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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1296483
審判番号 不服2013-9860  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-29 
確定日 2015-01-14 
事件の表示 特願2009-501934「殺虫特性を有する活性物質の組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日国際公開、WO2007/112893、平成21年 9月 3日国内公表、特表2009-531360〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年3月28日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年3月30日及び2006年9月9日 (DE)ドイツ〕を国際出願日とする出願であって、
平成24年6月4日付けの拒絶理由通知に対し、平成24年11月2日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、
平成25年1月23日付けの拒絶査定に対し、平成25年5月29日付けで審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、
平成25年10月2日付けの審尋に対し、平成26年1月14日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 本願発明
1.本願請求項1?8に係る発明
平成25年5月29日付けの手続補正は、平成24年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された補正前の請求項1及び3?4を、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」を目的として、削除するものである。
したがって、本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年5月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、本願請求項1に記載された発明は、次のとおりのものである。
「化合物(5)
【化1】

並びに
サイフルメトフェン、シエノピラフェン、スピロテトラマート及びO-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる活性化合物
を含む農薬組成物。」

2.本願明細書の発明の詳細な説明
本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、アンスラニラミドのクラスから得られる少なくとも1つの活性化合物及び殺虫剤、殺真菌剤及び殺ダニ剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる活性化合物を含む、殺虫特性を有する相乗性活性化合物の組み合わせ、それらの調製、並びに望ましくない昆虫及び/又はハダニを駆除するためのそれらの使用に関する。
【0002】
アンスラニラミドのクラスから得られるある種の化合物が殺虫特性を有することは既に公知であり(例えば、WO2004/067528、WO2006/023783参照)、他の有害生物駆除剤とのアンスラニラミドの殺虫性混合物が記載されている(例えば、WO2005/107468、WO2006/068669参照)。これらの公報の内容は、参照により、本明細書中に明示的に組み込まれる。
【0003】
これらの化合物の活性は一般に良好である。しかしながら、特定の事例では、活性は満足できるものではない。アンスラニラミドのクラスから得られる少なくとも1つの活性化合物(成分A)及び殺虫剤、殺真菌剤又は殺ダニ剤のクラスから得られる少なくとも1つのさらなる活性化合物(成分B)を含む活性化合物の組み合わせは、加算的な活性のみならず、超加算的な相乗的活性を有することがここに見出された。
【0004】
さらなる活性化合物と組み合わせた際にこのような相乗的効果が達成されるアンスラニラミドは、例えば、公知の化合物(1)から(22)である。
【0005】
【化23】



【0026】
本発明の主題のさらなる好ましい実施形態は、成分Aとして化合物(5)を含み、及び殺虫性、殺ダニ性又は殺真菌性活性を有する少なくとも1つのさらなる活性化合物を成分Bとして含む活性化合物の組み合わせである。
【0027】
本発明の主題のさらなる特に好ましい実施形態は、成分Aとして化合物(5)を含み、及び成分Bとして、以下のものからなる群から選択される活性化合物を含む活性化合物の組み合わせである。
【0028】
殺真菌剤
ベナラキシル、…2-(2-{[6-(3-クロロ-2-メチルフェノキシ)-5-フルオロピリミジン-4-イル]オキシ}フェニル)-2-(メトキシイミノ)-N-メチルアセトアミド、
殺虫剤/殺ダニ剤
サイフルメトフェン、シエノピラフェン、スピロテトラマート及びIKA2002(WO98/35935から公知の、O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}。
【0029】
好ましく使用され得るさらなる殺真菌剤は、N-{[1,1-ビ(シクロプロピル)-2-イル]フェニル}-3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキサミド(WO03/74491から公知)である。
【0030】
特に好ましく使用され得る殺真菌剤は、カルベンダジム、チラム、カルボキシム、トリチコナゾール、ピラクロストロビン、ボスカリド、オリザストロビン、アゾキシストロビン、ジフルアコナゾール、フルジオキシニル、メフェエノキサン、メタラキシル、ベナラキシル、キララキシル、N-{2-[1,1-ビ(シクロプロピル)-2-イル]フェニル}-3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-1H-ピラゾール-4-カルボキサミドである。…
【0116】
本発明の活性化合物の組み合わせ中の活性化合物は、一定の重量比で存在すれば、相乗効果が特に顕著である。しかしながら、活性化合物の組み合わせにおける活性化合物の重量比は、比較的幅広い範囲内を変動することが可能である。一般に、本発明の組み合わせは、以下の好ましい混合比及び特に好ましい混合比で、活性化合物(1)ないし(22)の1つを成分Aとして含み、及び上に列記されている本発明の混合対をさらに成分Bとして含む。
【0117】
好ましい混合比: 125:1から1:125
特に好ましい混合比: 25:1から1:25
混合比は、重量比に基づく。比は、成分A:成分Bを意味するものとして理解しなければならない。
【0118】
優れた植物耐用性及び温血動物に対する好ましい毒性を併有し、並びに環境によって良好に耐容される、本発明の活性化合物の組み合わせは、植物及び植物器官を保護するため、収穫量を増加するため、収穫された材料の品質を向上するため、保存された製品の保護及び資材の保護において、並びに衛生分野において、農業、園芸、畜産、森林、庭及び娯楽施設で遭遇する、有害動物、特に昆虫、クモ形動物、蠕虫、線虫及び軟体動物を駆除するために適している。本発明の活性化合物の組み合わせは、好ましくは、穀物保護剤として使用され得る。本発明の活性化合物の組み合わせは、正常に感受性の種及び耐性種に対して、並びに発育段階の全部又は一部に対して活性である。上記有害生物には、以下ものが含まれる。…
【0138】
本発明の活性化合物の組み合わせは、とりわけ、吸汁有害生物に対する、特に、ミズス・ペルシカエ(Myzus persicae)、アフィス・ゴシッピ(Aphis gossypii)及びテトラニカス・ウルチカエ(Tetranychus urticae)に対する強力な作用によって区別される。…
【0164】
本発明の活性化合物の組み合わせは、植物、衛生及び貯蔵製品に対する有害生物に対して作用するだけでなく、獣医薬の分野において、マダニ、軟ダニ、疥癬ダニ、ツツガムシ、ハエ(咬みバエ及び舐めバエ)、寄生性のハエの幼虫、シラミ、毛ジラミ、羽ジラミ及びノミなどの動物の寄生生物(外部及び内部寄生虫)に対して作用する。これらの寄生生物には下記のものがある。…
【0179】
住居、衛生及び保存される産物の保護において、前記活性化合物の組み合わせは、例えば、住居、工場の建物、職場、乗り物の部屋などの閉鎖空間で発見される有害動物、特に昆虫、クモ形類動物及びダニの駆除にも適している。活性化合物の組み合わせは、単独で、又はこれらの有害生物を駆除するための家庭用殺虫製品中の他の活性化合物及び補助剤と組み合わせて使用することが可能である。活性化合物の組み合わせは、感受性及び耐性種に対して活性であり、並びに全ての発達段階に対して活性である。これらの有害生物には、以下のものが含まれる。…
【0205】
本発明の利点の1つは、本発明の組成物の特別な浸透性の特性のために、これらの組成物による種子の処理は、種子そのものを有害生物から保護するのみならず、出芽後に、発生する植物を有害生物から保護することを意味する。このように、播種の時点又はその直後に、作物を直ちに処理することを省略することが可能である。
【0206】
さらなる利点は、それぞれの殺虫性活性化合物と比べて、本発明に係る組成物の相乗的に増加した殺虫活性であり、これは、個別に付与された場合における2つの活性化合物の予測される活性を超える。同じく有利であるのは、それぞれの殺真菌性活性化合物と比べて、本発明に係る組成物の相乗的に増加した殺真菌活性であり、これは、個別に付与された活性化合物の予測される活性を超える。これによって、使用される活性化合物の量の最適化が可能となる。…
【0233】
本発明の組成物が、少なくとも1つの殺虫活性化合物及び少なくとも1つの殺真菌活性化合物の両方を含むのであれば、殺真菌活性と殺虫活性は何れも、超加算的様式で増強され得る。
【0234】
2つの活性化合物の所定の組み合わせに対する予想される活性は、「S.R. Colby,Weeds15(1967),20-22)」に従って、以下のようにして計算することが可能である。
【0235】
Xは、mg/haの付与速度で又はmppmの濃度で活性化合物Aを使用する場合に、非処理対照の%で表される死滅率であり、
Yは、ng/haの付与速度で又はnppmの濃度で活性化合物Bを使用する場合に、非処理対照の%で表される死滅率であり、
Eが、m及びng/haの付与速度で又はm及びnppmの濃度で活性化合物A及びBを使用する場合に、非処理対照の%で表される死滅率であれば、
【0236】
【数1】
X・Y
E = X + Y - ─────
100
【0237】
実際の殺虫死滅率が計算された値より高ければ、組み合わせの死滅率は超加算的である、すなわち、相乗効果が存在する。この場合には、実際に観察される死滅率は、予測される死滅率(E)に対する上式を用いて計算された値より高くなければならない。
【0238】
所望の時間後、%で表した死滅率を測定する。100%はすべての動物が死滅したことを意味し、0%は動物が全く死滅しなかったことを意味する。
【0239】
使用例
(実施例A)
アフィス・ゴシッピ試験
溶媒:ジメチルホルムアミドの7重量部
乳化剤:アルキルアリールポリグリコールエーテルの2重量部
活性化合物の適切な調製物を作製するために、活性化合物の1重量部を、溶媒及び乳化剤の表記量と混合し、乳化剤を含有する水を用いて、濃縮物を所望の濃度まで希釈する。
【0240】
所望の濃度の活性化合物の調製物中に浸すことによって、ワタアブラムシ(Aphis gossypii)に著しく感染した綿の葉(Gossypium hirsutum)を処理する。所望の時間後、%で表した死滅率を測定する。100%は全てのアブラムシが死滅したことを意味し、0%はアブラムシが全く死滅しなかったことを意味する。決定された死滅率は、Colbyの式(ページ71参照)に入力される。
【0241】
本検査では、例えば、本願に係る以下の活性化合物の組み合わせが、単独で付与された活性化合物と比べて相乗的に増強された活性を示す。
【0242】
【表1】 表A 植物損傷昆虫 アフィス・ゴシッピイ試験
┌──────────────┬──────┬──────────┐
│活性化合物 │ppmで表し│6日後における、%で│
│ │た活性化合物│ 表した死滅率 │
│ │濃度 │実測値^(*)│計算値^(**)│
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … (5) │ 0.8 │ 45 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … スピロテトラマート│ 4 │ 15 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … シフルメトフェン │ 0.16 │ 0 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│(5)+スピロテトラマート(1:5)│ 0.8+4 │ 90 │53.25│
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│(5)+シフルメトフェン(5:1) │ 0.8+0.16 │ 75 │ 45 │
└──────────────┴──────┴────┴─────┘
^(*)実測値=実測された活性
^(**)計算値=Colbyの式から計算された活性

【0243】
(実施例B)
ミズス・ペルシカエ(Myzus persicae)試験
溶媒:ジメチルホルムアミドの7重量部
乳化剤:アルキルアリールポリグリコールエーテルの2重量部
活性化合物の適切な調製物を作製するために、活性化合物の1重量部を、溶媒及び乳化剤の表記量と混合し、乳化剤を含有する水を用いて、濃縮物を所望の濃度まで希釈する。
【0244】
所望の濃度の活性化合物の調製物中に浸すことによって、モモアカアブラムシ(green peach aphid)(Myzus persicae)に著しく感染したキャベツ(Brassica oleracea)の葉を処理する。
【0245】
所望の時間後、%で表した死滅率を測定する。100%は全てのアブラムシが死滅したことを意味し、0%はアブラムシが全く死滅しなかったことを意味する。決定された死滅率は、Colbyの式(ページ71参照)に入力される。
【0246】
本検査では、例えば、本願に係る以下の活性化合物の組み合わせが、単独で付与された活性化合物と比べて相乗的に増強された活性を有する。
【0247】
【表2】 表B 植物損傷昆虫 ミズス・ペルシカエ試験
┌──────────────┬──────┬──────────┐
│活性化合物 │ppmで表し│6日後における、%で│
│ │た活性化合物│ 表した死滅率 │
│ │濃度 │実測値^(*)│計算値^(**)│
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … (5) │ 4 │ 10 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … シエノピラフェン │ 4 │ 0 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│(5)+シエノピラフェン(1:1) │ 4+4 │ 50 │ 10 │
└──────────────┴──────┴────┴─────┘
^(*)実測値=実測された活性
^(**)計算値=Colbyの式から計算された活性

【0248】
【表3】 表B 植物損傷昆虫 ミズス・ペルシカエ試験
┌──────────────┬──────┬──────────┐
│活性化合物 │ppmで表し│6日後における、%で│
│ │た活性化合物│ 表した死滅率 │
│ │濃度 │実測値^(*)│計算値^(**)│
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … (5) │ 0.16 │ 5 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … スピロテトラマート│ 0.8 │ 10 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│(5)+スピロテトラマート(1:5)│ 0.16+0.8 │ 45 │ 14.5│
└──────────────┴──────┴────┴─────┘
^(*)実測値=実測された活性
^(**)計算値=Colbyの式から計算された活性

【0249】
(実施例C)
テトラニカス・ウルチカエ(Tetranychus urticae)試験(OP耐性、浸漬付与)
溶媒:ジメチルホルムアミドの7重量部
乳化剤:アルキルアリールポリグリコールエーテルの2重量部
活性化合物の適切な調製物を作製するために、活性化合物の1重量部を、溶媒及び乳化剤の表記量と混合し、水を用いて、濃縮物を所望の濃度まで希釈する。
【0250】
温室アカハダニ(Greenhouse red spider mite)(Tetranychus urticae)に大量に感染したツルナシインゲンマメ(Bush beans)(Phaseolus vulgaris)を、所望の濃度で活性化合物の調製物中に浸漬させる。
【0251】
所望の時間後、%で表した死滅率を測定する。100%は全てのハダニが死滅したことを意味し、0%はハダニが全く死滅しなかったことを意味する。
【0252】
本検査では、本願に係る以下の活性化合物の組み合わせが、単独で付与された活性化合物と比べて相乗的に増強された活性を示す。
【0253】
【表4】 表C 植物損傷昆虫 テトラニカス・ウルチカエ試験
┌──────────────┬──────┬──────────┐
│活性化合物 │ppmで表し│7日後における、%で│
│ │た活性化合物│ 表した死滅率 │
│ │濃度 │実測値^(*)│計算値^(**)│
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … (5) │ 0.16 │ 0 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│ … スピロテトラマート│ 0.8 │ 25 │ │
├──────────────┼──────┼────┼─────┤
│(5)+スピロテトラマート(1:5)│ 0.16+0.8 │ 90 │ 25 │
└──────────────┴──────┴────┴─────┘
^(*)実測値=実測された活性
^(**)計算値=Colbyの式から計算された活性


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成24年6月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由IIIによって、拒絶をすべきものです。」というものであって、
平成24年6月4日付け拒絶理由通知書には、その「理由III」として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由が示され、
その「記」には『
・理由IIIについて
・請求項:1?29
・備考:
(1)本願発明について
この出願の発明は、出願時の特許請求の範囲の【請求項1】?【請求項29】に記載されたとおりのものである(請求項1?29に記載された特許を受けようとする発明を、以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明29」といい、併せて「本願発明」という。)。
(2)発明の詳細な説明に記載された発明
発明の詳細な説明には、本願発明は「アンスラニラミドのクラスから得られる少なくとも1つの活性化合物及び殺虫剤、殺真菌剤及び殺ダニ剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる活性化合物を含む、殺虫特性を有する相乗性活性化合物の組み合わせ、それらの調製、並びに望ましくない昆虫及び/又はハダニを駆除するためのそれらの使用」に関するものであり(【0001】)、「加算的な活性のみならず、超加算的な相乗的活性を有する」組み合わせを提供することを課題とする旨記載されている(【0003】)。
そして、発明の詳細な説明には、化合物(5)にシフルメトフェン、スピロテトラマート、シエノピラフェンを組み合わせた場合に、相乗効果を奏することが示されている(実施例A?C)。
(3)判断
本願発明1?22の「化合物」は、それぞれ置換基の異なる化合物が含まれ、本願発明1?22の「殺虫剤、殺真菌剤及び/又は殺ダニ剤」には、様々な化合物が包含されるところ、相乗効果を確認しているのは、化合物(5)とシフルメトフェン、スピロテトラマート、シエノピラフェンを組み合わせた場合のみである。ここで、農薬の分野において、置換基が変化することによって、活性が大きく変化する場合があること、また、2種以上の農薬活性成分を組み合わせた場合に相乗効果を奏するか否かを予測することは困難であることは、技術常識であるから、上述のように具体的に相乗効果を奏すること確認されていない組み合わせの範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠は見いだせない。
よって、本願発明1?22において、「加算的な活性のみならず、超加算的な相乗的活性を有する」組み合わせを提供するという本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。
同様の理由により、本願発明23?29においても、本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。』
との指摘がなされている。
また、原査定の備考欄には『出願人は、平成24年11月2日付け意見書において、「このように、化合物(5)の構造と化合物(3)、(14)および(19)の構造がきわめて近いことを考慮すれば、当業者は、化合物(3)、(14)および(19)と、サイフルメトフェン、シエノピラフェンおよびスピロテトラマートから選択される活性化合物との組み合わせは、化合物(5)と、サイフルメトフェン、シエノピラフェンおよびスピロテトラマートから選択される活性化合物との組み合わせと同様に、相乗的な殺真菌活性および殺虫活性を示すことを理解し得る。以上より、当業者は、本願明細書に基づけば、化合物(3)、(5)、(14)および(19)と、サイフルメトフェン、シエノピラフェン、スピロテトラマート及びO-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}から選択される活性化合物との組み合わせが、殺虫特性等において相乗効果を有することを理解し得る。」と主張している。
しかしながら、農薬の分野において、置換されたハロゲンの種類が変わることによって、その活性が大きく変化する場合があることは技術常識であることから、具体的に相乗効果を確認している化合物(5)とは異なるハロゲンで置換された化合物(3)、(14)、(19)を組み合わせた範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠は見いだせない。また、化合物(5)と組み合わせることによって、相乗効果を確認しているのは、出願人も意見書で述べているように、サイフルメトリン、シエノピラフェン及びスピロテトラマートのみである。そして、先の拒絶理由にも示したように、2種以上の農薬活性成分を組み合わせた場合に相乗効果を奏するか否かを予測することは困難であるという技術常識もかんがみると、O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}を組み合わせた場合についてまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠は見いだせない。
したがって、補正後の請求項1?11に係る各発明において、本願発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。
よって、先の拒絶理由を回避することはできない。』
との指摘がなされている。

第4 当審の判断
1.はじめに
一般に特許法第36条第6項第1号に規定する「サポート要件」の適否については『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

2.発明の詳細な説明に記載された発明
発明の詳細な説明には、本願発明は「アンスラニラミドのクラスから得られる少なくとも1つの活性化合物及び殺虫剤、殺真菌剤及び殺ダニ剤からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる活性化合物を含む、殺虫特性を有する相乗性活性化合物の組み合わせ、それらの調製、並びに望ましくない昆虫及び/又はハダニを駆除するためのそれらの使用」に関するものであり(【0001】)、「加算的な活性のみならず、超加算的な相乗的活性を有する」組み合わせを提供することを課題とする旨記載されている(【0003】)。
そして、発明の詳細な説明には、化合物(5)にシフルメトフェン、スピロテトラマート、シエノピラフェンを組み合わせた場合に、相乗効果を奏することが示されている(実施例A?C)が、化合物(5)にO-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}を組み合わせた場合に、相乗効果を奏することを具体的に確認した記載はない。

3.相乗効果の予測可能性
一般に2種以上の農薬活性成分を組み合わせた場合に相乗効果を奏するか否か(本願明細書の【0236】のコルビーの計算式によって予測される活性値に比べて、実際の殺虫死滅率が超加算的であるか否か)を予測できることについて、本願明細書の発明の詳細な説明には理論的な説明がない。

そこで、化合物(5)〔一般名:シアントラニリプロール;化学名:3-ブロモ-1-(3-クロロ-2-ピリジル)-4’-シアノ-2’-メチル-6’-(メチルカルバモイル)ピラゾール-5-カルボキサニリド〕に、次の化学構造を有する

シフルメトフェン〔開発コード:OK-5101;化学名:2-メトキシエチル(RS)-2-(4-tert-ブチルフェニル)-2-シアノ-3-オキソ-3-(α,α,α-トリフルオロ-o-トリル)プロピオナート〕、
シエノピラフェン〔開発コード:NC-512;化学名:(E)-2-(4-tert-ブチルフェニル)-2-シアノ-1-(1,3,4-トリメチルピラゾール-5-イル)ビニル2,2-ジメチルプロピオナート〕、又は
スピロテトラマト〔開発コード:BYI08330;化学名:シス-4-(エトキシカルボニルオキシ)-8-メトキシ-3-(2,5-キシリル)-1-アザスピロ[4.5]デカ-3-エン-2-オン〕を組み合わせた場合の試験結果から、
化学名:O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}の化合物〔開発コード:IKA-2002;本願明細書においてWO98/35935から公知とされる化合物〕を組み合わせた場合の相乗効果を予測できるか否かについて検討する。

当該「IKA-2002」の化学構造は、特開平11-158137号公報(WO98/35935のパテントファミリー)の第61頁の化合物No.a-443に相当する次の化学構造を有するものであるところ、

上記「シエノピラフェン」と「IKA-2002」の化学構造は、両者ともシアノビニルの構造を有している点で共通するものの、シエノピラフェンの置換基が「4-tert-ブチルフェニル」、「1,3,4-トリメチルピラゾール-5-イル」及び「2,2-ジメチルプロピオナート」からなるのに対して、IKA-2002の置換基は「4-クロロフェニル」、「2-トリフルオロメチルフェニル」及び「S-メチルチオカルボナート」からなっている点において大きく相違しており、
上記「シフルメトフェン」と「IKA-2002」の化学構造は、両者ともトリフルオロメチルフェニル基を有して点で共通するものの、その基本骨格及びその余の置換基において全く異なっており、
上記「スピロテトラマト」と「IKA-2002」の化学構造は、基本骨格及び置換基のいずれにおいても共通する点がないので、
上記「IKA-2002」の化学構造が、シフルメトフェン、シエノピラフェン又はスピロテトラマトに類似した化学構造にあるとは認められない。

そうすると、化学構造の類似する化合物がある程度同様の化合物特性を持つとしても、化学構造が全く類似していないシフルメトフェン、シエノピラフェン、又はスピロテトラマトの場合の試験結果と、当該「IKA-2002」の場合が、同様の相乗効果があることを類推できるものとは認められない。

したがって、本願請求項1に記載された「O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}」の場合については、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

4.請求人の主張について
平成25年6月20日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は『当業者は、本願明細書の記載及び技術常識に基づけば、化合物(5)と、O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}との組み合わせが、化合物(5)と、サイフルメトフェン、シエノピラフェンおよびスピロテトラマートから選択される活性化合物との組み合わせと同様に、相乗的な殺真菌活性および殺虫活性を示すことを予測し得る。』と主張している。
しかしながら、化合物(5)と、IKA-2002との組合せが「相乗的な殺真菌活性および殺虫活性を示すこと」を予測し得るような技術常識が本願出願日前にあったことが具体的に示されていない。
したがって、本願請求項1に記載された「O-{(E)-2-(4-クロロフェニル)-2-シアノ-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ビニル)S-メチルチオカルボナート}」の場合については、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。

5.まとめ
以上総括するに、本願請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲のものであるとは認められないので、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-18 
結審通知日 2014-08-19 
審決日 2014-09-01 
出願番号 特願2009-501934(P2009-501934)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 門前 浩一
木村 敏康
発明の名称 殺虫特性を有する活性物質の組み合わせ  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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