固定子のティースに集中的に巻線を巻き、正弦波状に巻数を変化させたものが開示されている(例えば、特許文献4,5参照)。」

(c)「【0011】
図1に軸倍角8、固定子のティースの数が12の回転角度検出装置を示す。
回転子1に対応する固定子2は、12本のティース(teeth;歯部)3を有する鉄心と1相励磁巻線と2相の出力巻線からなる巻線4によって構成される。
また、回転子1は軸倍角8の回転角度検出装置として機能するように8個の突極を有する鉄心で構成され、回転自在となっている。
【0012】
次に、巻線4における1相の励磁巻線と2相の出力巻線をどのように構成するかについて述べる。
励磁巻線はティース番号[1]?[12]のティース3それぞれに集中的に巻き回されている。また、その極性は6極の磁極が構成できるような巻線がされている。ただし、励磁巻線の極数は固定子のティースの数と異なるものとする。
…(中略)…
【0013】
一方、この発明においては空間5次および空間11次両方の磁束を拾うような出力巻線を考えることとする。そうすれば、両方の次数の磁束を拾うため、1つの次数成分しか拾わない従来例に比べて、出力電圧を大きくできるという効果が期待できる。
【0014】
そこで、空間5次および空間11次の正弦波の和で表される関数で各ティースに施す巻数を決定することにする。
2相の出力巻線α相巻線,β相巻線のティース番号iにおける巻数をNαi,Nβiとし、符号の正負で巻き方向が逆転することを表現する。
式(1)(2)のようにNαiおよびNβiを決定すれば、空間5次および空間11次両方の磁束を拾うような出力巻線を構成することが可能である。
…(中略)…
【0017】
図4にN1=N2=58、θ=π/12[rad]、ξ=3π/2[rad]とした巻数
を表で示す。ただし、巻数は小数点以下を四捨五入している。図5は図4をグラフ化したものである。これら2例の巻線仕様で、回転子の位置に対する出力電圧の変化を求めた。結果を図6に示す。この回転角度検出装置の軸倍角は8であるので、機械角45度が電気角360度である(電気角=軸倍角×機械角)。つまり機械角45度で出力電圧は正弦波状に変化する。なお、この図において電圧が負であるということは位相が反転することを示している。また、α相巻線とβ相巻線の出力電圧の変化は互いに電気角90度位相がずれている。以上のことから、従来例,この発明いずれも回転角度検出装置として動作していることを確認できる。図4では巻数の小数点以下を四捨五入した例を示したが、巻数が小数である場合も回転角度検出装置として動作することはいうまでもない。巻数が小数である場合には、巻線をティースに1回巻き回すのではなく、巻線の途中で、となりのティースに移るなどして構成できる。また、巻数が式(1)(2)から例えば10%程度ずれた値になったとしても、検出位置誤差は大きくなるが出力巻線の電圧の変化は正弦波状となることから回転角度検出装置として動作することはいうまでもない。」

(d)「【0020】
この原因について考察してみる、図8に励磁巻線に電流を通電したときの空隙磁束密度波形を示す。…(後略)」



ア 上記(a)の記載から、「回転角度検出器」との技術的事項が読み取れる。

イ 図1から、「それぞれのティース3は、内向して周方向に互いに間隔をおいて固定子2に形成されている」といえる。
また、上記(c)の記載及び図1から、励磁巻線と2相の出力巻線からなる巻線4は、それぞれのティースに巻き回されているといえるから、引用例1に記載の「固定子2」は、「12本のティース3と、励磁巻線と、2相分の出力巻線とによって構成され、励磁巻線及び2相分の出力巻線はそれぞれのティースに巻回されている」ということができ、ここで、巻線は導線により構成されるものといえる。
そして、上記(d)の、「励磁巻線に電流が通電した」との記載から、励磁巻線に電流を通電するための電源が設けられていることは明らかである。
さらに、上記(c)の記載から、出力巻線は磁束を拾って電圧を出力しており、上記(b)に記載の角度検出器の動作原理も考慮すると、出力巻線は磁束密度の変化を電圧として出力するものと認められる。
よって、上記(b)ないし(d)の記載及び図1から、
「内向して周方向に互いに間隔をおいて形成された12本のティース3を有するとともに前記ティース3にそれぞれ導線を巻回して形成された、電源により励磁される励磁巻線および磁束密度の変化を電圧として出力する2相分の出力巻線を有する固定子2」との技術的事項が読み取れる。

ウ 上記(a)の記載から、固定子2と回転子1との間におけるギャップのパーミアンスは変化するものであること、上記記載(c)から、回転子1は8個の突極を有する鉄心で構成されており、出力電圧が正弦波となっていること、及び図1の回転子1の形状から、回転子1の回転に応じてティース3と回転子1との距離の長短が周期的に変化すること、即ち、固定子2と回転子1との間のパーミアンスが周期的に変化することから、
「前記固定子2との間のパーミアンスが、出力電圧が正弦波状に変化するように、周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子1」との技術的事項が読み取れる。

エ 上記(a)の記載から、回転角度検出装置は固定子2と回転子1との間におけるギャップのパーミアンスが変化するものであって、ここでパーミアンスの逆数はリラクタンスであるから、リラクタンスも可変(バリアブル)であるといえる。
よって、上記(a)の記載から、
「バリアブルリラクタンス型角度検出器」との技術的事項が読み取れる。

(2)引用発明
以上の技術的事項アないしエを総合勘案すると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「内向して周方向に互いに間隔をおいて形成された12本のティース3を有するとともに前記ティース3にそれぞれ導線を巻回して形成された、電源により励磁される励磁巻線および磁束密度の変化を電圧として出力する2相分の出力巻線を有する固定子2と、
前記固定子2との間のパーミアンスが、出力電圧が正弦波状に変化するように、周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子1と
を備えたことを特徴とするバリアブルリラクタンス型角度検出器」(以下、「引用発明」という。)

(3)引用例2の記載事項
引用例2には、以下の事項(a)ないし(e)が図面とともに記載されている。
(a)「(産業上の利用分野)
本発明は銅やアルミニウム等の非鉄金属部材に混入せる微小な鉄粉等の強磁性体の異物を検出する強磁性体異物検出センサに関する。」(第1頁左欄第11?14行)

(b)「従来、上記微小鉄粉等を検出するセンサとしては第2図に示すように、コア1にコイル11を巻回し、当該コイル11に定電流源12及び信号処理回路13を接続し、定電流源12により励磁して磁束を発生させると共に当該コア1に設けたギャップ2に磁界と直交する方向に電線8を通過させる。この電線8中に微小な強磁性体の異物例えば、鉄粉9が混入していると、当該鉄粉9がギャップ2を通過する際に当該ギャップ2の磁気抵抗が変化してコア1内を通る磁束が変化し、コイル11に誘起起電力e(=-N(dφ/dt))を発生する。
コイル11の励磁電流は定電流源12から給電されるために殆ど変化しないが、両端の電圧は誘起起電力eに応じて変化する。信号処理回路13はこのコイル11の電圧変化により前記異物を検出する。」(第1頁右欄第4?20行)

(c)「即ち、検出感度を高めるためにはコイル11の巻数をなるべく多くすると共にギャップ2の磁束密度を大きくすることが必要である。磁束密度を大きくするためには励磁電流を大きくすることが必要であり、そのためにはコイル11の線径を太くすることが必要である。」(第2頁左上欄第6?12行)

(d)「第1図は本発明を適用した強磁性体異物検出センサを示し、磁気回路を形成するコアlには励磁コイル3と検出コイル4とが巻回されており、励磁コイル3は大きな励磁電流を供給し得るように太い線径の巻線を巻回して形成されている。この励磁コイル3の巻数は励磁電流の大きさ及びコア1のギャップ2に発生させる磁束密度により適宜の巻数とされる。一方、検出コイル4は細線例えば、0.05mm程度の極細線を多数(1000回程度)巻回して形成されている。」(第2頁左下欄第17行?右下欄第6行)

(e)「(発明の効果)
以上説明したように本発明によれば、非磁性の検査対象物を通過させて磁界を印加するギャップを有し磁気回路を形成するコアに、太い線径の巻線を巻回して励磁コイルを形成し、細い線径の巻線を多数巻回して検出コイルを形成したので、前記励磁コイルに大きな励磁電流を供給することができるために前記ギャップの磁束密度を高くすることができると共に前記検出コイルの周波数応答特性を向上することができ、この結果、前記非磁性の検査対象物に混入する鉄粉等の強磁性体の異物の検出感度を大幅に高めることができ、微小な異物を極めて良好に検出することが可能であるという優れた効果がある。」(第3頁右下欄第12行?第4頁左欄第5行)

上記(d)の記載から、引用例2には、「磁気回路を形成するコアに励磁コイルと検出コイルとが巻回された検出センサにおいて、励磁コイルは大きな励磁電流を供給し得るように太い線径の巻線を巻回して形成される」ことが記載されている。ここで、上記(a)の「本発明は強磁性体異物検出センサに関する。」、上記(b)の「コア1にコイル11を巻回し、当該コイル11に定電流源12を接続し、定電流源12により励磁して磁束を発生させる」、上記(c)の「検出感度を高めるためにはコイル11の励磁電流を大きくすることが必要であり、そのためにはコイル11の線径を太くすることが必要である。」、及び上記(e)の「磁気回路を形成するコアに、太い線径の巻線を巻回して励磁コイルを形成し、前記励磁コイルに大きな励磁電流を供給することができるために検出感度を大幅に高めることができ、」との記載から、センサの磁束を発生させる励磁コイルの線径を太くすることにより、検出感度を高めることが記載されているといえるから、
引用例2には、「磁気回路を形成するコアに励磁コイルと検出コイルとが巻回された検出センサにおいて、励磁コイルは大きな励磁電流を供給し得るように太い線径の巻き線を巻回して形成され、これにより検出感度を高める」との技術的事項が記載されているということができる。

4 対比
本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に順次対比する。
(1)引用発明における「12本のティース3」、「励磁巻線」及び「出力巻線」は、本願発明における「複数個のティース」、「励磁コイル」及び「出力コイル」にそれぞれ相当する。また、「2」は整数であるから、引用発明の「2相分」は、本願発明の「a相分(aは整数)」に相当する。

(2)引用発明における「前記固定子2との間のパーミアンスが、出力電圧が正弦波状に変化するように、周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子1」と、本願発明における「前記固定子との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化する形状である鉄心で構成された回転子」とは「前記固定子との間のギャップパーミアンスが周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子」である点で一致する。

(3)してみると、両者は以下の点で一致する。
(一致点)
「内向して周方向に互いに間隔をおいて形成された複数個のティースを有するとともに前記ティースにそれぞれ導線を巻回して形成された、電源により励磁される励磁コイルおよび磁束密度の変化を電圧として出力するa相分(aは整数)の出力コイルを有する固定子と、
前記固定子との間のギャップパーミアンスが周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子と
を備えたことを特徴とするバリアブルリラクタンス型角度検出器。」

他方、両者の相違点は、以下のとおりである。
・相違点1
本願発明の回転子が、固定子との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化する形状であるのに対し、引用発明は、出力電圧が正弦波状に変化するものの、回転子は、固定子との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化する形状か否か明確には特定されていない点。

・相違点2
本願発明では、励磁コイルは、出力コイルより大きい線径の導線を巻回して形成されたものであるのに対し、引用発明では励磁コイルの線径について特定されていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用発明は、「固定子2との間のギャップパーミアンスが、出力電圧が正弦波状に変化するように、周期的に変化する形状である鉄心で構成された回転子1」であって、出力電圧が正弦波状に変化するものである。ここで、回転子の形状は様々な形状によりなし得ることから(引用例1の【図18】ないし【図29】)、引用発明において回転子の形状として、固定子との間のギャップパーミアンスが正弦波状に変化する形状とするようにすることに格別の困難性はない。

・相違点2について
引用例2には、「磁気回路を形成するコアに励磁コイルと検出コイルとが巻回された検出センサにおいて、励磁コイルは大きな励磁電流を供給し得るように太い線径の巻き線を巻回して形成され、これにより検出感度を高める」との技術的事項が記載されているということができる(上記3(3))。
そして、検出感度を高めるという課題は検出器一般の課題であるから、引用発明においても検出感度を高めるために、励磁コイルの線径を大きくすることは、当業者が容易になし得ることである。
その際、励磁コイルと出力コイルの線径を等しくする必要は無いのだから、出力コイルの線径はそのままに、励磁コイルの線径のみを大きくして検出コイルより大きい線径の導線とすることに格別の困難性はない。

以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、また、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用例2に記載の技術的事項から当業者が予測可能なものであって格別のものでもない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-14 
結審通知日 2014-11-18 
審決日 2014-12-02 
出願番号 特願2011-436(P2011-436)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 雅人  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 新川 圭二
武田 知晋
発明の名称 バリアブルリラクタンス型角度検出器  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 上田 俊一  
代理人 飯野 智史  
代理人 大宅 一宏  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 田村 義行  

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