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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1296948
審判番号 不服2012-21719  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-02 
確定日 2015-01-27 
事件の表示 特願2009-524142「FYNキナーゼの改変SH3ドメインを含む特異的かつ高親和性の結合タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日国際公開、WO2008/022759、平成22年 1月14日国内公表、特表2010-500875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年8月20日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年8月21日 欧州特許庁)とする出願であって、平成23年10月7日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成24年6月29日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成24年11月2日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年11月2日付の手続補正を却下する。

[理由]
平成24年11月2日付の手続補正(以下、「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体を少なくとも1つ含む組換え結合タンパク質であって、
(a)配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸および
(b)配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸
が、置換、欠失または付加されており、
前記組換え結合タンパク質はタンパク質またはペプチドに特異的に結合し、かつ前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外は、配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63に対して少なくとも85%の同一性を有し、srcループおよびRTループの位置を含む前記SH3ドメイン誘導体は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、結合タンパク質。」(下線は、当審が付与した。)から、
「【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体を少なくとも1つ含む組換え結合タンパク質であって、
(a)配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループ内のアミノ酸が置換されており、2つのアミノ酸が前記srcループに付加されており、および
(b)配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループ内のアミノ酸が置換されており、
天然のSH3結合リガンドではないタンパク質またはペプチドに特異的に結合する、結合タンパク質。」へと補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「かつ前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外は、配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63に対して少なくとも85%の同一性を有し」という記載の削除を含むものである。
ところで、補正後の請求項3には、
「【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列の位置37および/または50に、1つまたは2つの改変残基を含む、請求項1または2に記載の結合タンパク質。」と記載されていることから、補正後の請求項1には、srcループ及びRTループ以外の位置にも改変残基を有する結合タンパク質の発明が包含されると解される。
さらに、補正後の請求項1に規定された「FYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体」について、明細書の段落【0031】には、「本明細書において使用する用語「FYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体」は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を配列番号1のアミノ酸配列に対して有するアミノ酸配列を包含して意味する。同じ意味が、少なくとも70%または少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の同一性を、srcおよびRTループの外のFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)に対して有するSH3ドメイン誘導体についても、配列同一性を決定する場合に前記ループを形成するアミノ酸を除外すること以外は、当てはまる。」(下線は、当審が付与した。)と記載されていることから、補正後の請求項1の「FYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体」は、配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループ、及び、配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループの位置以外にも「少なくとも70%」の同一性条件を満たす改変残基を有するものが含まれると解される。
そうすると、上記の「かつ前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外は、配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63に対して少なくとも85%の同一性を有し」という発明特定事項を削除する補正は、「srcループおよびRTループの位置以外」について特定されていた、配列番号1のアミノ酸配列と「少なくとも85%の同一性」を、「少なくとも70%の同一性」の範囲まで拡張するものであり、かかる補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、当該補正は、請求項の削除、明りょうでない記載の釈明、及び、誤記の訂正のいずれにも該当しない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項各号のいずれにも該当しないから、同条同項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 特許法第29条第2項
1.本願発明について
平成24年11月2日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成23年10月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列を有するFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体を少なくとも1つ含む組換え結合タンパク質であって、
(a)配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸および
(b)配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸
が、置換、欠失または付加されており、
前記組換え結合タンパク質はタンパク質またはペプチドに特異的に結合し、かつ前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外は、配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63に対して少なくとも85%の同一性を有し、srcループおよびRTループの位置を含む前記SH3ドメイン誘導体は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、結合タンパク質。」 (以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるThe EMBO Journal(1995)Vol.14,No.20,p.5006-5015(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が記載されている。(原文は英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)

(1-1)「SH3の結合親和性及び特異性についての構造の基礎を解明するために、HIV-1 Nefに対するHck及びFynの結合の相違を研究した。・・・。Hckとは対照的に、高度に相同性を有するFynのSH3のNefに対する親和性は、正確に決定するためには、弱すぎた(K_(D)>20μM)。プロリンリッチ(PxxP)モチーフの結合に関係する保存されたSH3残基の近くに位置する、可変ループであるRTループに、この異なる特異性があることを我々は示す。」(要約1?11行)

(1-2)「Hck及びLynのSH3ドメインはNefに結合することができる一方、高度に類似性を有するFyn又はLckのSH3ドメインは結合しない。・・・。NefのPxxPへの異なる結合に、RTループであるこの部分の重要性を試験するために、Hck及びFynのSH3sのこの領域内の3つの相違するアミノ酸を含めた相互交換を行った。これは、Fyn様RTループをもつHck SH3ドメイン変異体(Hck-RTE)及びHck様RTループをもつFynSH3変異体(Fyn-IHH)をもたらした(表1参照)。・・・。対照的に、Hck様RTループをもつFynSH3ドメイン(Fyn-IHH)を試験すると、Nefに対する良好な結合(K_(D) 2.0μM)が得られた(表1)。」(5009頁左欄下から10行?右欄18行)

(1-3)「


図4(A)・・(B)SH3ドメインのアミノ酸配列のアライメント。・・」

(1-4)「表1 定量的なNef-SH3結合データの要約




(1-5)「pGEX-IZTの対応する位置へクローニングするための制限エンドヌクレアーゼであるEcoRI及びXhoIのサイトを含むプライマーを用いて、対応するSH3ドメイン領域(Fyn残基86-143)を増幅するためにヒトHCk(・・)及びFynをコードするcDNAが用いられた(・・)。変異RTループを有するHck及びFyn構築物(表1)は、この領域にわたるデザインされた変異を含む長い5’PCRプライマーを用いて誘導された。・・。GST-SH3タンパク質を、これらの構築物から発現し、グルタチオンセファロース(ファルマシア)で提供されるプロトコルに従って精製し、及び、提供者(ピアス)もより提案されるように、イムノピュア NHS-LC-ビオチン剤によりビオチン化した。」(5013頁右欄6?20行)

引用例1の記載事項(1-4)の表1の4行目に示されたFyn-IHHは、Nefに結合し、そのアミノ酸配列は、引用例1の記載事項(1-3)を参酌すると、「LFVALYDYEAIHHDDLSFHKGEKFQILNSSEGDWWEARSLTTGETGYIPSNYVAPVD」を有するから、引用例1には、以下の発明が記載されている。
「Nefに対して結合するLFVALYDYEAIHHDDLSFHKGEKFQILNSSEGDWWEARSLTTGETGYIPSNYVAPVDのアミノ酸配列を有するFyn変異体(Fyn-IHH)。」(以下、「引用発明」という。)

同じく、引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるThe Journal of Biological Chemistry(2002)Vol.277,No.24,p.21666-21674(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が記載されている。(原文は英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)

(2-1)「ヒトAbl-SH3ドメインの骨格に、天然のSH3ドメインの結合表面に存在する残基を移植することにより、10^(7)の異なるSH3ドメインのレパートリーを設計した。このファージディスプレーライブラリーは、それぞれヒトAbl及びSrcSH3ドメインに対するペプチドリガンドであり、合成ペプチドであるAPTYPPPLPP及びLSSRPLPTLPSPに結合するSH3ドメインの親和性選択によりスクリーニングされた。単離体の特徴付けにより、2、3のアミノ酸置換が認識特異性の劇的な変化を導くことを観察した。少ない数のアミノ酸置換により認識特異性をシフトする能力は、タンパク質結合モジュールの重要な進化的特徴であることを我々は提案する。」(要約1?15行)

(2-2)「我々は、この技術により、Abl-SH3ドメインの高親和性リガンドであるペプチドAPTYPPPLPP(Abl-pep)に結合するSH3ドメインを当該ライブラリーから回収できるかどうかを調べた。・・・。結合は特異的である、なぜなら、選択されたクローンの圧倒的多数が、ヒトSrcSH3ドメインのペプチドリガンド(LSSRPLPTLPSP;Src-pep)に結合しないからだ(図1A)。」(21668頁左欄17行?下から5行)

(2-3)「次に、通常は、異なるクラスのSH3ドメインにより認識される関係のないペプチドに対して結合するドメインをSH3レパートリーが含むかどうかを調べた。この目的のために、Srcファミリー(すなわち、Src,Yes,Fyn)のSH3ドメインに効率的に結合するペプチド配列LSSRPLPTLPSP(Src-pep)を選択した。・・。親和性選択の3ラウンド後、Src-pepに結合するSH3ドメインを同定することができた、しかし、Abl-pepよりもずっと低頻度であった。」(21668頁右欄13?23行)

(2-4)「


図1 2つのタイプのプロリンに富んだペプチドに対して結合するSH3ドメインの一次構造
A,下線は、ヒトAblチロシンキナーゼのSH3ドメインのアミノ酸配列。・・。数字は、Ablタンパク質の残基位置を言及している。Abl-SH3配列の下に、APTYPPPLPPペプチド(Abl-pep)に結合することで選択されたSH3ドメイン中の変性した位置に見られる残基を報告する。B,Aのようであるが、しかし、報告された配列は、LSSRPLPTLPSPペプチド(Src-pep)に結合することで選択されたSH3ドメインに対応するものである。選択されたドメインは、ELISAフォーマットで、ストレプトアビジンコートされたマイクロタイタープレートウェルに固定されたビオチン化Abl-pep又はSrc-pepへの結合を試験された。ウェルへの結合の強さはグレー強度スケールで右側に描いた。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明のFYNキナーゼのsrc相同性3ドメインの63アミノ酸からなるアミノ酸配列である配列番号1と、引用発明のFyn-IHHのアミノ酸配列とを比較すると、引用発明のものは、配列番号1の両末端のそれぞれ3アミノ酸が欠如し、かつ、配列番号1の14?16位が「ArgThrGlu」であるのに対し、引用発明のものは、対応する位置が「IHH」(Ile His His)である以外は、本願発明の配列番号1のアミノ酸配列と完全に一致する。
そうすると、引用発明の「LFVALYDYEAIHHDDLSFHKGEKFQILNSSEGDWWEARSLTTGETGYIPSNYVAPVDのアミノ酸配列を有するFyn変異体(Fyn-IHH)」は、タンパク質であるNefに結合するから、本願発明の「配列番号1のアミノ酸配列を有するFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体を少なくとも1つ含む組み換え結合タンパク質」に相当し、引用発明は、配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループ内の3つのアミノ酸が置換(IHH)されたものであるから、本願発明の(b)で特定される条件を満たすものである。
そして、引用発明の「前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外」の「配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63」に対する同一性を計算すると、53アミノ酸残基中47アミノが一致するから(位置4?11、18?30及び35?60)、約89%の同一性を有し、かつ、引用発明の「srcループおよびRTループの位置を含む前記SH3ドメイン誘導体」の「配列番号1のアミノ酸配列」に対する同一性を計算すると、63アミノ酸残基中54アミノ酸残基が一致するから(位置4?13及び17?60)、約86%の同一性を有するものであり、それぞれ、本願発明の「少なくとも85%の同一性を有し」かつ「少なくとも70%の同一性を有する」という条件を満たしている。

よって、本願発明と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
一致点:「配列番号1のアミノ酸配列を有するFYNキナーゼのSrc相同性3ドメイン(SH3)の誘導体を少なくとも1つ含む組換え結合タンパク質であって、
(b)配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置12から17に位置するRTループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸
が、置換、欠失または付加されており、
前記組換え結合タンパク質はタンパク質またはペプチドに結合し、かつ前記SH3ドメイン誘導体におけるsrcループおよびRTループの位置以外は、配列番号1のアミノ酸配列における位置1?11、18?30及び35?63に対して少なくとも85%の同一性を有し、srcループおよびRTループの位置を含む前記SH3ドメイン誘導体は、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する、結合タンパク質。」

相違点1:本願発明は、タンパク質またはペプチドに対する結合が「特異的」であるのに対し、引用発明は、特異的であるか否かが不明である点。
相違点2:本願発明は、「(a)配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループ内の、もしくは前記配列番号1のアミノ酸配列における位置31から34に位置するsrcループに隣接した2つまでのアミノ酸の位置にある少なくとも1つのアミノ酸」が、「置換、欠失または付加」されているものであるのに対し、引用発明は、そのような構成は備えていない点。

4.当審の判断
相違点1、2について
引用例1には、Fyn及びAblのSH3ドメインがアライメントされているところ(記載事項(1-3))、引用発明と引用例3に記載の発明(記載事項(2-1)?(2-4))は、どちらもSH3ドメインのアミノ酸を置換することで、新たなSH3改変体を得る技術に係るものである。
そして、引用例1には、RTループを置換することで、Nefタンパク質に対する結合親和性が高められたことが記載される一方(記載事項(1-1)、(1-3)及び(1-4))、引用例3には、AblのSH3ドメインについて、RTループのみならず、N-src中のアミノ酸(94位、98位)にも変異を導入することで、元と同じリガンド(Abl-pep)に結合する新たな変異体が得られたこと、及び、元とは異なるリガンド(Src-pep)に結合する変異体が得られたこと記載されている(記載事項(2-1)、(2-3)及び(2-4))。
してみれば、上記引用例3の記載に接した当業者であれば、Nefタンパク質に対する結合親和性の高い新たな改変体を得ることや、あるいは、Nefタンパク質とは異なるリガンドに対する結合性能を有する改変体を得ることを目的として、引用例3に記載されるファージディスプレーライブラリーを用いた手法により、引用発明のSrcループ領域にも変異を施して、新たな改変体を得ることは、容易に想到し得たことである。
さらに、引用例3には、ファージディスプレーライブラリーを用いた選択方法により、基質に対して特異的なアミノ酸配列が得られたことが記載されているから(記載事項(2-2))、そのようにして得られた改変体のうちには、リガンドであるタンパク質またはペプチドに対して特異的に結合する改変体が含まれている蓋然性が高いといえる。
そして、本願発明の全般にわたり、引用例1及び3の記載から予測し得ない顕著な効果を奏するとも認められない。
したがって、本願発明は、引用例1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張
請求人は、平成23年10月7日付意見書において、以下の点(1)?(2)を主張している。
(1)引用例1には、FynキナーゼのSH3ドメイン中のRTループとsrcループの両方に変異を導入することの示唆がない。引用例3に記載のAblキナーゼはFynキナーゼとは関係がなく、両者のSH3ドメインの配列同一性は低いものである。SH3ドメインを有するタンパク質が生体内に膨大に存在すること、及びキナーゼ間のSH3ドメインの配列同一性が低いことを鑑みれば、引用例3のAblキナーゼのSH3ドメインにおけるアミノ酸変異に関する知見を出発点として、それを転用して本願発明に想到することが当業者に容易であったとはいえない。

(2)引用例1、3には、SH3誘導体がPxxPモチーフを有さないタンパク質又はペプチドに結合可能であることについて記載されていないのに対し、本願発明のRTループとsrcループの両方に少なくとも1つのアミノ酸の変異を有するFyn SH3ドメイン誘導体を含む結合タンパク質は、PxxPモチーフを有さないタンパク質に特異的に結合することが実証されているので、本願発明は、引用例1、3から容易に想到することができたものではなく、かつ、その効果も予測できたものであるとはいえない。

(1)について
引用例1には、Fyn及びAblのSH3ドメインがアライメントされて示されており(記載事項(1-3))、このことは、FynとAblがSH3ドメインに関して関係があることを示すものであるから、引用例1そのものにsrcループへ変異を導入することの示唆がなくとも、また、AblとFynのSH3ドメイン全体のアミノ酸配列の同一性が高くなくとも、引用例1に記載されたFyn誘導体の発明に対し、引用例3に記載されるAblのSH3に対して施す改変を適用することは、当業者が容易に想到する事項であり、上記主張は採用できない。

(2)について
本願発明は、その発明特定事項からみて、PxxPモチーフを有さないタンパク質に特異的に結合するものに限定されているわけではないから、上記主張はクレームの記載に基づかない主張である。また、FynキナーゼのSH3ドメインのRTループとsrcループの両方にアミノ酸の変異を有すれば、必ずPxxPモチーフを有さないタンパク質に特異的に結合することが実証されているわけではなく、本願発明に含まれる特定の態様について、PxxPモチーフを有さないタンパク質に特異的に結合することが実証されているにすぎないから、特定の態様が奏する効果を、本願発明全般が奏する効果として参酌することはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例1及び3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明については、検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり、審決する。
 
審理終結日 2014-08-27 
結審通知日 2014-09-01 
審決日 2014-09-12 
出願番号 特願2009-524142(P2009-524142)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 57- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 晴絵
中島 庸子
発明の名称 FYNキナーゼの改変SH3ドメインを含む特異的かつ高親和性の結合タンパク質  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  

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