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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03G
管理番号 1297756
審判番号 不服2014-4588  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-10 
確定日 2015-02-19 
事件の表示 特願2009-123260「地熱発電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-270679〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年5月21日の出願であって、平成25年6月3日付けで拒絶理由が通知され、平成25年8月12日に意見書が提出されるとともに同日に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成25年12月4日付けで拒絶査定がされ、平成26年3月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年8月12日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「生産井からの蒸気および熱水をセパレータにおいて蒸気と熱水に分離し、分離した蒸気によってタービンを駆動して発電を行い、発電後の蒸気を冷却して復水して前記セパレータにおいて分離した熱水とともに還元井から地下に還元する地熱発電システムであって、
タービン通過後の蒸気の復水を密閉式復水器において冷却水コイルにより間接冷却することにより行い、その復水の全量を地下に還元するとともに、密閉式復水器からは不凝縮性ガスを真空ポンプにより抽気することを特徴とする地熱発電システム。」


3.引用刊行物
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-292816号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は硫化水素含有ガスの脱硫方法及び該方法を利用した地熱発電方法に関する。
【0002】
【従来の技術】微生物を用いる硫化水素の脱硫方法の一例を図7によって説明する。硫化水素を含むガス21は脱硫装置24中の硫酸第二鉄と反応し脱硫され精製ガス23として放出される。上記の反応で生成した硫酸第一鉄及び硫黄25は硫黄分離機26により硫黄27と硫酸第一鉄28に分けられる。硫酸第一鉄28は空気29を吹き込んだ微生物処理装置30で酸化され、硫酸第二鉄31となり脱硫装置24へと戻される。
【0003】また、従来の地熱発電シテスムの一例を図8によって説明する。生産井41より取り出された熱水42はフラッシャー43を用いて蒸気44aと熱水45に分けられる。蒸気44aは蒸気タービン46に導入され発電に用いられる。発電に使用された後の蒸気44bはコンデンサー47で凝縮され、熱水45とともに還元井48に戻される。コンデンサーで凝縮されなかった高硫化水素含有不凝縮ガス49aは大気中に放散される。」(段落【0001】ないし【0003】)

(2)引用刊行物の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記(1)a)の記載及び図8の記載によれば、熱水42をフラッシャー43において蒸気44aと熱水45に分けることが分かる。また、生産井41からフラッシャー43までの輸送配管内の熱水42において、蒸気が含まれることは自明である。

b)上記(1)a)の記載及び図8の記載によれば、地熱発電システムは、分けられた蒸気44aによってタービン46を駆動して発電を行うことが分かる。

c)上記(1)a)の記載及び図8の記載によれば、地熱発電システムは、発電に使用された後の蒸気44bを冷却して凝縮してフラッシャー43において分けられた熱水45とともに還元井48から地下に戻すことが分かる。

d)上記(1)a)の記載及び図8の記載によれば、地熱発電システムは、タービン46を通過後の蒸気44bの凝縮をコンデンサー47において冷却することにより行い、その凝縮した水を地下に還元することが分かる。

e)上記(1)a)の記載及び図8の記載によれば、地熱発電システムは、コンデンサー47からは高硫化水素含有不凝縮ガス49aを大気中に放散することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び上記(2)を総合して、本願発明の表現にならって整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「生産井41からの蒸気を含む熱水42をフラッシャー43において蒸気44aと熱水45に分け、分けた蒸気44aによってタービン46を駆動して発電を行い、発電に使用された後の蒸気44bを冷却して凝縮して前記フラッシャー43において分けた熱水45とともに還元井48から地下に戻す地熱発電システムであって、
タービン46を通過後の蒸気44bの凝縮をコンデンサー47において冷却することにより行い、その凝縮した水を地下に還元するとともに、コンデンサー47からは高硫化水素含有不凝縮ガス49aを大気中に放散する地熱発電システム。」

4.対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「生産井41」は前者における「生産井」に相当し、以下同様に、「蒸気を含む熱水42」は「蒸気および熱水」に、「蒸気44a」は「蒸気」に、「熱水45」は「熱水」に、「蒸気44aと熱水45に分け」は、「蒸気と熱水に分離し」に、「分けた蒸気44a」は「分離した蒸気」に、「タービン46」は、「タービン」に、「発電に使用された後の蒸気44b」は「発電後の蒸気」に、「凝縮」は「復水」に、「分けた熱水45」は「分離した熱水」に、「還元井48」は「還元井」に、「地下に戻す」は「地下に還元する」に、「地熱発電システム」は「地熱発電システム」に、「タービン46を通過後の蒸気44b」は「タービン通過後の蒸気」に、「その凝縮した水」は「その復水」に、「高硫化水素含有不凝縮ガス49a」は「不凝縮性ガス」に、それぞれ相当する。

・後者における「フラッシャー43」は、引用刊行物の「生産井41より取り出された熱水42はフラッシャー43を用いて蒸気44aと熱水45に分けられる。」(段落【0003】)という記載によれば、セパレータの機能を包含していることは明らかであるから、前者における「セパレータ」に相当する。

・後者における「コンデンサー47」は、前者における「密閉式復水器」に、「復水器」という限りにおいて相当する。
そして、後者における「タービン46を通過後の蒸気44bの凝縮をコンデンサー47において冷却することにより行い」は、前者における「タービン通過後の蒸気の復水を密閉式復水器において冷却水コイルにより間接冷却することにより行い」に、「タービン通過後の蒸気の復水を復水器において冷却することにより行い」という限りにおいて相当する。
また、後者における「その凝縮した水を地下に還元する」は、前者における「その復水の全量を地下に還元する」に、「その復水を地下に還元する」という限りにおいて相当する。
そうすると、後者における「タービン46を通過後の蒸気44bの凝縮をコンデンサー47において冷却することにより行い、その凝縮した水を地下に還元する」は、前者における「タービン通過後の蒸気の復水を密閉式復水器において冷却水コイルにより間接冷却することにより行い、その復水の全量を地下に還元する」に、「タービン通過後の蒸気の復水を復水器において冷却することにより行い、その復水を地下に還元する」という限りにおいて相当する。

・後者における「コンデンサー47からは高硫化水素含有不凝縮ガス49aを大気中に放散する」は、前者における「密閉式復水器からは不凝縮性ガスを真空ポンプにより抽気する」に、「復水器からは不凝縮性ガスを放出する」という限りにおいて相当する。

したがって、両者は、
「生産井からの蒸気および熱水をセパレータにおいて蒸気と熱水に分離し、分離した蒸気によってタービンを駆動して発電を行い、発電後の蒸気を冷却して復水して前記セパレータにおいて分離した熱水とともに還元井から地下に還元する地熱発電システムであって、
タービン通過後の蒸気の復水を復水器において冷却することにより行い、その復水を地下に還元するとともに、復水器からは不凝縮性ガスを放出する地熱発電システム。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
タービン通過後の蒸気の復水を復水器において冷却することにより行い、その復水を地下に還元することに関し、本願発明においては、「タービン通過後の蒸気の復水を密閉式復水器において冷却水コイルにより間接冷却することにより行い、その復水の全量を地下に還元する」ものであるのに対して、引用発明においては、「タービン46を通過後の蒸気44bの凝縮をコンデンサー47において冷却することにより行い、その凝縮した水を地下に還元する」ものである点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
復水器からは不凝縮性ガスを放出することに関し、本願発明においては、「密閉式復水器からは不凝縮性ガスを真空ポンプにより抽気する」ものであるのに対して、引用発明においては、「コンデンサー47からは高硫化水素含有不凝縮ガス49aを大気中に放散する」ものである点(以下、「相違点2」という。)。

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
特許出願の明細書は日本工業規格(以下、「JIS」という。)に基づき作成されるところ、特許出願の公開公報である引用刊行物の図8におけるコンデンサー47の記号は、JISのZ9201によると表面復水器を表しており、表面復水器は、冷却水が復水器冷却管内を通り、タービン排気がその管の外面に触れて冷却復水する装置であって、タービン排気である蒸気が冷却管の外面に効率よく触れるために、通常は密閉式にされるものと認められる(必要であれば、特開2000-121259号公報(特に、段落【0002】)及び特開2001-304786号公報(特に、段落【0001】ないし【0003】)を参照。)。なお、引用刊行物の図8におけるコンデンサー47が「密閉式復水器」であることは、審判請求書の「3.(c)」において「しかし、引用文献1に記載の発明では、密閉式復水器内の不凝縮性ガスを大気に放散するとのみ記載され」と記載されているように、請求人も認めている。
そうすると、引用発明におけるコンデンサー47は、タービン46を通過後の蒸気44b(タービン通過後の蒸気)の凝縮(復水)を冷却管(冷却水コイル)により間接冷却することにより行う密閉式の表面復水器(本願発明の「密閉式復水器」に相当。)と認められ、復水の全量を地下に還元することを可能とするものであるから、上記相違点1に係る引用発明における事項は、上記相違点1に係る本願発明における発明特定事項と実質的に相違するものではない。
仮に、引用発明におけるコンデンサー47が、密閉式の表面復水器ではないとしても、発電システムにおいて、密閉式の表面復水器を用いることは、本願の出願前に周知の事項(以下、「周知事項1」という。必要であれば、特開昭62-210391号公報(特に、1ページ右下欄11行ないし2ページ左上欄5行、2ページ右下欄5行ないし3ページ左上欄1行及び第3図)、特表2003-501575号公報(特に、段落【0001】、【0023】及び図1)及び2001-304786号公報(特に、段落【0001】ないし【0004】)を参照。)であるとともに、復水器内に冷却水を散水することによって、タービン排気である蒸気を冷却水に直接接触させて冷却復水する直接接触式復水器を用いることも、本願の出願前に周知の事項(必要であれば、特開昭62-210391号公報(特に、1ページ右下欄11行ないし2ページ左上欄5行)を参照。)であって、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-210391号公報において、「しかし直接接触式復水器を採用した場合、 ・・・ 地熱蒸気は種々の不純物を含んでおり、特に生物に対して有害な物質を多く含む場合には、大気や系外に廃棄することが法令等により規制される場合がある。このような場合には、間接接触式復水器を採用して冷却水の系統を地熱水の系統と分離するようにしている。」(2ページ右下欄12行ないし3ページ左上欄1行)と記載されているように、発電システムに何れの周知事項を採用するかは、地熱蒸気の状態等に応じて当業者が適宜なし得る選択的事項であるから、周知事項1を技術分野が共通する地熱発電システムである引用発明に適用し、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
本願の明細書中には、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項について、その技術的意味について説明をする記載はなく、格別な技術的意義を認めることはできない。
ところで、地熱発電システムにおいて、復水器から不凝縮性ガスを真空ポンプにより抽気することは、本願の出願前に周知の事項(以下、「周知事項2」という。必要であれば、特開昭63-212776号公報(特に、2ページ左上欄1ないし2行及び第2図)、特表平9-502233号公報(特に、10ページ8ないし12行及び11ページ下から4行ないし末行)及び特開2005-337060号公報(特に、段落【0009】及び図1)を参照。)である。
そうすると、引用発明において、コンデンサー47(密閉式復水器)から高硫化水素含有不凝縮ガス49a(不凝縮性ガス)を大気中に放散するにあたり、コンデンサー47(密閉式復水器)から高硫化水素含有不凝縮ガス49a(不凝縮性ガス)を真空ポンプにより抽気すること、すなわち、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、周知事項2を考慮することにより、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知事項2から、又は、引用発明、周知事項1及び周知事項2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知事項2に基づいて、又は、引用発明、周知事項1及び周知事項2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-15 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-05 
出願番号 特願2009-123260(P2009-123260)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安井 寿儀  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
藤原 直欣
発明の名称 地熱発電システム  
代理人 関口 久由  
代理人 森岡 則夫  
代理人 柳野 隆生  

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