• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1296870
審判番号 不服2013-12845  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-05 
確定日 2015-02-17 
事件の表示 特願2008-242708「命令制御回路、命令制御方法、および情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 2日出願公開、特開2010- 73124、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成20年9月22日の出願であって,平成22年9月10日付けで審査請求がなされ,平成24年8月14日付けで拒絶理由通知(同年8月21日発送)がなされ,同年10月18日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたが,平成25年4月1日付けで拒絶査定(同年4月9日謄本送達
)がなされたものである。
これに対して,「原査定を取り消す。この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として,平成25年7月5日付けで本件審判請求がなされた。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし14に係る発明は,上記平成24年10月18日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであると認められるところ,本願の請求項1に係る発明(
以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりである。

「それぞれ複数のエントリを有する複数の命令バッファと、
該複数の命令バッファのそれぞれに対し、当該命令バッファの全ての前記エントリが使用状態であるbuf-full時間を計時する時間計時部と、
前記命令バッファのそれぞれの前記buf-full時間の比率と前記buf-full時間を計時した際の前記エントリの使用数を示す第1の削減後エントリ数とに基づいて新たな削減後エントリ数である第2の削減後エントリ数を算出する時間解析部と、
前記第2の削減後エントリ数に基づいて前記複数のエントリのそれぞれの電力消費の停止あるいは低減を制御する制御部と、
を有することを特徴とする命令制御回路。」


第3 原査定の理由の概要

1 平成24年8月14日付け拒絶理由通知

平成24年8月14日付けで拒絶理由が通知されたが,その概要は下記のとおりである。

「[理由2](第29条第2項)

[請求項]1-14
[引用文献]1
[備考]
引用文献1には、複数のエントリからなり、命令発行部からの命令を一時的に記憶する記憶部20を備え、該記憶部の使用率に応じて、動作させるべきエントリ数を算出し、動作対象外のエントリの動作を停止することによって消費電力を削減する発明が記載されている(段落9?35、図1?6)。
また、前記記憶部について、エントリに登録する命令種(メモリアクセス系命令、整数演算系命令、浮動小数点演算系命令)に応じて、複数の記憶部20が設け、複数の記憶部20それぞれの動作エントリ数を個別に計算する構成が示唆されている(段落39)。
また、引用文献1に記載の発明は、運転者の意図により消費電力削減を特に重視する場合は、算出した動作エントリ数の端数を切り下げる等の調整(増減)を行うことを示唆している(段落35)。
そして、引用文献1に記載の発明は、動作を停止したエントリへの命令発行を禁止するものであるから(段落37の「制御部30は、・・・禁止するように制御する。」という記載を参照)、命令取得速度が低下する(命令取得が延期される)ことは明らかである。
本願発明は、エントリ数算出をbuf-full時間に基づいて行うのに対して、引用文献1に記載の発明は、バッファの使用率に基づいて行う点で相違するが、両者に効果上のさしたる差は認められないから、上記相違点は当業者が適宜に選択し得る設計上の相違というべきである。
また、運転者の意図により測定の時間間隔を変更することは、引用文献を挙げるまでも無くごく一般的である。
よって、請求項1-14に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

[引用文献一覧]
1.特開2007-200213号公報」

2 平成25年4月1日付け拒絶査定

平成25年4月1日付けで拒絶査定がなされたが,その内容は下記のとおりである。

「この出願については、平成24年8月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由2(第29条2項)によって拒絶すべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

出願人は、平成24年10月18日付の意見書において、補正後の請求項に係る発明は、命令バッファ毎の、buf-full時間の比率とそのbuf-full時間を計時した際のエントリの使用数を示す削減後エントリ数とに基づいて新たな削減後エントリ数を算出するものであることを述べている。
この特徴について、出願人は、引用文献1に記載の発明との相違点を明確には主張していないが、以下の2つの点で相違すると認められる。
(1)本願発明は、エントリ数算出をbuf-full時間に基づいて行うのに対して、引用文献1に記載の発明は、バッファの使用率に基づいて行う点で相違する。
(2)本願発明は、現状の使用数にも基づいて新たな削減後エントリ数を算出するのに対して、引用文献1に記載の発明は、現状の使用数に依らないで、使用率に基づいて新たに使用数を設定する点で相違する。

上記相違点について検討する。
(1)平成24年8月14日付け拒絶理由通知書で指摘したように、バッファの混み具合をbuf-full時間に基づいて認識するか、バッファの使用率に基づいて認識するかは、両者に効果上のさしたる差は認められないから、上記相違点は当業者が適宜に選択し得る設計上の相違というべきである。
(2)バッファが不足する場合にバッファ量を増やし、空きが多い場合にバッファ量を減らす手法はあらゆる構成において使用されており、その場合にバッファの現状の使用数から一定量を増減させていく調整方法は、周知文献A(段落87?91、図8)、周知文献B(段落11、図1)、周知文献C(段落24?29)に記載のようにごく周知の手法であり、該周知技術を引用文献1に記載の発明に適用することは、当業者であれば容易に推考し得る

よって、補正後の請求項1-14に係る発明は、依然として、引用文献1に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

なお、出願人は、平成24年10月18日付の意見書において、
『引用文献1のように、複数の記憶部の相互の関連を考慮することなく、動作エントリ数を個別に計算する構成では、命令種のいずれかが何らかの事情(例えば、メモリアクセス系命令におけるキャッシュヒット率の変動)により、想定していた性能が変動した場合でも動作エントリ数の算出には反映できません。』と述べており、これは、本願発明は複数の記憶部の相互の関連を考慮するものであるのに対して、引用文献1に記載の発明はそのような構成がない旨を主張しているとも解されるが、本願の請求項記載から『複数の記憶部の相互の関連を考慮する』という構成を読み取ることはできず、上記出願人の主張は、請求項記載に基づかない主張であって、採用することができない。
したがって、本願の補正後の請求項1に係る発明は、依然として、引用文献1に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
また、請求項2-14の他の技術的特徴も格別のものではなく、請求項2-14に係る発明も、依然として、引用文献1に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

[引用文献一覧]
1.特開2007-200213号公報

[周知文献一覧]
A.特開2001-228985号公報
B.特開平11-10985号公報
C.特開平7-93198号公報」


第4 当審の判断

1 刊行物の記載事項

(1)引用文献

ア 本願の出願前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能とされ,原審の拒絶査定の理由である上記平成24年8月14日付けの拒絶理由通知において引用された文献である,特開2007-200213号公報(平成19年8月9日出願公開。以下,「引用文献」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【請求項1】
個別に動作停止が可能な複数のエントリを有する記憶部と、
前記エントリの動作を停止させるエントリ制御部とを有することを特徴とする情報処理装置。
・・・(中略)・・・
【請求項3】
前記エントリ制御部は、
前記記憶部の使用状況に関する情報を採取する使用状況監視部と、
前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報に基づいて動作エントリ数を計算し、前記記憶部が有するエントリ数と当該動作エントリ数の差に相当する数のエントリについて、動作停止を示すように前記情報を設定するエントリ数計算部とを有することを特徴とする請求項2記載の情報処理装置。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
前記エントリ制御部は、
前記記憶部のエントリに対するクロック供給を停止し、エントリの動作を停止させるクロック制御部を有することを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の情報処理装置。」

B 「【0034】
使用状況監視部41は、記憶部20の使用状況を監視する。具体的には、予め設定された期間毎(例えば、100クロックサイクル毎等)の記憶部20への命令登録数又は記憶部20からの命令発行数を監視し、記憶部20の使用状況として記憶部20の使用率を算出する。なお、使用状況監視部41は、設定された期間毎に記憶部20の使用状況を監視するが、当該期間は設定変更が可能なように構成することもできる。」

C 「【0039】
なお、上記の説明において、記憶部20が一つである場合を例として説明したが、記憶部20が複数存在する構成であってもよい。エントリに登録する命令種(メモリアクセス系命令、整数演算系命令、浮動小数点演算系命令)に応じて、複数の記憶部20が設けられることがある。この場合、制御部30及びエントリ制御部40を、複数の記憶部20のそれぞれと接続するように構成される。エントリ制御部40のエントリ数計算部43は、複数の記憶部20それぞれの動作エントリ数を個別に計算する。
【0040】
このように構成することにより、エントリに登録される命令種に偏りがある場合でも、命令種毎の記憶部20それぞれのエントリについて、個別に動作制御することが可能となり、効率的に消費電力を低減することが可能となる。」

イ ここで,上記引用文献に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Aの記載からすると,引用文献には,
“複数のエントリを有する記憶部と,
前記記憶部の使用状況に関する情報を採取する使用状況監視部と,
前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報に基づいて動作エントリ数を計算するエントリ数計算部と,
前記記憶部のエントリに対するクロック供給を停止し,エントリの動作を停止させるクロック制御部と,
を有することを特徴とする情報処理装置。”
が記載されていると解される。

(イ)上記Cの「記憶部20が複数存在する構成であってもよい・・・この場合、制御部30及びエントリ制御部40を、複数の記憶部20のそれぞれと接続するように構成される。エントリ制御部40のエントリ数計算部43は、複数の記憶部20それぞれの動作エントリ数を個別に計算する。・・・このように構成することにより・・・命令種毎の記憶部20それぞれのエントリについて、個別に動作制御することが可能となり、効率的に消費電力を低減することが可能となる」との記載からすると,引用文献に記載されている「情報処理装置」が複数の記憶部から構成される場合には,該複数の記憶部のそれぞれに対して,使用状況を監視し,動作エントリ数を個別に計算し,個別に動作制御することで,該複数の記憶部のそれぞれの消費電力の低減を可能とすることが読み取れる。

(ウ)上記Bに「使用状況監視部41は、記憶部20の使用状況を監視する。具体的には、予め設定された期間毎・・・の記憶部20への命令登録数又は記憶部20からの命令発行数を監視し、記憶部20の使用状況として記憶部20の使用率を算出する」と記載されるように,記憶部の使用状況の具体例として,“記憶部の使用率”を用いる技術が記載されている。

(エ)以上,(ア)ないし(ウ)で指摘した事項を踏まえると,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「それぞれ複数のエントリを有する複数の記憶部と,
前記複数の記憶部のそれぞれに対し,当該記憶部の使用状況に関する情報(例えば,記憶部の使用率)を採取する使用状況監視部と,
前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報(例えば,記憶部の使用率)に基づいて,前記複数の記憶部のそれぞれの動作エントリ数を計算するエントリ数計算部と,
前記複数の記憶部のそれぞれに対して,エントリに対するクロック供給を停止し,エントリの動作を停止させることで,消費電力の低減を可能とするクロック制御部と,
を有することを特徴とする情報処理装置。」

(2)参考文献

本願の出願前に頒布され,原審の拒絶査定において引用された文献である,特開平11-10985号公報(平成11年1月19日出願公開。以下,「参考文献」という。)には,図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

D 「【0011】図1において、プリンタ装置2は、ホストコンピュータ1との間で情報の授受を行う通信部11と、通信部11で受信したデータを解析するデータ解析部15と、データ解析部15で解析したデータのうちの印刷データを出力印刷する印刷部16と、プリンタ装置2が内蔵しているメモリを管理するメモリ管理部14と、ホストコンピュータ1から受信したデータを一時的に格納しておくために複数のブロックで構成されている受信バッファ21と、プリンタ装置2についてあらかじめ指定されている一定時間をカウントするタイマ13と、受信バッファ21のバッファフルの発生回数を計数して記憶するバッファフルカウンタ22と、受信バッファ21の受信バッファサイズの決定するために必要な情報を保持している受信バッファブロック情報部23と、受信バッファ21の受信バッファサイズの決定するためにブロック数を算出するときに参照するテーブルを格納しているブロック数算出テーブル24と、受信バッファ21の状態を監視して受信バッファ21が満杯(バッファフル)になったときそれを検出し、また受信バッファ21の大きさ(受信バッファサイズ)の決定および変更を行うためタイマ13がカウントした一定時間毎にバッファフルカウンタ22の値をチェックし、ブロック数算出テーブル24を参照して受信バッファ21のブロック数の増減数を求め、受信バッファブロック情報部23を参照して受信バッファ21のブロック数の増減数を決定する受信バッファ管理部12とを備えている。」

2 対比

本願発明と引用発明とを対比する。


(ア)引用発明の「記憶部」は,本願発明の「命令バッファ」に相当する。
(イ)したがって,引用発明の「それぞれ複数のエントリを有する複数の記憶部」は,本願発明の「それぞれ複数のエントリを有する複数の命令バッファ」に相当する。


(ア)本願発明の「命令バッファの全ての前記エントリが使用状態であるbuf-full時間を計時する」ことは,命令バッファの使用状況に関する情報を採取することに他ならない。
(イ)してみると,引用発明と本願発明とは,“該複数の命令バッファのそれぞれに対し,当該命令バッファの使用状況に関する情報を採取する使用状況監視部”を有する点で共通するといえる。


(ア)引用発明の「前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報(例えば,記憶部の使用率)に基づいて,前記複数の記憶部のそれぞれの動作エントリ数を計算する」ことは,使用状況監視部が採取した使用状況に関する情報に基づいて,新たなエントリ数を算出することに他ならない。
(イ)そして,本願発明の「前記命令バッファのそれぞれの前記buf-full時間の比率と前記buf-full時間を計時した際の前記エントリの使用数を示す第1の削減後エントリ数とに基づいて新たな削減後エントリ数である第2の削減後エントリ数を算出する」ことも,時間計時部が計時したbuf-full時間に基づいて,新たなエントリ数(第2の削減後エントリ数)を算出することに他ならない。
(ウ)してみると,引用発明と本願発明とは,“使用状況監視部が採取した使用状況に関する情報に基づいて,新たなエントリ数を算出するエントリ数算出部”を有する点で共通するといえる。


(ア)引用発明の「前記複数の記憶部のそれぞれに対して,エントリに対するクロック供給を停止し,エントリの動作を停止させる」ことは,エントリ算出部が算出した新たなエントリ数に基づいて,複数のエントリのそれぞれの動作を停止させることで電力消費を制御することに他ならない。
(イ)してみると,引用発明の「前記複数の記憶部のそれぞれに対して,エントリに対するクロック供給を停止し,エントリの動作を停止させることで,消費電力の低減を可能とするクロック制御部」は,本願発明の「前記第2の削減後エントリ数に基づいて前記複数のエントリのそれぞれの電力消費の停止あるいは低減を制御する制御部」に相当するといえる。

オ 引用発明の「情報処理装置」は,記憶部の使用状況を監視することで,記憶部にエントリされる命令を制御する回路であるといえることから,本願発明の「命令制御回路」に相当する。

以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

(一致点)

「それぞれ複数のエントリを有する複数の命令バッファと,
該複数の命令バッファのそれぞれに対し,当該命令バッファの使用状況に関する情報を採取する使用状況監視部と,
前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報に基づいて,新たなエントリ数を算出するエントリ数算出部と,
新たなエントリ数に基づいて,複数のエントリのそれぞれの電力消費を制御する制御部と,
を有することを特徴とする命令制御回路。」

(相違点1)

使用状況監視部に関して,本願発明が,「命令バッファの全ての前記エントリが使用状態であるbuf-full時間を計時する」ものであるのに対して,引用発明は,記憶部の全てのエントリが使用状態であるbuf-full時間を計時するものであることまでは言及されていない点。

(相違点2)

エントリ数算出部に関して,本願発明が,「前記命令バッファのそれぞれの前記buf-full時間の比率と前記buf-full時間を計時した際の前記エントリの使用数を示す第1の削減後エントリ数とに基づいて新たな削減後エントリ数である第2の削減後エントリ数を算出する」ものであるのに対して,引用発明は,「前記使用状況監視部が採取した前記使用状況に関する情報(例えば,記憶部の使用率)に基づいて,前記複数の記憶部のそれぞれの動作エントリ数を計算する」ものである点。

3 判断

上記相違点1及び相違点2について検討する。

ア 引用発明の「記憶部の使用状況に関する情報」の具体的な例として,引用文献の発明の詳細な説明(上記B等参照)には,“記憶部の使用率”を用いる技術が開示されている。

イ そして,原審の拒絶査定において引用された,上記参考文献(上記D参照)に記載されるように,「記憶部の使用状況に関する情報」として,“受信バッファフルの発生回数”を用いる技術は、本願出願時における周知技術であった。

ウ ここで,引用発明の「情報処理装置」は,複数の記憶部を有する構成であるが,上記Cに「エントリに登録する命令種(メモリアクセス系命令、整数演算系命令、浮動小数点演算系命令)に応じて、複数の記憶部20が設けられることがある・・・エントリ制御部40のエントリ数計算部43は、複数の記憶部20それぞれの動作エントリ数を個別に計算する」と記載されるように,当該複数の記憶部は,それぞれ個別に管理され,そして,新たなエントリ数の計算についても,複数の記憶部それぞれ個別に計算されるものと解される。

エ これに対して,本願発明は,「命令バッファのそれぞれの前記buf-full時間の比率と前記buf-full時間を計時した際の前記エントリの使用数を示す第1の削減後エントリ数とに基づいて新たな削減後エントリ数である第2の削減後エントリ数を算出する」と記載されるように,複数の命令バッファそれぞれのバッファフル比率を用いて新たなエントリ数を算出するものであり,個別の命令バッファのバッファフル時間から新たなエントリ数を算出するものではない。

オ してみると,引用発明において,上記参考文献に記載されている技術を採用し,「記憶部の使用状況に関する情報」に関して,「記憶部の使用率」に替えて,「記憶部のバッファフルの発生回数」とすることまでは,当業者が容易に想到し得たものといえるが,“複数の記憶部それぞれのバッファフル比率”及び“現在の記憶部それぞれのエントリ数”を用いて,新たなエントリ数を算出するとした本願発明の構成までは、当業者の通常の創作能力によってなし得たものとはいえない。

カ したがって,本願発明が,当業者が引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたとはいえない。

4 他の請求項について

本願の請求項2ないし7に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであり,また,本願の請求項8ないし14に係る発明は,本願の請求項1ないし7に係る発明のカテゴリーを替えた発明であると認められる。
したがって,本願の請求項2ないし14に係る発明についても,本願発明と同様に,当業者が引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたとはいえない。


第5 むすび

以上のとおり,本願の請求項1ないし14に係る発明は,いずれも,当業者が引用発明に基づいて,容易に発明をすることができたものではないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-02-04 
出願番号 特願2008-242708(P2008-242708)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三坂 敏夫  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 木村 貴俊
田中 秀人
発明の名称 命令制御回路、命令制御方法、および情報処理装置  
代理人 下坂 直樹  
代理人 机 昌彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ