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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1297623
審判番号 不服2013-25595  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-26 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2007-288616号「骨固定釘」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月29日出願公開、特開2008-119467号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年11月6日(パリ条約による優先権主張 2006年11月10日(EP)欧州特許庁,2006年11月10日(US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成24年8月10日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成25年2月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成25年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成25年12月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成25年12月26日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年12月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
自由端(2)を有する、ねじが切られていないシャフト(1′)と、
前記自由端と反対側の頭部(3,3′)とを備え、前記頭部はロッド(12)またはロッド状要素を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有し、さらに、
前記シャフトを通って延在する縦長のボア(4)と、
前記シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、
シャフト(1′)はそのシャフト(1′)の管状部分に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を有し、
頭部(3′)は前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品であり、
縦長のボア(4)は球形セグメント形状の端部(1a)を通って頭部(3,3′)に向かって開口している、骨固定釘。」から、

「【請求項1】
自由端(2)を有する、ねじが切られていないシャフト(1′)と、
前記自由端と反対側の頭部(3′)とを備え、前記頭部はロッド(12)またはロッド状要素を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有し、さらに、
前記シャフトを通って延在する縦長のボア(4)と、
前記シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、前記複数の開口部はシャフト(1′)の一部において複数開口部の均一な分布を示すように規則的なパターンで配置されており、
シャフト(1′)はそのシャフト(1′)の管状部分に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を有し、前記管状部分は全体として円筒形を有し、シャフト(1′)は頭部(3′)に隣接するもう一つの部分をも有し、そこには開口部が設けられておらず、
頭部(3′)は前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品であり、
縦長のボア(4)は球形セグメント形状の端部(1a)を通って頭部(3′)に向かって開口している、骨固定釘。」と補正された。

そして、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1の発明を特定するのに必要な事項である「複数の開口部」に対して、「シャフト(1′)の一部において複数開口部の均一な分布を示すように規則的なパターンで配置され」ることを限定し、「管状部分」に対して、「全体として円筒形を有し、シャフト(1′)は頭部(3′)に隣接するもう一つの部分をも有し、そこには開口部が設けられて」いないことを限定するものであり、かつ、本件補正前に請求項1に記載された発明と、本件補正後に請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記特許請求の範囲の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号において規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
さらに、本件補正により、本件補正前の請求項1の発明における「頭部(3,3’)」を、「頭部(3′)」とした補正は、特許法第17条の2第5項第3号において規定する誤記の訂正に該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項に違反してなされたものではない。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

2.刊行物とその記載内容
刊行物1:特開2006-61678号公報
刊行物2:特開2003-220073号公報

(1)刊行物1
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物1には、「固定用インプラント」に関して以下の記載がある。

1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と先端部とを有する軸状の固定用インプラントにおいて、
その頭部に注入孔を形成し、頭部から先端方向へ該注入孔から通ずる中空部を、固定用インプラントの先端部を貫通しないように形成して、固定用インプラントの先端部を盲端とし、
該固定用インプラントの先端部から頭部方向5?20mmの範囲において、軸部側面に該中空部から通ずる1又は複数の注出孔を形成してなる充填用孔を設けたことを特徴とする固定用インプラント。」

1b)「【請求項5】
注出孔が、固定用インプラントの長軸方向に対し直交する複数の方向に設けられていることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の固定用インプラント。」

1c)「【技術分野】
【0001】
本発明は、主として骨折治療、脊椎固定・矯正治療、骨粗鬆症・脊椎腫瘍・脊椎炎の治療等の骨格に対する施術において、骨格に埋め込むことを目的とし、骨内に水や生理食塩水などの洗浄剤、薬剤、補綴剤、生体組織再生治療用物質などの充填物を注入するのに便利な固定用インプラント(以下、単に「インプラント」と略称する場合がある。)に関する。」

1d)「【0008】
本発明に係る固定用インプラントは、頭部と先端部とを有する軸状の固定用インプラントにおいて、その頭部に注入孔を形成し、頭部から先端方向へ該注入孔から通ずる中空部を、固定用インプラントの先端部を貫通しないように形成して、固定用インプラントの先端部を盲端とし、該固定用インプラントの先端部から頭部方向5?20mmの範囲において、軸部側面に該中空部から通ずる1又は複数の注出孔を形成してなる充填用孔を設けたことを特徴とするものである。
【0009】
なお、上記固定用インプラントが、頭部側から先端に向かって先細の軸状をなし、表面が螺刻されたスクリューであってもよく、また、頭部側から先端に向かって先細の楔状をなし、表面が滑り止め加工されたものであってもよい。
【0010】
上記のように固定用インプラントを構成することにより、該インプラントを所定箇所にねじ込み、または打ち込んだ後、頭部の注入孔から充填物を注入し、充填物が頭部からインプラントの中空部を先端方向に移動し、インプラントの軸部側面から充填物が押し出されて骨内に充填されていくことになる。
【0011】
しかも、インプラント頭部から形成された中空部は先端まで貫通させず盲端としたことにより、インプラントが椎体前方を穿破した場合でも充填物が椎体前方に注出されることを回避できる。
【0012】
さらに、軸部側面の注出孔の位置はインプラントの先端から頭部方向5mm以上で20mm以内としたため、この範囲内で注出孔を形成することにより、注出孔は椎体骨髄内に限局し、椎弓根部に相当する位置には形成されないので、インプラントが椎弓根内側骨皮質を穿破した場合でも充填物が脊柱管内に注出される危険を回避することができる。
【0013】
また、本発明に係る固定用インプラントとして、注出孔が、固定用インプラントの長軸方向に対し直交する方向に設けられるようにしてもよく、また、注出孔が、固定用インプラントの長軸方向に対し直交する複数の方向に設けられるようにしてもよい。特に後者の場合には、充填物が複数の方向に注出するので、多方向からの圧迫力に対して強度が増加することが期待できる。」

1e)「【発明の効果】
【0014】
本発明に係る固定用インプラントは、上記したようにその頭部から中空部を介して側面に通ずる充填用孔を設けたことにより、望む部位に予定された充填量の充填物が注入できるので、従来の不都合を解消するものである。しかも、該固定用インプラントは、その先端部の形状及び注出孔の位置を特定したことにより、手技による過ちにより予測される危険性が全て回避されるので、高い安全性を確保するものである。その結果、骨粗鬆症に対するスクリュー状インプラントによる固定法においてインプラントが緩むおそれが解消された。また、脊椎腫瘍、脊椎炎に対して直接病巣に治療薬剤を注入することが可能となった。」

1f)「【0017】
図1及び図2において、Aはインプラント用スクリューであり、頭部10とネジ軸部20とから構成される。頭部10は、その内部周縁が螺刻されており、ロッドBを通すためのU溝11が形成されている。ネジ軸部20は、頭部側から先端に向かって先細の軸状をなすものであり、その表面にはネジ山21が螺刻されていて、頭部10を回転することにより先端部22からねじ込むことが可能な形状になっている。なお、インプラント用スクリューは図示の形態のものに限られるものではなく、本発明は、骨に挿入するための頭部と先端部とを有する軸状のインプラントであれば、どのようなタイプのものでも採用可能であり、例えば本実施例のようなスクリュー状の表面が螺刻されたものはもちろん、先細でなくてもよく、また、表面が螺刻されておらず、頭部側から先端に向かって先細の楔状をなし、表面が滑り止め加工されたものであってもよい。
【0018】
前記スクリューAには、該スクリューAを貫通する充填用孔30が設けられている。充填用孔30は、注入孔31、中空部32及び注出孔33の部分から構成される。注入孔31は頭部10の軸心位置に形成され、中空部32は前記注入孔31から通じ、ネジ軸部20の内部において頭部10から先端方向へ形成され、該中空部32はネジ軸部20の先端部22には達せず、該中空部32からネジ軸部20の側面外方に通ずる注出孔33に連続するように形成されている。注出孔33は、スクリューAの長軸方向に直交する方向であり、かつ、前記U溝11の溝方向に直交する方向であって、スクリューAの先端から頭部方向10mm?15mmの間に形成された長さ5mmの長穴状のものである。したがって、該充填用孔30は、頭部10の注入孔31から注入した充填物が中空部32を通って、注出孔33からネジ軸部20の側面外方に注出されるようになっている。なお、本実施例においては、ネジ軸部20の側面の表裏2箇所に注出孔33を設けているが、注出孔の位置は、スクリューAの先端から頭部方向5mm以上で20mm以内の範囲に設けるのであれば、その個数及び形状はこれに限られるものではなく、適宜設計変更可能である。」

1g)上記1f)における段落【0017】において、骨に挿入するための頭部と先端部とを有する軸状のネジ軸部20の一態様として、表面が螺刻されておらず、頭部側から先端に向かって軸部が先細の楔状をなすものが記載されている。

1h)上記1d)における段落【0012】において、注出孔33が、固定用インプラントの先端から頭部方向5mm以上で20mm以内の椎体骨髄内の位置において形成されることが記載されており、図6には、注出孔33が、頭部10に隣接する椎弓根部に相当する位置に形成されないことが図示されている。

1i)図1、2において、中空部32は、頭部10の注入孔31において開口していること、及び、固定用インプラントの頭部10と軸部が一体となっていることが図示されている。

1j)上記1c)における段落【0001】には、固定用インプラントが、骨折治療、脊椎固定に用いられることが記載されている。

以上の1a)ないし1j)の記載を総合すると、刊行物1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「先端部を有する表面が螺刻されていない軸状の固定用インプラントの軸部と、
先端部と反対側の頭部10とを備え、頭部10はロッドBを通すためのU溝11を有しており、さらに、
軸状の固定用インプラントの軸部の内部において頭部10から先端方向へ形成された中空部32と、
該中空部32から軸状の固定用インプラントの軸部の側面に通じる複数設けられた注出孔33とを備え、
該注出孔33は、軸状の固定用インプラントの軸部の先端から頭部方向5mm以上で20mm以内の椎体骨髄内の位置に形成されており、
軸状の固定用インプラントの軸部は、頭部側から先端に向かって先細の楔状をなし、
該注出孔33は、頭部10に隣接する椎弓根部に相当する位置には形成されず、
軸状の固定用インプラントの軸部は、頭部10と一体で形成されており、
中空部32は、頭部10の注入孔31において開口している、骨折治療、脊椎固定用の軸状の固定用インプラント。」

(2)刊行物2
原査定において周知例として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物2には、「シャンクと、ロッドに接続するようこれに接続される保持要素とを備えた要素」に関して以下の記載がある。

2a)「【0016】図4に示される第2の実施例においては、この発明にしたがった要素は多軸骨ねじとして構築される。多軸骨ねじは、骨ねじ山を備えたねじ山シャンク1を備えたねじ要素を有し、これは球セグメント状に形成されたヘッド20を介して受け部品21に接続される。受け部品21は、その一方端に第1のボア22を有するが、これは軸に対称的に位置合わせされ、その直径はシャンク1のねじ山部分の直径より大きく、ヘッド20の直径よりも小さい。受け部品21はさらに同軸状の第2のボア23を有するが、これは第1のボア22と反対側の端部で開放し、その直径は、ねじ要素が開放端を通して挿入されて、そのねじ部分が第1のボア22を通り、そのヘッド20が第2のボア23の底部に到達するのに十分に大きい。第1のボアと第2のボアとの間には、小さな同軸状部分24が設けられ、これは第1のボア22に隣接し開放端に向かって球状に構築され、半径は球セグメント状に形成されたヘッド20の部分と実質的に同一である。受け部品21は、第1の実施例の受け部品2と同様に、部品の中央に対して対称的に構成されるU字型窪み25を有し、その底部は第1のボア22に向けられ、それにより2つの開放脚26、27が形成され、その開放端28は受け部品21の上端部を形成する。開放端28に隣接する領域28においては、脚26、27は雌ねじ山29を有する。雌ねじ山はこの発明にしたがって、第1の実施例に記載されるように、平ねじ山として構築される。」

2b)「【0019】動作においては、ねじ要素は受け部品21内に配置された後で、骨にねじ込まれる。圧力要素30およびロッド100が次いで挿入される。この段階において、ねじヘッド20はまだ旋回可能である。中ねじ34をねじ込むことにより、ねじ要素および受け部品21は互いに対して固定され、よってロッド100も固定される。脚の協働するねじ山および中ねじの平ねじ山としての構造により、脚の広がりは生じず、かつ付加的な固定は必要なく、よって多軸ねじをコンパクトに構成し、かつ妥当な代価で製作することが可能である。」

3.発明の対比
本件補正発明と、引用発明とを対比すると、引用発明の「先端部」は、本件補正発明の「自由端(2)」に相当し、引用発明の「螺刻されていない」ことは、本件補正発明の「ねじが切られていない」ことに相当し、引用発明の「軸状の固定用インプラントの軸部」は、本件補正発明の「シャフト1′」に相当し、引用発明の「頭部10」は、本件補正発明の「頭部(3′)」に相当し、引用発明の「ロッドB」は、本件補正発明の「ロッド(12)」に相当し、引用発明の「ロッドBを通すためのU溝11」は、本件補正発明の「ロッド(12)・・を収容するためのほぼU字形の凹部(7)」に相当し、引用発明の「軸状の固定用インプラントの内部において頭部10から先端方向へ形成」することは、本件補正発明の「シャフトを通って延在」することに相当し、引用発明の「中空部32」は、本件補正発明の「縦長のボア」に相当し、引用発明の「中空部32から軸状の固定用インプラントの軸部側面に通じる複数設けられた注出孔33」は、本件補正発明の「シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)」に相当し、引用発明の「該注出孔33は、軸状の固定用インプラントの先端から頭部方向5mm以上で20mm以内の椎体骨髄内の位置に形成されて」いることは、該注出孔33が軸状の固定用インプラントの一部に形成されていることに他ならないから、本件補正発明の「複数の開口部はシャフト(1′)の一部において」、「配置されて」いることに相当し、引用発明の「該注出孔33は、頭部10に隣接する椎弓根部に相当する位置には形成され」ないことは、本件補正発明の「シャフト(1′)は頭部(3′)に隣接するもう一つの部分をも有し、そこには開口部が設けられ」ないことに相当し、引用発明の「中空部32は、頭部10の注入孔31において開口」することは、本件補正発明の「縦長のボア(4)」が「頭部(3′)に向かって開口」することに相当し、引用発明の「骨折治療、脊椎固定用の軸状の固定用インプラント」は、その機能からみて、本件補正発明の「骨固定釘」に相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「自由端(2)を有する、ねじが切られていないシャフト(1′)と、
前記自由端と反対側の頭部(3′)とを備え、前記頭部はロッド(12)を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有し、さらに、
前記シャフトを通って延在する縦長のボア(4)と、
前記シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、前記複数の開口部はシャフト(1′)の一部において配置されており、
シャフト(1′)は頭部(3′)に隣接するもう一つの部分をも有し、そこには開口部が設けられておらず、
縦長のボア(4)は頭部(3′)に向かって開口している、骨固定釘。」

[相違点1]
複数の開口部(5)が、本件補正発明においては、「均一な分布を示すように規則的なパターンで配置」されているのに対して、引用発明においては、どのように配置されているか不明である点。

[相違点2]
本件補正発明においては、「シャフト(1′)はそのシャフト(1′)の管状部分に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を有し」、「頭部(3′)は前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品であ」るのに対し、引用発明においては、シャフト(1′)が球形セグメント形状の端部(1a)を有するものではなく、頭部(3′)と一体で形成されている点。

[相違点3]
本件補正発明においては、「シャフト(1′)の管状部分は全体的として円筒形を有」するものとなっているのに対して、引用発明においては、シャフト(1′)の形状が「頭部側から先端に向かって先細の楔状」となっている点。

[相違点4]
縦長のボア(4)を頭部(3′)に向かって開口するにあたって、本件補正発明においては、「球形セグメント形状の端部(1a)を通って」開口するものであるのに対して、引用発明においては、その点を有さない点。

4.当審の判断
[相違点1について]
引用発明の複数の開口部は、病巣に薬剤等の充填物を注入するためのものであって(上記第2.2.(1)1e)参照)、注出孔(開口部)の位置は、スクリューAの先端から頭部方向5mm以上で20mm以内の範囲に設けるのであれば、その個数及び形状はこれに限られるものではなく、適宜設計変更可能である(上記第2.2.(1)1g)参照)から、引用発明において、骨内の治療を要する部位に治療薬剤を均一に供給するために、複数の開口部(5)を均一な分布を示すように規則的なパターンで配置することは、当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2、4について]
シャフト(1′)を、そのシャフト(1′)に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を有するものとし、頭部(3′)を、前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品とすることにより、頭部(3′)がシャフト(1′)の端部を旋回可能に保持することは、刊行物2の記載にみられるように、周知の技術的事項であるから、引用発明において、ロッド(12)をシャフト(1′)に取り付けて固定する構造の骨固定釘の技術分野における上記周知の技術的事項を適用し、シャフト(1′)を通って延在する縦長のボア(4)を有するシャフト(1′)に対して、そのシャフト(1′)に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を設けるとともに、頭部(3′)を、前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品として構成することに格別の困難性はなく、延在する縦長のボア(4)を有するシャフト(1′)に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を設ける際に、球形セグメント形状の端部(1a)が、シャフトの管状部分に接続したものとなり、縦長のボア(4)が頭部に向かって開口する、その開口が、該球形セグメント形状の端部(1a)を通るものとなることは、それらの構造からみて明らかであるから、引用発明に周知の技術的事項を適用して、上記相違点2、4に係る本件補正発明とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点3について]
シャフト(1′)の全体の形状に関して、骨内に挿入するシャフトを円筒形とすることは、当業者が適宜採用しうることであるから(米国特許出願公開第2006/0089642号明細書ほか参照)、引用発明において、シャフト(1′)の管状部分の形状を全体として円筒形とすることには、格別の困難性は認められない。

そして、上記相違点3に係る本件補正発明による効果について検討すると、シャフト(1′)の先端部へ向けた薬剤の流れの強弱は、もっぱらシャフト(1′)を通って延在するボア(4)の内径や形状によって決定されるものであって、シャフト(1′)全体の形状によるものとはいえないので、上記相違点3に係る本件補正発明による効果は格別なものとはいえない。さらに、その他の本件補正発明の奏する効果についてみても、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者であれば予測できる範囲内のものである。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない。

5.結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上述のように却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成25年2月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
自由端(2)を有する、ねじが切られていないシャフト(1′)と、
前記自由端と反対側の頭部(3,3′)とを備え、前記頭部はロッド(12)またはロッド状要素を収容するためのほぼU字形の凹部(7)を有し、さらに、
前記シャフトを通って延在する縦長のボア(4)と、
前記シャフトの壁面を通って延在しかつボア(4)に連通する複数の開口部(5)とを備え、
シャフト(1′)はそのシャフト(1′)の管状部分に接続されて一体的に形成された球形セグメント形状の端部(1a)を有し、
頭部(3′)は前記端部(1a)を旋回可能に保持するための座部(3c)が設けられた別個の部品であり、
縦長のボア(4)は球形セグメント形状の端部(1a)を通って頭部(3,3′)に向かって開口している、骨固定釘。」

2.引用刊行物とその記載内容
引用刊行物とその記載内容は、上記「第2.2.」に記載したとおりのものである。

3.発明の対比・判断
本願発明は、上記「第2.」で検討した本件補正発明における「複数の開口部」について、「シャフト(1′)の一部において複数開口部の均一な分布を示すように規則的なパターンで配置され」ることの限定を省き、さらに、本件補正発明における「管状部分」について、「全体として円筒形を有し、シャフト(1′)は頭部(3′)に隣接するもう一つの部分をも有し、そこには開口部が設けられて」いないことの限定を省いたものである。そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに上記の限定を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2.4.」に記載したとおり、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.結び
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2014-09-11 
結審通知日 2014-09-16 
審決日 2014-09-29 
出願番号 特願2007-288616(P2007-288616)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 宏和津田 真吾  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 松下 聡
関谷 一夫
発明の名称 骨固定釘  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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