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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1296610
審判番号 不服2013-14993  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-02 
確定日 2015-01-22 
事件の表示 特願2010-503364「メンテナンスフリー滑り軸受け」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日国際公開、WO2008/128579、平成22年7月22日国内公表、特表2010-525245〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年4月20日 独国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成25年3月28日付け(発送日:4月2日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年8月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成25年8月2日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年8月2日の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成25年8月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
金属支持体(1)、これに直接的に適用された中間層(2)および前記中間層(2)に適用された摺動層(3)を含むメンテナンスフリー滑り軸受けであって、中間層(2)が、式-C=O、-C-O-Rおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)の官能基を有し、メルトボリュームフローレート(融点としての50℃>および7kg負荷下でのMVR)が、0.1?1000mm^(3)/秒の、少なくとも1種の官能化熱可塑性ポリマーを含み、官能基は、少なくとも1種の変性試薬、すなわち、マレイン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはイタコン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはシトラコン酸およびその誘導体、特にその無水物の添加によって熱可塑性ポリマーに組み込まれ、中間層(2)の厚さは、金属支持体(1)の表面の粗度プロファイルの最大プロファイルピーク高さと最大プロファイル谷深さとの距離Rmaxとして定義される金属支持体(1)の粗度より厚いことを特徴とする滑り軸受け。」
と補正された。
なお、下線は請求人が付した補正箇所を示す。

本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「中間層(2)」が有する官能基について、補正前に「式-C=O、-C-O-R、-COH、-COOHおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)」であったものを「式-C=O、-C-O-Rおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)」と限定するとともに、「官能化熱可塑性ポリマー」が「メルトボリュームフローレート(融点としての50℃>および7kg負荷下でのMVR)が、0.1?1000mm^(3)/秒」であること、及び、「中間層(2)の厚さ」が「金属支持体(1)の表面の粗度プロファイルの最大プロファイルピーク高さと最大プロファイル谷深さとの距離Rmaxとして定義される金属支持体(1)の粗度より厚い」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において頒布された国際公開第00/29210号(以下「刊行物1」という。)には、「高温での接着性を有する含フッ素ポリマーの構造体とそれを用いた摺動材」に関し、次の事項が記載されている(下線は当審で付与するものである。以下、同様。)。

ア.1ページ13?22行
「背景技術
PTFEやPFAに代表される含フッ素ポリマーやあるいはそれらに充填材をブレンドして補強した組成物は、耐熱性に加え低摩擦性、耐摩耗性に優れるため摺動材、摺動部品として用いられている。なかでも例えば、鋼製の基材上に上記のフッ素材料を施して一般産業機械用の軸受などとして用いられている。
しかしながら前記含フッ素ポリマーはその優れた非粘着性・低摩擦性に起因して、金属などの基材との接着性が乏しいという本質的な問題がある。」

イ.2ページ19?24行
「本発明は、含フッ素ポリマーと基材とが直接接着した構造体において特に高温での接着強度を改善した構造体を提供すること、さらにこの構造体に摺動性の優れた含フッ素ポリマーまたは耐熱性エンジニアリングプラスチックからなる材料を施すことにより接着耐熱性の優れた摺動材、軸受なとの摺動部品を提供することにある。」

ウ.4ページ21?24行
「本発明の構造体における含フッ素ポリマーからなる層(A)に用いられる含フッ素ポリマーは、それ自体耐熱性を有することが必要であり、通常、含フッ素エチレン性重合体から選ばれる。」

エ.7ページ5?28行
「本発明の構造体における基材(B)は、目的、用途、使用部位、部品形状、使用環境に応じて選択されるが、なかでも耐熱性があって、強度が高く、高温時においても機械的強度の高いもののなかから選ばれ、含フッ素ポリマー(A)と接着して種々の使用条件下で、層(A)を補強する効果が高く、本発明の構造体を形成して機械部品、構造部品として機械特性を与え得るものから選ばれる。例えば、金属系、ガラス系、無機系、合成樹脂系基材があげられ、・・・略・・・
金属系基材の金属には金属単体および2種以上の金属による合金類、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩などの金属塩類も含まれる。そのなかでも金属単体および金属酸化物、合金類が接着性においてより好ましい。」

オ.9ページ5?12行
「さらに、接着性をさらに向上させることを目的として、金属基材表面をリン酸塩、硫酸、クロム酸、シュウ酸などによる化成処理を施したり、サンドブラスト、ショットブラスト、グリットブラスト、ホーニング、ペーパースクラッチ、ワイヤースクラッチ、ヘアーライン処理などの表面粗面化処理を施してもよく、意匠性を目的として、金属表面に、着色、印刷、エッチングなどを施してもよい。」

カ.11ページ7?19行
「含フッ素ポリマーからなる層(A)と基材(B)とを高温でも接着力が良く直接接着させる手法としては、含フッ素ポリマー層(A)に用いる含フッ素ポリマーの分子構造内に、基材との接着に寄与する官能基を導入することが好ましい。
基材との接着に寄与する官能基としてはヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基などが好ましく、これらの少なくとも1種以上を含フッ素ポリマーの分子末端または側鎖に含有するものが好ましい。なかでも、ヒドロキシル基が耐熱性も良好で、基材に直接強固に反射率も低下させないで接着させることが可能であり好ましい。」

キ.20ページ14行?22ページ1行
「本発明の構造体は、含フッ素ポリマー(A)をフィルムの形態で基材(B)に適用することによっても得られる。
本発明の構造体を得るための含フッ素ポリマーからなるフィルムは、前記官能基含有含フッ素エチレン性重合体を成形してなるフィルムであるのが好ましく、表面処理や一般の接着剤の使用を行なわなくとも、他の種々の基材と接着させることができ、それによって基材に含フッ素ポリマーの優れた特性を与え得る。
その結果、
【1】官能基含有含フッ素エチレン性重合体からなるフィルムは、ホットメルト型接着剤には必須のアプリケーターを必要とせず基材の上またはあいだに挟み込み熱圧着することにより接着でき、工程的にも有利である。
【2】また、基材の全面に均一な接着層を形成するため、接着むらのない均一な接着強度が得られ、相溶性のないまたはわるい基材にも対応できる。
【3】さらに、種々の形状にカットして使用でき、作業ロスが少なく作業環境もよく、コスト的にも有利である。
などの利点を有する。
前記官能基含有含フッ素重合体のなかから、用途、目的や部品形状、使用環境、あるいはフィルム製造工程、接着方法に応じて種々の含フッ素ポリマーからなるフィルムの製造が可能であるが、接着性フィルム自体が高温での接着力のほか摺動性、非粘着性、耐熱性、耐薬品性、機械特性などを有すること、溶融成形などに代表される効率的なフィルム成形が可能であり、良好な成形性をもち、薄膜化や均一化が可能であること、また種々の熱圧着法により溶融し、種々の基材に強固に、きれいに接着させることができること、などの理由で、前記共重合体(II)(官能基含有PFAまたは官能基含有FEP)または前記共重合体(III)(官能基含有ETFE)が好ましい。また、官能基としては、耐熱性の点から特にヒドロキシル基が好ましい。
含フッ素重合体フィルムの厚さは、用途、目的、使用条件により選択され、特に限定されないが、5?3000μmのものが用いられ、好ましくは10?500μm、特に好ましくは20?300μmである。
薄すぎるフィルムは、特殊な製造方法が必要であったり、接着操作を行なうときの取扱いが困難でしわや破損、外観不良が起こりやすく、また、機械的強度、耐薬品性、耐候性の点でも不充分となる場合がある。厚すぎるフィルムはコスト、接合して一体化するときの作業性の点で不利となる。」(なお、【】数字は丸付き数字である。以下、同様。)

ク.23ページ23行?24ページ16行
「本発明の第2の構造体は、今まで述べてきた
(A)含フッ素ポリマーからなり、実質上含フッ素ポリマー以外の接着性材料を含まない層
(B)基材
とが直接接着し、さらに高温時の接着力を有する構造体の(A)層に
(C)層として(A)と異なる材料からなる層を積層一体化させた3層からなる構造体である。
(C)層は、目的、用途に応じて、金属系材料、ガラス系材料、無機系材料、樹脂系材料、その他あらゆるものから選択でき、本発明の構造体により、含フッ素ポリマー層(A)を介して基材(B)と層(C)を高温時でも良好な接着力で保持することができ、層(C)の表面機能を耐久性よく維持できる。
なかでも層(C)に用いられる材料は、耐熱性が高く、非粘着性、低摩擦性、耐候性、耐薬品性、撥水性、低屈折率性など優れた特性を有する含フッ素ポリマーや、含フッ素ポリマー層(A)と、同等レベル、あるいはそれ以上の耐熱性や耐摩耗性、機械的強度、表面硬度を有する合成樹脂から選ばれることが好ましく、それによって、構造体表面に、前述の優れた特性を耐熱性、耐久性よく付与することができる。」

ケ.30ページ22行?31ページ12行
「本発明の2層からなる構造体または3層からなる構造体、特に含フッ素ポリマーまたは充填材を含む含フッ素ポリマーが最表面に位置する構造体は、構造体全体の耐熱性、耐久性に加え、表面の低摩擦、耐摩耗性、耐熱性といった優れた特性により、摺動材料、摺動部材として効果的に利用できる。
摺動用途として特に好ましい構造体の具体例としては、
【1】基材(B):炭素鋼、ステンレスなどの鋼材、鋳鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、鉛などの金属類から選ばれるもの、
層(A):官能基含有PFA、官能基含有FEP、官能基含有PTFEから選ばれるものからなる層、
層(C):カーボン繊維を1?40重量%混合したPTFEまたはPFAからなる層
からなる構造体であって、層(A)が基材(B)と層(C)との接着層を形成することを特徴とする構造体が、特に耐摩耗性、耐荷重特性、曲げなどの後加工性に優れている点で好ましく、軸受、メカニカルシール、ベアリングパッドなどの用途、特に自動車用途に好ましい。」

コ.上記ケの「層(A)が基材(B)と層(C)との接着層を形成することを特徴とする構造体が・・・軸受、メカニカルシール、ベアリングパッドなどの用途、特に自動車用途に好ましい。」及び上記クの「(C)層として(A)と異なる材料からなる層を積層一体化させた」の記載から、基材(B)に接着層としての層(A)と層(C)を一体化させた軸受の発明を把握することができる。

サ.上記カの「含フッ素ポリマー層(A)に用いる含フッ素ポリマーの分子構造内に、基材との接着に寄与する官能基を導入することが好ましい。基材との接着に寄与する官能基としてはヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基などが好ましく、これらの少なくとも1種以上を含フッ素ポリマーの分子末端または側鎖に含有するものが好ましい。」の記載から、含フッ素ポリマー層(A)の官能基として、ヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基であるものが理解できる。

シ.上記キの「含フッ素重合体フィルムの厚さは、用途、目的、使用条件により選択され」の記載から、含フッ素ポリマー層(A)、すなわち、層(A)の厚さは、用途、目的、使用条件により選択されることが理解できる。

これら記載事項及び認定事項を総合して、本願補正発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「金属類から選ばれる基材(B)、これに接着層を形成する層(A)および前記層(A)と一体化させたカーボン繊維を1?40重量%混合したPTFEまたはPFAからなる層(C)を含む軸受であって、層(A)が、官能基含有PFA、官能基含有FEP、官能基含有PTFEから選ばれ、官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基であり、層(A)の厚さは、用途、目的、使用条件により選択される軸受。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内又は外国において頒布された特開平7-173446号公報(以下「刊行物2」という。)には、「接着性含フッ素ポリマーとそれを用いた積層体」に関し、次の事項が記載されている。

ス.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、種々の有機材料や無機材料からなる基材に対して強固に接着しうる接着性のテトラフルオロエチレン-エチレン系共重合体(以下、ETFEという)、およびそれを用いた積層体に関する。」

セ.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、接着性の良好な含フッ素ポリマーの提供を目的とする。本発明はまた、この接着性含フッ素ポリマーを種々の有機材料や無機材料からなる基材に積層してなる積層体、この接着性含フッ素ポリマーを接着剤として用いて他の含フッ素ポリマーを種々の基材に積層してなる積層体、などのこの接着性含フッ素ポリマーを用いた積層体の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、接着性含フッ素ポリマー、接着性含フッ素ポリマーの製造方法、およびそれを用いた積層体などに関する下記の発明である。
【0007】ETFEに、該ETFEとグラフト化が可能な結合性基と接着性を付与する官能基とを有するグラフト性化合物をグラフトしてなる接着性含フッ素ポリマー。」

ソ.「【0018】接着性を付与する官能基としては、反応性や極性を有する基でグラフト化されたETFEに接着性を与えることのできる基である。グラフト性化合物中にはこのような官能基を1分子中に2個以上存在していてもよい。また2以上の官能基は互いに異なっていてもよい。このような官能基としては、たとえば、カルボキシル基、1分子中の2つのカルボキシル基が脱水縮合した残基(以下、カルボン酸無水物残基という)、エポキシ基、水酸基、イソシアネート基、エステル基、酸アミド基、アルデヒド基、アミノ基、加水分解性シリル基、シアノ基などがある。
【0019】接着性を付与する官能基として好ましいものは、カルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、および加水分解性シリル基である。特に、カルボン酸無水物残基がもっとも好ましい。
【0020】グラフト性化合物としては、上記のようにα,β不飽和二重結合を末端に有する有機基、パーオキシ基、およびアミノ基から選ばれる結合性基とカルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、および加水分解性シリル基から選ばれる少なくとも1種の官能基とを有する化合物が好ましい。そのうちでも不飽和ポリカルボン酸無水物がもっとも好ましく、次いで、不飽和カルボン酸、エポキシ基含有不飽和化合物、加水分解性シリル基含有不飽和化合物、エポキシ基含有パーオキシ化合物などが好ましい。
【0021】不飽和ポリカルボン酸無水物としては、たとえば、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などがある。不飽和カルボン酸としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などがある。」

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能、作用からみて、引用発明の「金属類から選ばれる基材(B)」は、本願補正発明の「金属支持体(1)」に相当し、以下同様に、
「これに接着層を形成する層(A)」は「これに直接的に適用された中間層(2)」に、
「前記層(A)と一体化させたカーボン繊維を1?40重量%混合したPTFEまたはPFAからなる層(C)」は「前記中間層(2)に適用された摺動層(3)」に、それぞれ、相当する。
また、本願明細書段落【0015】の「中間層に適用される摺動層は、同様に、フルオロポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはこれらの混合物を含むことが好ましい。PTFE化合物層として構成された摺動層が特に好ましい。」及び同【0016】の「中間層に適用される摺動層は同様に、熱伝導性を高めるおよび/または摩耗特性を改善するための充填材を含有することが可能である。これらは、特にガラスファイバー、炭素繊維あるいはアラミドといった繊維;・・・であることが好ましい。」との記載によれば、「カーボン繊維を1?40重量%混合したPTFEまたはPFAからなる層(C)」は、メンテナンスフリー滑り軸受けの摺動層に用いられる摺動層といえるから、引用発明の「軸受」は本願補正発明の「メンテナンスフリー滑り軸受け」に、相当する。
そして、本願明細書段落【0008】の「中間層の少なくとも1種の官能化熱可塑性ポリマーとして、官能化熱可塑性フルオロポリマー、特に、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロアルコキシ-エチレン(PFA)またはテトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)コポリマー(MFA)を提供し」との記載によれば、本願補正発明の「中間層」は、官能化熱可塑性ポリマーとして、官能化熱可塑性フルオロポリマーを含むものである(請求項2で特定されている)から、引用発明の「層(A)が、官能基含有PFA、官能基含有FEP、官能基含有PTFEから選ばれ、官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基であ」ることは、本願補正発明の「中間層(2)が、式-C=O、-C-O-Rおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)の官能基を有し、メルトボリュームフローレート(融点としての50℃>および7kg負荷下でのMVR)が、0.1?1000mm3/秒の、少なくとも1種の官能化熱可塑性ポリマーを含み、官能基は、少なくとも1種の変性試薬、すなわち、マレイン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはイタコン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはシトラコン酸およびその誘導体、特にその無水物の添加によって熱可塑性ポリマーに組み込まれ」ていることと、「中間層(2)が、官能基を有する官能化熱可塑性フルオロポリマーである」ことで共通するものである。

よって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「金属支持体、これに直接的に適用された中間層および前記中間層に適用された摺動層を含むメンテナンスフリー滑り軸受けであって、中間層が、官能基を有する官能化熱可塑性フルオロポリマーである滑り軸受け。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
中間層が、本願補正発明では「式-C=O、-C-O-Rおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)の官能基を有し、メルトボリュームフローレート(融点としての50℃>および7kg負荷下でのMVR)が、0.1?1000mm^(3)/秒の、少なくとも1種の官能化熱可塑性ポリマーを含み、官能基は、少なくとも1種の変性試薬、すなわち、マレイン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはイタコン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはシトラコン酸およびその誘導体、特にその無水物の添加によって熱可塑性ポリマーに組み込まれ」るものであるのに対し、引用発明では「官能基含有PFA、官能基含有FEP、官能基含有PTFEから選ばれ、官能基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはカルボン酸塩、スルホン酸基もしくはスルホン酸塩、エポキシ基、シアノ基である」点。

[相違点2]
中間層の厚さが、本願補正発明では「金属支持体(1)の表面の粗度プロファイルの最大プロファイルピーク高さと最大プロファイル谷深さとの距離Rmaxとして定義される金属支持体(1)の粗度より厚い」のに対し、引用発明では「用途、目的、使用条件により選択される」点。

4.当審の判断
(1)相違点1について
引用発明の官能基含有PFA、官能基含有FEP、官能基含有PTFE、すなわち、官能化熱可塑性フルオロポリマーは、基材との接着に寄与する官能基を導入するものであって、当業者であれば、基材との接着性を考慮して各種の官能基の採用を試みるというべきである。
ところで、刊行物2には、接着性含フッ素ポリマーに関して、接着性を付与する官能基として、反応性や極性を有する基でグラフト化されたETFEに接着性を与えることのできる基として、カルボキシル基、水酸基、エステル基等が挙げられている(記載事項ソ、段落【0018】)。また、同じく、グラフト化するためのグラフト性化合物としては、不飽和ポリカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物等が挙げられている(記載事項ソ、段落【0020】)。してみると、刊行物2には、相違点1に係る式-COORの官能基が記載されており、また、官能基を、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物等を含むグラフト性化合物、本願補正発明でいう「変性試薬」によってフッ素ポリマーに組み込むことが記載されているといえる。
また、本願補正発明においては、官能化熱可塑性ポリマーのメルトボリュームフローレートについて特定されているが、その数値範囲により本願補正発明に特有の作用効果を確認することができず、接着性含フッ素ポリマーのメルトボリュームフローレートに基づく物性の数値範囲は、当業者が接着性、耐久性等を考慮した数値範囲の最適化にすぎないものといわざるをえない。

以上を総合すると、上記相違点1に係る構成とすることは、刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明の中間層の厚さは用途、目的、使用条件により選択されるものであり、中間層は金属支持体と摺動層を接着するためのものであるから、その厚さはその接着という目的に合わせて最適なものとされるといえる。
ところで、引用発明の基材には、刊行物1の記載事項オのとおり、接着性を向上させることを目的として表面粗面化処理を施してもよいものである。
そうすると、金属支持体と摺動層との接着性を向上するために、金属支持体の粗面化処理された凹凸を覆う状態で接着層を形成する層を設けて、「中間層(2)の厚さは、金属支持体(1)の表面の粗度プロファイルの最大プロファイルピーク高さと最大プロファイル谷深さとの距離Rmaxとして定義される金属支持体(1)の粗度より厚い」ものとすることは、当業者にとって容易である。
したがって、相違点2のように構成することは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)作用効果について
本願補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び刊行物2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものではない。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年8月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成24年11月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属支持体(1)、これに直接的に適用された中間層(2)および前記中間層(2)に適用された摺動層(3)を含むメンテナンスフリー滑り軸受けであって、中間層(2)が、式-C=O、-C-O-R、-COH、-COOHおよび/または-COOR(式中、ラジカルRは、1?20個の炭素原子を有する環状または直鎖状の有機ラジカルである)の官能基を有する少なくとも1種の官能化熱可塑性ポリマーを含み、官能基は、少なくとも1種の変性試薬、すなわち、マレイン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはイタコン酸およびその誘導体、特にその無水物、ならびに/またはシトラコン酸およびその誘導体、特にその無水物の添加によって熱可塑性ポリマーに組み込まれていることを特徴とする滑り軸受け。」

2.引用刊行物とその記載事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物とその記載事項及び引用発明は、上記第2、2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明から、「官能基」、「官能化熱可塑性ポリマー」及び「中間層(2)の厚さ」についての特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本願補正発明が、上記第2、3.及び4.に記載したとおり、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-25 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2010-503364(P2010-503364)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 智樹竹下 和志  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 稲葉 大紀
森川 元嗣
発明の名称 メンテナンスフリー滑り軸受け  
代理人 渡邉 一平  

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