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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1297128
審判番号 不服2014-650  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-14 
確定日 2015-02-05 
事件の表示 特願2012- 50932「画像処理装置及びその制御方法、並びにプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日出願公開、特開2012-114958〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 経緯
1.手続
本願は、平成17年8月4日(優先権主張平成16年8月30日)に出願した特願2005-226533号の一部を平成23年2月10日に新たな特許出願とした特願2011-27836号の一部をさらに平成24年3月7日に新たな特許出願としたものであって、平成25年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年1月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

2.査定
原査定の理由は、概略、以下の通りである。
理 由
本願の請求項1ないし15に係る発明(平成25年3月12日付け手続補正書による)は、その出願前に日本国内又は外国において、公然知られた発明、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1.特開平10-32701号公報
刊行物2.特開平9-247303号公報
公知技術 Xerox WorkCentre M20i
参考情報 CopyCentre C20 WorkCentre M20/M20i User Guide,米国,
XEROX CORPORATION,P.5-2-P.5-13,
URL,http://ec1.images-amazon.com/media/i3d/01/A/man-migrate/MANUAL000055061.pdf

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定]
平成26年1月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成25年3月12日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
画像処理装置であって、
前記画像処理装置の使用者を示す使用者情報を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された使用者情報によって特定される、前記画像処理装置の使用者自身の宛先情報を取得する取得手段と、
画像の送信宛先を設定する設定手段と、
前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを指示するための操作キーと、
を備え、
前記設定手段は、他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない場合に、前記操作キーが操作されたことに応じて前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを特徴とする画像処理装置。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を平成26年1月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
画像処理装置であって、
前記画像処理装置の使用者を示す使用者情報を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された使用者情報によって特定される、前記画像処理装置の使用者自身の宛先情報を取得する取得手段と、
画像の送信宛先を設定する設定手段と、
前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを指示するための操作キーと、
を備え、
前記設定手段は、他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定し、他の宛先情報が前記送信宛先として既に設定されている状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として追加して設定することを特徴とする画像処理装置。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。
(なお下線部は、本願発明に対する補正箇所である。)

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「設定手段」について、「他の宛先情報が前記送信宛先として既に設定されている状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として追加して設定する」という構成を付加して限定し、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1) 補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2) 引用発明
(2-1) 参考1
原審の拒絶理由において、参考として挙げられたインターネットのサイトによれば、2004年6月16日には「Xerox WorkCenter M20i」が既に販売されていることが掲載されており、本願優先権主張日前の2004年6月16日には、「Xerox WorkCenter M20i」が公然知られたものであると認められる。

(2-2) 参考2
原審の拒絶理由において、参考として挙げられた、M20iのユーザガイドのpdfファイルであるMANUAL000055061.pdfには以下の事項が掲載されている。

ア.「Sending an E-mail
The E-mail function allows you to send your documents as an E-mail message without going to a PC. The document is sent to the recipient's E-mail box as an attachment.
The document you want to send is scanned and then attached to the E-mail as an image file.」(5-2頁)
(邦訳)
「電子メールの送信
電子メール機能を使用すると、PCを使わなくても電子メールとして文章を送信することができます。文書は添付ファイルとして受信者のメールボックスに送信されます。
送信したい文書は、スキャンされた後、画像ファイルとして電子メールに添付されます。」

イ.「3 Enter the Sender's Name
The E-mail screen displays From or My Login Name, depending on the authentication setting.
Enter the sender's name using the Alphabet Keyboard, and then press the [Enter] key.
If authentication has been set-up, enter your Login Name and Password.」(5-4頁)
(邦訳)
「3 送信者の名前の入力
電子メールの画面では、FromかMy Login Nameかを認証の設定に応じて表示します。
アルファベットキーボードを使用して、送信者の名前を入力し、[Enter]キーを押してください。
認証が設定されている場合には、ログイン名とパスワードを入力してください。」

ウ.「4 Enter the Recipient's E-mail Address
The To screen displays. Enter the recipient's E-mail address and then press the [Enter] key.
You can directly enter an E-mail address using the Alphabet Keyboard.」(5-4頁)
(邦訳)
「4 受信者の電子メールアドレスの入力
Toと表示されます。受信者の電子メールアドレスを入力して[Enter]キーを押して下さい。
アルファベットキーボードを使用して電子メールアドレスを直接入力することができます。」

エ.「6 Send to Myself
Send to Myself? displays.
Select [Yes] to send a copy of the E-mail to your own mail account.
Select [No] if a copy is note required.
Press [Enter].」(5-5頁)
(邦訳)
「6 自分自身への送信
自分自身に送信しますか?と表示されます。
使用者自身のメールアカウントに電子メールのコピーを送信する場合には[はい]を選択して下さい、
コピーが必要ない場合には[いいえ]を選択して下さい。
[Enter]キーを押して下さい。」

上記ア.?エ.の掲載事項及び関連する図面並びにこの分野の技術常識を考慮して、M20iの構成について検討する。

a.ア.によれば、M20iが、スキャンした文章を、画像ファイルとして電子メールに添付して送信する機能を有することが掲載されている。

b.イ.によれば、M20iにおいて、アルファベットキーボードを使用して送信者のログイン名とパスワードを入力することが掲載されている。

c.電子メールの送信のために入力された電子メールアドレスは、実際に送信に用いるためには送信宛先として設定されなければならないことは自明であることから、ウ.に掲載された受信者の電子メールアドレスの入力に対応して、入力された受信者のメールアドレスを送信宛先として設定する手段をM20iが有することもまた自明であると認められる。

d.エ.において、M20iに対して[はい]を選択することが掲載されていることから、M20iは[はい]を選択するための手段を当然に備えているものと認められる。
また、メールアカウントに電子メールを送信するためには、メールアカウントに対応した電子メールアドレスを電子メールの送信宛先として設定しなければならないことが技術常識であることから、自分自身のメールアカウントに電子メールのコピーを送信する場合に[はい]を選択し、[Enter]キーを押すことは、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを当該電子メールの送信宛先として設定することであるといえる。

e.ウ.、エ.の掲載、およびc.、d.の検討によれば、番号「4」の処理により、入力する受信者の電子メールアドレスが送信宛先として設定されており、番号「6」の処理により自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスが送信宛先として設定されている。
ここで、ユーザーガイドの記載から、番号の順に処理が行われるとするのが自然であり、また、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定する処理が後段にあることから、番号「4」の処理により入力する受信者の電子メールアドレスは、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なるものであると認められる。


ここで、(2-2)で挙げたpdfファイルの更新日は、プロパティで示されるメタデータによれば2004年3月10日となっている。さらにXerox社のホームページにおいて開示されている同様のプロパティで示される更新日が2005年1月10日となっているM20iのユーザガイドのpdfファイルUG_Eng.pdfにも(2-2)で挙げたpdfファイルの掲載事項と同じ事項が掲載されていることから、参考1の2004年6月16日に販売されていたM20iにも、ユーザガイドに掲載されている上記構成は当然に搭載されていたものと推認される。

よって、これらの掲載事項及び当該技術分野の技術常識を考慮すると、「M20i」は、以下の構成を備えているものと認められる。
「スキャンした文章を、画像ファイルとして電子メールに添付して送信する機能を有するM20iであって、
送信者のログイン名とパスワードを入力するアルファベットキーボードと、
電子メールの送信宛先を設定する手段と、
自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定するための、[はい]を選択する手段及び[Enter]キーと、
を備え、
前記設定する手段は、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なる受信者の電子メールアドレスを前記送信宛先として設定した後に、前記[はい]を選択する手段と[Enter]キーが操作されたことに応じて、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを前記送信宛先として設定するM20i。」

したがって、本願出願の優先権主張日前である平成16年6月16日には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が公然知られたものであると認められる。

(引用発明)
「スキャンした文章を、画像ファイルとして電子メールに添付して送信する機能を有するM20iであって、
送信者のログイン名とパスワードを入力するアルファベットキーボードと、
電子メールの送信宛先を設定する手段と、
自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定するための、[はい]を選択する手段及び[Enter]キーと、
を備え、
前記設定する手段は、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なる受信者の電子メールアドレスを前記送信宛先として設定した後に、前記[はい]を選択する手段と[Enter]キーが操作されたことに応じて、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを前記送信宛先として設定するM20i。」


(3) 対比
補正後の発明と引用発明とを対比する
(A) 引用発明の画像ファイルを電子メールに添付して送信する機能を有する「M20i」は、文章をスキャンして画像ファイルを生成する処理を行うことから、補正後の発明の「画像処理装置」に相当する。

(B) 引用発明の「送信者のログイン名とパスワードを入力するアルファベットキーボード」に関し、「送信者」は、電子メールを送信するためにM20i((A)で述べたように補正後の発明の「画像処理装置」に相当する。)を使用する人物であることから、補正後の発明における「画像処理装置の使用者」に相当し、また、「ログイン名とパスワード」は、イ.にあるように送信者を認証するための情報であり、認証のためには該情報が送信者を一意に示さなければならないことは自明であることから、補正後の発明における使用者を示す「使用者情報」に相当し、そして「ログイン名とパスワード」を入力するための手段である「アルファベットキーボード」は、補正後の発明において「使用者情報」を入力するための手段である「入力手段」に相当する。
したがって、引用発明の「送信者のログイン名とパスワードを入力するアルファベットキーボード」は、補正後の発明の「前記画像処理装置の使用者を示す使用者情報を入力する入力手段」に相当する。

(C) 引用発明の「電子メールの送信宛先を設定する手段」に関し、当該「電子メール」にはa.で検討したように「画像ファイル」が添付されており、当該「画像ファイル」が補正後の発明における「画像」に相当することから、引用発明の「電子メールの送信宛先」は、補正後の発明の「画像の送信宛先」に相当し、また、送信宛先を設定する手段である「設定する手段」は、補正後の発明の「設定手段」に相当する。
したがって、引用発明の「電子メールの送信宛先を設定する手段」は、補正後の発明の「画像の送信宛先を設定する設定手段」に相当する。

(D) 引用発明の「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定するための、[はい]を選択する手段及び[Enter]キー」に関し、「自分自身」は、M20iを使用して電子メールを送信しようとしている送信者自身であることから、補正後の発明の「使用者自身」に相当し、「メールアカウントに対応した電子メールアドレス」は、宛先を表す情報であることは技術常識であることから、補正後の発明の「宛先情報」に相当し、「送信宛先として設定するための[はい]を選択する手段及び[Enter]キー」は、[はい]を選択する手段及び[Enter]キーを操作することによって、送信宛先を設定させるものであることから、補正後の発明の「送信宛先として設定することを指示するための操作キー」と「送信宛先として設定することを指示するための操作手段」である点で共通し、「操作手段」が引用発明においては「[はい]を選択する手段と[Enter]キー」であるのに対し、補正後の発明においては「操作キー」である点で相違する。
したがって、引用発明の「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定するための、[はい]を選択する手段及び[Enter]キー」は、補正後の発明の「前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを指示するための操作キー」と、「前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを指示するための操作手段」である点で共通し、「操作手段」が引用発明においては「[はい]を選択する手段と[Enter]キー」であるのに対し、補正後の発明においては「操作キー」である点で相違する。

(E) 引用発明の、「前記設定する手段は、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なる受信者の電子メールアドレスが送信宛先として既に設定されている状態で、[はい]を選択する手段と[Enter]キーが操作されたことに応じて、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスも送信宛先として設定する」に関し、(C)、(D)で検討したとおり、「設定する手段」と「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレス」は、補正後の発明の「設定手段」と「使用者自身の宛先情報」にそれぞれ相当し、「[はい]を選択する手段と[Enter]キー」は補正後の発明の「操作キー」と「操作手段」である点で共通する。
そして「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なる電子メールアドレス」は、「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレス」とは「異なる」、すなわち「自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレス」の「他の」電子メールアドレスであることは明らかであり、(D)で検討したように電子メールアドレスが電子メールの宛先を示す情報であることは技術常識であるから、「他の宛先情報」に相当する。
また、受信者の電子メールアドレスを送信宛先として「設定した後に」、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスの送信宛先として「設定する」ことは、補正後の発明における、他の宛先情報が送信宛先として「既に設定されている状態で」使用者自身の宛先情報を送信宛先として「追加して設定する」ことに相当する。
したがって、引用発明の「設定する手段」と補正後の発明の「設定手段」に関し、引用発明における、「前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとは異なる受信者の電子メールアドレスを前記送信宛先として設定した後に、前記[はい]を選択する手段と[Enter]キーが操作されたことに応じて、前記自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを前記送信宛先として設定する」ことと、本願発明における「他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定し、他の宛先情報が前記送信宛先として既に設定されている状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として追加して設定する」ことは、両者とも「他の宛先情報が前記送信宛先として既に設定されている状態で前記操作手段が操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として追加して設定する」点で共通し、引用発明においては、「他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定」することが規定されていない点、および(D)での検討と同様、「操作手段」が引用発明においては「[はい]を選択する手段と[Enter]キー」であるのに対し、補正後の発明においては「操作キー」である点で相違する。

したがって、補正後の発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違している。
(一致点)
「画像処理装置であって、
前記画像処理装置の使用者を示す使用者情報を入力する入力手段と、
画像の送信宛先を設定する設定手段と、
前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定することを指示する操作手段と、
を備え、
前記設定手段は、他の宛先情報が前記送信宛先として既に設定されている状態で前記操作手段が操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として追加して設定することを特徴とする画像処理装置。」

(相違点)
(a) 補正後の発明においては入力された「前記入力手段により入力された使用者情報によって特定される、前記画像処理装置の使用者自身の宛先情報を取得する取得手段」を備えるのに対して、引用発明においてはそのような構成を備えるているのか不明である点。

(b) 使用者自身の宛先情報を送信宛先として設定することを指示するための「操作手段」が補正後の発明は「操作キー」であるのに対して、引用発明は「[はい]を選択する手段及び[Enter]キー」である点。

(c) 補正後の発明は、「設定手段」が「他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定」するのに対し、引用発明においては「設定手段」が「他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作キーが操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定」することが規定されていない点。

(4) 当審の判断
上記相違点(a)ないし(c)について検討する。

相違点(a)について
引用発明において送信宛先として自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを設定するに際して、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを改めて入力させる点については記載されていない。しかしながら、引用発明では自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを使用者に入力させていないにも関わらず、該アドレスが送信宛先として設定されている。ここで、使用者は認証により特定されていることから、当業者であれば、認証のために入力されたログイン名とパスワードと、自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスとを関連付けておくことで、該アドレスを特定し、入力させるようにすることは容易に想到しうる程度の事項に過ぎない。
したがって、相違点(a)は格別なものではない。
(なお、Xerox社のホームページにおいて2004年5月6日付けで開示されている、プロパティで示される更新日が2004年3月18日となっているM20iのシステム管理者ガイドのpdfファイルSystem_Administration_Guide_en.pdf
には、以下の事項が開示されている。

「Configuring Authentication
If a user has successfully logged into a device with Authentication enabled the WorkCentre M20i will match the user's login name to their Email address. The user's Email address will then be used to populate the “From” Email address field.」(9-7頁)
(邦訳)
「認証の設定
ユーザーが認証において正常に機器にログインした場合には、WorkCentre M20iはユーザのログイン名から電子メールアドレスを特定することができます。
特定された電子メールアドレスは、電子メールアドレス欄の「From」の設定に使用されます。」

すなわち、M20iはログイン名から特定したユーザの電子メールアドレスを取得する機能を有するものである。)

相違点(b)について
特定の操作を行う際に、複数の操作手段を用いるか、単一の操作手段を用いるかは適宜設定しうる設計的事項に過ぎないことから、引用発明においても自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスを送信宛先として設定する操作手段として、[はい]を選択する手段及び[Enter]キーを用いるか、単一の操作キーを用いるかは、適宜設定しうる設計的事項に過ぎない。
したがって、相違点(b)も格別なものではない。

相違点(c)について
電子メールの送信に際し自分自身にだけ電子メールを送信することは、電子メールの使用において通常に起こる一態様に過ぎない。
したがって、引用発明においても、番号「4」の処理において他の電子メールアドレスを送信宛先として設定することなく、番号「6」の処理において自分自身のメールアカウントに対応した電子メールアドレスのみ送信宛先として設定することは、通常に起こる事項に過ぎず、そのように設定すれば引用発明の「設定手段」においても「他の宛先情報が前記送信宛先として設定されていない状態で前記操作手段が操作されたことに応じて、前記使用者自身の宛先情報を前記送信宛先として設定」することになるのは自明である。
なお、「操作手段」を「操作キー」とすることについては、上記相違点(b)で検討した通りである。
したがって、相違点(c)も格別なものではない。

以上のとおり、各相違点は格別なものではない。
そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-01 
結審通知日 2014-12-05 
審決日 2014-12-16 
出願番号 特願2012-50932(P2012-50932)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04N)
P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 努堀井 啓明  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 豊島 洋介
清水 正一
発明の名称 画像処理装置及びその制御方法、並びにプログラム  
代理人 永川 行光  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  
代理人 下山 治  
代理人 高柳 司郎  

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