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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23C
管理番号 1297579
審判番号 不服2012-20149  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-12 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2010-507707号「凍結乾燥し空気混和した乳又は乳代替組成物及びその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/141233、平成22年8月5日国内公表、特表2010-526538号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、2008年5月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年5月9日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年6月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものであって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年10月12日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
「乳代替成分又は低温殺菌された乳成分と、あるいは、乳代替成分及び低温殺菌された乳成分と、
乳化剤と、
増粘剤と、を含む、
凍結乾燥し空気混和した乳又は乳代替組成物であって、
前記組成物の硬度が0.5?8ポンドフォース(2.224?35.58N)であり、
前記組成物の、乾燥状態と湿潤状態との硬度の差が0.1?8ポンドフォース(0.444?35.58N)であり、
前記硬度は、100Nのロードセル及び#2830-011圧縮アンビルを取り付けたInstron Universal試験機モデル4465を使用し、前記組成物が破壊される前の圧縮アンビルの移動のスピードを1mm/秒とした際の、前記組成物が破壊される前のピーク負荷力として測定される、組成物。」

2.刊行物に記載された事項及び発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である「特表平3-505525号公報」(以下「刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審にて付与したものである。)
(1)「1.望ましい所定の幾何学的形状を有し、且つすぐに食べられる凍結乾燥食品の製造法において、
a)成分を混合すること、
b)成分を均質化するか、又は成分を混合物中に均ーに分配すること、
b1)空気を混合物中に、成分の最初の容積の3から90%の割合まで混入すること、
c)得られた生成物を所望の形状に成形すること、
d)成形された生成物を-15℃から-60℃の温度で急速冷凍すること、および
e)そのようにして得られた生成物を0から10%の残留水分(カールフィッシャー法によって測定)になるような凍結乾燥条件で凍結乾燥することの工程を包含することを特徴とする、凍結乾燥食品の製造法。」(請求項1)
(2)「11.生成物の殺菌を工程b)で行なう、請求項1から10の何れか1項記載の方法。」(請求項11)
(3)「19.幾何学的形状を有し、請求項1から18の何れか1項に記載の方法によって得られる凍結乾燥食品において、すぐに食べられ、且つ
新鮮なヨーグルトおよび/ 0-100%
又は新鮮な牛乳
果実 0-100%
他の液体又は固体成分 0-100%
添加物 0-10%
を包含することを特徴とする、凍結乾燥食品 。」(請求項19)
(4)「20.生成物は、
新鮮な乳 9-80%
果実 2-90%
他の液体又は固体成分 0-70%
添加物 0-10%
を包含する、請求項19に記載の生成物。」(請求項20)
(5)「26.添加物は増粘剤,乳化剤,着色剤,フレーバ付与剤,酸化防止剤,酸性剤から成る、請求項1から25の何れか1項に記載の生成物。」(請求項26)
(6)「28.記載した方法によって測定したコンシステンシィー又はテクスチャーは次の数値、
-侵入抵抗 0.1-10kg/mm
-クラムブリネス 0.05-5kg
-生成物中に6mmの侵入深度に対してなされた仕事 0.5-10kg×mm
によって確認される、請求項19から26の何れか1項に記載の方法。」(請求項28)
(7)「29.コンシステンシィー又はテクスチャーは次の数値、
-侵入抵抗 2-5kg/mm
-クラムブリネス 0.1-3kg
-生成物中に6mmの侵入深度のためなされた仕事 1-8.5kg×mm
によって確認される、請求項28記載の生成物。」(請求項29)
(8)「更に本発明は、固形ですぐ食べることができ、そのような形態での全ての有利な特徴を有するが、処方物自体に使用した成分の最初の栄養的特徴を実質的に変更させない、上記の種類の製品に関する。
すぐに食べられるスナックの使用は市場での流通および同じ物が食べられるという顕著な利点により非常に普及している。
それ等の在庫および貯蔵の容易さと、輸送および食べる際における使用者側の実質的な利点について、特にここで言及する。」(2頁右下欄10行?19行)
(9)「すなわち、上記の特徴を有する食品の製造法を出願人の実験室で実現し、この方法は凍結乾燥食品に所定の幾何学的形状を付与し、かつすぐ使用できるようにする処理工程を包含し、前記食品はそれ等の処方物に使用した成分のあらゆる官能的および栄養的特徴を実質的に変わらず保持している。
そのような結果は、意図した全ての液体および固体(粉末および/又はベレット)成分を混合した後、連続的な攪拌下で生成物内に空気を混入し、同時に又は別に冷却する方法を行う本発明により得られ、前記の処理は混合物を高粘度の可塑性の状態にし、次に行なう好ましくは押出しによる成形操作を可能にする。次に生成物を急速凍結し、ついで固体の形態になるよう凍結乾燥する。
本発明の方法によって得られるこのような生成物の製造から生ずる利点は自明なことであり、特にそれは商業的な種類の利点および消費者の利点と見なすことかできる。
商業的な種類の利点の中には、更に容易な取り扱いと輸送を可能とする生成物の減量と、流通費の著しい減少が得られるように室温での貯蔵の可能性か含まれる。
消費者は同種の非凍結乾燥製品よりも容易に運搬することができる製品を自由に手に入れられ、更に冷蔵庫又は類似の冷却手段を持つ必要なしに自由にその製品を運搬することが可能となる。」(3頁左上欄15行?右上欄13行)
(10)「更に本発明により、工程b)は混合物を殺菌して完全なものにすることができる。」(3頁左下欄16行?17行)
(11)「更に全体として、工程bl)とb2)の3つの操作およびそれ等の正しい実施は更に以下の利点を示す。即ち、
-非常に小さな水の結晶核の形成、
-瞬間的再構成
-本発明の方法で得た製品の独得の特徴である微細な穴のある構造および砕けやすいコンシステンシィー。
工程C)は、連続的に混合しながら前の冷却によって粘性でかつ可塑性となった生成物を成形する操作から成り、本発明により好ましくは押出しおよび延伸により、又は型への充填によって実施することかできる。
凍結乾燥工程f)に関しては、高い減圧下で行う。」(4頁左上欄23行?右上欄8行)
(12)「上記の方法により得た凍結乾燥製品は、特徴のあるコンシステンシィー又はテクスチャーを有し、測定によって次の生成物の特性を示すことができる、
1)耐侵入性、
2)クラムブリネス、
3)生成物塊への6mmの侵入に対して働く仕事。
そのような特性は4301インストロンダイナモメーターを使用し、次の方法によって測定した。
試験1:侵入抵抗
材料および方法
-直径8mmの鋼製シリンダーから得た、次の特性を有するのみ型ビット
-切断基部の長さ 0.5mm
-切断基部の巾 8 mm
-先細り部の角度 22゜
-供給速度 50 mm/min
-使用した力 10kg
評価:
器具の侵入に対する生成物の抵抗の記録から、最初の部分は直線につながる曲線が得られる。曲線のそのような直線部分の勾配はkg/mmで示す侵入抵抗値を示す。測定値は同一の大きさの試料について少くとも10回の試験の平均値から得る。
試験2:クラムブリネスおよび6mmの侵入深度でなされた仕事。
材料および方法
-シリンダービットの径 0.3mm
-供給速度 2mm/分
-使用した力 10kg
-侵入深度 6mm
評価:
上記の試験を行うことにより、2つのピークを有する曲線が得られる。
最初のピークの高さはkgで示すクラムブリネスを示す。
第2の測定可能な特性は生成物中に6mm侵入するのに必要な仕事であり、その仕事は曲線下の面積に比例し、kg×mmで表わす。
本発明により得た凍結乾燥生成物で測定される平均特性は次のようである、
1)侵入抵抗=0.1から10kg/mm、好ましくは2から5kg/mm、
2)クラムブリネス: 0.05から5kg、好ましくは0.1から3kg、
3)6mmの深度への侵入に対する仕事:0.05から10kg×mm、好ましくは1から8.5kg×mm。」(4頁右上欄9行?右下欄3行)
(13)「例I
次の成分で本方法を行う。
-天然ヨーグルト 70.0%
-いちご粉砕物 13.1%
-乾燥赤かぶ 1.2%
-カラジーナン 0.1%
-いちごフレーバ 0.2%
-大豆レシチン 0.1%
-デキストロース 15.2%
-L-アスコルビン酸 0.1%
-被覆:水素添加したレモンフレーバ植物脂肪による。
最初に乾燥赤かぶ、カラジーナン、大豆レシチン、デキストロースおよびアスコルビン酸(固形成分)を混合し、ついてその混合物をいちごフレーバと共にヨーグルトおよびいちご粉砕物に加える。
成分を混合物中に均一に分散するように、混合物全体を+4°Cの温度に保持しつつ、さらに混合する。
次に生成物は半固形のテクスチャー(-5℃から-12℃)を示し始め、最初の容積10から30%の割合の空気を混入する迄、混合物を環境圧力下で連続的に混合して冷却する。
次に、生成物の表面の溶解を生じないように、かつ混入した空気が摘出しないように注意しながら、生成物を押出し成形する。
生成物を-30℃から-40℃の温度で急速凍結し、次にあらかじめ冷却したライオスタットのトレー上に6.8kg/cm^(2)の割合で置き、生成物の温度を-30℃の値にコンスタントに保持する。
径1.2cmの棒状の生成物の場合に、凍結乾燥は次の如く行う。
-プレートの最高温度 65°C
-生成物表面の最高温度 30°C
-ライオスタット内の圧力 0.3 mmHg
凍結乾燥法は終了した時、残留水分は4%から6%の間が好ましい。
インストロン装置および続いて既に上文で示した方法で測定したコンシステンシィー又はテクスチャーの数値は次の通りである。
-侵入抵抗 0.5から2.5kg×mm
-クラムブリネス 0.3から0.5kg
-6mmの深度に侵入時になされた仕事 1.5から2.2kg×mm
凍結乾燥した製品を容器から取り出し、選別し、レモンフレーバの被覆をし、包装する。」(5頁左上欄1行?右上欄19行)
(14)上記記載事項(3)によると、請求項19に記載の凍結乾燥食品は、請求項1の製造方法で製造された凍結乾燥食品における成分を限定して製造されたもので、成分として牛乳が示されている。
記載事項(4)および(5)によると、請求項26には、請求項19の凍結乾燥食品の添加剤として増粘剤、乳化剤が示され、記載事項(4)及び(13)も合わせみると、添加剤としての増粘剤、乳化剤は、成分として混合されるものといえる。
記載事項(6)および(7)によると、上記請求項26を引用する請求項28を、さらに引用する請求項29には、凍結乾燥食品である生成物、つまり凍結乾燥食品が記載されている。

上記記載事項(1)?(13)及び(14)で検討した事項を総合すると、刊行物には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「望ましい所定の幾何学的形状を有し、且つすぐに食べられる凍結乾燥食品であって、
a)成分である、新鮮な牛乳並びに増粘剤および乳化剤から成る添加物を混合すること、
b)成分を均質化するか、又は成分を混合物中に均ーに分配すること、
b1)空気を混合物中に、成分の最初の容積の3から90%の割合まで混入すること、
c)得られた生成物を所望の形状に成形すること、
d)成形された生成物を-15℃から-60℃の温度で急速冷凍すること、および
e)そのようにして得られた生成物を0から10%の残留水分(カールフィッシャー法によって測定)になるような凍結乾燥条件で凍結乾燥することの工程を包含する製造法で製造される、凍結乾燥食品であって、その、コンシステンシィー又はテクスチャーは次の数値、
-侵入抵抗 2-5kg/mm
-クラムブリネス 0.1-3kg
-生成物中に6mmの侵入深度のためなされた仕事 1-8.5kg×mmである、
凍結乾燥食品。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)後者の「新鮮な牛乳」は前者の「乳成分」に相当する。
(2)後者の「空気を混合物中に、成分の最初の容積の3から90%の割合まで混入すること」は前者の「空気混和」することに相当する。
なお、本願の段落【0021】の「2. 窒素ガスを、Mondoミキサー(ミクシングヘッド温度を35?45°Fに維持するためのプラント氷水循環システムに連結している)によってヨーグルトと混合する。生成物のオーバーランは、20%?80%の範囲とすることができる。しかし、好ましくは、オーバーランの目標は、30%?50%、最も好ましくは35%?45%である。この工程は、連続的に起こる。」との記載を勘案しても、引用発明の記載事項(9)を参酌すれば、両者は空気混和の態様において相違しない。
(3)後者の「そのようにして得られた生成物を0から10%の残留水分(カールフィッシャー法によって測定)になるような凍結乾燥条件で凍結乾燥」は、本願発明の「凍結乾燥」に相当する。本願の発明の詳細な説明に「残留水分」の具体的な開示はなく、「凍結乾燥」という点において、両者は相違しない。
(4)後者の「コンシステンシィー又はテクスチャーは次の数値、
-侵入抵抗 2-5kg/mm
-クラムブリネス 0.1-3kg
-生成物中に6mmの侵入深度のためなされた仕事 1-8.5kg×mmである」との事項は「凍結乾燥食品」の特性を表すものといえ、前者の「硬度」と、「特定の特性」である限りで共通する。
(5)後者の「凍結乾燥食品」は、複数の成分から成るものであるから、前者の「組成物」に相当する。

(6)したがって、両者は、
「乳成分と、
乳化剤と、
増粘剤と、を含む、
凍結乾燥し空気混和した乳であって、
特定の特性を有する、組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点A:乳成分に関し、本願発明が「低温殺菌された」ものであるのに対し、引用発明は明らかでない点。
相違点B:特定の特性に関し、本願発明が「前記組成物の硬度が0.5?8ポンドフォース(2.224?35.58N)であり、 前記組成物の、乾燥状態と湿潤状態との硬度の差が0.1?8ポンドフォース(0.444?35.58N)であり、
前記硬度は、100Nのロードセル及び#2830-011圧縮アンビルを取り付けたInstron Universal試験機モデル4465を使用し、前記組成物が破壊される前の圧縮アンビルの移動のスピードを1mm/秒とした際の、前記組成物が破壊される前のピーク負荷力として測定される」ものであるのに対し、
引用発明は「コンシステンシィー又はテクスチャーは次の数値、
-侵入抵抗 2-5kg/mm
-クラムブリネス 0.1-3kg
-生成物中に6mmの侵入深度のためなされた仕事 1-8.5kg×mmである」点。

4.判断
(1)相違点Aについて
上記刊行物には「更に本発明により、工程b)は混合物を殺菌して完全なものにすることができる。」(2(10))と記載されており、工程b)ではあるものの、引用発明においても牛乳を「殺菌」することが意図されている。
一方、牛乳を低温殺菌することや低温殺菌牛乳は、当技術分野において周知の技術にすぎない(必要あれば、特公平07-2079号公報(請求項2)や国際公開第2006/075772号(段落【0006】)等参照。)から、使用する牛乳として、低温殺菌された牛乳を用いることは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことである。
そしてそのことによる格別の効果もない。

(2)相違点Bについて
ア.特性として、硬度を用いることについて
本願発明の「硬度」については、発明の詳細な説明の段落【0009】に、「「硬度」は、材料が破壊される前のピーク応力として定義される。Instron(Canton、MA)によって製造された100Nのスタティックロードセルを有する万能試験機モデル4465を使用する。試験のために使用するプローブは、圧縮アンビル#2830-011である。プローブのスピードの初期設定は、約90%圧縮に対し1mm/秒であった。」と記載されている。
一方、引用発明の「コンシステンシィー又はテクスチャー」については、2(12)で摘示したものであって、「2)クラムブリネス」に着目すると、
4301インストロンダイナモメータ-を使用した試験2におけるクラムブリネスに関し、
材料および方法が
-シリンダービットの径 0.3mm
-供給速度 2mm/分
-使用した力 10kg
-侵入深度 6mm であり、
評価として、上記の試験を行うことにより、2つのピークを有する曲線が得られること、
最初のピークの高さはkgで示すクラムブリネスを示すこと、及び、
クラムブリネスが0.05から5kg、好ましくは0.1から3kgであることが記載されている。
引用発明の「クラムブリネス」は「crumbliness」、すなわち「壊れやすさ」と解され、「ピークを有する曲線が得られる」、「最初のピークの高さはkgで示すクラムブリネスを示す。」との記載を踏まえると、壊れる直前の「Kg」で表される最初のピークの高さであると理解できる。
そうすると、本願発明の「硬度」と引用発明の「クラムブリネス」は、材料が破壊される前のピーク応力である点で軌を一にするといえる。
その値についてみても、測定装置が同じではないものの、本願発明の硬度が「0.5?8ポンドフォース」であるのに対し、引用発明のクラムブリネスは、「0.1?3Kg」すなわち、「0.22?6.6ポンドフォース」(1Kgは、2.2ポンドフォースとして換算。)であって、重複するものである。
したがって、引用発明のクラムブリネスは本願発明の硬度と同様の測定項目、つまり特性である蓋然性が高い。

イ.硬度の数値範囲について
(ア)引用発明について
引用発明の「凍結乾燥食品」は、「固形ですぐ食べることができ」る「スナック」(2(8))様のものであって、「所定の幾何学的形状を付与」(2(9))されるものであるから、何らかの処理を施すことなく、固形の状態で喫食が可能なものであると解される。
そして、上記(1)で述べたように、クラムブリネスは材料が破壊される前のピーク応力であって、壊れやすさを規定するものであることは明らかであるから、引用発明のクラムブリネスは、上記固形の状態で喫食することを想定して硬度を規定しているものといえる。
そうすると、その硬度の上限に関して、喫食時に、口腔内で容易に破壊できて咀嚼可能となることが必要であることは、当業者にとって直ちに想定できることである。
一方、喫食時に「所定の幾何学的形状」を維持した固体であり、刊行物に「それ等の在庫および貯蔵の容易さと、輸送および食べる際における使用者側の実質的な利点について」(2(8))と記載されるように輸送時も考慮するものであるから、喫食時口腔で破壊するまでは、輸送時も含めて、その「所定の幾何学的形状」を維持することが求められるものであり、下限について、そのような値としたものであることも直ちに想定できる。なお、搬送時の壊れやすさに関しては、大きさや形状、梱包等によっても必要な硬度は異なるものであって、これらを合わせ考慮して硬度を設定することも通常のことである。
さらに、乳製品に関しては、幼児の飲食を考慮することも通常のことであって、幼児用の食品として、ウエハース等、より粉砕されやすく上限を下げるとともに、これにより唾液により溶けて飲み込み易い状態となるようにすることも、当業者にとって通常のことである。

以上述べたようであるから、搬送時を含めて「所定の幾何学的形状」を維持する程度の硬度とするべく下限を設定するとともに、
喫食時に、口腔内で容易に破壊できて咀嚼可能となるように、さらに幼児の喫食にも対応するように、できるだけ低い上限とすることも当業者にとって、その調製時、通常考慮する筈のことである。

(イ)本願発明について
本願発明について、本願の発明の詳細な説明の段落【0001】に「空気混和は、軽いふわふわした質感などの望ましい特性を与えることができる。」「水和し空気混和した生成物は、凍結乾燥した場合、生成物の輸送及び取り扱いの間の脆弱性を増す結果となることがある。」と、段落【0002】に「香味が消費者の味蕾に伝達されるような速度で、容易な溶解性をそれでも保持しなければならない。さらに、生成物は、経口の運動能力又は消化機能が制限された又は発達不十分な消費者の窒息の危険のリスクを減少させるため、容易に溶解できるべきである。」及び「空気混和を増加させることによって、溶解性を改善することができる。しかし、空気混和を増加させることは、最終生成物の硬度を減少させるという悪影響を有する。硬度が特定のレベルを超えて減少した場合、生成物の物理的安定性が損なわれる場合がある。」と記載されていることから、
本願発明の硬度の下限である0.5ポンドフォースという値について、「経口の運動能力又は消化機能が制限された又は発達不十分な消費者の窒息の危険のリスク」を考慮するものともいえるものの、その値自身は「生成物の輸送及び取り扱いの間の脆弱性」、つまり輸送及び取り扱いの間に壊れない硬度といえる。
そうすると、本願発明の硬度の下限値は、引用発明の「喫食時口腔で破壊するまでは、輸送時も含めて、その「所定の幾何学的形状」を維持する」硬度と同様の下限値であると推測でき、上記に検討した下限値の技術的意義において両者は相違しない。

また、その上限値の8ポンドフォースは、軽いふわふわした質感などの特性を与え、かつ、香味が消費者の味蕾に伝達されるような速度で容易な溶解性を保持でき、さらに、経口の運動能力又は消化機能が制限された又は発達不十分な消費者の窒息の危険のリスクを減少できる程度に容易に溶解できることを考慮して、それが可能な上限を意味するものと解し得る。
しかしながら、上限値の8ポンドフォースは下限値の16倍もあり、上記したように引用発明において、上限値をできるだけ低いものとするとき、その値は下限値に近づくものである。そうすると、上記のように引用発明において、上限値をできるだけ低い値とするとき、通常、下限値の16倍より小さな値とするものといえるから、下限値との関係において引用発明の上限値は本願発明の上限値より低く、当業者が容易に設定し得た事項である。

(ウ)測定装置について
引用発明のクラムブリネスの測定方法は、上記ア.で述べたものであって、10kgの力で、0.3mmの径のシリンダービットを取り付けた4301インストロンダイナモメータ-を使用し、供給速度を2mm/分とした際に得られる、壊れる直前の、曲線の最初のピークの力である。
引用発明の力の10kgはほぼ100Nであるから、本願発明のロードセルと同様の力といえ、測定できる最大の力についてはほぼ同様の測定装置である。
引用発明の「0.3mmの径のシリンダービットを取り付けた4301インストロンダイナモメーターを使用し、供給速度を2mm/分」とすることと、本願発明の「#2830-011圧縮アンビルを取り付けたInstron Universal試験機モデル4465を使用し、前記組成物が破壊される前の圧縮アンビルの移動のスピードを1mm/秒」とすることとは、圧縮アンビルを取り付けた試験機を使用し、前記組成物が破壊される前の圧縮アンビルの移動のスピードを一定速としている点で共通する。
つまり、引用発明の4301インストロンダイナモメーターと本願発明のInstron Universal試験機モデル4465は一定速で圧縮アンビルを移動し、そのときの力を測定している点で同様の測定を行う測定装置といえる。
そうすると、引用発明において、シリンダービットや供給速度を、具体的にいかなるものとするかについては、硬度を設定するにあたり一定の基準として採用したというにすぎず、本願発明の試験機のように設定することは、当業者が設計時に適宜選択できたものである。本願の明細書にもその装置としたことによる効果は記載されておらず、そのこと自体に格別の技術的意義は認められない。また、そのための測定装置も適宜選択採用できたものである。

以上のとおりであるから、引用発明において、(ア)及び(イ)で述べたように、喫食時口腔で破壊するまでは、輸送時も含めて、その「所定の幾何学的形状」を維持するしつつも、より粉砕されやすくなるように硬度の下限値を設定し、かつこれに近づくように上限値を低く設定すること、及び、(ウ)で述べたように、これの硬度を測定するにあたり、適宜、圧縮アンビルや測定装置を用い、圧縮アンビルの移動速度を設定することは、当業者にとって容易である。そして、本願発明の「0.5?8ポンドフォース(2.224?35.58N)」という上限値及び下限値も、ア.で述べたように引用発明の引用発明のクラムブリネスは、「0.1?3Kg」と重複するものであるから、引用発明を、本願発明の上限値及び下限値に範囲内の硬度のものとすることが格別困難とはいえない。

結局、引用発明の「凍結乾燥食品」も硬度を限定するものであり、上記したように硬度を設定するとき、本願発明の硬度と重複する蓋然性が高いものである。

ウ.乾燥状態と湿潤状態との硬度の差について
本願発明は「前記組成物の、乾燥状態と湿潤状態との硬度の差が0.1?8ポンドフォース(0.444?35.58N)であ」ると規定するものであるが、「組成物の硬度が0.5?8ポンドフォース(2.224?35.58N)であ」るから、乾燥状態の硬度が8ポンドフォースのときに、差が0.1ポンドフォース、つまりわずか1.25%の硬度の差しか生じない場合を含んでいる。
あるいは、差が8ポンドフォースのときは湿潤状態で硬度が0となる場合も含んでいる。
引用発明は、牛乳に空気を混合し凍結乾燥した凍結乾燥食品であるから、口腔内で唾液により湿潤して硬度が低下することは明らかであり、さらに、湿潤するといずれ溶解するものである。
したがって、この点で本願発明と引用発明とが実質的に相違するとはいえない。
本願発明の乾燥状態と湿潤状態の硬度の差に関して、上記イ.(イ)で述べた事項に関連することとも考え得るが、乾燥状態と湿潤状態についての具体的定義もなく、上記の様にほとんど乾燥状態と湿潤状態との硬度の差がない場合や湿潤して硬度が0となる場合を含むものであるから、上記数値に格別の技術的意義を有するものであるとはいえない。

エ.まとめ
以上述べたとおりであるから、相違点Bに係る本願発明の構成とするは、当業者が容易になし得たものであり、引用発明も本願発明と同様の硬度を有する蓋然性が高いものである。
また、本願発明の発明の詳細な説明の段落【0003】に記載された「したがって、改善された物理的安定性及び改善された溶解性を有する、凍結乾燥し空気混和した生成物が求められている」との効果も、刊行物に記載された事項及び周知技術から予測される範囲内であって、格別とはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願に係る他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-17 
結審通知日 2014-09-24 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2010-507707(P2010-507707)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 英雄  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 平上 悦司
森林 克郎
発明の名称 凍結乾燥し空気混和した乳又は乳代替組成物及びその作製方法  
代理人 黒川 朋也  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 成人  
代理人 長谷川 芳樹  

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