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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1296886
審判番号 不服2012-3334  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-21 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2007-549848「グリッド環境にサブミットされたグリッド・ジョブによる使用の前のリソース機能の検査」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日国際公開,WO2006/072546、平成20年 7月24日国内公表,特表2008-527513〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,2005年12月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年1月6日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,
平成19年6月29日付けで特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲,及び,図面(図面の中の説明に限る)の日本語による翻訳文が提出され,平成20年9月8日付けで審査請求がなされると共に手続補正がなされ,平成23年6月17日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成23年9月27日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成23年10月17日付けで審査官により拒絶査定がなされ(発送;平成23年10月25日),これに対して平成24年2月21日付けで審判請求がなされ,平成26年2月13日付けで当審により拒絶理由が通知され,これに対して平成26年6月17日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたものである。

第2.当審拒絶理由
当審による平成26年2月13日付けの拒絶理由(以下,これを「当審拒絶理由」という)は,概略,次のとおりである。

「第2.拒絶理由
1)本件出願は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.36条6項2号について
(1)本願の請求項1に,
「実行環境内のリソースの割り当てを制御するグリッド割り当てサービス及びリソースの機能を検査するグリッド検査サービスを提供するグリッド管理システム」,
「グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースを割り当てるステップ」,
「グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを判断するステップ」,
「グリッド検査サービスが,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップ」,
「グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に前記機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査するステップ」,
と記載されているが,上記引用記載中の,「グリッド管理システム」,「グリッド検査サービス」,及び,「グリッド割り当てサービス」とは,どのようなもの(ソフトウェアか,或いは,ハードウェアか)で,仮に,ハードウェアである場合,どのような装置構成のものであるか,本願の請求項1に記載の内容からは不明であり,
「グリッド割り当てサービス」が,どのようにして,「グリッド・ジョブに必要なリソース」を割り当てているのか,
「グリッド検査サービス」が,どのようにして,“リソースに関して,実行されるべき,機能テスト”を「判断」し,該「機能テスト」を実行し,「結果を満たすかどうかを検査」しているのか不明である。

(2)<省略>
(3)本願の請求項3は,本願の請求項1を引用するものであるから,上記1.において指摘した,本願の請求項1に係る発明における明確でない構成を内包し,かつ,本願の請求項3に記載された内容を加味しても,上記1.において指摘した明確でない構成が,明確になるものではない。

以上(1)?(3)に検討したとおりであるから,本願の請求項1?請求項3に係る発明は,明確ではない。

2.29条2項について
本願の請求項各項に係る発明は,上記1.において検討したように明確ではないが,一応,各請求項に記載されたとおりのものとして,以下の検討を行う。

(1)本願発明について
本願の請求項1に係る発明は,上記平成23年9月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。
<以下,省略>」

第3.当審拒絶理由に対する当審の判断
1.36条6項2号について
平成26年6月17日付けの手続補正(以下,これを「本件手続補正」という)によって,平成23年9月27日付けの手続補正により補正された,
「【請求項1】
グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのための特定の実行環境内のリソースを検査する方法であって,
実行環境内のリソースの割り当てを制御するグリッド割り当てサービス及びリソースの機能を検査するグリッド検査サービスを提供するグリッド管理システムによって管理されるグリッド環境内の特定の実行環境において,前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースを割り当てるステップであって,前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを判断するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に前記機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査するステップと,
を含む方法。」(以下,これを「補正前の請求項1」という)は,
「【請求項1】
グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのための特定の実行環境内のリソースを検査する方法であって,
オープン・グリッド・サービス・アーキテクチャにおけるリソース層とアプリケーション層の間に配置されたグリッド・サービスに含まれるグリッド割り当てサービス及びグリッド検査サービスであって,実行環境内のリソースの割り当てを制御するグリッド割り当てサービス及びリソースの機能を検査するグリッド検査サービスを提供するグリッド管理システムによって管理されるグリッド環境内の特定の実行環境において,前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースとして,前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォームを割り当てるステップであって,前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを,リソースのタイプ及びクラスに応じて指定される複数の機能テストを含む利用可能テスト・テーブルから判断するステップと, 前記グリッド検査サービスが,前記特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に,前記機能テストの結果を予測された結果と比較することによって,前記機能テストの結果が前記予測された結果を満たすかどうかを検査するステップと,
を含む方法。」(以下,これを「補正後の請求項1」という。なお,補正後の請求項1に附加された下線は,本件手続補正において,審判請求人が附したものである。)
と補正された。
そこで,本件手続補正によって,当審拒絶理由における理由1(36条6項2号関連)が,解消したかについて,以下に検討する。

補正前の請求項1に,
「グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのための特定の実行環境内のリソースを検査する方法であって」(以下,これを「引用記載1」という),
「前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースを割り当てるステップであって,前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップ」(以下,これを「引用記載2」という),
という記載が存在し,引用記載1,及び,引用記載2の内容から,補正前の請求項1に係る発明においては,
“特定の実行環境内に含まれる,グリッド・ジョブ処理のためのグループされる複数のグリッド・リソースの何れかを,グリッド割り当てサービスが,グリッド・ジョブに割り当てる”ものであると解される。
しかしながら,当審拒絶理由において指摘したとおり,
“どのようにして,特定の実行環境内に含まれるグリッド・リソースを,グリッドジョブに割り当てる”のかは,補正前の請求項1に記載された内容からは不明であった。

これに対して,補正後の請求項1においても,補正前の請求項1と同じく,引用記載1が存在しているので,補正後の請求項1に係る発明も,
“特定の実行環境内のリソースを検査する方法”に関するものであると解される(なお,下線は,当審が説明の都合上附加したものである。以下,同じ。)。
しかしながら,補正後の請求項1には,
「グリッド環境内の特定の実行環境において,前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースとして,前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォームを割り当てるステップであって,前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップ」(以下,これを「引用記載3」という),
と記載されていて,補正前の請求項1においては,引用記載1,及び,引用記載3の内容から,上記指摘のとおり,
“特定の実行環境内のリソースにジョブを割り当てる”ものであったのが,
“特定の実行環境内のリソースではない,別の実行環境内におけるリソースである,ハードウェア・プラットフォームを割り当てる”という構成へと補正されていて,
この補正内容では,「グリッド割り当てサービス」が,割り当てる対象が替わっただけで,該「グリッド割り当てサービス」が,“どのようにしてジョブを,リソースに割り当るか”は依然として不明のままである。
さらに,当審拒絶理由において,
「「グリッド検査サービス」が,どのようにして,“リソースに関して,実行されるべき,機能テスト”を「判断」し,該「機能テスト」を実行し,「結果を満たすかどうかを検査」しているのか」,
という点については,補正前の請求項1に係る発明においては,引用記載1,及び,引用記載2,並びに,
「前記グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを判断するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に前記機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査するステップ」(以下,これを「引用記載4」とういう),
という記載から,「グリッド検査サービス」によって,検査される「リソース」は,
“特定の実行環境内に含まれる,グリッド・ジョブ処理のためのグループされる複数のグリッド・リソースを検査する”ものであると解されるところ,
補正後の請求項1に係る発明においては,引用記載1において,
「特定の実行環境内のリソースを検査する方法」であると言っておきながら,引用記載3,及び,
「グリッド検査サービスが,前記特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップ」(以下,これを「引用記載5」という),
という記載から,検査される対象が,「特定の実行環境内のリソース」ではなく,「前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォーム」であると読め,補正前の請求項1に係る発明と,補正後の請求項1に係る発明とは,その構成が著しく異なっており,補正後の請求項1に係る発明においては,依然として,「グリッド検査サービス」が,「特定の実行環境内のリソース」に対して,
“どのようにして「グリッド検査サービス」が,“リソースに関して,実行されるべき,機能テスト”を「判断」し,該「機能テスト」を実行し,「結果を満たすかどうかを検査」しているのか”は,不明のままである。
この点について,審判請求人は,本件手続補正と同日に提出の意見書において,補正の根拠として,
「次に,リソースの割り当てに関しては,本願明細書の段落0060-0066及び図4の記載に従って,特定の実行環境(図4では410)とは別の実行環境(図4では402)におけるハードウェア・プラットフォーム(404)をリソースとして割り当てることを明記し,機能テストの判断に関しては,本願明細書の段落0076,0081-0088及び図7の記載に従って,リソースのタイプ及びクラスに応じて指定される複数の機能テストを含む利用可能テスト・テーブルから判断されることを明記し,機能テストの実行に関しては,本願明細書の段落0065の記載に従って,特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって実行されることを明記し,そして,機能テストの結果の検査に関しては,本願明細書の段落0065,0078の記載に従って,機能テストの結果を予測された結果と比較することによって,機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査することを明記したので,ご指摘の不備は解消されたものと思料する。」
と主張しているが,本願の【図4】に関連して,本願明細書の段落【0064】?段落【0066】に記載されている事項は,
“異なる実行環境間で,リソースの割り当てを行う”事例であって,「検査」の対象となる「リソース」は,「特定の実行環境」に含まれる「リソース」ではなく,他の「実行環境」に含まれる「リソース」であって,補正後の請求項1に係る発明における「特定の実行環境内のリソースを検査する方法」に該当しない。
よって,意見書における審判請求人の主張は採用できない。
以上に検討したとおりであるから,当審拒絶理由において,補正前の請求項1について指摘した不明点,及び,平成23年9月27日付けの手続補正により補正された請求項3について指摘した不明点は依然として解消していない。
(なお,本願明細書には,特定の実行環境内のリソースを検査する方法,及び,複数の実行環境相互で,リソースの割り当てを行う場合に,割り当ての依頼を行う側が,依頼先のリソースを検査する方法,といった複数の実施例が提示されていることは認めるが,前記2つの方法を組み合わせた構成が開示されているとは認められず,補正後の請求項1に係る発明は,そもそも,平成19年6月29日付けの特許法第184条の4第1項の規定による明細書,請求の範囲の日本語による翻訳文,及び,国際出願の願書に添付された図面に記載されたものであるか,疑義があるが,その点を考慮しても,当審拒絶理由で指摘した点は解消していない。)

2.29条2項について
(1)本願発明について
上記「2.36条6項2号について」において,補正後の請求項1として検討した,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,上記「2.36条6項2号について」において検討したように依然として明確ではないが,一応,上記「2.36条6項2号について」において,補正後の請求項1として引用した,次のとおりのものであるとして,以下の検討を行う。

「【請求項1】
グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのための特定の実行環境内のリソースを検査する方法であって,
オープン・グリッド・サービス・アーキテクチャにおけるリソース層とアプリケーション層の間に配置されたグリッド・サービスに含まれるグリッド割り当てサービス及びグリッド検査サービスであって,実行環境内のリソースの割り当てを制御するグリッド割り当てサービス及びリソースの機能を検査するグリッド検査サービスを提供するグリッド管理システムによって管理されるグリッド環境内の特定の実行環境において,前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースとして,前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォームを割り当てるステップであって,前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを,リソースのタイプ及びクラスに応じて指定される複数の機能テストを含む利用可能テスト・テーブルから判断するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップと,
前記グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に,前記機能テストの結果を予測された結果と比較することによって,前記機能テストの結果が前記予測された結果を満たすかどうかを検査するステップと,
を含む方法。」

(2)引用刊行物に記載の発明
一方,原審が平成23年6月17日付けの拒絶理由(以下,これを「原審拒絶理由」という)において引用した,本願の第1国出願前に既に公知である,「Xu,F.,Eres,M.H.,Baker,D.J., and Cox,S.J.,Tools and Support for Deploying Application on the Grid,Proc.of IEEE Int. Conf. on Services Computing,米国,IEEE,2004年 9月15日,P.281-287」(以下,これを「引用刊行物1」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「The Grid Engineering Task Force (GETF) [7], with members from each regional e-Science Centre (See Figure 1), guides the construction and testing of the production-quality e-Science Grid in the UK [8]. To address the integration issues of the infrastructure, the Grid Integration Working Group (GIWG) [9] was setup with the following objectives:
-successful deployment of Globus servers at regional e-Science Centres,
-contribution of Grid-enabled resources of regional e-Science centres to the UK wide Grid infrastructure,
-quality assurance of resources.
These objectives enable e-Science project members to access hardware and software resources easily and reliably, and allow them to carry out their research successfully.
The Grid Integration Test Script (GITS) [10] is used during various phases of the UK e-Science Grid to test Grid services between servers. The GITS enables integration tests to be performed between nodes on the Grid and allows monitoring of active members of the UK e-Science Grid.
Even though the GITS scripts are very useful for Grid node administrators, they do not provide real-time information about the status of the Grid for the end user, who wishes to use existing Grid resources for a particular application. The Grid tool allows a client to test all of the basic functionality of the Globus toolkit on the Grid resources, which will be used for their application. This tool enables a more detailed test of resources on the Grid immediately prior to launching their application and details such as the user’s configuration and security settings. In this paper we detail these two tools, illustrate their large scale usage on the heterogeneous UK e-Science Grid, and demonstrate their efficacy.」(281頁右欄4行?282頁左欄3行)
(グリッド・エンジニアリング・タスク・フォース(GETF)[7]は,それそれの地域のe-サイエンス・センタ(図1)参照と共に,英国において,生産品質 e-サイエンス・グリッドの構築と試験を指導している[8]。基盤の統合問題に対処するために,グリッド統合ワーキング・グループ(GIWG)[9]は,次の目標を定めた。
-地域のe-サイエンス・センタでグロバス・サービスの配備の成功。
-英国広域グリッド基盤のための,地域のe-サイエンス・センタのグリッド可能な資源の貢献。
-資源の品質保証。
これらの目的は,e-サイエンス・プロジェクト・メンバが,簡単に,かつ,確実に,ハードウェア,及び,ソフトウェア資源にアクセスすることを可能にし,彼らが,彼らの研究を,うまく実行することを許可する。
グリッド統合試験スクリプト(GITS)[10]は,サーバ間で,グリッド・サービスを試験するために,英国e-サイエンス・グリッドの様々な局面の中で用いられる。GITSは,統合試験が,グリッド上のノード間で実行されることを可能にし,英国e-サイエンス・グリッドの活動しているメンバの監視を許可する。
GITSスクリプトが,グリッド・ノード管理者にとって非常に有用であるとしても,それらは,特定のアプリケーションに対して,存在しているグリッド資源を使用することを望むエンド・ユーザのために,グリッドのステータスについての,リアルタイム情報を提供しない。グリッド・ツールは,それらのアプリケーションが使用されるであろうグリッド資源上のグロバス・ツールキットの基本的な機能の全てを試験することを,クライアントに許可する。このツールは,それらのアプリケーションと,ユーザの構成と,セキュリティの設定といった詳細を開始する前に,直ちに,グリッド上の資源の,より詳細な試験を可能にする。この論文では,これら2つのツールを詳説し,それらの,異機種環境である,英国e-サイエンス・グリッド上の,大規模使用について解説し,そして,それらの有効性を実証する。<当審にて訳出。以下,同じ。>)

B.「2. Grid Integration Test Script
As the number of Grid resources grows, performing quality assurance tests between every resource becomes more time consuming and burdensome, but increasingly important. The GITS aims to simplify these tasks and allow system administrators to report the status of the Grid easily and reliably. GITS is written in Perl [11] to achieve portability and usability. GITS has a number of integration and operation monitoring tests which are appropriate to the Grid services supported by the UK e-Science Grid. These tests include, for example, point-topoint tests to check authentication, job submission, and file transfer, and tests to check the status of the Monitoring and Discovery Service (MDS) [12][13] functionality of Grid nodes. Every test result can either be saved in HTML or XML format which provide excellent presentation and archive options for system administrators. An example of HTML results is given in Figure 2.
Monitoring and analysing the test results can be a difficult and time consuming process for the node administrators. The GITS Web Service [14] allows Grid node administrators to perform their tests, save the results in XML format, and archive their results to a central database. This centralised archive facility makes published results available to the whole UK e-Science community, and it proved to be very useful for administrators to maintain and monitor the whole test results. However, the end users are only interested in the connections from their organization to the nodes in the UK e-Science centre.」(282頁右欄1行?末行)
(2.グリッド統合テストスクリプト
グリッド資源の数が増加するにつれて,あらゆる資源の間で品質保証テストを実行することはより多くの時間を費やし,重荷となるが,ますます重要となる。GITSは,これらの仕事を単純化して,システム管理者が簡単に,及び,確実にグリッドの状態を報告するのを許すことを目標としている。GITSは,軽さと,使い易さを得るために,Perl[11]で記述されている。GITSは,英国e-サイエンス・グリッドによってサポートされる,グリッド・サービスに適する,多数の統合,及び,運用監視試験を有している。これらの試験は,例えば,認証の確認,ジョブ依頼,及び,ファイル転送のためのポイント・ツー・ポイント試験,グリッド・ノードの監視,及び,発見サービス機能(MDS)[12][13]の状態確認のための試験を含んでいる。全ての試験結果は,システム管理者のために,卓越した表示を提供し,そして,オプションを得る,HTML,あるいは,XMLフォーマットで,保存される。HTML結果の例が,図2において与えられる。
監視,及び,試験結果の分析は,ノード管理者にとって,困難で,時間を費やすプロセスとなる可能性がある。GITSウェブ・サービス[14]は,グリッド・ノード管理者が,試験を実行し,結果をXMLフォーマットで保存し,中央データベースに,それらの結果をアーカイブすることを許可する。この集中型アーカイブ設備は,英国e-サイエンス・コミュニティの全てにおいて,公表された結果が利用可能なようにし,それが,全ての試験結果を,維持,監視するために,管理者にとって,非常に有用であることを証明した。しかしながら,エンド・ユーザは,自らの組織から,英国e-サイエンス・センタ内のノードへの接続にのみ興味がある。)

C.「4.2. Grid Resource Verification
A Grid resource is specified by a host name, executable directory, and work directory. The resource checking process measures the time required for authenticating the user on the remote Grid resource, running a test job, and transferring a file to (or from) it. Additionally, it verifies that the executable and work directory exist on the Grid resource. The end user can verify all available Grid resources at once, or verify selected Grid resources in the tree table, or verify a single Grid resource (See Figure 4).
Figure 6 shows the measurement results of selected Grid resources. Details of each resource metric are as follows:
- Executable directory: Check if the executable code exists under the specified directory on the Grid resource.
- Work directory: Check if the work directory exists for storing output files on the Grid resource.
- Authentication: Time elapsed in milliseconds to authenticate the users Grid proxy to the Grid resource successfully.
- File transfer: Time elapsed in milliseconds to transfer a short test file from the client to the Grid resource successfully.
- Job submission: Time elapsed in milliseconds to run a job on the Grid resource successfully.
- Grid status: OK if the above verifications are successful, failed otherwise.」(282頁右欄1行?末行)
(4.2.グリッド資源検証
グリッド資源は,ホスト名と,実行可能ディレクトリと,ワーク・ディレクトリとによって規定される。資源検査プロセスは,遠隔グリッド資源上でユーザを認証することのため,テストジョブを走らせることのため,及び,それへ(或いは,それから)データを転送することのために要求された時間を測定する。加えて,それが,実行可能,及び,ワーク・ディレクトリが,グリッド資源上に存在することを検証する。エンド・ユーザは,全ての利用可能なグリッド資源を同時に検証すること,或いは,木テーブル内の選択されたグリッド資源を検証すること,或いは,一つのグリッド資源を検証することが可能である(図4参照)。
図6は,選択されたグリッド資源の測定結果を示している。それぞれの資源のメトリックの詳細は,次のとおりである。
- ワーク・ディレクトリ:グリッド資源上に出力ファイルを格納するためのワーク・ディレクトリが存在しているかの検査。
- 認証:首尾良く,ユーザ・グリッド・プロキシを,グリッド資源のために認証することのための,数ミリ秒における経過時間。
- ファイル転送:首尾良く,短い試験ファイルを,クライアントから,グリッド資源に転送するための,数ミリ秒における経過時間。
- ジョブ依頼:首尾良く,グリッド資源上で,ジョブを走らせるための,数ミリ秒における経過時間。
- グリッド・ステータス:上記の検証が成功ならば,OK,そうでなければ,失敗。)

D.引用刊行物1の284頁に掲載されているFigure4.に表示されている表には,「Tests」のプロダウンメニューの中に,「Check Resources」が存在し,更に表中で選択されている「Server12」のところにメニューが表示され,該メニュー中には,「Check Grid Resources」の項目が存在している。
そして,該表中の列項目には,測定項目である,「Authentication(ms)」,「Job Submission(ms)」,「GridFTP(ms)」,「Grid Status」の項目が存在している。

ア.上記Aの「The Grid Integration Test Script (GITS) [10] is used during various phases of the UK e-Science Grid to test Grid services between servers. The GITS enables integration tests to be performed between nodes on the Grid and allows monitoring of active members of the UK e-Science Grid.(グリッド統合試験スクリプト(GITS)[10]は,サーバ間で,グリッド・サービスを試験するために,英国e-サイエンス・グリッドの様々な局面の中で用いられる。GITSは,統合試験が,グリッド上のノード間で実行されることを可能にし,英国e-サイエンス・グリッドの活動しているメンバの監視を許可する。)」という記載から,
引用刊行物1には,
“グリッド上のノード間で,グリッド・サービスを試験するための方法”
が記載されていることは明らかである。

イ.上記Aの「-contribution of Grid-enabled resources of regional e-Science centres to the UK wide Grid infrastructure(-英国広域グリッド基盤のための,地域のe-サイエンス・センタのグリッド可能な資源の貢献)」という記載,及び,上記Bの「GITS has a number of integration and operation monitoring tests which are appropriate to the Grid services supported by the UK e-Science Grid. These tests include, for example, point-topoint tests to check authentication, job submission, and file transfer, and tests to check the status of the Monitoring and Discovery Service (MDS) [12][13] functionality of Grid nodes. (GITSは,英国e-サイエンス・グリッドによってサポートされる,グリッド・サービスに適する,多数の統合,及び,運用監視試験を有している。これらの試験は,例えば,認証の確認,ジョブ依頼,及び,ファイル転送のためのポイント・ツー・ポイント試験,グリッド・ノードの監視,及び,発見サービス機能(MDS)[12][13]の状態確認のための試験を含んでいる。)」という記載から,引用刊行物1には,
“統合される複数のグリッド資源”
が記載されていることは明らかである。
そして,上記において引用した上記Bの記載内容から引用刊行物1から,
“グリッド資源に対する,複数の異なる試験が存在する”
ことが読み取れる。

ウ.上記イ.で引用した上記Bに記載された内容,及び,上記Cの「The resource checking process measures the time required for authenticating the user on the remote Grid resource, running a test job, and transferring a file to (or from) it. Additionally, it verifies that the executable and work directory exist on the Grid resource. Additionally, it verifies that the executable and work directory exist on the Grid resource. (資源検査プロセスは,遠隔グリッド資源上でユーザを認証することのため,テストジョブを走らせることのため,及び,それへ(或いは,それから)データを転送することのために要求された時間を測定する。加えて,それが,実行可能,及び,ワーク・ディレクトリが,グリッド資源上に存在することを検証する。)」という記載から,引用刊行物1には,
“資源検査プロセスにおいて,グリッド資源に処理が割り当てられる前に,前記グリッド資源に対して試験が行われる”
ことが記載されていると読み取れる。

エ.上記Cの「The end user can verify all available Grid resources at once, or verify selected Grid resources in the tree table, or verify a single Grid resource (エンド・ユーザは,全ての利用可能なグリッド資源を同時に検証すること,或いは,木テーブル内の選択されたグリッド資源を検証すること,或いは,一つのグリッド資源を検証することが可能である)」という記載と,上記ウ.において検討した事項から,引用刊行物1には,
“資源検査プロセスにおいて,グリッド資源に処理が割り当てられる前に,当該グリッド資源毎に試験が行われる”
ことが記載されていると読み取れる。

オ.上記Cの,
「Figure 6 shows the measurement results of selected Grid resources. Details of each resource metric are as follows:
- Executable directory: Check if the executable code exists under the specified directory on the Grid resource.
- Work directory: Check if the work directory exists for storing output files on the Grid resource.
- Authentication: Time elapsed in milliseconds to authenticate the users Grid proxy to the Grid resource successfully.
- File transfer: Time elapsed in milliseconds to transfer a short test file from the client to the Grid resource successfully.
- Job submission: Time elapsed in milliseconds to run a job on the Grid resource successfully.
- Grid status: OK if the above verifications are successful, failed otherwise.(図6は,選択されたグリッド資源の測定結果を示している。それぞれの資源のメトリックの詳細は,次のとおりである。
- ワーク・ディレクトリ:グリッド資源上に出力ファイルを格納するためのワーク・ディレクトリが存在しているかの検査。
- 認証:首尾良く,ユーザ・グリッド・プロキシを,グリッド資源のために認証することのための,数ミリ秒における経過時間。
- ファイル転送:首尾良く,短い試験ファイルを,クライアントから,グリッド資源に転送するための,数ミリ秒における経過時間。
- ジョブ依頼:首尾良く,グリッド資源上で,ジョブを走らせるための,数ミリ秒における経過時間。
- グリッド・ステータス:上記の検証が成功ならば,OK,そうでなければ,失敗。)」という記載,及び,上記Dにおいて,指摘したFigure4.に記載された事項から,引用刊行物1には,
“選択されたグリッド資源毎に,所定の試験が実施され,該試験の結果が判定される”
ことが記載されていると読み取れる。

以上,上記ア.?オ.において検討した事項から,引用刊行物1には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されているものと認める。

グリッド上のノード間で,グリッド・サービスを試験するための方法であって,
前記方法は,グリッド資源に対する,複数の異なる試験を含み,
資源検査プロセスにおいて,グリッド資源に処理が割り当てられる前に,当該グリッド資源毎に試験が行われ,
選択された前記グリッド資源毎の試験は,前記グリッド資源毎に所定の試験が実施され,
前記試験の結果が判定される,方法。

(3)本願発明と引用発明との対比
ア.引用発明における「グリッド上のノード間で,グリッド・サービスを試験する」のは,グリッド資源に対してジョブが割り当てられる前であり,引用発明における「グリッド資源」も,本願発明における「特定の実行環境内のリソース」も,“グリッド処理に用いる資源”である点で共通し,引用発明における「グリッド・サービス」は,“グリッドの環境”において提供されるものであることは明らかであるから,
引用発明における「グリッド上のノード間で,グリッド・サービスを試験するための方法」と,
本願発明における「グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのための特定の実行環境内のリソースを検査する方法」とは,
“グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのためのグリッド処理に用いる資源を検査する方法”
である点で共通する。

イ.引用発明において,「試験」は,上記Bに引用した「The GITS Web Service [14] allows Grid node administrators to perform their tests, save the results in XML format, and archive their results to a central database. (GITSウェブ・サービス[14]は,グリッド・ノード管理者が,試験を実行し,結果をXMLフォーマットで保存し,中央データベースに,それらの結果をアーカイブすることを許可する。)」という記載内容から,「グリッド・ノード管理者」が管理する「ノード」に対して,即ち,“グリッド・システム”において行われることは明らかであり,上記A?Dにおいて引用した内容,並びに,上記「(2)引用刊行物に記載の発明」において検討した事項と併せると,前記「試験」は,前記「グリッド・ノード管理者」が,自らが管理する「ノード」,即ち,「グリッド資源」に,ジョブを割り当てる際に行うことも明らかであるから,引用発明における「グリッド・ノード管理者」の行う処理を実行する“グリッド・システム”と,本願発明における「グリッド管理システム」とは,
“グリッド処理に用いる資源の割り当てを制御し,前記資源の試験を行うグリッド・システム”である点で共通するので,上記で検討した一連の処理と,
本願発明における「オープン・グリッド・サービス・アーキテクチャにおけるリソース層とアプリケーション層の間に配置されたグリッド・サービスに含まれるグリッド割り当てサービス及びグリッド検査サービスであって,実行環境内のリソースの割り当てを制御するグリッド割り当てサービス及びリソースの機能を検査するグリッド検査サービスを提供するグリッド管理システムによって管理されるグリッド環境内の特定の実行環境において,前記グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースとして,前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォームを割り当てるステップ」とは,
“グリッド処理に用いる資源の割り当てを制御し,前記資源の試験を行うグリッド・システムによって管理される資源において,ジョブに必要なグリッド資源を割り当てるステップ”である点で共通する。

ウ.引用発明においても,「グリッド資源毎に試験が行われ」るのであるから,「グリッド資源」が複数存在していることは明らかである。この点に関して,上記Aで引用した「-contribution of Grid-enabled resources of regional e-Science centres to the UK wide Grid infrastructure(-英国広域グリッド基盤のための,地域のe-サイエンス・センタのグリッド可能な資源の貢献)」という記載から,引用発明においても,「広域グリッド基盤」を構成するための,「地域のe-サイエンス・センタ毎」に,「グリッド可能な資源」が,“グループ化”されていることは明らかであり,このことが,本願発明における,
「前記特定の実行環境は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド・リソースを含む,ステップ」と,
“グリッド処理に用いる資源は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド資源を含むステップ”である点で共通する。

エ.引用発明においては,「グリッド毎に所定の試験が実施され」るのであって,このとき,該「グリッド」は,“ジョブ”を割り当てられる「グリッド」であることは明らかであるから,引用発明における該「グリッド」が,本願発明における「新たなリソース」に相当し,
引用発明における「所定の試験」と,本願発明における「判断するステップで判断した機能テスト」とは,“グリッド処理に用いる資源に対して実施される試験”である点で共通するので,
引用発明における「グリッド毎に所定の試験が実施され」ることと,
本願発明における「グリッド検査サービスが,前記特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップ」とは,
“グリッド処理に用いられる資源に対する試験を実施するステップ”
である点で共通する。

オ.引用発明においても,「試験の結果が判定される」ものであり,前記「試験」が,「グリッド資源に処理が割り当てられる前」に行われるものであることから,前記「判定」も,「グリッド資源に処理が割り当てられる前」であることは明らかである。
そして,予め設定されている“基準”や,“状況”と比較して,“試験結果”を「判定」することは,当該技術分野においては周知の手法であるから,
引用発明における「試験の結果が判定される」ことと,
本願発明における「グリッド検査サービスが,前記新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に,前記機能テストの結果を予測された結果と比較することによって,前記機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査するステップ」とは,
“新たなグリッド処理に用いる資源へのグリッド・ジョブのルーティングを可能とする前に,予め設定されている状況と比較することによって,試験の結果が予想される結果を満たすかどうかを検査するステップ”である点で共通する。

以上,ア.?オ.において検討した事項から,本願発明と,引用発明との,一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
グリッド環境にサブミットされるグリッド・ジョブのためのグリッド処理に用いる資源を検査する方法であって,
グリッド処理に用いる資源の割り当てを制御し,前記資源の試験を行うグリッド・システムによって管理される資源において,ジョブに必要なグリッド資源を割り当てるステップであって,グリッド処理に用いる資源は,グリッド・ジョブを処理するためにグループ化される複数のグリッド資源を含むステップと,
グリッド処理に用いられる資源に対する試験を実施するステップと,
新たなグリッド処理に用いる資源へのグリッド・ジョブのルーティングを可能とする前に,予め設定されている状況と比較することによって,試験の結果が予想される結果を満たすかどうかを検査するステップと,
を含む方法。

[相違点1]
“グリッド処理に用いる資源”に関して,
本願発明においては,該「資源」が,「特定の実行環境内のリソース」であるのに対して,
引用発明における「グリッド資源」については,「特定の実行環境内」であることについて,特に言及されていない点。

[相違点2]
“グリッド処理に用いる資源の割り当てを制御し,前記資源の試験を行うグリッド・システム”に関して,
本願発明においては,「グリッド管理システム」が,「オープン・グリッド・サービス・アーキテクチャにおけるリソース層とアプリケーション層の間に配置されたグリッド・サービスに含まれるグリッド割り当てサービス及びグリッド検査サービス」であって,「割り当てを制御するグリッド割り当てサービス」,および,「リソースの機能を検査するグリッド検査サービス」を提供しているのに対して,
引用発明においては,そのような「サービス」を提供することに関して,特に言及されていない点。

[相違点3]
“ジョブに必要なグリッド資源を割り当てるステップ”に関して,
本願発明においては,「グリッド・ジョブに必要なリソースとして,前記特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォームを割り当てるステップ」を,「グリッド割り当てサービス」が行うのに対して,
引用発明においては,「グリッド資源に処理が割り当てる」ステップを,“誰”,或いは,“何”が,“どの資源への割当”を実行しているか,明確には示されていない点。

[相違点4]
本願発明においては,「グリッド検査サービスが,前記割り当てるステップで割り当てられた新たなリソースに関してどの機能テストが実行されるべきかを,リソースのタイプ及びクラスに応じて指定される複数の機能テストを含む利用可能テスト・テーブルから判断するステップ」が存在しているのに対して,
引用発明においては,「グリッド資源」に対して,どの「試験」を行うかを“判断”する構成については,特に言及されていない点。

[相違点5]
“グリッド処理に用いられる資源に対する試験を実施するステップ”,及び,“新たなグリッド処理に用いる資源へのグリッド・ジョブのルーティングを可能とする前に,予め設定されている状況と比較することによって,試験の結果が予想される結果を満たすかどうかを検査するステップ”に関して,
本願発明においては,「グリッド検査サービスが,前記特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって,前記新たなリソースに関して前記判断するステップで判断した機能テストを実行するステップ」,及び,「新たなリソースへの前記グリッド・ジョブのルーティングを可能にする前に,前記機能テストの結果を予測された結果と比較することによって,前記機能テストの結果が予測された結果を満たすかどうかを検査するステップ」とを,「グリッド検査サービス」が行っているのに対して,
引用発明においては,「グリッド毎の所定の試験」の「実施」,及び,「資源の結果」の「判定」を,“誰”,或いは,“何”が行っているか,明確には示されておらず,
また,本願発明においては,「機能テスト」を,「特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出すことによって」実行しているのに対して,
引用発明においては,“診断ツールの呼出し”については,特に,言及されていない点。

(4)当審の判断
ア.[相違点1]について
原審拒絶理由において引用された,本願の第1国出願前に既に公知である,「Joseph,J.,Ernest,M. Fellenstein,C.,Evolution of grid computing architecture and grid adoption models,IBM System Journal,2004年,Vol.43,No.4,P.624-645」(以下,これを「引用刊行物2」という)に,

E.「● Fabric layer-The fabric layer defines the interface to local resources, which may be shared. This includes computational resources, data storage, networks, catalogs, software modules, and other system resources.」(626頁左欄26行?30行)
(●基礎構造層-基礎構造層は,共有され得る,ローカル資源のインターフェイを定義する。これは,計算資源,データ・ストレージ,ネットワーク,カタログ,ソフトウェア・モジュール,及び,他のシステム資源を含む。)

F.「The IBM vision of the OGSA is summarized in Figure5. This is a layered architecture, with the lowest layer comprising the basic IT resources, such as servers, storage, and network services. This includes the hardware and corresponding software support for operating systems, subsystems, and the components that control them.」(628頁右欄3行?9行)
(OGSAのIBMの構想は,図5に要約されている。これは,サーバ,ストレージ,及び,ネットワーク・サービスといった,基本的IT資源から成る,最下層を備える,階層化された構成である。これは,オペレーティング・システム,サブシステム,及び,それらを制御するコンポーネントのための,ハードウェア,及び,ソフトウェア支援を含む。)

と記載されているように,グリッド・システム内に,種々の資源が存在することは,当業者にとって周知の技術事項であり,上記Dで指摘したFigure4.の表中に「Server12」が示されているように,引用発明において,「グリッド資源」は,「サーバ」を含むものであり,上記E,及び,上記Fに引用した記載からも明らかなように,「データ・ストレージ」,「計算資源」,「ネットワーク」といった「ハードウェア」も,「グリッド資源」に含まれることは,当業者には周知の技術事項であって,引用発明における「地域」の「e-サイエンスセンタ」の「ノード」それぞれが,上記指摘の「ハードウェア」によって構成されることも,当該技術分野においては周知の技術事項あるから,引用発明における前記「ノード」を構成する「ハードウェア」を,「特定環境内のリソース」と定義することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点1は,格別のものではない。

イ.[相違点2],及び,[相違点3]について
引用発明においても,上記Aにおいて引用した記載中に,
「The Grid Integration Test Script (GITS) [10] is used during various phases of the UK e-Science Grid to test Grid services between servers. The GITS enables integration tests to be performed between nodes on the Grid and allows monitoring of active members of the UK e-Science Grid.(グリッド統合試験スクリプト(GITS)[10]は,サーバ間で,グリッド・サービスを試験するために,英国e-サイエンス・グリッドの様々な局面の中で用いられる。GITSは,統合試験が,グリッド上のノード間で実行されることを可能にし,英国e-サイエンス・グリッドの活動しているメンバの監視を許可する。)」
とあるように,「グリッド」の「試験」を行うための「スクリプト」,即ち,一種の“サービスプログラム”が存在していることは明らかであるから,引用発明においても,該“グリッド・システム”が,「グリッド・サービス」を「ノード」に割り当てられるかの「試験」という“サービス”を提供することは,上記指摘の点と,当該技術分野の技術常識とを勘案すれば,当業者には自明の事項である。
また,同じく上記Aにおいて引用した記載中に,
「The Grid tool allows a client to test all of the basic functionality of the Globus toolkit on the Grid resources, which will be used for their application. This tool enables a more detailed test of resources on the Grid immediately prior to launching their application and details such as the user’s configuration and security settings.(グリッド・ツールは,それらのアプリケーションが使用されるであろうグリッド資源上のグロバス・ツールキットの基本的な機能の全てを試験することを,クライアントに許可する。このツールは,それらのアプリケーションと,ユーザの構成と,セキュリティの設定といった詳細を開始する前に,直ちに,グリッド上の資源の,より詳細な試験を可能にする。)」
とあるように,引用発明においては,「グリッド」環境の実現のために,「グロバス・ツールキット」が用いられており,該「グロバス・ツールキット」は,“グリッド・ノード”への「ジョブ」の割り当て等を行うための,ソフトウェア群であることは,当業者に周知の技術事項であって,該「グロバス・ツールキット」を用いて実現される“グリッド・ノード”への「ジョブ」の割り当てが,本願発明の「グリッド割り当てサービスがグリッド・ジョブに必要なリソースを割り当てる」処理に相当するものである。
よって,引用発明においても,本願発明における「グリッド割り当てサービス」に相当する機能,及び,本願発明における「グリッド検査サービス」の,「機能テストを実行するステップ」に相当する機能を有することは明らかである。
そして,「リソース」を割り当てる際に,“ローカルの「リソース」”(本願発明における「特定の実行環境内のリソース」)に割り当てるか,“リモートの「リソース」”(本願発明における「特定の実行環境とは別の実行環境におけるハードウェア・プラットフォーム」)に割り当てるかを,“リソースの割り当てを管理する機能”(本願発明における「グリッド割り当てサービス」)が,システムのユーザの指示によって行うよう構成することは,「グリッド・サービス」と言わず,分散処理系においては,周知の手法に過ぎない。
「サービス」を,「アプリケーション層」と,「リソース層」に配置する点については,引用刊行物2の,上記Eの記載に引き続いて,

G.「● Connectivity layer?The connectivity layer defines the basic communication and authentication protocols required for grid-specific networking service transactions.
● Resource layer-This layer uses the communication and security protocols (defined by the connectivity layer) to control secure negotiation, initiation, monitoring, accounting, and payment for the sharing of functions of individual resources. The resource layer calls the fabric layer functions to access and control local resources. This layer only handles individual resources, ignoring global states and atomic actions across the resource collection pool, which are the responsibility of the collective layer.
● Collective layer-While the resource layer manages an individual resource, the collective layer is responsible for all global resource management and interaction with collections of resources. This protocol layer implements a wide variety of sharing behaviors using a small number of resource-layer and connectivity-layer protocols.
● Application layer?The application layer enables the use of resources in a grid environment through various collaboration and resource access protocols.」(626頁左欄31行?右欄24行)
(●接続層-接続層は,グリッド特有のネットワーク・サービス・トランザクションのために要求される,基礎的な通信と,認証のプロトコルを定義する。
●リソース層-この層は,安全な交渉,初期化,監視,課金,及び,個別の資源の機能の共有のための支払を制御するために,(接続層によって定義された),通信とセキュリティ・プロトコルを使用する。リソース層は,ローカル・リソースにアクセスし,制御するために,基礎構造層を呼び出す。この層は,コレクティブ層の責任である,リソース収集プールにわたる,アトミックな動作と,グローバルな状態を無視して,個別のリソースのみを扱う。
●コレクティブ層-リソース層が,個々のリソースを管理する間,コレクティブ層は,全てのグローバル・リソースの管理と,リソースの収集のための作用についての責任を有する。このプロトコル層は,少数のリソース層と,接続層を用いて,様々な,共有する環境を実装する。
●アプリケーション層-アプリケーション層は,種々の協調と,リソース・アクセス・プロトコルを通じて,グリッド環境において,リソースの使用が可能である。)

という記載が存在し,加えて,引用刊行物2のFigure1に,「Application layer」の下に,「Collective layer」,「Resource layer」,「Connectivity layer」,「Fabric layer」と続く点が示されていて,上記Gにおける「service transactions(サービス・トランザクション)」とは,「secure negotiation, initiation, monitoring, accounting(安全な交渉,初期化,監視,課金)」等を指し,上記Eと,上記Gに記載された内容から,“アプリケーション層と,基礎構造層との間にサービスが配置されている”ことが示されており,「基礎構造層」は,資源の実体とのインターフェースであるから,引用刊行物2には,“アプリケーション層と,物理層との間に,サービスが配置されている”構成が示されており,引用発明も,引用刊行物2に記載の発明も,グリッド・コンピューティングに関するものであるから,引用発明においても,アプリケーション層と,物理層との間に,“資源の割当サービス”と,“試験サービス”とを組み込むことは,当業者が適宜なし得る事項である。
以上のとおりであるから,相違点2,及び,相違点3は,格別のものではない。

ウ.[相違点4]について
要求された資源毎に個別の試験を行うようなことは,例えば,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2004-348318号公報(2004年12月9日公開,以下これを「周知文献1」という)の段落【0023】に,

H.「本実施例では,小電力無線を用いて端末機器4と情報機器1が接続されているものとする。17は動作テスト項目や接続するサーバーのURLなどの設定情報を設定サーバー2からダウンロードする設定情報受信部。18は情報機器1の動作テストを行う動作テスト部。19はサーバー(情報サービス提供サーバーや設定サーバーなど)との接続テストを機器通信部12を介して行うサーバー通信テスト部。20は情報機器1の下流に接続された端末機器4に対して通信テストを行う下流機器通信テスト部。21は情報機器1が情報サービス提供サーバー3を用いて行うユーザや機器毎の個別サービスの動作テストを行う個別サービステスト部。なお,サーバー通信テスト部19,下流機器通信テスト部20,個別サービステスト部21は,動作テスト部18の構成要素である。」

と記載され,或いは,同じく,本願の第1国出願前に既に公知である,特開2002-314542号公報(2002年10月25日公開,以下,これを「周知文献2」という)の段落【0025】に,

I.「識別された機器を試験するために,ユーザは,試験すべき各機器に対して個別の試験ソフトウェアを起動し,この個別の試験ソフトウェアは,各機器に組み込まれた自己試験ソフトウェアを起動し,自動試験の結果を抽出する。これらの処理は,機器状態情報試験器自身が自動的に実行してもよい。」

と記載されてもいるように,当業者には周知の技術事項であり,“テスト対象に応じて試験項目をデータベースから検索する”ようなことも,周知文献1の段落【0016】に,

J.「個人情報・機器情報・機器やユーザごとのテスト項目を記憶するデータベース部と,情報機器と通信を行い情報機器の個体識別のための認証を行うサーバ側クライアント認証部と,情報機器から送信されたユーザ認証情報を受信し,受信情報でデータベース部を検索して登録ユーザかどうかを判定するサーバ側ユーザ認証部と,サーバ側クライアント認証部およびサーバ側ユーザ認証部での認証結果からデータベース部を検索し,テスト項目を含む設定情報を情報機器へ送信する設定情報送信部を備える。」

との記載が存在し,“テスト対象毎に,該テスト対象のテスト項目をデータベース化する”ことは,本願の第1国出願前に,当業者には周知の技術事項であり,該“データベース”を,“テーブル”とすることも,当業者が適宜なし得る事項に過ぎない。

上記引用の周知技術1,周知技術2,及び,引用発明における“グリッド環境”も,一種の分散環境である点で共通しているので,引用発明においても,各「ノード」を構成する「サーバ」毎に,どの「サーバ」であるかに応じて,「試験」の内容を変更したり,該「サーバ」の下位に存在する「資源」に対応した「試験」を実施するよう構成すること,及び,該構成を「サービス」として提供することは,当業者が適宜なし得る事項である。
以上検討したとおりであるから,相違点4は,格別のものではない。

エ.[相違点5]について
上記イ.において検討したとおり,引用発明においても,「グリッド・サービス」が,“検査”の処理を提供していることは明らかである。
そして,「特定の実行環境で実行されるオペレーティング・システム・ソフトウェアの診断ツールを呼び出す」点については,上記Aにおいて引用した記載中に,
「The Grid Integration Test Script (GITS) [10] is used during various phases of the UK e-Science Grid to test Grid services between servers. The GITS enables integration tests to be performed between nodes on the Grid and allows monitoring of active members of the UK e-Science Grid.(グリッド統合試験スクリプト(GITS)[10]は,サーバ間で,グリッド・サービスを試験するために,英国e-サイエンス・グリッドの様々な局面の中で用いられる。GITSは,統合試験が,グリッド上のノード間で実行されることを可能にし,英国e-サイエンス・グリッドの活動しているメンバの監視を許可する。)」
とあるように,「グリッド」の「試験」を行うための「スクリプト」,即ち,一種の“サービスプログラム”が存在していることは明らかであり,該「スクリプト」は,上記第4.の2.において検討した“グリッド・システム”によって,呼び出されて,実行されるものと言い得るものであるから,引用発明においても,
“試験を行うツールを呼び出し実行する”点は示される。
ここで,本願発明においては,「特定の実行環境で実行されるオペレーティング・シスステム・ソフトウェア」を呼び出しているのに対して,引用発明においては,「スクリプト」である点で相違するものの,
本願発明における「特定の実行環境で実行されるオペレーティング・シスステム・ソフトウェア」とは,本願明細書の段落【0064】?段落【0066】,及び,本願の【図4】等を参照すると,上記指摘の,本願発明の構成は,“ローカルのリソースが有している試験機能を呼び出している”と言い得るものであって,このような手法は,上記Iにもあるように,当業者には周知の技術事項であり,このとき,呼び出す対象として,“ローカルのオペレーティング・システム”が,“試験機能”を有していれば,“ローカル”が有する“スクリプト”や,“試験ソフトウェア”に変えて,“オペレーティング・システムの試験機能”を呼び出すようにすることは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点5は,格別のものではない。

上記で検討したごとく,相違点1?相違点5はいずれも格別のものではなく,そして,本願発明の構成によってもたらされる効果も,当業者であれば容易に予測できる程度のものであって,格別なものとは認められない。

第4.むすび
したがって,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
更に,本願発明は,本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2014-08-26 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2007-549848(P2007-549848)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G06F)
P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川崎 優  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 石井 茂和
仲間 晃
発明の名称 グリッド環境にサブミットされたグリッド・ジョブによる使用の前のリソース機能の検査  
代理人 上野 剛史  
代理人 太佐 種一  
代理人 市位 嘉宏  

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