• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01K
管理番号 1297613
審判番号 不服2013-22094  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-11 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2010-545551「中温熱源からの発電」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日国際公開、WO2009/098471、平成23年 4月 7日国内公表、特表2011-511209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009(平成21)年2月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年2月7日(GB)グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月4日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年8月20日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、要約書及び図面の翻訳文が提出され、平成24年11月8日付けで拒絶理由が通知され、平成25年5月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成26年1月20日付けで書面による審尋がされ、同年6月23日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年11月11日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成25年11月11日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記アに示す本件補正前の(すなわち、平成25年5月20日に提出された手続補正書により補正された)請求項1ないし16を、下記イに示す請求項1ないし16へと補正するものである。

ア 「【請求項1】
200°Cから700°Cの範囲の温度の熱源(A、22)から出力を生成する方法であって、
前記熱源からの熱でボイラ(11)内の水を加熱して乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するステップと、
前記湿り蒸気を膨張して容積式蒸気膨張機(21)内で出力を生成するステップと、
膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮するステップと、
凝縮した水を前記ボイラに戻すステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記湿り蒸気の圧力が30barを越えないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸気膨張機(21)が2軸式またはスクロール式であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記膨張が少なくとも二つのステージで達成されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有機ランキンサイクル(31)で作動する加圧有機流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
加熱システム内の流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮され、これによって熱電併給システムを提供することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記熱源が、内燃機関(23)からの排ガス流(22)であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記内燃機関の冷却ジャケット(25)からの熱が、前記膨張した蒸気の凝縮からの熱に加えられることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱源(A、22)と、
200°Cから700°Cの範囲の温度の前記熱源から熱を受け取り、それによって乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するように構成された蒸気ボイラ(11)と、
蒸気を膨張し、それによってさらなる機械力を生成する容積式蒸気膨張機(21)と、
膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮するような大きさの凝縮器(13)と、
水を前記ボイラに戻す給水ポンプ(10)と、
を備える機械力生成装置。
【請求項10】
前記凝縮器(13)が空冷式の熱交換器であることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記凝縮器(13)が、追加出力を生成する有機ランキンサイクル(31)発電機のボイラであることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記凝縮器(13)が、加熱システムを循環する流体を加熱するヒータであることを特徴とする請求項9に記載の装置。
【請求項13】
内燃機関(22)の冷却ジャケット(25)が、有機ランキンサイクル発電機(31)のボイラにさらに熱を運ぶように接続されることを特徴とする請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
水(L)の供給が、ポンプの排出側から蒸気膨張機(18、21、29)のベアリングに導かれることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
内燃機関(23)からの排ガス(22)が前記熱源を形成することを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記熱源を提供する前記内燃機関(23)が車両の内燃機関であり、前記凝縮器(13)が膨張した蒸気を70°Cから120°Cで凝縮するような大きさであることを特徴とする請求項15に記載の装置。」

イ 「【請求項1】
200°Cから700°Cの範囲の温度の高温ガス流から動力を回収する方法であって、
前記高温ガス流からの熱でボイラ(11)内の水を加熱して乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するステップと、
前記湿り蒸気を膨張して容積式蒸気膨張機(21)内で動力を生成するステップと、
膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮するステップと、
凝縮した水を前記ボイラに戻すステップと、
を含む動力回収方法。
【請求項2】
前記湿り蒸気の圧力が30barを越えないことを特徴とする請求項1に記載の動力回収方法。
【請求項3】
前記蒸気膨張機(21)が2軸式またはスクロール式であることを特徴とする請求項1または2に記載の動力回収方法。
【請求項4】
前記膨張が少なくとも二つのステージで達成されることを特徴とする請求項3に記載の動力回収方法。
【請求項5】
有機ランキンサイクル(31)で作動する加圧有機流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の動力回収方法。
【請求項6】
加熱システム内の流体を用いた熱交換によって前記膨張した蒸気が凝縮され、これによって熱電併給システムを提供することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の動力回収方法。
【請求項7】
前記高温ガス流が、内燃機関(23)からの排ガス流(22)であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の動力回収方法。
【請求項8】
前記内燃機関の冷却ジャケット(25)からの熱が、前記膨張した蒸気の凝縮からの熱に加えられることを特徴とする請求項7に記載の動力回収方法。
【請求項9】
高温ガス流から機械動力を回収する装置であって、
200°Cから700°Cの範囲の温度の前記高温ガス流から熱を受け取り、乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成するように構成された蒸気ボイラ(11)と、
蒸気を膨張し、それによって機械動力を生成する容積式蒸気膨張機(21)と、
膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮するような大きさの凝縮器(13)と、
水を前記ボイラに戻す給水ポンプ(10)と、
を備える動力回収装置。
【請求項10】
前記凝縮器(13)が空冷式の熱交換器であることを特徴とする請求項9に記載の動力回収装置。
【請求項11】
前記凝縮器(13)が、追加動力を生成する有機ランキンサイクル(31)発電機のボイラであることを特徴とする請求項9に記載の動力回収装置。
【請求項12】
前記凝縮器(13)が、加熱システムを循環する流体を加熱するヒータであることを特徴とする請求項9に記載の動力回収装置。
【請求項13】
内燃機関(22)の冷却ジャケット(25)が、有機ランキンサイクル発電機(31)のボイラにさらに熱を運ぶように接続されることを特徴とする請求項11または12に記載の動力回収装置。
【請求項14】
水(L)の供給が、ポンプの排出側から蒸気膨張機(18、21、29)のベアリングに導かれることを特徴とする請求項9ないし13のいずれかに記載の動力回収装置。
【請求項15】
内燃機関(23)からの排ガス(22)が前記高温ガス流を形成することを特徴とする請求項9ないし14のいずれかに記載の動力回収装置。
【請求項16】
前記高温ガス流を提供する前記内燃機関(23)が車両の内燃機関であり、前記凝縮器(13)が膨張した蒸気を70°Cから120°Cで凝縮するような大きさであることを特徴とする請求項15に記載の動力回収装置。」
(下線は、本件補正箇所を示すために、請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的要件について
本件補正は、請求項1に関しては、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「熱源から出力を生成する方法」について、「熱源」、「出力」及び「生成」の態様を具体的に「高温ガス流」、「動力」及び「回収」に限定することにより、本件補正後の「高温ガス流から動力を回収する方法」と限定するものである。
また、本件補正は、請求項9に関しては、本件補正前の請求項9の発明特定事項である「機械力生成装置」について、本件補正前の「熱源と、・・・を備える機械力生成装置」を、本件補正後の「高温ガス流から動力を回収する装置であって、・・・動力回収装置」に限定し、本件補正前の「熱源」を、本件補正後の「高温ガス流」に限定するとともに、本件補正前の「機械力」を、本件補正後の「機械動力」に限定するものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項2ないし8における「方法」を、本件補正後の請求項2ないし8における「動力回収方法」に限定するとともに、本件補正前の請求項7における「熱源」を、本件補正後の請求項7における「高温ガス流」に限定するものである。
また、本件補正は、本件補正前の請求項10ないし16における「装置」を、本件補正後の請求項10ないし16における「動力回収装置」に限定するとともに、本件補正前の請求項11に係る発明における「出力」を、本件補正後の請求項11に係る発明における「動力」に限定し、本件補正前の請求項15及び16における「熱源」を、本件補正後の請求項15及び16における「高温ガス流」に限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1ないし16に記載された発明と本件補正後の請求項1ないし16に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2 刊行物
(1)刊行物の記載
原査定の拒絶理由に引用された刊行物である特表2003-521613号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は、理解の一助のために当審で付したものである。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱と電力を供給するための小規模コジェネレーションシステムであって、
高圧作動流体の供給を行うためのポンプと、
前記ポンプに結合されて、前記高圧作動流体を受容する熱交換器と、
その中に受容された前記高圧作動流体を加熱して二相作動流体を生成するように、前記熱交換器内に少なくとも一部分延伸するバーナーと、
前記熱交換器に結合され、前記二相作動流体を受容する膨張器と、該膨張器が、前記二相作動流体を膨張させることによって前記二相作動流体から力学的エネルギーを取り出すように構成されていることと、
前記膨張器に関連して動作するように結合されている発電機と、該発電機が、前記二相作動流体から取り出された力学的エネルギーによって駆動されることと、
前記膨張器に接続され、前記膨張した二相作動流体を受容するコンデンサーと、
前記コンデンサーの近くで暖房用流体を循環させるための手段と、該暖房用流体が、前記膨張した二相作動流体が凝縮する際に加熱されることとからなるシステム。
【請求項2】 さらに前記システムの動作を管理するためのコントローラを含み、該コントローラが、前記発電機からの出力電力を受容し、モニターするように前記発電機に結合されている請求項1記載のシステム。
【請求項3】 熱と電力を供給するための小規模コジェネレーションシステムであって、
高圧作動流体の供給を行うためのポンプと、
前記ポンプに結合されて、前記高圧作動流体を受容する熱交換器と、
前記熱交換器内で前記高圧作動流体を加熱し、二相作動流体を生成する加熱要素と、
前記熱交換器に結合され、前記二相作動流体を受容する膨張器と、該膨張器が、前記二相作動流体を膨張させることによって前記二相作動流体から力学的エネルギーを取り出すように構成されていることと、
前記膨張器に関連して動作するように結合されている発電機と、該発電機が、前記二相作動流体から取り出された力学的エネルギーによって駆動されることと、
前記膨張器に接続され、前記膨張した二相作動流体を受容するコンデンサーと、
前記コンデンサーの近くで暖房用流体を循環させるための手段と、該暖房用流体が、前記膨張した二相作動流体が凝縮する際に加熱されることと、
前記システムの動作を管理するためのコントローラと、該コントローラが、前記発電機からの出力電力を受容し、モニターするように前記発電機に結合されていることと、
前記ポンプがある速度を有する容積式ポンプであり、
前記コントローラが前記ポンプに結合され、前記ポンプの速度を管理し、
前記コントローラが、出力電力を増大させるために前記ポンプの速度を減少させるように構成されているシステム。
【請求項4】 さらに前記コントローラが、出力電力を減少させるために前記ポンプの速度を増大させるように構成されている請求項3記載のシステム。
【請求項5】 前記作動流体が、蒸気部分を0?90%の範囲含む水である請求項4記載のシステム。
【請求項6】 前記作動流体が、蒸気部分を20?80%の範囲含む水である請求項4記載のシステム。
【請求項7】 前記作動流体が、蒸気部分を50?70%の範囲含む水である請求項4記載のシステム。
【請求項8】 前記ヒーターが前記高圧作動流体を受容するフィンのついた管を含む請求項1記載のシステム。
【請求項9】 熱と電力を供給するための小規模コジェネレーションシステムであって、
高圧作動流体の供給を行うためのポンプと、
前記ポンプに結合されて、前記高圧作動流体を受容する熱交換器と、
前記熱交換器内で前記高圧作動流体を加熱し、二相作動流体を生成する加熱要素と、
前記熱交換器に結合され、前記二相作動流体を受容する膨張器と、該膨張器が、前記二相作動流体を膨張させることによって前記二相作動流体から力学的エネルギーを取り出すように構成されていることと、
前記膨張器に関連して動作するように結合されている発電機と、該発電機が、前記二相作動流体から取り出された力学的エネルギーによって駆動されることと、
前記膨張器に接続され、前記膨張した二相作動流体を受容するコンデンサーと、
前記コンデンサーの近くで暖房用流体を循環させるための手段と、該暖房用流体が、前記膨張した二相作動流体が凝縮する際に加熱されることと、
前記システムの動作を管理するためのコントローラと、該コントローラが、前記発電機からの出力電力を受容し、モニターするように前記発電機に結合されていることと、
前記膨張器が、少なくとも1つの固定スクロール及び少なくとも1つの回転スクロールからなるスクロール膨張器であり、該回転スクロールが該固定スクロールの周囲を回転するように構成されているシステム。
【請求項10】 さらに前記スクロール膨張器が、前記発電機に結合され、前記回転スクロールによって駆動される出力シャフトからなる請求項9のシステム。
【請求項11】 さらに前記スクロール膨張器が、高圧の液体又は二相作動流体を受容する入口及び、前記膨張した作動流体を吐出する出口からなり、
前記固定スクロール及び回転スクロールが、前記入口と前記出口を流体連通し、前記二相作動流体を膨張させる複数のチャンバーを画定する請求項10記載のシステム。
【請求項12】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?90%の範囲含む水である請求項1記載のシステム。
【請求項13】 ポンプがある速度を有する容積式ポンプであり、
前記ポンプが、少なくとも部分的に前記発電機によって発生された電力によって動作し、
前記発電機によって発生された電力量が、前記ポンプの速度の相関的要素である請求項12記載のシステム。
【請求項14】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?80%の範囲含む水である請求項1記載のシステム。
【請求項15】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?70%の範囲含む水である請求項1記載のシステム。
【請求項16】 前記ポンプが、少なくとも部分的に前記発電機によって発生された電力によって動作する請求項1記載のシステム
【請求項17】 前記ポンプが、6.9×10^(5)Paを上回る圧力で前記熱交換器に前記作動流体を供給する請求項1記載のシステム。
【請求項18】 前記ポンプがある速度を有する容積式ポンプであり、
前記発電機によって発生される電力量が、前記ポンプの速度の相関的要素である請求項1記載のシステム。
【請求項19】 前記循環させるための手段が、前記コンデンサーを通過する室内の空気を押し出すように構成されて配置されている送風機を含み、該送風機が、少なくとも部分的に前記発電機によって発生された電力によって動作する請求項1記載のシステム。
【請求項20】 前記循環させるための手段が、前記コンデンサーを通過する第二の水の供給を押し進めるように構成されて配置されている少なくとも1つの第二の水ポンプを含み、該少なくとも1つの第二の水ポンプが、少なくとも部分的に前記発電機によって発生された電力によって動作する請求項1記載のシステム。
【請求項21】 前記ポンプがある速度を有する容積式ポンプであり、
前記バーナーが燃焼率を調節可能であり、
前記バーナーの燃焼率及び前記ポンプの速度が制御される場合、前記発電機によって発生される電力量が、前記システムによって発生される熱エネルギー量に依存しない請求項1記載のシステム。
【請求項22】 前記バーナーが、二段バーナー及び完全調節バーナーのどちらかである請求項21記載のシステム。
【請求項23】 前記コントローラが、互いに独立する前記システムの出力電力及び熱出力を選択的に調節するように構成されている請求項2記載のシステム。
【請求項24】 前記ポンプが、6.9×10^(5)Paを上回る圧力で前記熱交換器に前記作動流体を供給する請求項3記載のシステム。
【請求項25】 前記ポンプが、6.9×10^(5)Paを上回る圧力で前記熱交換器に前記作動流体を供給する請求項5記載のシステム。
【請求項26】 単一のシステムから対応する空間で使用するための熱及び電力を同時に発生する方法であって、
高圧作動流体の供給を行い、
前記高圧作動流体を加熱し、二相作動流体の混合物を生成し、
前記加熱された高圧二相作動流体の混合物から力学的エネルギーを取り出し、
前記作動流体の少なくとも潜熱部分を前記対応する空間に移送する方法。
【請求項27】 前記取り出すステップが、前記加熱された高圧力二相作動流体の混合物をより低い圧力へ膨張させるステップを含む請求項26記載の方法。
【請求項28】 前記移送するステップが前記取り出すステップに続く請求項27記載の方法。
【請求項29】 さらに取り出された力学的エネルギーから電力を発生させるステップを含む請求項27記載の方法。
【請求項30】 前記システムから発生される熱及び電力が互いに独立している請求項29記載の方法。
【請求項31】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?90%の範囲含む水である請求項26記載の方法。
【請求項32】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を20?80%の範囲含む水である請求項26記載の方法。
【請求項33】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を50?70%の範囲含む水である請求項26記載の方法。
【請求項34】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?80%の範囲含む水である請求項26記載の方法。
【請求項35】 前記作動流体が、前記膨張器に入る際に、蒸気部分を0?70%の範囲含む水である請求項26記載の方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項35】)

イ 「【0009】
【課題を解決するための手段】
簡単に述べれば、本発明は、住宅及び小規模な商業建築で使用するのに最も都合のよい、小規模な暖房及び電力コジェネレーションシステムに関する。本システムは、ヒーター及び、このヒーターに高圧の水を供給するためのポンプを含む。ヒーター内では、高圧の水が、蒸気(例えば水蒸気)及び液体(例えば水)の両方の部分を含むようにその飽和点又は沸点近くまで加熱される。さらにこの高圧の二相の混合物は膨張器に供給され、膨張器は二相の混合物を膨張させ低圧にし、このプロセスにおいて力学的エネルギーが発生する。膨張器は発電機に接続され、それによって二相の混合物から取り出される力学的エネルギーが発電機を駆動するのに利用され、したがって電力が発生する。さらに膨張プロセスのために低圧となり、かつ蒸気の割合が多い膨張器を出る二相の混合物がコンデンサーに供給される。暖房用流体(例えば気体又は分離した給水)が、コンデンサーの近傍に導入され、それによって水蒸気が凝縮される際に暖房用流体が加熱される。さらにこの暖房用流体は、このシステムによって発生された電力を利用して、対応する住宅又は建築物に暖房用としてくまなく分配される。コンデンサーから出る復水は、発電機によって駆動されるポンプに戻り、これによりサイクルが完結する。また過剰の電力は住宅又は建築物で利用される。」(段落【0009】)

ウ 「【0011】
図1は、本発明による小規模コジェネレーションシステム100のブロック図を示す。コジェネレーションシステム100は高圧ヒーター104を含む。ヒーター104内に配置されている加熱エレメント106を介して、水のような作動流体が高圧で流れる。加熱エレメント106は、熱伝達が改善されるように、小径で、単一管からなり、フィンを有するらせん状に形成されていること、したがって小さな総質量を有し、比較的少量の水を収容することが好ましい。例えば100,000 Btu/hr.のシステム100に対して、加熱エレメント106の内径はおおよそ6.35mm(0.25インチ)である。説明したように、ヒーター104の設計は、水が加熱エレメント106を素早く通過する際に、水がほぼ瞬間的に加熱されるようになされている。バーナー108は少なくとも部分的にヒーター104内にまで延伸している。バーナー108は、ガス管110により供給され、燃料弁112により調整されるガス状炭化水素燃料で動作することが好ましい。燃焼用空気は、燃焼用空気ファン114によってバーナー108に圧力の下供給され、燃焼ガスはヒーター104を介して単排気管116内に押し進められる。またバーナー108は自然通風状態下で動作され得ることも理解されなければならない。
【0012】
ヒーター104の加熱エレメント106は、高圧で熱い作動流体が加熱エレメント106から膨張器120まで流れるように供給ライン118により膨張器120に接続されている。さらに膨張器120は操作可能に発電機122に結合されている。膨張器120から出る膨張した流体(例えば熱水と水蒸気の混合物)は三方バルブ124を通過し、コンデンサー126に送られることが好ましい。中央の送風機128はコンデンサー126に隣接して配置されることが好ましい。ヒーター104、膨張器120、発電機122、コンデンサー126、送風機128はすべて、空気入口102a及び空気出口102bを有するハウジング102内に取り付けられていることが好ましい。特に中央の送風機128及びコンデンサー126は、送風機128が冷たい室内の空気をハウジング102内に空気入口102aを介して引き込み、その空気を熱交換器126を通過させ、空気出口102bから出るようにハウジング102内で配置されていることが好ましい。さらに空気出口102bは、暖房される種々の1以上の部屋に導かれるダクトの配列(図示せず)に接続されていることが好ましい。中央の送風機128は、例えば継ぎ目なしベルト132と操作可能に結合されている電気モーター130によって駆動される。
【0013】
戻り管路134は、コンデンサー126を出た復水が湯沸器104に戻るようにヒーター104にコンデンサー126を接続する。高圧ポンプ136が戻り管路134内に配置され、ヒーター104内の水を高圧(例えば6.9×10^(5)Pa(100ポンド/平方インチ(psi))の圧力)に維持することが好ましい。ポンプ136は、電気ポンプモーター138によって駆動されることが好ましい。さらにコジェネレーションシステム100は、発電機122に結合され、そこから電力を受容するコントローラ140を含む。コントローラ140は、暖房される空間内に配置されているサーモスタット160に結合されている。またコントローラ140はバルブ124、電気モーター138、燃焼用空気ファン114、燃料弁112、送風機電気モーター130、サーモスタット160、ポンプモーター138、バッテリー142と点線144で示されるように、関連して動作するように接続されている。以下で説明するように、コントローラ140は、コジェネレーションシステム100の動作を管理し、補足電力を対応する住宅又は建築物に供給し、或いは電力出力ライン144aを介して公益網に供給する。
【0014】
サーモスタットからの熱に対する要求に応じて、コントローラ140は燃焼用ファン114及びポンプ138を作動し、燃料弁112を開放する。これらの動作を実施するために、コントローラ140はライン144aを介して電力公益網からのわずかな量の電力を利用する。電力が利用できない場合(例えば停電中である場合)、コントローラ140はシステム100を立ち上げるのに、バッテリー142内に充電されている電力を利用することができる。バーナー108に入れられた燃料は点火され、それによってヒーター104内の加熱エレメント106に配されている高圧流体(例えば水)が加熱される。バーナー108、燃焼用ファン114、ヒーター104はすべて、加熱エレメント106内の水を対応する動作圧力(例えば水に対して242℃(華氏467度)、3.4×10^(6)Pa(500psi))に対して沸点又は沸点近傍の温度まで加熱できるように設計されていることが好ましい。
【0015】
ヒーター104から出る熱い高圧流体は、蒸気部分(例えば水蒸気)部分と液体部分(例えば水)の両方を含んでいることが好ましい。流体の蒸気部分はおおよそ0%?90%の範囲内にある。特に蒸気部分はおおよそ20%?80%の範囲内にあり、50%?70%の範囲内にあることがより好ましい。すなわちヒーター104を出る作動流体は二相の混合物である。この二相の混合物は供給ライン118でヒーター104を出て、膨張器120に入る。膨張器は、高圧の二相の混合物から、その圧力を低下させ(例えば4.8×10^(4)Pa(7psi)まで)、液体部分の少なくとも一部分が瞬時に水蒸気へと気化し、力学的エネルギーが取り出される。膨張器120によって取り出された力学的エネルギーは発電機122を駆動するのに利用される。すなわち膨張器120は、好適な手段(例えば駆動シャフト、ベルト等)によって発電機122に結合され、それによって発電機122が駆動されることが好ましい。膨張器120による発電機122の動作は、コントローラに供給される電力を結果として与える。コントローラ140が発電機122から電力を受容し始めると、システム100を作動させるために、電力公益網又はバッテリー142に頼る必要はもはやなくなる。
【0016】
膨張プロセスのために典型的にはより高い蒸気部分とより低い圧力とを有する膨張器120を出る熱い作動流体が、さらにコンデンサー126に供給され、送風機128によってコンデンサー126を通過させられる室内の空気を暖めるために凝縮される。特に発電機122からの電力を利用するコントローラ140は、送風機モーター130を始動し、すなわち送風機128を駆動する。送風機128の操作は、空気入口102a内に室内の空気を引き込み、それを加熱する熱交換器126を通過させる。さらに暖かい室内の空気は、空気出口102bに結合されているダクトにより暖房される空間にくまなく分配される。熱交換器126を出る復水は、戻り管路134を介してヒーター104に流れ戻る。ポンプ136は、所望の値(例えば1.4×10^(6)Pa(200 psi))において、ヒーター104内の作動流体の流れを維持することが好ましい。」(段落【0011】ないし【0016】)

エ 「【0017】
膨張器120は、「Rotary Heat Engine」と題する米国特許第4,437,308号に記載されるのと同様なロータリーベーン膨張器、「Two-Phase Reaction Turbine」と題する米国特許第4,298,311号に記載されるのと同様なロータリースクリュー膨張器又はタービンのような、高圧の熱水を力学的エネルギーに変換する容積式又はターボダイナミック装置設計とすることができる。これらの米国特許は参照文献としてそのすべてを本願明細書に取り込む。その上二相の作動流体(例えば水と水蒸気)を受容することによって、作動流体の液相の部分が膨張プロセスで瞬時に水蒸気となるので、膨張器はこのような二相の流体流れ状況下において作動可能でなければならない。
【0018】
好適な実施態様において、膨張器120は無潤滑式スクロールタイプ膨張器である。スクロール膨張器は、基本的に一組の渦巻状螺旋形ベーンを含み、これらは互いの間に複数の三日月形状のチャンバーを形成して噛み合う。螺旋形ベーンの一方は、固定されたままの他方の周囲を軌道を描いて回る。軌道を描いて回るベーンが回転するにつれ、三日月形状のチャンバーはだんだんと大きくなり、膨張器を介して流れる流体が膨張することとなる。スクロールタイプの膨張器は、1つには、液体/蒸気混合物の広い割合範囲にわたって動作可能であることにより、如何なる入口バルブ又は出口バルブも存在しない(したがって複雑さを低減する)こと、電力の発生に対して適した速度で動作させることができること、液体流体のポンピングされた流れ以外には外部の補助を必要とせずに発電機の回転を開始することが可能であること(すなわち自己起動形)、液体の部分が固定ベーンと回転ベーンの間の間隙をシールするという有益な効果により好ましい。」(段落【0017】及び【0018】)

オ 「【0024】
示されるように、コジェネレーションシステム100は、小規模に(例えば1キロワット?20キロワットの範囲の)電力と熱の両方を供給可能である。換言すれば、高圧力の熱水を使用することによって、システム100はその中に含まれる電気部品が必要とする以上の過剰の電力を発生することができる。この過剰の電力は、対応する住宅又は建築物において利用され、及び/又は対応する電力網に供給することができる。効率を改善するために、単排気管116の一部分が、空気入口102aの近くに配置され、加熱系統100に入る部屋の空気を予熱する。さらにコントローラ140を、電力が発電機122によって供給されているとき、バッテリー142が充電されるように構成することができる。
【0025】
またコジェネレーションシステム100は、膨張器120を出る熱水及び水蒸気の一部分で家庭給水を加熱するように構成される。特に給水管146がバルブ146に接続され、それによって膨張器120を出る作動流体のいくらか又は全てが温水タンク150内に配置されている加熱コイル148へとそれて流れる。戻り管路152は、加熱コイル148を出た復水を戻り管路134に移す。加熱される水は、入口154を介してタンク150に供給される。タンク150内の水がコイル148の周囲を流れるので、タンク内の水は加熱される。さらに温水は出口156を介してタンク150から流れ出る。電気的に作動するバルブ124は、コントローラ140の制御下、水加熱サーモスタット161に応答して、コイル148に供給される作動流体の流れを調節することが好ましい。
【0026】
所定の圧力に対して、「飽和した」、「乾燥した」、「過熱した」水蒸気から取り出される力学的エネルギーの効率は、熱水又は、熱水及び水蒸気からなる二相の混合物から取り出される力学的エネルギーの効率を超えていることを理解しなくてはならない。しかしながら上述したように、高圧水蒸気(例えば6.9×10^(5)Pa(100 psi)を超える)を利用するコジェネレーションシステムは、格別高価であり、機能が停止した場合に損傷する重大な危険性をはらんでいる。それにもかかわらず、高圧力の熱水及び、熱水と水蒸気の混合物から取り出すことができる力学的エネルギーの効率は小規模なコジェネレーションシステムを作動させるのに十分である。例えば1.4×10^(6)Pa(200 psi)のヒーター及び1.0×10^(5)Pa(15psi)の熱コンデンサーを有する二相システム(水50%及び水蒸気50%)の理論的な熱力学的効率は、同じ圧力で運転される飽和水蒸気サイクルシステムの効率の90%である。したがってここに記述するような高圧力の二相システムは、水蒸気サイクルシステムよりもわずかに効率が劣るが、経済的に設計することができ、経済的に製造することができ、典型的には飽和又は過熱水蒸気によってのみ運転される高圧水蒸気システムよりもはるかに安全に運転可能である。」(段落【0024】ないし【0026】)

(2)引用文献の記載から分かること
カ 上記(1)アないしオ並びに図1ないし8の記載から、引用文献には、熱及び電力を発生するコジェネレーションシステムが記載されていることが分かる。

キ 上記(1)ウないしオ並びに図1ないし8の記載から、引用文献に記載されたコジェネレーションシステムは、ヒーター104において、燃焼ガスの熱によりヒーター104内の水が加熱されて、蒸気部分(水蒸気)がおおよそ0%?90%(すなわち、乾き度が0?0.9)の範囲内にある高圧の二相流体を生成するものであることが分かる。

ク 上記(1)ウないしオ並びに図1ないし8の記載から、引用文献に記載されたコジェネレーションシステムは、膨張器120において、高圧の二相流体からその圧力を低下させ、液体部分の一部が水蒸気へと気化し、力学的エネルギーが取り出される(すなわち、動力を生成する)ものであることが分かる。

ケ 上記(1)エ及び図1ないし8の記載から、引用文献に記載されたコジェネレーションシステムに用いられる膨張器120としては、スクロールタイプ膨張器が好ましいことが分かる。スクロールタイプ膨張器は、容積式膨張器の一種である。

コ 上記(1)アないしオ並びに図1ないし8の記載から、引用文献に記載されたコジェネレーションシステムは、より高い蒸気部分とより低い圧力とを有する膨張機120を出る熱い作動流体が、コンデンサー(凝縮器)126において、凝縮されることが分かる。

サ 上記(1)オの「例えば1.4×10^(6)Pa(200 psi)のヒーター及び1.0×10^(5)Pa(15psi)の熱コンデンサーを有する二相システム(水50%及び水蒸気50%)」という記載から、引用文献に記載されたコジェネレーションシステムのコンデンサーは、例えば1.0×10^(5)Pa(15psi)の圧力を有するものであることが分かる。1.0×10^(5)Paはほぼ1気圧であるから、水蒸気が水になる凝縮温度は、ほぼ100℃である。

シ 上記(1)ウの「バーナー108、燃焼用ファン114、ヒーター104はすべて、加熱エレメント106内の水を対応する動作圧力(例えば水に対して242℃(華氏467度)、3.4×10^(6)Pa(500psi))に対して沸点又は沸点近傍の温度まで加熱できるように設計されていることが好ましい。」という記載から、ヒーター104の加圧エレメント106内の水は、3.4×10^(6)Paにおける沸点である242℃まで加熱されるように設計されていることが分かる。この場合、ヒーター104を加熱するバーナー108の燃焼ガスの温度は、242℃以上であるといえる。

ス 上記(1)ウの「戻り管路134は、コンデンサー126を出た復水が湯沸器104に戻るようにヒーター104にコンデンサー126を接続する。」という記載から、凝縮した水がヒーター104に戻ることが分かる。

(3)引用文献に記載された発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「燃焼ガスから力学的エネルギーを取り出す方法であって、
燃焼ガスからの熱でヒーター104内の水を加熱して乾き度が所定範囲の二相流体を生成するステップと、
前記二相流体を膨張してスクロールタイプ膨張器で力学的エネルギーを取り出すステップと、
膨張した水蒸気を所定の凝縮温度で水に凝縮するステップと、
凝縮した水を前記ヒーター104に戻すステップと、
を含む、力学的エネルギーを取り出す方法。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「燃焼ガス」は、高温のガスであるから、その機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「高温ガス流」に相当し、以下同様に、「ヒーター104」は「ボイラ(11)」に、「二相流体」は「湿り蒸気」に、「スクロールタイプ膨張器」は「容積式蒸気膨張機」に、「水蒸気」は「蒸気」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「乾き度が所定範囲の二相流体」は、「乾き度が所定範囲の湿り蒸気」という限りにおいて、本願補正発明における「乾き度が0.1から0.9の湿り蒸気」に相当する。
また、引用発明における「力学的エネルギーを取り出す」は、熱エネルギーから力学的エネルギーを取り出すことであるから、その機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「動力を回収する」、「動力を生成する」及び「動力回収」に相当する。
また、引用発明における「所定の凝縮温度」は、「所定の凝縮温度」という限りにおいて、本願補正発明における「70℃から120℃の範囲の温度」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
<一致点>
「高温ガス流から動力を回収する方法であって、
前記高温ガス流からの熱でボイラ内の水を加熱して乾き度が所定範囲の湿り蒸気を生成するステップと、
前記湿り蒸気を膨張して容積式蒸気膨張機内で動力を生成するステップと、
膨張した蒸気を所定の凝縮温度で水に凝縮するステップと、
凝縮した水を前記ボイラに戻すステップと、
を含む動力回収方法。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)「高温ガス流」の温度に関して、本願補正発明においては、「200℃から700℃の範囲の温度の高温ガス流」であるのに対し、引用発明においては、そのように限定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)湿り蒸気の「乾き度」に関して、本願補正発明においては、「乾き度が0.1から0.9」の湿り蒸気を生成するのに対し、引用発明においてはそのように限定されていない点(以下、「相違点2」という)。

(3)凝縮温度に関して、本願補正発明においては、「70℃から120℃の範囲の温度」で水に凝縮するのに対し、引用発明においては、そのように限定されていない点(以下、「相違点3」という)。

4 判断
(1)相違点1に関して
熱源である「高温ガス流」の温度は、本願補正発明においては、「200℃から700℃の範囲の温度」となっている。
一方、引用発明においては、明細書の記載によれば、ヒーター104は水を242℃まで加熱できるように設計されている(上記2(2)シを参照。)ことから、熱源である燃焼ガスの温度は、少なくとも「242℃以上」であることが分かる。
ここで、本願補正発明において、「200℃から700℃の範囲の温度の高温ガス流」とした技術的意義を知るために、本願の明細書を参照すると、「主に燃焼生成物の形態である、内燃(IC)機関の排ガスなど多数の熱源が、他のプロセスで既に使用されている。内燃機関では温度はかなり高く、典型的に200°-700℃の範囲の初期値を有する。」(段落【0004】)という事項に由来していることが分かる。
そして、「200℃から700℃の範囲の温度」という温度範囲における「200℃」及び「700℃」という温度について、本願の明細書には格別な臨界的意義は記載されていない。
ところで、内燃機関の排気ガスの熱を利用してランキンサイクルにより動力を回収する技術は、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2002-161716号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1ないし7及び段落【0033】及び図面等の記載を参照。]、特開2006-316704号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1ないし9及び図面等の記載を参照。]、特開2002-115506号公報[例えば、段落【0010】及び図面等の記載を参照。]、特開2002-115504号公報[例えば、段落【0010】及び図面等の記載を参照。]等を参照。)であって、特に、上記特開2002-161716号公報の段落【0033】には、内燃機関の排気ガスの温度が例えば400℃であることも記載されており、他のものにおいても排気ガスの温度は同程度の温度であるといえる。これは、本願明細書の説明とも符合する。
してみれば、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、周知技術を参照することにより当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2に関して
本願補正発明において「乾き度が0.1から0.9」とした技術的意義を知るために、本願の明細書を参照すると、「本発明は、湿り蒸気(乾き度の低い蒸気でさえ)を使用することで、作動流体が同一温度またはわずかに低い温度で凝縮されるときに、水または有機流体を作動流体として作動するランキンサイクルなどの既知の発電サイクルよりも、200°C-700°Cの温度範囲内の中温熱源から効率的に出力を回収できるという理解に基づいている。(中略)この方法は、熱源からの熱でボイラ内の水を加熱して乾き度が0.1から0.9(10%から90%)の湿り蒸気を生成し、湿り蒸気を膨張して容積式膨張機内で出力を生成し、膨張した蒸気を70°Cから120°Cの範囲の温度で水に凝縮し、凝縮した水をボイラに戻すステップを含む。」(段落【0006】及び【0007】)と記載され、「乾き度が0.1から0.9」という数値範囲には格別な臨界的意義はなく、「湿り蒸気」を使用することが重要であることが分かる。
一方、引用発明は、「ヒーター104から出る熱い高圧流体は、蒸気部分(例えば水蒸気)部分と液体部分(例えば水)の両方を含んでいることが好ましい。流体の蒸気部分はおおよそ0%?90%の範囲内にある。特に蒸気部分はおおよそ20%?80%の範囲内にあり、50%?70%の範囲内にあることがより好ましい。」(段落【0015】)というものであるから、引用発明は湿り蒸気を利用するものであり、湿り蒸気である高圧流体の蒸気部分の範囲、すなわち乾き度は、本願補正発明と大部分重複するものである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではないと認められる。
よって、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、実質的な相違点ではないか、相違点であるとしても、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(3)相違点3に関して
本願補正発明において凝縮温度を「70℃から120℃の範囲の温度」とした技術的意義を知るために、本願の明細書を参照すると、本願の明細書には以下のような記載がある。
「以下の二つの例によって図解されるように、湿り蒸気の凝縮温度を好ましくは約100°C以上まで上昇させることによって、この問題を解決することができる。この値では、水蒸気の蒸気圧は1barをわずかに上回り、最も一般的に使用される冷媒および炭化水素作動流体の同一温度における蒸気圧よりも小さいものの、同等の値である。
湿り蒸気の凝縮温度を好ましくは約100°C以上に上昇させることの重要な利点は、以下を含む。
i)凝縮器内で真空を維持することに関連する問題が回避される。
ii)膨張率を削減した小型のスクリュ式膨張機を採用する必要性
iii)より低い凝縮温度で作動する発電システムと比べて、世界のあらゆる地域で凝縮器を効率的に空冷することが可能になる。より低い凝縮温度で作動する発電システムは、吸収する寄生電力が大きすぎる非常に大型で高価な空冷凝縮器か、あるいは固定内燃機関が据え付けられる場所では実用的および利用可能であることがまれである水冷のいずれかを必要とする。」(以下、「記載a」という。段落【0031】及び【0032】)
しかし、記載aは、作動流体を「最も一般的に使用される冷媒および炭化水素作動流体」から「湿り蒸気」に変更することにより、凝縮温度を「約100℃以上」にすることにより得られる効果についての記載であって、本願の明細書には、「70℃から120℃の範囲の温度」で水に凝縮することの効果は記載されていない。
してみると、本願補正発明において凝縮温度を「70℃から120℃の範囲の温度」とした技術的意義及び臨界的意義は、格別なものではないと認められる。
一方、引用発明においては、水と水蒸気からなる二相流体を作動流体として使用しており、しかも、凝縮器内の圧力はほぼ1気圧である(上記2(2)サを参照。)ことから、凝縮温度はほぼ100℃である。したがって、記載aは、引用発明についてもいえることである。
また、引用発明において、凝縮器内の圧力が変化すれば、凝縮温度が変化することは技術常識である。
よって、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項は、実質的な相違点ではないか、相違点であるとしても、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

なお、請求人は、平成25年11月11日付け審判請求書(3.(5)欄)及び平成26年6月23日付け回答書((3)欄)において、引用文献における凝縮温度が従来技術と同じ約30℃である旨主張している。
しかし、引用文献における凝縮温度が約30℃であるとする根拠はなく、出願人が引用する「従来技術」とは、本願明細書の「背景技術」の欄に記載された「R124、R134aまたはR245faなどの一般冷媒、もしくはイソブタン、n-ブタン、およびn-ペンタンなどの軽質炭化水素」又は上記記載における「最も一般的に使用される冷媒および炭化水素作動流体」の凝縮温度であると考えられる。
したがって、請求人の上記主張は失当である。

(4)効果について
そして、本願補正発明を全体として検討しても、その作用効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる以上の格別なものではない。

(5)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
平成25年11月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)アのとおりのものである。

1 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献の記載及び引用発明については、上記第2[理由]2に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は、実質的に、上記第2で検討した本願補正発明を拡張したものである。
そうすると、本願発明を減縮した本願補正発明が、上記第2[理由]4で述べたとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-05 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-26 
出願番号 特願2010-545551(P2010-545551)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01K)
P 1 8・ 575- Z (F01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 中温熱源からの発電  
代理人 森下 賢樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ