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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1296490
審判番号 不服2013-20410  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-21 
確定日 2015-01-14 
事件の表示 特願2009-210463「核燃料アッセンブリのための合金とチューブ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月14日出願公開、特開2010- 7185〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成11年 3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:平成10年 3月31日 フランス)を国際出願日とする特願2000-541690号の一部を平成21年 9月11日に新たな特許出願としたものであって、原審にて、平成25年 6月27日付けの拒絶査定がされ、この査定を不服として、同年10月21日に本件審判の請求がされ、当審にて、平成26年 3月 4日付けの拒絶理由が通知され、これに対し同年 6月 6日付けの意見補正がされたものである。

2.本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年 6月 6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「ジルコニウムベースの合金であって、第1に少なくとも重量で75ppm?2000ppmの鉄と、第2に少なくとも5ppmのクロム及びバナジウムから選択された少なくとも1つの元素とから成る成分を、Fe/(Cr+V)重量比が0.5?30の範囲でトータルで0.03?0.25重量%、0.8?1.3重量%のニオブ、2000ppm以下のスズ、500?2000ppmの酸素、100ppm以下の炭素、5?35ppmの硫黄、および50ppm以下の珪素を除去できない不純物以外に再結晶状態で含んでいることを特徴とするジルコニウムベースの合金。」

3.当審拒絶の理由

当審にて通知した拒絶理由の一つは、要するに、
「段落0004には、本発明の課題が、耐食性を高めることであると記載され、段落0012?0014には、本発明合金は、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の金属間化合物により、リチウム含有媒体中における耐久性を著しく向上させることができると記載されているが、これに対し、本発明の実施の形態には、CrもVも含まないジルコニウム合金を用いた実験結果(表1)、NbもFeもCrもその含有量が不明なジルコニウム合金を用いた実験結果(表2)、FeもCrもVも含まないジルコニウム合金を用いた実験結果(表3)しか記載されていない。
すなわち、発明の詳細な説明には、本発明の合金の耐食性について具体的な記載がない。そして、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の金属間化合物が、ジルコニウム合金の耐食性を高めることが、当業者に自明であるとも認められない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明において、その課題を解決することができると記載された発明ではない。
よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものである。

4.本願明細書の記載(抜粋)

【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料棒の外ケース全体または外ケースの外皮部分、あるいはガイドチューブを形成することを目的として構成されたジルコニウムベースの合金からなるチューブと、そのようなチューブを形成するために用いられる合金とに関するものである。これに限定されるわけではないが重要な応用は、高いリチウム濃度によって生じる腐食の危険性、及び/または沸騰の危険性を有している軽水型反応炉、及び特に加圧水型反応炉に適応するように構成された核燃料棒の外ケースを製造することである。
【背景技術】
【0002】
高い耐腐食性を有しかつクリープに耐え得る十分な強度を有するチューブを製造する方法は、既に提案されている(特許文献1または特許文献2)。そのような方法によれば、50?250ppmの鉄と、0.8?1.3重量%のニオブと、1600ppm以下の酸素と、200ppm以下の炭素と、120ppm以下の珪素とを含むジルコニウムベースの合金のインゴットから製造を始める。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、さらに耐食性が高く、その組成が圧延工程に悪影響を及ぼすことのない合金を提供し、かつ、そのような合金からなるチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、特にジルコニウムベースの合金であって、除去できない不純物を除いた重量比で、第1に少なくとも重量で75ppm?2000ppmの鉄と、第2に少なくとも5ppmのクロム及びバナジウムを含む元素中から選択された少なくとも1つの要素とから成る成分を、Fe/(Cr+V)重量比が0.5?30の範囲でトータルで0.03?0.25%、0.8?1.3%のニオブ、2000ppm以下のスズ、500?2000ppmの酸素、100ppm以下の炭素、5?35ppmの硫黄、および50ppm以下の珪素を含んだジルコニウムベースの合金を提供する。第1成分としての鉄と、第2成分としてのクロムまたはバナジウムとの比は0.5?30である。

【0012】
約1%のNbを含む合金では、75ppmを越える鉄、及び5ppmを越えるクロム及び/またはバナジウムが存在すると、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の金属間化合物を有する0.20%以下の鉄成分が形成される。合金中にクロムが5ppm以上含まれていると、クロムは必ずこのような化合物の形成に関与する。金属間化合物が存在すると析出するβ相ニオブの質が低下し、また、固溶体中のニオブ成分が低減される。
【0013】
ラーベス相を形成する上述の金属間化合物は、100?200ナノメーターという非常に微細な粒子の状態で析出する。それらは、β相のニオブにとって替わる。それらの粒子は、反応炉内において代表的な温度である400℃における均一腐食に対する耐食性に大きな影響を与えることなく、リチウム含有媒体中における耐久性を著しく向上させる。
【0014】
Fe+(Cr及び/またはV)が多いとリチウム含有媒体中における耐食性の観点で有利ではあるが、そのトータル量は、2500ppm(すなわち0.25重量%)を越えないようにすることが好ましい。その理由は、ラーベス相に加えて、直径1μm程度である(Zr,Nb)_(4)Fe_(2)タイプの析出物が生成され、これは圧延加工性の観点で障害となるからである。最大限0.20%が、リチウム含有媒体中における腐食と圧延加工性との間の妥協点となる。
【0015】
Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)タイプの金属間化合物の沈殿物中におけるクロムの存在は、Fe/Cr比が30までの範囲では、400℃における腐食に顕著な影響を及ぼさない。なぜなら、この範囲においてクロム含有量が増加しても、クロムは金属間化合物の沈殿物中に含まれる鉄を置換して行くだけだからである。(Zr,Nb)_(4)Fe_(2)相における鉄が過剰にならないようにするためには、鉄含有量は0.20%に抑えるべきである。Fe/(Cr+V)比が0.5であり、かつFe+Cr+Vのトータル量が少なくとも0.03%であると、400℃における耐食性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に示す表1は、1%のニオブを含むジルコニウム合金のサンプルにおける腐食挙動に対して鉄の含有量がどのように影響するかを表している。
【0017】
【表1】

【0018】
全てのサンプルにおいて、炭素、珪素、硫黄、酸素、スズの含有量は同様であり、それらの量は前述の最大値以下であり、すなわち、100ppm以下の炭素と、35ppm以下の硫黄と、50ppm以下の珪素と、2000ppm以下の酸素と、を含んでいる。スズについては300ppm以下である。
【0019】
予備被覆工程は、腐食実験の反応と感度とを向上させるために行われるものであり、この工程によって、添加剤が腐食に与える影響をより速く捉えることが可能になる。
【0020】
サンプルは、上記工程に類似した加熱冶金学的工程により、すなわち620℃を越えない温度範囲で作成される。
【0021】
析出物中におけるFe/Cr比の影響を表2に示す。この表は、400℃で200日間、蒸気中に放置した場合の合金の重量増加を示している。Fe/Cr比の変更に基づく変化が比較的小さいことに留意されたい。
【0022】
【表2】

【0023】
クロムをバナジウムで置き換えた場合でも、同様の結果になることが補足実験によって明らかになっている。クロムまたはバナジウムの含有量は、冶金学的処理、特に圧延工程に悪影響を及ぼさない程度に少なく抑えられる。
【0024】
加圧水型反応炉の水に含まれるリチウム成分は、今のところ数ppmを越えない範囲にある。この事実に基づき、スズの含有量を300ppm以下に抑えることが好ましい。スズ含有量が多いと、蒸気中の415℃における均一腐食に対する耐食性に悪影響が出る(一方で、蒸気中の500℃における部分腐食に対する耐食性にスズ含有量が与える影響は無視できる)。
【0025】
一方、300?2000ppm、特に1000?1500ppmのスズを含有していると、今日反応炉の運転に用いられている程度のリチウム成分を含む水溶性媒体中における腐食が著しく低減される。1500ppm以上になると、スズ含有量を増加させてもリチウム含有媒体中における耐食性はわずかに向上するだけであり、1500ppmのスズ量が最適であると言える。
【0026】
以上述べた作用を下記表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
表3に示す実験の目的はスズの影響を確認することであり、この実験は、1%のニオブと、不純物程度の鉄、クロム、バナジウムを含む合金について実施した。この合金は100ppm以下の炭素と、35ppm以下の硫黄と、50ppm以下の珪素と、2000ppm以下の酸素と、を含んでいる。この実験により、蒸気中における耐食性を許容できない程に劣化させることなく、スズがリチウム含有媒体中において予想以上に好適な効果を奏することが明らかになった。
【0029】
全てのサンプルにおいて、炭素、珪素、硫黄、酸素、スズの含有量は実質的に同じであり、それらの量は前述の最大値以下である。

5.サポート要件の適否

(1)特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に適合するものであるか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明の記載が、当業者において発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか、又は、その程度の記載や示唆がなくても、特許出願時の技術常識に照らし、当業者において発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そして、発明の詳細な説明の記載が、当業者において発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでなく、かつ、特許出願時の技術常識に照らしても、当業者において発明の課題が解決されるものと認識することができる程度のものでない場合には、特許出願後に実験データ等を提出し、発明の詳細な説明の記載内容を記載外において補足することによって、その内容を補充ないし拡張し、これにより、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するようにすることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度に趣旨に反し許されない(平成19年(行ケ)10307号判決要旨参照)。

(2)ところで、本願発明は、請求項1に記載された成分組成(以下、「本願組成」という。)を有するジルコニウムベースの合金であって、発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題について、「さらに耐食性が高く、その組成が圧延工程に悪影響を及ぼすことのない合金を提供する」(段落0004)と記載されており、ここで「耐食性」とは、「高いリチウム濃度によって生じる腐食」など「核燃料棒のガイドチューブ」(段落0001)に必要な耐食性を意味するものと解され、また、「(さらに)・・・高く」とは、先行技術である「50?250ppmの鉄と、0.8?1.3重量%のニオブと、1600ppm以下の酸素と、200ppm以下の炭素と、120ppm以下の珪素とを含むジルコニウムベースの合金」(段落0002)と対比してのものと解される。

(3)そうすると(1)の説示に照らせば、本願発明がサポート要件に適合するものであるためには、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、ジルコニウムベースの合金が本願組成を有することにより、先行技術の合金よりも、核燃料棒のガイドチューブに必要な耐食性が高められていると認識することができる程度に記載されたものであるか、又は、本願出願時の技術常識を参酌すれば、当業者において、そのように認識することができる程度に記載されたものであることを要する。

(4)そこで検討するに、発明の詳細な説明には、本願組成では、クロム及び/またはバナジウムが存在することにより、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の微細な金属間化合物粒子が析出し、当該粒子が、リチウム含有媒体中における耐食性を向上させる旨(段落0012?0015)の記載があるにすぎず、先行技術の合金に比べて耐食性の向上が達成されたことを裏付ける具体例の開示はおろか、そもそも、本願発明の合金の耐食性を確認できるような記載がない。

(5)なお、発明の詳細な説明には、ジルコニウム合金にFeを含有させると腐食環境下の質量増加が抑制されることを示す実験結果(表1)が記載されているが、このジルコニウム合金はCrもVも含まないもの(段落0016,0018)であり、しかも、この実験結果は、Fe含有量が本願組成の75ppm?2000ppmよりも2000ppm超の場合に耐食性が向上することを示している。また、析出物中のFe/Cr比が所定の範囲内にあるとジルコニウム合金の腐食環境下の質量増加がほぼ一定になることを示す実験結果(表2)も記載されているが、このジルコニウム合金は、合金としての成分組成が全く不明なものである。さらに、ジルコニウム合金中のSn含有量と腐食環境下の質量増加の関係を示す実験結果(表3)も記載されているが、このジルコニウム合金はFeもCrもVも不純物程度にしか含まないもの(段落0028)である。すなわち、いずれの実験結果も、本願発明の合金の耐食性を開示するものではない。

(6)さらに、発明の詳細な説明中の「クロム及び/またはバナジウムが存在することにより、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の微細な金属間化合物粒子が析出し、当該粒子が、リチウム含有媒体中における耐食性を向上させる」旨の記載の技術的意義についてみるに、本願組成を有することにより、Zr(Nb,Fe,Cr)_(2)またはZr(Nb,Fe,V)_(2)の形態の微細な金属間化合物粒子が析出すること自体が、本願出願時の技術常識を参酌しても当業者において自明なことではなく、ましてや、当該粒子が、リチウム含有媒体中における耐食性を向上させることが当業者の技術常識であったとは認められない。

(7)以上の検討によれば、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、ジルコニウムベースの合金が本願組成を有することにより、先行技術の合金よりも核燃料棒のガイドチューブに必要な耐食性が高められていると認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかであり、かつ、本願出願(原出願の優先日)時の技術常識を参酌しても、当業者において、そのように認識することができる程度に記載されたものでないことは明らかである。
したがって、本願発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認めることはできない。

(8)なお、請求人は意見書にて、表1記載のジルコニウム合金の完全な組成と称する4種類の合金を含む12種類の合金について、その成分組成と腐食進行試験結果をそれぞれ「表11」「表12」として開示し、本願発明が良好な耐食性を有することは明確であると主張しているが、(1)の説示に照らせば、これらの試験結果をもって、本願明細書の発明の詳細な説明を補充ないし拡張することは許されないし、そもそも、「表11」記載の成分組成は、いずれも本願組成を満足していない。
したがって、上記主張は採用できない。

6.むすび

本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない
したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-14 
結審通知日 2014-08-18 
審決日 2014-08-29 
出願番号 特願2009-210463(P2009-210463)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 小柳 健悟
大橋 賢一
発明の名称 核燃料アッセンブリのための合金とチューブ  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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