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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H03H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1296611
審判番号 不服2013-15344  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-08 
確定日 2015-01-22 
事件の表示 特願2009-539600「整合が改善されたDMSフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日国際公開、WO2008/067793、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-512077〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成19年11月28日(優先権主張 2006年(平成18年)12月5日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成24年10月19日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月29日付けで手続補正がされ,同年4月4日付けで拒絶査定がされ,同年8月8日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 補正却下の決定
[結論]
平成25年8月8日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正発明
平成25年8月8日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により,請求項1に記載された発明は,次のとおりのものとなった(下線は請求人が付与)。

【請求項1】
フィルタ構造において、
入力部と出力部の間に配線された信号経路が少なくとも区域的に圧電基板の上に配置されており、
前記信号経路にはDMSトラックとリアクタンス素子が直列に配線されており、
前記DMSトラックと前記リアクタンス素子の間には、追加のキャパシタンス素子を介してアースにつながれた、前記信号経路に対する横分路が配置されており、
前記追加のキャパシタンス素子は前記基板の上に相並んで配置された2つの金属被覆面によって構成されており、第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されており、第2の前記金属被覆面は、金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしており、
前記追加のキャパシタンス素子は、0.1pFから1.0pFのキャパシタンスを有しており、前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である、フィルタ構造。

本件補正は,本件補正前(平成25年1月29日付け提出の手続補正書)の請求項1に記載された「追加のキャパシタンス素子」について,「第2の前記金属被覆面は前記DMSトラックと前記リアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されているか、または金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている」とあったのを,「第2の前記金属被覆面は、金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしており」と択一的記載の要素を削除することで減縮するとともに,「前記追加のキャパシタンス素子は、0.1pFから1.0pFのキャパシタンスを有しており、前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」との限定を付加するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるか(本件補正が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

2.本件補正発明に対する当審の判断
(1)手続の確認
当審は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(以下「明細書のサポート要件」という。)を満たしていないため,本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと考える。
そこで,はじめに,(ア)平成24年10月19日付け拒絶理由通知,及び(イ)平成25年11月12日付け審尋の内容を確認しておく(下線部は当審が付与)。

(ア)平成24年10月19日付け拒絶理由通知の概略
拒絶理由通知には以下の記載がある。

「 この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。これについて意見がありましたら、この通知書の発送の日から3か月以内に意見書を提出してください。

理 由

A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

B.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

C.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

D.この出願の特許請求の範囲に記載された発明が下記の点で明確でないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」(1頁)

「理由Cについて

(1)本願の請求項23において、「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」と記載されている。しかしながら、本願の明細書には、追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCを、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定することは記載されていない。よって、発明の詳細な説明中に、請求項23に記載された事項と対応する事項が、記載も示唆もされていない。したがって、請求項23及びこの請求項を引用する請求項24-27に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。」(5頁)

(イ)平成25年11月12日付け審尋の概略
審尋には以下の記載がある。

「 前置報告書

審判番号 不服2013-015344
特許出願の番号 特願2009-539600
特許庁審査官 ▲高▼橋 徳浩 4877 5W00
作成日 平成25年10月18日

この審判請求に係る出願については、下記の通り報告します。


記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

平成25年 8月 8日付け手続補正書でした請求項1-14についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合、補正後の請求項1-14に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。そこで、補正後の請求項1-14に対して、独立して特許を受けることができるものであるかどうかを検討する。」(2頁)

「(2)特許法第36条第6項第1号について

本願の請求項1において、「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」と記載されている。しかしながら、本願の明細書には、追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCを、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定することは記載されていない。よって、発明の詳細な説明中に、請求項1に記載された事項と対応する事項が、記載も示唆もされていない。したがって、請求項1及びこの請求項を引用する請求項2-14に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

したがって、当該補正後の請求項1-14に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって、この補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

そして、この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

[審判請求書について]

出願人は審判請求書において、「さらに、出願当初の請求項23の記載に基づいて、『前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である』との限定を付加しました。」と主張している。
確かに出願人が主張するように、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面の【請求項23】には、追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの信号経路の基準抵抗であることが記載されている。しかしながら、上記で述べたように、本願の明細書には、追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCを、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定することは記載されていない。」(9?10頁)

上記(ア)及び(イ)によれば,上記拒絶理由通知及び審尋において,特許請求の範囲の「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」という記載は,明細書のサポート要件を満たしていない,という指摘がなされていたことを確認することができる。

(2)明細書のサポート要件の適否について
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載が,明細書のサポート要件を満たすか否かについて検討する。

(ア)明細書の発明の詳細な説明の記載
本件補正発明は,上記「1.本件補正発明」に記載したように,「追加のキャパシタンス素子」について,「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」という限定事項が付加されたものである。
そこで,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を確認すると,上記「追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスC」に関して,発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている(下線部は当審が付与)。

「【0025】
追加のキャパシタンス素子は、DMSトラックをリアクタンス素子に合わせて整合させる役目をする。整合素子がなければ、特に通過帯域の上側領域における整合が最善にならない。横分路のキャパシタンス素子により、そのキャパシタンスが約0.1から1.0pFの値を有していると良好な整合が実現される。すなわち、DMSトラックの変換器の典型的な平均の静電容量はたとえば0.5から1.0pFであるのに対して、キャパシタンス素子のキャパシタンスは、DMSトラックにおける変換器の平均の静電容量の0.1倍から2.0倍の値に相当している。キャパシタンス素子のこれよりも高いキャパシタンスは、もはや改善された整合にはつながらず、たとえば帯域幅の縮小などによる問題を引き起す。特にその場合、外部の誘導式の整合素子がさらに必要になる可能性がある。キャパシタンス素子のキャパシタンスが増すにつれて、たとえば既存の外部の直列の整合素子のインダクタンスを高めなくてはならず、ないしは、並列の整合素子のインダクタンスを下げなくてはならない。」(段落【0025】)

(イ)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
本件補正発明は,上記「1.本件補正発明」から明らかなように,その「キャパシタンスC」について,「項2πfRC」の値が「0.05から1.5の間」であるという範囲をもって特定される「追加のキャパシタンス素子」を発明特定事項とするものであり,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,「項2πfRC」が「0.05から1.5の間」にあることと得られる効果(性能)との関係の技術的意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載すべきであるといえる(参考:知財高裁平成17年(行ケ)第10042号)。

そこで,「項2πfRC」が「0.05から1.5の間」にあることについて,本願明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,発明の詳細な説明には,上記段落【0025】に「キャパシタンス」が「0.1pFから1.0pFの値を有していると良好な整合が実現される」ことが記載されているものの,上記段落【0025】及びその他の段落にも,「項2πfRC」がフィルタ構造に関する如何なる特性を示すものであるのかについての記載はない。さらに,「項2πfRC」の「0.05から1.5の間」という数値範囲についても開示されていない。そのため,発明の詳細な説明は,「項2πfRC」が「0.05から1.5の間」にあることと得られる効果(性能)との関係の技術的意味を,特許出願時において,具体例の開示がなくとも,当業者に理解できる程度に記載しているということはできない。
さらに,発明の詳細な説明には,「項2πfRC」の値に関連するような具体例についても開示されていないため,発明の詳細な説明は,特許出願時の技術常識を勘案して,「項2πfRC」が「0.05から1.5の間」であれば所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に,具体例を開示して記載しているということもできない。

また,上記(1)で確認したように,平成24年10月19日付け拒絶理由通知及び平成25年11月12日付け審尋において,特許請求の範囲の「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」という記載は,明細書のサポート要件を満たしていない旨の指摘がなされている。
上記指摘に対して,請求人は,上記拒絶理由通知に対する意見書(平成25年1月29日付け提出)の(3-1)において,「そこで、上述のように、請求項23については削除しました。これにより、ご指摘の記載不備は解消されたものと思料致します。」と述べているものの,上記指摘に対する反論はなされていない。同様に,上記審尋に対する回答書(平成26年2月20日付け提出)においても,上記指摘に対する請求人の反論を確認することはできない。

したがって,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の「前記追加のキャパシタンス素子の単位ファラドで表したキャパシタンスCは、項2πfRCについては0.05から1.5の間の値が生じるように設定されており、ここでfは単位ヘルツでの動作周波数であり、Rは単位Ωでの前記信号経路の基準抵抗である」という記載は,明細書のサポート要件を満たしているということはできない。

4.まとめ
以上のとおり,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから,本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

上記のとおり,平成25年8月8日付け手続補正は却下された。

よって,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年1月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線は請求人が付与)。

【請求項1】
フィルタ構造において、
入力部と出力部の間に配線された信号経路が少なくとも区域的に圧電基板の上に配置されており、
前記信号経路にはDMSトラックとリアクタンス素子が直列に配線されており、
前記DMSトラックと前記リアクタンス素子の間には、追加のキャパシタンス素子を介してアースにつながれた、前記信号経路に対する横分路が配置されており、
前記キャパシタンス素子は前記基板の上に相並んで配置された2つの金属被覆面によって構成されており、第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されており、第2の前記金属被覆面は前記DMSトラックと前記リアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されているか、または金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている、フィルタ構造。


第4 当審の判断

1.引用発明
原査定において引用された特開2002-64358号公報(平成14年2月28日公開。以下「引用例」という。)には,図面とともに次の記載がある(下線は当審が付与)。

(ア)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の図11に示すような複合SAWフィルタを用いてRX2帯のRFフィルタを構成すると、図12(a)から明らかなように、パスバンド内高域側端におけるカットオフ特性が著しく劣化し、試作においては辛うじて規格Pを満足しているものの、製造バラツキを考慮すると不良品となることも少なくないという問題があった。これは図12(b)、(c)のスミスチャートからも明らかである。このように、二重モードSAWフィルタにSAW共振子を直列接続したタイプの複合SAWフィルタを用いても、RX2帯(バンド幅15MHz)程度の比較的狭い帯域幅の複合SAWフィルタを量産する際に歩留まりが著しく悪くなるという問題があった。本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、パスバンドを平坦にすると共に通過域近傍の高域側の減衰量を改善した弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明に係る複合弾性表面波フィルタの請求項1記載の発明は、圧電基板の主面上に設けた弾性表面波フィルタの一方の端子と、弾性表面波共振子の一方の端子とを直列に接続すると共に、この接続点に容量を並列接続したことを特徴とする複合弾性表面波フィルタである。請求項2記載の発明は、圧電基板の主面上に設けた弾性表面波フィルタの一方の端子と、弾性表面波共振子の一方の端子とを直列に接続すると共に、この接続点に容量を並列接続すると共に、前記弾性表面波フィルタの他方の端子に容量を並列接続したことを特徴とする複合弾性表面波フィルタである。請求項3記載の発明は、前記容量を圧電基板上に形成したIDT電極にて実現したことを特徴とする請求項1あるいは2記載の複合弾性表面波フィルタである。請求項4記載の発明は、前記弾性表面波フィルタが表面波の伝搬方向に沿って、3つのIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置してなる1次-3次縦結合二重モード型フィルタであり、前記弾性表面波共振子がIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置したものであることを特徴とする請求項1乃至3に記載の複合弾性表面波フィルタである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る複合SAWフィルタの構成を示す平面図であって、圧電基板1の主面上に表面波の伝搬方向に沿って、3つのIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置してなる1次-3次縦結合二重モード弾性表面波フィルタ(二重モードSAWフィルタ)2と、IDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置してなる弾性表面波共振子(SAW共振子)3と、表面波の伝搬方向にほぼ直交してコンデンサ用IDT電極4とを形成し、二重モードSAWフィルタ2の外側に配置した2つのIDT電極の圧電基板1中央寄りのくし形電極からそれぞれリード電極を延在し、SAW共振子3の圧電基板1中央寄りのくし形電極と直列に接続すると共に、前記リード電極にコンデンサ用IDT電極4を並列接続する。さらに、SAW共振子3の圧電基板1端部寄りのくし形電極と入力端子INとをボンディングワイヤ等にて接続すると共に、二重モードSAWフィルタの中央に配置したIDT電極の圧電基板1端部寄りのくし形電極と出力端子OUTとをボンディングワイヤ等にて接続し、他方のくし形電極をそれぞれ接地して、複合SAWフィルタを構成する。
【0011】図2(a)は、図1の複合SAWフィルタの電極パターンを用いて、RX2帯用RFフィルタを構成すべく、圧電基板1に36゜Y-X LiTaO3を用い、二重モードSAWフィルタ2の中央のIDT電極を31.5対、外側の2つのIDT電極を21.5対、交差幅を30λ(λは励起される表面の波長)、アルミニウム合金の電極膜厚を170nmとし、SAW共振子3のIDT電極対数を100.5対、交差幅を20λ、コンデンサ用IDT電極4の対数を36対、交差幅を73μm(容量にして1.2pF)として構成した複合SAWフィルタの通過域特性を示す図であり、通過域規格P及び通過域近傍の高域側の減衰規格Q共に十分に満たしていることが分かる。同図(b)、(c)は複合SAWフィルタを50Ωにて終端した場合の入力側及び出力側のスミスチャートで、円線図がフィルタの通過域近傍で50Ω近傍をトレースしていることが分かる。
【0012】本発明の特徴は二重モードSAWフィルタに直列にSAW共振子を接続すると共に、その段間に容量を並列接続することにより、終端抵抗50Ωとのインピーダンス整合を図り、パスバンド、特に通過域内の高域側のカットオフ特性を急峻にしたことにある。」(段落【0008】?【0012】)

(イ)図1は,複合SAWフィルタの構成を示す平面図であって,その記載を技術常識に照らすと,二重モードSAWフィルタ2の外側に配置した2つのIDT電極の圧電基板1中央寄りのくし形電極からリード電極が延在し,SAW共振子3の圧電基板1中央寄りのくし形電極と接続すること,該リード電極とコンデンサ用IDT電極4の圧電基板1中央寄りのくし形電極とを接続する電極が,リード電極の延在方向における略中央部分に,リード電極の延在方向と略垂直に接続すること,コンデンサ用IDT電極4の圧電基板1端部寄りのくし形電極を接地すること,が記載されているといえる。

上記の記載によれば,引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

複合SAWフィルタであって,
その電極パターンは,
圧電基板1の主面上に表面波の伝搬方向に沿って、3つのIDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置してなる1次-3次縦結合二重モード弾性表面波フィルタ(二重モードSAWフィルタ)2と、
IDT電極とその両側にグレーティング反射器を配置してなる弾性表面波共振子(SAW共振子)3と、
表面波の伝搬方向にほぼ直交してコンデンサ用IDT電極4とを形成し、
二重モードSAWフィルタ2の外側に配置した2つのIDT電極の圧電基板1中央寄りのくし形電極からそれぞれリード電極を延在し、SAW共振子3の圧電基板1中央寄りのくし形電極と直列に接続すると共に、前記リード電極にコンデンサ用IDT電極4を並列接続し,
さらに、SAW共振子3の圧電基板1端部寄りのくし形電極と入力端子INとをボンディングワイヤ等にて接続すると共に、二重モードSAWフィルタの中央に配置したIDT電極の圧電基板1端部寄りのくし形電極と出力端子OUTとをボンディングワイヤ等にて接続し、他方のくし形電極をそれぞれ接地し,
前記リード電極とコンデンサ用IDT電極4の圧電基板1中央寄りのくし形電極とを接続する電極が,リード電極の延在方向における略中央部分に,リード電極の延在方向と略垂直に接続し,
コンデンサ用IDT電極4の圧電基板1端部寄りのくし形電極を接地する,
複合SAWフィルタ。

2.対比・判断
本願発明と引用発明を比較すると次のことがいえる。

・引用発明の「複合SAWフィルタ」は,「圧電基板1」上に「1次-3次縦結合二重モード弾性表面波フィルタ(二重モードSAWフィルタ)2」,「弾性表面波共振子(SAW共振子)3」,「コンデンサ用IDT電極4」を配置してなる構造であるから,引用発明の「複合SAWフィルタ」は,本願発明の「フィルタ構造」に相当する。

・引用発明における「1次-3次縦結合二重モード弾性表面波フィルタ(二重モードSAWフィルタ)2」は,「Double Mode SAW」フィルタの一種であることは明らかであり,3つのIDT電極とその両側に配置したグレーティング反射器により,弾性表面波を伝搬する「トラック」を構成しているものである。
つまり,該「トラック」は,「Double Mode SAW」フィルタの「トラック」であるから,「DMSトラック」であるといえる。

・弾性表面波共振子がリアクタンス特性を有することは周知であり,引用発明の「弾性表面波共振子(SAW共振子)3」も,リアクタンス特性を有することは明らかであるから,引用発明の「弾性表面波共振子(SAW共振子)3」は,本願発明の「リアクタンス素子」に相当する。

・引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」は,所定の静電容量(キャパシタンス)を有するコンデンサを構成しているから,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」は,本願発明の「キャパシタンス素子」に相当する。

・引用発明の「入力端子IN」,「出力端子OUT」は,本願発明の「入力部」,「出力部」にそれぞれ相当する。
また,引用発明の「複合SAWフィルタ」が,「入力端子IN」から入力された何らかの「信号」をフィルタ処理して,「出力端子OUT」からフィルタ処理後の「信号」を出力することは明らかであり,「入力端子IN」にボンディングワイヤ等にて接続された「弾性表面波共振子(SAW共振子)3」と,「出力端子OUT」にボンディングワイヤ等にて接続された「1次-3次縦結合二重モード弾性表面波フィルタ(二重モードSAWフィルタ)2」とを接続する「リード電極」は,「入力端子INと出力端子OUTの間に配線された信号経路」であるといえる。
また,引用発明の「リード電極」は,圧電基板1上に電極パターンとして構成されるものであるから,「リード電極」は,圧電基板1上の所定の区域を占めているといえる。すなわち,引用発明における「リード電極」は,「区域的に圧電基板の上に配置されて」いるといえる。
したがって,本願発明と引用発明とは,「入力部と出力部の間に配線された信号経路が少なくとも区域的に圧電基板の上に配置されて」いるという点で一致している。

・引用発明の「リード電極」は,二重モードSAWフィルタ2の外側に配置した2つのIDT電極の圧電基板1中央寄りのくし形電極からそれぞれ延在し、SAW共振子3の圧電基板1中央寄りのくし形電極と直列に接続するものであるから,本願発明と引用発明とは,「信号経路にはDMSトラックとリアクタンス素子が直列に配線されて」いるという点で一致している。

・引用発明において,リード電極とコンデンサ用IDT電極4の圧電基板1中央寄りのくし形電極とを「接続する電極」は,「リード電極」の延在方向における略中央部分に,リード電極の延在方向と略垂直に接続するものであり,「リード電極」の延在方向に対して横に分岐した電極ともいえるから,引用発明の「接続する電極」は,本願発明の「信号経路に対する横分路」に相当する。
また,引用発明の「接続する電極」は,「リード電極」の延在方向における略中央部分に,リード電極の延在方向と略垂直に接続するものであり,該「リード電極」は「二重モードSAWフィルタ2」と「SAW共振子3」を接続するものであるから,該「接続する電極」が,「二重モードSAWフィルタ2」と「SAW共振子3」の間に配置されることは明らかである。
また,引用発明の「接続する電極」には,「コンデンサ用IDT電極4」の圧電基板1中央寄りのくし形電極が接続され,「コンデンサ用IDT電極4」の圧電基板1端部寄りのくし形電極は接地しているから,該「接続する電極」は,「コンデンサ用IDT電極4」を介してアースにつながれているといえる。
したがって,本願発明と引用発明とは,「DMSトラックとリアクタンス素子の間には,キャパシタンス素子を介してアースにつながれた,信号経路に対する横分路が配置されて」いるという点で一致している。

・引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」は,「圧電基板1中央寄りのくし形電極」と「圧電基板1端部寄りのくし形電極」が非接触で対向するように配置された電極パターンとして構成されるものであり,電極パターンが,基板上に金属薄膜によって構成されることは技術常識であるから,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」及び「圧電基板1端部寄りのくし形電極」は,本願発明の「基板の上に相並んで配置された2つの金属被覆面」に相当する。
また,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1端部寄りのくし形電極」は接地されているから,該「圧電基板1端部寄りのくし形電極」は,複合SAWフィルターにおけるアースに接続する電気経路を形成しているから,複合SAWフィルターの「アース接続経路によって形成されている」ともいうことができる。
よって,本願発明と引用発明とは,「第1の金属被覆面はフィルタ構造のアース接続経路によって形成されて」いるという点で一致している。
さらに,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」は,「二重モードSAWフィルタ2」と「SAW共振子3」を接続する「リード電極」と,電極によって接続されており,該「リード電極」は,「二重モードSAWフィルタ2」と「SAW共振子3」の間で信号を伝える「接続回線」といえるから,本願発明と引用発明とは,「第2の金属被覆面はDMSトラックとリアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されている」という点で一致している。

以上より,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,以下の点で一応相違する。

[一致点]
フィルタ構造において、
入力部と出力部の間に配線された信号経路が少なくとも区域的に圧電基板の上に配置されており、
前記信号経路にはDMSトラックとリアクタンス素子が直列に配線されており、
前記DMSトラックと前記リアクタンス素子の間には、キャパシタンス素子を介してアースにつながれた、前記信号経路に対する横分路が配置されており、
前記キャパシタンス素子は前記基板の上に相並んで配置された2つの金属被覆面によって構成されており、第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されており、第2の前記金属被覆面は前記DMSトラックと前記リアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されている、フィルタ構造。

[相違点]
本願発明の「キャパシタンス素子」は,「追加の」キャパシタンス素子であるのに対し,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」は,「追加の」キャパシタンス素子であるのか特定されていない点。

相違点についての検討
本願発明の「追加のキャパシタンス素子」は,本願明細書の「公知のハウジングは、チップの上に設けられた金属接続面とともに、かなりの値に達する可能性のある寄生的な静電容量を形成する。」(段落【0002】),「DMSトラックとリアクタンス素子の間には、アースにつながれた追加のキャパシタンス素子が配置された、信号経路に対する横分路が配置されている。」(段落【0007】)及び「常に決定的に重要なのは、容量性素子が十分なキャパシタンスを備えていることであり、そのために、各々のフィルタ構造に存在する寄生キャパシタンスだけでは十分ではない。」(段落【0057】)等の記載を参酌すると,フィルタ構造に存在する寄生容量とは別に,「キャパシタンス素子」を新たに設けたという意味で,「追加の」キャパシタンス素子であると解される。
一方,引用発明の複合SAWフィルタにおいても,寄生容量が存在することは,その構造からして明らかであり,引用発明の「コンデンサ用IDT電極4」も,インピーダンス整合を図るために,新たに設けた「キャパシタンス素子」ということができる(上記「1.引用発明」の摘記(ア)における段落【0008】?【0009】,【0012】等参照)。
つまり,上記相違点は,引用例に実質的に記載された事項であるといえる。

したがって,本願発明は,引用例に記載されている発明である。

3.請求人の主張についての補足的判断

(1)平成25年8月8日付け提出の審判請求書に記載された主張について
請求人は,平成25年8月8日付け提出の審判請求書における【本願発明が特許されるべき理由】の(3)において,以下の主張をしている。

「補正後の独立請求項1に記載されたキャパシタンス素子は、引用文献1?3等に記載されたインターディジタル構造のそれと異なります。また、補正後の独立請求項1に記載された金属被覆面をなすように拡張された接続回路は、インターディジタル電極フィンガに接続されたバスバーとは異なります。さらに、補正後の独立請求項1に記載された「第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されて」います。ここで、本願発明の「アース接続経路」は、引用文献1?3等に記載されたインターディジタル構造の電極とは異なります。
本願の「アース接続」は、低いオーム抵抗で接地電位に接続される電気伝導を与えるために設けられます。一方、引用文献1?3等に記載されたインターディジタル構造の電極は、接地電位には接続されるものの、当該構造から始まる電界ベクトルの源または当該構造へ到達する電界ベクトルの目的地を与える電気素子を設けるように設計されています。このように、引用文献1?3等に記載されたインターディジタル構造の形は、当該領域と比較して大きな周縁を有するように選択され、その結果、扇状の構造が選択されています。
上記に対し、補正後の独立請求項1に記載されたアース接続経路は、低いオーム抵抗を有しており、通常近隣の構造と相互作用を起こしません。したがって、周縁領域は、当該経路の領域と比較して非常に小さくなり、通常凸形状の構造が選択されます。引用文献1?3等に記載された扇状の構造は、凸形状ではありません。」
(当審注
上記主張における「引用文献1」とは,この審決における引用例(特開2002-64358号公報)に該当する。)

しかしながら,本願の請求項1には,「アース接続経路」について,「第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されており」と記載されるに留まり,該記載からは,「アース接続経路」は,アースに接続する経路であることは読み取れるものの,該「アース接続経路」が,低いオーム抵抗で接地電位に接続される電気伝導を与えるために設けられるものであることや,その形状についてまでは,請求項1の上記記載からは読み取ることができない。
そして,引用発明における「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1端部寄りのくし形電極」は接地される電極であるから,アースに接続する経路と点で,本願発明の「アース接続経路」とに差異は見いだせない。
したがって,上記請求人の主張は採用することができない。

(2)平成26年2月20日付け提出の回答書に記載された主張について
請求人は,平成26年2月20日付け提出の回答書の【回答の内容】(4)において,以下の主張をしている。

(ア)「上記のように、補正案の独立請求項1に係る本願発明は、「前記信号経路にはDMSトラックとリアクタンス素子が直列に配線されており、前記DMSトラックと前記リアクタンス素子の間には、追加のキャパシタンス素子を介してアースにつながれた」信号経路に対する横分路が配置されています。一方、引用文献1は、図1において、信号経路の2つの平行なセグメントによって接続されるDMSトラック2および共振器3を示しており、当該セグメントの1つは、トランスデューサ素子4を介して接地されています。引用文献1の図1において、トランスデューサ素子4および信号経路のセグメントは、金属被覆を介して接続されています。引用文献1の図1におけるこの金属被覆は、本願請求項1の「金属被覆面をなすように拡張された接続回線」と解釈されています。
さらに、引用文献13の図5は、突出部509がキャパシタンス素子の電極として動作することを示しています。引用文献13の突出部509の電極もまた、本願請求項1の「金属被覆面をなすように拡張された接続回線」と解釈されています。しかしながら、本願請求項1の「金属被覆面をなすように拡張された接続回線」は、引用文献1のトランスデューサ素子4および引用文献13の突出部509/引き回し配線511とは、構造的に異なっています。引用文献1の図1におけるトランスデューサ素子4および信号経路セグメントの間の金属被覆ならびに引用文献13の図5における突出部509の電極はいずれも、キャパシタンス素子の存在が確保される必要があります。
これに対し、本願発明におけるキャパシタンス素子の拡張信号回線は、キャパシタンス素子の存在が確保される必要がありません。本願では、信号回線が拡張されない場合、キャパシタンス素子が得られます。しかしながら、信号回線を拡張することは、キャパシタンス素子の容量値を調整するのには利用できますが、キャパシタンス素子を生成するのに利用することはできません。換言すると、本願の請求項1に記載されたキャパシタンス素子は、拡張なしに既にそこにある容量素子である一方、引用文献1および13のキャパシタンス素子は、信号経路のセグメントを接地しており、「拡張された信号回線」として解釈される金属被覆なしでは存在することができません。このように、本願の独立請求項1は、引用文献1?13には開示されていない構造的特質を備えています。」

(イ)「本願の独立請求項1に記載されたキャパシタンス素子と引用文献1および13に示されたキャパシタンス素子との間のさらなる相違は、接続回線における信号の伝搬方向に対するキャパシタンス素子の方向です。拡張なしの場合、本願発明におけるキャパシタンス素子の電界ベクトルは、信号伝搬の方向に垂直となります。これに対し、引用文献1および13の電極およびそれらの精密な幾何学形状は、この電界ベクトルを接続回線における信号の伝搬方向に平行にさせます。これは、引用文献1および13におけるキャパシタンス素子またはキャパシタンス素子の金属被覆が、付加的に構成された金属被膜なしには存在しない付加的な容量素子であることの結果です。」
(当審注
上記主張における「引用文献1」とは,この審決における引用例(特開2002-64358号公報)に該当する。また,上記主張における「トランスデューサ素子4」とは,この審決における引用例に記載された「コンデンサ用IDT電極4」に該当する。)

[請求人の主張(ア)についての検討]
上記請求人の主張(ア)は,要するに,引用発明では,金属被覆である電極をくし形電極の形状に構成することによって,初めてキャパシタンス素子である「コンデンサ用IDT電極4」が生成されるのに対し,本願発明では,DMSトラックとリアクタンス素子とを接続する「接続回線」は,「拡張」されていない場合でも,アース接続経路(第1の金属被覆面)との間でキャパシタンス素子を構成しており,「接続回線」の「拡張」は,既に構成されている該キャパシタンス素子の容量を調節するためのものであって,キャパシタンス素子を新たに生成するためのものではない,という主張であると理解することができる。
上記理解のもと,上記請求人の主張(ア)について,以下に検討する。

本願発明の「キャパシタンス素子」を構成する「第2の金属被覆面」について,請求項1の記載は,「第2の前記金属被覆面は前記DMSトラックと前記リアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されているか,または金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている」と,択一的記載となっている。
そして,上記「2.対比・判断」に記載したとおり,引用発明における「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」は,「接続する電極」を介して「リード電極」に接続されているから,「DMSトラックとリアクタンス素子との間で信号を伝える接続回線のうちの1つと接続されている」金属被覆面という点で,本願発明の「第2の金属被覆面」との間に差異はない。

さらに,念のため,本願発明の「第2の金属被覆面」が,「金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている」場合についても,以下に検討する。
本願の請求項1には,「前記キャパシタンス素子は前記基板の上に相並んで配置された2つの金属被覆面によって構成されており、第1の前記金属被覆面は前記フィルタ構造のアース接続経路によって形成されており、第2の前記金属被覆面は・・・または金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている」と記載されているが,該「拡張」がどのような形状によってなされるのかや,「拡張」される前の「接続回線」と「第1の金属被覆面」の位置関係等については特定されていない。
したがって,本願の請求項1の上記記載からは,本願発明が,「拡張」されていない「接続回線」とアース接続経路とによってキャパシタンス素子が構成されるものであるかどうかは不明であるから,上記出願人の主張は,本願の請求項1の記載に基づくものではないと言わざるをえない。
次に,引用発明についてみると,引用発明における「リード電極」,「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」及び両者を接続する「接続する電極」は,電極パターンとして構成されるものである。
そして,上記「2.対比・判断」に記載したとおり,引用発明は,インピーダンス整合を図るために,新たに「コンデンサ用IDT電極4」を設けたものであり(上記「1.引用発明」の摘記(ア)における段落【0008】?【0009】,【0012】等参照),引用発明は,該「コンデンサ用IDT電極4」を構成すべく,従来の複合SAWフィルタの「リード電極」を構成する電極パターンを,「リード電極」,「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」及び両者を接続する「接続する電極」を構成する電極パターンに拡張したものということができる。
したがって,引用発明における「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」は,当該「圧電基板1中央寄りのくし形電極」をなすように拡張された「リード電極」をなしており,引用発明における「コンデンサ用IDT電極4」の「圧電基板1中央寄りのくし形電極」は,キャパシタンス素子を構成する「金属被覆面をなすように拡張された接続回線をなしている」という点で,本願発明における「第2の金属被覆面」との間に差異を見いだすことはできない。

以上のとおりであるから,上記請求人の主張(ア)を採用することはできない。

[請求人の主張(イ)についての検討]
上記「請求人の主張(ア)についての検討」に記載したとおり,本願の請求項1には,「接続回線」の「拡張」がどのような形状によってなされるのかや,「拡張」される前の「接続回線」と「第1の金属被覆面」の位置関係等については特定されておらず,本願の請求項1の記載からは,本願発明は,「拡張」されていない「接続回線」とアース接続経路とによってキャパシタンス素子が構成されていると解することはできない。
したがって,本願発明が,「拡張」されていない「接続回線」とアース接続経路によってキャパシタンス素子が構成されることを前提とした上記請求人の主張(イ)についても,採用することはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用例に記載されている発明である。

第5 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号の規定により,特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-14 
結審通知日 2014-08-19 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2009-539600(P2009-539600)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H03H)
P 1 8・ 537- Z (H03H)
P 1 8・ 575- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 江口 能弘
寺谷 大亮
発明の名称 整合が改善されたDMSフィルタ  
代理人 仲村 義平  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 堀井 豊  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 佐々木 眞人  

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