• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1296492
審判番号 不服2013-21211  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-31 
確定日 2015-01-14 
事件の表示 特願2010-532657「ハイブリッド電気自動車用の動力伝達機構」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月14日国際公開、WO2009/060222、平成23年 1月27日国内公表、特表2011-502863〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2008年11月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年11月8日、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって、平成22年5月6日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年5月31日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、同年9月9日、同年9月14日及び平成23年11月4日に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成24年11月5日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月13日に意見書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、同年6月27日付けで拒絶査定がされ、同年10月31日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし7に係る発明は、平成25年3月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成22年5月31日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
ハイブリッド電気自動車に備えられる動力伝達機構であって,
前記動力伝達機構は,
エンジン(210),
第1の軸方向磁束電気装置(220),
第2の軸方向磁束電気装置(230),
前記第1の軸方向磁束電気装置(220)のロータと前記第2の軸方向磁束電気装置(230)のロータの間に回転動力を伝達するために,それらの間を相互に係合させるための,選択的に操作可能な相互係合手段(225),及び,
前記動力伝達機構からの回転動力を伝達する出力ドライブシャフト(260)を含み,
前記第1の軸方向磁束電気装置(220)は,ジェネレータとして機能し,前記第2の軸方向磁束電気装置(230)に電力を供給するために,前記エンジン(210)によって駆動させられるように配置され,
前記第2の軸方向磁束電気装置(230)は,前記出力ドライブシャフト(260)を駆動させるためのモータとして機能して機能するために,電力を受け取るように配置され,
前記エンジン(210),前記第1の軸方向磁束電気装置(220),前記相互係合手段(225),及び前記第2の軸方向磁束電気装置(230)の各出力シャフトは,前記出力ドライブシャフト(260)と同軸であり,
前記第1の軸方向磁束電気装置(220)及び前記第2の軸方向磁束電気装置(230)の少なくとも一方は,ギアボックスなしで,前記エンジン(210)と結合している
動力伝達機構。」

3 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-44649号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「【0001】
本願は、ハイブリッド車両、つまり、車両の駆動輪にトルクを供給するために内燃機関と一つ以上の電動モータとの両方が備えられている車両、における改良に関するものである。より詳細には、本発明は、性能、運転のしやすさ及びコストの点で従来の車両との競合力が十分にありまた大幅に改善された燃料経済と低減された汚染物質の排出とを達成するハイブリッド電気車両に関するものである。」(段落【0001】)

イ 「【0065】
本発明によれば、共に適切な場合に発電機として及び走行用モータとして作動可能な二つの別個のモータで、第5,343,970号特許に示されている単一の電動モータを置き換えることによって、第5,343,970号特許に示されている制御可能なトルク伝達装置が削除されている。本願の図3、4を参照されたい。車両の運転モードと車両の運転者によって与えられる入力命令とに応答してマイクロプロセッサによって操作されるクラッチによって、エンジンが駆動輪に接続される。第5,343,970号特許と同様に、所望の巡航速度の範囲の間十分なトルクを供給する大きさに作られている内燃機関が、備えられており、必要時に電池充電のために使用される。比較的高出力の「走行用」モータが車両の出力軸に直接に接続されている。その走行用モータは、車両を低速状態で推進させるためのトルクを供給し且つ、例えば高速運転中の加速、追い越しまたは登攀のために、必要時に追加トルクを供給する。
【0066】
本発明によれば、比較的低出力の始動モータも、備えられており、必要時に車両を推進させるトルクを供給するために使用され得る。この第二のモータは内燃機関を始動させるためにこの内燃機関に直接に接続されている。始動のために低速(例えば、60?200rpm)で内燃機関を回転させ、始動のために濃い燃料/空気混合物の準備を必要とする、従来の始動モータとは違って、本発明による始動モータは、始動のために比較的高速、例えば300rpm、でエンジンを回転させる。このことは、従来よりも遥かに少ない濃い燃料の燃料/空気混合物でエンジンを始動させ、望ましくない排出を著しく低減させ、始動時の燃料経済を改善することを可能にする。エンジン排気中の未燃焼燃料を触媒作用で燃焼させるために備えられている触媒式排気ガス浄化装置がエンジンの始動前に効果的な運転温度まで予熱され、このことが排出を更に低減させる。
【0067】
詳細に記述されている実施形態では、始動モータはエンジンに直接に接続されており、この組合せがトルク伝達用のクラッチによって走行用モータに接続されており、それから走行用モータの出力軸が車両の走行用車輪に接続されている。他の実施形態では、エンジン/始動モータの組合せがクラッチを介して最初の組の走行用車輪に接続されていて走行用モータが他の組の走行用車輪に直接に接続されていてもよい。更に付け加えられた実施形態では、複数の走行用モータが備えられていてもよい。各々の場合に、エンジンはクラッチの制御によって走行用車輪から制御可能に切り離される。例えば、車両の運転状態と現在の運転者の入力とに応答して電気式または油圧式の作動器を制御するマイクロプロセッサによって、クラッチのかみ合わせが制御される。
【0068】
例えば、低速運転中は、エンジンが車輪から切り離される様に、クラッチが解放される。その場合、車両は「純粋な」電気自動車、つまり動力が電池バンクから引き出されて走行用モータに供給される自動車、として運転される。電池が比較的消耗する(例えば、完全充電の50%まで放電する)と、内燃機関を始動させるために始動モータが使用され、その場合、内燃機関は燃料の効率的使用のために比較的高トルク出力(例えば、その最高トルクの約50?100%の間)で動き、始動モータは電池バンクを再充電するために高出力発電機として動かされる。
【0069】
同様に、走行用モータのみから利用可能な動力よりも多くの動力を運転者が要求する場合には、例えば高速道路への加速時には、始動モータが内燃機関を始動させる。内燃機関が有用なトルクを発生させるエンジン速度に到達した時に、エンジンと始動モータとが追加トルクを供給することができる様に、クラッチがかみ合わされる。前述の様に、エンジンは始動のために比較的高速で回転させられ、そのためエンジンは有用な速度に迅速に到達する。」(段落【0065】ないし【0069】)

ウ 「【0094】
図3の実施形態では、走行用モータ25は、車両差動装置32に直接に接続されており、そこから走行用車輪34に接続されている。始動モータ21は内燃機関40に直接に接続されている。モータ21、25は、夫々これらのモータと電池バンク22との間に接続されている対応するインバータ/充電器装置23、27の適切な操作によって、モータまたは発電機として機能する。目下、本質的に従来通りである鉛蓄電池が、広く利用可能であり且つ十分に理解されているので、電池バンク22として好ましい。もし、もっと進歩した電池が広く利用可能で且つ経済的に競合力がある様になった場合には、それらの電池が使用されてもよい。
【0095】
モータ21、25の軸15、16を夫々機械的に連結させるクラッチ51によって、モータ21、25がトルク伝達のために制御可能に接続される。図4に関連して更に後述されている様に、マイクロプロセッサ(「μP」)48は、軸15、16の回転速度を示す信号を与えられ、クラッチ51のかみ合わせ前にこれらの軸が実質的に同じ速度で回転することを確実にするために必要時にエンジン40、モータ21及びモータ25の動きを制御する。従って、クラッチ51は、軸が完全にかみ合わされる前に広範囲に亙る相対的な滑りを可能にするために従来から備えられている様な(図1に概略的に図示されている様な)通常の自動車用摩擦クラッチである必要は必ずしもない。より詳細には、従来の車両における場合の様に、停止状態から最初に車両を推進させるためにクラッチ51の滑りが必要ではないので、クラッチ51はかみ合わされる時に広範囲に亙る滑りを可能にする必要がない。幾つかの場合には、かみ合わせと同時に軸15、16間で確実な機械的接続が行われる(図4に示されている様な)単純な自動調心型機械的連結器としてのクラッチ51を備えれば十分かもしれない。その様な機械的連結は摩擦クラッチよりも遥かに簡単で且つ安価である。何れの場合でも、車両の運転状態と運転者の入力命令とに従って、例えば公知の電気式または油圧式の作動器53やシステムのその他の部品を介して、マイクロプロセッサ48によって、クラッチ51が操作される。
【0096】
クラッチ51、モータ25及び車輪34に対するモータ21及びエンジン40の夫々の位置は、システムの機能に影響を及ぼすことなく、図3、4におけるそれらの位置と比較して逆転させられ得るが、その場合は、エンジン40がそのクランク軸の両端にトルク伝達接続を必要とするので、多少の追加的な複雑さが結果として生じる。
【0097】
図4中に示されている様に、始動モータ21及び走行用モータ25の軸15、16の相対回転速度及び夫々の回転位置を示す信号をマイクロプロセッサ48に与えるために、軸符号器18、19がこれらの軸15、16に夫々搭載されていてもよい。その様な軸符号器は周知であり且つ市販されている。代わりに、「無検知器」モータ駆動装置の制御に関する周知の原理(例えば、ボーズの「電力電子工学と可変周波数駆動装置」、IEEE、1996年を参照されたい)に従って、軸の回転速度を示す信号がインバータ制御信号から得られてもよい。しかし、符号器18、19を備えることが、モータ21、25のより良い低速トルク特性とその結果としてのコストの低減とを可能にする。
【非特許文献13】ボーズ著「電力電子工学と可変周波数駆動装置」、IEEE、1996年
【0098】
この様に、軸15、16の回転速度を示す信号を与えられると、クラッチ51のかみ合わせ前にこれらの軸が実質的に同じ速度で回転することを確実にするために必要時に、マイクロプロセッサ48がエンジン40、モータ21及びモータ25の動きを制御する。従って、クラッチ51は、軸が完全にかみ合わされる前に広範囲に亙る滑りを可能にするために従来から備えられている様な(図3に概略的に図示されている様な)通常の自動車用摩擦クラッチである必要はない。本発明のこの特徴によれば、そして特に軸15、16が望ましい相対角度関係を有することを確実にすることをマイクロプロセッサがもし可能にされていれば、クラッチ51は、その代わりに、かみ合わせと同時に軸15、16間で確実な機械的接続が行われる(図4に概略的に図示されている様な)単純で且つ比較的安価な自動調心型機械的連結器であってもよい。」(段落【0094】ないし【0098】)

エ 「【0107】
異なる機械的構造に言及すれば、図3においてモータ21、25の軸がエンジン40の軸と同軸に図示されていることに気づく。これは、勿論最も単純な構造であるが、エンジン40及び始動モータ21に、いつも同じ速度で、且つクラッチ51がかみ合わされている場合は走行用モータ25とも同じ速度で、回転することを要求する。前述の様に、モータ21、25がより低回転のモータに比べて小型、軽量且つ低コストにされ得る様に、9000?15,000rpmの最高速度を有する様にモータ21、25を設計することが好ましいかもしれない。しかし、相当な高速で動く内燃機関は急速に磨耗し且つ低速では制限されたトルクしか有することができない傾向にあり、また、より高い周波数のエンジンの騒音及び振動は吸収が困難であるので、エンジン40のための好ましい最高速度は6000rpmであると想像される。図3に図示されている様にエンジン軸と同軸のモータを提供することも、異なるエンジン速度及びモータ速度を可能にするために、走行用モータ25と始動モータ21との一方または両方の軸と出力軸との間に遊星歯車セットを提供することも、本発明の範囲内である。」(段落【0107】)

オ 「【0124】
示されている様に複雑で重く且つ高価な可変比変速機を必要としない本発明のハイブリッド車両では、これらの部品は、遥かに優れた燃料経済及び大幅に低減された汚染物質の排出と共に、米国製造の典型的な同程度の大きさの車両の加速よりも遥かに優れた加速を提供する。これらの仕様が、本発明の車両の意図されている用途に依存して比較的広い範囲に亙って変化してもよく、本発明の範囲を制限する様に解釈されるべきでないこと、は明らかである。
【0125】
他の様式が使用されてもよいが、前述の様に、好ましい実施形態では、始動モータと走行用モータとの両方がAC誘導モータである。これらのモータと(更に後述されている様に)マイクロプロセッサからの制御信号に応じてこれらのモータを制御するインバータ/充電器とは、図11中の曲線Aによって図示されている様にrpmの関数として変化するトルク出力特性をモータが有する様に、選択され且つ動かされるべきである。つまり、モータは、図3の直接駆動の実施形態中で使用された場合に、基底速度C、6000rpmの最高速度を有するモータについては一般に1500rpm、までは一定のトルクを発生させる様に、マイクロプロセッサからの制御信号に応じてインバータ/充電器によって動かされ、それよりも高速では一定の出力を発生させるべきである。従って、トルクは、図示されている様にベース速度Cよりも高い速度で減退する。この例では4:1である最高速度対基底速度の比率は、約3?1と約6?1との間で変化可能である。本発明の車両が可変比変速機の重量、複雑さ及びコストのない非常に満足な性能、特に加速、を与えることを、このトルク出力特性が本質的に可能にする。
【0126】
それに比べると、自動車エンジン始動モータとして従来から使用されている直巻きDCモータは非常な高トルクを供給するが、それは非常な低速においてのみであり、それらのトルク出力はそれよりも高速で急に減退する。その様な従来の始動モータは、このシステムには不満足である。
【0127】
図11はBによって典型的な内燃機関のトルク曲線も示している。表示されている様に0rpmにおいてトルクはゼロであり、そのため、エンジンが車両を停止状態から動かすことができる様に、滑りを可能にするクラッチが必要とされている。図11は、低速で追加トルクを供給するために使用されている四速変速機を介して車両を駆動する典型的な内燃機関によって推進される車両の車輪で測定されたトルクの典型的な曲線をDによって示している。曲線Dの部分間の垂直な間隔がギヤ比における変化を表しており、つまり、曲線Dの部分間で動くために車両のギヤが変えられる。前述の始動モータ及び走行用モータの望ましいトルク特性は、本発明の車両が従来の車両に匹敵するかまたはそれよりも良好な低速性能を与えることを可能にし、一方では可変比変速機の必要性をなくしている。
【0128】
この様に記載されている様なモータの基底速度と最高速度との比率は、その結果として従来の変速機の最低ギヤと最高ギヤとの比率に匹敵している。走行速度の程々の範囲に亙ってエンジンのトルクが走行負荷に比較的十分に釣り合わされる様に、乗用車については、後者の比率は一般に3?4:1である。(高速道路での運転中におけるエンジン速度を低減させるために、「オーバドライブ」トップギヤが時々備えられており、それはこの範囲を多少広くするが一般に十分な加速を可能にしない。)勿論、もし、より広い速度範囲を必要とする車両(例えば、重いトラックは、非常に広い走行速度範囲でエンジンの最高トルクが利用されるのを可能にする18以上のギヤ比を運転者が選択することを可能にする複数の変速機を有することがある)において本発明のハイブリッド車両伝動装置及び制御方法を使用することが望ましければ、付加請求項によって除外されていない場合は、可変比変速機を供給することも本発明の範囲内である。しかし、乗用車、軽トラック及び類似の車両に関しては、可変比変速機は必要とされるべきではない。」(段落【0124】ないし【0128】)

カ 「【0133】
図5(a)に図示されている様に、走行用モータ25は五相AC誘導モータとして具体化されており、完全には図示されていない始動モータ21は、図示されている様に、一般に同様とすることができるが、必ずしも同様でなくてもよい。永久磁石ブラシレスDCモータや同期モータの様な他のモータ様式が使用されてもよい。モータは三相以上を有する多相装置として動かされ、このことが、より小さく且つ全体としてより低コストな半導体の使用を可能にし、且つたとえ半導体の幾つかが故障しても作動を可能にしている。例えば60Hzよりも高い比較的高周波数で動かされるモータの使用も、既定出力のモータをより小さくすることを可能にする。図5(a)に示されている様に、少なくとも走行用モータ25は公知の「デルタ」構造よりも示されている「wye」構造で結線されている方が、一般に好ましい。或る望ましくない高調波が「wye」構造によって低減されることが理解される。両方共この技術分野で周知であり本発明の範囲内である。」(段落【0133】)

キ 「【0140】
図6は、車両の瞬間トルク要求つまり「走行負荷」、電池バンク22の充電状態及び時間の間の関係に関する車両運転の幾つかモードを図示している。図7は、時間に亙る、つまり、適例の走行中の、走行負荷、エンジントルク出力及び電池バンクの充電状態における変化及び関係を示している。図8(a)?(d)は、主な運転モード中における本発明の車両の簡単化された概略図を示しており、電気または可燃性燃料の形のエネルギーの流れを一点鎖線で示しており、トルクの流れを点線で示している。最後に、図9は、本発明によるハイブリッド車両駆動装置列の種々の部品をマイクロプロセッサが動かす際のアルゴリズムにおける主な判定点を示す高水準流れ図を与えており、図10(a)?(c)は、それらの詳細及び変形を示している。」(段落【0140】)

ク 「【0144】
示されている様に、都会での交通の様な低速運転中は、その車両は単純な電気自動車として運転され、電池バンク22から供給される電気エネルギーで動く走行用モータ25によって総てのトルクが走行用車輪34に与えられる。これが「モードI」運転(図6を参照されたい)と呼ばれており図8(a)に図示されている。エネルギー及びトルクの同じ経路は、非常状況下で使用されてもよく、後述の様にモードIII運転と呼ばれている。
【0145】
低速運転中、例えば、車両のトルク要求(「走行負荷」または「RL」)がエンジンの最高トルク出力(「MTO」)の30%未満の場合は、エンジン40は電池バンク22を充電するのに必要な時にのみ動かされる。始動モータ21は、最初はエンジン40を始動させるために使用され、それから充電電流が電池バンク22へ流れる様にインバータ/充電器23の適切な運転によって発電機として動かされる。従って、車両の走行速度がエンジン40の速度から独立する様に、クラッチ51が解放される。その結果として、エンジン40は燃料効率のために比較的高い出力トルクレベルで動かされ得る。この「モードII」運転は図8(b)に図示されている。図示されている様に、始動モータ21を介して電池バンク22を充電するためのエンジンの作動と走行用モータ25による車両の推進とが互いに完全に独立する様に、クラッチ51が解放されている。
【0146】
第5,343,970号特許と同様に、エンジン40は所望の巡航速度範囲で車両を運転するのにその最高トルクが十分である様な大きさに作られており、この要求は通常の高速道路での巡航中にエンジンが高効率で動かされることを確実にしている。従って、好ましい運転モードが低速運転から高速道路での巡航運転に変化していることを、走行負荷の増加(例えば、より多くの動力を運転者が連続的に要求することによって)の検知が示す場合は、エンジン40を始動させるためにマイクロプロセッサがインバータ/充電器23を経由して始動モータ21を制御する。エンジン40の速度が確実に引き上げられた時、エンジン40がモータ21、25の軸を介して走行用車輪34を駆動する様に、クラッチ51がかみ合わされる。運転者がアクセルペダルに対する圧力を緩めると、このことは所望の巡航速度に到達したことを示しているので、それに応じて走行用モータ25は動力を減らされる。高速道路での巡航モードは「モードIV」運転と呼ばれており、エネルギー及びトルクの流れは図8(c)に図示されている通りである。
【0147】
もし、例えば加速や登攀のために高速道路での巡航中に余分なトルクが必要とされれば、モータ21、25の一方または両方が動かされ得る。この「モードV」運転は図8(d)に図示されている。タンク38からエンジン40へ、また、電池バンク22から走行用モータ25及び多分始動モータ21へ、エネルギーが流れる。トルクは一方または両方のモータ及びエンジンから車輪34へ流れる。
【0148】
電池充電中のエネルギーの流れは、図8そのものには図示されていないが、当業者には理解され、更に後述されている。例えば、エンジンの瞬間出力トルクが走行負荷を超えていれば、始動モータ21は充電器として動かされて電池バンクに再充電電流を供給する。同様に、走行負荷が減少傾向にあるかまたは負であれば、走行用モータと始動モータとの一方または両方が回生充電器として動かされ得て電池バンクに再充電電流を供給する。同様に運転者の適切な命令に応じて制動が遂行され得る。」(段落【0144】ないし【0148】)

ケ 「【0152】
より具体的に言えば、車両の瞬間トルク要求つまり「走行負荷」がエンジンの最高トルクの30%までである運転としてこの例で規定されている都会での運転(モードI)中では、車両は「純粋な電気」自動車として運転され、クラッチは解放され、電池がその完全充電の50?70%の間に充電されたままである限り、電池バンク22からのエネルギーは車両を推進させるために走行用モータ25に動力を供給するために使用される、ということを図6は示している。もし、モードIIの範囲を規定している曲線によって示されている様に時間に関して変化してもよい既定値未満に充電状態が下がれば、図示されている様にモードIIが実行され、エンジンが始動され、電池を実質的に完全な充電状態に充電するための発電機として始動モータ21が動かされる。モードIII中に示されている様に、電池が完全充電の40%未満に下がった場合でも、例えばもしエンジンか充電システムに障害が存在していれば、電気自動車としての車両の運転が可能にされてもよいが、それは非常事態のみであり、その様な深い放電は電池寿命に有害である。
【0153】
走行負荷がエンジンの最高トルク出力の約30%?100%の間である高速道路での巡航中、つまり領域IVでは、車両を推進させるためにエンジンのみが使用される。従って、領域Iと領域IVとの間の移行が要求されていることをマイクロプロセッサが検出すると(例えば、より多くの動力を求める運転者の命令に対する車両の応答を監視することによってマイクロプロセッサは走行負荷を効果的に判定することができる)、マイクロプロセッサは始動モータ21にエンジン40を比較的高速で回転させる。一般に300rpmである所望の始動速度に到達すると、電子エンジン管理装置55と電子燃料噴射装置56とが夫々プラグを点火させ燃料を供給してエンジンを始動させる様に制御される。この様にエンジンを比較的高いrpmで始動させることは、始動のために通常使用されている遥かに濃い燃料/空気混合物に比較して化学量論に近い燃料/空気混合物が使用されることを可能にする。未燃焼炭化水素の排出がこの様にして大幅に低減され、燃料経済も改善される。
【0154】
エンジン出力軸の速度が走行用モータ25の出力軸の速度と実質的に釣り合った時に、クラッチ51がかみ合わされる。モードIとモードIVとの間の移行が滑らかで且つ本質的に運転者によって感知されない様に、エンジン40によって発生される動力が増加するに連れて、モータ25によって発生される動力が低減される。運転者がアクセルペダル69に対する圧力を低減させると、このことは所望の巡航速度に到達したことを示しているので、モータ25への動力がゼロに低減される。
【0155】
もし、その時、例えば加速や追い越しのために、運転者が追加の動力を要求すれば、領域Vが実行される。つまり、走行負荷がエンジンの最高トルク出力の100%を超えていることをマイクロプロセッサが検出すると、電池バンク22から走行用モータ25へエネルギーが流れてエンジン40によって供給される車両推進トルクに加えて走行用モータも車両推進トルクを供給する様に、マイクロプロセッサがインバータ/充電器27を制御する。同様に始動モータ21も推進トルクを供給する様に制御され得る。」(段落【0152】ないし【0155】)

コ 「【0162】
その後、点E?G及びPにおける様に、車両のトルク要求がエンジン瞬間出力トルクを超えると、走行用車輪に追加トルクを供給するために、つまり、車両がモードVで運転される様に、走行用モータ25と始動モータ21との一方または両方が動かされる。走行負荷RLがエンジンの効率的作動範囲内のままである間、例えばMTOの30%>RL>MTOの100%の間は、車両はモードIVで運転される。モードIV運転中に、点Hにおける様に、もしエンジンの瞬間トルク出力が車両のトルク要求を超えていても、電池が比較的十分に充電されていれば、エンジンのトルク出力が走行負荷に釣り合う様に低減される。I及びJにおける様に、MTOが走行負荷を超えており且つBSCが既定レベルよりも下がると(図7(b)を参照されたい)、K及びL(図7(c))に示されている様に、エンジン40からの利用可能な余剰トルクは電池を充電するために使用される。Mにおける様に、車両のトルク要求が最小許容エンジントルク出力よりも低いと、電池を充電するためにエンジンが再び使用され、回生制動も実行されて電池を更に充電する。もし、Nにおける様に、例えば長い下り坂の間に、電池が実質的に完全に充電されると、図7(c)のQで見られる様に、エンジンが完全に止められてもよい。」(段落【0162】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)アないしコ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。
サ 上記(1)アないしコ及び図面の記載から、引用文献には、ハイブリッド車両に備えられるトルク供給機構が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)イ、ウ及び図面の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構(特に図3の実施例)は、内燃機関(エンジン)40、始動モータ21、走行用モータ25を備え、始動モータ21は内燃機関40に直接に(すなわち、ギアボックスなしで)接続されていることが分かる。また、始動モータ21及び走行用モータ25は、インバータ/充電器装置23、27の操作によって、それぞれ、モータまたは発電機として機能することが分かる。

ス 上記(1)エ及び図面の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構(特に図3の実施例)において、始動モータ21及び走行用モータ25の軸はエンジン40の軸と同軸に配置されていることが分かる。

セ 上記(1)ウ、エ及び図面の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構(特に図3の実施例)において、始動モータ21の軸15と走行用モータ25の軸16の間には、両者を機械的に連結させるクラッチ51が備えられ、トルク伝達のために制御可能に接続されることが分かる。

ソ 上記(1)オ及び図面の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構(特に図3の実施例)は、可変比変速機を必要としないことが分かる。

タ 上記(1)カ及び図面の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構において、走行用モータ25及び始動用モータ21として、AC誘導モータのほか、永久磁石ブラシレスDCモータや同期モータ等のモータ形式が採用できることが分かる。

チ 上記(1)キないしコ及び図6ないし8の記載から、引用文献に記載されたハイブリッド車両のトルク供給機構において、低速運転中は、走行用モータ25によって総てのトルクが走行用車輪34に与えられ(モードI)、車両のトルク要求(走行負荷)がエンジンの最高出力の30%未満の場合には、エンジン40により始動モータ21が発電機として動かされ、クラッチ51が開放され、走行用モータ25により車両を推進させる(モードII)ことが分かる。モードIIにおいては、始動モータ21により電池バンク22が充電され、同時に電池バンク22から走行用モータ25に電流が供給されるのであるから、始動モータ21は、走行用モータ25に電流を供給するために発電しているとみることができる。

ツ 上記(1)ウの「走行用モータ25は、車両差動装置32に直接に接続されており、そこから走行用車輪34に接続されている。」(段落【0094】)という記載から、走行用モータ25の出力軸は、出力ドライブシャフトの役割も果たしているといえる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ハイブリッド車両に備えられるトルク供給機構であって,
前記トルク供給機構は,
内燃機関40,
始動モータ21,
走行用モータ25,
前記始動モータ21の軸と前記走行用モータ25の軸の間に回転動力を伝達するために,それらの間を機械的に連結させるための,制御可能なクラッチ51,及び,
前記トルク供給機構からの回転動力を伝達する、走行用モータ25の出力軸を含み,
前記始動モータ21は,発電機として機能し,前記走行用モータ25に電力を供給するために,前記内燃機関40によって駆動させられるように配置され,
前記走行用モータ25は,前記走行用モータ25の出力軸を駆動させるためのモータとして機能して機能するために,電力を受け取るように配置され,
前記内燃機関40,前記始動モータ21,前記クラッチ51,及び前記走行用モータ25の各出力シャフトは,前記走行用モータ25の出力軸と同軸であり,
前記始動モータ21及び前記走行用モータ25の少なくとも一方は,ギアボックスなしで,前記内燃機関40と結合している
トルク供給機構。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ハイブリッド車両」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「ハイブリッド電気自動車」に相当し、以下同様に、「トルク供給機構」は「動力伝達機構」に、「内燃機関40」は「エンジン(210)」に、「軸」は「ロータ」に、「機械的に連結させる」は「相互に係合させる」に、「制御可能な」は「選択的に操作可能な」に、「クラッチ51」は「相互係合手段(225)」に、「発電機」は「ジェネレータ」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「走行用モータ25の出力軸」は、上記のように、車両差動装置32に直接に接続されて走行用車輪34を駆動するものであるから、その技術的意義からみて、本願発明における「出力ドライブシャフト」に相当する。
また、引用発明における「始動モータ21」は、発電機(ジェネレータ)として機能し、内燃機関(エンジン)によって駆動されるものであるから、「第1の電気装置」という限りにおいて、本願発明における「第1の軸方向磁束電気装置(220)」に相当し、
同様に、引用発明における「走行用モータ25」は、モータとして機能し、車両を駆動するものであるから、「第2の電気装置」という限りにおいて、本願発明における「第2の軸方向磁束電気装置(230)」に相当する。

したがって両者は、
「ハイブリッド電気自動車に備えられる動力伝達機構であって,
前記動力伝達機構は,
エンジン,
第1の電気装置,
第2の電気装置,
前記第1の電気装置のロータと前記第2の電気装置のロータの間に回転動力を伝達するために,それらの間を相互に係合させるための,選択的に操作可能な相互係合手段,及び,
前記動力伝達機構からの回転動力を伝達する、出力ドライブシャフトを含み,
前記第1の電気装置は,ジェネレータとして機能し,前記第2の電気装置に電力を供給するために,前記エンジンによって駆動させられるように配置され,
前記第2の電気装置は,前記出力ドライブシャフトを駆動させるためのモータとして機能して機能するために,電力を受け取るように配置され,
前記エンジン,前記第1の電気装置,前記相互係合手段,及び前記第2の電気装置の各出力シャフトは,前記出力ドライブシャフトと同軸であり,
前記第1の電気装置及び前記第2の電気装置の少なくとも一方は,ギアボックスなしで,前記エンジンと結合している
動力伝達機構。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
「第1の電気装置」及び「第2の電気装置」に関して、本願発明においては、「第1の軸方向磁束電気装置(220)」及び「第2の軸方向磁束電気装置(230)」であるのに対し、引用発明においては、「始動モータ21」及び「走行用モータ25」であるものの、「軸方向磁束」型のものであるかどうか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
ハイブリッド車両(ハイブリッド電気自動車)において、電気装置として、軸方向磁束電気装置を用いることは、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特表2006-512035号公報[例えば、段落【0034】及び【0035】等の記載を参照。]及び特表2004-500792号公報[例えば、【要約】、特許請求の範囲の請求項1、段落【0001】、【0006】及び【0010】ないし【0017】並びに図1の記載を参照。]等を参照。)である。
したがって、引用発明において、周知技術1を適用することにより、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

(補足)
なお、仮に、本願発明において、「第1の軸方向磁束電気装置(220)は,ジェネレータとして機能し,前記第2の軸方向磁束電気装置(230)に電力を供給するために,前記エンジン(210)によって駆動させられる」という発明特定事項が、「第1の軸方向磁束電気装置(220)は,ジェネレータとして機能し,蓄電手段を介さずに前記第2の軸方向磁束電気装置(230)に電力を供給するために,前記エンジン(210)によって駆動させられる」(以下、「事項A」という。)ということを意味するとしても、第1の電気装置から蓄電手段を介さずに第2の電気装置に電力を供給する技術は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、平成24年11月5日付け拒絶理由通知書において引用された特開2004-352042号公報[例えば、段落【0037】及び図5の記載を参照。]を参照。)であるから、上記事項Aは、引用発明において、周知技術2を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。

なお、請求人は、審判請求書において、引用発明について、「複数のギアセット(遊星歯車セット)は発明の構成要件として含まれているといえる。」と主張している(審判請求書の第3.の4.欄)。
しかしながら、上記3 エにおいて「図3に図示されている様にエンジン軸と同軸のモータを提供することも、異なるエンジン速度及びモータ速度を可能にするために、走行用モータ25と始動モータ21との一方または両方の軸と出力軸との間に遊星歯車セットを提供することも、本発明の範囲内である。」(段落【0107】)と記載されているように、引用文献の図3のようにエンジン軸と同軸のモータを有するものも、引用発明の実施例であり、遊星歯車セットを備えることは、引用発明の発明特定事項として必須のものではない。
したがって、請求人の上記主張は失当である。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-14 
結審通知日 2014-08-19 
審決日 2014-09-01 
出願番号 特願2010-532657(P2010-532657)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 俊厚  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
林 茂樹
発明の名称 ハイブリッド電気自動車用の動力伝達機構  
代理人 廣瀬 隆行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ