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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01V 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01V 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01V |
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管理番号 | 1297593 |
審判番号 | 不服2013-13183 |
総通号数 | 184 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-07-09 |
確定日 | 2015-02-12 |
事件の表示 | 特願2008- 45227「画像解析装置およびその方法、並びにプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月11日出願公開、特開2008-209417〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成20年1月29日(優先権主張 平成19年1月29日)を出願日とする出願であって,平成24年10月3日付で拒絶理由が通知され,同年12月10日に意見書及び手続補正書が提出され,平成25年3月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に,手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正後の請求項1について 本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は, 「【請求項1】 気象衛星による地表面から放射される赤外線を検出し,地表面の温度が高い部分は輝度が高く,温度が低い部分は輝度が低く示される赤外線気象画像データを解析する画像解析装置であって, 地形画像データに,取得した前記気象画像データを載せ,当該気象画像データの輝度について所定領域内の複数の明度値の最大値を求めてそれらの平均値を参照して基準明度値として設定し,当該基準設定値より明度値の低い気象画像データを削除し,前記気象画像データの明度値から前記基準明度値を減じて明度差を求め,当該明度差をスキャン処理を行い,明度差の大きさを利用して地震の有無を表出させることが可能な処理部 を有する画像解析装置。」 から 「【請求項1】 気象衛星において,地表面から放射される赤外線を検出し,その検出値を,温度が高い部分は輝度が高く大きな明度値で示し,温度が低い部分は輝度が低く小さな明度値で示す画像データとして提供される赤外線気象画像データを解析する画像解析装置であって, 前記赤外線気象画像データを指定の時間間隔で取得し, 地形画像データに前記取得した赤外線気象画像データの各々を載せ, 当該地形画像データに載せた前記赤外線気象画像データの各々について, 複数の地域内の明度値の最大値の平均値を参照して基準明度値として設定し, 当該基準設定値より明度値の低い赤外線気象画像データを削除し, 当該削除した前記赤外線気象画像データについて,所定地域ごと,最大明度値と最小明度値との明度差を求め, 前記明度差が所定の値より大きく,前記最大明度値が突然起こった場合にその地域に地震の有無を表出させることが可能な, 処理部を有する画像解析装置。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) 2 補正の適否1(新規事項の追加について)(下線は当審で付与した。) (1)補正された事項である「複数の地域内の明度値の最大値の平均値を参照して基準明度値として設定し,当該(設定された基準明度値であるところの)基準設定値より明度値の低い赤外線気象画像データを削除し」(以下,「発明特定事項1」という。)について検討する。 (「基準明度値として設定し,当該基準設定値」との記載において,「基準設定値」は「基準明度値として設定」した値であることは明らかであるのでそのように解釈した。) ア 願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,発明特定事項1そのものの記載はなく,それと関連する記載としては,当初明細書等に発明の概要として【0010】に「 本発明の第1の観点は,気象衛星による気象画像データを解析する画像解析装置であって,地形画像データに取得した気象画像データを載せ,当該気象画像データを複数の明度値を設定することにより当該設定値より明度の低い気象画像データを削除してスキャン処理を行い,地震の有無を明度差を利用して表出させることが可能な処理部を有する。」と記載され,【0016】に「 本発明の第2の観点は,気象衛星による気象画像データを解析する画像解析方法であって,前記地形画像データに取得した気象画像データを載せ,当該気象画像データを複数の明度値を設定することにより当該設定値より明度の低い気象画像データを削除してスキャン処理を行い,地震の有無を,明度差を利用して表出する。」と記載され,【0017】に「 本発明の第3の観点は,気象衛星による気象画像データを解析する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって,地形画像データに取得した気象画像データを載せ,当該気象画像データを複数の明度値を設定することにより当該設定値より明度の低い気象画像データを削除してスキャン処理を行い,気象異常の有無を,明度差を利用して表出させる処理をコンピュータに実行させるプログラムである。」と記載されている。 また,発明の詳細な説明には各地震についての具体例として以下の記載がある。 イ 具体例の記載について (ア)実施の形態を実際の地震の検出した具体例として記載されているところの能登半島沖の地震について,所定の明度値より明度値の低い画像データを削除することについて,段落【0071】,【0073】,【0074】には,それぞれの時刻の気象画像を地図上にのせた画像において,明度値190以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0072】には,明度値195以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0075】には,明度値180以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0077】には明度値133?180以下を削除した画像とすることが記載されているが,それぞれの画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」をどのようにして求めるのか記載されていないし,示唆もされていない。 さらに,例えば段落【0071】においては,「地域内の複数の明度値の最大値の平均値」から181を求めているが,画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」としては190が用いられており,181は用いられていない。 そして,「明度値の最大値の平均値」の算出についての記載は,能登半島沖の地震では,段落【0071】のみである。 (イ)同様に,実施の形態を実際の地震の検出した具体例として記載されているところの茨城県南部地震について,所定の明度値より明度値の低い画像データを削除することについて,段落【0083】には,その時刻の気象画像を地図上にのせた画像において,明度値51以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0084】には,明度値52以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0085】には,明度値53以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0086】,【0088】には明度値50以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0087】には明度値56以下を削除した画像とすることが記載されているているが,それぞれの画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」をどのように求めるのか記載されていないし,示唆もされていない。 さらに,例えば段落【0083】においては,「地域内の複数の明度値の最大値の平均値」から61を求めているが,画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」としては51が用いられており,61は用いられていない。 そして,「明度値の最大値の平均値」の算出についての記載は,茨城県南部地震では,段落【0083】のみである。 (ウ)実施の形態を実際の地震の検出した具体例として記載されているところの北海道根室支庁北部の地震について,所定の明度値より明度値の低い画像データを削除することについて,段落【0096】,【0097】,【0103】には,それぞれの時刻の気象画像を地図上にのせた画像において,明度値48以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0098】には,明度値47以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0099】,【0102】には,明度値46以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0101】には明度値45以下を削除した画像とすることが記載されているが,それぞれの画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」をどのように求めるのか記載されていないし,示唆もされていない。 さらに,例えば段落【0096】においては,「地域内の複数の明度値の最大値の平均値」から74を求めているが,画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」としては48が用いられており,74は用いられていない。 そして,「明度値の最大値の平均値」の算出についての記載は,北海道根室支庁北部の地震では,段落【0096】のみである。 (エ)実施の形態を実際の地震の検出した具体例として記載されているところの新潟中越沖地震について,所定の明度値より明度値の低い画像データを削除することについて,段落【0113】,【0115】,【0116】,【0117】には,それぞれの時刻の気象画像を地図上にのせた画像において,明度値80以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0114】には,明度値81以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0119】には明度値62?80以下を削除した画像とすることが記載されているが,それぞれの画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」をどのように求めるのか記載されていないし,示唆もされていない。 さらに,例えば段落【0113】においては,「地域内の複数の明度値の最大値の平均値」から85を求めているが,画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」としては80が用いられており,85は用いられていない。 そして,「明度値の最大値の平均値」の算出についての記載は,新潟中越沖地震では,段落【0119】のみである。 (オ)実施の形態を実際の地震の検出した具体例として記載されているところの新潟県における余震について,所定の明度値より明度値の低い画像データを削除することについて,段落【0123】には,その時刻の気象画像を地図上にのせた画像において,明度値126以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0124】には,明度値128以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0125】には,明度値135以下を削除した画像とすることが記載され,段落【0127】には明度値76?126以下を削除した画像とすることが記載されているが,それぞれの画像を所定の「明度値以下を削除した画像」とする際の所定の「明度値」をどのように求めるのか記載されていないし,示唆もされていない。 そして,「明度値の最大値の平均値」の算出についての記載は,新潟県における余震では,記載されていない。 (カ)以上まとめると,上記の実際の地震について記載された各具体例においては,それぞれ,「明度値の最大値の平均値」を「地域内」の「複数の明度値の最大値」を平均することにより求めることについては記載されているといえるものの,「明度値の最大値の平均値」を「複数の地域内」の「明度値の最大値」を平均することにより求めることについては記載されていない。 なお,それぞれの具体例において「地域内」の「複数の明度値の最大値」を平均することにより求めた値とは異なる値が気象画像を削除する際の基準明度値として用いられており,当初明細書等には,「複数の明度値の最大値」を平均して求めた値を気象画像を削除する際の基準明度値として用いることも記載されているとはいえない。 ウ 上記アおよびイで検討したように,当初明細書等には,上記補正事項1の「複数の地域内の明度値の最大値の平均値」を参照して基準明度値とし,その基準明度値よりも低い赤外線気象画像データを削除することが記載されているとはいえない。 さらに,審判請求書においても,上記発明特定事項1への補正の根拠については何も記載していない。 また,上記発明特定事項1が本願の優先権主張日時点において当業者にとって自明な事項とする根拠もない。 したがって,発明特定事項1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入するものである。 (2)補正された事項である「明度差が所定の値より大きく,前記最大明度値が突然起こった場合にその地域に「地震の有無を表出させること」が可能な,処理部を有する」(以下,「発明特定事項2」という。)について検討する。 ア 当初明細書等には,発明特定事項2そのものは記載されておらず,それと関連する記載として当初明細書等に各地震の例について, 能登半島沖の地震については段落【0074】に「 図19は9時00分の表示で平面は明度値190以下を削除した画像である。A地域の断面の明度値の最低は132,最高は216で,その明度差は84である。この時刻でA地域の明度差が最大になる。東西断面で約139kmの範囲で,明度値の急激な変化がこの地域に生じている。この時刻の41分後頃に,A地域の海岸沖で地震が発生している。」と記載され, 茨城県南部地震については段落 【0087】に「 図36は13時30分の表示で平面は明度値56以下を削除した画像である。A地域の断面の明度値の最低は22,最高は66で,その明度差は44である。この時刻でA地域の明度差が最大になる。東西断面で約114km,南北断面で約113kmの範囲で,明度値の急激な変化がこの地域に生じている。この時刻の4分後頃に,A地域の東部で地震が発生している。」と記載され, 北海道根室支庁北部の地震については段落 【0098】,【0099】に「図52は12時30分の表示で平面は明度値47以下を削除した画像である。この時刻でB地域の明度差が最大値39になる。約57kmの範囲で,明度値の急激な変化がこの地域に生じている。」,「 図53は13時00分の表示で平面は明度値46以下を削除した画像である。B地域の明度差は38である。13時12分頃にC地域で地震が発生している。」とそれぞれ記載され, 新潟中越沖地震については段落【0115】に「 図75は10時00分の表示で平面は明度値明度値80以下を削除した画像である。A地域の断面の明度値の最低は61,最高は93で,その明度差は32である。この時刻でA地域の明度差が最大になる。南北断面で約73kmの範囲で,明度値の急激な変化がこの地域に生じている。この時刻の13分後頃に,B地域の海岸で地震が発生している。」と記載され, 新潟県における余震については段落【0123】に「 図90?92は新潟県付近の地形上に各時刻の気象画像を載せた画像である。その平面(上)と断面で,↑は視線方向を示す。 図90は15時00分の表示で平面は明度値126以下を削除した画像である。削除されたB地域の断面の明度値の最低は73,最高は144で,その明度差は71である。この時刻でA地域の明度差が最大になる。断面は東西,南北の2向について表示している。南北断面で約82kmの範囲で,明度値の急激な変化がこの地域に生じている。この時刻の37分後頃に,C地域の海岸で地震が発生している。」と記載されている。 イ 上記アにおいて摘記した各実施例の記載を総合すると「明度値の急激な変化がこの地域に生じた時刻の後,数分から数十分後頃に,この地域または他の地域に地震が発生している。」旨の記載がされているといえるのみであり,いずれの実施例にも,「明度差が所定の値より大きく,前記最大明度値が突然起こった場合にその地域に地震の有無を表出させることが可能な」ことは記載されていないし,示唆されていないし,上記各実施例の記載を総合してもその点が明らかとなるものでもない。 また,そのような事項が本願の優先権主張日時点において当業者にとって自明な事項とする根拠もない。 さらに,審判請求書においても,上記発明特定事項2への補正の根拠については何も記載していない。 したがって,発明特定事項2は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術事項を導入するものである。 (3)以上検討したように,補正された発明特定事項1及び2は,いずれも当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。 よって,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 3 補正の適否2(補正の目的について) (1)本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「明度差」について,「前記気象画像データの明度値から前記基準明度値を減じて明度差を求め,」から「所定地域ごと,最大明度値と最小明度値との明度差を求め,」とする補正事項をその一部に含むものであるところ,当該補正により,明度差の求め方が補正前と異なるものとなっている。 そうすると上記補正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない補正をその一部に含むものといわざるを得ない。 また,当該補正事項は,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。 (2)したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていない。 4 まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり,また,本件補正は,同条第5項の規定に違反するものであるので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?14に係る発明は,平成24年12月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されたものであって,その請求項1に係る発明は,次のとおりであると認める。 「【請求項1】 気象衛星による地表面から放射される赤外線を検出し,地表面の温度が高い部分は輝度が高く,温度が低い部分は輝度が低く示される赤外線気象画像データを解析する画像解析装置であって, 地形画像データに,取得した前記気象画像データを載せ,当該気象画像データの輝度について所定領域内の複数の明度値の最大値を求めてそれらの平均値を参照して基準明度値として設定し,当該基準設定値より明度値の低い気象画像データを削除し,前記気象画像データの明度値から前記基準明度値を減じて明度差を求め,当該明度差をスキャン処理を行い,明度差の大きさを利用して地震の有無を表出させることが可能な処理部 を有する画像解析装置。」(以下,「本願発明」という。) 第4 原査定の拒絶の理由の概要 平成24年10月3日付の拒絶理由通知書及び平成25年3月28日付でなされた拒絶査定によれば,原査定の拒絶の理由の概要は,本願の発明の詳細な説明の記載は,以下のとおり特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。 「実際の地震の検出に適用した具体例(【0067】?【0128】,図9?99)の解析手法で得られたことが,以下のとおり,地震の有無を表出させる実証データであると認めることはできないため,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」 1.明度差(最高値-最低値)の求め方が不明である。最低値は,その地点の測定値であると思われるが,その地点の断面の明度値の最高を求める方法として,最低値周辺の最高値を平均した点が記載されているが,その地点(中心)から周りの測定値の平均といっても,中心から測定値までの距離は明細書に記載されておらず,この距離の取り方によっては最高値が変動することは明らかであるから,最高値自体を決定する具体的な手段が記載(特定)されていない明度差を,解析の基礎とすることはできない。 2.仮に,明度の最高値が求められ,明度差を解析の基礎としたとする。 各時刻において,画像の明度差を比較する際の,各時刻の地点が異なっているが,通常は,注目する同一の地点(例えば,震源)にしたり,あるいは,各時刻における画像全体の明度差が最大の地点を順次選択する。しかしながら,前者の比較手法を採用していないのは明らかであり,一方,各時刻のそれぞれの画像全体において,明度差が最大の地点を選択している旨の記載もないし,これらの図面から明度差が最大の地点を選択していることが自明でもないことから,後者の比較手法であると認めることができない。したがって,各時刻において,画像の明度差を比較する手法が記載(特定)されていない地点を,解析の基礎とすることはできない。 第5 当審の判断(下線は当審で付与した。) 1.本願発明の「明度差」の求め方について検討する。 本願発明において明度差の求め方は,「当該気象画像データの輝度について所定領域内の複数の明度値の最大値を求めてそれらの平均値を参照して基準明度値として設定し,当該基準設定値より明度値の低い気象画像データを削除し,前記気象画像データの明度値から前記基準明度値を減じて明度差を求め」ると特定されている。 そこで,「明度差」の求め方について明細書の発明の詳細な説明の記載を確認する。 ア 「明度差」に関する記載は,上記第2 2 (1)で摘記した段落【0010】,【0016】,【0017】 及び「【発明の効果】 【0018】 本発明によれば,気象衛星の画像データの明度差を利用することにより地震の発生を的確に検出することができる。」, 「【0031】 <処理の概略> ・・・ 【0032】 次に,本実施形態においては,気象衛星ひまわりの気象画像データを地形データ上に載せて,その明度差を利用して3次元表示する。その際,明度の低いデータを削除して表示する。これにより,明度の高い厚い雲等が表示可能になる。なお,画像の明度は,0?255の256の値をとることが可能であり,明度値255に近いほど画像は白く表示され,明度値0に近いほど画像は黒く表示される。」, 「【0039】 <気象画像データの3次元表示> ・・・ 【0040】 2006年9月の台風13号はその勢力が強く,最低気圧は919hPa(16日3?9時)で,その勢力はあまり衰えずに950hPa(17日18時)で九州北部へ上陸した。その可視画像は九州全体を覆い明度差が少ないため,明度差を利用した3次元表示ができない。」,と記載され,その後各地震の例が記載されている。 能登半島沖の地震の例は, 【0066】?【0078】である。 この地震の例の段落【0071】の「削除されたA地域の断面の明度値の最低は159,最高は181で,その明度差は22である。ここで最高は最低値周辺の最高値を東西南北求めて平均した。その値は東171,西191,南166,北197である。」との記載について,本願発明との対応をみてみる。 ここでの発明特定事項の「当該気象画像データの輝度について所定領域内の複数の明度値の最大値を求めてそれらの平均値を参照して基準明度値として設定」することは,段落【0071】の「最高は最低値周辺の最高値を東西南北求めて平均した。その値は東171,西191,南166,北197である。」との記載に対応し,段落【0071】の「最高」は,本願発明の発明特定事項の「基準明度値」に対応するようであるが,「基準明度値」を計算するためには,「最低値周辺の最高値を東西南北求める」ための条件として,例えば,探索する範囲を特定する等の条件が必要であるが,そのような条件が記載されていないので,どのようにして「基準明度値」を求めればよいのかを理解することができない。その結果,それらの値を用いて求める「明度差」の求め方も不明である。 また,【0072】の「明度の低い地域がA,B,C,Dの4ヶ所ある。東西断面▲1▼と南北断面▲2▼,▲3▼で,その地域が表示されている。B地域の断面の明度値の最低は149,最高は197で,その明度差は48である。」との記載について,本願発明との対応をみてみる。 ここでの発明特定事項の「当該気象画像データの輝度について所定領域内の複数の明度値の最大値を求めてそれらの平均値を参照して基準明度値として設定」することは,段落【0072】の「B地域の断面の明度値の最低は149,最高は197で,その明度差は48である。」との記載に対応し,段落【0072】の「最高」は,本願発明の発明特定事項の「基準明度値」に対応するようであるが,「基準明度値」を計算するためには,B地域を特定するための条件として,例えば,B地域を特定する座標範囲等の条件が必要であるが,そのような条件が記載されていないので,どのようにして「基準明度値」を求めればよいのかを理解することができない。その結果,それらの値を用いて求める「明度差」の求め方も不明である。 この「明度差」の求め方が不明である点は,能登半島沖の地震の例では段落【0073】,【0074】,【0075】の記載についてもいえる。 さらにこの「明度差」の求め方が不明である点は,茨城県南部の地震の例では段落【0083】?【0089】の記載についていえ,北海道根室支庁北部の地震の例では段落【0096】?【0099】,【0101】?【0104】,【0106】の記載についていえ,新潟中越沖地震の例では段落【0113】?【0118】の記載についていえ,新潟県における余震の例では段落【0123】?【0126】の記載についていえる。 イ そうすると,何れの地震の例の記載をみても「基準明度値」の求め方が不明であるし,その結果,それらの値を用いて求める「明度差」の求め方も不明である。 したがって,発明の詳細な説明にはここでの発明特定事項の「前記気象画像データの明度値から前記基準明度値を減じて明度差を求め」ること,および「明度差」について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとは言えない。 2.「地震の有無を表出させること」について次に検討する。 ア 本願発明の発明特定事項においては,「明度差の大きさを利用して地震の有無を表出させることが可能」と特定されている。 そこで,ここの発明特定事項に対応する明細書の記載を確認する。 能登半島沖の地震の具体例についての記載【0071】?【0075】をみてみると,各時間の明度差と断面を検討する地域については,7時30分の表示では明度差22でA地域であり,8時00分の表示では明度差48でB地域であり,8時30分の表示では明度差59でF地域であり,9時00分の表示では明度差84でA地域であり,10時00分の表示では明度差65でB地域と記載されている。 しかし,これらの記載からは各時刻において明度差と断面を求めた地域をどのように選定すればよいのかについては記載されておらず,具体例において明度差を求める場所を特定する方法を理解することができない。 この各時間の明度差と断面を検討する地域について,各地点をどのように選定しているのかが記載されていない点は,茨城県南部の地震の例(段落【0083】?【0089】の記載),北海道根室支庁北部の地震の例(段落【0096】?【0099】,【0101】?【0104】,【0106】の記載),新潟中越沖地震の例(段落【0113】?【0118】の記載),新潟県における余震の例(段落【0123】?【0126】の記載)についても同様である。 イ そうすると,各時間における明度差と断面を検討する地域の選定の方法が不明であるので,「明度差」の求め方が分かるとしても,それを求める地域の選定方法が不明であるので,それを用いて「地震の有無を表出させることが可能」とはいえない。 ウ 「地震の有無を表出させること」について発明の詳細な説明の記載には,上記2(2)アにおいて摘記した事項が記載されているところ,当該記載によれば,各地震についての具体例において「明度差」を用いて地震の有無を表出させることについて次のように記載されているものと認められる。 (ア)能登半島沖の地震の例については,「A地域の明度差が最大」になり,その41分後頃に,「A地域の海岸沖で地震が発生している」と記載され,図10に示された震央は,図19に示されているA地域に重なるものではないから,この具体例においては,震央は,明度差が最大となった地域であるAではなく,それとどのような関連があるのかが不明であるA地域の海岸沖であると解される。 (イ)茨城県南部の地震の例については,「A地域の明度差が最大」になり,その4分後頃に「A地域の東部で地震が発生している」と記載され,図28に示された震央は,図36に示されたA地域とはその一部が重なるものであり,この具体例からは,明度差が最大となった地域であるAにおいて地震が表出していると一応解されることになる。 (ウ)北海道根室支庁北部の地震の例については,「B地域の明度差が最大」になり,急激な変化がこの地域に生じており,「B地域の明度差は38」になったその12分後頃に「C地域で地震が発生」しており,図45に示された震央と図53に示されたB地域とは重なっていないから,この具体例においては,震央は,明度差が最大となった地域ではなく,B地域とどのような関連があるのかが不明なC地域であると解されることとなる。 (エ)新潟中越沖地震の例については,「A地域の明度差が最大」になり,明度値の急激な変化がこの地域に生じており,その13分後頃に,「B地域の海岸で地震が発生」しており,図69に示された震央と図75に示されたB地域とは重なっていないから,この具体例においては,震央は,明度差が最大となった地域ではなく,A地域とどのような関連があるのかが不明である「B地域」と離れている海岸であると解される。 (オ)新潟県における余震の例については,「A地域の明度差が最大」になり,明度値の急激な変化がこの地域に生じており,その37分後頃に,「C地域の海岸で地震が発生している」と記載され,図87に示された震央と,図90に示されたA地域とは重なっていないから,この具体例においては,震央は,明度差が最大となった地域であるAではなく,A地域とどのような関連があるのかが不明である「C地域」と離れている海岸であると解される。 エ 以上ウで説示したように,本願の明細書の発明の詳細な説明に記載されている各地震についての具体例は,明度差が最大となる地域と地震が発生した震央との関係が,それぞれ異なるものであるし,明度差が最大となる地域と地震が発生した震央との関係を統一して理解することはできない。 したがって,発明の詳細な説明の記載からは,本願発明により,地震が発生する前に,所定の領域を選定し,そこでの明度差を求め,その明度差の大きさを利用して地震の有無を表出することを行うことをどのように実現すれば良いのかを理解することはできない。 3.上記1および2で検討したように,本願の明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1?14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 第6 むすび 本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,本願は,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-03 |
結審通知日 | 2014-12-09 |
審決日 | 2014-12-24 |
出願番号 | 特願2008-45227(P2008-45227) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(G01V)
P 1 8・ 536- Z (G01V) P 1 8・ 57- Z (G01V) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 大思、萩田 裕介 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
信田 昌男 三崎 仁 |
発明の名称 | 画像解析装置およびその方法、並びにプログラム |
代理人 | 佐藤 隆久 |