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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01N |
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管理番号 | 1297591 |
審判番号 | 不服2013-10725 |
総通号数 | 184 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-07 |
確定日 | 2015-02-12 |
事件の表示 | 特願2008- 52078「防虫鋼板」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 5月28日出願公開、特開2009-114169〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年3月3日(国内優先権主張 平成19年10月19日)の出願であって、 平成24年11月9日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年12月18日付けで意見書の提出とともに手続補正(以下「第1回目の手続補正」という。)がなされ、 平成25年3月1日付けの拒絶査定に対して、平成25年6月7日付けで審判請求がなされるとともに手続補正(以下「第2回目の手続補正」という。)がなされ、 平成25年11月22日付けの審尋に対して、平成26年1月17日付けで回答書の提出がなされ、 平成26年9月12日付けの補正の却下の決定により第2回目の手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由通知(最後)がなされ、これに対して、平成26年11月17日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。 第2 平成26年11月17日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成26年11月17日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1.補正の内容 平成26年11月17日付けの手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)は、その特許請求の範囲について、補正前の特許請求の範囲に記載された 「【請求項1】 鋼板の少なくとも片方の表面に、チオカルボニル化合物、バナジウム酸化合物、グアニジン化合物、シリカ粒子、リン酸化合物、バルブメタル化合物およびモリブデン酸素酸塩から選ばれる1種または2種以上を含む腐食抑制剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3?4g/m^(2)有することを特徴とする防虫鋼板。 【請求項2】 前記樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002?0.4g/m^(2)含有することを特徴とする請求項1に記載の防虫鋼板。 【請求項3】 前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の防虫鋼板。 【請求項4】 前記樹脂被覆層がさらに、潤滑剤を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の防虫鋼板。」 を、補正後の特許請求の範囲に記載された 「【請求項1】 鋼板の少なくとも片方の表面に、チオカルボニル化合物、バナジウム酸化合物、グアニジン化合物、シリカ粒子、リン酸化合物、バルブメタル化合物およびモリブデン酸素酸塩から選ばれる1種または2種以上からなる腐食抑制剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3?4g/m^(2)有し、該樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002?0.4g/m^(2)含有し、さらに、潤滑剤としてポリエチレンワックスを含有することを特徴とする防虫鋼板。 【請求項2】 前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分の少なくとも1種と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルの少なくとも1種との混合物であることを特徴とする請求項1に記載の防虫鋼板。」 に改める補正を含むものである。 2.補正の適否 (1)はじめに 上記補正後の請求項1についての補正は、補正前の請求項1を引用する請求項2を引用する従属形式で記載された請求項4を、補正後の独立形式で記載された請求項1にするとともに、補正前の請求項4に記載された「潤滑剤を含有する」という発明特定事項を、補正後の請求項1において「潤滑剤としてポリエチレンワックスを含有する」に限定するものであって、その補正前の請求項4と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の請求項1に記載されている発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (2)引用刊行物及びその記載事項 ア.刊行物1(特開2006-231690号公報) 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知において「刊行物1」として引用された上記刊行物1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1?3 「【請求項1】鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5?4g/m^(2)で有する防虫鋼板。 【請求項2】前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01?0.4g/m^(2)である請求項1に記載の防虫鋼板。 【請求項3】前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物である請求項1または請求項2に記載の防虫鋼板。」 摘記1b:段落0041 「<その他の成分> 本発明の防虫鋼板に用いる樹脂組成物は、前記潤滑剤と前記忌避剤とを含有するが、さらにその他の成分として、顔料、分散剤、レベリング剤、ワックス、骨材等を含有してもよい。」 摘記1c:段落0057?0059 「実施例1?3においては、ウレタン系樹脂水系エマルジョン(商品名:スーパーフレックス110、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度30質量%)に、潤滑剤としてポリエチレンワックス(商品名:ケミパールW-100、三井化学株式会社製、固形分濃度40質量%)、昆虫忌避成分としてα-シアノ-3-フェノキシベンジル(+)シス/トランス-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロンカルボキシラート、多価アルコールの脂肪酸エステルとしてトリ2-エチルヘキシサングリセリドを用いて、添加濃度を表1に示すものに変化させて塗布用溶液とし、試験した。… ここで、塗布用溶液中の各々の添加量は、前記ウレタン系樹脂水系エマルジョンへの添加量を調整し、表1に示すように、潤滑剤濃度が1質量%、昆虫忌避成分濃度が0.5?1質量%、多価アルコールの脂肪酸エステル濃度が2?4質量%となるようにした。… このような塗布用溶液をめっき鋼板の表面に、バーコーターを用いて塗布した。そして、自動排出型熱風乾燥機(日本テストパネル工業株式会社製)を用いて240℃雰囲気で4秒間乾燥した。なお、鋼板の最高到達温度は、100℃であった。」 摘記1d:段落0072?0078 「樹脂、忌避剤(昆虫忌避成分、多価アルコールの脂肪酸エステル)の詳細、および表1における省略記号は次の通りである。… (省略記号、および樹脂の種類) U:ウレタン系樹脂エマルジョン、商品名:スーパーフレックス110、第一工業製薬株式会社製、固形分濃度30質量% Ac:アクリル系樹脂エマルジョン、商品名:ポリゾールAP-6720、昭和高分子株式会社製、固形分濃度44質量%… (昆虫忌避成分の種類、および省略記号) A:α-シアノ-3-フェノキシベンジル(+)シス/トランス-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロンカルボキシラート B:(s)-α-シアノ-3-フェノキシベンジル=(Z)-(1R,3S)-2,2-ジメチル-3-[2-(2,2,2-トリフルオル?1?トリフルオロメチルエトキシカルボニル)ビニル]シクロプロパンカルボキシラート… (多価アルコールの脂肪酸エステルの種類、および省略記号) E:トリ2-エチルヘキシサングリセリド F:ジオクタン酸ネオペンチルグリコール G:テトライソステアリン酸ペンタエリスリット… 【表1】 …このようにして得た実施例1?10、および比較例1?5の試験片の潤滑被膜層付着量および忌避剤付着量測定結果、ならびに、後述する摂食忌避試験(1、2)、溶接性試験、および加工性試験の結果を表2に示す。… 【表2】 」 イ.刊行物2(特開2006-212865号公報) 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知において「刊行物2」として引用された上記刊行物2には、次の記載がある。 摘記2a:段落0002及び0010?0012 「家電製品、自動車部品、建築部材等では、生産性向上のために、予め塗装を施したプレコート鋼板が使用されるようになってきている。このプレコート鋼板は、塗装による意匠性を目的とするものが一般的であるが、防錆性や耐食性、耐熱性等を付加したものも知られている。… 金属塗装用塗料に含まれる、25℃における蒸気圧が1×10^(-3)Pa以下であるピレスロイド系の害虫定住防止成分(以下、「低揮発性害虫定住防止成分」という)としては、α-シアノ-3-フェノキシベンジル(+)シス/トランス-2,2-ジメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)シクロプロパンカルボキシラート(以下、化合物Aという)…等が挙げられる。… 低揮発性害虫定住防止成分は、樹脂とともに有機溶剤に分散され、金属塗装用塗料とされる。… また、低揮発性害虫定住防止成分を多価アルコールの脂肪酸エステルに溶解し、この溶液を樹脂とともに有機溶剤に分散させることが好ましい。多価アルコール脂肪酸エステルは、塗膜からの低揮発性害虫定住防止成分による溶出を促進させる効果があり、溶出助剤として機能する。」 摘記2b:段落0021?0022 「(試験-1)低揮発性害虫定住防止成分として化合物Aまたは化合物B、多価アルコール脂肪酸エステルとして、炭素数がC12?C18の脂肪酸からなるトリグリセリド(以下、助剤Aという)または炭素数がC12?C18の脂肪酸からなるペンタエリスリトールエステル(以下、助剤Bという)を用い、それぞれ表1に示す量をクロム系防錆剤入り水性塗料に配合して金属塗装用塗料を調製した。…各金属塗装用塗料を溶融亜鉛めっき鋼板に塗布し、100?300℃で焼付けて膜厚1?20μmの塗膜を形成し、10cm×10cmの試験片を切り出して本発明品とした。」 ウ.刊行物3(特開2003-200107号公報) 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知において「刊行物3」として引用された上記刊行物3には、次の記載がある。 上記刊行物3には、次の記載がある。 摘記3a:請求項1 「焼き付け塗膜を形成した塗装金属板であって、その最表層に300℃加熱時の減量分が有効成分に対して50質量%未満であるピレスロイド系防虫剤を配合した塗膜が形成されていることを特徴とする生活害虫忌避性に優れた塗装金属板。」 摘記3b:段落0002、0004及び0010?0011 「従来より、家屋において食べ物屑の多い流し台,ガステーブル,レンジ台等の台所器具や使用時に暖気が発生する冷蔵庫,洗濯機,電子レンジ等の家電製品の電気回路内あるいはその周辺に、ゴキブリ等の生活害虫が好んで営巣し、衛生上や安全性の面で問題となっている。近年では、住宅形式の変化による建物の気密化および冷暖房機器の使用が浸透し、屋内の換気不良が生じて、衣装ダンスや戸棚の背面,隙間に湿気が溜まり易くなっている。このため、前記隙間等は生活害虫が好む環境になっている。… また、直接これらの昇華性防虫剤を塗料に配合した場合、焼き付け時に蒸発,熱分解による効力の低下,樹脂の着色,作業時の悪臭発生,塗膜の物性変化等の問題が出てくる。特に焼き付け温度が200℃以上になると防虫剤は温度の影響を多大に受ける。本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、塗料に配合する防虫剤として特定のものを選択し、光沢,加工性等の塗膜物性を低下させることなく生活害虫忌避性を発揮する塗装金属板を提供することを目的とする。… クロム系のストロンチウムクロメートや非クロム系の変性シリカ,ポリリン酸二水素アルミニウム等の防錆顔料を下塗り塗料に添加するとき、塗装原板の切断端面や加工時または施工時に発生した塗膜欠陥部を起点とするフクレ,錆び等の欠陥の発生が防止される。… 防錆顔料は、下塗り塗料の固形分100質量部に対し5?150質量部の割合で配合することが好ましい。防錆顔料による塗膜の耐食性改善効果は、5質量部以上の防錆顔料配合で顕著になるが、150質量部で飽和する。150質量部を超える防錆顔料を配合しても、過剰な防錆顔料に起因して塗膜の加工性,密着性が低下することになる。」 摘記3c:段落0025及び0027?0028 「防虫剤としてアクリナトリンを配合した塗膜を形成した試験No.2?9の塗装金属板では、ゴキブリ忌避性を発揮することができた。… 実施例2:実施例1で使用したものと同じ処理を施した下塗り鋼板に、ポリエステル樹脂系塗料をベース塗料とし、実施例1で使用したものと同じピレスロイド系防虫剤を塗料固形分100質量部に対して0.05質量部配合するとともに、表3に示すフィラーを配合量を変えて配合・調製した塗料を、乾燥塗膜厚で15μmになるように塗装して、到達温度230℃×50秒の条件で焼き付け乾燥した。得られた各塗装鋼板から試験片を切り出し、実施例1と同じ方法でゴキブリ忌避試験と加工試験を行った。なお、ゴキブリ忌避試験は作製後1日経過後に行ったものである。その結果を表3に示す。… 表3:各種塗装鋼板の物性 ┌──┬───────────────┬───────────┐ │試験│ フィラー │ 性能評価 │ ├──┼───────┬───────┼───────┬───┤ │No. │ 種類 │配合量(質量部)│ゴキブリ忌避率│加工性│ ├──┼───────┼───────┼───────┼───┤ │ … │ … │ … │ … │ … │ │13│5μmSiO_(2)│ 15 │ 100 │ ○ │ │ … │ … │ … │ … │ … │ └──┴───────┴───────┴───────┴───┘ ○:異常なし △:微細なクラック発生 ×:塗膜割れ 」 エ.刊行物7(特開2000-219976号公報) 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知において「刊行物7」として引用された上記刊行物7には、次の記載がある。 摘記7a:段落0040?0042及び0055 「この上層の皮膜層は、溶接性、潤滑性、耐指紋性、耐擦傷性、成形加工性などの付与を目的とする層であることができる。下地処理層の上層はさらに防錆顔料を含むと、下地処理層との相乗効果で耐食性が顕著に向上する。… 上層皮膜に含有される防錆顔料は、本発明では固形防錆剤の意味であり、着色剤の意味ではない。例えば、(まる1)りん酸亜鉛、りん酸鉄、りん酸アルミニウムなどのりん酸亜鉛系、(まる2)モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウムなどのモリブデン酸系、(まる3)酸化バナジウムなどのバナジウム系、(まる4)ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメートなどのクロム系、(まる5)水分散シリカ、ヒュームシリカなどの微粒シリカ、(まる6)その他として微粒酸化チタン、亜燐酸塩など、を挙げることができる。… 上層皮膜に、潤滑性、耐指紋性、耐擦傷性、成形加工性などの特性を付与するために、必要に応じて、…ワックスを添加する… 表3中のワックスとして下記記号を用いた。 A:ポリエチレンワックス 2μm粒径」 オ.参考例B(特開2003-129275号公報) バルブメタル(弁金属)の範疇に含まれる金属の種類を説明するための参考試料として提示する上記参考例Bには、次の記載がある。 摘記B1:段落0002 「たとえば、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Cr,Al等のバルブメタルを含む溶液を用いた電解では、バルブメタルが酸化物又は水酸化物となって陰極表面に析出し、耐食性の改善に有効な保護皮膜を形成する。」 (3)刊行物1に記載された発明 摘記1aの「鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5?4g/m^(2)で有する…前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01?0.4g/m^(2)である…前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物である…防虫鋼板。」との記載からみて、刊行物1には、 『鋼板の表面に、潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5?4g/m^(2)で有し、前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01?0.4g/m^(2)であり、前記忌避剤が、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分と、沸点が250℃以上である多価アルコールの脂肪酸エステルとの混合物である防虫鋼板。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されている。 (4)対比 補正発明と刊1発明とを対比する。 刊1発明の「鋼板の表面に、…樹脂組成物からなる潤滑被膜層を、0.5?4g/m^(2)で有し、」は、刊行物1の「実施例-1」において樹脂組成物からなる被覆層が「1g/m^(2)」の付着量で「めっき鋼板」の片面に塗布・乾燥されていることが明らかであることから、補正発明の「鋼板の少なくとも片方の表面に、…樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3?4g/m^(2)有し、」に相当する。 刊1発明の「潤滑剤と忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる潤滑被膜層」は、補正発明の「忌避剤とを含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層」に相当する。 刊1発明の「前記潤滑被膜層に含有される前記忌避剤の質量が、0.01?0.4g/m^(2)であり、」は、補正発明の「該樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002?0.4g/m^(2)含有し、」に相当する。 してみると、両者は『鋼板の少なくとも片方の表面に、忌避剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3?4g/m^(2)有し、該樹脂被覆層が、前記忌避剤を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.002?0.4g/m^(2)含有する防虫鋼板。』に関するものである点において一致し、 (α)樹脂組成物からなる樹脂被覆層が、補正発明においては「チオカルボニル化合物、バナジウム酸化合物、グアニジン化合物、シリカ粒子、リン酸化合物、バルブメタル化合物およびモリブデン酸素酸塩から選ばれる1種または2種以上からなる腐食抑制剤」を含有しているのに対して、刊1発明においては当該「腐蝕抑制剤」を含有するものではない点、及び (β)潤滑剤の種類が、補正発明においては「ポリエチレンワックス」に特定されているのに対して、刊1発明においては潤滑剤の種類が特定されていない点、 の2つの点において一応相違する。 (5)判断 ア.相違点(α)について 先ず、防虫鋼板などのプレコート鋼板の技術分野において防錆性や耐食性を付加するという課題が、本願優先日前の技術水準において、当業者にとって自明ないし一般的な課題であるか否かについて検討する。 刊行物2には、ピレスロイド系の害虫定住防止成分を多価アルコールの脂肪酸エステルに溶解した溶液を「クロム系防錆剤」入りの水性塗料に配合してなる金属塗装用塗料を溶融亜鉛めっき鋼板に塗布した「試験-1」の防虫鋼板についての発明が記載されている(摘記2b)。 刊行物3には、ピレスロイド系防虫剤を配合した塗膜が形成されている生活害虫忌避性に優れた塗装金属板に関する発明において(摘記3a)、下塗り塗料に「クロム系のストロンチウムクロメート」や「非クロム系の変性シリカ」等の「防錆顔料」を配合することで「防錆顔料による塗膜の耐食性改善効果」を得るという発明が記載されている(摘記3b)。 してみると、ピレスロイド系防虫剤を含有する樹脂被覆層を形成してなる防虫鋼板の技術分野において、防錆剤(刊行物2の「クロム系防錆剤」や刊行物3の「ストロンチウムクロメート」や「変性シリカ」等の防錆顔料)を使用して鋼板の腐蝕抑制を図るということは、当業者にとって自明ないし一般的な課題にすぎないものと認められる。 次に、防虫鋼板などのプレコート鋼板の技術分野において、シリカ粒子やバルブメタル化合物などを「腐蝕抑制剤」として用い、忌避剤を含有する樹脂組成物に配合することが、本願優先日前の技術水準において、当業者にとって自明ないし容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。 例えば、摘記B1の「Ti,…V,…Mo,…Cr,…等のバルブメタル…耐食性の改善に有効な保護皮膜を形成」との記載にあるように、チタン、バナジウム、モリブデン、クロム等のバルブメタル(弁金属)が不動態化により耐食性の改善に有効な作用機能を発揮することが知られているところ、 刊行物2には、クロム系防錆剤(補正発明の『バルブメタル化合物から選ばれる1種からなる腐蝕抑制剤』に相当する)入りの水性塗料に、ピレスロイド系化合物を主成分とする昆虫忌避成分(補正発明の「忌避剤」に相当する)を配合させることが記載されており(摘記2a及び2b)、 刊行物3には、ストロンチウムクロメートなどのクロム系の防錆顔料(補正発明の『バルブメタル化合物から選ばれる1種からなる腐蝕抑制剤』に相当する)や非クロム系の変性シリカなどの防錆顔料(補正発明の『シリカ粒子から選ばれる1種からなる腐蝕抑制剤』に相当する)を、防虫鋼板の下塗り塗料に配合することが記載されており(摘記3b)、 刊行物7には、モリブデン酸カルシウムなどのモリブデン系、酸化バナジウムなどのバナジウム系、ストロンチウムクロメート(SrCrO_(4))などのクロム系、並びに微粒酸化チタンなどの防錆顔料(補正発明の『バルブメタル化合物から選ばれる1種からなる腐蝕抑制剤』に相当する)又は水分散シリカなどの微粒シリカの防錆顔料(補正発明の『シリカ粒子から選ばれる1種からなる腐蝕抑制剤』に相当する)を、溶接性、潤滑性、成形加工性などの付与を目的とする層に配合することで、耐食性が顕著に向上することが記載されている(摘記7a)。 してみると、補正発明の『シリカ粒子およびバルブメタル化合物から選ばれる1種または2種以上からなる腐蝕抑制剤』は、樹脂被覆層を形成してなる鋼板の技術分野において、鋼板の腐蝕抑制を図るための「防錆顔料」として周知慣用の常用成分であると認められる。 また、刊行物2には、クロム系防錆剤を、忌避剤(フェノトリン)とともに樹脂組成物に配合した具体例が「試験-1」として記載されており(摘記2b)、 刊行物3には、5μmのシリカ粒子(シリカが防錆性を発揮することは周知である)を、忌避剤(アクリナトリン)とともに樹脂組成物に配合した具体例が「試験No.13」として記載されているところ(摘記3c)、 刊行物2、3若しくは7に記載された『クロム系の防錆顔料』や『シリカ系の防錆顔料』を、ピレスロイド系の忌避剤(フェノトリンやアクリナトリン)とともに樹脂組成物に配合することは、本願優先日前の技術水準において既に知られており、クロム系又はシリカ系の化合物を忌避剤とともに樹脂組成物に配合した場合において、当業者が何らかの不都合を懸念すると解すべき特段の事情は見当たらない。 してみると、刊1発明の「防虫鋼板」に『シリカ粒子およびバルブメタル化合物から選ばれる1種または2種以上からなる腐蝕抑制剤』を更に配合するように設計変更してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 イ.相違点(β)について 摘記1cの「実施例1?3においては…潤滑剤としてポリエチレンワックス…を用いて」との記載にあるように、刊1発明は「潤滑剤」として、具体的には「ポリエチレンワックス」を用いるものである。 また、摘記7aの「上層皮膜に、潤滑性…などの特性を付与するために…ワックスを添加する…ポリエチレンワックス」との記載にあるように、溶接性、潤滑性、加工性、及び耐食性の向上が求められる防錆処理鋼板の上層皮膜に添加されるワックスとして「ポリエチレンワックス」は周知慣用の常用成分となっているものである。 してみると、刊1発明の「潤滑剤」の種類を「ポリエチレンワックス」に特定してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 ウ.補正発明の効果について 本願明細書の段落0048に記載された「本発明例は、溶接性、加工性を損なうことなく、優れた耐食性および優れた昆虫忌避効果を保持」するという補正発明の効果について検討する。 先ず、摘記1dの「表2」の試験結果に示されるように、刊1発明は「摂食忌避試験」、「溶接性」及び「加工性」の点で優れた効果を発揮するものである。 そして、摘記1bには「本発明の防虫鋼板に用いる樹脂組成物は、…さらにその他の成分として、顔料…等を含有してもよい。」との記載があるところ、その他の成分の「顔料」として刊行物2、3及び7などに記載された周知慣用の「防錆顔料」を配合した場合に「耐食性」の点でも優れた効果が得られると予想することは、当業者にとって自明の域を出るものではない。 また、刊行物7では、溶接性や成形加工性などの付与を目的とする樹脂皮膜層に防錆顔料を配合することが記載されており(摘記7a)、刊行物2及び3では、忌避剤を含有する塗膜にクロム系防錆剤やシリカ粒子が配合されているところ(摘記2b及び3c)、樹脂被覆層に『シリカ粒子およびバルブメタル化合物から選ばれる1種または2種以上からなる腐蝕抑制剤』を更に配合したとしても、その溶接性や加工性や昆虫忌避性の性能に格段の不都合が生じ得ないことは、当業者にとって自明の域を出るものではない。 してみると、補正発明の効果は、当業者が容易に予測可能な程度のものでしかない。 エ.小括 したがって、補正発明は、刊行物1?3及び7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3.まとめ 以上総括するに、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、上記請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、その余のことを検討するまでもなく、第3回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 第3回目の手続補正(及び第2回目の手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?4に係る発明は、第1回目の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 2.平成26年9月12日付けの拒絶理由通知 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知に示した拒絶の理由は、理由1として「この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?9に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由からなるものであって、その「記」には、次のとおりの指摘がなされている。 「(3)刊行物1を主引用例とした場合の検討… 本願請求項1に係る発明の「チオカルボニル化合物(チオ尿素)、バナジウム酸化合物(バナジウム酸アンモニウム)、グアニジン化合物(1-o-トリルビグアニド)、シリカ粒子(コロイダルシリカ)、リン酸化合物(リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム)、バルブメタル化合物(バナジウム酸化合物、クロム酸化合物)およびモリブデン酸素酸塩(モリブデン酸アルミニウム)から選ばれる1種または2種以上を含む腐食抑制剤」は、樹脂被覆層を形成してなる鋼板の技術分野において、鋼板の腐蝕抑制を図るための「防錆顔料」として周知慣用の常用成分であると認められる。 してみると、刊1発明の「防虫鋼板」に「リン酸化合物」などの「腐蝕抑制剤」を更に配合するように設計変更してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。… したがって、本願請求項1?4に係る発明は、刊行物1?9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」 3.引用刊行物及びその記載事項並びに刊行物1に記載された発明 平成26年9月12日付けの拒絶理由通知において引用された刊行物1?3及び7、並びにその記載事項は、前記『第2 3.(2)』に示したとおりである。また、刊行物1には、前記『第2 3.(3)』に示したとおりの「刊1発明」が記載されている。 4.対比・判断 本願請求項1に係る発明と刊1発明とを対比すると、両者は『鋼板の少なくとも片方の表面に、忌避剤を含有する樹脂組成物からなる樹脂被覆層を、鋼板表面の単位面積あたりに付着している質量で、0.3?4g/m^(2)有することを特徴とする防虫鋼板。』に関するものである点において一致し、 樹脂組成物からなる樹脂被覆層が、本願請求項1に係る発明においては「チオカルボニル化合物、バナジウム酸化合物、グアニジン化合物、シリカ粒子、リン酸化合物、バルブメタル化合物およびモリブデン酸素酸塩から選ばれる1種または2種以上を含む腐食抑制剤」を含有しているのに対して、刊1発明においては当該「腐蝕抑制剤」を含有するものではない点、において相違する。 しかしながら、上記『第2 3.(5)』の項に示したように、防虫鋼板などのプレコート鋼板の技術分野において防錆性や耐食性を付加するという課題は、本願優先日前の技術水準において、当業者にとって自明ないし一般的な課題にすぎない。 そして、刊行物2、3及び7に記載されるように、防虫鋼板などのプレコート鋼板の技術分野において「シリカ粒子」や「バルブメタル化合物」などの「腐蝕抑制剤」は、鋼板の腐蝕抑制を図るための「防錆顔料」として周知慣用の常用成分であって、当該「シリカ粒子」や『バルブメタル化合物(ストロンチウムクロメートなどのクロム酸化合物)』を、ピレスロイド系の忌避剤(フェノトリンやアクリナトリン)とともに樹脂組成物に配合した場合において、当業者が何らかの不都合を懸念すると解すべき特段の事情も見当たらない。 してみると、刊1発明の「防虫鋼板」に『シリカ粒子およびバルブメタル化合物から選ばれる1種または2種以上からなる腐蝕抑制剤』を更に配合するように設計変更してみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。 また、本願明細書の段落0048に記載された「本発明例は、溶接性、加工性を損なうことなく、優れた耐食性および優れた昆虫忌避効果を保持」するという本願請求項1に係る発明の効果について検討するに、摘記1dの「表2」の試験結果に示されるように、刊1発明は「摂食忌避試験」、「溶接性」及び「加工性」の点で優れた効果を発揮するものであり、その他の成分の顔料として刊行物2、3及び7などに記載される周知慣用の防錆顔料を更に配合すれば、特段の不都合が生じることなく「耐食性」も向上するであろうことは、当業者にとって自明の域を出るものではない。 してみると、本願請求項1に係る発明の効果は当業者が容易に予測可能な程度のものでしかない。 したがって、本願請求項1に係る発明は、刊行物1?3及び7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。 5.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-04 |
結審通知日 | 2014-12-10 |
審決日 | 2014-12-24 |
出願番号 | 特願2008-52078(P2008-52078) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
WZ
(A01N)
P 1 8・ 121- WZ (A01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 黒川 美陶、藤原 浩子 |
特許庁審判長 |
中田 とし子 |
特許庁審判官 |
柴田 昌弘 木村 敏康 |
発明の名称 | 防虫鋼板 |
代理人 | 落合 憲一郎 |
代理人 | 小林 英一 |
代理人 | 小林 英一 |
代理人 | 落合 憲一郎 |
代理人 | 小林 英一 |
代理人 | 落合 憲一郎 |