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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B25J
管理番号 1297621
審判番号 不服2013-24836  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-17 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2012-156985「ロボットおよびシミュレーションプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日出願公開、特開2012-192518〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年11月16日に出願した特願2005-332021号の一部を平成24年7月12日に新たな特許出願としたものであって、平成25年6月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年8月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後、審判請求人から平成26年10月16日付けで上申書が提出された。

2.本願発明
平成25年12月17日付け手続補正書による補正は、補正前の請求項(以下「旧請求項」という。)1?8のうち、旧請求項1,2及び5,6を削除し、旧請求項3,4及び7,8を補正後の請求項(以下「新請求項」という。)1?4に変更し、また、これに関連して明細書の記載を変更したものであって、請求項の削除及び明りょうでない記載の釈明を目的とする補正であり、適法なものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明は、新請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1には、次のとおり記載されている。

「互いに隣接する4つの関節部と、
前記関節部から冗長関節部が選択される冗長関節部選択手段であって、前記4つの関節部の内、前記ロボットの基端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方、または前記ロボットの先端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方が冗長関節部として選択されるようにされた冗長関節部選択手段と、
冗長関節部の角度が入力される角度入力手段と、
前記ロボットの先端部に設定される設定部分の、前記ロボットの基端部に対する位置または姿勢の3自由度を固定する条件である固定条件が入力される固定条件入力手段と、
前記固定条件入力手段によって入力された前記固定条件を満たしつつ、前記冗長関節部選択手段によって選択された前記冗長関節部の角度を、前記角度入力手段によって入力された角度に角変位させる制御手段とを有することを特徴とするロボット。」(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

3.引用刊行物とその記載事項

刊行物:特開昭62-251901号公報

原査定の拒絶の理由に第1引用例として引用され、原出願の出願日前に頒布された上記刊行物には、以下の事項が記載されている。

(ア)
「2・特許請求の範囲
7軸以上の軸を有する多軸ロボットの経路制御装置において、指定された軸を所定角度に固定した状態で残りの軸を駆動制御する第1の制御手段と、前記指定された軸を駆動制御する第2の制御手段と、前記多軸ロボットのハンド位置及び姿勢を固定した状態で指定された軸位置を変更制御するプログラムを記憶する記憶手段とを具備し、予め1つ或いは複数の軸を指定することにより、指定された軸を固定したままで経路計算を行なうようにしたことを特徴とする多軸ロボットの経路制御装置。」(1頁左欄4?15行)

(イ)
「(発明が解決しようとする問題点)
しかしながら、7軸以上を有するロボットの場合、自由度がありすぎてハンドの位置、方向だけを指定しても、各軸に対する指令値が一意的に決定できず、その経路制御時の計算に要する時間が従来の6軸のロボットの場合の経路制御時よりもはるかに多くなる。
これは直線、円弧などの単純な経路計算をする上で何らの条件をも設けていないためで、経路計算を効率良く行なうためには、何らかの条件設定が必要になる。
本発明は、7軸以上を有する多軸ロボットにおいてもその経路制御時の計算に要する時間が従来の6軸の多軸ロボットにおける経路制御時の計算に要する時間とほとんど変わらない多軸ロボットの経路制御装置を提供することを目的としている。」(1頁右欄7行?2頁左上欄3行)

(ウ)
「(作用)
本発明によれば、7軸以上の軸を有する多軸ロボットの経路制御装置において、予め1つ或いは複数の指定軸を設定し、この指定された軸を固定したまま経路制御をすることによって、従来の6軸の多軸ロボットの経路制御時の計算時間とほとんど変わらない時間で、経路制御時の計算をすることができる。」(2頁左上欄下から4行?右上欄4行)

(エ)
「前記制御部30は、制御プログラムに基づいて数値演算処理を実行する中央処理装置を含んでいる。前記プログラムメモリ31は、読み出し専用のリードオンリメモリ(ROM)で構成され、前記制御部30が実行すべき基本制御プログラムや原点復帰用プログラム等の各種の制御プログラムを格納する。データメモリ32は、読み出し書き込み可能なランダムアクセスメモリ(RAM)で構成され、前記制御部30が実行した演算結果や、教示操作盤33から入力された教示データ、操作盤34から入力されたデータ、テープリーダ35から入力された指令データなどを格納する。教示操作盤33は、多軸ロボットの教示操作に必要な数値表示器、ランプおよび操作ボタンを有している。操作盤34は、CRT表示装置や、テンキー、ファンクションキーなど、各種のキーを有し、外部から各種のデータをNC装置に入力する。
軸制御器36は、前記制御器30からの多軸ロボットへの制御信号に基づいて、各軸に対応するサーボ回路37に制御信号を出力するもので、複数軸の軸制御を行う補助演算部を含んでいる。サーボ回路37は、前記軸制御器36からの制御信号に基づいて、多軸ロボット39の駆動源を制御する。入出力回路40は、リレーユニット42を介して、溶接機41との間で信号の入出力動作を行う。出力回路40は、溶接機41のリレーユニット42に前記制御部30からの溶接制御信号を出力する。入力回路43は、多軸ロボット39の各軸に設けられたオーバートラベルスイッチ0TS44、中立スイッチNTS45からの信号をNC装置に入力する。溶接機インターフェース47はNC装置と溶接機41とのインターフェースを取るラインである。なお、この多軸ロボット39の各軸は、インクレメンタル方式により軸位置を制御されるものである。」(2頁左下欄1行?右下欄下から5行)

(オ)
「本発明では、7軸以上の軸を有する多軸ロボットにおいて、直線、円弧など経路制御時に計算をする上で指定軸という条件を設け、これによって障害物を容易によけることを可能にすると同時に、経路計算を楽にしている。即ち、例えば7軸ロボットでは指定軸を1つ設定すれば良く、8軸ロボットでは指定軸を2つ設定するなどの、演算上での条件を設定するのである。こうすることで、いずれの多軸ロボットでも指定軸以外の軸は、6軸として経路計算が可能になる。この指定された軸は固定されたまま経路計算が行なわれ、従って従来通りの6軸についてのみの逆変換だけで各軸の駆動制御が可能になる。」(3頁左上欄3?15行)

(カ)
「・・・第2図は、手首3軸の他に、軸21、軸22、軸23、軸24を有する7軸多軸ロボットの経路制御、即ち、姿勢11から姿勢16までハンド姿勢一定のまま直線上を動かしたいが、途中に障害物20がある場合の制御を示している。
この例では軸23を指定軸に設定している。姿勢11から姿勢12までのジョグ送りは指定軸を固定の直線ジョグ送りでなされ、軸23を一定の角度θ_(1)に保持したまま、多軸ロボットが移動する。次いで、姿勢12から姿勢13までのジョグ送りは、ハンド姿勢およびハンド位置を固定したまま指定軸を等速で動かすジョグ送りでなさる。この時、指定軸の角度はθ_(1)からθ_(2)に変更されると同時に、他の軸の角度も変えることで、ハンドの位置と姿勢は同じ状態に保持される。これによって障害物20を回避する準備が整う。
次いで、姿勢13から姿勢14までのジョグ送りは、指定軸固定のジョグ送りでなさる。指定軸は一定の角度θ_(2)を保持したまま、多軸ロボットは障害物20を通過する。
次いで、姿勢14から姿勢15までのジョグ送りはハンド姿勢およびハンド位置を固定したまま指定軸を等速で動かすジョグ送りでなされる。この時、指定軸の角度はθ_(2)からθ_(3)に変更されると同時に多軸ロボットの移動により、ハンドの位置と姿勢は同じ状態に保持される。これによって障害物20を通過した後の直線送りの準備が整う。
次いで、姿勢15から姿勢16までのジョグ送りは通常通り指定軸固定の直線ジョグ送りとなり、指定軸23は一定角度θ_(3)に固定されて移動する。
以上、ジョグ送りを制御するプログラムとしては、姿勢11.13,14.16のポイントデータを与え、直線再生すれば良く、ハンドは所定の姿勢を保ちつつ直線上を進み、かつ障害物20を回避することができる。・・・」(3頁右上欄11行?右下欄8行)

(キ)
上記記載事項(カ)によれば、互いに隣接する4つの軸(軸21、軸22、軸23、軸24)を有するものであって、前記軸から一つの指定軸(軸23)を選択し、当該指定軸の角度が変更されれば(θ_(1)→θ_(2)、θ_(2)→θ_(3))、ハンドの位置と姿勢を同じ状態に保持したまま、指定軸以外の軸(軸21、軸22、軸24)の角度を調整することが開示されているといえる。

(ク)
上記記載事項(エ)によれば、制御部30は、教示操作盤33から入力されたデータや操作盤34から入力されたデータから演算を実行し、制御信号を生成するものであり、軸制御器36は、制御部30からの多軸ロボットへの制御信号に基づいて、各軸に対応するサーボ回路37に制御信号を出力するものが開示されているといえる。そして、明示されていないものの「操作盤34」には「指定軸を指定する手段」や「指定軸の角度を入力する手段」が含まれていることが理解され、同じく明示されていないものの「教示操作盤33」には「ハンドの位置と姿勢を保持する条件を入力する手段」が含まれていることが理解される。

上記記載事項(ア)?(カ)及び上記認定事項(キ)?(ク)並びに当業者の技術常識によれば、上記刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「互いに隣接する4つの軸21,22,23,24と、
前記軸から指定軸が選択される指定軸を指定する手段と、
指定軸の角度が入力される指定軸の角度を入力する手段と、
多軸ロボットの先端部に設定されるハンドの、前記ロボットの基端部に対する位置と姿勢を保持する条件が入力される保持条件入力手段と、
前記保持条件入力手段によって入力された前記ハンドの位置と姿勢を保持する条件を満たしつつ、前記指定軸を指定する手段によって選択された前記指定軸の角度を、前記指定軸の角度を入力する手段によって入力された角度に角変位させる制御部30及び軸制御器36とを有する多軸ロボット。」(以下「引用発明」という。)

4.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その機能及び作用からみて、引用発明の「軸21,22,23,24」、「指定軸」、「指定軸を指定する手段」、「指定軸の角度を入力する手段」、「多軸ロボット」、「ハンド」、「位置と姿勢を保持する条件」、「保持条件入力手段」、「制御部30及び軸制御器36」は、それぞれ、本願発明の「関節部」、「冗長関節部」、「冗長関節部選択手段」、「角度入力手段」、「ロボット」、「先端部に設定される設定部分」、「位置または姿勢の3自由度を固定する条件である固定条件」、「固定条件入力手段」、「制御手段」に相当する。

そうすると、両者は、
「互いに隣接する4つの関節部と、
前記関節部から冗長関節部が選択される冗長関節部選択手段と、
冗長関節部の角度が入力される角度入力手段と、
ロボットの先端部に設定される設定部分の、前記ロボットの基端部に対する位置または姿勢の3自由度を固定する条件である固定条件が入力される固定条件入力手段と、
前記固定条件入力手段によって入力された前記固定条件を満たしつつ、前記冗長関節部選択手段によって選択された前記冗長関節部の角度を、前記角度入力手段によって入力された角度に角変位させる制御手段とを有することを特徴とするロボット。」
の点で一致し、次の点で相違している。

〈相違点〉
「冗長関節部選択手段」について、本願発明では「4つの関節部の内、ロボットの基端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方、またはロボットの先端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方が冗長関節部として選択されるようにされ」ているのに対して、引用発明では、そのような構成を有していない点。

5.相違点についての検討
上記刊行物には、指定軸(「冗長関節部」に相当)について、以下のような記載がある。
「本発明では、7軸以上の軸を有する多軸ロボットにおいて、・・・例えば7軸ロボットでは指定軸を1つ設定すれば良く、8軸ロボットでは指定軸を2つ設定するなどの、演算上での条件を設定するのである。」(上記記載事項(オ)参照)
「第2図は、手首3軸の他に、軸21、軸22、軸23、軸24を有する7軸多軸ロボットの経路制御・・・を示している。この例では軸23を指定軸に設定している。」(上記記載事項(カ)参照)
これらの記載によれば、引用発明の「指定軸」は、軸21、軸22、軸23及び軸24の何れかでよく、刊行物の上記記載事項(カ)では、実施例として軸23が指定軸として設定されたものが記載されているものと理解される。
してみると、刊行物には、「4つの軸(「関節部」に相当)の内、予め選択された軸が指定軸(「冗長関節部」に相当)として選択されるようにされ」ているものが記載されているといえる。
そして、4つの軸の内、いずれの軸を選択するか、また一つの軸を選択するのに、4つのすべてから選択するのか、諸事情に鑑み選択肢を絞った上で選択するのかは、当業者が必要に応じて適宜決定し得る選択的技術事項に過ぎないものである。
なお、冗長関節部について、関節部の内から予め選択肢を絞った上で選択するのは従来周知(必要であれば、特開平5-220681号公報(段落【0029】参照:手首回転軸J5,J6,J7を除く4つの軸J1,J2,J3,J4のうち、基端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方(J2)と、先端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方(J3)が、冗長軸の選択肢として挙げられている。)等参照)である。
してみると、上記相違点に係る構成(4つの関節部の内、ロボットの基端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方、またはロボットの先端側に位置する2つの関節部の予め選択された一方が冗長関節部として選択されるようにすること)は、選択肢を絞る一つの方法を例示したものにすぎず、選択肢の絞り方に特段の意義はないものであって、選択肢を減らして作業者の負担を軽減するという選択肢減少に由来する効果以上の効果を奏するものではないから、格別の顕著性はない。
よって、引用発明において、指定軸(冗長関節部)を選択するにあたり、選択肢を設けて選択させ、上記相違点に係る構成のように構成することは、当業者ならば必要に応じて適宜なし得るものであり、格別の困難性はないものである。

そして、本願発明の効果も、当業者であれば、引用発明から予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

6.まとめ
以上、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-02 
結審通知日 2014-12-09 
審決日 2014-12-24 
出願番号 特願2012-156985(P2012-156985)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金丸 治之  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 三澤 哲也
石川 好文
発明の名称 ロボットおよびシミュレーションプログラム  
代理人 西教 圭一郎  

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