• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1297590
審判番号 不服2013-10392  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2012-176795「皮膚外用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月24日出願公開、特開2014- 34549〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年8月9日の出願であって、平成24年10月25日付けの拒絶理由通知に対して、平成25年2月7日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年6月5日に審判請求がされ、同日付けで手続補正書が提出され、平成26年6月23日付けの審尋に対して、同年8月12日に回答書が提出されたものである。
(なお、平成25年6月5日付けで、補正書受付番号51301168788及び同51301169510の2つの手続補正書が提出されているが、それらのうち、補正書受付番号51301168788の手続補正書に係る手続は、平成25年8月2日付け手続却下の処分により却下された。)

第2 平成25年6月5日付けの手続補正(補正書受付番号51301169510の手続補正書による)の却下の決定について

[補正却下の決定の結論]
平成26年6月5日付けの手続補正(補正書受付番号51301169510の手続補正書による)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成26年6月5日付けの補正書受付番号51301169510の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、当該補正前の特許請求の範囲(当該補正前の特許請求の範囲は、平成25年2月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲である。)の請求項1である「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤として、1,3-ブチレングリコール及び/又は1,2-ペンタンジオールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」を、「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤として、1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」とする補正である。

2.補正の目的要件
本件補正は、当該補正前の特許請求の範囲の請求項1の「1,3-ブチレングリコール及び/又は1,2-ペンタンジオール」から「1,2-ペンタンジオール」の選択肢を削除して「1,3-ブチレングリコール」のみとすることによって、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定する補正であって、それによって、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって補正の目的要件を満たすものである(なお、本件補正は、本件出願の明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであって、新規事項の追加にはあたらないものである。)。

3.独立特許要件
そこで、本件補正についてさらに、当該補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないものであるか否か。)について検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤として、1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」

(2)刊行物等及び刊行物等に記載された事項
(2-1)刊行物等
刊行物1:特開2005-132777号公報
刊行物2:特開2005-8591号公報
周知例1:Nobuaki Takamatsu,FRAGRANCE JOURNAL Vol.26, No.11,1998年11月,p79-84
周知例2:特開2000-204017号公報

(刊行物1、2、周知例1は、順に、平成25年3月13日付け拒絶査定における引用文献2、3、5である。また、周知例2は、拒絶査定及び審尋において引用された文献である。)

(2-2)刊行物等に記載された事項
[刊行物1]
・摘示1-a:
「【0001】
本発明は抗菌剤に関する。さらに詳しくは皮膚外用組成物、洗浄料、食品、日用品等に好ましく使用できる広範な微生物に対して優れた抗菌活性を有し、人体に安全な抗菌剤に関する。

【0006】
本発明は、広範な微生物に対して優れた抗菌活性を有し、人体に安全な抗菌剤を提供することを提供することを技術的課題とする。」

・摘示1-b:
「【0013】
本発明の抗菌剤は任意の皮膚外用組成物へ配合することができる。…」

・摘示1-c:
「【0016】
…、保湿剤(…、1,3-ブチレングリコール、…等)又、その他、低級アルコール、…等と共に配合し、併用して用いることもできる。
【0017】
又、本発明のグリセリン誘導体を皮膚外用組成物に配合した場合の剤型については、任意であり、常法により配合し、例えば、化粧水、クリーム、軟膏、乳液、ファンデーション、オイル、パック、石鹸(薬用石鹸も含む)、ボディソープ、口紅、爪化粧品、眉目化粧品、香水、洗顔料、口腔用類(歯磨き、マウスウオッシュ等)、防臭剤(腋臭、足臭等)、浴用剤、シャンプー、リンス、ヘアトニック、ヘアスプレー、染毛料等の剤型とすることができる。」

・摘示1-d:
「【実施例】
【0027】
以下に、本発明の利用方法を更に詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されることはなく、各種の医薬品、医薬部外品、化粧品分野の皮膚外用組成物、洗浄料、食品、日用品等に配合して用いることが出来る。尚、各実施例は各製品の製造における常法により製造したもので良く、配合量のみを示した。
【0028】
実施例1 化粧水 質量%
エタノール 5.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
オレイルアルコール 0.1
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 1.0
香料 適量
精製水 残余
【0029】
実施例2 化粧水 質量%
エタノール 5.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
オレイルアルコール 0.1
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 1.0
香料 適量
精製水 残余
【0030】
実施例3 化粧水 質量%
エタノール 5.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
エチルヘキサンジオール 0.2
2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール 0.3
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール 0.5
オレイルアルコール 0.1
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 0.7
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.4
香料 適量
精製水 残余
【0031】
実施例4 化粧水 質量%
エタノール 5.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 5.0
オレイルアルコール 0.1
エチルヘキサンジオール 0.3
2,2-ジメチロールペンタン 0.2
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 0.7
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.4
香料 適量
精製水 残余
【0032】
実施例5 化粧水 質量%
エタノール 5.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 5.0
オレイルアルコール 0.1
エチルヘキサンジオール 0.2
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 0.7
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.4
フェノキシエタノール 0.2
香料 適量
精製水 残余
【0033】
実施例6 化粧水 質量%
エタノール 4.0
1,3-ブチレングリコール 6.0
グリセリン 4.0
オレイルアルコール 0.1
2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール 0.1
エチルヘキサンジオール 0.3
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.5
POE(15)ラウリルエーテル 0.5
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.8
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 0.9
3-ヘキシン-2,5-ジオール 0.1
メチルパラベン 0.1
フェノキシエタノール 0.2
香料 適量
精製水

【0049】
実施例22 ゼリー状パック 質量%
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.05
3-フェノキシ-1,2-プロパンジオール 0.1
ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル 0.5
2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール 0.1
エチルヘキサンジオール 0.1
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール 0.1
2,2-ジメチロールペンタン 0.1
グリチルリチン酸モノアンモニウム 0.05
カルボキシメチルセルロース 5.0
エタノール 12.0
ポリビニルアルコール 12.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
3-ヘキシン-2,5-ジオール 0.2
エデト酸三ナトリウム 0.01
精製水 残 量
【0050】
実施例23 ゼリー状パック 質量%
3-ベンジルオキシ-1,2-プロパンジオール 0.1
ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル 0.5
グリチルリチン酸モノアンモニウム 0.05
カルボキシメチルセルロース 5.0
エタノール 12.0
ポリビニルアルコール 12.0
1,3-ブチレングリコール 5.0
エデト酸三ナトリウム 0.01
精製水 残 量」

[刊行物2]
・摘示2-a:
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、皮膚外用剤に関し、更に詳細には、化粧料に好適な、乳化乃至は可溶化剤形の皮膚外用剤に関する。」

・摘示2-b:
「【0011】
…抗菌性を有する多価アルコールとしては、例えば、…、1,3-ブタンジオール、…などが例示でき、1,3-ブタンジオール、…がより好ましく例示できる。…」

・摘示2-c:
「【0013】
<実施例1>
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤である化粧料(可溶化剤形の透明ローション)を作成した。即ち、処方成分を80℃に加熱し、攪拌可溶化し、攪拌冷却し、本発明の皮膚外用剤を化粧料として得た。…これらの皮膚外用剤を10%混合させた寒天平板培地に、バチルス・スベチリス、スタフィロコッカス・アウレウス、エッシェリヒア・コリを白金耳で移植し、その生育を観察して、コロニーの程度を5(全面)?0(皆無)の評点で評価し、確かめた。結果を表1に示す。本発明の皮膚外用剤は優れた防腐効果を有することがわかる。
ツボクサの抽出物 0.1重量部
水酸化レシチン(レシノールSH50) 0.1重量部
ジメチコンコポリオール 0.4重量部
ショ糖モノステアレート 0.6重量部
グリセリン 7 重量部
1,3-ブタンジオール 8 重量部
エタノール 5 重量部
チョウジの抽出物* 0.3重量部
ポリメタクリロイルオキシエトキシホスホリルルコリン 0.05重量部
ポリ(グルコシルエチルメタクリレート) 0.02重量部
ポリメタクリロイルリジン 0.03重量部
フェノキシエタノール 0.4重量部
水 78 重量部
(*)チョウジの抽出物:チョウジの乾燥実を20倍量のエタノールで2時間還流の条件で抽出し、濃縮した後、ブタノールと水で液液抽出を行い、ブタノール層を濃縮したもの。」

[周知例1]
・摘示3-a:
「4-4.製造環境
香粧品の製造環境を清潔に保つことは,製品の品質を保証する上で非常に重要である。…環境中の浮遊菌としてよく見られる微生物を表3に示した。


…」(第81?82頁)

[周知例2]
・摘示4-a:
「【0007】
【発明の実施の形態】
(1)本発明の化粧料の必須成分である1,2-ペンタンジオール
本発明の化粧料は、1,2-ペンタンジオールを必須成分として含有する。
1,2-ペンタンジオールは保湿作用を有するのみならず、防腐作用も有し、該防腐作用は非イオン界面活性剤が共存しても損なわれることはない。 この1,2-ペンタンジオールの防腐力を1,3-ブタンジオールを対照として以下に示す。防腐力の検定方法は、バチルス(B:Bacillus subtilis IFO 13721)、スタフィロコッカス(S:Stahylococcus aureus IFO 13275)、大腸菌(E:Escherichia coli IFO 3972)及び緑膿菌(P:Pseudomonas aeruginosa IFO 13275)はTSA培地を用い、カンディダ(C:Candida albicans IFO 0583)及びハンセヌラ(H:Hansenula anomala IFO 0122)はSDA培地を用いた。方法は、上記平板培地に検体を0.1ml塗抹し、白金耳で接種し、接種後1日よりコロニー数をカウントし、以下のランクに従ってランキングした。即ち、ランク0:0、ランク0.5:1?10、ランク1:11?200、ランク1.5:201?500、ランク2:501?1000、ランク2.5:1001?3000、ランク3:3001?5000、ランク3.5:5001?10000、ランク4:10000?のランクを使用した。結果を表1に示す。これより1,2-ペンタンジオールが優れた防腐作用を有していることがわかる本発明の化粧料に於ける、1,2-ペンタンジオールの好ましい含有量は、化粧料全体に対して0.1?10重量%であり、更に好ましくは1?5重量%である。
【0008】
【表1】



(3)刊行物1、2に記載された発明
[刊行物1]
刊行物1には、 実施例1?6として、エタノール4.0乃至5.0質量%と1,3-ブチレングリコール6.0質量%とを含有する化粧水が記載され、実施例22?23として、エタノール12.0質量%と1,3-ブチレングリコール5.0質量%とを含有するゼリー状パックが記載されている(摘示1-d)。
そして、摘示1-a?1-c等からみて、化粧水、ゼリー状パックは、皮膚外用組成物の例として記載されたものといえる。

よって、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「エタノール4.0乃至5.0質量%と1,3-ブチレングリコール6.0質量%、または、エタノール12.0質量%と1,3-ブチレングリコール5.0質量%を含有する皮膚外用組成物。」

[刊行物2]
刊行物2には、実施例1として、1,3-ブタンジオール8重量部とエタノール5重量部とを含有する皮膚外用剤が記載されている(摘示2-c、2-a)。
そして、実施例1の皮膚外用剤の構成成分の合計が100重量部であることからみて、1,3-ブタンジオール、エタノールは、8質量%、5質量%含有されているものといえる。

よって、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「エタノール8質量%と1,3-ブタンジオール5質量%を含有する皮膚外用剤。」

(4)本件補正発明と引用発明1、2との対比
[引用発明1]
引用発明1の「エタノール4.0乃至5.0質量%と1,3-ブチレングリコール6.0質量%、または、エタノール12.0質量%と1,3-ブチレングリコール5.0質量%を含有する」は、本件補正発明の「1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満」に相当する。
また、引用発明1の「皮膚外用組成物」は、本件補正発明の「皮膚外用剤」に相当する。
よって両者は、
「1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点1:1,3-ブチレングリコールについて、本件補正発明は「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有するものであるのに対して、引用発明1は、斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

[引用発明2]
1,3-ブタンジオールが1,3-ブチレングリコールと同じ化合物であることは技術常識からみて明らかなことであるから、引用発明2の「エタノール8質量%と1,3-ブタンジオール5質量%を含有する」は、本件補正発明の「1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満」に相当する。
また、引用発明2の「皮膚外用剤」は、本件補正発明の「皮膚外用剤」に相当する。
よって両者は、
「1,3-ブチレングリコールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。

相違点2:1,3-ブチレングリコールについて、本件補正発明は「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有するものであるのに対して、引用発明2は、斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

(5)相違点の検討
[相違点1]
引用発明1は、1,3-ブチレングリコールを「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有することを発明特定事項とするものではないが、引用発明1は、本件補正発明の皮膚外用剤を構成する組成物の構成成分についての発明特定事項を満たし1,3-ブチレングリコールを同程度の量含有するものである(上記(4)[刊行物1]参照。)ことを考慮すると、引用発明1は、皮膚外用剤自体として、本件補正発明と同様のものであって、含有される1,3-ブチレングリコールは、本件補正発明と同様の属性、すなわち、抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤としての属性を有するものと解するのが相当である。

また、本件補正発明が、1,3-ブチレングリコールの未知の属性を発見し、この属性により新たな用途への使用に適することを見出したものといえるか否かについて検討する。
本件補正発明は、化粧水等の皮膚外用剤として使用されるものであるところ、引用発明1も化粧水等の皮膚外用剤として使用されるものである(摘示1-d)から、本件補正発明が斯かる用途(皮膚外用剤としての用途)への使用の点で引用発明1と相違するものとはいえない。
そして、ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌が空気中によくみられる、化粧料分野の抗菌対象として周知の微生物であること、が技術常識と認められることを考慮すると、1,3-ブチレングリコールの抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤としての働きは、引用発明1の皮膚外用剤用途への使用においても、含有される1,3-ブチレングリコールによって実質的にされていたことであり、本件補正発明において、1,3-ブチレングリコールが「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」であることを特定したとしても、引用発明1でも含有される1,3-ブチレングリコールによっても実質的にされていた働きを記載したに過ぎないものであって、それによって、本件補正発明が引用発明1の皮膚外用剤としての使用とは異なる新たな用途への使用を見出したものとは認められない(なお、ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌が空気中によくみられる微生物である点については、例えば、摘示3-aの表3「Hansenula anomala」参照。Hansenulaは「岩波 生物学辞典 第4版」八杉龍一他編、2000年3月8日発行、第1564頁第26行に、半子嚢菌類についてであるが、「…Pichia(=Hansenula)[Candida]…」と記載されるようにPichiaにあたり、「Hansenula anomala」は「Pichia anomala」に相当するものと認められる。
また、ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌が化粧料分野の抗菌対象として周知である点については、例えば、摘示4-aの段落【0007】、【表1】参照。当該箇所には、美白用化粧料における防腐作用の対象とする菌として「ハンセヌラ(H:Hansenula anomala IFO 0122)」の記載がある。)。
さらに、本件補正明細書の記載を参照しても、本件補正発明が、1,3-ブチレングリコールの抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤としての働きによって、引用発明1の皮膚外用剤とは異なる新たな用途への使用を具体的に見出したものと認められるような記載は特段認められない。
そうすると、本件補正発明は皮膚外用剤としての用途という引用発明1と同様の用途で使用されるものであって、1,3-ブチレングリコールの属性により新たな用途への使用に適することを見出したものとは認められないから、本件補正発明が、1,3-ブチレングリコールの未知の属性を発見し、この属性により新たな用途への使用に適することを見出したものとはいえない。
(なお、1,3-ブチレングリコールに抗菌性があることが技術常識であったと認められること(例えば、摘示2-b参照。)を考慮すると、本件補正発明の「1,3-ブチレングリコール」の抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤という属性は、そもそも、当業者が技術常識から予測し得ない程の未知の属性であるとは直ちに認められるものでもない(なお、1,3-ブチレングリコールにピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌への抗菌性がないことは技術常識である旨の請求人の主張について、後記(6)参照。)。)

以上のとおりであるから、本件補正発明が1,3-ブチレングリコールを「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有するものである点は、引用発明1との実質的な相違点とは認められない。

[相違点2]
相違点2は、相違点1と同様の相違点であり、上記[相違点1]において記載した理由と同様の理由により、実質的な相違点とは認められない。

(6)請求人の主張について
請求人は、平成25年6月5日付け審判請求書において、次の点を主張する。
「ここで、本願出願当時、1,3-ブチレングリコールはピチア・アノマラ菌に対し、抗菌作用を有するものでは無いことが知られていました(特開2000-204017号公報、「表1」)。すなわち、1,3-ブチレングリコールをピチア・アノマラ菌に対し抗菌効果を発明することに関し、阻害要因が存在していました。」(審判請求書第3頁)

そこで、斯かる主張の妥当性について検討する。
特開2000-204017号公報は、前記「(2)(2-1)」に記載した周知例2であり、摘示4-aのとおりの記載がされている。
そして、当該記載からみて、特開2000-204017号公報には、防腐作用試験において、1,3-ブチレングリコール(1,3-ブタンジオール)を0.1mL塗抹した平板培地では、Hansenula anomala (アルコール資化酵母である点でピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌と同様のものと認められる。)のコロニー数が塗抹後2日たっても減少しなかったことを示す試験結果が開示されているといえる。
しかしながら、当該記載には、当該防腐作用試験で使用した平板培地の容積や重量、1,3-ブチレングリコールの濃度等について何ら開示されておらず、平板培地中の1,3-ブチレングリコールの含有割合が不明なものであるから、当該記載の開示は、1,3-ブチレングリコールが如何なる濃度においてもピチア・アノマラ菌に対する抗菌作用を有さないものであることを示すものとはいえない。そして、一般に、1,3-ブチレングリコールに抗菌性があることは技術常識と認められる(例えば、摘示2-b参照。)。
そうすると、引用発明1、2のような配合割合で1,3-ブチレングリコールを用いた場合においてピチア・アノマラ菌に対する抗菌作用がないことが当業者にとって明らかなとはいえないから、特開2000-204017号公報の記載事項を根拠として、1,3-ブチレングリコールのピチア・アノマラ菌に対する抗菌効果を発明することに関し、阻害要因が存在する、という請求人の主張は妥当なものとは認められない。

(7)独立特許要件のまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1、2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願に係る発明
前記「第2」に記載したとおり、平成26年6月5日付けの補正書受付番号51301169510の手続補正書による手続補正は却下されたから、本件出願に係る発明は、平成25年2月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤として、1,3-ブチレングリコール及び/又は1,2-ペンタンジオールを5?30質量%含有し、エタノールの含有量が50質量%未満の皮膚外用剤。」

第4 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成24年10月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由3,4によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、平成24年10月25日付け拒絶理由通知書によると次の理由を含むものである。
「…
3. この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



(3)理由3について
請求項:1
引用文献:1-4
備考

引 用 文 献 等 一 覧

2.特開2005-132777号公報
3.特開2005-008591号公報

5.Nobuaki Takamatsu,FRAGRANCE JOURNAL Vol.26, No.11,1998年11月,p79-84
…」

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、引用文献2、3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであると判断する。

1.引用文献2、3の記載事項及び引用文献2、3に記載された発明
引用文献2、3の記載事項は、刊行物1、2について、前記「第2 3.(2)(2-2)[刊行物1]及び[刊行物2]」に記載したとおりである。
そして、引用文献2、3には、前記「第2 3.(3)[刊行物1]及び[刊行物2]」に記載したとおりの発明(以下、同様に、「引用発明1」、「引用発明2」という。)が記載されている。

2.本願発明と引用発明1、2との対比及び検討
本願発明は、前記「第2 3.(1)」に記載した本件補正発明の「1,3-ブチレングリコール」との発明特定事項が、「1,3-ブチレングリコール及び/又は1,2-ペンタンジオール」とされたものであって、本件補正発明に、1,2-ペンタンジオールを含む態様が加えられたものであるから、本願発明は本件補正発明を包含するものといえる。
そこで、斯かる本願発明において、「1,3-ブチレングリコール及び/又は1,2-ペンタンジオール」の選択肢のうち、「1,3-ブチレングリコール」を選択した発明と、引用発明1、2とを、前記「第2 3.(4)[引用発明1]及び[引用発明2]」において、本件補正発明と引用発明1、引用発明2とを対比したのと同様に対比すると、各々、同様の点で一致し、同様の点で相違するといえるから、本願発明と引用発明1との間には次の相違点1’が存在し、本願発明と引用発明2との間には次の相違点2’が存在するといえる。

相違点1’:1,3-ブチレングリコールについて、本願発明は「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有するものであるのに対して、引用発明1は、斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

相違点2’:1,3-ブチレングリコールについて、本願発明は「抗ピチア・アノマラ(Pichia anomala)菌剤」として含有するものであるのに対して、引用発明2は、斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

そして、これらの相違点1’、2’については、前記「第2 3.(5)[相違点1]及び[相違点2]」において、相違点1、2について記載した理由と同様の理由により、実質的な相違点とは認められないものである。

3.まとめ
よって、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献2、3に記載された発明と同一の発明を包含するものであって、引用文献2、3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-31 
結審通知日 2014-11-11 
審決日 2014-11-26 
出願番号 特願2012-176795(P2012-176795)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 團野 克也松本 直子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 松浦 新司
冨永 保
発明の名称 皮膚外用剤  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ