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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1297615
審判番号 不服2013-22408  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-15 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2009-190870「直列に連結された2つの排気ターボチャージャを備える内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月24日出願公開、特開2010-138892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2009年8月20日(パリ条約による優先権主張2008年12月10日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成24年7月10日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成25年1月17日に意見書が提出されたが、平成25年7月10日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成25年11月15日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲についての手続補正がされ、平成25年11月18日に審判請求の理由についての手続補正がされ、その後、平成26年1月20日付けで当審において審尋がされ、これに対して、平成26年7月16日に回答書が提出されたものである。

第2 平成25年11月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成25年11月15日付けの手続補正を却下する。

[理 由]

1.補正の内容
平成25年11月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、出願当初の)下記の(a)に示す請求項1ないし8を下記の(b)に示す請求項1ないし6に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8
「【請求項1】
直列に連結された2つの排気ターボチャージャ(22、26)を備える内燃機関であって、該2つの排気ターボチャージャ(22、26)のそれぞれが、排気管(32)内に1つの排気タービン(34、36)を有し、及び、吸気管(18)内に1つのコンプレッサ(20、24)を有する、内燃機関において、
エンジン付近の前記排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)の上流で前記排気管(32)から分岐し、前記2つの排気ターボチャージャ(22、26)のコンプレッサ(20、24)の間で前記吸気管(18)に開口する1つの排気再循環パイプ(40)が備わっており、また、該排気再循環パイプ(40)を介して前記吸気管(18)内に再循環された排気流を冷却・加湿するための1つの装置(29、44)が備わっていることを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
再循環された排気流の冷却・加湿を行う前記装置(29、44)が、前記排気再循環パイプ(40)内に配置された1つの排気洗浄装置(44)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
再循環された排気流の冷却・加湿を行う前記装置(29、44)が、前記吸気管(18)内に配置された1つの加湿装置(29)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記排気再循環パイプ(40)が前記加湿装置(29)内に開口していることを特徴とする、請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記加湿装置(29)が、HAM方式またはSAM方式の加湿装置であることを特徴とする、請求項3または4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記エンジン付近の排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)が、可変断面の高圧ガスタービンとして構成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記エンジン付近の排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)の上流で前記排気管(32)から分岐し、前記2つの排気ターボチャージャ(22、26)の前記排気タービン(34、36)の間で再び前記排気管(32)内に開口する1つのターボチャージャ・バイパス管(38)が設けられていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記内燃機関(10)が重油燃料の大型ディーゼルエンジンであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の内燃機関。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6
「【請求項1】
直列に連結された2つの排気ターボチャージャ(22、26)を備える内燃機関であって、該2つの排気ターボチャージャ(22、26)のそれぞれが、排気管(32)内に1つの排気タービン(34、36)を有し、及び、吸気管(18)内に1つのコンプレッサ(20、24)を有する、内燃機関において、
エンジン付近の前記排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)の上流で前記排気管(32)から分岐し、前記2つの排気ターボチャージャ(22、26)のコンプレッサ(20、24)の間で前記吸気管(18)に開口する1つの排気再循環パイプ(40)が備わっており、また、該排気再循環パイプ(40)を介して前記吸気管(18)内に再循環された排気流を冷却・加湿するための少なくとも2つの装置(29、44)が備わっており、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う一方の前記装置(44)が、前記排気再循環パイプ(40)内に配置された1つの排気洗浄装置(44)を備え、かつ、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う他方の前記装置(29)が、前記吸気管(18)内に配置された1つの加湿装置(29)を備えることを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
前記排気再循環パイプ(40)が前記加湿装置(29)内に開口していることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記加湿装置(29)が、HAM方式またはSAM方式の加湿装置であることを特徴とする、請求項1または2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記エンジン付近の排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)が、可変断面の高圧ガスタービンとして構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記エンジン付近の排気ターボチャージャ(26)の前記排気タービン(36)の上流で前記排気管(32)から分岐し、前記2つの排気ターボチャージャ(22、26)の前記排気タービン(34、36)の間で再び前記排気管(32)内に開口する1つのターボチャージャ・バイパス管(38)が設けられていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記内燃機関(10)が重油燃料の大型ディーゼルエンジンであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の内燃機関。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

2.本件補正の目的
本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「該排気再循環パイプ(40)を介して前記吸気管(18)内に再循環された排気流を冷却・加湿するための1つの装置(29、44)が備わっていること」という事項を、
「該排気再循環パイプ(40)を介して前記吸気管(18)内に再循環された排気流を冷却・加湿するための少なくとも2つの装置(29、44)が備わっており、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う一方の前記装置(44)が、前記排気再循環パイプ(40)内に配置された1つの排気洗浄装置(44)を備え、かつ、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う他方の前記装置(29)が、前記吸気管(18)内に配置された1つの加湿装置(29)を備える」という事項にするものであって、「装置(29、44)」を具体的に限定するものであり、しかも、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定することを含むので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3.独立特許要件の判断

3-1.刊行物
<刊行物1>
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-100628号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(a)「【0001】
本発明は、高圧段ターボチャージャと低圧段ターボチャージャを備えた2段過給式エンジンのEGRシステムに関し、より詳細には、高EGR率であっても、過給悪化を伴わない2段過給式エンジンのEGRシステムに関する。」(段落【0001】)
(b)「【0007】
そこで、従来から提案されている2段過給システムに、ディーゼルエンジンメーカーを中心に関心が寄せられて、この2段過給システムを備えたエンジンにおけるEGRシステムが検討されている。この2段過給システムの概要を図2及び図3に示す。」(段落【0007】)
(c)「【0021】
しかしながら、これらの2段過給システムエンジンにおけるEGRシステムにおいても、EGRガスの導入に関する問題と、EGR率と空燃比とのトレードオフ関係の悪化の問題と、吸気の冷却に関係する問題とがある。
【0022】
EGRガスの導入に関しては、2段過給システムによる作動効率の改善によって、排気圧力と過給圧力との差が減少することにより、EGR率の増加に限界が生じるという問題がある。つまり、2段過給システムにより過給器の作動率が上昇すると、過給圧が上昇するので、この過給圧に対して排圧が低下する。そのため、EGR経路における排気側圧力と吸気側圧力との差圧が減少したり、場合によっては、吸気側圧力が排気側圧力よりも大きくなるという吸気側圧力/排気側圧力の逆転現象が発生したりするために、EGR弁を開弁してもEGRガスの循環、即ち、EGRガスの吸気側への導入が困難になる。」(段落【0021】及び【0022】)
(d)「【0029】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、高圧段ターボチャージャと低圧段ターボチャージャを備えた2段過給式エンジンのEGRシステムにおいて、過給器作動効率の改善により排気マニホールド圧力若しくは排気径のEGRガス取り出し部圧力が、吸気マニホールド圧力若しくは吸気側EGRガス導入部圧力を下回る状態、又は、低圧段コンプレッサと高圧段コンプレッサとの間の中間過給圧が、高圧段タービンと低圧段タービンとの間の中間排気圧より高くなった運転条件であっても、高EGR率運転が可能であり、かつ、中高速回転・高負荷運転領域における過給特性を改善できる2段過給式エンジンのEGRシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記のような目的を達成するための2段過給式エンジンのEGRシステムは、吸気経路の上流側から順に低圧段ターボチャージャの低圧段コンプレッサと高圧段ターボチャージャの高圧段コンプレッサを設けると共に、排気経路の上流側から順に前記高圧段ターボチャージャの高圧段タービンと前記低圧段ターボチャージャの低圧段タービンを設けた内燃機関のEGRシステムであって、前記高圧段タービンと前記低圧段タービンとの間の排気経路から、前記低圧段コンプレッサと前記高圧段コンプレッサとの間の吸気経路へ、第1EGR弁を経由してEGRガスを導入する第1EGR経路と、内燃機関本体と前記高圧段タービンとの間の排気経路から、前記低圧段コンプレッサと前記高圧段コンプレッサとの間の吸気経路へ、第2EGR弁を経由してEGRガスを導入する第2EGR経路と、内燃機関本体と前記高圧段タービンとの間の排気経路から、前記高圧段コンプレッサと内燃機関本体の間の吸気経路へ、第3EGR弁を経由してEGRガスを導入する第3EGR経路と、前記第1EGR弁と前記第2EGR弁と前記第3EGR弁とをそれぞれ開閉及び弁開度調整するEGR制御装置とを備えて構成される。
【0031】
なお、EGRクーラを各EGR経路毎に設けることもでき、第1EGR経路と第2EGR経路とで共通のEGRクーラを使用するように構成することもできる。また、これらのEGRクーラは、通常はEGR弁を高温の排気ガス(EGRガス)から守るために、EGR弁の上流側に設けることが多いが、EGR弁の下流側に設けてもよい。
【0032】
このEGRシステムは、低圧段コンプレッサと高圧段コンプレッサとの間の中間過給圧が、高圧段タービンと低圧段タービンとの間の中間排圧よりも大きくなった場合に、EGRガスの吸気側への導入が困難になるという問題を解決して、このような場合であっても、高EGR率での内燃機関の運転を可能とし、なお、かつ中速回転・高負荷運転領域における過給特性を改善するシステムである。
【0033】
つまり、高圧段ロープレッシャーEGR経路である第1EGR経路に加え、内燃機関本体と高圧段タービンとの間においても、EGR経路を分岐し、EGRガスを高圧段コンプレッサの上流側に導入する第2EGR経路と、下流側に導入する高圧段ハイプレッシャーEGR経路である第3EGR経路との両方を設置し、それぞれのEGR経路に第1EGR弁、第2EGR弁、第3EGR弁を備え、内燃機関の運転状況に応じて、EGR経路を選択してEGRガスの流れを制御する。
【0034】
これにより、内燃機関の運転条件全域において最適な条件で、高EGR率での運転を可能にすることができる。例えば、運転条件によって、高圧段ロープレッシャーEGR経路である第1EGR経路で吸気側の過給圧が排気側の排圧よりも高くなってEGRガスの吸気側への導入が困難になった場合でも、第2EGR経路や第3EGR経路の使用により、容易にEGRガスを吸気側へ導入することができる。
【0035】
そして、上記の2段過給式エンジンのEGRシステムにおいて、内燃機関の運転条件がいずれの運転領域にあるかによって、第1?第3EGR経路を選択してEGRを行う。」(段落【0029】ないし【0035】)
(e)「【0051】
以下、本発明に係る実施の形態の2段過給エンジンのEGRシステムについて、図面を参照しながら説明する。
【0052】
図1に示すように、このEGRシステム10は、2段過給システムのエンジン(内燃機関)1に適用される。このエンジン1では、吸気経路3の上流側から順に低圧段ターボチャージャ5の低圧段コンプレッサ5cとインタークーラ7と高圧段ターボチャージャ6の高圧段コンプレッサ6cを設けると共に、排気経路4の上流側から順に高圧段ターボチャージャ6の高圧段タービン6tと低圧段ターボチャージャ5の低圧段タービン5tを設けている。
【0053】
また、低圧段ターボチャージャ5には、低圧段タービン5tをバイパスするための低圧段排気バイパス経路5aが設けられ、この低圧段排気バイパス経路5aには、流れるガス量を制御するためのウェストゲートバルブ5bが取り付けられている。
【0054】
また、高圧段ターボチャージャ6には、吸気系においては、高圧段コンプレッサ6cをバイパスさせる高圧段吸気バイパス経路6aが設けられ、この高圧段吸気バイパス経路6aには、流れるガス量を制御するための高圧段吸気バイパスバルブ6bが取り付けられている。更に、排気系においては、高圧段タービン6tをバイパスさせる高圧段排気バイパス経路6dが設けられており、この高圧段排気バイパス経路6dには、流れるガス量を制御するための高圧段排気バイパスバルブ6eが取り付けられている。
【0055】
そして、エンジンの運転条件が高速回転運転領域にある場合は、高圧段吸気バイパスバルブ6bを開弁し、吸気を高圧段吸気バイパス経路6aに流して、高圧段コンプレッサ6cをバイパスさせる。この場合には、低圧段コンプレッサ5cのみで過給を行う。
【0056】
一方、エンジンの運転条件が低速回転?中速回転運転領域にある場合は、高圧段吸気バイパスバルブ6bを閉弁し、吸気を高圧段コンプレッサ6cに流して、低圧段コンプレッサ5cと2段で過給を行う。
【0057】
なお、上記の構成では、高圧段ターボチャージャ6に比較的小型の容量特性を持つものを使用するシーケンシャル2段過給システムで説明している。このシーケンシャル2段過給システムにおいては、高圧段ターボチャージャ6が小型であるため、低中速回転域においては良好な過給特性が得られるが、高圧段ターボチャージャ6が小型であるがため、高速回転域では排気圧力が急激に増加してしまうため、高圧段ターボチャージャ6をバイパスさせる必要があり、上記のような構成となっている。
【0058】
しかし、本発明は、シーケンシャル2段過給システム以外のシリーズ型2段過給システム等にも適用できる。このシリーズ型2段過給システムでは、シーケンシャル型と比較すると大容量のターボチャージャ(過給器)を高圧段に設定することで、高速回転域における切換制御無しで過給を行う。実際には、過給圧制御用に高圧段タービン6tに過給圧制御用の高圧段排気バイパス経路6dと高圧段排気バイパスバルブ6eを、又は、高圧段タービン6tにウェストゲートタイプを設定するが、少なくとも、吸気側高圧段コンプレッサ6cにおける高圧段吸気バイパス経路6aは必要無くなる。
【0059】
そして、EGRシステム1に関しては、第1EGR弁12と第1EGRクーラ13を備えた第1EGR経路11を、高圧段タービン6tと低圧段タービン5tとの間の排気経路4と、インタークーラ7と高圧段コンプレッサ6cとの間の吸気経路3とを接続して設ける。この第1EGR経路11により、高圧段タービン6tと低圧段タービン5tとの間の排気経路4から、低圧段コンプレッサ5cと高圧段コンプレッサ6cとの間の吸気経路3へ、第1EGR弁12を経由してEGRガスGe1を導入する。
【0060】
また、第2EGR弁15と第2EGRクーラ16を備えた第2EGR経路14を、エンジン本体2と高圧段タービン6tとの間の排気経路4と、インタークーラ7と高圧段コンプレッサ6cとの間の吸気経路3とを接続して設ける。この第2EGR経路14により、エンジン本体(内燃機関本体)2と高圧段タービン6tとの間の排気経路4から、低圧段コンプレッサ5cと高圧段コンプレッサ6cとの間の吸気経路3へ、第2EGR弁15を経由してEGRガスGe2を導入する。
【0061】
更に、第3EGR弁18と第3EGRクーラ19を備えた第2EGR経路17を、エンジン本体2と高圧段タービン6tとの間の排気経路4と、高圧段コンプレッサ6cとエンジン本体2との間の吸気経路3とを接続して設ける。この第3EGR経路17により、エンジン本体2と高圧段タービン6tとの間の排気経路4から、高圧段コンプレッサ6cとエンジン本体2との間の吸気経路3へ、第3EGR弁18を経由してEGRガスGe3を導入する。
【0062】
これらの構成により、インタークーラ7は、低圧段コンプレッサ5cの下流側で、かつ、第1EGR経路11の接続部11aと第2EGR経路14の接続部14aの両方よりも上流側の吸気経路3に設けられたことになる。また、それぞれのEGR弁12,15,18は、それぞれのEGRクーラ13,16,19の下流側に配置して、排気ガスGe1,Ge2,Ge3をEGRクーラ13,16,19で冷却してから、EGR弁12,15,18に流すようにする。
【0063】
次に、EGR制御について説明する。このEGR制御は、エンジンの制御を行うECUと呼ばれるエンジン制御装置に組み込まれるEGR制御装置によって行われる。このEGR制御装置は、エンジン1の運転条件に応じて、第1?第3EGR経路11,14,17を選択的に使用する第1?第3EGR制御を選択してそれぞれの運転条件に最適なEGRを行う。
【0064】
このEGR制御の第1の目的は、吸気側から排気側へのガスの流れ(逆流)を発生させないことにあり、この制御には、種々の方法がある。
【0065】
例えば、制御マップを使用したオープン制御による方法や、吸気ガス、排気ガス、EGRガスなどの各ガスの各流路に、それぞれのガスの圧力や温度、あるいは、流量を検知する検知手段を配設して、これらの検知手段からの情報に基づいて、各バルブの開閉及び弁開度制御する方法等がある。
【0066】
このエンジン1の運転条件がその運転領域にあるか否かは、検出されたエンジン回転数やエンジン負荷に基づいて、予め用意した制御用のマップデータを参照して判定する。また、低圧段コンプレッサ5cと高圧段コンプレッサ6cとの間の過給圧である過給中間過給圧と、高圧段タービン6tと低圧段タービン5tとの間の排気圧である中間排圧との大小関係は、インタークーラ7後流の中間過給圧を検出する第1圧力計9aと高段圧タービン6t後流の中間排気圧を検出する第2圧力計9b等の圧力検知手段により検出される中間排気圧と中間過給圧とに基づいて判定される。なお、これらは、各種の制御方法の例に過ぎず、他の制御方法を使用してもよい。
【0067】
第1EGR制御は、EGRを行う場合において、エンジン1の運転条件が、低速回転又は中速回転運転領域でかつ低負荷又は中負荷運転領域にある場合、又は、低速回転運転領域でかつ高負荷運転領域にある場合で、かつ、中間排気圧が中間過給圧よりも大きいときに行われる。
【0068】
この第1EGR制御では、第1EGR弁12を主とし、第2EGR弁15を補助で使用して、第1EGR弁12と第2EGR弁15を開閉及び弁開度制御する。それと共に、第3EGR弁18を閉弁状態とする。
【0069】
より詳細には、第1EGR弁12の弁開度開放を第2EGR弁15の弁開度開放より優先して実施する。つまり、第1EGR弁12単独で所定量のEGRガス導入が可能な場合は、第1EGR弁12のみ弁開度調整を行ってEGRガス導入を行うと同時に、第2EGR弁15は全閉とする。そして、第1EGR弁12が全開状態においても所定量のEGRガス導入が得られない場合は、第1EGR弁12を全開状態、若しくは全開状態に近い状
態のままにして、第2EGR弁15の弁開度調整を実施し、所定量のEGRガス導入が得られるように第2EGR弁15の弁開度調整を実施する。
【0070】
また、第2EGR制御は、EGRを行う場合において、エンジン1の運転条件が、低速回転又は中速回転運転領域でかつ低負荷又は中負荷運転領域にある場合、又は、低速回転運転領域でかつ高負荷運転領域にある場合で、かつ、中間排気圧が中間過給圧以下のときに行われる。
【0071】
この第2EGR制御では、第2EGR弁15を主とし、第3EGR弁18を補助で使用して、第2EGR弁15と第3EGR弁18を開閉及び弁開度制御する。それと共に、第1EGR弁12を閉弁状態とする。
【0072】
第3EGR制御は、EGRを行う場合において、エンジン1の運転条件が、中速回転運転領域でかつ高負荷運転領域にある場合に行う。この第2EGR制御では、第2EGR弁15と第3EGR弁18を開閉及び弁開度制御する。それと共に、第1EGR弁12を閉弁状態とする。
【0073】
第4EGR制御は、EGRを行う場合において、エンジン1の運転条件が、高速回転運転領域にある場合に行われる。この第4EGR制御では、第3EGR弁18を開閉及び弁開度制御すると共に、第1EGR弁12と第2EGR弁15を閉弁状態とする。」(段落【0051】ないし【0073】)

(2)刊行物1に記載された発明
上記(1)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>
「直列に連結された低圧段ターボチャージャ5、高圧段ターボチャージャ6を備える内燃機関1であって、該低圧段ターボチャージャ5、高圧段ターボチャージャ6のそれぞれが、排気経路4内に1つのタービン5t、6tを有し、及び、吸気経路3内に1つのコンプレッサ5c、6cを有する、内燃機関1において、
内燃機関1付近の前記高圧段ターボチャージャ6の前記タービン6tの上流で前記排気経路4から分岐し、前記低圧段ターボチャージャ5、高圧段ターボチャージャ6のコンプレッサ5c、6cの間で前記吸気経路3に開口する第2EGR経路14が備わっており、また、該第2EGR経路14を介して前記吸気経路3内に再循環された排気流を冷却するための装置が備わっており、
再循環された排気流の冷却を行う前記装置が、前記第2EGR経路14内に配置された第2EGRクーラ16を備える、内燃機関1。」

<刊行物2>
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-332919号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、排ガスの再循環システムに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、ディーゼルエンジンの排ガスには、NOx、SOx及びばいじん等の有害物質や環境に負荷を与える物質が含まれている。特に、低質な燃料が使用される船舶用のディーゼルエンジンにあっては、排出される有害物質の含有量も多い。そのため、このような有害物質を排出しない種々の方式が提案されている。
【0003】有害物質を低減させる代表的な方法としてNOxを低減できる排ガス再循環(EGR)方式がある。これは、燃焼により発生した排ガスの一部を燃焼用空気に混入して燃焼させ、燃焼温度の低下によりNOxの減少を図るものである。排ガスで薄められた空気は通常の空気に比べて酸素濃度が低い。従って、燃料と酸素との反応である燃焼の速度を遅らせることができる。それに伴い、火炎の最高温度が低下するので、NOx生成(Thermal NOx)を抑制することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】EGR方式は、燃費悪化のペナルティーが少ない割に、NOxの低減効果が大きいという特徴がある。その一方で、EGR方式では、エンジンに供給する燃焼用空気の酸素濃度が低減する。そのため、排ガス再循環の割合(排ガスと空気との混合ガス中に含まれる排ガスの割合(%)、以下EGR率という)が高くなると、COやばいじんが増加する欠点がある。更に、再循環する排ガス中にはCOやばいじんに加え、SOxも含まれている。そのため、エンジンの掃気室や燃焼室が汚れたり、ピストンリングやシリンダライナの摩耗が増大し、エンジン全体の信頼性が大幅に損なわれるという問題がある。また、排ガスを再循環する際、排ガスが過給機付近でエンジン外部にリークする可能性もあり、船舶の機関室の安全対策上からも対応が必要である。
【0005】従って、本発明の目的は、低質な燃料を用いても、再循環される排ガスによる不具合を生じることの無い排ガス再循環システムを提供することである。
【0006】本発明の他の目的は、排ガス中に含まれる有害物質の量を低減することが可能な排ガス再循環システムを提供することである。
【0007】…(略)…
【0008】…(略)…
【0009】…(略)…
【0010】…(略)…
【0011】
【課題を解決するための手段】以下に、[発明の実施の形態]で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明の実施の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0012】上記課題を解決するために、本発明の排ガス再循環システムは、排ガスが再循環する循環管路(11-1?11-5)と、前記排ガスを洗浄するガス洗浄装置(21)とを具備する。そして、前記ガス洗浄装置(21)は、前記循環管路(11-1?11-5)の途中に設けられている。」(段落【0001】ないし【0012】)
(b)「【0047】次に、本発明である排ガス再循環システムの第1の実施の形態の動作について説明する。
【0048】エンジン1が駆動されると、エアクーラ4を介して過給機5によって新気に排ガスが混合されて掃気室2へ送り込まれ、エンジン1にて燃焼される。そして、このエンジン1にて燃焼時に生じた排ガスは、排気室3から排気管路7-1へ送り出され、過給機5を駆動させる。その後、エコノマイザー8にて熱交換され、EGR流量制御弁9にてその一部が循環管路11-1へ送り込まれる。残りは、排気管路7-3へ送り出されて、煙突から排出される。循環管路11-1へ送り込まれた排ガスは、ガス洗浄装置である充填層スクラバー21へ送り込まれる。そして、この充填層スクラバー21によって洗浄される。
【0049】ここで、この充填層スクラバー21による排ガスの洗浄について説明する。循環管路11-1に送り込まれた排ガスは、充填層スクラバー21の排ガス取入管33へ送り込まれる。ここで、排ガスは、排ガス取入管33内にて、冷却水噴出ノズル35から噴霧される冷却水によって冷却及び簡易脱硫される。そして、この排ガス取入管33内で冷却された排ガスは、排ガス取入管33の端部から水シールの役目をする洗浄水貯留槽34内に貯留された洗浄水を介して充填層部31内へ送り出される。
【0050】そして、この充填層部31内へ送り出された排ガスは、充填層部31の中間部分に設けられた充填物であるエレメント36の各壁体37間を、下方から上方へ向かって通過する。そして、排ガスがこのエレメント36を通過する間に、除塵と脱硫が行われる。
【0051】ここで、排ガスに含まれているばいじんは、充填物であるエレメント36の屈曲した(波形)複数の液体37に衝突付着することで、取り除かれる。また、排ガスに含まれる硫化ガス(SOx)は、エレメント36の上方に設けられた洗浄水ノズル39から噴出された洗浄水がエレメント36の壁体37を薄膜となって流れ落ちる濡れ壁面にて、液層(洗浄水)に吸収されて排ガス中から除去される。
【0052】充填層部31のエレメント36にてばいじん及びSOxが除去された排ガスは、充填層部31の上部に設けられたデミスター32を構成する板体41間を通過することにより、含まれている水分が板体41に付着して取り除かれ、デミスター32に接続された循環管路11-2へ送り出される。」(段落【0047】ないし【0052】)
(c)「【0056】実施例1と本実施例との違いはガス洗浄装置の形式である。図3の排ガス再循環システムに装着のガス洗浄装置は、ジェットスクラバー21Aである。」(段落【0056】)
(d)「【0098】本発明は、船舶におけるエンジンについて説明しているが、定置型の施設のような陸上においてエンジンを使用するシステムに幅広く採用できる。その場合には、海水の代りとして工業用水を利用すれば良い。」(段落【0098】)

3-2.対比・判断
本願補正発明(以下、「前者」という。)と刊行物1に記載された発明(以下、「後者」という。)とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、
後者における「内燃機関1」は前者における「内燃機関」ないし「エンジン」に相当し、以下同様に、「低圧段ターボチャージャ5、高圧段ターボチャージャ6」は「2つの排気ターボチャージャ」に、「高圧段ターボチャージャ6」は「排気ターボチャージャ」に、「排気経路4」は「排気管」に、「吸気経路3」は「吸気管」に、「タービン」は「排気タービン」に、「第2EGR経路14」は「排気再循環パイプ」に、それぞれ相当する。
後者における「再循環された排気流を冷却するための装置」と前者における「再循環された排気流を冷却・加湿するための少なくとも2つの装置」は、「再循環された排気流を冷却するための装置」という限りにおいて一致する。
したがって、本願補正発明の記載に倣って整理すると、本願補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「直列に連結された2つの排気ターボチャージャを備える内燃機関であって、該2つの排気ターボチャージャのそれぞれが、排気管内に1つの排気タービンを有し、及び、吸気管内に1つのコンプレッサを有する、内燃機関において、
エンジン付近の前記排気ターボチャージャの前記排気タービンの上流で前記排気管から分岐し、前記2つの排気ターボチャージャのコンプレッサの間で前記吸気管に開口する排気再循環パイプが備わっており、また、該排気再循環パイプを介して前記吸気管内に再循環された排気流を冷却するための装置が備わっている、内燃機関。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明においては、
「1つの排気再循環パイプ」を備え、
「該排気再循環パイプを介して前記吸気管内に再循環された排気流を冷却・加湿するための少なくとも2つの装置が備わっており、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う一方の前記装置が、前記排気再循環パイプ内に配置された1つの排気洗浄装置を備え、かつ、
再循環された排気流の冷却・加湿を行う他方の前記装置が、前記吸気管内に配置された1つの加湿装置を備える」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、
「第2EGR経路14」を備え、
「該第2EGR経路14を介して前記吸気経路3内に再循環された排気流を冷却するための装置が備わっており、
再循環された排気流の冷却を行う前記装置が、前記第2EGR経路14内に配置された第2EGRクーラ16を備える」という事項を備える点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

<相違点>について
まず、排気洗浄装置について検討する。
上記(b)に摘記した刊行物1の段落【0007】等の記載からみて、刊行物1に記載された発明における内燃機関1がディーゼルエンジンであること、あるいはディーゼルエンジンを含むことは明らかである。
このようなディーゼルエンジンに関して、刊行物2には、上記(a)(b)に摘記したように、一般に、ディーゼルエンジンの排ガスには、NOx、SOx及びばいじん等の有害物質や環境に負荷を与える物質が含まれており、特に、低質な燃料が使用される船舶用のディーゼルエンジンにあっては、排出される有害物質の含有量も多いこと、排ガスが排気管路と吸気管路の間を再循環する循環管路の途中にガス洗浄装置である充填層スクラバー21を設けること、及びガス洗浄装置である充填層スクラバー21において、排ガスに対する冷却水噴霧ノズル35からの冷却水の噴霧等によって排ガスの冷却、除塵及び脱硫が行われること(以下、「刊行物2に記載された事項」という。)が記載されている。排ガスに対して冷却水噴霧ノズル35から冷却水が噴霧されることによって、排ガスが加湿されることは明らかである。したがって、刊行物2に記載された事項における「ガス洗浄装置である充填層スクラバー21」は、本願補正発明における「排気流の冷却・加湿を行う」「装置」であって、かつ「排気洗浄装置」に相当する。
刊行物1に記載された発明における内燃機関1がディーゼルエンジンである、あるいはディーゼルエンジンを含むものである以上、その排ガスには、NOx、SOx及びばいじん等の有害物質や環境に負荷を与える物質が含まれており、その洗浄を行うことが望ましいことは明白である。したがって、刊行物1に記載された発明における第2EGR経路14内に、刊行物2に記載されたガス洗浄装置である充填層スクラバー21を設け、あるいは、第2EGR経路14内に配置された第2EGRクーラ16に代えて、刊行物2に記載されたガス洗浄装置である充填層スクラバー21を設け、それにより、排ガスの洗浄ないし冷却・加湿等を行うことは適宜なし得る事項である。

次に、加湿装置について検討する。
ディーゼルエンジンにおいて、排気ガスの再循環用通路と吸気通路との合流部より下流側の吸気通路にスクラバーを設け、通過するガスを冷却し加湿することは、本件出願の優先日前、広く知られている(以下、「周知技術」という。)。例えば、特表平8-511074号公報(以下、「刊行物3」という。)には、「スクラバーは、公知の加湿器よりも再循環した気体を効率良く冷却し、このことは、NOx発生量の減少を促進することになる。」(第5ページ第7ないし8行)等と記載されているとともに、図2には、再循環用導管15にスクラバー16を設けるほか、再循環用導管15と給気導管11との合流部より下流側の吸気導管11に水スクラバー19を設ける例が記載されている。同様の技術は、他に、特開2003-343272号公報(特に段落【0050】及び【0051】。以下、「刊行物4」という。)にも記載されている。上記の周知技術における「スクラバー」は、本願補正発明における「排気流の冷却・加湿を行う」「装置」であって、かつ「加湿装置」に相当する。
刊行物3、4は特に大型のディーゼルエンジンを対象としているが、大型のディーゼルエンジンに限らず、一般に、ディーゼルエンジンの排ガスには、NOx、SOx及びばいじん等の有害物質や環境に負荷を与える物質が含まれていることは上述したとおりである。そして、刊行物1に記載された発明における内燃機関のように、必ずしも大型に限定されていない一般のディーゼルエンジンにおいても、NOx低減等の点から、吸気通路にスクラバーを設けることが望ましいことに何ら変わりはない。
以上からすると、刊行物1に記載された発明において、NOxの一層の低減を図る等の観点から、上記の周知技術を適用して、第2EGR経路14と吸気経路3との合流部より下流側の吸気経路3にスクラバーを設け、通過するガスを冷却・加湿することに格別の困難性はない。

さらに、刊行物1に記載された発明における第2EGR経路14について検討する。
本願補正発明は「1つの排気再循環パイプ」を備えている。これに関して、本願明細書には、「【0003】…(略)…。大型ディーゼルエンジンでは、運転サイクルにおける高負荷状態の割合が非常に大きい。しかし高負荷状態においては、重油エンジンにおいて要求される低い部品温度、及び内燃機関におけるプラスの給排気圧差によりEGRが難しくなる。」、「【0028】…(略)…。これに対して、高圧段26のコンプレッサ24の下流にある、吸気管18の位置Cにおける給気圧は、位置Aにおける排気圧より高いため、内燃機関10を介して給排気圧差をプラスに設定または保持でき、そのことは重油燃料の大型ディーゼルエンジンにおいては長所である。」と記載されている。これらの記載では「大型ディーゼルエンジン」であること、すなわち、大型ディーゼルエンジンでは高負荷状態の割合が非常に大きいことが強調されているが、しかし、本願の特許請求の範囲をみると、内燃機関が大型ディーゼルエンジンであることは、請求項1を引用する請求項6においてはじめて特定されており、したがって、そのような特定がなされていない請求項1に係る発明である本願補正発明においては、刊行物1に記載された発明と同じく、内燃機関は大型ディーゼルエンジンに限定されるものではなく、車両用、発電用等の種々のディーゼルエンジンを広範に包含している。
一方、刊行物1に記載された発明における「第2EGR経路14」は、刊行物1の段落【0032】、【0034】、【0070】等に記載されているように、EGR経路の排気側圧力と吸気側圧力との適切な差圧を確保するためであり、これは、本願明細書の段落【0028】等の上記記載と共通ないし関連している。
ただ、刊行物1に記載された発明においては、「第2EGR経路14」の記載からも了解されるように、EGR経路は1つではなく、刊行物1の図1の実施形態をみると、第2EGR経路14のほかに、第1EGR経路11及び第3EGR経路17が記載されている。刊行物1に記載された発明において、このように複数のEGR経路を設ける趣旨は、上記(d)等に摘記したように、上記のように差圧を確保するためだけではなく、エンジン負荷や回転数等の運転条件の種々の領域に応じて各EGR経路の開閉態様を制御して、運転条件全域において高EGR率の運転を可能とするとともに過給特性の改善を図るためである。
本願補正発明においても、また、刊行物1に記載された発明においても、その内燃機関は大型ディーゼルエンジンに限定されるものではなく、車両用、発電用等の種々のディーゼルエンジンを広範に包含していることは上述したとおりであり、その場合、例えば、車両用のディーゼルエンジンにおいては、エンジン負荷や回転数等の運転条件が相当に変動し得るから、刊行物1に記載された発明のように、EGR経路を複数として、上記の差圧を確保するだけでなく、運転条件全域において高EGR率の運転を可能とするとともに過給特性の改善を図る方が好適であり、技術的に優れていることは明らかである。そうすると、内燃機関として、特に大型のディーゼルエンジンに限らず、広範なディーゼルエンジンを対象とする刊行物1に記載された発明において、上記のような運転条件の変動に何ら考慮を払うことなく、単に、EGR経路の排気側圧力と吸気側圧力との差圧の確保だけに着目してEGR経路を第2EGR経路14の1つのみにすることに格別の創作性ないし困難性があるとは認められず、そのようにすることは、例えば、装置ないし制御の簡素化等の観点から、適宜採用する設計的事項にすぎないといわざるを得ない。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1.本願発明
平成25年11月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)の特許請求の範囲は、上記「第2」の[理由]の「1.」の(a)に示した請求項1に記載されたとおりである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物1(特開2007-100628号公報)及び刊行物2(特開2002-332919号公報)には、それぞれ、図面とともに、上記「第2」の[理由]の「3.」の「3-1.」のとおりの事項ないし発明が記載されている。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]の「2.」で検討したとおり、本願補正発明の発明特定事項から「装置(29、44)」についての限定を削除した発明に相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記「第2」の[理由]の「3.」に述べたとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-21 
結審通知日 2014-08-25 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2009-190870(P2009-190870)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 出口 昌哉  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 藤原 直欣
伊藤 元人
発明の名称 直列に連結された2つの排気ターボチャージャを備える内燃機関  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  

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