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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1297121
審判番号 不服2013-24766  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-17 
確定日 2015-02-05 
事件の表示 特願2007-201905号「複合荷電粒子ビーム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月19日出願公開、特開2009- 37910号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年8月2日の出願であって、平成24年9月12日付けで拒絶理由が通知され、同年11月19日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、平成25年3月22日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年5月27日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、同年9月10日付けで平成25年5月27日付けの手続補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、請求と同時に手続補正がなされたものである。

2.平成25年12月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年12月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部とが設けられたガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系と、その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系と、
試料を支持する試料台と前記試料の一部を保持可能な試料ホルダとを有し、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に前記試料又は前記試料の一部が配置されるように前記試料台及び前記試料ホルダを移動可能な試料ステージと、
前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃と、
前記試料ホルダとの間で相対的に移動可能に設けられ、前記試料台から前記試料ホルダへ前記試料の一部を運搬可能なマニピュレータと
を備えており、
前記イオンビーム照射系が前記試料ステージの鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されており、
前記エミッタの先端部は、原子レベルで先鋭化されている
ことを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置。」
と補正された。

本件補正は、平成24年11月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「エミッタ」について「前記エミッタの先端部は、原子レベルで先鋭化されている」と限定するものであり、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(2)引用例
(a)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-181529号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項ア
「〔実施例〕
以下、本発明を第1図から第21図により説明する。
先ず本発明に係る集束イオンビーム加工装置について説明すれば、第1図はその一例での構成を示したものである。図示のようにメインチャンバ1にはゲートバルブ2を介しロードロックチャンバ3が設けられており、メインチャンバ1はバルブ4を介し真空ポンプにより排気され、ロードロックチャンバ3もまた真空ポンプによりバルブ5を介し排気されたものとなっている。
さて、メインチャンバ1には基本的にイオンビーム鏡筒10、電子ビーム鏡筒11、2次電子ディテクタ12および試料ステージ13が設けられるようになっている。このうちイオンビーム鏡筒10には液体金属イオン源14、イオンビーム集束用静電レンズ系15、ブランキング電極16、ブランキングアパーチャ17および偏向制御電極18が設けられており、上記各々の電極には必要な電圧が外部から印加されるようになっている。また、電子ビーム鏡筒11は通常の走査電子顕微鏡(SEM)に用いられているものと同様なものであり、レンズ系やブランキング電極,偏向制御電極等によって試料19上に焦点を結んだ状態で試料19上を電子ビーム21によって走査するが、イオンビーム20が照射されている間電子ビーム21はブランキングされるようになっている。
ところで、試料ステージ13上に載置された試料19上へのイオンビーム20照射点の近傍には電子ビーム21がイオンビーム20とはそのビーム軸方向を異にして照射される必要があるが、このため電子ビーム鏡筒11はメインチャンバ1に対しその電子ビーム軸位置が調整可として取付けされている。」(第3頁右上欄第16行?右下欄第8行)

記載事項イ
「さて、第3図に示すように電子ビーム21がイオンビーム20に対しある角度θをもつように電子ビーム鏡筒11は設置されるが、その角度θはイオンビーム20で加工された穴40の側壁41に電子ビーム21が照射されるべく設定されるようになっている。」(第4頁左上欄第5?9行)

記載事項ウ
「なお、試料ステージ13はロードロックチャンバ3とメインチャンバ1間を試料19を保持して移動するが、試料19上の加工位置を定めるべくx,y方向に移動可となっている。望ましくは更にZ軸(イオンビーム軸),X軸,Y軸回りに回転し得れば好都合となっている。」(第4頁右上欄第14?19行)

記載事項エ
「一方、これとは別に第1図などに示すように、メインチャンバ1内にガス吹付けノズル90を設けるようにしてもよい。その際イオン源14,イオン光学系15をガスから保護すべくオリフィス91によりイオンビーム鏡筒10はメインチャンバ1とへだてられており、イオンビーム鏡筒10の内部は真空ポンプにより差動排気されるようになっている。
第21図に示すように、イオンビーム20による加工において、SiO_(2)加工に対してはSF_(6),XeF等フッ素を含むガス91を、また、Al加工に対してはCl_(2),BCl_(3)等塩素を含むガスをガス吹付けノズル90より吹付けするようにすれば、スパッタ粒子は化学反応によってそれぞれフッ化シリコン,塩化アルミといった気体92に変化することになる。このため側壁41へのスパッタ粒子の再付着は殆ど発生せず、良好な断面を確保することが可能となる。SiO_(2)とAlとの層構造を持つLSI等の試料に対しては、加工中の材質に適したガスを選んで吹付けするか、あるいは混合ガスを吹付けすればよい。
以上本発明を説明したが、2次荷電粒子ディテクタとして2次電子ディテクタが用いられているが、これは2次イオンディテクタや、一次イオン、一次電子により発生するX線,蛍光等を検出するディテクタであってもよい。また、イオン源として液体金属イオン源が用いられているが、これはガスフェーズイオン源やプラズマイオン源であってもよい。」(第6頁右下欄第9行?第7頁左上欄第16行)

記載事項オ
「第1図




記載事項カ
「第3図




引用例1の第1図の記載から、イオンビーム鏡筒10が試料ステージ13の鉛直方向の上方に配置され、電子ビーム鏡筒11が鉛直方向に対して傾斜して配置されていること、および電子ビーム鏡筒11から照射された電子ビーム21の照射軸がイオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20の照射軸に対し90度よりも狭い角度に配置されていることが読み取れる。
また、引用例1の第1図および第3図の記載から、イオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20と電子ビーム鏡筒11から照射された電子ビーム21との交差位置に試料ステージ13上に載置された試料19が配置されていることが読み取れる。

上記記載事項アないしカの記載内容及び図示内容からして、引用例1には、
「イオン源としてガスフェーズイオン源が設けられたイオンビーム鏡筒10、照射された電子ビーム21の照射軸がイオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20の照射軸に対し90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム鏡筒11、ガス吹付けノズル90および試料19上の加工位置を定めるべくx,y方向に移動可となっている試料ステージ13が設けられ、イオンビーム鏡筒10が試料ステージ13の鉛直方向の上方に配置され、電子ビーム鏡筒11が鉛直方向に対して傾斜して配置され、イオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20と電子ビーム鏡筒11から照射された電子ビーム21との交差位置に試料ステージ13上に載置された試料19が配置され、イオンビーム20による加工において、SiO_(2)加工に対してはSF_(6),XeF等フッ素を含むガス91を、また、Al加工に対してはCl_(2),BCl_(3)等塩素を含むガスをガス吹付けノズル90より吹付けするようにすれば、スパッタ粒子は化学反応によってそれぞれフッ化シリコン,塩化アルミといった気体92に変化することになり、このため側壁41へのスパッタ粒子の再付着は殆ど発生せず、良好な断面を確保することが可能となる集束イオンビーム加工装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(b)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-21955号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項キ
「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は、ガスフェーズイオン源を備えたイオンビーム装置に関する。」

記載事項ク
「【0008】
【課題を解決するための手段】 この様な目的を達成する為の本発明のイオンビーム装置は、エミッタ、エミッタ冷却手段、前記エミッタに対抗して配置される引出し電極、該エミッタ及びエミッタ周辺にイオン化すべきガスを導入するイオン化ガス導入手段、少なくとも前記エミッタ近傍を高真空状態にする排気手段、及び、エミッタ加熱手段を備えており、前記エミッタと前記引出し電極の間に負の高電圧と正の高電圧を切り換えて印加出来る様に成しており、前記エミッタのビルトアップ時には、該エミッタを前記エミッタ加熱手段により加熱し、該エミッタに対し前記引出し電極に正の高電圧を印加してビルトアップ用ガスの作用により該エミッタの特定の軸方位をビルトアップし、イオンビーム発生時には、前記エミッタを前記エミッタ冷却手段により冷却し、前記イオン化ガス導入手段により該エミッタ及びエミッタ周辺にイオン化すべきガスを導入し、該エミッタに対し前記引出し電極に負の高電圧を印加して前記ビルトアップ済みのエミッタからイオンを放出させる様に成した。」

(c)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-150990号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

記載事項ケ
「【0031】
【発明の実施の形態】本発明の実施形態である微小試料加工観察装置の構成及びその動作を説明する。
(実施例1)第1の実施例の装置構成と動作を図1,図2および図3を用いて説明する。図1,図2は装置全体構成を、図3は集束イオビーム光学系、走査電子顕微鏡光学系および試料台周辺の構成を詳細に示す。なお、本実施の形態では、本発明の微小試料加工観察装置のうちウェーハ対応装置を示す。また、図3は、図1の概略俯瞰断面を表しているが、説明の都合上、機器の向きや詳細には幾分の相違があるが本質的差ではない。図1において、装置システムの中心部には集束イオンビーム光学系31と電子ビーム光学系41が真空試料室60の上部に適宜設置されている。真空試料室60の内部には試料となるウェーハ21を載置する試料台24が設置されている。2基の光学系31及び41は各々の中心軸がウェーハ21表面付近で一点に交わるように調整されている。試料台24にはウェーハ21を前後左右に高精度で移動する機構を内蔵しており、ウェーハ21上の指定箇所が集束イオンビーム光学系31の真下に来るように制御される。試料台24は回転,上下、あるいは傾斜する機能を有する。真空試料室60には図示を省略した排気装置が接続され適切な圧力に制御されている。尚、光学系31,41にも図示を省略した排気系を個別に備え適切な圧力に維持している。真空試料室60内にはウェーハ導入手段61,ウェーハ搬送手段62を有する。真空試料室60に隣接してウェーハ移載ロボット82,カセット導入手段81が配置されている。真空試料室60の左隣には装置全体及び試料加工観察評価の一連の処理を制御管理する操作制御部100を配備している。」

記載事項コ
「【0035】集束イオンビーム光学系31からFIB4をウェーハ21に照射して、図4に示すように観察分析位置p2を横切ってコの字を描くように溝を形成する。加工領域は、長さ約5μm,幅約1μm,深さ約3μmであり、片方側面でウェーハ21と接続している。その後、試料台24を傾斜させ、FIB4で三角柱の斜面を形成するように加工する。ただし、この状態では、微小試料22とウェーハ21とは支持部で接続されている。
【0036】次に、試料台24傾斜を戻した後、微小試料22に、マニピュレータ70先端のプローブ72を微小試料22の端部に接触させた後に、FIB4の照射により堆積性ガスを接触点75に堆積させてプローブ72を微小試料22に接合し一体化する。更に、支持部S2をFIB4で切断して微小試料22を切取る。微小試料22はプローブ72に支持された状態になり、観察・分析を目的とする表面及び内部断面が微小試料22の観察分析面p3として取り出す準備が完了する。
【0037】次に、図5の(b)に示すように、マニピュレータ70を操作して微小試料22をウェーハ21表面から浮上する高さまで持ち上げる。尚、必要に応じてプローブ72に支持された状態で微小試料22にFIB4の照射角をマニピュレータの回転操作で適切に追加工して所望の観察断面p3を形成する。この追加工の一例としてFIB4が持つビームのテーパによって斜めに形成された観察断面p2を真に垂直断面とするための仕上げ加工がある。これまで行われてきた断面加工/観察ではFIBで掘った穴の側壁を観察面としなければならなかったのに対し、本実施例装置によれば、持ち上げた後に追加工することが可能であり、観察対象面を適宜移動させつつ、対加工を行うことができるので、所望の断面を適正に形成することが可能になる。
【0038】次に、微小試料22を回転させて、電子ビーム光学系41の電子ビーム8が観察断面p3へ概略垂直に入射するようにマニピュレータ70を動かして微小試料22の姿勢を制御した後静止させる。これにより、二次粒子検出器6での二次電子の検出効率は、試料断面を観察する場合であっても、ウェーハ最表面を観察する場合と同程度になり、微小試料22の観察分析面p3の観察条件は非常に良好なものになり、従来例で問題であった分解能の低下を回避でき、しかも観察分析面p2,p3の角度を望ましい角度に調整できるので、より綿密な観察分析ができるようになる。
【0039】また、微小試料22を、装置の外部に取り出すことなく、真空雰囲気の試料室内に置いたまま、観察・分析するため、対象試料の内部断面を室内大気暴露による汚染や異物付着無しに、高分解能,高精度,最適角度での観察・分析が実現可能となる。しかも1時間当たり2?3ヶ所以上の高い処理能力での観察・分析が可能となる。
【0040】更に、本実施例装置では観察断面p3を持つ微小試料22を、マニュピュレータ70によって種々の傾斜や移動を行うことができるので、例えば観察断面p2に孔を設け、試料内部の3次元的な断層形成状態をも確認することが可能になる。」

記載事項サ
「【0057】以上に述べたように、本実施の形態も、第1の実施例と同様に、高分解能で高速の観察分析ができる。本実施例は、1基の集束イオンビーム光学系を試料台に対して傾斜させることにより、試料台に傾斜機能を持たせることなくウェーハから微小試料を切出して摘出できる特長がある。光学系の周りには多くの機器を併せ搭載する必要があるのでスペース難となっており、それらの機器の合計質量も大きいため取付基板の剛性確保を含めた設計を難しいものにしている。またメンテナンス性も気掛かりとなる。本実施例は、試料台の傾斜機構が不要で、しかも集束イオンビーム光学系が1基で済むため、構造が単純で軽量小形にできコストも低減できる。
(実施例4)本発明の第4の実施例である微小試料加工観察装置の概略構成を図10を用いて説明する。本実施例では、図3に示した微小試料加工観察装置の基本構成に、第2試料台18と、第2試料台の角度や高さ等を制御する第2試料台制御装置19を加えたものである。本実施例における集束イオンビーム光学系31からイオンビームを試料に照射してウェーハから微小試料を摘出するまでの過程は第1実施例と同様である。本実施例は、摘出した微小試料を、マニピュレータで支持した状態で観察・分析する代わりに、第2試料台に固定し観察・分析を行うものである。」

記載事項シ





(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(a)引用発明の「イオン源としてガスフェーズイオン源が設けられたイオンビーム鏡筒10」と、本願補正発明の「エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部とが設けられたガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系」は、「イオンビーム照射系」である点で共通する。

(b)引用発明の「照射された電子ビーム21の照射軸がイオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20の照射軸に対し90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム鏡筒11」は、本願補正発明の「その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系」に相当する。

(c)引用発明の「試料19上の加工位置を定めるべくx,y方向に移動可となっている試料ステージ13」は、「試料ステージ13上に載置された試料19が」「イオンビーム鏡筒10から照射されたイオンビーム20と電子ビーム鏡筒11から照射された電子ビーム21との交差位置に」「配置され」ており、このことと、本願補正発明の「試料を支持する試料台と前記試料の一部を保持可能な試料ホルダとを有し、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に前記試料又は前記試料の一部が配置されるように前記試料台及び前記試料ホルダを移動可能な試料ステージ」は、「試料を支持する試料台を有し、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に前記試料が配置されるように前記試料台を移動可能な試料ステージ」である点で共通している。

(d)引用発明の「ガス吹付けノズル90」は、「イオンビーム20による加工において、SiO_(2)加工に対してはSF_(6),XeF等フッ素を含むガス91を、また、Al加工に対してはCl_(2),BCl_(3)等塩素を含むガスをガス吹付けノズル90より吹付けするようにすれば、スパッタ粒子は化学反応によってそれぞれフッ化シリコン,塩化アルミといった気体92に変化することになり、このため側壁41へのスパッタ粒子の再付着は殆ど発生せず、良好な断面を確保することが可能となる」のであるから、本願補正発明の「前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃」に相当する。

(e)引用発明の「イオンビーム鏡筒10が試料ステージ13の鉛直方向の上方に配置され、電子ビーム鏡筒11が鉛直方向に対して傾斜して配置され」ている構成は、本願補正発明の「前記イオンビーム照射系が前記試料ステージの鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されて」いる構成に相当する。

(f)引用発明の「集束イオンビーム加工装置」は、本願補正発明の「複合荷電粒子ビーム装置」に相当する。

上記(a)ないし(f)に記載したことからして、本願補正発明と引用発明は、
「イオンビーム照射系と、その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系と、
試料を支持する試料台を有し、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に前記試料が配置されるように前記試料台を移動可能な試料ステージと、
前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃と、
を備えており、
前記イオンビーム照射系が前記試料ステージの鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されている複合荷電粒子ビーム装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1
イオンビーム照射系が、本願補正発明は、エミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部とが設けられたガスフィールドイオン源を備えており、エミッタの先端部は、原子レベルで先鋭化されているのに対し、引用発明は、ガスフェーズイオン源を備えているものの本願補正発明のような構成であるか否かが不明である点。

相違点2
試料ステージが、本願補正発明では、試料の一部を保持可能な試料ホルダを有し、イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に試料の一部が配置されるように試料ホルダを移動可能であり、さらに、試料ホルダとの間で相対的に移動可能に設けられ、試料台から試料ホルダへ試料の一部を運搬可能なマニピュレータを備えているのに対し、引用発明では、試料の一部を保持可能な試料ホルダやマニピュレータを備えていない点。

(4)当審の判断
上記各相違点について検討する。
相違点1について
ガスフェーズイオン源を備えたイオンビーム装置が、エミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部が設けられたガスフィールドイオン源を備えていることは引用例2にも記載(上記記載事項キ、ク参照)されているように周知技術であるから、引用発明のガスフェーズイオン源が設けられたイオンビーム鏡筒10もエミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部が設けられたガスフィールドイオン源を備えているといえる。また、ガスフィールドイオン源のエミッタの先端部を原子レベルで先鋭化することは、特開平2-54851号公報(第2頁左上欄第3行?第3頁左上欄第2行参照)、特開平2-186545号公報(第2頁右上欄第16行?右下欄第9行、第4頁左上欄第9?16行参照)にも記載されているように周知技術であるから、必要に応じてエミッタの先端部を原子レベルで先鋭化させることも当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。

相違点2について
引用例3には、試料台24(本願補正発明の「試料台」に相当)に載置されたウェーハ21(本願補正発明の「試料」に相当)の一部を切断した微小試料22(本願補正発明の「試料の一部」に相当)を固定する第2試料台18(本願補正発明の「試料ホルダ」に相当)を有し、第2試料台18は第2試料台制御装置により角度や高さ等を制御され、微小試料22の観察・分析を行い、ウェーハ21から切断した微小試料22を運搬可能なマニピュレータ70を備えていることが記載(上記記載事項ケ?サ参照)されており、引用発明にこのような微小試料の観察・分析を行う構成を必要に応じて設けることは当業者であれば適宜なし得ることであるから、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易になし得ることである。

また、本願補正発明の効果は、引用発明、引用例3に記載された事項及び周知技術から予測し得る範囲内のものであり、格別のものとは認め難い。

よって、本願補正発明は、引用発明、引用例3に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年11月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部とが設けられたガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系と、その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系と、
試料を支持する試料台と前記試料の一部を保持可能な試料ホルダとを有し、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に試料又は前記試料の一部が配置されるように前記試料台及び前記試料ホルダを移動可能な試料ステージと、
前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃と、
前記試料ホルダとの間で相対的に移動可能に設けられ、前記試料台から前記試料ホルダへ前記試料の一部を運搬可能なマニピュレータと
を備えており、
前記イオンビーム照射系が前記試料ステージの鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されている
ことを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置。」

4.引用例
原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用例の記載事項は、上記「2.」「(2)」に記載したとおりである。

5.対比
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明の「エミッタ」についての限定事項である「前記エミッタの先端部は、原子レベルで先鋭化されている」を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明を対比すると、下記の点で相違する。

相違点1’
イオンビーム照射系が、本願発明は、エミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部とが設けられたガスフィールドイオン源を備えているのに対し、引用発明は、ガスフェーズイオン源を備えているものの本願発明のような構成であるか否かが不明である点。

相違点2
試料ステージが、本願発明では、試料の一部を保持可能な試料ホルダを有し、イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置に試料の一部が配置されるように試料ホルダを移動可能であり、さらに、試料ホルダとの間で相対的に移動可能に設けられ、試料台から試料ホルダへ試料の一部を運搬可能なマニピュレータを備えているのに対し、引用発明では、試料の一部を保持可能な試料ホルダやマニピュレータを備えていない点。

6.当審の判断
上記各相違点について検討する。
相違点1’について
ガスフェーズイオン源を備えたイオンビーム装置が、エミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部が設けられたガスフィールドイオン源を備えていることは引用例2にも記載(上記記載事項キ、ク参照)されているように周知技術であるから、引用発明のガスフェーズイオン源が設けられたイオンビーム鏡筒10もエミッタと、エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、イオンとなるガスを供給するガス供給部が設けられたガスフィールドイオン源を備えているといえる。したがって、上記相違点1’は実質的な相違点とはいえない。

相違点2について
相違点2については、上記「2.」「(4)」「相違点2について」に記載したとおり、引用例3に記載された事項に基いて当業者が容易になし得ることである。

また、本願発明の効果は、引用発明、引用例3に記載された事項から予測し得る範囲内のものであり、格別のものとは認め難い。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-26 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-15 
出願番号 特願2007-201905(P2007-201905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石田 佳久  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
北川 清伸
発明の名称 複合荷電粒子ビーム装置  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 西澤 和純  
代理人 志賀 正武  

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